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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第27話 禍々しき力

 やれやれ、面倒な事になったもんだぜ。


 事の起こりは突然、騎士団詰所に駆け込んで来た盗賊団の男。紅い目の化け物女に盗賊団が壊滅させられた事を話し、その後、部下のサトウが持って来た、紅いシンクルビーの実を見て死にやがった。よほど、その化け物女が恐ろしかったらしい。


 全くよ~、せっかく毎日毎日、お気楽に過ごしていたのに……。久しぶりに熱くなっちまうじゃねぇかよ!






「団長、バギーのチェック完了しました。何も問題有りません、すぐに出せます」


 サトウが、軍用バギーのチェックを済ませ、報告してきた。さすがはサトウ、良い仕事をする。


 こいつは腕っぷしがからっきしで騎士養成学校を落ちこぼれ、ここに派遣されたが、その代わり、機械関係にめっぽう強い。おかげさまで、村の色々な機械の修理によく呼ばれる。この軍用バギーも、元は廃車処分だった旧型をサトウが修理、改造した物だ。見た目は旧型だが、性能は最新型にひけを取らない。


「分かった。それじゃワタナベ、行くぞ。それとサトウ、俺達が夕方5時までに帰って来なかったら、これを使え」


 俺は携帯をサトウに渡す。


「こいつは王都にいる俺の旧いダチとのホットラインだ。必ず力になってくれる。頼んだぞ」


「了解しました!」


 さて、行くとするか。俺は、ワタナベと共にバギーに乗り込み、発車させた。目指すは盗賊団の砦。






 その頃、某街道の食堂


「すみませ~ん、追加お願いしま~す」


 ちょっとちょっと、何なのよこの人達。信じられないぐらい食べるじゃないの!


 お昼過ぎにやって来た、女3人組の客。その中の20歳ぐらいの紅い目の女性が、店始まって以来の注文をした。


「すみません、書いてあるメニュー全部」


「は?」


 思わず聞き返してしまった私。


「だから、メニューに書いてある奴、全部。腹減ってるから急いで頼む」


「あの、本気ですか……?」


「さっさと持って来い! 俺はグズが嫌いだ!」


「はい! ただいま! 店長! メニュー全部、大至急お願いします!」


 そして今に至る。3人組の女性客は凄い勢いで、出された料理を平らげていく。特に20歳ぐらいの紅い目の女性が凄い。食べるペースが全く落ちない。紅い目と長くて尖った耳からして人間ではないのは間違い無さそうだけど。


 その時、店長が私を呼んだ。


「何ですか、店長」


 すると店長は困った顔をしながら言った。


「マリーちゃん、ヤバいよ。食材が尽きちまったよ。悪いけど、あのお客さん達に今日はもう店じまいって伝えてくれよ」


「え~っ! そんな!」


 店の食材が尽きるなんて……。でも、尽きてしまったからには仕方ない。あのお客さん達にはお引き取り願おう。ただ、あの紅い目の人、怒らないかな。


 私は恐る恐る、紅い目の女性に話しかける。


「あの~、お客様。申し訳ありませんが、店の食材が尽きてしまったので、本日はもう店じまいです。なので、お勘定をお願いします」


 すると紅い目の女性は別段、怒りもせず、こう言った。


「そうか。じゃ仕方ないな。コウ、イサム、店を出るぞ」


 紅い目の女性は連れの2人に声をかける。そしてレジにて代金の支払い。ぶっちゃけ、凄い金額なんですけど、払えるのかしら? 食い逃げなんてシャレにならないんだけど。そんな私の心配をよそに、紅い目の女性は、宝石のぎっしり詰まった袋を出してきた。


「悪い、まだここに来たばかりで、持ち合わせがこんなのしか無い。釣りは要らない、取っといてくれ。後、美味かったよ」


 そう言うと、さっさと店から出て行ってしまった。ちなみにこの宝石、凄い値打ちで私と店長が腰を抜かす事になった。本当に何者かしら、あの人達。






 荒れた山道をバギーが走る。サトウが整備、管理しているバギーの調子は上々。バッテリーの魔力も満タンに入れてある。本当に良い仕事をするぜ、あいつは。


 バギーのハンドルを握る俺にワタナベが話しかける。


「団長」


「何だ?」


「盗賊団を襲った紅い目の女ですけど、やっぱり、エルフか魔族ですかね?」


 全く、このアホが……。


「ワタナベ、お前、養成学校で何聞いてたんだ? 少なくともエルフの線は薄いな。まずエルフは飛び道具を使った遠距離戦を得意とし、接近戦は苦手だ。それに、黒髪、白い肌、紅い目のエルフはいねぇ。ま、色を変えてる可能性もあるがな」


「じゃ、魔族ですかね?」


「そっちの線が濃いな。ま、今の時点じゃ何とも言えねぇ……おっと、ヤベぇ!」


 目の前の障害物を急ハンドルを切ってかわす。


「わわわっ! 団長、もっと丁寧に運転して下さいよ!」


「うるせぇ! 文句言うんじゃねぇ!」


 さて、そろそろ盗賊団のアジトの砦付近だ。ここからは慎重にいかねぇとな。






 俺達はバギーを砦から少し離れた場所に停め、そこからは自分の足で砦に向かう。二手に別れ、お互いに連絡を取りながら、徐々に砦に近付く。


(ワタナベ、聞こえるか?)


(はい、団長)


(見たか、砦の門。きれいに扉が無くなってやがる)


(はい、あの男の言った通りですね)


(ワタナベ、今から10、数えたら砦内に突入するぞ。準備は良いか?)


(はい、いけます!)


(じゃ、行くぞ。10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・突入!)


 俺とワタナベは身を潜めていた藪の中から飛び出すと砦内へと突入した。






「こいつは酷ぇな。地獄絵図とは、この事だな」


「うぷっ……」


 隣でワタナベが真っ青な顔をして、吐きかけている。まだ若造のこいつにはキツい光景だからな。


 突入した砦の中庭は見るも無残な光景だった。宴会の場であったらしい中庭は辺り一面、血みどろで、まともな死体なんて有りゃしねぇ。グチャグチャになった死体が、滅茶苦茶になった料理や食器、テーブルなんかと一緒にいくつも転がっていた。


 俺は水筒を出し、ワタナベに渡す。


「しっかりしろ、ワタナベ。このぐらいで吐いてたら、この先やってられねぇぞ」


「すみません、団長」


 青い顔をしながらも、ワタナベは俺から水筒を受け取り、水を飲む。さて、砦内を調べないとな。






「美味かったですね、あの店」


「さすがはマスター。的確に美味しい店を見付けられます」


「褒めても何も出ないからな」


 昼飯を済ませた俺達は、再び街道を歩く。目指すはこの国の首都。王都と呼ばれているらしいな。目的はいくつか有るが、事と次第によっては、極上のご馳走にありつける。


「しかし、ツクヨさん、本当に楽しそうな顔してますね」


「当たり前だろ、イサム。魔王だぞ魔王。それも極上のだ。最近、大した奴を喰ってないから、欲求不満が溜まってな」


「あれだけ食べて欲求不満なんですか?」


「それは仕方ありません、イサム。通常の食事では、マスターを満足させられませんから」


「困った身体ですね、ツクヨさんって。でも、お願いですから俺は喰わないで下さいね」


「安心しろ、イサム。お前は断じて喰わん」


「でも違う意味でよく『食べて』いますよね、マスター」


「コウ、外でそういう発言やめろって何回言えば分かる!」


「私は事実を言っただけです、マスター」


「本当に可愛くないな、お前。それでも俺の従者かよ」


「はい、その通りです」


「もういい……」






「プロも顔負けの手口だな、おい」


「本当にきれいさっぱり、持ち去っていますね、団長」


 俺とワタナベは手分けして砦内を調べた。その結果、金目の物が見事に、きれいさっぱり無くなっている事が分かった。奪ってきた金品を納めていたであろう倉庫はもぬけの殻。ついでに言うと、盗賊団の頭、コンゴウが持っていたはずのオリハルコンの大剣も無かった。上半身の無くなったコンゴウの死体は有ったけどな。ちなみにコンゴウは身長2メートルを超える大男だから、すぐに分かった。


 その時だった。


 ズルッ……


 何か妙な音がした。


 ズルッ…… ズルッ……


 まただ。それも今度は複数、しかもこちらに近付いてくる。俺の勘が「ヤバい!」と全力で告げる!


「あれ、何か変な音が聞こえますね、団長」


 このアホ! ヤバさに気付いてないのか!


「逃げるぞ、ワタナベ! ここはヤバい!」


「えっ、何言って……うわぁぁぁっ!」


 状況が分かっていなかったワタナベだが、通路の曲がり角から現れた奴を見て叫び声を上げる。


 そこには上半身の無くなった大男がいた。そう、紅い目の女に殺された盗賊団の頭、コンゴウの死体が。その後ろにも大勢の盗賊達の死体がいた。


「なんてこった! アンデッド化しやがった!」


「そんな、早過ぎます! 昨日の夜の話でしょう!」


 確かに死体がアンデッド化するには早過ぎる。後、数が多過ぎる。あまりに異常だ。だが何より、この状況はヤバ過ぎる!


 ズルッ…… ズルッ…… ズルッ……


 身体を引きずる不気味な音を立てて、盗賊団のゾンビ達がこちらに向かって来る。奴らは生者の生気を求めるからな。


「団長!」


「落ち着け、ワタナベ! 奴らは動きは鈍い!」


「はい!」


 ワタナベは剣を抜き、ゾンビ達を切り裂く。ワタナベは頭は悪いが武術の腕は確かだ。だが、このままではじり貧だ。仕方ない、奥の手を使おう。俺は懐から「それ」を取り出す。するとその時、またしても、俺の勘が「ヤバい!」と告げる。次の瞬間、辺り一面が炎に包まれた!


「団長!」


「ワタナベ!」






「どうした、コウ?」


「いえ、大した事ではありません、マスター。私が盗賊団の砦に仕掛けた焼却魔法が発動しました」


「ほう、設定した時間より早いな。確か、設定した時間になるか、侵入者が来ると発動するんだったな」


「はい、侵入者が2名いました」


「そいつらはどうなった? 死んだか?」


「いえ、脱出した様です。空間転移の発動をキャッチしました」


「そうか、分かった」


「あの、ツクヨさん。それって酷くないですか?」


「悪いがイサム、俺はそこまでお人好しじゃねぇ。それに俺の事を嗅ぎ回る奴らに対する見せしめの意味も有る」


「そういう事です。イサム、貴方はマスターが何者かよく知っているでしょう?」


「……そうでしたね」


「それじゃ、先を急ぐぞ」






「ふぅ~、さすがに死ぬかと思ったぜ……」


「俺はもうダメだと思いましたよ……」


 ここは盗賊団の砦から少し離れた場所。俺達の乗って来たバギーを隠した場所だ。


「しかし、団長。空間転移魔法が使えたんですね」


「アホ! 俺にそんな高度な魔法は使えねぇよ! 以前、バクチで、ある魔道師から使い捨ての空間転移の呪符を巻き上げたんだ。それ以来、もしもの時に備えて持ち歩いていたんだが、役に立ったぜ」


「バクチで巻き上げたって、酷いですね団長」


「うるせぇ! そのおかげで助かったんだろうが!」


 正に九死に一生だった。こんなヤバい事件は初めてだぜ。見れば、向こうで盗賊団の砦が紅蓮の炎に包まれていた。恐らくあの炎も襲撃者の女達の仕業だろう。全て焼き尽くし始末するってか。恐ろしい奴らだ。


「帰るぞ、ワタナベ。サトウが心配してるだろうからな」


「はい、団長!」


 俺とワタナベはバギーに乗り込み、ヘンキョー村へと帰るべく、発車させるのだった。


 しかし、本当に何者なんだ? 紅い目の女。






「待ってろよ魔王。事と次第によっては、俺が美味しく喰ってやるからな。この『邪神ツクヨ』がな」





今回も、かなり残酷な話にしてみました。(作者的に)


そして紅い瞳の女、ツクヨの正体、判明。


ではまた次回。

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