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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第31話 さらわれて、1週間

 ハルカが拐われて、はや、1週間。既に11月に入り、季節は本格的に冬になろうとしていた。


 私を始め、皆で情報収集に当たるも、いまだに犯人の行方は掴めなかった。そしてハルカの安否も。






「ナナさん、助けてーっ!」


 見知らぬ女がハルカを連れ去って行く。私は追いかけようとするが、何故か身体が動かない。そして女はハルカと共に遠ざかって行く。


「待て! ハルカを返せーっ! ハルカーっ!」


 私は叫ぶが、女はどんどん遠ざかり、やがて見えなくなった。






「……夢か」


 いつの間にか寝ていたらしい。そういえば、自分の部屋で調査をしていたっけ。


「やれやれ、この私がうたた寝とはね……」


 魔道を極め、人間を超越した存在である私はぶっちゃけ、食事や睡眠は不要。だが、ハルカが来て以来、普通の人間同様に食事や睡眠を摂るようになった。


 既に外はすっかり明るくなっていた。時計を見れば、午前7時を廻っていた。腹が減っていたし、キッチンへ向かう。


 誰もいないキッチン。シンと静まり返っている。いつもならハルカがいて、忙しく朝の用事をしているのに……。


 戸棚からレトルトのカレーライスを取りだし、レンジにかける。数分後、出来上がったカレーライスを食べる。決して不味くはないが、何か物足りない。


「ハルカ、あんた今どこにいるんだい? 無事なのかい?」


 もちろん、私の問いに誰も答えてはくれなかった。






 その日の昼、ついに事態が動いた。スイーツブルグ侯爵夫人から連絡が有った。ハルカをさらった女と思われる情報が入ったと。さらにクローネ、ファムからも手掛かりらしき情報を掴んだと。そして私の屋敷に急遽、集まる事になった。


 私の屋敷の客間に7人の客が来ていた。スイーツブルグ侯爵夫人、クローネ、ファム、そして侯爵夫人が連れてきた、4人の男達。2人はむさ苦しいおっさんで、残り2人は若い。見たところ、おっさんの1人は軍人、残りは騎士だね。正直、男なんか私の屋敷に入れたくないが、今はほんの僅かでも手掛かりが欲しい。






「とりあえず話を聞こうか。誰からにする?」


 私は話を切り出した。一番手は侯爵夫人だった。


「では、私から。ナナさん、こちらは、王国陸軍総司令官のスズキ将軍、そしてその旧友の騎士団長と部下の方々です。ハルカさんをさらった女に心当たりが有るそうです」


「はじめまして、私は王国陸軍総司令官、ゴンゾウ・スズキと申します」


「俺は王国騎士団ヘンキョー村支部団長、タロウ・ヤマダってもんだ」


「その部下のイチロウ・ワタナベであります!」


「同じく、トシオ・サトウであります!」


 四人がそれぞれ名乗る。だが私としては、そんな事はどうでも良い。早く情報が欲しい。すると、いきなりスズキ将軍が土下座した。


「申し訳ない! 我々があの女を甘く見ていた結果、そちらのお嬢さんをみすみす、さらわれてしまうとは! お嬢さんにもしもの事が有った際には、切腹する所存であります!」


 あのさ、そんな事はどうでも良いんだよ。早く情報をよこせ!


 堅物なおっさんにイラついていたら、もう1人のおっさん、ヤマダが言う。


「スズキ、お前は堅苦しくていけねぇ。ここは俺が話すわ。事の起こりは先日、俺達の騎士団詰所に盗賊団の男が逃げ込んで来てな……」






「なるほどね。話は分かったよ。私達の探知網を掻い潜り、ハルカを拐う程の奴だ。そりゃ、あんた達の警戒網ぐらい簡単にすり抜けるよね」


「全く、面目ねぇ。とはいえ、スズキを責めないでやってくれ。確たる証拠が無い以上、大っぴらには動けねぇからな」


「分かってるよ、それぐらい。宮仕えの身も大変だね」


「とにかく、現在分かっているのは、リーダー格の女は人間じゃねぇ事、べらぼうに強い事、目を合わせると催眠をかけられる事、以上だ」


「特に目には気を付けるべきです。警戒に当たっていた者全員が、目を見た途端、記憶が飛んでいます。その隙に逃げられた様です」


 サトウという若い騎士が付け加える。強い上に催眠まで使いこなすとは、確かに厄介な相手だね。






 次はクローネ。


「我も妙な情報を掴んだ。この王都から東に位置している古代都市の遺跡にして、アンデッドの巣窟、通称『死都』からアンデッドが全て消えたらしい」


「『死都』って確か、魔神が住み着いて、アンデッドを従えていたはずだろ?」


「そうだ。どうやら、元凶の魔神ごと消された様だ。もう1つ。表沙汰にはなっていないが、光明神教会の中でも『光の聖女』とやらを担ぎ上げる過激な一派が『死都』に向かい、それっきり消息を絶っている。現在、光明神教会は極秘調査と揉み消しに必死になっているぞ。そして直前に若い女の3人組が『死都』に向かうのが目撃されたそうだ」






 最後はファム。


「アタシもおかしな話を聞いたよ。先日、王都に向かう街道の食堂で物凄く食べる若い女、3人組が来たって。しかも、代金の支払いの際、お釣りはいらないって大量の金銀、宝石の類いを置いていったらしいよ。後、名前も分かったよ。店員さんが、3人組の会話を覚えてた。えっと、リーダー格の20歳ぐらいの女がツクヨ、16~17歳ぐらいの子がイサム、13~14歳ぐらいの子がコウ。そう呼んでたって」


「他にも情報は無いのかい?」


「えへへー、取って置きが有るよ。ジャーン! その3人組の写真。食堂の防犯カメラに映っていたのを貰って来たよ」


「でかした! ファム、あんた大手柄だよ! 早く写真を見せな!」


 私はファムの両肩を掴んで揺さぶる。


「ちょっと、ナナちゃん、落ち着いて!」






 さて、全員でファムの持って来た写真を見る。


「ふむ、盗賊団の男や雑貨屋のシゲ爺さんの言った姿と一致するな」


「凄い美人ですね、団長」


「先輩、不謹慎ですよ!」


「この女に警戒網を全てすり抜けられたのか……」


 男4人はそれぞれの感想を言う。この女がハルカを……。許さない! 絶対に見つけ出して、殺してやる! だが今はハルカの救出が先だ。まずは、ハルカの居場所を突き止めないと。






 僕が邪神ツクヨにさらわれてから、1週間が経った。何だかんだで、ここでの生活にも馴染みつつある。


「よし、今日は釣りに行くぞ。釣れなかった奴は飯抜きだ」


 邪神ツクヨがそう言い、今回、僕達は海へと釣りに来ました。それぞれ釣竿を手に釣り始める。ちなみに磯釣り。


「よし、釣れた。コウ、この魚食べられる?」


 僕は釣り上げた魚が食べられるかどうか、コウに聞いてみる。何せ見た事の無い魚だからね。


「食べられますよ。くせの無い白身魚なので、塩焼き、唐揚げが美味です」


 本当にコウは物知り。様々な質問に即答してくれる。こうして釣れた魚についてコウに質問しながら僕達は釣りを続ける。中でもコウが一番凄い。無表情で僕の質問に答えながらも、次々と魚を釣り上げる。僕とイサムはそれなり。問題は邪神ツクヨ。全く釣れず、明らかにイラついている。そんな中、ついに待望の当たり。


「よし、来た!」


 嬉しそうな邪神ツクヨ。でも釣れたのは……。


「あれ、フグだよね……」


 そう、邪神ツクヨの釣り上げた魚はどう見てもフグだった。しかも、全身、真っ黒で、身体の側面に白いドクロみたいな模様が有る、嫌な外見のフグ。


「ドクロフグですね。ちなみに猛毒です」


 コウが解説してくれる。やっぱり猛毒なんだね。それにしても嫌な名前。でも、邪神ツクヨは何故か大喜び。


「よっしゃ! ドクロフグ来た! 釣りまくるぞーっ!」


 猛毒フグなんか釣っても仕方ないと思うんだけど……。すると、またコウが解説。


「マスターはあらゆる存在を喰らう邪神。ゆえに一切の毒も無効です。ドクロフグは全身が猛毒ですが、美味ですし、群れで行動するので、一度釣れると入れ食い状態になります。マスターからすれば、良い獲物です」


 なるほど、そういう事か。


「さて、ハルカ、イサム、場所を変えますよ。先ほど言った様に、ドクロフグは群れで行動します。猛毒の魚など釣りたくないでしょう?」


 確かに。僕も猛毒のフグなんて釣りたくない。


「それじゃ、向こうの砂浜に行こう」


 イサムがそう言い、僕達はドクロフグ釣りに熱中している邪神ツクヨを置いて移動した。


 そして、お昼時。邪神ツクヨも砂浜にやって来て、みんなで昼食。釣った魚で料理を作る。ちなみに僕達3人の釣った魚はイサムが調理してくれた。刺身と塩焼き、海鮮汁。僕も料理の腕には自信が有るけど、イサムも見事な腕前だった。さて、魚も焼けたし食べようかな。そう思ったその時、誰かが魚を横取りした。邪神ツクヨだ。


「うん、良く焼けてるな。美味い美味い」


「ちょっと、横取りしないで下さい! 大体、そっちはドクロフグが有るでしょう!」


「そりゃ悪かったな。じゃ、ドクロフグ食うか?」


「猛毒フグなんか、いりません!」


 その後はみんなで食事。イサムの料理はとても美味しかった。ちなみにドクロフグは邪神ツクヨが責任を持って全て食べたよ。しかし、猛毒フグを食べるなんて、本当にデタラメな邪神だよ。






 その夜、僕は思う所が有って、邪神ツクヨの部屋を訪ねた。


「何の用だ?」


「邪神ツクヨ、貴女に聞きたい事が有ります」


 僕は邪神ツクヨに疑問をぶつける。


「貴女は本当に邪神なんですか? 僕がここに連れてこられて、1週間経ちましたけど、貴女全く邪神らしい事をしてませんよね」


 そう、この1週間、邪神ツクヨは邪神らしい事を一切しなかった。狩りに行ったり、森に果物を採りに行ったり、今日は魚釣りといった具合に。


 ナナさんから聞いた話では、邪神とはこの世に生きる全ての者の敵。破壊と殺戮を行い、世界を破滅に導く者。魔王より遥かに危険な存在だと。明らかに邪神ツクヨは僕が聞いた話と食い違う。一体、何者なんだろう?


 すると邪神ツクヨは、いつもの嫌な笑い声を上げる。


「ククククク……。俺が邪神らしい事をしない訳か。それはな……」


 それは? 僕は次の言葉を待つ。


「ぶっちゃけ、面倒くせぇからだ」


 は? 面倒くさい? あまりのぶっちゃけ発言に唖然とする僕。


「ハルカ、この俺をそんじょそこらのテンプレな邪神と一緒にするなよ。この邪神ツクヨ、一味違うぜ。ま、他にも理由は有るがな」


 う~ん、ますますこの邪神の事が分からない。相当な変わり者なのは確かだけど。すると邪神ツクヨが言う。


「ハルカ、聞きたい事は俺の事だけか? 他にも聞きたい事が有るんじゃないか?」


「えっ? そりゃまぁ、他にも色々聞きたい事は有りますけど……」


「そうか。なら、ちょうど良いな。イサム、コウ! そんな所で盗み聞きしてないで入って来い!」


 すると部屋のドアが開いて、イサムとコウが入って来た。


「だから言ったでしょう。盗み聞きは良くないと」


「でも、ツクヨさんとハルカが二人きりなんて、気になって……」


 何か言い合っている2人。でも、確かに僕はこの2人にも聞きたい事が有る。


「それじゃ、全員揃った事だし、色々話そうじゃないか。ただし、これだけは言っておくぞ、ハルカ。今から俺達が話す事はかなりキツい内容も含まれるからな。覚悟しとけよ」


「分かりました」


 かくして始まった、邪神ツクヨ達との座談会。はたして、何を知る事になるんだろう?





はたして、邪神ツクヨ達は一体、何を語るのか? そして、ナナさん達はハルカを救出出来るのか? ではまた次回。

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