第23話 幻のゴールデンプリン その五
どこまでも広がる南国特有の青い海。澄みきった青い空。我等、4人は四聖獣の一角、南方の守護者、朱雀の住まう紅蓮島を目指し海を渡っている。ただし、乗っているのは船ではなく、巨大な白蛇だが。
我が名はクローネ。伝説の三大魔女の1人にして「死者の女王」の異名を取る者。今回は古代の幻のスイーツ、ゴールデンプリンの食材、朱雀の卵を入手すべく、同じ三大魔女の1人「名無しの魔女」ことナナ、その弟子にしてメイドのハルカ、パティシエの安国と共に、南方へと来た。
着いた先の港町で、大海蛇出現による騒ぎが有ったものの、ハルカの活躍により、無事解決。そして今に至る。しかし、大した娘だハルカは。今もランクAAAの魔物である白い大海蛇(サザナミと言うらしい)と話をしている。並みの人間なら、悲鳴を上げて逃げ出す所だ。我等、三大魔女と対面した時も恐れなかったし、やはり、異界より来た転生者故、先入観が無いのだろう。
「ねぇ、聞きたいんだけど、どうしてサッちゃんは喋れるの? 黒い大海蛇は喋らなかったのに」
「あ~、それはな。昔、1人の人間のおっちゃんと知り合ってな。そのおっちゃんから人間の言葉を教えて貰たんや。そのおっちゃん、オーサカから来た言うてたな」
「ちょっとサッちゃん、その人、異界人だったんじゃ?」
「そうらしいな~、おっちゃんもこんな場所、見た事無い言うてたわ」
「それで、その人は今は?」
「残念やけど、とっくに死んだわ。今から100年程前の話やからな」
「そうなんだ、ごめんねサッちゃん」
「別に謝らんでもエエよ。そんな事より、ハルカちゃん、紅蓮島が見えて来たで」
白い大海蛇のサザナミが言う様に、今回の目的地、紅蓮島が見えて来た。ちなみに今回の目的は2つ。1つは朱雀の卵の入手。もう1つはハルカの修行。随分と腕を上げたハルカだが、紅蓮島では面食らう事だろう。ナナもあえてハルカに紅蓮島について詳しい事を話していない。厳しいがこれも、ハルカの為だ。見事、この試練乗り越えてみせろ。
「ありがとう、サッちゃん」
「別に構へんよ。ほな、気ぃ付けてな。帰る時はまた呼んでや」
砂浜だと身体が乗り上げてしまうという事で、我等は紅蓮島の磯に上陸した。ハルカがサザナミに礼を言い、サザナミは帰って行った。さて、朱雀の卵を入手すべく、朱雀の住処に向かわねばな。だが、その前にやるべき事が有る。我等は場所を移動し、砂浜にたどり着いた。
「ナナさん、何故砂浜に来るんですか? 紅蓮島に来たんですから早く朱雀の住処に行かないと」
ハルカがナナに意見する。それに対してナナが答える。
「ちょっと、あんたに知って貰いたい事が有ってね。此処なら余計な物が無いしちょうど良い。ハルカ、何か適当に氷魔法を使ってみな」
「えっ? 分かりました。それじゃ……あれ?」
ハルカが不思議そうな顔をする。氷魔法が発動しない事に戸惑っているな。ナナもニヤニヤ笑いを浮かべている。
「あの、ナナさん何かしました? 僕の氷魔法が発動しないんですけど」
「私は何もしてないよ。クローネもね。これが紅蓮島の厄介な所さ。言ったよね、紅蓮島は朱雀の魔力に満ちているって」
「はい、そのせいで空間転移を邪魔されると」
「その他にもね、朱雀と逆属性の魔力が抑え込まれるのさ。火の朱雀と逆の水系の魔力がね。そして、あんたの氷の魔力も水系に属する。つまり、この紅蓮島ではあんたは氷魔法を使えないのさ」
「そんな! 困りますよ、氷魔法が使えないなんて!」
抗議するハルカに対してナナが叱り付ける。
「甘ったれるんじゃないよ! 実戦は甘くない、いつも魔法が使えるなんて保証は無いんだよ! 今回は魔法無しで切り抜ける事。良いね!」
「……分かりました」
うなだれるハルカ。気の毒だが、ナナの言う通り。実戦は甘くない。そこへナナは更なる追い討ちを掛ける。
「あぁ、それとあんたの『氷姫・雪姫』も没収するよ」
「う~、今回は本当に厳しいですね……」
ナナはハルカの武器も没収する。ハルカがナナの弟子となって半年、更に厳しい指導をする様になったな。
「魔女の姐さん、容赦ねぇな」
安国がナナの厳しさに驚いている。
「愛の鞭と言う奴だ。ハルカが優秀であるからこそ、ナナも厳しく指導している。そうでなければ、元より弟子にしない」
「メイドの嬢ちゃんを溺愛しまくるだけじゃなかったんだな。締める所はきっちり締めるってか」
「さて、現状の私達の戦力について確認しようか。まず、私とクローネは問題無し。ハルカは魔法禁止、武器も没収だけど自力で何とかしな。ところでハゲ、あんた魔法は使えるのかい?」
ナナが安国に尋ね、安国が答える。
「俺か? 魔法は一切使えねぇ」
「ま、そんな事だろうと思ったよ」
「よく、それで今までやってこられましたね」
ハルカも驚くやら、呆れるやら。
「まぁ、良いじゃねぇか。こうして生きてるんだからよ。それよりも、来たぜ!」
安国の言う通り、紅蓮島の手荒い歓迎が来た。さて、ハルカのお手並み拝見と行くか。
現れたのはコカトリス4羽。見た目は全身灰色の全長1メートル程のニワトリの様な姿だが、石化の魔力を持つ恐ろしい魔物だ。まぁ、我やナナからすればただのニワトリ同然だが、今のハルカや安国だとどうなるか?
「ふん! ニワトリ風情が調子に乗るんじゃないよ!」
ナナが魔水晶のナイフを一閃、コカトリスの首を切り裂く。傷から噴水の如く鮮血を吹き出し、コカトリスは倒れる。まずは1羽。
続けて我だ。コカトリスの吹き出す石化ガスをフットワークで避け、懐に入り、拳の一撃で頭を粉砕。鮮血の噴水の2つ目を作る。我とナナならば、コカトリス程度、魔法は不要。
さて、ハルカだが流石にナナの弟子。高機動力を活かし、コカトリスを翻弄。おっ、袖口に隠していたクナイでコカトリスの首を切り裂いた。やはり師弟だけに戦い方も似ているな。
最後は安国だが……、無茶苦茶なやり方だな。近くに有った大岩を持ち上げるとコカトリスめがけて投げつけた。唸りを上げて飛来した大岩の直撃を受けて、コカトリスはミンチと化した。かくして、コカトリス4羽はあっけなく全滅。だが、安国のあの怪力、単なる馬鹿力ではないな。
「ふん、ま、コカトリス程度は余裕で殺れなきゃね。しかし、ハルカ。あんたクナイなんか隠し持っていたのかい?」
「良いでしょう、別に。隠し武器ぐらい、戦術の内です」
「まぁ、良いさ。ところでハゲ、あんたのあの馬鹿力、ただの筋力じゃないね。あんた、仙術の使い手だね」
すると安国は悪びれもせず言う。
「あ~、その通り。俺は仙術の心得が有る。おかげで常人を超えた身体能力を発揮出来る」
するとハルカが安国に質問した。
「あの、安国さん。魔法は使えないって言いましたよね。仙術と魔法ってどう違うんですか? 後、何処で仙術を覚えたんですか?」
ふむ、我も安国が何処で仙術を会得したか気になるな。
「魔法と仙術の違いなら私が説明してやるよ」
ナナが説明を始めた。
「ぶっちゃけ、魔法と仙術の違いは力の源。 魔法は魔力、仙術は気を力の源とする。魔力は世界にあまねく存在する神秘の力。対して気は生命エネルギー。これまた世界に満ちる大きな力さ。ちなみに西洋は魔法、東洋は仙術が発展しているんだ」
そこへ安国が続ける。
「以前話したよな。俺がこの世界に来た時、牧場の干し草の山に落ちて助かったと。実はその牧場の主人が本物の仙人だったんだ。異世界に来たばかりで右も左も分からなかった俺はその仙人の元でこき使われつつ、仙術の修行を積んだのさ」
「それで、あんな怪力を発揮出来るんですね」
「そうだ。俺は難しい仙術は分からなかったから、身体能力強化一本に絞った」
ふむ、身体能力強化のみとはいえ、安国の仙術はかなりの物だ。これは予想外だったな。今回の旅は思ったより、面白い事になりそうだな。
「さて、お喋りはこれぐらいにして、そろそろ出発するよ。目指すは向こうに見える火山の頂上。そこに朱雀は棲んでいる。ハルカ、気合い入れて行くんだよ。今回、私もクローネもあんたを助けないからね」
「はい、分かりました。頑張ります!」
うむ、実に良い返事だ。本当にハルカは良い娘だ。
「気合い入ってるな、メイドの嬢ちゃん。こりゃ、俺も負けられねぇな」
安国もやる気を見せる。では、行くか。朱雀の棲む火山の頂上へ!
二〇一二年、最後の投稿。今回は三大魔女の一人クローネ視点の話でした。まだまだゴールデンプリン編は続きます。さて、どうなる事やら。