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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第33話 コウは語る

「マスター、ここは私が話しましょう」


「そうだな、ここはお前の方が適任だな。じゃ、任せたぞコウ」


「かしこまりました。では、ハルカ、まずはこれを見て下さい」


 コウがそう言うと突然、激しい閃光、そして爆音が室内に轟いた!


「うわっ! 何、何なの!?」


 驚く僕にコウが淡々とした口調で話す。


「落ち着きなさい。これは過去の映像です。これから話す事に関わるので、ちゃんと見なさい」


「うん、分かった」


 コウに言われ、僕は空中に浮かぶ、その映像を見る。それは激しく争う2人の少女の映像だった。歳は僕と近い。だが、2人共、殺意、憎悪、狂気、そういった暗い負の感情に満ちた、恐ろしい形相をしていた。


 黒い衣を纏った少女が黒い炎を放ち、対して白銀の鎧を身に付けた少女が白い稲妻を放ち、2つが激突、また激しい爆発が起きる。そして、直後に金属同士のぶつかり合う鋭い音。両者が剣で斬り付け合っていた。全く容赦の無い、凄まじい殺し合い。その戦いはひたすら続いたが、遂に決着の時が来た。もはや、2人共、ボロボロ。お互いに剣を手に、最後の一撃を繰り出す。相手に向かって突っ込む。


 ドシュッ!


 そんな音が聞こえた。お互いに自分の剣で、相手の身体を刺し貫いていた。そして2人共、その場に倒れ、辺り一面に真っ赤な血が広がっていった。






「以上です」


 そう言うと、コウは映像を消した。僕はコウに尋ねた。


「コウ、あの映像は何なの!? 何の意味が有るの!?」


 だが、コウはいつもの無表情のまま、話す。


「落ち着きなさい、ハルカ。今から説明します。あれは、かつて異世界で起きた、魔王と勇者の戦いです。見れば分かるでしょうが、黒い衣の方が魔王で、白銀の鎧の方が勇者です。そして、ここからが本題です。あの2人は実の姉妹です。かつては仲の良い姉妹でした。ですが、ある事件がきっかけで、姉は魔王、妹は勇者となり、最終的には、あの様に両者、相討ちとなって果てました」


 あの2人が実の姉妹? かつては仲が良かった? とてもじゃないけど、そうは見えなかった。あれは、本気の殺し合いだった。あの姉妹に何が有ったんだ?


「あの姉妹に何が有ったか気になる様ですね。では話しましょう。あの姉妹は勇者として、異世界に召喚されました。その世界では、魔王出現の予言が有り、それに対抗する為でした。そして、妹の方が、勇者の剣を抜き、勇者と認定されました」


 ここでコウはお茶を飲み、一息付く。


「そして、それが悲劇の始まりだったのです。妹は明るく、気さくな性格の美少女の上、非常に優秀な勇者の才能を持っていました。周りの人間は彼女を称賛し、持ち上げました。ですが、勇者に選ばれなかった姉には皆、冷淡でした。姉は外見も性格も地味な上、何の力も無い、ただのお荷物だと。ですが、妹だけは姉を庇っていました。そして必ず魔王を倒して一緒に元の世界に帰ろうと」


 この間、邪神ツクヨとイサムは黙っていた。更にコウの話は続く。


「その後、勇者のパーティーのメンバーの選出が行われ、戦士、神官、魔道師がそれぞれ選ばれ、勇者パーティーが結成。魔王討伐に向けて出発しました。その中には姉もいました。本来は力を持たない彼女は城に残る予定でしたが、妹が、


「お姉ちゃんも一緒じゃ無いと嫌! 絶対、魔王を倒して、2人で元の世界に帰る!」


 と主張し、同行する事になりました」






「妹は本当に優秀な勇者でした。戦いの中でどんどん力を付けていきました。数々の事件を解決し、更なる名声を得ていきました。ですが、力を持たない姉は案の定、足手纏いになりました。パーティーのメンバー達は何かと、彼女に冷たく当たりました。当然ですね、命懸けの戦いをしているのですから。その度、妹は姉を庇いました。ですが、いつしか、姉の心の中には妹に対する憎悪が膨らみつつありました」


「何故? 何故、妹を憎むの? 自分の事を庇ってくれたのに」


 僕はコウに尋ね、コウが淡々と答える。


「姉は以前から妹に対してコンプレックスを抱いていたのです。地味な自分と違い、明るく、美少女で、皆の人気者な妹に。しかも今や妹は勇者、世界の希望。姉の手の届かない、遥かな高みに行ってしまいました。対して、自分は何の力も無い、足手纏い。表には出さないものの、鬱屈した思いは日に日に増大していました。そして、事件が起きました」






「ある激しい戦闘で姉を庇い、妹が重傷を負ったのです。何とか、その戦いに勝利したものの、パーティーのメンバー達は激怒しました。姉に対し、足手纏いだ、お前がいたらいつか全滅する、と散々に罵り、殴る蹴るの暴行を加えました。その夜、いたたまれなくなった姉は遂に1人、出ていきました」


「酷い! いくら足手纏いだからと言って、暴行を加えるなんて!」


「甘いですよハルカ。それが現実です。命懸けの戦いに足手纏いは不要です。さて、ここから事態は急変します。1人出ていった姉ですが、彼女には力も行くあても有りません。やがて彼女は道に迷い、その上、魔物に取り囲まれました。周りには誰もおらず、戦う術を持たぬ彼女は絶体絶命の危機に陥りました。そして魔物が彼女に襲いかかろうとしたその時、彼女は力に目覚めたのです。『闇』の力に」






「後は、実に一方的な殺戮でした。闇の力に目覚めた姉はその力で、魔物を一掃しました。それ程、強大な力だったのです。彼女は驚くより、狂喜しました。


「これが私の力? 凄い、凄いわ! もう、私を足手纏いなんて言わせない! もう私を妹の引き立て役なんて言わせない! 私をバカにする奴は、みんな殺してやるわ! アハ、アハハハ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 その後、彼女は更なる力を求め行動を開始、多くの者達を殺め、遂に、新たな魔王となったのです。かくして、魔王出現の予言は的中しました」






 勇者の姉が闇の力に目覚め、新たな魔王になるなんて……。僕はコウの話に大きなショックを受けた。そんな僕にコウは話を続ける。


「ショックでしたか? 勇者の姉が魔王となった事が。ですが、ハルカ。これはまだ悲劇の半分に過ぎませんよ」


 えっ、どういう事!? これで悲劇の半分に過ぎないって……。


「話を続けます。姉が出ていった事を知った妹は、パーティーのメンバーに対し、激怒しました。そして、必ず姉を見付け出すと。以後、妹は魔王討伐の旅と同時に姉の捜索を進めました。ですが、やがて妹にも変化が起きました。次第に姉の事を口にする事が減り、遂には一切、口にしなくなりました。姉の捜索も辞めてしまいました。逆に魔物や盗賊等の討伐に熱心になりました。それは凄まじい戦いぶりで、一人残らず、皆殺しでした」






「パーティーのメンバー達も勇者の異変に気付いてはいましたが、口出しは出来ませんでした。何せ相手は勇者ですからね。しかし、勇者の異変はエスカレートしていきました。ある日、ひったくり犯に出くわした彼女は、いきなり、ひったくり犯を斬り殺したのです。彼女は言いました。


「私の前で犯罪は許さない。悪は滅びて当然よ」と」


 そして、更に恐ろしい事件が起きました。その後、旅を続けた一行は、ある村に辿り着きました。一行はその村で食料と水の補給をしようとしましたが、その年は不作で、元より貧しいその村には、勇者一行に譲る程の蓄えは無かったのです。村長が直々に、村に蓄えが無い事を一行に話し、丁重に謝罪しました。が、その直後、勇者が村長を斬り殺したのです。そして言いました。


「ふざけてるの? 私は勇者よ? 私の為に食料を渡すのは当然でしょ? それが出来ないなんて、貴方に正義の心は無いわ。よって成敗するわ」


 事ここに至って、パーティーのメンバー達も、勇者が明らかに狂っている事に気付きました。ですが、もはや手遅れでした。狂った勇者は仲間を、村人達を皆殺しにした挙げ句、最後は魔法で村を丸ごと、消し去りました。かくして勇者である妹もまた、姉同様の恐ろしい殺戮者と化しました。後は、両者は破壊と殺戮を繰り広げ、他の者達を殺し尽くし、遂には激突。先程の映像の通り、両者、刺し違えての相討ちとなりました。悲しい事に、最後の戦いの中、お互いが実の姉妹である事を思い出す事は無かったのです」


 そう言って、コウは話を終えた。






「どうして……。どうして、そんな事になったの? 姉の方は、闇の力に目覚めたんだから、悪に染まるのも分かるよ。でも妹は勇者じゃないか。何故、妹まで狂ってしまったの?」


 僕はコウに疑問をぶつける。


「今から説明します。まず、ハルカ。貴女は勘違いをしています。貴女は勇者の力を善、闇の力を悪と思っている様ですが、違います。力に善悪の区別は有りません。要は刃物と同じ、使い方次第で、良くも悪くも働きます。いえ、そもそも絶対的な善悪の区別自体、存在しません。さて、いよいよ本題、転生者、異界人の多くが悲惨な最期を遂げる理由。確かに、転生者、異界人は、優秀な力を持ちます。特に転生者は優れた身体も持ちます。ですが、大きな欠点を持つのです。その欠点故に、多くの者達が破滅するのです。ハルカ、貴女に分かりますか?」


 僕に問いかけるコウ。転生者、異界人の大きな欠点? 何だろう?


「ごめん、分からない。教えて欲しい」


「では教えましょう。転生者、異界人の大きな欠点。それは、強大な力や優れた身体を持ちますが、肝心の魂は普通の人間のままだという事。人間の魂には過ぎた力なのです。ちなみに先程の姉妹の場合、姉が妹にコンプレックスを持っていた様に、妹もまた、姉にコンプレックスを持っていました。学業優秀で、家事万能。周りから頼りにされる姉に。過ぎた力はそういった心の闇を増幅し、その者を狂気に誘うのです」


 もしかして、僕もいつか、あの姉妹の様に狂気に染まるんじゃ? そう考え、僕は戦慄する。狂気に染まった僕が、ナナさんやミルフィーユさんと殺し合うなんて、絶対嫌だ! そんな僕の胸の内をコウはお見通しだった。


「安心しなさい、ハルカ。貴女は大丈夫。何故なら、貴女は力に適合しています。暴走するのは力に適合出来なかった者です。ただ、適合するかどうかは、正に才能。本人の意志ではどうにもなりません。貴女は幸運に恵まれましたね」


 コウに言われて、安堵のため息を付く僕。良かった、僕、暴走しないんだ……。


「ちなみに、マスターとイサムも適合者です」






「コウ、長話、ご苦労さん。さて、ハルカ。君は本当に幸運だぞ」


 コウの話が終わり、代わって邪神ツクヨが話しかけてきた。


「確かに幸運でしたね。下手すれば、あの姉妹同様、狂気に染まっていたかもしれませんし」


「甘いな。君の幸運はそんな程度じゃない。いや、奇跡とすら言える」


「どうしてですか?」


「あのな、君、自分がどれだけ恵まれているか、分かってないのか? 異世界で無事に生活しているなんて、正に奇跡だぞ。言葉や文化の違いに苦しんだり、更には力を持つが故の迫害。また、利用しようと近付いて来る奴や力を奪おうとする奴。本当に大変なんだぞ。だが、君は言葉が通じ、文化も元の世界に近い異世界に飛ばされ、優秀な師匠に出会い、保護された。君は異世界で自分の居場所を得た。これは素晴らしい幸運だ」


 言われてみればそうだ。僕は言葉が通じ、文化も近い世界で、ナナさんと出会い、メイドになった。そうして僕は異世界で居場所を得た。もし、ナナさんと出会わなかったら、ナナさんに受け入れられなかったら、僕は今頃、どうなっていただろう?


「一つ間違えば、君はとっくに異世界で死体になっていただろうな。ま、それは俺も同じ。俺はコウと出会ったからこそ、今、こうして生きている。力の使い方や異世界での生き方を教わってな。君も言っていた様に、異世界は甘くねぇ。いきなり一人で異世界に飛ばされたところで、まず生きていけない。俺も君も本当に幸運だ」






「それじゃ、次の話に行くぞ。さっきの話に勇者の事が有ったから、勇者についてだ。ハルカ、君は勇者とは、何だと思っている?」


 邪神ツクヨが僕に新しい話題を振ってきた。勇者とは何か? 前回同様、僕は自分の考えを話す。


「世間一般的に言えば、魔王や邪神に立ち向かい、世界を救う正義のヒーローですね。でも、貴女は違うと言うんでしょう? 邪神ツクヨ」


「あぁ、その通り。そうだな、この話はイサム、お前が話してやれ。勇者の真実をハルカに教えてやれ」


「分かりました、ツクヨさん。それじゃハルカ。君に勇者とは何か話すよ。ただ、世間一般の勇者のイメージをぶち壊す事になるけどね」





今回のコウは非常に饒舌でした。会話文が大部分を占めてしまいました。


強大な力を持つが故に、精神を病み、破滅する大部分の転生者や異界人。作中でも書きましたが、ハルカやツクヨ、イサムは適合者かつ、的確な指導を受けたからこそ、今も生きているのです。力を得ただけで、元、一般人が生きて行ける程、異世界は甘く無いと思います。では、また次回。

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