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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第30話 連れ去られた先は異世界

「イサム、茶と茶菓子持って来い。4人分な」


「分かりました」


 邪神ツクヨがそう言い、イサムは部屋から出て行った。一体、何を考えているんだ、この人? いや、神か。もっと正確に言えば、邪神か。僕を喰う為に襲って来たはずなのに。そしてイサムが4人分のお茶と茶菓子をお盆に載せて戻って来た。






 現在、4人でお茶を飲んでいます。確かにお茶も茶菓子の羊羮も美味しいけど……。そんな僕の様子を見てか、邪神ツクヨが話しかけてきた。


「何か聞きたそうな顔だな。遠慮は要らん、言ってみろ」


「……それじゃ、聞きますけど、どうして僕をここに連れて来たんですか? 貴女、僕を喰いに来たはずなのに」


 僕は邪神ツクヨに質問する。すると、邪神ツクヨは愉快そうに笑った。


「ククククク、あ~、その事か。ま、こちらにも色々と事情が有ってな」


「だから、その事情を教えて下さい!」


「細かい事を気にするタイプだな君は。分かった、話してやる」


「ちょっと、ツクヨさん!」


 何故か、慌てるイサム。どうしたのかな?


「良いじゃないか、イサム。恥じる事じゃ無し。理由は2つ。1つは君を喰っても不味いから」


 僕が不味い? 何だかムカつくな、その言い方。美味しそうと言われるのも嫌だけど。


 すると今まで黙っていたコウが言う。


「誤解しないで下さい。マスターは貴女を褒めておられます。マスターが不味いとおっしゃるのは、最高の賛辞です」


 不味いが褒め言葉? どういう事? その疑問に邪神ツクヨが答える。


「俺はあらゆる存在を喰らう邪神だが、特に旨いと感じるのが、欲や罪や偽善にまみれた業深い奴だ。逆に、優しさや思いやりに満ちた清らかな奴は、酷く不味く感じるんだ。そして君は清らかな魂の持ち主だ。いくら極上の魔力を持つ魔王と言えど、不味い相手は喰いたくない。俺はグルメだからな」


 嫌なグルメだな……。






「そして、もう1つの理由が、イサムに止められたからだ」


 えっ、イサムが? 驚いた僕がイサムの方を向くと慌てて、目を逸らした。


「いや、あの時は驚いたな。イサムの奴、この俺に、この邪神ツクヨに対し刀を向けたんだからな。イサムと初めて出会った時以来だったな。そうだな、もう少し詳しく話してやる」






「ふぅ、危なかった。あれが魔氷女王の『絶対凍結眼(アブソリュート・フリーズ)』か。不完全だったから良かったが……」


 俺は、首筋に一撃入れて気絶させた銀髪メイドを、倒れる前に受け止める。さて、どうしてくれようか? ん?


 チャキッ


 俺の首筋に突き付けられた、日本刀の刃。誰かは分かっている。


「何のつもりだ、イサム。お前、俺の食事の邪魔をする気か?」


 いつになく真剣な表情のイサム。こいつが俺に刃を向けるのは、ずいぶんと久しぶりだ。


「その通りです。ツクヨさん、どうしても、その子を喰わなきゃいけないんですか? 大体、ツクヨさん、良く言ってるじゃないですか、俺はグルメだって。この子は明らかに善良です。そんな子を喰ったって不味いだけでしょう。お願いします、助けてあげて下さい!」


 …………ったく。こいつがここまで言うなんて初めてだな。色気付きやがって。仕方ないな、ここはイサムの顔を立ててやるか。それにイサムの言う通り、この子は善良だ。喰っても不味い。だが、帰してやる訳にもいかんな。連れて行くか。


「分かった、イサム。お前の頼みに免じて喰わないでやる。ただし、帰してやる訳にもいかん、連れて行くぞ」






「と、いう訳だ」


 話終えた邪神ツクヨはお茶をすすり、羊羮をかじる。イサムはというと、顔を真っ赤にして俯いている。コウは終始、無表情でお茶をすすっていた。


「なるほど、話は分かりました。ありがとう、イサム」


 僕がそう言うと、イサムは大慌て。


「いや、あの、その、あの時はもう勢いで。そんな、お礼を言われるほどじゃ……」


「ククククク! いや本当に、大したもんだったぞ、イサム」


「全くです。あの時は驚きました。まさか、マスターを止めに入るとは」


「2人共、茶化さないでくれ!」


 邪神ツクヨとコウに茶化されるイサム。さて、いつまでも、このままではいけない。帰らなきゃ。


「あの、僕を喰う気が無いなら、帰して貰えませんか? 僕は魔女のナナさんのメイド兼、弟子なんです。早く帰って安心させてあげたいんです」


 だが、邪神ツクヨはこう言った。


「悪いが、そうはいかんな。君は俺に負けた。実戦において、敗北は死を意味する。それをあえて生かしてやっているんだ。君をどうするかは勝者である俺が決める。そして君は一緒に連れて行くと決めた。よって、帰してやらん」


「そんな、酷い!」


「ククククク、俺は邪神だぞ? 帰して貰えると思うのが間違いだ。まぁ、仲良くしようぜ」


 どうしよう……。ナナさん、僕、どうしたら……。






「さて、湿っぽいのはここまでだ。そういえば、君の名前を聞いていなかったな。名前は?」


 邪神ツクヨに名前を聞かれたので、答える。


「……ハルカ・アマノガワです」


「そうか、ハルカか。では、ハルカ。これからメシの調達に行くぞ。君も付き合え。君の歓迎会のご馳走を作る為だからな」


「は?」


 思わず、間の抜けた返事をしてしまう僕。歓迎会? この邪神、一体、何を考えているんだろう?


 そんな僕にお構い無しに邪神ツクヨは話を進める。


「ほら、これは返すぞ」


 放ってよこしたのは、僕の愛用の小太刀「氷姫・雪姫」


「良い小太刀だな。大切にする事だ。それほどの品は滅多に無いからな」


 没収した武器まで返すなんて……。


「コウ、イサム、お前らも来い。特にイサム、ハルカに良い所を見せてやれ、ククククク……」


「ちょっと、何言ってるんですか、ツクヨさん!」


 何故か慌てるイサム。本当にどうしたのかな?


 そんな僕を見て、コウが呟く。


「やれやれ、鈍い人ですね、貴女は……」


 何を言ってるんだろう?






 さて、食材の調達の為、邪神ツクヨ達と共に外に出た僕。その景色に驚かされた。広い草原、向こうには鬱蒼とした大森林。さらにその向こうには大きな山が見える。僕の全く知らない場所だ。


「なかなか良い眺めだろう。ここは俺のお気に入りの1つでな。さて、今日は君の歓迎会だし、ここは気合い入れて行くか。言っとくがハルカ、これから行う狩りは命懸けだからな。油断してたら死ぬからな」


 あの、今日は僕の歓迎会ですよね? 油断してたら死ぬって……。


「それじゃ、3人共、俺に付いてこい! ぐずぐずしてたら置いて行くぞ!」


 そう言うなり、邪神ツクヨは猛スピードで走って行ってしまった。驚いた、なんて速さだ……って、ちょっと、置いて行かないで!


「ハルカ、行こう!」


「さっさと行きなさい」


 仕方ない、行こう!


 僕はイサム、コウと一緒に邪神ツクヨの後を追いかける事にした。






「着いたぞ、ここだ」


 邪神ツクヨの後を追いかけて、たどり着いた場所は鬱蒼とした森に囲まれた大きな湖。何だか薄気味悪い場所だよ。ところで何を狙うのかな? 聞いてみよう。


「あの、一体何を狙うんですか?」


 すると邪神ツクヨはニヤニヤ笑いを浮かべながら言った。


「すぐに分かる。ハルカ、とりあえず少し、湖に入ってくれ。そしてじっとしてろ」


「えっ? 分かりました……」


 僕は靴を脱ぎ、スカートを捲り上げる(僕はロングスカート着用)と膝下ぐらいまで湖に入る。


「よし、それで良い。しばらく、そのままでいろ」


 本当に、何の意味が有るんだろう? 言われた通り、そのまま待ち続ける。


 そして待ち続けて、5分ぐらい経ったその時、変化が起きた。何かが向こうからやって来る。何だか凄く嫌な予感がする……。そしてそれは的中した。


 ザバァァァァッ!


 大きな水音と共に水中から飛び出して来たのは巨大なウナギのような生き物。僕がいるのは膝下ぐらいしか水が無いのに平気で体をくねらせ近付いて来る。しかも速い! 鋭い牙の並んだ口を大きく開けて、僕を食べる気、満々だ。まさか、邪神ツクヨ、こいつを誘き出すために僕を?


 見れば、楽しそうにニヤニヤ笑っている。


「うん、うまく誘き出せた。若い処女の肉が大好物だからな、その巨大ウナギは」


 この人でなし! でもそれどころじゃない。このままじゃ喰われる! 愛用の小太刀で切りつけるが、まるでゴムのような皮膚とヌルヌルの粘液に邪魔されて斬れない。そこへ巨大ウナギが食い付いて来た。ヤバい!


 だがその攻撃は突然現れた壁に阻まれる。何これ? 無数の本のページで出来てる。


「世話の焼ける人ですね、貴女は」


 淡々とした口調。邪神ツクヨの従者の少女、コウだ。


「そこで見ていなさい」


 やはり淡々とした口調でそう言うと、コウが巨大ウナギに攻撃開始。先ほどの本のページの壁が瞬時にバラけ、無数の刃となって巨大ウナギを切り刻む。巨大ウナギが攻撃を仕掛けるとまた瞬時に壁となり、阻む。まさに一方的な戦いだ。いや、虐殺だね……。でも、それで終わる巨大ウナギじゃなかった。






 コウに深手を負わされ、怒り狂った巨大ウナギは本気を出してきた。毒液を吐き出して僕達を攻撃してくる。


「汚ならしい攻撃ですね。これ以上、付き合う気は有りません。後は任せましたよ、イサム」


「了解! ハルカ、君も下がって。後は俺が片付ける」


 今度はイサム登場。巨大ウナギに向かって走って行く。巨大ウナギはイサムめがけて毒液を連射するけど、全て最小限の動きでかわされる。凄い、イサム……。


「さて、悪いけど、今日の晩飯になって貰うぞ!」


 イサムがそう言うと腰に差していた日本刀に手を掛ける。そして次の瞬間、巨大ウナギは一刀両断されていた。そんな……いつ、刀を抜いたか見えなかった……。






「よくやった、コウ、イサム。それじゃ、持って帰るぞ。今日の歓迎会は巨大ウナギ料理のフルコースだ」


 あの、貴女、何もしてませんよね、邪神ツクヨ。呆れながらも、僕は、邪神ツクヨ、コウ、イサムと共に帰るのでした。ちなみに巨大ウナギはコウが空間収納で持ち帰り、夕方の歓迎会は邪神ツクヨの言った通り、巨大ウナギ料理のフルコースでした。


 美味しかったけど、当分、ウナギ料理はいりません……。僕、これから先、どうなるのかな……?




今の時点では謎だらけの邪神ツクヨ達。三人の過去やコウの正体は、まだ書きません。さて、ハルカはどうなるのか? ハルカ奪還を目指すナナさん達はどうしているのか? では、また次回。

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