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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第28話 邪神ツクヨ

「団長と先輩、大丈夫かなぁ? 何か危ない目に遭ってないと良いけど」


 この僕、トシオ・サトウが王国の片田舎、ヘンキョー村の騎士団詰所に派遣されて初の事件。この辺りを荒らし廻っていた盗賊団が壊滅させられた。それもたった1人の紅い目をした女に。


 その事を伝えた盗賊団の男は僕が貰って来た果物、シンクルビーの紅い実を見て、死んでしまった。紅い目と叫んで……。


 そして団長と先輩は現場捜査の為、バギーに乗って盗賊団のアジトの砦に向けて出発。僕は留守番を任された。その際、もし、夕方5時までに帰って来なかったら、これを使えと携帯を渡された。王都にいる団長の旧友へのホットラインだとか。必ず力になってくれると言っていたけど……。


 既に、時刻は夕方5時に迫っていた。だが、団長と先輩は帰って来ない。まさか、本当に何か有ったんじゃ……。いや、大丈夫! あの団長と先輩が、そう簡単に殺られるものか! でも、もしかして……。そう思っていた、その時。向こうから走って来る、1台のバギー。団長と先輩だ! 良かった、無事だった!


「うぃ~っす、今帰ったぞ~」


「サトウ、留守番ご苦労だったな」


「お帰りなさい、団長、先輩。で、盗賊団の砦はどうでした?」


「あ~、それなら中で話すわ。全くえらい目にあったぜ……」


「本当、団長のおかげで何とか助かったけどな……」


 どうやら、団長と先輩、大変な目に遭ったみたいだ。






 現在、騎士団詰所内。僕は団長と先輩に熱いお茶を出し、盗賊団の砦での出来事を聞いていた。


「全く、無茶苦茶な事件だったぜ。砦の中庭は血みどろの地獄絵図だわ、金目の物は根こそぎ無くなっているわ、盗賊達の死体がアンデッド化して襲ってくるわ、挙げ句の果てに突然、砦が燃えるわ、散々だったぜ」


「団長がバクチで巻き上げた空間転移の呪符が無かったら、死んでたぜ」


 バクチって、団長。貴方、騎士でしょう。でも、そのおかげで2人共、助かった訳だし。


 その時、詰所に誰か来た。


「お~い、団長さん、いるかい?」


 この声は村で唯一の雑貨屋を営む、シゲ爺さんだ。






「よぅ、団長さん」


「おぅ、シゲ爺さん。何の用だ?」


「王都へ商品の仕入れに行った際、良い酒が手に入ってな。一杯どうだい?」


 そう言って、シゲ爺さんは酒瓶を取り出す。


「おっ、こりゃ良い酒だぜ。ワタナベ、グラス持って来い。サトウは何かツマミを作ってくれ」


「全く、団長は……」


 呆れながらも先輩はグラスを取りに行く。


 僕も何かツマミを作らないと。






「か~っ! 旨ぇな、この酒!」


「だろ、こんな良い酒が手に入るとはツイてたわい」


 団長とシゲ爺さんは酒盛りの最中。一応、まだ勤務時間なんだけど、今さら先輩も僕もツッコまない。すると、シゲ爺さんがこんな事を話し始めた。


「そうそう、今日、村に帰る途中、凄い姉ちゃん達に会ったぞ。帰る途中で、乗っていた軽トラのタイヤがぬかるみにハマッて抜け出せずに困っていたら、通りがかった3人組の姉ちゃん達が助けてくれたんだ。いや凄かった。20歳ぐらいの姉ちゃんが軽トラを持ち上げて、ぬかるみから出してくれたんだ。あんな細い身体のどこにそれほどの力が有るんだか?」


 えっ? それってまさか!団長の表情が一瞬で引き締まる。


「シゲ爺さん! まさか、その女、紅い目とエルフ耳じゃなかったか!?」


「あぁ、そうだが。どうかしたのか、団長さん」


 不思議そうなシゲ爺さん。


「シゲ爺さん! その3人組、何か言ってなかったか!?」


 今度は先輩がシゲ爺さんに尋ねる。


「そういや、王都に向かうとか言ってたな」


 大変だ! たった1人で盗賊団を壊滅させた女が王都に向かっているなんて!






 その後、シゲ爺さんは帰り、詰所は僕達、3人だけになった。


「どうします、団長?」


 先輩が団長に尋ねる。盗賊団を壊滅させた女が王都に向かっているのだから。


「どうしますって言われてもな。ぶっちゃけ、どうにもならねぇ。相手は化け物だ。しかも、カタギに手出ししてねぇし、証拠も無い」


 確かに。この国では犯罪者を殺しても罪には問われない。故に賞金稼ぎも存在する。しかも、一般人に手出しはしていない様だし、何より証拠が無い。


「ま、一応出来る事はやっておくか。サトウ、お前に渡した携帯、よこせ」


 団長に言われて、預かっていた携帯を渡す。受け取った団長は、さっそく伝話(この世界ではこう書く)をかける。


「おぅ、スズキ。久しぶりだな!」


『ヤマダか。今回は何だ? また酒代貸してくれ、はお断りだからな』


「あいにく、今回はそうじゃねぇ。実はな……」






『なるほど、話は分かった。冗談にしては笑えないし、お前はこんな事で冗談は言わないしな』


「ありがとよ。やっぱり、持つべき物は友達だな。話が早くて助かる」


『だが、確たる証拠が無い以上、大した事は出来んぞ。せいぜい、警戒する程度か……』


「いや、それでも何もしないよりかは、ずっとマシだ。恩に着るぜ」


『恩に着るなら、今までに貸した酒代返せ』


「ま、そのうちにな」


『いつになるんだか? じゃ、切るぞ』


「あぁ、またな」


 そう言って、団長は話を終えた。


 場所は変わって、王都


「私だ。王国陸軍総司令官、ゴンゾウ・スズキだ。王都近隣一帯に警戒網を敷け。危険人物が王都に向かっている。女3人組で、1人は20歳ぐらいで、長い黒髪のポニーテール、紅い目、エルフ耳……」






 数日後


「う~ん、腹が減ったな……」


「さっき食べたばかりじゃないですか、ツクヨさん」


「バカ、そうじゃない、イサム」


「って、まさか!」


「どうやら、魔力面で空腹な様ですねマスター」


「そういう事だ」


「我慢出来ませんか、ツクヨさん」


「そろそろ、限界が近いな。仕方ない、適当な奴を喰ってまぎらわせるか。ちょうど近くにいるしな」


「まぁ、確かにいますけどね……」


「少々、寄り道になりますが行きましょう、マスター、イサム」


 全く、ツクヨさんにも困ったもんだよ。確かに近くに高い魔力を持つ奴がいるけど、この気配は……。






「これは、一体どういう事……」


 私は今、自分が見ている光景が信じられなかった。それは恐らく、同行している者達も同じでしょう。


 ここは、通称『死都』。遥か昔に栄えた古代王国の遺跡にして、アンデッドの巣窟。これまで何度も浄化作戦が決行されるも、ことごとく失敗に終わった。遺跡を『死都』に変えた魔神によって。


 だが、今回は違います! この私『光の聖女』がいるのですから! 幼い頃より、強大な魔力を有し、光明神教会より『聖女』の称号を与えられた私は、これまで幾多もの魔を討ち破ってきた。そしてこの『死都浄化作戦』を成功させ、更なる名声を得るつもりだったのに。


『アンデッドが全くいない!』


「一体、何が有ったんでしょうか、聖女様?」


「私にも分かりません」


 私達に先んじて、何者かが『死都』を浄化した? そう考えるも、即座に否定する。浄化したならば辺りに清浄な気が立ち込める。だが、今回は違う。アンデッド及び、瘴気が消えているのみ。本当に一体、何が起きたのか?


「聖女様! 誰か、遺跡から出てきます!」


 部下の声に我に帰る私。


「全員、構えなさい! くれぐれも油断せぬ様に!」


 部下達に指示を飛ばし、自らも戦闘態勢に入る私。一体、何者? 敵か味方か?


 私を始め、皆が注目する中、遺跡より出てきたのは、3人組の女だった。まさか、この3人が『死都』からアンデッド及び、瘴気を消し去った?






「ま、少しは腹の足しになったかな」


「よくあんなの喰えますねツクヨさん」


「マスターはあらゆる存在を喰らう邪神ですからね」


「そりゃ、分かってるけど……」


 コウの言う通り、ツクヨさんはあらゆる存在を喰らう邪神。だからといって、アンデッドを喰うのを見せられるのはな~。しかも、ツクヨさんはスタイル抜群の美人だから、より一層、キツい。おや、何か大勢いるな。


「どうやら、討伐隊の様ですね、マスター」


「せっかく来たのに無駄足になったな」


 討伐隊か。面倒な事にならなきゃ良いけど。すると、リーダーらしい女性が部下らしいのを引き連れて、やって来た。


「止まりなさい。貴女達は何者です? ここで何をしていたのです?」


 言葉遣いは丁寧だけど、高圧的な言い方だな。ツクヨさんを怒らせるとヤバいのに。


「見りゃ分かるだろ。ただの旅の3人組だ。後、腹が減ったから、ここでちょっと食事をしただけだ。じゃあな」


 そう言って立ち去ろうとするツクヨさんを周りの連中が一斉に取り囲む。マズいな、この連中、俺達を逃がす気は無いな。


「おい、何のつもりだ?」


 ツクヨさんはいら立ちを隠さない。


「貴女達をこのまま帰す訳にはいきません。何が有ったか、何者なのか、徹底的に調べ上げます。それに貴女達は余計な事を知ってしまった。光明神教会の『死都浄化作戦』が不発に終わった事を」


「やれやれ、何とも低俗な理由ですね。光明神教会とやらも程度が知れますね」


 コウがお得意の毒舌をかます。確かに低俗な連中だ。自分達の作戦不発の口封じをする気か。だが、やめた方が良い。


『相手が悪過ぎる』


 そんな俺の思いを知るよしも無い、光明神教会の連中は俺達に襲いかかってきた。


「愚かな人達ですね」


 コウがそう呟いた。






 夕方。俺達3人は宿場町にたどり着いた。明日には王都に着くだろう。いつも通り、ツクヨさんが宿を選び、そこに入る。ツクヨさんは的確に飯の旨い店、宿を見付けるからな。


「いらっしゃいませ!」


 入った宿で、若い女性が俺達を迎える。


「女3人だ。一晩頼む」


「かしこまりました。女性3名様ですね。ではこちらへどうぞ」


 俺達はその女性の後を付いて行く。


「こちらになります。お食事は1階の食堂でどうぞ」


「分かった。ありがとう」


 そして宿の女性は戻って行った。






「うん、なかなか良い宿だな。部屋もベッドも清潔だ」


「確かに良い宿ですね、マスター」


 ツクヨさんもコウも満足気な顔。だが、俺は少々不満。


「あの、ツクヨさん」


「何だイサム」


「何度も言いましたけど、堂々と周りに対して女3人って言うのやめてくれませんか。 俺は『男』ですから!」


 そう、俺、大和ヤマト イサムはれっきとした『男』なのだ。たが、その外見から、小さい頃から女扱いされてきた。そしてそれは今も続いている。いや、むしろ悪化している。


 さらさらの長い黒髪、白い肌。スラリとした手足。そして、控え目ながらも胸も有る。我ながら、凄い美少女ぶりだ。男だけど……。


「大体、何で胸まで膨らんでくるんですか!? おかしいじゃないですか!」


 それに対し、コウが答える。


「イサム。貴方は確かに男性ですが、限りなく女性に近い男性なのです。持って生まれた体質です、諦めなさい。少なくとも不細工よりは、遥かにマシですから」


 何の慰めにもならない発言、ありがとう、コウ。


 見た目は13~14歳ぐらいのショートカットの美少女なのに、発言はいつも容赦無い。ちなみに俺達3人の中で一番、年上だったりする。


「それじゃお前ら、晩飯食いに行くぞ」


「良く食べますね、ツクヨさん。それで太らないんだから凄い」


「ダイエットに悩む、世の女性陣が知ったら羨望と嫉妬の的ですね、マスター」


「ククククク…… 確かにな」


 本当にツクヨさんは凄い。『死都』のアンデッド達、元凶の魔神、さらには光明神教会の連中まで喰ってまだ晩飯を食べるんだから。


「今回、喰った中では、あの聖女が一番旨かったな。実に旨かった」


「あの、ツクヨさん。お願いですから、食事前にそういう発言やめてくれませんか。マジで引きますから……」


「すまん、イサム」






 深夜


「ほら、イサム。もっと気合い入れて腰を動かせ! まだ6発しか出してないだろ!」


「ツクヨ……さん、もう、許し……て……」


「情けないな~、お前それでも元『勇者』かよ。元『勇者』の底力を見せろよ!」


「無理……です……。ツクヨさん……タフ過ぎる……」


「ククククク! 今日は大勢喰ったからな。 ほら、まだまだヤるぞ!」


「誰か……助けて……」


 ちなみにコウは結界を張ってさっさと寝てしまった。この薄情者!






 翌朝


 あはははは……太陽が黄色く見える……。


 宿を出た俺達は王都へ向かう。今日中には王都に着くだろう。ただ、俺はもうフラフラ……。結局、夜明け近くまでツクヨさんに搾り取られたからな……。逆にツクヨさんは生き生きとしている。肌もスベスベだ。ろくに寝てないのに。恐るべし、邪神!






 夕方、王都


「さてと、早く帰らなきゃ。夕飯が遅くなるとナナさん、怒るから」


 僕は夕飯の食材の買い物を済ませて家に帰る途中だった。今日はお肉の特売日。夕飯はナナさんの好きなハンバーグにしよう。そう考えて歩いていた、その時。ふと視線を感じた。


 見れば向こうの方に3人組の見知らぬ女性達がいた。何だろうこの感じ、胸騒ぎがする。そして次の瞬間、僕の目の前に20歳ぐらいの紅い瞳の女性がいた。バカな、この一瞬で距離を詰められた!?


「見付けたぞ、魔王」


 えっ? 魔王? 僕にはこの女性が何を言っているのか瞬時には分かりかねた。だが、事態はそれどころではなかった。女性はそう言うと大きく口を開けた。その口の中には肉食獣の様な牙がズラリと並んでいた。そして僕に襲いかかってきた!





ツクヨに続き、イサムの正体判明。コウの正体はいずれ明かします。そして、ついに邪神ツクヨとハルカが遭遇。では、また次回。

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