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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第25話 幻のゴールデンプリン その七

 古代の幻のスイーツ、ゴールデンプリンの最後の食材、朱雀の卵を求めての冒険も終盤。僕達は遂に朱雀の屋敷にたどり着いた。





 現在、朱雀の屋敷の門前。立派な和風の邸宅だよ。あ、ちゃんと「朱雀」と書かれた表札が掛かってる。


「立派なお屋敷ですね。流石は朱雀の屋敷」


「ふん、鳥のくせに生意気だよね。ま、とりあえず中に入ろうじゃないか」


「あの、ナナさん。その格好は失礼じゃないかと。安国さんはさらに問題ですし」


 僕はメイド服、クローネさんはスーツにネクタイだから、まだ良い。でもナナさんは、普段着の黒ジャージ。安国さんに至っては、サングラスにふんどし一丁。どう考えても問題だよね。


「細かい事を気にする子だね。別に良いじゃないか」


「細かい事じゃないですよ。これから朱雀に会うのに、失礼な格好で機嫌を損ねたらどうするんですか?」


「魔女の姐さんよ、俺からも頼むわ。せめて俺の服ぐらいは出してくれねぇか?」


「ほら、安国さんもこう言ってますし」


「そう言われてもね。私は男の服なんか持ってないし、作る気も無いよ」


 全く、ナナさんったら……。すると、クローネさんが助け船。


「仕方無い、安国の服は我が出そう。ちょうど良い服が有る」


「おっ、助かるぜ、男前の姐さん」


 安国さんにちょうど良い服か、何だろう?






「うむ、やはりぴったりだな」


「ふん、ハゲマッチョにはお似合いだね」


「まぁ、似合ってはいますけどね……」


 クローネさんの出した服を着た安国さんに対し、三者三様の感想。その服は、空手や柔道なんかで着られる白い胴着だった。こんな物、持ち歩いていたのかクローネさん。確かにマッチョな安国さんには似合っているけど、これで朱雀に会うの?いや、もう良いです……。


 それじゃ、朱雀の屋敷に入ろうかな。


「ごめんください! 朱雀さんはいらっしゃいますか? 僕達、訳会って貴女に面会をお願いしたいのですが!」


 とりあえず、門前で呼び掛けてみる。それから待つ事しばらく、門が開き、中から1人の女性が出てきた。見た目は20歳ぐらい。真っ赤な髪と瞳、白い肌。Tシャツ、短パンとラフな格好をしている。


「あらあら、ずいぶんと可愛らしいお客さんね。ようこそ、私の屋敷へ、私が朱雀よ。此処まで来る人は久しぶり、歓迎するわ」


 遂に四聖獣の一角、朱雀との初対面。






「とりあえず、お茶をどうぞ」


 朱雀は僕達、4人を客間に通し、紅茶を出してくれた。少なくとも僕達に対して敵意は持ってないらしい。僕達、此処に来るまでに、この島の魔物達を色々倒しているのに。


「それにしても大したものね。その若さで此処まで来るなんて。後、懐かしい顔もいるわね。三大魔女の内、2人もいるとはね。さて、御用向きは何かしら、お嬢ちゃん?」


 朱雀が僕達の此処に来た目的を聞いてきた。口調は穏やかだけど、視線は鋭い。


「あの、僕達は古代の幻のスイーツ、ゴールデンプリンを作りたいと思っていまして、その食材として、貴女の卵が必要なんです。お願いします、卵を譲って頂けませんか?」


 僕は朱雀に正直に話す。すると朱雀は愉快そうに笑った。


「アハハハハ! 変わった娘ねぇ。大抵は私を殺して名を上げようとか、力を奪おうとかいった奴ばかりなのに。良いわよ、卵を譲ってあげる。でも、タダでは譲れないわね」


「やはり代償が必要ですか。要求は何ですか?」


 予想はしていたけど、朱雀は卵を譲る為の条件を出してきた。


「そうねぇ……何か美味しい物が食べたいわね。貴女、メイドでしょ。料理ぐらいは出来るわよね。言っておくけど、半端な料理じゃ満足しないわよ」


 良かった。朱雀の要求は至って穏便なものだった。料理なら自信が有る。美味しい物を作って、朱雀に満足して貰おう。そこへ、安国さんが口を挟む。


「俺も手伝うぜ、嬢ちゃん」


「えっ、あんた料理出来るの?」


 朱雀が安国さんを見て、怪訝な顔をする。まぁ、見た目がアレだからね。


「悪かったな!」


「まぁまぁ、安国さん。大丈夫ですよ、安国さんは凄腕のパティシエです。必ず美味しい物を作ってくれますよ」


「へー、人は見かけによらないものね」


「それじゃ、料理を作り始めますね」


「分かったわ。期待してるわよ」


 さて、僕と安国さんの2人で料理開始!






「じゃ、僕が料理を作りますから、安国さんはデザートをお願いしますね」


「あぁ、任せとけ。嬢ちゃんもしっかりな」


「はい」


 僕と安国さんは2人でキッチンに向かう。うん、調理器具は揃っているね。食材、調味料も有る。ただ、この肉、鶏肉だよね。朱雀って鳥の長なのに良いのかな? まぁ、ツッコミはしないでおこう。それにしても何を作ろうかな? そうだな、オムライスにしよう。安国さんもデザートを作り始めている。何を作るんだろうね?






「よし、オムライス5人前完成」


 僕の前には出来立てのオムライスの乗ったお皿が5枚。うん、我ながら良く出来た。ちなみに僕のオムライスは薄焼き卵でチキンライスをくるむタイプ。最後にケチャップをかけて完成。見れば安国さんのデザートも完成していた。フルーツポンチか。


「お互い、完成しましたね」


「おぅ、旨そうなオムライスだな」


「安国さんのフルーツポンチも美味しそうですね」


「此処が南の島で良かったぜ。おかげさまで新鮮なフルーツをふんだんに使ったフルーツポンチを作れたぜ」


 そう、此処に来るまでに安国さんは色々、フルーツを採っていた。後で店で使うつもりだったんだって。


「それじゃ、持って行きましょうか」


「そうだな」






「皆さん、お待たせしました」


「ふーん、オムライスにフルーツポンチね。さて、私の舌を満足させられるかしら?」


 朱雀は挑発的な態度を取る。味には自信が有るけど、満足してくれるかな?


「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと食いな。せっかくハルカが作ってくれたのに冷めるだろう」


「ナナの言う通りだ。冷める前に頂こう」


「それもそうね。それじゃみんな席に着きなさい」


 朱雀に言われてみんな席に着く。そして朱雀が言う。


「いただきます」


 続けて僕達も言う。


「「「「いただきます」」」」


 はたして、結果は……






「お嬢ちゃん、貴女、天才ね! 合格よ! 大合格! 超合格!」


「喜んで貰えて良かったです」


「あ、ハゲ。あんたも合格ね」


「何だよ、この扱いの差はよ」


「気にするな、安国」


 結果はめでたく朱雀を満足させられました。朱雀は僕の作ったオムライスがとてもお気に召したらしく、絶賛してくれました。安国さんのフルーツポンチも合格を貰いました。


「いや~、本当に美味しいオムライスだったわ。それじゃ約束通り、卵を譲ってあげるわね。ただ、此処じゃ都合が悪いから、外に出るわよ。付いてらっしゃい」


 朱雀がそう言い、僕達は外に出た。






「今から元の姿に戻るわ。危ないから近付いちゃダメよ」


 朱雀はそう言って僕達から離れた。そして次の瞬間、朱雀の姿が炎につつまれたかと思うと、全身に紅蓮の炎を纏った巨大鳥が現れた。これが朱雀の真の姿か!


「さて、卵を産むかしらね。本当に久しぶりだわ。行くわよ! 1・2・3・ファイアー!!」


 ポンッ


 気合いの入った掛け声とは裏腹に、随分と気の抜けた音と共に卵が産まれた。何だろう、この妙な脱力感は……。


「ハルカ、気にしたら負けだよ」


「……はい、ナナさん」






「それじゃ僕達、これで失礼します。卵、ありがとうございました」


「こちらこそ、美味しいオムライスありがとうね。しかし、わざわざ歩いて来るなんて。三大魔女なら此処まで空間転移で一瞬でしょうに」


「えっ? 確かナナさんが、紅蓮島は朱雀の魔力が満ちているから空間転移は出来ないって」


 するとナナさんがクスクス笑う。


「何言ってるんだい、ハルカ。私は空間転移が出来ないなんて言ってないよ。面倒だとは言ったけどね」


「酷い! 騙したんですね!」


「騙してなんかいないさ。あんたが勝手に思い込んだだけさ。ハルカ、良く覚えときな。嘘じゃないけど、真実の全てでもない。そんな言い方で他人を誘導するやり方も有るって事」


「う~……」


 ナナさんの言い分は理解出来るけど、何か悔しいなぁ。まだまだ僕は未熟って事か。


「あ、そうだ。お嬢ちゃん、これをあげるわ」


 朱雀が僕に声を掛け、小さな赤い鈴をくれた。


「これは?」


「この私、朱雀に認められた証よ。持ってると色々便利よ」


「ありがとうございます、朱雀さん」


「どういたしまして」


「さて、そろそろ帰るよ。磯まで出て、白蛇に迎えに来て貰おう」


「空間転移は使わないんですね」


「面倒だからね」






 そして磯まで来た僕達。僕は海に向かって呼び掛ける。


「サッちゃ~ん! 朱雀の卵を貰えたよ! 迎えに来て~!」


 待つ事、しばらく。海の向こうから大きな影が近付いて来た。そして、大海蛇のサッちゃんが姿を現した。


「待っとったで。無事に朱雀の卵が手に入ったんやな。良かったわ。ほな、みんな乗りや、大急ぎで港町まで帰るで。みんな心配しとったさかいな」


「うん、分かった。それじゃお願いするね」


「よっしゃ、行くで!」


 帰って来た港町では、みんなが僕達の無事を自分の事の様に喜んでくれ、朱雀の卵と鈴を貰った事にとても驚いていた。そして僕達は港町の人達に別れを告げ、ナナさんの空間転移で王都へと帰ったのでした。






 現在、王都に有る、安国さんのお店。いよいよ、安国さんがゴールデンプリンを作り始める。


「今回はありがとうな。おかげさまで、ゴールデンプリンの食材が全て揃った。腕に依りを掛けて作るから楽しみにしててくれ」


「期待してますよ、安国さん」


「頼むぞ、安国」


「失敗するんじゃないよ」


「嫌な事言うなよ、姐さん。じゃ、作ってくるぜ」


 そう言って、安国さんは厨房へと向かった。






 それから待ち続ける僕達。


「まだかな~、まだかな~」


「うむ、実に待ち遠しいな」


「あんた達、本当に甘党だねぇ」


 そう話していた、その時!


「どわ~っ! 大変だ! 姐さん達、来てくれ!」


 突然の安国さんの声。おまけに何だか焦げ臭い。


「行くよ!」


「はい!」


「うむ!」


 厨房に飛び込んだ僕達3人の目に入ったのは、金色の炎を噴き出して燃え盛る何か。大変だ、このままじゃ火事になる! 僕が魔法で氷水を降り注がせるも、全然消えない。


「そんな、消えないなんて!」


「私に任せな!」


 ナナさんがそう言うと、結界で燃え盛る何かを封印した。良かった、これで一安心。でも、あれは何かな?。






「ふぅ、助かったぜ、危うく店が焼けちまう所だったぜ」


「一体、何があったんだい?」


「いやな、ゴールデンプリンが出来上がったんで、取り出したんだ。すると、金色に光り始めたかと思ったら急に燃え出したんだ。水を掛けても消えねぇし、マジで焦ったぜ」


 ええっ! あれがゴールデンプリン! 話を聞いて驚く僕。あんなの食べられないよ。するとクローネさんがこう言った。


「安国、確かお前はゴールデンプリンのレシピ帳のページの一部がちぎり取られていたと言っていたな」


「あぁ、形や味に関するページが無かったんだ」


 そういえば、そんな事を安国さんが話していたっけ。


「これは我の推測だが、もしやゴールデンプリンとは失敗作だったのではないか? その事を隠蔽する為に何者かがページをちぎり取ったのではないか?」


「有り得るね。最高の食材を追求するあまり、大失敗しちまったと」


「そんな、せっかく朱雀の卵を貰ってきたのに……」


「古代の幻のスイーツの正体は失敗作だったってか……」


 僕も安国さんもあんまりなオチにがっかり……。


 その時、厨房のテーブルの上で何かが光った。


「おいおい、今度は何だよ!?」


 驚く安国さん。すると、半透明の見知らぬおじさんが現れた。ちなみに光ったのは1冊の本。


「ゴールデンプリンの作り方の載っているレシピ帳じゃねぇか。って事はこいつ、もしやレシピ帳を書いた古代王国のシェフか?」


「多分そうだね。こいつは魔力による立体映像さ」


「何故、出てきたんでしょう?」


「さて、それは分からん」


 みんなで話していると、古代王国のシェフの立体映像は話し始めた。


『何処の誰かは知らんが、どうやらゴールデンプリンを完成させたらしいな。見事だ』


「何が見事だ、ふざけんな!」


「落ち着いて、安国さん。相手は立体映像です」


 怒る安国さんを僕がなだめ、立体映像はさらに話を続ける。


『作った以上、分かっただろうが、ゴールデンプリンは失敗作だ。だが、あえて中途半端にレシピ帳に記した。いつかゴールデンプリンを作れる腕と覚悟が有る者が現れると信じて。そしてゴールデンプリンを完成させたお前に言おう。他人のレシピに頼るな。真の料理人ならば、自分の手で新たなるレシピを編み出すのだ。お前なら出来るはずだ。これからも、さらなる高みを目指し、精進するのだ!』


 そう言うと立体映像は消えてしまった。


「う~ん、良い事言ってはいたけどね」


「やはり、ゴールデンプリンは失敗作だったのか」


「何か、良い事言って、自分の失敗をごまかしてる気がしますね」


「やれやれ、本当に酷いオチだな、おい」






「それで、どうします、これ?」


 ナナさんの結界で封印されている、燃え盛るゴールデンプリン。とてもじゃないけど食べられない。


「こんな物、処分するしか無いね」


「危険極まりないしな」


「やっぱり、そうですよね」


 ゴールデンプリンは処分という事で話が付こうとしたその時、安国さんが待ったを掛けた。


「ちょっと待ってくれ。姐さん、あんたに頼みが有る」


「何だい、ハゲ?」


「実はな……」






 その後、スイーツヤスクニは毎日、大繁盛。店の前にはいつも長蛇の列。特に人気なのは、一日の個数限定のシュークリーム。今や、王都で一番人気のスイーツ。先日、雑誌で取り上げられ、ネットでも話題沸騰。近々、テレビ取材も来るとか。美味しさの秘密は、安国さんの腕と、ナナさんの造った特製オーブン。


「やっぱり姐さんに頼んで正解だったぜ。本当に良いオーブンだぜ」


「良かったですね、安国さん。ゴールデンプリンも無駄にならずに済みましたし」


 そう、このオーブンの火力の源はゴールデンプリン。安国さんがナナさんに頼んで、ゴールデンプリンを組み込んだオーブンを造って貰ったんだ。あれだけの火力を無駄にするのはもったいないって。


 ちなみに僕は、限定シュークリームを買いに来た。わざわざ安国さんが僕の分を別に作ってくれていたんだ。


「ほらよ、これが嬢ちゃんの分だ」


「ありがとうございます、安国さん」


 僕は安国さんに代金を支払い、限定シュークリームの入ったケースを受け取る。


「それじゃ、また。失礼します」


「おぅ、また来いよ!」


 さて、ミルフィーユさんの家に持って行こう。今回の冒険に置いていかれた事を怒っていたからね。これで許して貰おう。


 限定シュークリームの入ったケースを手に、スイーツブルグ家に向かう僕でした。





長かったゴールデンプリン編、やっと完結。古代の幻のスイーツ、ゴールデンプリンの正体は失敗作というオチは前々から考えていました。


ゴールデンプリンは幻のスイーツと書きましたが、美味とは書いていません。作中でナナさんが言いましたが、嘘ではないが、真実の全てでもない。要は引っ掛けです。これがやりたかった。


さて、次回から新展開。また新キャラクターが登場します。

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