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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第17話 引っ越しました

 僕が異世界に来て半年。季節は秋、10月のある日、ナナさんが突然こんな事を言い出した。






「ねぇ、ハルカ。あんたに聞きたいんだけど、あんた今の環境に満足してるかい? もっと賑やかな所で暮らしたくないかい?」


「どうしたんですかナナさん、急にそんな事を聞くなんて?」


「いやなに、以前あんたと一緒に街に行ったじゃないか。あの時以来、ずっと考えていたんだ。あんたみたいな若い子は、やはり街で暮らしたいんじゃないかって」


 ちなみに現在、僕とナナさんが暮らしているのは北の海に浮かぶ絶海の孤島に建つ洋館。この島に住む人は僕とナナさんだけ。島の周りは荒海の上、島全体をナナさんの結界が覆っているため、誰も近付かない。故に平和だけど退屈とも言える。僕は特に不満は無いけどね。






「私は良いさ、街に出たところで面倒くさいだけだし。でも若いあんたには今の暮らしは退屈なんじゃないかと思ってね。どうだいハルカ、いっそのこと街に引っ越さないかい? 何、私の力を持ってすれば容易い事さ」


 まぁ、確かに街で暮らしたくないと言えば嘘になる。ナナさんもこう言ってくれる事だし、ここは話に乗ろう。


「分かりました。ナナさんもそう言ってくれるなら。でも、何処に引っ越すんですか?」


「それなら、以前あんたと一緒に行ったあの街さ。なかなか良さそうな街だったしね。ミルフィーユの小娘が近くにいるのは不満だけどね……」


 なるほど、あの街か。確かに、良さそうな街だった。でも、いきなり引っ越すのは問題だね。ちゃんと筋を通さないと。


「ナナさん、引っ越すのは良いですけど、いきなりはダメです。ちゃんと筋を通さないと。ここはミルフィーユさんのお母さん、侯爵夫人にお願いしましょう」


 スイーツブルグ家は国内屈指の名門。きっと力になってくれるだろう。


「あのおばさんに頼むのかい?」


「ナナさん、失礼ですよ。大体、ナナさんの方が遥かに年上でしょう」


「悪かったね!」






 さて、引っ越しに向けて行動開始。まずはナナさんに頼んで作ってもらったスマホでミルフィーユさんに連絡を取る。持っていなかったせいで、ミルフィーユさんと初めて出会った時、連絡先の交換が出来なかったからね。……違法品なのは無視。その後、スイーツブルグ侯爵家を訪れた際に、ミルフィーユさんと連絡先の交換を果たした。


 でも、侯爵夫人とはまだ。さすがに侯爵夫人ともあろう者が、軽々しく、どこの馬の骨とも知れない小娘と連絡先の交換は出来ないそうだ。もっと、僕自身の格を上げないといけないと言われた。


 ちなみにこの世界はパソコンやネットなんかも普通に有る。僕の様な転生者や異世界から飛ばされて来た異界人により、様々な知識や技術がもたらされたからとナナさんから聞かされた。


『もしもし、ミルフィーユさん? ハルカです』


『あら、ハルカ。どうしましたの?』


『はい、実はそちらに引っ越す事になって。そこで侯爵夫人のお力添えをお願いしたいんですが……』


『えっ!? こちらに引っ越す? 分かりましたわ! すぐにお母様に代わりますわ!』






『お伝話(この世界では、こう書く)、代わりましたわ。お久しぶりですね、ハルカさん。話は伺いました、こちらに引っ越すとか』


『はい、そこで是非、侯爵夫人のお力添えをお願いしたく。土地だけで構いませんので』


『分かりましたわ。任せて下さい、全てこちらで話を通しておきます。良い場所を用意致しますわ』


『ありがとうございます。あ、庶民地区で良いですから。僕達は庶民ですし、貴族地区は合わないので。我が儘を言ってすみません』


『分かりました、庶民地区ですね。では話がまとまり次第、こちらから連絡致しますわ』


『本当にすみません、よろしくお願いします』


『では、また』


『はい、失礼します』






 それから数日後、侯爵夫人から連絡が入った。


『ハルカさん、先日の件、話がまとまりました。庶民地区の良い場所が見つかりましたよ』


『ありがとうございます。しかし、良く話がまとまりましたね。上層部が騒ぎそうですけど』


『それなら簡単でしたわ。伝説の『名無しの魔女』を怒らせる気か? と言えば一発でしたわ』


『あ、そうですか……』


 どれだけ怖がられているんですか? ナナさん!


『では、場所について詳しい事を伝えます……』


 かくして、侯爵夫人の力添えの甲斐有って、僕達は王国の首都へと引っ越す事になりました。


 そして、いよいよ引っ越し当日。


 普通なら荷物をまとめたりするところだけど、そこは流石に伝説の魔女のナナさん、なんと屋敷ごと空間転移して引っ越すとの事。ちなみに侯爵夫人が既に引っ越し先の人達に大魔法使いが引っ越して来ると伝えてくれているので問題無し。ただし、伝説の魔女という事は伏せている。余計な騒ぎを防ぐ為に。知っているのは王国の上層部のみ。






「ハルカ、準備は良いかい?」


「はい、大丈夫です」


「よし、それじゃ行くよ!」


 シュン!


 正に一瞬! あっという間に僕達は屋敷ごと、王都に来ていた。普段はだらしないけど、やっぱりナナさんは大魔法使いなんだなぁ……。本当に凄いよ、憧れちゃうなぁ……。魔法使いとしてはだけどね。






 僕達が引っ越して来たのは王都の庶民地区の一角。なかなか良い場所だよ。


「ほら、ナナさん、ご近所に引っ越しの挨拶回りをしないと!」


「え~、めんどくさいね~。あんたがやりなよ……」


「ダメです! この屋敷の主人はナナさんなんですから! ほら、一緒に行きますよ! 後、スイーツブルグ家にもお礼に行かないと」


 今までと違い、街に出てきた以上、ご近所付き合いもきちんとしないとね。






 さて、王都についてざっと説明。


 その名の通り、王国の首都であり、国内一、大きな街。


 外周の庶民地区、内周の貴族地区に別れている。中心部に王城が建っている。


 庶民地区はコンビニやファミレスが有ったりと結構、現代社会に似ているよ。


 貴族地区は立派なお屋敷がいくつも建っていて、いかにも高級住宅街という感じ。ちなみに庶民は許可無く、貴族地区には入れない。


 王都の中心に建つのが王城。ま、現時点の僕達には関係無いね。






「それにしても、本当に良い所ですね~。庶民地区の中でも最高ランクの場所だとか」


「ふん、まぁ私達が住むには悪くないね」


「ナナさん! こんな良い物件を紹介して貰ったのに失礼ですよ!」


 もちろん、こんな良い物件を紹介して貰ったのだから、ちゃんとスイーツブルグ家に代金は支払ったよ。オリハルコンのインゴットを10本。ナナさんからすれば、はした金らしいけど、向こうのメイドさん達が腰を抜かしていたよ。これだけ有れば、お屋敷どころか宮殿を買えるとか。






 僕やナナさんは身元がはっきりしない。僕は転生者だし、ナナさんに至っては伝説の魔女だし。その辺りはスイーツブルグ家が僕達の身分を保証する事で解決。


 後、僕は冒険者ギルドに登録したよ。ミルフィーユさんから勧められてね。そしてギルドからランクSのライセンスカードを貰った。ギルドの人によると、ライセンスカードは身分証明であり、更に色々な場所で特典を受けられるんだって。特に僕は上から3番目のランクSなので、効果は抜群だとか。ナナさんも登録したよ。もちろん最高のランクSSS。あまりの魔力に計測器が爆発したけどね……。





 で、現在。


「ナナさん、今日も山の様に来てますよ、ラブレターやプレゼントや結婚の申し込みが……」


「またかい、まぁこうなる事は分かっていたけどね。しかし懲りない連中だねぇ……」


 僕達が街に引っ越して来てからというものの、毎日、大量のラブレター、プレゼント、結婚の申し込み、その他色々が届く。既に街では、ハルカ様ファンクラブ、ナナ様親衛隊が結成されたらしい。正直、迷惑なんだけど……。


 確かに、ナナさんは美人だし、僕も自分で言うのも何だけど美少女。しかし、いくら何でもこれは盛り上がり過ぎ。やれやれ……。





 かくして始まった、僕とナナさんの街での新生活。さて、これから何が起きるかな?




今回は言うなれば第二章開始にあたります。これから先、新キャラも出す予定です。


ちなみに伝話というのは誤字ではないです。作中世界では電気の代わりに魔力が使われており、電話ではなく、伝話と呼ばれているのです。


魔道と科学の融合した技術、「魔学」が存在する世界なのです。

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