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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第22話 幻のゴールデンプリン その四

 青い大海原を白い大海蛇が僕を頭の上に乗せ、長い身体をくねらせて泳いでいる。スピードはかなりの物で周りの景色がどんどん後ろに流れて行く。速い泳ぎ方には見えないのにね。


 しかし、本当に前世では考えられなかった事だね。大海蛇の頭の上に乗って海を渡るなんて。正にファンタジー。






「嬢ちゃん、今回はホンマ助かったわ。おおきに。そういうたら、嬢ちゃんの名前聞いてへんかったわ。名前何て言うん?」


 大海蛇の頭の上に乗って港町に帰る途中、大海蛇が僕の名前を聞いてきた。そういえば、まだ名乗っていなかった。


「僕の名前はハルカ・アマノガワって言うんだ」


「そうか~、ハルカちゃんか~。ワイはサザナミって言うんや、サッちゃんて呼んでや~」


「あ、ちゃんと名前が有るんだ。まぁ黒い方もクロシオって名前が有ったし。でもサッちゃんって女の子みたいな呼び方だね」


 すると白い大海蛇はご機嫌ナナメ。


「失礼やな~、ワイはれっきとした女やで」


「えっ、そうなの!? ごめんね、分からなくって」


 いや~、言葉遣いから、てっきり雄だと思ってたよ。これはサッちゃんに失礼な事をしてしまった。


「まぁエエわ、人間にワイら大海蛇の性別なんて分からんわな。おっ、ハルカちゃん、港町が見えて来たで」


「本当だ、早く帰ろう。みんな待ってるしね」


「よっしゃ、スピードアップや!」


 サッちゃんは更に泳ぐ速度を上げ、僕達は無事、港町に到着したのでした。






 サッちゃんは身体が大きい事もあり、港へと入った。港では既に大勢の人だかりが出来ていた。みんな白い大海蛇のサッちゃんを見て驚いているけど、恐れていたパニックは無かった。既に漁協長さんから港町の人達に話が伝わっているらしい。良かった。


「うわ~、おっきいな~」


「すげ~、かっこいい~!」


「アタシもあのおねえちゃんみたいにのりたい!」


 子供達が僕とサッちゃんを見て騒いでいる。子供達からすればこんな間近で大きな魔物を見るなんてまず無いしね。さて、そろそろ降りなきゃ。それに、大事な用事がまだ残っているし。そう、大海蛇のサッちゃんと港町との平和協定締結が。






「ありがとうサッちゃん、僕はもう降りるね」


「わかった。気ぃ付けて降りや」


「うん」


 そう言って僕はサッちゃんの頭の上から飛び降り、着地。港で待っていたナナさん達と合流。


「ただいま、ナナさん」


「おかえり。早速で悪いけど、白蛇と港町との契約をさっさと済ませるよ。それが済んだら夕方から記念の宴会だとさ」


 宴会か、楽しみだな。でも、サッちゃんと港町との契約ってどうやって交わすのかな? サッちゃんは大きいし、手が無いしね。まぁ、ナナさんが何とかしてくれるかな。


「ナナさん、契約を交わすにしても、白蛇のサッちゃんは大き過ぎますし、手が無いですよ。ナナさんが何とかしてくれますか?」


「それぐらいなら、容易い事さ」


 その時、サッちゃんがこう言った。


「それなら、心配無用や。ワイは変化の術が使えるさかいな。まぁ、見ときや。よっと!」


 ボン!


 サッちゃんの掛け声と共に、軽い爆発音と白い煙が起こり巨体を包み込む。そして白煙の中から何かが飛び出し、僕達の目の前に着地した。






「よっしゃ! 10点満点!」


 見事な着地をした少女はそう言ってポーズを決めた。


 そう、僕達の目の前には1人の少女の姿が有った。見た目の年齢は僕と同じぐらい、16~17歳といったところかな。青い長髪、青い瞳、白い肌の美少女だった。それだけなら特に問題は無かったんだけどね……。


 全裸だったんだよね、その子……。


 おかげさまで、周りの人達は大騒ぎ! 男の人達は見とれるわ、女の人達はそんな男の人達に怒るわ。


「何、見とれてるのよ! 最低!」


 バチィィィン!


 あ、若いカップルの女性が男性を思いっきりビンタした。


「何処見てるんだい? 父ちゃん?」


 ギリギリギリギリッ


「ギャアァアアア! 許してくれ母ちゃん!」


 あ、僕に小舟を貸してくれた漁師のおじさんが奥さんに顔面にアイアンクローを極められてる。


「お爺さん、ちょっと向こうでお話ししましょうか?」


「ちょっと待て、婆さん、殺気が凄いから!」


「ほほほ、何の事かしら?」


 ズルズル……


「誰かーっ! 助けてくれーっ!」


 哀れ、漁協長さんが奥さんに引きずられていった。他にもあちこちで惨劇が。ごめんなさい、皆さん。僕、フォロー無理です。


「あれ? ワイ何か悪い事してもうた?」


「サッちゃん、とりあえず服を着ようか? ナナさんも涎を垂らさない!」


「ごめんなさい!」


 全くもう! 僕という者がありながら……って、何考えてるんだ、僕は! でも、ナナさんが他の女性に気を取られるのは、やはり不愉快。


「何か、えらい騒ぎになっちまったな」


「やれやれ、騒ぎが落ち着くまでしばらく待つか」


 冷静な安国さんとクローネさんでした。






 しばらくして、ようやく騒ぎも収まり、大海蛇のサッちゃんと港町との間で平和協定が無事、結ばれた。ちなみに漁協長さんが港町を代表して契約を交わした。例え、漁協長さんが亡くなっても、この港町が有る限り契約は有効との事。


「今回は助かったぜ、ありがとうな、お嬢ちゃん」


 小舟を貸してくれた漁師のおじさんが僕に話し掛けてきた。あっ、忘れてた。僕、おじさんに謝らなきゃ!


「いえ、どういたしまして。それより、おじさん、ごめんなさい! 貸して貰った小舟、黒蛇に壊されちゃって。弁償しますから」


 それを聞いておじさんは笑う。


「ワハハ! 気にすんな、お嬢ちゃん。安物の小舟だ。それにお嬢ちゃんのおかげで騒ぎが解決したんだからな!」


「そうですか? ありがとうございます」


 おじさんは許してくれたけど、やっぱり何かお詫びがしたい……、そうだ!






「ねぇ、ナナさん。僕の退治した黒い大海蛇ですけど、港町の人達と山分けにしませんか? あんなに大きな物、僕達には過ぎた代物ですし、僕、借りた小舟を壊されちゃったんで弁償も兼ねて。大体、ナナさん生活には困ってないでしょう?」


 僕がそう言うと、ナナさんは呆れ顔をする。


「全く、あんたは真面目と言うか、お人好しと言うか。ま、そこがあんたの良い所だけどね。良いだろう、あんたが仕留めたんだ、好きにしな」


 よし、ナナさんの了解を取れた。


「それじゃ、私から漁協長の爺さんに話しておくよ。全く、ラッキーな連中だよ……」






「話は伺いました。大海蛇をそちらと山分けにして頂けると。無料で退治して頂いた上に、なんとありがたい事か。港町を代表してお礼申し上げます」


「気にしないで下さい、大き過ぎて僕達には手に余りますから。それに僕、漁師のおじさんに貸して貰った小舟を黒蛇に壊されちゃって、そのお詫びも兼ねて」


「本当に優しいお嬢さんですな、貴女は……」


「さあ、爺さん。黒蛇を異空間から出すから、出しても良い場所に案内を頼むよ」


「分かりました、付いて来て下され」


 かくして僕達は漁協長さんに案内されて、港町で一番広い施設へ向かった。






「此処です。特大サイズの獲物の解体を行う場所です。呼んだので、すぐに職人達も来ますぞ」


「そうかい、それじゃ出すよ」


 次の瞬間、目の前に黒い大海蛇の巨体が現れた。漁協長さんもびっくりしてる。


「これは……、なんという大物か……」


 やって来た職人さん達もみんなびっくり。でも、すぐに解体作業に入る辺りは流石にプロだね。


「ハルカ、あんたは先に帰ってな。私はこちらの取り分について話をするから」


「分かりました。ただし、あまり酷い事を言わないであげて下さいね」


「はいはい、本当にお人好しだね、あんたは」






 夕方、港町は大変な賑わいに包まれた。町中、飲めや、歌えやの大騒ぎ。事情を知らない他所から来た人達もびっくりしながらも、参加している。


 これほどの大物が仕留められたのは、久しぶりの上に、黒い大海蛇1匹で、大変な利益が港町にもたらされるとあって、みんな笑顔だ。


 急遽、作られた即席の宴会場では、港町の奥さん達、総出で料理を作ってみんなに振る舞っている。一番の目玉は僕の退治した黒い大海蛇の肉を使った料理。美味しそうな匂いが漂ってくる。


「ハルカ、大海蛇の肉の串焼きを持って来てやったよ。熱い内に食べな」


 ナナさんが大皿に山盛りの肉の串焼きを持って来た。相変わらず遠慮の無い人だなぁ。でも、美味しそう。


「美味しそうですね、1本頂きます」


 僕が串焼きを1本貰おうとした時。


「ちょっと待ちなさい。貴女の様な若い子に大海蛇の肉は強すぎるわ。こっちにしなさい」


 1人のお婆さんに止められた。あっ、この人、漁協長さんの奥さんだ。お婆さんは僕にスープとパンを渡す。


「大海蛇の肉はね、非常に強力な強精食なの。ほら、見なさい。夫婦やカップルが食べているでしょう」


 言われてみれば確かに。


「父ちゃん! しっかり食いなよ! 今度こそ男の子を産まないと!」


「母ちゃん勘弁してくれ! 後、何人産む気だよ!」


 その他にも似たような会話多数。


「ナナさん」


 僕はこっそり逃げようとしていたナナさんを呼び止める。


「な、なんだい、ハルカ?」


「後でお仕置きですから」


「ちょっと待っておくれよ! 私はただ、ハルカに精を付けて貰いたかっただけで……」


「付けてどうするんです?」


「ごめんなさい!」


 全く、ナナさんって本当に性欲と行動が直結しているんだから。


 僕はお婆さんから受け取ったスープにパンを浸して食べる。ちなみにこのスープ、大海蛇の肉と骨からダシを取った物で健康食として評判なんだって。味も一級品だったよ。






「サッちゃんは、料理を食べないの?」


 僕は宴会場から、やや離れた場所でサッちゃんを見付けて話し掛けた。


「ハルカちゃんか。いやな、仲間を何匹も食い殺したごっつ悪い奴やけど、やっぱり同じ大海蛇が食われてるのを見るのは、キツうてな……」


 そりゃそうだね。黒い大海蛇は悪い奴だったけど、同族が食べられるのを見るのは辛いね。


「ごめんねサッちゃん。気が利かなくて」


「いや、ハルカちゃんのせいや無いよ。ほら、早よ宴会場に戻らな。ワイも大海蛇料理以外なら食べるわ、腹減ったし」


「うん、行こう!」


 その後、宴会場は何故か筋肉自慢大会の場と化し、安国さんを始め、筋肉自慢の男性陣が筋肉をアピールしまくっていたよ。そして、クローネさんを始め、筋肉好きの女性陣がキャーキャー騒いでいた。その中に何人か男性も混ざっていたけど、見なかった事にしよう。






 翌日、いよいよ紅蓮島に出発。ところが、またしても問題発生。


「すまねぇ、お嬢ちゃん。紅蓮島だけは勘弁してくれ。あそこは昔から聖域で立ち入り禁止になっているんだ」


 船を出して貰おうと向かった漁師のおじさんの家で、おじさんにこう言われた。一般人のおじさんに無理は言えないよね。仕方無い、別口の方法を考えるしかない。


「どうしましょう、ナナさん?」


「単に朱雀の卵を取って来るだけなら、私かクローネが行けば済むけど、それじゃあんたの修行にならないしね」


「確かに。我等4人で島に渡らねばな」


「俺も、姐さん達やメイドの嬢ちゃんに任せっきりは嫌だしな」


 となれば、残る手は……。






「サッちゃん、お願いが有るんだ。僕達を紅蓮島まで乗せて欲しいんだけど」


 僕は人型になっている大海蛇のサッちゃんに頼んだ。サッちゃんの大きさなら、人間を4人乗せても平気なはず。


「何や、ハルカちゃん達、紅蓮島に行きたいんか?」


「うん、古代の幻のスイーツ、ゴールデンプリンの材料に朱雀の卵が必要なんだ。ダメかな?」


「エエよ、他ならぬハルカちゃんの頼みや。ワイが紅蓮島まで連れてったるわ」


「ありがとう、サッちゃん!」


「どういたしまして!」






 そして港。


「ほな、元の姿に戻るで」


 サッちゃんはそう言うと海に飛び込んだ、全裸で……。そのせいで、また騒ぎが起きたけど、スルー。そして海中から大海蛇の姿になったサッちゃんが現れる。


「さぁ、みんな乗りや」


 言われて、みんなサッちゃんの背中に乗る。


「よっしゃ、みんな乗ったな。ほな行くで!」


「うん、頼んだよサッちゃん」


「任せとき、すぐに紅蓮島まで送ったるさかいな」


 かくして、やっと僕達は紅蓮島に向かうのでした。




やっと紅蓮島に行きます。さて、どうなる事か?

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