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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第172話 ハルカの『塔』探索記 黒巫女と大天才

 狐月斎side


「う〜む。これは私とした事がしくじったな。『塔』は悪意に満ちた、生きているダンジョン。挑発をされたら、怒りもするか」


 あまりにも、なろう系のバカばかりに遭遇する事に対するいら立ちから、『塔』に対して、つまらない下級転生者ではなく、私の後継者にふさわしい奴を出してみせろと挑発した結果、『塔』の怒りを買い、どこかに飛ばされてしまった。


『塔』内のどこかだとは思うが……。他の3人もどこへ飛ばされたのか……。今回は完全に私のしくじり。反論の余地も無い。さて、どうするか? はぐれた仲間を捜すか、最上階を目指すか。暫し考え、決める。


 最上階を目指そう。


「……こっちか」


 私は黒巫女故な、占術にも通じている。行くべき方角を占い、それに従い、歩を進める。


「まぁ、はぐれてしまったが、簡単に死ぬ様な、やわな面子ではない」


 はぐれてしまったものの、心配はしていない。この程度で死ぬ様なら、三十六傑に名を連ねていないし、とっくに死んでいる。それに最上階を目指しているのは分かっている。ならば、最上階まで行けば必ず合流出来る。『塔』内は複雑に分岐しているからな。下手に捜し回れば、逆効果になりかねん。


「スキルコピーでお前のスキルを」


「万能スキルで最」


「理想郷を」


 途中、何やら雑音が聞こえたが、気のせいだな。やれやれ、せっかくの新しい大太刀が汚い血で汚れてしまった。狐月刃を一振りしてから、血脂を拭き取る。


「信念も誇りも無く、目先の欲望を満たす事に執着し、薄っぺらい理想を掲げ、意にそぐわぬ者は全て悪と決めつけ、正義を振りかざして殺す。全くもって、くだらん。そんなやり方、すぐに破綻する。天才ならまだしも、最底辺のクズが笑わせるな」


 どんなに凄い力を得ようが、クズはクズ。そもそも、クズがチートを得て活躍出来るというなら、その理屈でいけば、天才がチートを得たら更に凄い大活躍が出来るという事になるが? あの、ハルカ・アマノガワが、その典型だな。


 彼女は真十二柱 序列十一位 魔氷女王アイシアの身体と力を得て転生した訳だが、何より凄いのが、その身体と力に適合した事だ。そんじょそこらの奴では、仮にその身体を得ても、真十二柱の力に耐えられず、即座に魂が消し飛ぶ。正に彼女は選ばれし者。


 今は、まだまだ未熟だが、いずれは真十二位の空位に就くだろう。彼女はそれだけの逸材だ。……もう少し早く会えていたなら、私の後継者として育てていたのにな。実に惜しい。


「まぁ、出会いというのは縁だからな。こればかりは、ままならん」


 彼女には既に良き師がいる。流石に横取りは出来ん。私はそこまで腐った覚えは無い。


「しかし、後継者がいないのは困るな……」


 私の目下、最大の悩みだからな。現状、私が死ねば、私の知識、技術は全て失われる。これまでの努力、苦労の全てが無になる。……やはり、惜しい。誰かに受け継いで欲しい。前世は何も成せず、何者にもなれず、何も残せず、死んだからな。今生は、それは避けたい。しかしなぁ……。


 物思いに耽りながら、占術の指し示す方角へと歩を進める。


「俺は常にレベルアッ」


「最強の眷ぞ」


「無限の」


 煩い! 人が考え事をしているのにごちゃごちゃ騒ぐな!


 相変わらず、雑音が酷いので大太刀を振るい、一掃。全く、不愉快極まりない。やはり、この手の連中は根本的に知能に欠陥が有る。現実を正しく認識出来ない。救えんな。そんな意味も価値も無いが。


 絡んでくる煩いクズを処分しながら、占術の指し示す方角を進むと、妙な物に出くわした。鳥居だ。立派な鳥居がそびえ立っていた。占術の指し示す方角は間違いなく、この先を示している。


「……くぐれというのだな」


 怪しい限りだが、私は自身を信じ、鳥居をくぐる。果たして、何が待っているのやら?






 鳥居をくぐると周囲の景色が一変。何も無い白い床が果てしなく広がるフロアから、山林と思しき場所。そして目の前には、長い石段。その先にはまた鳥居。単純に考えれば、この先に有るのは神社だな。


「やれやれ。登るしかないか」


 長い石段を一段、一段、登っていく。幸い、煩いクズは出てこない。恐らく、いや、間違いなく、この先に何かが有る。何かは知らんが。その為に用意された場所だ、ここは。


「さて、鬼が出るか? 蛇が出るか?」


 いずれにせよ、敵ならば斬り捨てるまで。







 石段を登りきった先、鳥居の向こうは、案の定、神社だった。荒れ放題の神社の廃墟と言う方が正しいな。人の姿は無い。


「…………少し、一服するか」


 多少、疲れた事も有り、背負っている大太刀を外し、傍らに立て掛けると、本殿に上がる階段に腰掛け、少々、休憩。懐から煙管を取り出し、刻み煙草を詰めて、狐火で火を着けて、一服。


「ふぅ~〜〜〜。落ち着く」


 クリス殿と、クーゲル殿が煙草嫌いだからな。あの2人がいる前では吸えん。はぐれたのは困るが、お陰で煙草が吸える。


 ポ、ポ、ポ……。


 煙草を吸った煙を吐き、空中に輪っかを幾つも作る。煙草を吸う際の定番技だ。


「たまには、こういう無駄な時間を過ごすのも悪くない。そう思わんか?」


 私は、そう声を掛ける。確かに人の姿は無かったが、本殿の裏に微かな気配を感じた。それこそ、私クラスでなければ気付かない程の微かな気配。しかも、こちらに気付いたのか、今度は気配が消えた。その事から、誰か先客がいると察した。


 私クラスでなければ気付かない程の微かな気配に、完璧な気配の消し方。大したものだが、甘い。下手に気配を消せば、その部分だけ気配の空白が出来る。不自然だ。気配は消すのではなく、紛れ込ませるのが正解。才能は有るが、まだまだ未熟。さて、何者だろうな?


「私は無駄が何より嫌いなんですが」


 きっちり返事が来た。


 社殿の陰より姿を見せたのは、私と同じ狐人の少女だった。服装はいわゆるサバイバル系。迷彩服にゴーグル、肘当て、膝当て、ブーツ。腰には一振りの小太刀を差している。妖気を感じる辺り、中々の業物。他にも数本、軍用ナイフを携帯。装備、身のこなし、足運びといい、素人ではない。……出来るな。


 更に言えば、私と同じ『変異種』か。通常の狐人は茶色の髪に、茶色の瞳。狐だけにな。ちなみに私は、金髪に、右が赤、左が青のオッドアイ。で、私の前に姿を現した狐人の少女は、銀髪にエメラルドグリーンの瞳をしていた。


 ……もっとも、私の場合、かつて中学2年生の時に書いた、痛い妄想満載の設定ノートの内容を元に、第三代創造主が転生させたからだが。おのれ、第三代創造主め。人の黒歴史をわざわざ、ほじくり返すとは。


 転生させてくれた事。設定通りの容姿、実力にしてくれた事は良いが、同時に自分の顔を見る度に黒歴史が蘇り、転生したての頃は、恥ずかしくて堪らなかったぞ。まぁ、それはともかく。


「ご同輩か」


「その様で」


「名を聞こうか」


「人に名を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀でしょう」


 名を聞こうとしたら、自分から名乗るのが礼儀と返された。確かに。なので、私から名乗る。


「失礼した。私は夜光院 狐月斎。黒巫女にして、剣の道を極めんとする者」


「ご丁寧にどうも。では、私も名乗りましょう。私の名は凍月(イテツキ) 吹雪(フブキ)。暗部の一族、凍月家の次女。まぁ、家を出た身ですし、何より、既に凍月家は滅びていますが」


 狐人の少女は、そう名乗った。暗部の一族の娘か。なるほど、納得。しかし、家を出た上、家が滅びた、か。かなりの訳有りだな、これは。







「とりあえず、立ち話もなんだ。こっちに来て、座ると良い」


 今座っている、本殿に上がる階段。少し横にずれて場所を空ける。


「……では、お言葉に甘えて。失礼します」


 少し、逡巡を見せたが、結局、私の隣に座った。素直で結構。礼儀もわきまえていて、尚、結構。礼儀は大切だ。


「下手に逆らって怒らせるのは、得策ではないですからね。ましてや、格上相手に」


「物分りの良い者は好きだぞ。……バカは嫌いだがな」


「全くもって、同感です」


 やはり、優秀だな。彼我の実力差を即座に見抜き、余計な争いは避けるか。対し、なろう系のバカ共は、彼我の実力差を読めん。自分は最強、他者は雑魚と決め付け、一方的に見下し、喧嘩を売ってくる。相手が格上などとは、断じて考えないし、認めない。


 それだけに、格上に蹂躙されて、無様な最期を遂げる姿は最高にスカッとするし、笑える。ちなみになろう系は死んだら、冥界の焼却炉行き。焼き尽くされて、消滅する。来世は無い。


 対し、この吹雪は、私が自分より格上と見抜き、会話によるコミュニケーションを取りに来た。大したものだ。勿論、相応の実力と、それに裏打ちされた自信有っての事だろうが。暗部の一族の娘か。伊達ではないな。


「まぁ、こうして出会ったのも何かの縁。せっかくだから、少々、話でもしていかんか? さっきも言ったが、たまには、無駄な時間を過ごすのも悪くない。効率、効率ばかりでは、いつか行き詰まり、破綻するぞ」


 私から見ても、類稀なる逸材。実に興味深い。せっかくの出会い、このチャンスを逃がす手は無い。とりあえずは、会話で糸口を掴みたい所。


「含蓄の有るお言葉、肝に命じます。では、お時間が有ればで構いませんが、私の身の上話でも」


 幸い、向こうも乗ってきた。向こうもまた、私に興味を持っているらしい。まずは聞こうか。吹雪の身の上話を。







 吹雪side


 由緒正しい、暗部の一族、凍月家の次女として生を受けた私。自分で言うのもなんですが、私、天才でして。もっとも、人前では隠していましたが。理由は面倒くさいから。


 なまじ、実力が有ると分かれば、間違いなく、面倒な事になります。私を潰したい敵。私を利用したい輩。そういう連中が必ず現れる。


 だから、私は自らを演じました。優秀な姉の陰に隠れた、無能で弱気な妹を。都合の良い事に、2歳上の姉はかなり優秀でして。天才の私には及びませんが。私に言わせれば、秀才(笑)。私が姉を立てて、自身は無能を演じていると、生涯、気付きませんでしたしね。


 で、幼い頃より、優秀な姉に及ばぬ、無能な妹を演じ続けてきたお陰で、誰一人として、私の実力を知られる事なく、めでたく、後継者争いから脱落出来ました。私は凍月家次期当主の座なんて、全く興味無かったので。


 確かに凍月家は由緒正しい、歴史有る暗部の一族。その実力で名を馳せていました。えぇ、()()()()()()()


 残念ながら、今や、凍月家にかつての力は無い。代を重ねるにつれ、劣化の一途を辿っていたのです。優秀と呼ばれる姉も、最盛期の凍月家基準では、せいぜい、並。その当時なら、断じて当主になれない。


 そんな劣化を続ける凍月家において、私は先祖返りの様で。最盛期の凍月家基準でも、最上級の才能を有していました。はっきり言って、凍月家史上、随一。最盛期の凍月家なら、間違いなく、次期当主最有力候補だったでしょう。まぁ、生まれてきた時代が悪かったと。


 最早、凍月家に未来は無い。私は3歳の時点で、そう見切りを付けました。せいぜい、秀才(笑)の姉を次期当主と持て囃し、共に破滅すれば良い。天才たる私は、逃げさせて貰う。沈むと確定している泥船に乗り続ける気は無いので。







 で、13歳の誕生日を迎えたその日の夜。私は凍月家を出ました。事前に準備は済ませていましたし、私の実力を持ってすれば、今の堕落した凍月家のセキュリティ如き、無に等しい。あっさり脱出。そのまま、夜の闇の中に消えました。


 その後、知りましたが、私は、急病で死んだという事にされました。あの連中からすれば、散々、無能と見下してきた私にまんまと逃げられた訳ですから。そんな事、正直に言えるはずがない。まぁ、あの連中は、無能が家を飛び出して、何が出来るものか。家から逃げ出せたのも、単なるまぐれ。すぐに野垂れ死にすると、高を括っていたそうで。


 更に愚かな事に、私が凍月家の家宝を持ち出した事に、気付いていない。私が用意した偽物とすり替わっている事に気付いていない。


 ……つくづく、暗部、凍月家の堕落ぶりに呆れる。自らの家に伝わる家宝の価値すら分からないとは。まぁ、仕方ない。家宝に見放されたのだから。






 凍月家の家宝。そして、凍月家当主の証。かつて、凍月家初代が神より授かったと伝わる、小太刀。


氷牙(ヒョウガ)


 その刀身は氷の様に透き通り、常に冷気を纏い、その刃に切れぬ物無しと謳われる、比類無き業物。


 代々、凍月家当主候補は16歳になると、当主選抜の儀を受ける。それは鞘に納まっている氷牙を抜けるか否か。


 幾ら優秀だろうが、抜けなかった者は失格。 逆に抜けた者が次期当主になる。


 ところが、最後に抜けたのが四代前。それ以降、誰一人、抜けない。挙げ句、錆び付いたと決め付けられて、蔵の奥に放り込まれ、そのまま埃を被る羽目に……。






 それを蔵で見付けたのが、当時、4歳の私。試しに手にしてみたら、あっさり抜けた。錆び付いてなどいなかった。何の事はない、凍月家のあまりの堕落、劣化ぶりに、氷牙が見放しただけ。自分を使うに値しないと。


 しかし、私は抜けた。どうやら、氷牙は私を次期当主と認めたらしい。もっとも、次期当主になる気など私には無いけれど。とはいえ、その性能は素晴らしい。ありがたく頂く事に。後に、そっくりの偽物を用意し、すり替えておくのも忘れずにやっておいた。あの無能揃いなら、これで十分。






 かくして、凍月家を離れた私。既に身分を隠して個人で暗部の仕事をしていたから、金にも困らない。『裏』は実力と結果が全て。それが無い者には、地獄だが、有る者は、のし上がれる。そんな気は無いけれど。無駄に敵を増やす気は無い。


 そして1年が経った、14歳の誕生日を迎えた日。あの『塔』が出現。それまでの世界は終わりを告げました。実に呆気なく。


『塔』から現れた大量の魔物達に喰われ、『塔』が撒き散らしたウィルスだか、毒素だかで倒れ、人間は絶滅。当然、国家も崩壊。法も秩序もへったくれも無くなりました。生き残ったのは、私の様に異形になった僅かな者達だけ。


 私は、黒髪、黒目だったのが、銀髪、エメラルドグリーンの瞳となり、狐の耳と尻尾が生えました。さしずめ狐人。


 ちなみに凍月家も全滅したと知りました。秀才(笑)の姉もあっさり魔物に喰われて死んだそうです。別段、思う所は有りません。仮に逆の立場だったとして、あの姉が私の死を悼む訳がない。お互いに、所詮、その程度の関係性しかない。まぁ、それが暗部と言えば、それまで。






 それから3年。私は突如、目の前に現れた怪しい扉を開き、『塔』に入った。


 扉を抜けたその先は、白い床が果てしなく広がる、何も無い大広間。振り返れば、入ってきた扉は無い。引き返す事は出来ないと悟り、歩を進める。


 すると、出るわ出るわ、魔物達が。更に、頭のイカれた狂人達が。口を開けば、サイキョー、ムソー、ハーレム、ナリアガリ……。


「ここにもいますか、こういう連中。いい加減、うんざりです」


 私がいた世界において、異形となって生き残った元、人間達。その者達は皆、人間を超越した身体能力と異能を得ました。私も以前を上回る身体能力に、冷気を自在に操る異能を得ました。さしずめ、天才から大天才にランクアップです。


 ただ、大天才の私の様な一部の者はともかく、大部分の者は、力を得た事に浮かれ、暴走しました。力に溺れる、人の性。愚かな事です。これだから、凡人は……。


 で、今や私がいた世界は、魔物が跳梁跋扈し、異形の元、人間達が相争う、地獄と化しました。


 だから、こういう自称、最強の連中は見飽きていまして。実にくだらない。これまでまともに戦った事も、訓練すらした事もない者が、突然、力を得ただけで最強?


 その理屈でいけば、私はもっと凄いですね。何せ、私は暗部、凍月家の娘にして、凍月家史上、随一の天才ですから。それが狐人となって、大天才にランクアップ。実際、苦戦などしませんでした。()()()()。私からすれば、単なる作業、ゴミ掃除。所詮、素人の雑魚。玄人である暗部にして、大天才たる私に勝てる訳がない。


『塔』で出てきた連中も、その同類ばかり。力は有っても、使い方がまるでなっていない。素人丸出し。強力な武器、兵器、異能も全くの宝の持ち腐れ。さっさと処理して、戦利品を頂きました。







 装備だけは良い、雑魚狩りのお陰で、装備や、食料、水も補給出来ました。特にありがたかったのが、幾らでも入るウェストポーチと、水が無限に湧く水筒。素材を入れたら、クリームシチューが出てくる鍋。この3つには随分、助けられました。荷物、水、食料の問題が解決しましたからね。


 しかし、困りましたね。幾ら進めど、何も進展が無い。ひたすら、白い床の何も無い大広間が続くばかり。腕時計によると、既に1週間は経った様ですが……。


「……いい加減、雑魚の相手は飽きました。もっとマシな相手はいないんですか?」


 流石にこうも進展が無いと、いい加減、肉体的にも、精神的にもまいってきます。大天才の私といえど、愚痴の一つも言いたくなります。


 すると……。






 何の脈絡も無く、突然、私の目の前に鳥居が現れました。くぐれ、という事でしょうか?


「扉の次は鳥居ですか。……良いでしょう、その誘い乗りますよ。何が待っているかは知りませんが、障害があるなら、全て踏み砕いて進むだけです。私は大天才ですからね」


 大天才たる私に対する挑戦と受け取りました。さて、何が待っているんでしょう?


 鳥居をくぐると、辺りの景色が一変。荒れ果てた神社らしき場所に。狐の石像が飾られている辺り、狐を祀っている神社の様です。しかし、誰もいません。


「……誰もいないじゃないですか」


 多少なり、期待していたんですが……。これは拍子抜け。


  「……とりあえず、休憩しますか」


 幸い、周辺に敵の気配は有りません。暫し、休憩を取る事に。休める時は休む。いつ休めるか分かりませんからね。






 …………微かに漂ってくる煙草の匂い。それに気付いた私はすぐさま起きました。暗部たるもの、熟睡はしない。何か異変が有れば、すぐさま起きる。それが出来ない者は、死んでいなくなるだけ。


 煙草の匂いを辿れば、本殿に上がる階段に腰掛け、煙管を吹かしている若い女性がいた。ただし、人間ではない。私と同じく、狐の耳と尻尾の生えた狐人。更に何とも風変わりな服装。


 デザインとしては巫女服ですが、配色が違う。普通は白い着物に、赤い袴。対し、彼女は黒い着物に、紫の袴。見るからに『闇属性』。さしずめ、黒巫女か。おまけに、傍らに大太刀を立て掛けている。いつでも手に取れる状態。


 何より、彼女からは圧倒的な強者の匂いを感じた。今の狐人の姿になって得た能力に、非常に鼻が利くというのがありまして。相手の強さや、感情を匂いで判別出来るのです。非常に便利な能力。ただ、私の固有の能力ではなく、狐人というか、犬系の人種の能力らしいですね。


 兎系だと耳が良い。猫系は身軽。熊系は怪力と、種族ごとに特徴が有る。


 ともあれ、今は、狐人の黒巫女です。どうしましょう? 雑魚なら、狩っていましたが、明らかに格上です。天才にして、狐人となり、大天才にランクアップした私ですが、彼女相手には勝てる気がしません。大天才にランクアップした私ですが、自分が最強だの、ましてや、無敵だのと思ってはいませんからね。ガキじゃあるまいし。などと考えていたら、声を掛けられました。


「たまには、こういう無駄な時間を過ごすのも悪くない。そう思わんか?」


 こちらの方を見もせずに彼女は言いました。……完全に私の存在がバレていますね。この大天才たる私の気配隠蔽を見抜くとは。真後ろに立っても気付かれないレベルなんですが。ともあれ、バレている以上、下手にごまかすのは下策。ましてや、相手は格上。


「私は無駄が何より嫌いなんですが」


 返事をしつつ、彼女の前に姿を現しました。







 狐月斎side


「なるほど。そちらの事情は、よく分かった。大変だったな」


「お気遣い感謝します。まぁ、自分で言うのもなんですが、私、大天才なので、さほどの苦労はしませんでした。くだらない雑魚の相手が鬱陶しいぐらいで」


「大天才か。大きく出たな」


「事実ですから。ただ、私は自分が大天才であると確信していますが、だからといって、自分が最強などと思い上がる気は有りません。貴女の様な、大天才である私ですら霞む、恐るべき存在がいるのですから。やはり、世の中は広い。そうとも知らず、最強、最強と騒ぐ連中の愚かな事。失笑ものです」


 今回出会った、銀髪、エメラルドグリーンの瞳の狐人の少女。凍月(イテツキ) 吹雪(フブキ)。彼女から身の上話を聞いたが、随分と苦労してきたらしい。生まれながらの天才も楽ではないか。しかも、世界が滅茶苦茶になる始末。


 だが、彼女は生き残った。流石は天才。しかも狐人になり、より一層強化され、天才から、大天才にランクアップしたと語る。


 それだけなら、単なる自信過剰のバカだが、彼女は確かに大天才を名乗るだけの実力を有している。これ程の逸材は滅多にいない。


 何より、その上で、私を自分より格上と見抜き、礼儀を持って接してきた。この若さで、見事に自身を律している。大したものだ。欲しいな。彼女ならば、私の後継者となるにふさわしい。才能もさることながら、気性が良い。


 自らを大天才と称する辺り、確かに傲慢だが、単なる思い込みではなく、事実。その一方で、自身より格上の相手を認め、礼儀を持って接する謙虚さも持ち合わせている。


 何より、最強などと、バカな事を言わん。むしろ、そんな連中を愚かと。失笑ものと切り捨てる。


「では、今度は私の番だな。信じる信じないは勝手にするが良い。私は……」


 吹雪の身の上話が終わったので、今度は私の番。流石に全てを話すと長過ぎるので、前世と、転生した経緯。その後の出来事を要所、要所をかいつまんで話した。


「……要するに、第三代創造主が悪いと」


「まぁ、そういう事だ。その点では、吹雪。君も奴の被害者だ」


 理解が早くて助かる。大天才を自称するだけはあるな。


「で、狐月斎さんは、お仲間達と、この『塔』の探索中にはぐれてしまったと」


「うむ。そもそもは私の失言が原因。反省している。だが、心配はしていない。皆、これぐらいで死ぬ様なタマではない。そんな程度では、三十六傑に名を連ねる事は出来ん」


「狐月斎さんのお仲間達ですからね。そりゃ、強いに決まっています」


 本当に話が早い。地頭の良い奴は話していて気持ち良い。バカは不愉快極まりないがな!


「さて、吹雪。君はこれからどうするつもりだ?」


 私は吹雪に、今後について聞いた。すると、彼女は暫し思案顔の末、こう聞いてきた。


「そうですね。この『塔』、出ようと思えば出られるんですよね?」


「『銀の鍵』が有ればな。持っていないか?」


『塔』から出られるかと聞いてきたので、『銀の鍵』が有れば出られると答える。すると、吹雪は自分の着ている迷彩服のポケットを漁りだす。すると、銀色の鍵が出てきた。間違いない、『銀の鍵』だ。


「あっ! 有りました! 知らない鍵が!」


「それが『銀の鍵』だ。使い方だが、空中に扉が有るとイメージして、鍵を差し込み開ける感じだ。そうすれば、空間の一部が扉となり、自分が出たい外に出られる。逆に『塔』に入りたい時も同様だ」


『銀の鍵』を見付けた吹雪に、使い方を説明。すると、早速、試してみた。


「なるほど〜。確かに外に通じていますね」


 空中に開いた扉の向こうには、見るからに世紀末な荒れ果てた光景。これが吹雪の生まれ育った世界か。酷いな……。


「まぁ、いざとなれば、出られる事が分かれば構いません」


 そう言うと、吹雪は扉を閉めた。ん? 帰らないのか?


「この『塔』は1000階建てで、最上階にはボスがいるんですよね? で、そいつを倒せば、理想の品を1つだけ与えてくれる、理想珠が手に入ると」


 扉を閉めるなり、吹雪はそう聞いてきた。


「如何にも。ただし、そう簡単にはいかん。その道程は極めて危険、過酷。それに、仮に最上階に着いたとしても、『塔の主』は強いぞ。後、最上階に着いたのが、自分だけとは限らん。そうなれば、理想珠の争奪戦が始まる。過去、何度も有った」


 理想珠に興味が有るのか? 答えてはやるが、同時に、危険も語る。


「そうですか……。さて、どうしましょうか……」


 またしても思案顔の吹雪。


「そうですね。理想珠はともかくとして、とりあえず、上を目指します。ここ、沢山の財宝が有るんでしょう? それに強力な武具も。いざとなれば、帰れますし、せっかくのチャンスです。逃す手は無いでしょう」


「大した自信だな。危険だと言ったが?」


「私、大天才ですから」


 どうやら、上を目指す気らしい。理想珠はともかく、財宝や、強力な武具が欲しいらしい。危険だと言ったが、私、大天才ですからとの返し。大した自信だ。しかも、根拠の無い自惚れではなく、確かな実力に裏打ちされた自信。


 やはり、欲しいな。是非とも、私の弟子に、後継者にしたい。彼女なら、私の知識と技術の全てを受け止め、更にその先へと行けるやもしれん。


 だから、私は意を決して、言った。


「吹雪、私から君に素晴らしい提案が有る」


「何ですか?」


「君も黒巫女にならないか?」







 吹雪side


 狐月斎さんからの、唐突な提案。


『君も黒巫女にならないか?』


 いやはや、直球ですね。しかし、少々、言葉が足りませんね。とりあえず、私も直球で返します。


「はい。よろしくお願いします」


 要するに、私を弟子に取りたいという事でしょう。ならば、乗るしかない、このビッグウェーブ。大天才たる私が霞む程の圧倒的実力者、夜光院 狐月斎。そんな大物からの弟子入りの誘い。これを断るなんて、バカのやる事。大天才たる私はそんな愚行はしません。チャンスは逃しませんよ。


 おや? 鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をしていますね。意外でしたか?


「弟子入りの誘いでしょう? 違いますか?」


 念の為、確認。もし、違っていたら困りますからね。


「いや、その通り。しかし……随分、あっさりと受けたな。普通、こういう場合、『師となるにふさわしい人物かどうか、貴女の実力を確かめさせて貰う』とか言って、勝負をするのが定番だと思っていたからな。ましてや、君は、自らを大天才と称する実力者だ。そう簡単には、誰かの弟子にはならんと思っていた」


「言ったでしょう? 私は無駄が嫌いだと。貴女が大天才たる私が霞む程の圧倒的実力者なのは、分かっています。ならば、わざわざ戦うなど、無駄です。後、弟子入りの誘いなら、率直にそう言って下さい。何事も分かりやすさが大切です」


 幸い、読み通り、狐月斎さんからの、弟子入りの誘いでした。本人としては、私があっさりと誘いを受けた事が意外だった模様。私は無駄が嫌いですからね。無駄な争いはしないのです。後、回りくどいのも嫌いなので、狐月斎さんに、弟子入りの誘いなら、率直にそう言えと。何事も分かりやすさが大切と、苦言も呈しました。……さて、どう出ますか?


「確かに君の言う通りだな。率直に弟子入りの誘いを言うべきだった。回りくどい言い方をして、すまない。その上で改めて確認するが、私の弟子に、黒巫女になるという事で相違ないな?」


 狐月斎さんは、素直に自分の非を謝罪。その上で改めて、私に自分の弟子に、黒巫女になるという事で相違ないな? と確認を取ってきました。


 きちんと自分の非を謝罪した上で、こちらに対し、意思確認をする。単に実力者なだけではなく、人格者でもある。……良いでしょう。合格です。貴女の元に弟子入りしましょう。


「はい。私、凍月 吹雪は、貴女、夜光院 狐月斎に弟子入りします」


「……分かった。私、夜光院 狐月斎は、汝、凍月 吹雪の弟子入りを認める」


 こうして、私、凍月 吹雪は、狐人の黒巫女。夜光院 狐月斎に弟子入りと相成りました。






 狐月斎side


「では、早速だが、この契約書をよく読んだ上で、ここに直筆サインをしてくれ」


 どうなる事かと思ったが、意外にもあっさりと、吹雪の弟子入りの話は纏まった。ありがたい事だ。拗れたらどうしようかと思った。その上で弟子入りに関する契約書を懐から取り出し、吹雪に渡す。こういう事はきちんと書面に残さんとな。


「ちゃんと契約書が有るんですね」


「大切な事だからな。きちんと書面に残しておかないといかん。この辺の事をいい加減にすると、後々、拗れる」


「なるほど。確かに」


 吹雪は契約書をよく読んだ上で、署名欄に直筆サインをする。……よし。これで契約成立。吹雪が差し出した直筆サイン済みの契約書を受け取り、確認した上で、懐に仕舞う。


「うむ、確かに。これで正式に私と君は師弟となった。よろしくな。尚、今後は私の事は師匠と呼ぶ様に」


「分かりました、師匠。よろしくお願いします」


 良い返事だ。やはり、優秀だな。空気の読めないバカはイライラするからな。さて、せっかくの初弟子を取ったのだ。ならば、私も師匠らしい事をしよう。そうだな……。


「吹雪、君の使っている小太刀。氷牙を渡せ」


「氷牙ですか? ……分かりました」


「あっさり渡してくれるな」


「無意味な事はしないでしょう? ましてや、幼稚な嫌がらせは」


 吹雪の私に対する評価はかなり高いらしい。……これからやる事を考えると、少々、気が引けるが、これも吹雪の為。敢えて、心を鬼にする。


「その通り。必要だからやる」


 私はそう言うなり、青い狐火で、吹雪の小太刀。凍月家の家宝である氷牙を、一瞬で跡形も無く焼き尽くした。


「あっ!!」


 流石の吹雪も、いきなり自分の武器を焼き尽くされるとは思わなかったらしく、驚愕の声を上げる。……必要な事とはいえ、やっぱり、罪悪感が凄い。案の定、吹雪が睨んでいる。まぁ、私が同じ仕打ちをされたら、間違いなくキレる。むしろ、睨むだけで済ませてくれている辺り、吹雪はかなり温情が有る。


「…………説明をお願いします」


 やはり、相当怒っているらしい吹雪。感情を押し殺した感、満載で聞いてきたので、正直に答える。


「まずは、君の小太刀を焼き尽くした事を謝罪しよう。その上で言おう。あの小太刀では、いずれ、通用しなくなる。悪くない品だったが、あくまで悪くないだけだ。私からすれば、せいぜい、中の下。恐らく、どこかの下級転生者の持っていた物だな。それを凍月家の初代が手に入れたという所だろう」


 吹雪の小太刀、氷牙。凍月家の家宝にして、妖気を感じる辺り、中々の業物。


 恐らく、なろう系こと、下級転生者の持っていた品。いわゆる、転生特典、チートとしてな。気配で分かる。それを凍月家初代が奪い取ったのだろう。


 だが、所詮、最底辺のクズである、なろう系の使っていた品。中々の『業物』だが、裏を返せば、業物止まり。普通の人間が使うならともかく、私が見込んだ稀代の逸材たる吹雪が使うには、ふさわしくない。何より、業物止まりでは、これから先、通用しない。


 その事を説明すると、吹雪も納得してくれた。つくづく理解が早くて助かる。ごねられたら、どうしようかと思った。


「なるほど。話は分かりました。ですが、私の武器を処分した以上、代わりは有るんですよね? 無いとか言ったら、怒りますよ?」


 とはいえ、怒っているのは確か。私としても、せっかくの初弟子を怒らせて、逃げられては堪らないので、手を打つ。


「勿論、有る」


 懐から、一振りの小太刀を取り出す。


「これは、私への弟子入りの証。受け取れ。名は『寒桜(カンザクラ)』。()()()()()が作った物でな、性能は折り紙付き。分かりやすく言えば、氷牙の完全な上位互換。氷牙を使っていた君なら、問題なく使えるだろう」


「分かりました。ありがたく頂戴します」


 新しい小太刀について、一通りの説明をした上で、吹雪に渡す。幸い、文句も言わず受け取ってくれた。そして、新しい小太刀を品定めしている。暫く、軽く素振りをしてから、鞘に納める。


「良い小太刀ですね。確かにこれと比べたら、氷牙が大した事ないと思えます」


「それは良かった。遠慮は要らん。存分に使い潰せ。その時が来たら、また、新しい品を用意しよう。……君が生きていたならな。後、これも渡しておこう。黒巫女の正装だ。ちなみに君は新人だから、最下級の『青』だ。頑張って、私と同じ最高位の『紫』まで上がってこい」


 小太刀の他に、黒巫女の正装一式も渡す。もしも弟子を取る際に備えて、各サイズ揃えていてな。やっと役に立った。


 小太刀に続き、黒巫女の正装一式を受け取る吹雪。


「安心して下さい。私、大天才ですから」


「それは頼もしいな」


 若さだな。自分は大天才だという、揺るぎない自信に満ち溢れている。実際、大天才だしな。早く、皆と合流し、吹雪を紹介したい。皆、驚くだろうな。実に楽しみだ。久しぶりにワクワクする。


 さて、その為にも、ここから出ないといかん。……その前に腹拵えだな。腹が減っては戦が出来ん。


「とりあえず、着替えてこい。後、腹が減った。飯にしよう。それが済んだら、ここから出る」


「分かりました。着替えてきます。丁度、新しい服が欲しかったんで助かりました。後、食事ですが、私、素材を入れたらクリームシチューが出てくる鍋を手に入れまして」


「ほう、それは面白いな。では、それにするか」


 吹雪が、素材を入れたら、クリームシチューが出てくる鍋を手に入れたとの事で、それを使って、飯にする。


 吹雪は着替えに、物陰に行き、その間に私は飯盒と米と水を出して、ご飯を炊く準備を始める。






 黒巫女の正装に着替えて戻ってきた吹雪がウェストポーチから取り出した、ホーロー鍋。ちなみにウェストポーチ、ホーロー鍋共に、ここで出会った、なろう系のバカを殺して奪い取ったとの事。あんなバカ共でも、物資補給という点では役立つな。本人はクズだが、持っている品だけは良いからな。


 吹雪が、ウェストポーチから取り出した固形の携帯食を鍋に入れると、即座になみなみと鍋一杯のクリームシチューが。具は芋だけか。なるほど、素材を入れる事で、クリームシチューを『錬成』する錬金鍋の一種だな。


 素材を入れるのはスイッチ。それにより、周囲の元素を合成し、クリームシチューを作るのか。中々に高度な品。試しに霊視したが、クリームシチューは無害。本当にただのクリームシチューだ。これは当たりの品だな。合流したら、クリス殿に見せるか。


 私からも、狐火を使い、飯盒で炊いたご飯を提供。やはり、米を食わんとな。ついでに茶も沸かし、食事の時間だ。







「ふむ。美味くはないが、不味くもない。……普通の味だな」


「でも、それで良いと私は思います。不味いと食えた物ではないですが、かといって、美味いのも食べ続けると飽きますよ。普段使いするなら、こういうので良いんですよ。こういう並の味で」


「そうだな」


 吹雪の鍋のクリームシチューをおかずに、飯盒で炊いたご飯を食べながらの会話。じきに食べ終わり、吹雪が片付け、私は周辺を見て周る。……片付けも終わり、いよいよ出発。


「質問ですが、どうやってここから出るんですか?」


 吹雪からの質問。鳥居をくぐって着いたこの廃神社だが、くぐってきた鳥居は無い。帰り道が無い。


「安心しろ、既に説明したが、『塔』は第三代創造主が創ったデスゲーム。確かに命懸けだが、ルールに関しては厳格だ。攻略不可能な設定は無い。それではゲームが成り立たんからな。故に攻略法は必ず有る。ただし、相応の実力は必要だがな。で、この場合、吹雪。君が鍵となる」


「私がですか?!」


「 第三代創造主らしいな。新人の実力を確かめたいと見える」


 神社の境内の片隅。そこには神社に不似合な物が鎮座していた。カレー皿とワイングラスを手にし、嫌らしい薄ら笑いを浮かべた胡散臭い神父の石像。第三代創造主の石像だ。


「うわぁ……何ですかこれ? 何故、こんな物が神社に? しかし、見るからに胡散臭いし、ムカつく顔をしてますね。特にあの薄ら笑い。殴りたくなります」


「これが諸悪の元凶。第三代創造主の像だ。で、台座を見てみろ。石板が付いているだろう?」


「はい。()()()()()()()()()()。見た事の無い字なんで読めませんが……」


 私の見立ては、やはり正しかった。第三代創造主の石像の台座に書かれた内容は、雑魚には見えない。それが見えたという事は、吹雪には相応の実力が有るという事。とりあえず、書かれている内容を教える。


「これは神魔の文字。神威(カムイ)文字。で、こう書かれている。若き銀狐よ、汝の力を見せよ。出来ねば、死有るのみ」


「……どういう事でしょうか?」


「書いてある通りだな。見ろ、時間が無いぞ?」


 背後からガラスの割れる様な音。振り返れば、辺りがガラスの様に砕けて消えていく。それはどんどん、私達の方に向かってくる。早く脱出せねば、私達もここの空間と心中する羽目になる。


「どうすれば?!」


「落ち着け! 空間を切り裂け! 自分の生きる道は自分で切り拓け! 大天才なんだろう?! ならば、やってみせろ!」


「っ!! 分かりました!! やります!!」


 大天才を自称する吹雪もこの事態に焦るが、一喝すると、すぐに落ち着く。この切り替えの早さは流石。私が与えた新しい小太刀。寒桜を右手で鞘から抜くと、振りかぶる。そして……。


「喝!!!!!!」


 裂帛の気合いと共に横薙ぎ一閃!







「初めてにしては上出来。褒めてやろう」


「…………ありがとう……………ございます…………」


 結論から言えば、私達は見事、脱出成功。吹雪は私の予想以上の力を発揮。空間を切り裂くどころか、凍結粉砕してみせた。どうやら、寒桜との相性が非常に良かったらしい。そして私達は『塔』内のどこかに出た。


 ……吹雪と出会う前の場所とも違うが、まぁ、良い。やる事は変わらない。最上階を目指すだけ。でも、その前に、吹雪を回復してやらんとな。空間を凍結粉砕し、脱出出来たは良いが、一気に体力、魔力を消耗してしまい、疲労困憊の状況だからな。


「ほら、エリクサーだ。飲め」


 最高の回復薬、エリクサーを飲ませる。高価な品だが、せっかくの初弟子。奮発する。あっさり死なれては困るしな。効果は抜群で、すぐに回復する吹雪。


「助かりました。ありがとうございます。で、これから、どうなさいます? 師匠」


 回復したら、すぐに礼を言う吹雪。うむ、実に結構。その上で今後の方針を聞いてくる。


「最上階を目指す。はぐれた仲間達を下手に捜すより、最上階を目指した方が、確実に合流出来る」


「そうですね。『塔』内って複雑に分岐しているそうですし。だったら、最上階を目指す方が確実ですね。最上階は1つしかない訳ですし」


「そういう事だ。では、行くぞ吹雪。私に付いてこい。……死ぬなよ」


「大丈夫です。私、大天才ですから」


「……そうか」


 若さと揺るぎない自信に満ち溢れた返事。実に良い。そうこなくては、面白くない。では行くか。







 ハルカside


「……何か、凄くキャラ被りされた気がする」





今回は、狐月斎と、異界からの来訪者の1人。凍月 吹雪の邂逅。


由緒正しい、暗部の一族。凍月家に生まれた吹雪。しかし、最早、一族は劣化の一途を辿っていました。そんな中、生まれた彼女は、先祖返りで、一族史上、随一の才能を有していました。


しかし、自身の才能を知られてもろくな事にならないと判断し、あえて、無能で弱気なキャラを演じ、めでたく、次期当主争いから脱落。劣化の一途を辿り、いずれ破滅すると分かっている一族の当主など、バカのやる事と。


そして、13歳の誕生日に家を出て独立。以降は、フリーの『裏』として活動。


その1年後、『塔』が出現。それまでの世界は崩壊。大部分の人間は死に、異形と化した僅かな者だけが生き残る。吹雪も銀髪の狐人に変貌。ちなみに、凍月家は全滅。





その3年後。突如、現れた『扉』を開け『塔』へ。そこで狐月斎と出会い、弟子入り。新人黒巫女に。





凍月 吹雪


年齢17


性別 女


職業 黒巫女(青)


暗部、凍月家次女にして、凍月家史上、随一の才能を持つ天才。性格は傲慢。自らを天才と称するが、その一方で、面倒を嫌い、実力を隠し、無能を演じる狡猾さ。自身より格上を認め、礼儀正しく接する、謙虚さも有る。


『塔』の撒き散らした変異ウィルスに感染し、銀髪の狐人となった事で、以前を上回る身体能力、冷気を操る異能を獲得。戦闘スタイルは、小太刀使い。家を出た際に持ち出した家宝の小太刀。氷牙を愛用し、凍月流古武術の内、小太刀術を好んで使う。狐人になってからは、そこに冷気を加えた戦い方に。





『塔』で出会った狐月斎を一目で格上と見抜く。その後、見付かり、狐月斎から弟子入りを打診され、それを受けて弟子入り。新人黒巫女に。


弟子入り後、愛用の小太刀、氷牙を処分されるも、その後、弟子入りの証として、より良い小太刀、寒桜を与えられる。そして、廃神社の空間を脱出、師、狐月斎と共に『塔』最上階を目指す事に。






おまけ


凍月家の家宝の小太刀、氷牙。狐月斎が言った通り、かつて、なろう系こと、下級転生者が転生特典として下級神魔から与えられた品。


そいつは異世界で奴隷ハーレムを作ると、アホな事を企み、次々と女奴隷を買い漁り、ハーレムを作った。しかし、ある夜、一番のお気に入りの一番美しい女奴隷とヤッている最中に、女奴隷がベッドに隠していた短剣で心臓を一突きにされ、死亡。その女奴隷は、有り金全てに、氷牙を持ち出し、逃げた。


その女奴隷こそ、凍月家初代。夜の閨で男を殺すのは女暗殺者の基本にして、極意。


クズが奴隷ハーレムを作るなど、ただの死亡フラグでしかない。




更なるおまけ


狐月斎が吹雪に与えた、新しい小太刀。寒桜。冷気を操る力を持ち、氷牙の完全な上位互換。製作者は既に作中に登場しています。同じ製作者による刀も。ヒントは刀の名前。


では、また次回。

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