第21話 幻のゴールデンプリン その三
白い大海蛇と港町の間で平和協定を結ぶ事になり、帰る所だった僕達の前に姿を表した黒い大海蛇。
白い大海蛇も大きいけれど、こいつは更に大きい!
白い方が全長15メートルぐらいなのに対し、黒い方は全長25メートルぐらいはある。まさに化け物だ。そして何より、雰囲気が全然違う。禍々しい気配をひしひしと感じる。
「ば、化け物だーーっ!!」
漁師のおじさんが悲鳴を上げる。当たり前だね、普通の人なんだから。対して、僕は戦闘体制に入る。この黒い大海蛇、白い方の様に話し合いの通じる相手じゃない、殺らねば殺られる!
「ヤバいで嬢ちゃん。こいつは仲間喰いのクロシオって奴や。ワイら大海蛇の掟を破り、同じ大海蛇を何匹も喰い殺した、ごっつ悪い奴や!」
白い大海蛇が憎々しげに話す。
「嬢ちゃん、みんなを連れて早よ逃げ。こいつはワイがぶち殺す!」
怒りに満ちた目で黒い大海蛇を睨み付けながら、白い方が言う。本当に良い奴だな、白い大海蛇。僕達にわざわざ逃げろと言うなんて。でも僕は逃げないよ、そもそも僕が此処にいるのはナナさんに大海蛇退治を言われたからだしね。
すると、黒い大海蛇がまた攻撃を仕掛けてきた。水面から海水が無数の槍になって飛んできた。
「ナメんな、クロシオ!」
白い大海蛇が叫ぶと、同じく水面から無数の海水の槍が飛び出し、相殺する。
バシャアァァァァッ!
辺り一面に猛烈な水しぶきが舞い散る。
「ナナさん、みんなを連れて港町に帰って下さい。僕は黒い大海蛇を退治します」
「分かった。ただし、前にも言ったけど、出来るだけ原型を留めて仕留めるんだよ、良いね?」
「分かりました」
「ほら、みんな。此処はハルカと白い奴に任せて私達は帰るよ!」
そう言うナナさんに漁師のおじさんが食ってかかる。
「おい、魔女さんよ! あんた、あの子の師匠だろ! 助けなくて良いのかよ!」
だが、ナナさんは動じない。
「ふん! 私の弟子がこの程度の相手に殺られる訳が無いよ。ごちゃごちゃ言わずにさっさと帰る! むしろ邪魔だよ!」
「……分かった。すまねぇ。頼んだぞ、お嬢ちゃん!」
そう言うと漁師のおじさんはみんなを乗せた漁船を港町に向けて去って行った。後は小舟に乗った僕と、2匹の大海蛇が残る。さぁ、僕も戦うぞ!
バシャアッ! ドガァァッ!
2匹の大海蛇の戦いはそれは激しいものだった。海水が荒れ狂い、巨体がぶつかり合う。しかし体格差や力の差は歴然。より大きい黒い方が押していた。
「クソッ、このデカブツが!」
既に身体のあちこちに傷を負った白蛇が吐き捨てる。そこへ更に黒蛇の攻撃が襲いかかる。
「クッ、防ぎ切れん!」
させない!
僕は結界を張り、白蛇を守る。
ズガァァン!
結界に黒蛇の巨体がぶつかり、衝撃が走る。大したパワーだよ、この黒蛇。
「助かったわ、嬢ちゃん。しかし、ワイは逃げろ言うたやろ」
「僕の目的は元々、大海蛇退治だからね。助太刀するよ」
「分かった。ほな、2人であのクソ蛇、殺ったろ!」
「うん!」
僕と白蛇が手を組んだのが分かったらしく、黒蛇の攻撃が僕にも向かってきた。海水の槍が降り注ぎ、僕の乗っていた小舟を粉砕! もちろん回避、僕は白蛇の頭の上に乗る。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
「うん、平気。悪いけど頭の上に乗らせてもらうね」
「別にかまへんよ。それより、落ちんときや。ほら、来たで!」
猛烈なスピードで黒蛇が突っ込んできた。大口を開き、こちらを喰い殺す気だ! なんの! 喰らえ「氷魔凍嵐……」ってダメだ、高位魔法は使えない! ナナさんに出来るだけ原型をとどめて仕留める様に言われたから。
「ぼさっとすんな、嬢ちゃん!」
白蛇の声に我に帰り、ジャンプで黒蛇の攻撃を回避。白蛇の頭の上に着地。
「嬢ちゃん、氷魔法を使おとしたやろ。あかんで、大海蛇に水系の魔法は効かへんで。何せ、海の魔物やからな」
そうだった。自分のうかつさを悔やむ。考えてみれば当たり前なのに。水棲系の魔物は水系の魔法に高い抵抗力、高位の者は無効化の力を持つ。逆に雷系が有効なんだけど、僕は氷系が得意な反面、火系、雷系は苦手なんだ。ナナさんが言うには、魔法には相性が有り、ナナさんの様に全ての魔法を極めるなんて、例外らしい。困った、今回の戦いは思ったより苦しい物になる。
「ごめん、僕、氷魔法がメインなんだ。雷系は苦手なんだよね」
「うわ、痛いなそれ……。しゃーない、他のやり方で行こうや」
「そうするしかないね」
僕は氷魔法を諦め、愛用の二本の小太刀「氷姫・雪姫」を抜き放つ。そして、降り注ぐ海水の槍を切り払う。
しかし手強いね、この黒蛇。大きいくせに速いし、僕は大技を使えない。足場も不安定な白蛇の頭の上だし。
白蛇も僕が落ちない様に気遣っている分、動きにキレが無い。本当に苦しい戦いだよ。
ナナさんには悪いけど、贅沢は言ってられない。ある程度の損傷は許してもらおう。
「はっ!」
僕は気合い一閃、小太刀を振り抜く。魔力を込めた真空の刃が黒蛇に襲いかかる。
ザシュッ!
「よし、殺った!」
真空刃が黒蛇の首を刎ね飛ばし……、あっ!
突然、黒蛇の身体が水に変わり崩れる。
「ヤバい、水分身や!」
白蛇が叫ぶとほぼ同時に海中から黒蛇が飛び出してきた!
ドガァァァッ!
「ぐっ!」
「うわぁっ!」
白蛇ごと僕も吹き飛ばされる。
「嬢ちゃん!」
白蛇がなんとか僕を受け止め、事なきを得る。まさか、代わり身を使ってくるなんて……。だが驚いている暇は無い。黒蛇の前に巨大な水の玉が現れ、僕めがけて発射される、しかも連発。明らかに僕を狙っている。
「あの黒蛇、明らかに僕を狙っているよね」
「そらそうや、嬢ちゃんは若くて、極上の魔力を持っとるさかいな。あいつからしたら、喰いたくてたまらんやろ」
「分かるの?」
「あぁ、分かるで。ええ匂いがするさかいな」
そうなんだ……。まさか白蛇まで僕を食べる気じゃ……。
「まさか、君まで……」
「大丈夫、ワイは人喰いはせん」
良かった、一安心。さて、いい加減、黒蛇を倒さないと。正直、嫌だけどあの手で行こう。
「ねぇ、お願いが有るんだけど」
「何や、嬢ちゃん?」
「接近戦に持ち込んで欲しいんだ。遠距離戦じゃ、らちが開かない。僕に作戦が有る」
「分かった、嬢ちゃん。ほな行くで!」
僕達は黒蛇に向かって突撃した。黒蛇も僕達を迎え撃つ。
黒蛇の攻撃をかいくぐり、接近戦に持ち込む。黒と白、2匹の大蛇が絡み合い、食い付き合う。僕は白蛇から振り落とされない様に気を付けつつチャンスを伺う……、今だ!
僕は黒蛇が大口を開けたその時を狙い、中に飛び込む。
「あっ、嬢ちゃん!」
白蛇が叫ぶが心配無用。すぐに終わらせる。
「これで終わりだ! 氷魔貫槍!」
僕の魔法が生み出した氷の槍が黒蛇の上顎、更に脳を貫通、絶命させた。
「大丈夫か嬢ちゃん、無茶しくさってからに……」
「ごめんね。でも、あれなら攻撃を外さないし、何より、氷魔法が効くしね」
「まぁ、確かにな」
そう、大海蛇は体表は水系の魔法を受け付けないが、体内はそうでもない。もっとも、魔力そのものを受け付けない魔物もいるから、必ずしも有効な手段じゃないけどね。とは言え、今回はうまくいった。ナナさんの言い付け通り、原型を留めて仕留めたし。大海蛇の口の中に飛び込むのはいい気がしなかったけどね……。
さて、黒い大海蛇を退治したは良いけど、どうやって持って帰ろう?
白い大海蛇の魔力で海面に浮かべているけど、大き過ぎて、僕の空間収納魔法じゃ収まらない。一旦、港町に連絡して引き取りに来てもらうかな?
そう思っていたら上空から声がした。
「どうやら、言い付け通り、出来るだけ原型を留めて仕留めたようだね」
「見事だ、ハルカ。流石はナナの弟子だな」
見れば、ナナさんとクローネさんの2人だった。流石は伝説の魔女。空を飛ぶぐらい当たり前か。
「その、でかい黒蛇は私が持って帰るよ」
ナナさんがそう言うと突然、黒蛇の巨体が消えた。流石はナナさん、あれだけ大きな物を瞬時に異空間に収納出来るなんて。
「さぁ、港町に帰るよ。みんな待ってるからね。黒い大海蛇を退治した上に白い大海蛇と平和協定を結ぶんだ、これはお祭り騒ぎになるよ」
「お祭りか、ワイも楽しみや!」
白い大海蛇も喜んでいる。
「確かにお祭り騒ぎになりますね。それじゃ帰りましょう!」
かくして、大海蛇騒ぎは解決。ナナさん、クローネさんは空間転移で一足先に港町に帰り、僕は白い大海蛇の頭に乗って港町へと帰るのでした。
早くゴールデンプリンが食べたいな。
う~ん、やはり俺は戦闘シーンの描写が下手ですね。
まぁ、良いか。戦闘シーンがウリの作品ではないし。