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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第2話 17歳になりました

「ふぅ~、何とか間に合ったね」


 一時はどうなる事かと心配したけど、『それ』は遂に完成した。大変な苦労の末、手に入れた最高の素材を用い、この私の持てる全てを注ぎ込んで造り上げた最高傑作。我ながら、よくぞやり遂げたと思う。


「さて、もう部屋に戻って寝るとしようか……」


 私は『それ』を手に部屋を出る。時計を見れば、既に午前2時を廻っていた。


「フフフ、楽しみだね。喜んでくれると良いね」


 本当に楽しみだ。私からのプレゼントを渡すその時が待ち遠しい。


 そう、今日はあの子の17歳の誕生日。





 僕が異世界に来てから3ヶ月近く経ち、7月になった。


 僕はこの3ヶ月近くをメイドの仕事をこなしつつ、ナナさんから魔法や武術の稽古を付けて貰って過ごしていた。


 ナナさんは最初の頃は暇潰しと言って稽古を付けてくれていたけど、今では僕を立派な高機動魔法メイドに育て上げると言って燃えています。


 その結果、僕は中位までの魔法と短剣二刀流を身に付けた。


 僕に稽古を付けてくれるのは良いけど、高機動魔法メイドというネーミングは恥ずかしいからやめてください。僕は魔法少女物アニメの主人公じゃないんだから……。後、その熱意をナナさん自身の生活態度の改善に向けて欲しいです。





 今日も朝から忙しい僕。せっせと、メイドとして働いています。


「そういえば、もうすぐ僕の誕生日だったな……」


 今日は7月4日。明明後日しあさっての7月7日が、僕の17歳の誕生日。


「母さん、姉さん、彼方、元気にしてるかな?」


 家族の事を思い出し、切なくなる。誕生日はいつも家族で祝ってくれたっけ。


「急に死んじゃって、ごめん」


 もう会えない家族に謝る僕。でも落ち込んでばかりではいられない。僕は僕のやるべき事をしなくては。


「僕、こっちの世界で頑張るよ。皆もしっかり生きて欲しい」


 元の世界の家族に向けてそう言うと、仕事に戻る僕だった。





「ハルカ。もうすぐ、あんたの誕生日だったね」


 その日の昼食時、ナナさんがそう言った。


「はい、明明後日の7日が誕生日です」


「その日だけど、私の知り合いの魔女達を呼んで、盛大に祝ってあげるよ。感謝しな」


「えっ? 他の魔女さん達も来るんですか?」


「あぁ、そうだよ。以前、あんたを雇った事を話したら、会わせろとうるさくてさ。あんたの御披露目を兼ねてね」


「何人ぐらい来るんですか?」


「2人だよ」


「少ないですね……」


「大きなお世話だよ! 私は私と同格の魔女しか呼ばないんだよ!」


 あちゃ~、怒られちゃったよ。しかし、ナナさんと同格の魔女さん達か……。どんな人達だろう? でも、ナナさんの知り合いなら大丈夫かな。ナナさん自身が怖くないし。





 そして僕の誕生日、7月7日になった。


 今日のメイドの仕事はお休み。昨日の夕食時、ナナさんから、


「明日はメイドの仕事はしなくて良いよ。あんたが主役なんだから、存分に楽しみな。私に全て任せておきな」


 と言われた。


 正直、僕としては不安。ナナさんに任せて大丈夫かな? まぁ、いざとなれば僕がフォローすれば良いよね。





 現在、時間は正午近く、場所はリビング。部屋中、派手に飾り付けられています。ちなみに、ついさっきまで、ごく普通のリビングでした。それがナナさんの魔法であっという間に誕生日会の会場になりました。ナナさんは本当に凄い魔女なんだなぁと改めて実感。





「ねぇ、ナナさん。知り合いの魔女さん達は、何時ぐらいに来るんですか?」


「今日の昼ぐらいに来るように言っておいたから、そろそろ来るはずだよ」


 僕がナナさんと話していたその時、


 ピンポ~~ン♪


 呼び鈴の音が聞こえた。


「噂をすれば影。どうやら来た様だね。行くよ!」


「はい、ナナさん!」


 僕はナナさんと一緒に玄関に向かう。さぁ、ナナさんの知り合いの魔女さん達と対面だ!





 パン!パン!パン!


「「「ハルカ(ちゃん)誕生日おめでとう!」」」


 3人がクラッカーを鳴らし、一斉にお祝いの言葉を掛けてくれる。


「ありがとうございます。僕、本当に嬉しいです」


「可愛い、あんたの為だもの。これぐらいどうって事無いさ」


「うんうん、ハルカちゃん本当に可愛いから。アタシお持ち帰りしたいよ!」


「やめんか、バカ者。まぁ気持ちは分からんでもないが。確かに可愛らしい娘だ」


 3人から可愛いと言われる僕。未だに慣れないよ、どうにも複雑な気分になる。身体は女だけど心は男だからね。褒められているのは分かっているんだけど……。


 今日の僕の誕生日会にナナさんが呼んだ、2人の魔女さん達。


 ナナさんの知り合いで同格の魔女と聞いていたけど、ナナさんと同じく、怖いとは思わなかった。


 1人は、栗色の髪のショートカットで、同じく栗色の瞳。黒い男物のスーツが似合っている長身の女性。死霊術師のクローネさん。凛々しい顔立ちで、言葉使いも男っぽく、まるでタカ〇ヅカの人だ。


 もう1人は、赤毛のセミロングに緑色の瞳。小柄で、Tシャツ、ジーパンの女性。幻術師のファムさん。初対面で僕を気に入り、お持ち帰りしたがっています……。





「さて、さっそくだけどハルカに誕生日プレゼントを渡そうじゃないか。クローネ、ファム、あんた達もちゃんと用意してきただろうね? ショボい物は許さないよ!」


 誕生日会が始まってすぐに、そう言い出したナナさん。何だか凄く張り切っています。プレゼントを貰う僕以上に。


「もちろん、用意してきた」


「アタシもハルカちゃんへのプレゼントを持って来たよ」


「そうかい。じゃ私が最初にプレゼントを渡すよ。なんたって私はハルカの保護者兼、雇用主兼、師匠だからね」


 そう言うとナナさんは空中から1つの箱を取り出した。


「ハルカ、私からの誕生日プレゼントだよ。開けてみな」


 ナナさんにそう言われて僕は箱の蓋を開ける。中には二振りの短剣が収まっていた。


「鞘から抜いてみな」


 短剣の一振りを手に取り鞘から抜く。その瞬間、僕は凄まじい衝撃を受けた!





 鞘の中から現れたのは、一点の曇りも無い、無色透明の刃。細身で薄刃のその短剣からは絶大なる力を感じた。


 まだまだ未熟者の僕だけど、その事ははっきり分かった。


 クローネさん、ファムさんも、驚いている。


「素晴らしい……、正に至高の短剣だ」


「凄いよコレ! マジで凄い!」


 そんな僕達を見て、とても満足そうなナナさん。


「その短剣はね、あんたの為にこの私が究極の鉱石、魔水晶。それも最高の双子水晶を元に、私の持てる全てを注ぎ込んで造り上げた最高傑作さ」


「名無しちゃん、本当にハルカちゃんの事が大好きなんだねぇ。魔水晶の短剣をプレゼントするなんて」


「全くだ、ハルカはとことん溺愛されているな。しかも名無しの最高傑作と来た」


 どうやら、僕が考えている以上にこの短剣は凄いらしい。本当に僕が貰って良いのかな?


「あの……ナナさん」


「何、ハルカ?」


「こんな凄い短剣、本当に僕が貰って良いんですか?」


「何、遠慮してるんだい。言ったろ、それはあんたの為に造ったって。だから、あんたは素直に受け取りゃ良いの」


「……分かりました。では、この短剣、受け取ります。ナナさんありがとうございます!」


 僕はナナさんに深く頭を下げ、二振りの短剣を受け取った。ナナさんが僕の為に造ったと言うだけあって、僕の手にとても馴染む。本当に凄い短剣だよ。


「あ、これ取り扱い説明書。ちゃんと読んでおくんだよ」


「はい、分かりました」


「後、その短剣に名前を付けてやりな。その短剣の主としてのあんたの初仕事さ」


「名前ですか、そうですね……」


 僕は考える。氷の様な、無色透明で細身の刃の二本一対の短剣……。そうだ!


「えっと、氷姫・雪姫にします。無色透明で細身の刃の短剣なんで」


「氷姫・雪姫か、良い名前じゃないか」


「可愛い名前だね」


「確かにその二本一対の短剣に似合っているな」


 良かった、3人共、褒めてくれたよ。厨ニ病的な名前だから笑われるかと思ったよ……。


「さて、残るはクローネとファムだね。あんた達は何を持って来たんだい?」


「我はお勧めの魔道書を持って来た」


「アタシも」


「まぁ、定番だね。それじゃ、ハルカに渡してやりな」


 僕はクローネさん、ファムさんから、プレゼントの魔道書を渡される。


「我の得意とする死霊術及び、呪術に関する魔道書だ。ぜひ、役立てて欲しい」


「アタシからは幻術に関する魔道書だよ。しっかり読んでね」


 貰った魔道書のタイトルは『ミジンコでも分かる死霊術と呪術』『楽しい悪夢』お勧めの魔道書らしいけど、酷いタイトルだなぁ……。とはいえ、貰った以上、お礼は言わないとね。


「クローネさん、ファムさん、プレゼントありがとうございます!」


「何、既に我には不要の物だ」


「どういたしまして。ハルカちゃんは本当に可愛いなぁ」


「よし、プレゼントを渡し終わった事だし、飯にしようか。今日は派手に盛り上げるよ!」


 そうだね、今日は僕も楽しもう。せっかくの誕生日会なんだからね。





 誕生日会は大盛り上がり。王様ゲームで無茶ぶりされたり、カラオケ大会になって、誰が僕とデュエットするかで大騒ぎになったり、ナナさんのレースゲームで4人同時対戦したり。そして今は、魔女3人の飲み会と化しています。で、僕は今ピンチだったりします……。


「ハルカ、あんた私の酒が飲めないっていうのかい?」


「ナナさん、僕まだ未成年です!」


「情けないな、我は君ぐらいの歳の頃にはもう飲んでいたぞ」


「ダメじゃないですか!」


「ハルカちゃん、固い事は言わない」


 すっかり出来上がっている3人は、僕にお酒を飲ませようと迫ってくる。僕、未成年なのに~っ!


 ちょっと、クローネさん 羽交い締めしないで! ナナさん、一升瓶を持って迫らないで! ファムさんも面白がってないで止めて!


 僕の抵抗もむなしく、羽交い締めされて身動き出来ない僕の口に一升瓶が突っ込まれ、お酒を流し込まれる。味わう余裕なんて無かった。世界がぐるぐる回る様な感じがして、僕は意識を失った……。





「ハルカちゃん、大丈夫かなぁ?」


「我としたことがつい、調子に乗ってしまった。 悪い事をした……」


「大丈夫、気絶しただけで、命に別状は無いよ」


 今、私達は私の自室に集まって話をしている。


 ハルカは、酔った勢いで飲ませた酒で気絶してしまったので、ハルカの自室に戻して、ベッドに寝かせた。


「名無しよ、いくら何でも『女神殺し』はダメだろう」


「あれはさすがにやり過ぎだよね」


「うるさいね、私はハルカに最高級の酒を飲ませてやりたかったんだよ!」


 私がハルカに飲ませたのは、幻の最高級酒『女神殺し』まぁ、キツい酒だし、初心者に飲ませる様な物じゃないけど、そこは、酒の勢いって事で。


「それにしても名無しよ。お前、随分とハルカに入れ込んでいるな。魔水晶の短剣とは驚いた」


「ふん、私の勝手だろう。後、私の事は名無しじゃなく、ナナと呼びな」


「何故だ?」


「なんで?」


「ハルカが私をそう呼んでいるからさ」


「やれやれ。ナナよ、お前は本当にハルカを溺愛しているな」


「まさに愛情が駄々漏れだよね~」


「うるさいね! まぁ、ハルカは可愛いし、才能も有るし、良い子だからね……」


「確かにあの子は素晴らしい才能の持ち主だ。これから先、更に強くなるだろう」


「今はランクAAAだけど、いずれランクSに上がるよね」


 そう、あの子は今はランクAAAだが、いずれランクSに上がるだろう。本当に育て甲斐の有る子だ。


「明日から、いよいよ実戦訓練に入る予定さ。あの子に魔水晶の短剣をプレゼントしたのは、その事も有る」


「そうか、本腰を入れて鍛える気か」


「ハルカちゃんも大変だね~」


「何、あの子なら出来るさ。この私が育て上げると決意した子なんだから」


 頑張るんだよ、ハルカ。そして立派な高機動魔法メイドになるんだよ。




今回は各種説明。


ハルカは元の世界で四月十日に事故死。四月十一日にこちらの世界に来ました。高校に入学して一ヶ月経たずに死ぬとは悲しいですね。


ハルカは元の世界では、母、姉、妹と四人暮らしでした。父親は十年前に他界。


母はバリバリのキャリアウーマン、姉は高校三年生、ハルカは高校一年生、妹は中学二年生と二歳ずつ離れています。


名前は、母の永久トワ、姉の久遠クオン、妹の彼方カナタ。亡き父は刹那セツナ


家事全般はハルカが担当。母、姉は家事全般が壊滅的なので。妹は多少マシですが、素材の形や味を活かし過ぎた料理(素材を適当に切って、茹でる、炒める等)といった具合でハルカには遠く及びません。


ハルカ亡き後は妹が家事全般を担当。色々苦戦しています。


続いて、こちらの世界。

魔水晶とは、オリハルコンさえ超える、究極鉱石であり、現在これを加工出来るのはナナさんだけ。


魔水晶製のアイテムは凄まじい性能を誇りますが、非常に数が少なく、その存在を否定する者も多いです。


ナナさんは、二ヶ月前から魔水晶、それも最高の双子水晶を探し始め、ハルカの誕生日ギリギリで入手。魔女の工房(この中では、一年が外の一時間)に籠り、三年掛けて自らの持つ全てを注ぎ込んで、二本一対の短剣、氷姫・雪姫を造り上げました。正にハルカへの溺愛の結晶です。


ちなみにナナさんは五千年前に試作品として魔水晶の短剣を造っています。それ以降、今まで造らなかったのですからいかに大変かよく分かります。


ランクですが、二通りの意味が有ります。才能と実力です。ハルカは最初の方でナナさんから、魔力はランクS、その他の才能はランクAAAと言われていますが、これは才能に対する評価。いくら才能が有っても、磨かなければ無意味。


今回、ファムからランクAAAと言われていますが、これは実力評価。約三ヶ月間、ナナさんに鍛えられて、そこまで成長しました。しかもまだ成長します。恐るべき才能の持ち主です。


後、ナナさんがハルカを高機動魔法メイドに育て上げると言っているのは、ハルカ自身が荒々しい戦い方に向かない性格である事と、単純にナナさんの趣味。




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