第20話 幻のゴールデンプリン その二
さてと、海に出る為にも船を借りないとね。そういう訳で僕は港へと向かった。うまく貸して貰えるといいけど。
着いた港では人々があれこれ騒いでいた。当然だよね、海に大海蛇がいるんだから。
「どうする? ギルドに依頼して高ランクのハンターを派遣してもらうか?」
「バカ! そんな事したらどれだけ料金を取られると思ってるんだ!」
「でも軍に出動を依頼しても、いつになるか?」
「所詮、お役所仕事ってか、クソッ!」
「だが、このまま大海蛇に居座られたんじゃ、仕事にならねぇ。この港町が干上がっちまう……」
う~ん、本当にこの港町にとって死活問題らしいね。とりあえず僕は比較的、人の良さそうな人を選んで話し掛ける事にした。よし、あのおじさんにしよう。
「あの、すみません」
僕は見るからに人の良さそうな、漁師らしいおじさんに話しかけた。
「ん、何だお嬢ちゃん? ここは危ないから早く帰んな。今、沖合いに大海蛇が居座っていやがるんだ」
うん、思った通り、人の良いおじさんだ。僕はおじさんに話を続ける。
「えっと、お願いが有るんです。船を1隻貸して貰えませんか? 僕、海に出たいんです」
するとおじさんは血相を変えてこう言った。
「バカな事を言うんじゃねぇ、お嬢ちゃん! 俺の話を聞いてなかったのか? 今は沖合いに大海蛇がいるんだ。殺されるぞ!」
まぁ、当然の反応だよね。そこで僕は1枚のカードを取り出し、おじさんに見せる。大きさは定期券ぐらい、金色で「S」一文字の書かれた黒いカード。
そう、冒険者ギルドのライセンスカード。しかもランクSの。
あ、おじさんびっくりしてる。
「お嬢ちゃん、それ本物か?」
「はい、本物です。何ならギルドに問い合わせてもらっても構いませんよ」
「じゃ、ちょっと借りるぞ」
おじさんは僕のライセンスカードを受け取り、更にスマホを取り出すと、ギルドに問い合わせる。
『もしもし、冒険者ギルドか? ちょっと問い合わせたい事が……』
「驚いたな、本当にお嬢ちゃんみたいな若い子がランクSとは……」
おじさんは冒険者ギルドに問い合わせて、僕が本当にランクSである事を確認した。これなら船を貸して貰えるかな。
「それじゃ、船を貸して貰えませんか? 僕、師匠から大海蛇を退治するように言われたんです」
「ちょっと待ってくれるか? 漁協長に話を通さないとな。今は非常事態だから勝手に船を出すわけにはいかねぇ」
「分かりました」
待つ事しばらく。漁協長さんがおじさんと一緒にやって来た。漁協長さんは白い髭を生やした、白髪のお爺さんだった。
「話は伺いました。その若さでランクSとは驚きましたな。儂もこの歳になるまで見た事が有りませんでしたぞ」
「えっと、それじゃ船を貸して貰えませんか? 大海蛇退治に向かうんで」
だが、漁協長さんは困った顔をする。
「その事ですが、大海蛇を退治して頂けるのはありがたいのですが、一体いくら支払えば……」
あぁ、そうか。仕事料の事を気にしているのか。そうだよね、高ランクのハンターに仕事を依頼したら高額の料金を取られるからね。
「それなら要りません。僕は本業のハンターではありませんし、師匠から大海蛇を退治するように言われただけなので」
「なんと! 料金は要らないと?」
「はい」
「驚いた、なんというお嬢さんだ……。ここぞとばかりにふっかけてくる奴も多いというのに……」
漁協長さんにえらく感心されてしまったよ。でも僕は本業のハンターじゃないしね。
「ただし、大海蛇の死骸は貰います。師匠から言われているんで」
「なるほど、そう来ましたか。まぁ、仕方有りませんな。分かりました、貴女にお願いしましょう」
ちょっと残念そうな漁協長さん。大海蛇は捨てる所が無いらしいしね。
「それじゃ、お嬢ちゃん、俺についてきてくれ」
僕は漁師のおじさんと一緒に船着き場へと向かった。
「それじゃ、この船を借りますね」
「おいおい、お嬢ちゃん。そんな小舟で良いのか?」
「はい、十分です。僕1人が乗るだけですから」
「そうか、分かった。すまねぇな、お嬢ちゃんみたいな若い子に世話になっちまって。本当に情けねぇや」
「気にしないで下さい。これも修行ですから」
「お嬢ちゃん、死ぬなよ! 絶対に帰って来いよ! 帰って来たら、ウチの母ちゃん自慢の手料理をたらふく食わせてやるからな!」
「はい、楽しみにしてますね。じゃ、行ってきます!」
僕は小舟に乗り込み、水系魔法を発動。小舟の後ろからロケット噴射の要領で水が吹き出し、小舟は沖合いに向けて出発した。
「行っちまった……。あの子、魔法使いだったのか。死ぬなよ、お嬢ちゃん……」
ドシュウゥゥゥゥ……
水のロケット噴射の推力で小舟は海上をひた走る。目指すは沖合い、大海蛇の居場所。
「そろそろ、見えても良いはずなんだけど」
僕は周りを見渡す。何処にいるのかな……、いた!
向こうの方に大きな影が見える、あれだ!
僕はそちらに小舟の進行方向を向ける。同時にいつでも戦えるように戦闘体勢に入る。
距離が近付いてきたので小舟のスピードを落とし、静かに大海蛇に近付く。不思議な事に何故か大海蛇はこちらに対して何もしてこない。大海蛇は水を操る魔力を持つはずなんだけど。
そして、大海蛇の元に無事、到着。
大海蛇は白い巨大蛇だった。海中から首をもたげ、こちらを見下ろしている。本当に大きいなぁ、確かにこんなのに海で襲われたらたまったもんじゃないね。でも、何故襲ってこないのかな? まぁ、一応、いつでも小太刀を抜ける様にはしているけど……。
そう思っていたら、思いがけない事が起きた!
「なんや、嬢ちゃん。ワイに何か用か?」
大海蛇が喋った! 僕、ナナさんから大海蛇が喋るなんて聞いてないよ!
「あっ、もしかしてワイを退治しに来たハンターか? ワイ、何もしてへんで。ワイは此処が気に入ったから住みたいだけや」
ふむ、嘘を言っている様には思えないな。確かに、この大海蛇は港町や僕に対して攻撃を仕掛けていない。とはいえ、このまま放っておく訳にもいかない。港町の人達は困っているし。
かといって、ランクAAAの魔物とはいえ、危害を加える気が無い相手を殺すのも良くない。どうしよう?
「確認するけど、本当に港町の人達に危害を加える気は無いんだね?」
僕は大海蛇に話し掛ける。すると大海蛇は、
「あぁ、ホンマや。ワイは港町の連中に危害を加える気はあらへん。さっきも言ったやろ、ワイは此処が気に入ったから住みたいだけや」
と答えた。
う~ん、困ったね。とりあえずナナさん達に連絡を取ろう。
「ちょっと待ってね。今から連絡を取るから」
「分かった、嬢ちゃん」
何だか人の良さそうな大海蛇だなぁ。これなら平和的に解決に持ち込めるかも。
僕は念話でナナさんに連絡を取る。
「ナナさん、ハルカです。ちょっと予想外の事が起きました」
『どうしたんだい、ハルカ? 予想外の事って?』
「はい、僕、大海蛇と接触したんですが、この大海蛇、喋る上、此処が気に入ったから住みたいだけで危害を加える気は無いと言っています。たとえ、ランクAAAの魔物とはいえ、危害を加える気の無い相手を殺す訳にはいきませんし……」
『ほう、こりゃ驚いたね、喋る大海蛇かい。是非ともサンプルに欲しいね』
「ナナさん!」
『分かったよ、そんなに怒らなくても良いじゃないか。すぐに行くから待ってな』
「はい、分かりました」
かくしてナナさんとの連絡終了。さて、どうなるかな?
しばらくすると、港町の方から漁船が一隻やって来た。
「お~い、お嬢ちゃ~ん!」
あっ、さっきの漁師のおじさんだ。
「ハルカ~!」
ナナさんもいる。後、クローネさん、安国さんも一緒だ。
「ふ~ん、こいつが喋る大海蛇かい。本当、サンプルに欲しいね」
「しかも白蛇とは珍しいな、これは高く売れる」
喋る大海蛇を見るなり、物騒な事を言うナナさんとクローネさん。それを聞いて、大海蛇が泣きそうになる。
「ちょっと勘弁してぇな! ワイ、死にとうない!」
「おいおい、姐さん達、そういう話をしに来たんじゃないだろ」
安国さんが2人をたしなめる。ちなみに漁師のおじさんは喋る大海蛇を見て驚いている。
「おじさん、聞いての通り、この大海蛇は此処が気に入ったから住みたいだけで、危害を加える気は無いそうです」
「そうは言われてもな~」
まぁ、確かに相手はランクAAAの魔物だからね。するとナナさんがこう言った。
「だったら私に任せな。こいつとあんた達、港町の連中で契約を交わせば良い。お互いに危害を加えないってね」
「契約って、大丈夫なのかい、魔女さんよ」
漁師のおじさんが疑問を口にする。
「大丈夫、この契約を破れば、報いを受けるからね。悪く言えば呪いの一種。だが契約を守る限り、一切危険は無い」
「おじさん、ナナさんは超一流の魔女です。ナナさんがこう言うなら大丈夫です」
僕も口添えする。
「分かった、俺から漁協長に話を通す。平和的に解決するなら、それが一番だ」
「ワイもそれでエエわ」
白い大海蛇も同意した。
その後、おじさんは漁協長さんと連絡を取り、了承を得た。良かった、平和的に解決して。
でも、それで終わりじゃなかったんだ。
港町側と喋る白い大海蛇との間で平和協定が結ばれる事になり、僕達が一旦、港町に帰ろうとしたその時!
ゴゴゴゴ……
海鳴りが聞こえてきた。
そして、漁師のおじさんが叫んだ!
「ヤベェ! 津波だ!」
そんな! どうしていきなり津波が!
「ハルカ!」
ナナさんの鋭い声が飛ぶ。
「はい! 水魔消波呪!」
僕は津波沈静化の魔法を使い、津波を鎮める。この津波、自然の物じゃない。魔力を感じた。
そして僕達の目の前に、黒い大海蛇が現れたんだ。
やれやれ、せっかく平和的に解決したと思ったのに。どうやら、一戦交えないといけないみたいだね……。
白い大海蛇が何故、関西弁なのかはツッコミ無用で願います。間違っているかもしれませんが、そこはインチキ関西弁と言うことで。
ちなみにゴールデンプリン編はまだまだ続きます。