第24話 幻のゴールデンプリン その六
「ほら、ハルカ。あんたも手伝いな。コカトリスの肉は高級食材だからね」
「分かりました。これだけ有れば、しばらくは鶏肉には困りませんね」
「我は唐揚げを食べたいぞ。良く冷えたビールを飲みながらな」
「俺は焼鳥だな」
クローネや安国のハゲが、それぞれ食べたい料理を言う。私は照り焼きが食べたいね。ま、ハルカなら何を作っても旨いけど。
しかし、このコカトリス達も運が無かったね。私達を襲うとは。おかげさまで高級食材ゲット。
コカトリスの解体を済ませた私達は、いよいよ紅蓮島の奥地へ出発。目指すは島の中央に有る、火山の火口。此処に紅蓮島の主、朱雀が棲んでいる。ぶっちゃけ、空間転移を使えばすぐなんだけど、それじゃハルカの修行にならないしね。さて、氷魔法及び、愛用の小太刀無しで何処までやれるか見させてもらうよ、ハルカ。
「それにしても、本当に鳥と火系の魔物ばっかりだな、この島は」
「全く同感です」
火山の火口を目指して出発したものの、次々と魔物が襲って来る。それも鳥系、火系ばかり。ま、知ってたけどね。紅蓮島の主、朱雀は鳥系の頂点にして、火の精霊王。故に、紅蓮島は鳥系、火系の魔物の楽園なのさ。そして私達は楽園への不法侵入者だからね、当然攻撃される。おや、今度はルフ(巨大鳥)か。それも複数。
「何か凄く大きいのが来ましたよ!」
「やれやれ、鳥系なら何でも有りかよ。よっこらせっと、うぉらぁ!」
安国のハゲが大岩を持ち上げ、ぶん投げる。
ハルカは苦戦。クナイじゃ、ルフに致命傷は無理が有るね。
「助けないのか、ナナ。いくらハルカといえども、魔法も愛用の小太刀も無しでルフの相手は苦しいぞ」
「クローネ、これは修行なんだよ。魔法や強力な武器に頼らず切り抜けるというね」
「全く、普段は激甘なくせに、修行は容赦無いな」
「あの子は、計り知れない才能の持ち主だからね。徹底的に磨き上げて、どんな輝きを放つか見てみたいんだよ」
「ハルカも大変な師匠を持ったな……ちっ、こちらにも来た!」
クローネの言う通り、ルフ2羽がこちらに向かって来た。身の程を知らないね。私の無詠唱魔法で2羽まとめて真っ二つ。これぞ私の得意とする空間を自在に操る次元魔法の1つ「次元斬」。空間そのものを切断するので基本的に防御不可能。どんな物も空間内に存在するという事実からは逃れられないからね。逃れるには最低、私と互角の次元魔法の使い手でなければね。
「助けないのではなかったのか? ナナ」
「助けた訳じゃないさ。単に、私を襲おうとしたバカ鳥を殺しただけさ」
「なるほどな。では我も我に刃向かうバカ鳥を殺すとしよう。しかし、素直ではないな」
そう言って笑うクローネ。ふん! 大きなお世話だよ。
結果は、大部分はハゲが岩や木を投げつけて撃破。後、私とクローネが自分に向かって来る奴のみ撃破。だが、ハルカは結局、1羽も倒せず、かなり落ち込んでいる。少しは自分の未熟さが分かった様だね。
「情けない顔するんじゃないよ。まだまだ先は長いんだよ。落ち込む暇なんか無いよ」
「でも、僕、全然役に立てなかったですし」
「それだけ、あんたが未熟って事さ。今まであんたは、恵まれ過ぎていた。強大な魔力や強力な武器といった具合にね。故にそれらを使えないと、まるでダメ。そんなんじゃ、いつか殺られるよ。嫌なら、もっと腕を上げな」
「……分かりました。僕、まだまだ未熟ですね」
「当たり前だろ、まだ17歳の小娘なんだから。私から見れば、本当に未熟者のヒヨッコさ。そういえば、あんたヒヨコ好きだよね」
「良いでしょう、別に!」
ありゃ、怒った。でも、落ち込むのは、やめた様だね。良かった。
「取り込み中、悪いが新手だぜ!」
またかい、今度は鴆(チン、猛毒を持つ)か。
「ハルカ、気を付けな! 鴆は猛毒鳥だ。触ったら、あの世行きだよ!」
「はい!」
気合いの入った返事をするハルカ。小石を拾って、鴆に投げつける。私の弟子だけに十分、人を殺せる威力が有る。巨大鳥のルフには通用しないけど、普通サイズの鴆なら大丈夫。ハゲは適当なサイズの木を引っこ抜いて、振り回しているね。さて、後で鴆の死骸も回収っと。鴆毒は無色無味無臭の便利な毒だからね。
その後も、何だかんだと襲撃を受けたものの、火山のふもとまでやって来た。だが、いい加減、日が暮れて来たので、野宿となった。
「よし、今夜は此処で野宿にするよ。ほら、みんな下がってな」
私が指を鳴らすとコテージが現れる。私はか弱い乙女だからね。テントなんかじゃ嫌なんだよ。何だいハルカ、その微妙な顔。
「相変わらず、無茶苦茶しますね」
「ふん! 私はデリケートな乙女なんだ。テントなんか御免だね」
「……もう良いです。何か疲れました」
「デリケートって言葉の意味、分かってんのか?あの姐さん」
「ナナは昔からあんな奴だ」
うるさいよ、ハゲとクローネ。
キッチンから、揚げ物の香ばしい匂いが漂って来る。私達が仕留めた、コカトリスの肉の唐揚げをハルカが作っているのさ。どうやって食べるか、私、クローネ、ハゲで揉めた末、ジャンケンで決める事になり、クローネが勝って唐揚げに決まった。それから待つ事しばらく。
「夕ご飯が出来ましたよ!」
ハルカの声。さて、行くかね。クローネとハゲもキッチンに集まる。テーブルの上には大盛りの唐揚げを乗せた大皿。その他色々。
「今回は随分、大盛りだね」
「コカトリスの肉がたくさん有りますし、良く食べそうな人達が揃ってますしね」
「ま、確かにね」
「では、さっそく頂こうではないか。ハルカ特製、コカトリスの唐揚げ。さぞかし旨かろう」
「俺はメイドの嬢ちゃんの飯を食うのは初めてだが、姐さん達から散々、旨いと聞かされたし、楽しみだぜ」
「口に合うと良いんですけど」
「何言ってるんだい、あんたの作る飯はいつも最高さ。自信持ちな」
「ありがとうございます。それじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
ハルカが最初に「いただきます」を言い、私達もそれに続く。ちなみにハルカ、この手の礼儀作法には、かなりうるさかったりする。
夕食も終わり、今は入浴中。私、ハルカ、クローネの3人で入っている。本当はハルカと2人で入りたかったんだけどね、ハルカがクローネを誘ったんだよ。セクハラ対策と言ってね。全く、可愛いげが無いね。で、3人揃って湯船の中。やはり風呂は良いもんだね。その時、外からハゲの声。
「チクショー! 何で俺だけ外なんだよ!」
そう、安国のハゲは外でドラム缶風呂。私は男に風呂を使わせる気は無いよ。
「あの、ナナさん。あれはちょっと酷いんじゃ」
「大丈夫だよ、あいつなら。それとも何? あんた、あいつと一緒に風呂に入りたいのかい?」
「そういう訳じゃないですけど。でも、クローネさんはそうしたかったみたいですね」
「そうみたいだね」
クローネが何か全身から怖いオーラを放っていたよ。あんた、そんなにマッチョ好きかい。私には理解不能だね。私はハルカが一番。
翌朝。ハルカの作った朝食を食べて、火山の頂上、火口を目指して出発。火山だけに火系の魔物がやたら出る。現在、ファイアバードと交戦中。あ、ハゲがファイアバードの吐き出した炎の直撃を食らった。
「安国さん!」
「安国!」
ハルカとクローネが叫ぶ。あ~ぁ、死んだね……ん?
「なめんじゃねぇぇぇっ!」
おいおい、あいつ本当に人間かい? 気合いで炎を弾き飛ばした。
「死ねや、クソ鳥がぁぁぁっ!」
そこから跳躍して、ファイアバードの所まで行き、ぶん殴ったよ。ファイアバードはその名の通り、全身に炎を纏う鳥だ。それを素手で殴り殺すとは、本当に無茶苦茶な奴だね。
「まったく、服が台無しだぜ」
安国のハゲは、服は燃えて無くなってしまい、ふんどし一丁。ちなみにこのふんどし、仙人の特製だってさ。しかし、火傷一つ負わないとはね。大したもんだよ。後、クローネがハゲの身体を見て、やたら興奮してるね。ハルカは気まずそうな顔。私は男の服を作る気は無いし、当分、ふんどし一丁で過ごして貰うかね。南国だから風邪は引かないだろう。
さらに、火山を登る私達。魔物の襲撃を蹴散らしながら、ついに、火山の頂上、火口へとたどり着いた。そして火口の付近に建つ一軒の屋敷。そう、紅蓮島の主、朱雀の屋敷だ。
「ハルカ、ハゲ、ついに来たよ。あそこが朱雀の屋敷さ」
「あそこに朱雀がいるんですね……」
「鳥のくせに屋敷に住んでるのかよ」
「四聖獣は普段は人型の姿をしているのだ。本来の姿になる事は稀だな」
クローネが説明。そこへ私が続ける。
「何故なら、人型でも十分強いからさ。あいつらが本来の姿になる時は、本気を出す時なんかだね」
「怒らせない方が良いですね……」
「そうだな」
ハルカと安国のハゲ、ビビっちまったね。情けないね。
「ほら、ビビってんじゃないよ。ハルカ、あんたゴールデンプリン、食べたくないのかい? ハゲ、あんたもゴールデンプリン、作るんだろう? だったら、気合い入れな!」
「そうでしたね。ありがとうございます、ナナさん」
「姐さんの言う通りだ。やってやるぜ!」
「よし、それじゃ、朱雀の屋敷へ行くよ!」
さて、いよいよ朱雀とご対面。どうなるかね?
長々と続いたゴールデンプリン編ですが、いよいよ終盤です。さて、どうなる事か?