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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第171話 ハルカの『塔』攻略記 異界よりの来訪者達

 ???side


 ある日、突然現れた、巨大な『塔』。その日を境に世界は一変した。『塔』から出現した、魔物の大群。それは、空を、海を、大地を埋め尽くし、破壊と殺戮の限りを繰り返した。


 しかも、魔物達に私達、人間の武器、兵器は全く効かなかった。最終的に味方を巻き添えにしてまで撃ち込まれた核ミサイルも、単に辺りを破壊、放射能汚染しただけで終わった。もはや、世界の文明は完全に崩壊。いわゆるディストピアと化してしまった。


 ついでに言えば、『人間』も絶滅した。『塔』がウィルスか、毒素か何かを世界中に撒き散らしたらしく、人間は次々と倒れ、死んでいった。


 その一方で、生き残った者もいる。『人間ではなくなったが』。かくいう私もその1人。更に言えば、人間でなくなったのと引き換えに、魔物と戦う力を得た。


 今の世界では、私の様に人間ではなくなった、僅かな生き残りが細々と暮らしている。……それでも虐め、差別、争いは無くならない。派閥を作り、争いを続けている。そんな世界で私は生きている。







 そして『塔』が現れて、既に3年が経った。しかし、誰一人として『塔』の中がどうなっているのか知る者はいない。何故なら、()()()()()()()()()


 どこにも入り口が無い。壁を破ろうとしても、傷一つ付かない。最初の内は挑戦する者もいたが、やがて皆、諦めた。そもそも、毎日を生きるのが大変で、そんな事に労力を割いてはいられないからだ。


 だが、私は、()()()。何の脈絡もなく、突然現れた『扉』。そこには、こう書かれていた。


『汝の求めるものが、この向こうに有る。進むも進まぬも汝次第』


 怪しさ満点の『扉』に書かれた、怪しさ満点の言葉。普通なら、無視して立ち去る所。しかし……。


「どうせ、この世界に先は有りません。だったら、一か八か、大勝負をするのも、また一興」


 滅びに向かい進むだけの、先の無い世界。だったら、僅かでも可能性の有りそうな方に私は賭けた。怪しい『扉』のノブを掴み、開けて中へと飛び込んだ。






「…………ここは…………もしかして、『塔』の中?」


 私は()()姿()になって以来、特に鼻が利く様になった。そしてこの匂いは『塔』から漂ってくる匂い。それも、今までとは格段に強い。しかし、おかしな場所。明らかに見た目より広い。遥か彼方まで、何も無い白い床が広がっていて、柱の1本すら無い。どういう構造なのか? 建築力学を無視している。


「やれやれ、突然、現れた『扉』の向こうは謎のダンジョンですか。今更、帰れないみたいですし、先に進むしかないですね」


 振り返れば、入ってきたはずの『扉』は無い。最早、引き返す事は出来ない。先に進むしかない。


「それにしても、『扉』に書かれていた言葉」


『汝の求めるものが、この向こうに有る』


 本当なんでしょうか? ともあれ、進むしかありませんね。






 ???side


 拙者、武器職人の端くれ。良い素材を求め、世界各地を旅する者。良い素材が採れると聞けば、そこへ向かう日々。


 この世界、あちこちにダンジョンが存在し、そこを探索し生計を立てる冒険者が数多く存在している。拙者としても、冒険者達は、自身の作った武器を買ってくれる客で有り、拙者の飯の種。






 あちこちにダンジョンが存在し、それを探索する冒険者達。しかし、何事にも秩序は必要不可欠。やがて、冒険者達を纏める組織。ギルドが誕生。


 更に冒険者達も集団を作り、それはクランと呼ばれる様に。クランは大手も弱小も存在する、玉石混交。それら様々なクランが、それぞれ活動しているのが、世界の現状。そして、新しいダンジョン発見の報は、何より重要。誰にも荒らされていない未知のダンジョンは、正に宝の山故に。誰もが、未知のダンジョンを、その一番乗りを狙う日々。


 そんな中、出現したのが『塔』。当然、冒険者達は大騒ぎ。何せ、ダンジョンは中々、見付からない。故に新しいダンジョンが見付かると、毎度、大騒ぎになるのだが、特に今回は大々的に巨大な『塔』が出現。ダンジョンは巨大である程、財宝の質、量共に良くなる傾向が有る。故に、皆、我先に行こうとするが、そうはいかない格差社会。当然、大手クランが『塔』探索に名乗りを上げ、弱小クラン達を押し退け、『塔』へ。弱小クラン達は文句も言えず。


 大手と弱小、その実力差は天と地の開きが有る。とてもではないが、弱小が大手に逆らえない。そして大手はダンジョンを優先的に探索しては財宝を得て、更に強くなる。一方、弱小はろくに財宝も得られず、弱小のまま。こうして、大手と弱小の差は開くばかり。それが、この世界の常識。


 しかし……。






 大手クランの中でも、三強と呼ばれる、3つのクラン。それが呆気なく、『全滅』したとの報せが届いたのは、彼らが『塔』探索に向かった、その日の昼頃の事。彼らは、準備を整え、朝一で『塔』に向かった。それが昼時点で全滅。その事に、冒険者達は、世界は震撼した。


 彼ら、三強クランは、これまで幾つもの難関ダンジョンを制覇。何体もの強大な魔物を討ち倒してきた、実力、実績を兼ね備えた、強豪クランだった。誰もが、彼らの横暴ぶりに悪態をつきながらも、その実力は認めていた。それが、呆気なく全滅。


 ちなみに全滅したと分かった理由だが、冒険者は全員、ギルドの名簿に登録されており、死ぬと名簿から名前が消える。そして、三強クランのメンバーの名前が次々と名簿から消えていき、遂には全て消えたそうだ。即ち、全滅。






 その後、追い討ちを掛ける様に、『塔』から魔物大量発生(スタンピード)が。周辺の都市が纏めて壊滅。結果、『塔』に挑む者は、ほぼいなくなった。下手に触ると何が起きるか分からんと。今では、極僅かな者達だけが挑んでいる。しかし、誰一人として帰ってこないそうだ。


 拙者としても、興味深くは有るが、死ぬのも困る。しかしながら、最近、どうも作る品の質に行き詰まっている次第。やはり、何か新機軸が必要と考えていた所、突如、現れた怪しい『扉』。その『扉』にはこう書かれていた。


『汝の求めるものが、この向こうに有る。進むも進まぬも汝次第』


 …………随分と挑戦的な内容。しかし、本当にこの向こうに、何かが有るのか? 行き詰まっている拙者の現状を打破する何かが。


 怪しい事、この上ない。しかし、拙者が行き詰まっているのも、また事実。何か、新機軸が必要。でなければ、何も変わらない。


 パン!!


 拙者は平手で両頬を叩き、気合いを入れる。


 迷ったなら、行け。それで駄目なら、それまでよ。どうせ、いつかは死ぬのだから。


 拙者は、怪しい『扉』のノブに手を掛け、開き、その中へと歩を進めた。







『扉』の向こうは妙な場所。何も無い、真っ白な床が果てしなく広がっている。一体、ここはどこなのか? 後ろを振り返れば、入ってきた扉は無かった。……帰れないらしい。


「良い素材を求めて入ったは良いが、変な場所に出たな……。帰りたくても扉が無い。仕方ない、先に進むか」


 今更、後戻りは出来ない。迷ったなら、行け。それで駄目なら、それまでよ。どうせ、いつかは死ぬのだから。







 ???side


「よっしゃ! 獲物ゲット! 久しぶりに肉が食えるぜ! 最近、缶詰ばかり食ってたからな〜」


「ブギーッ!! ブギーッ!!」


 仕掛けた縄罠に後ろ足を捕らわれながらも、こちらに対して、牙を剥き、威嚇するのはターブ。四足の獣だ。獲物としては最上級。丸々と太った美味そうな奴だ。この大きさなら、当分、肉には困らないな。


「悪いな。お前も死にたくないだろうが、それはこっちも同じでな。きっちり食ってやるから、迷わず死んでくれや」


 暴れるターブに対し、お手製のこん棒を振り上げ、頭目掛けて、全力でぶん殴る!!


「ブギャッ!!」


 短い悲鳴と、頭蓋骨の砕ける感触。よっしゃ、即死だな。すかさず、その場で血抜き。担ぎ上げると、すぐさま退散。グスグズしていると、何が寄ってくるか分かったもんじゃない。


「……天辺を目指していた、あの頃が懐かしいぜ。こんな世の中になっちまったんじゃ、何の意味もねぇな」


 ジャングルの中からも見える、巨大な『塔』。今の滅茶苦茶な世界を作り出した元凶。


「今の世界に、俺以外の人間が生き残っているのかね? 仮にいても、信じないだろうな。ここが、帝国首都。カイゼラードだって言ってもな。本当に、面影もへったくれも無い。どこの南方のジャングルだよ」


 かつて、世界の科学の最先端を行くと言われ、帝国の威信と誇りそのものだった、首都、カイゼラード。だが、今じゃ、鬱蒼とした巨大ジャングルだ。何もかも失われちまった。せいぜい、かつての都市の残骸が、残っているぐらいか。ま、それも急速に朽ち果てているけどな。


「いずれは、俺もジャングルの養分か……。笑えねぇ」


 これ以上考えると、余計に気が滅入るので考えるのを止めて、住処に帰る。実際、現実に心が折れて自殺した奴を何人も見てきたからな。






 カイゼニア帝国。世界に名だたる科学立国。そして、徹底的なエリート育成教育でも世界に名を馳せる国。その中でも一番の名門。帝立ティゲール学院。


 この学院の凄い所は、実力さえ示せば、過去の素性も、金の有る無しも無視して、入学出来る所だ。真のエリートを育てると豪語するだけはある。


 実際、時代の最先端を行く、最高峰の学舎。だが、その実態は、この世の地獄だ。


 この学院ではポイントが全て。全生徒がポイントで評価、格付けされている。テストの点数から、普段の態度から、ありとあらゆる事柄で評価し、ポイントが増減する。


 そして、ポイントに応じて、クラスを割り振られる。一学年につき、105人。えらく半端な人数だが、それには訳が有る。


 最高のEXクラスに5人。その下のA、B、C、Dの4クラスにそれぞれ25人。ポイント順に、最上位の5人がEXクラス入り。更にA、B,C、Dと割り振られる。


 つまり、1〜5位がEXクラス。6〜30位がAクラス。31〜55位がBクラス。56〜80位がCクラス。81〜105位がDクラス。


 当然、上のクラス程、良い待遇を受けられ、下のクラス程、粗末な扱いを受ける。EXクラスは神。Dクラスはゴミってな。だからこそ、皆、ポイントを稼ごうと、他人を引きずり落とそう、蹴落とそうと、必死な訳だ。


 ちなみに俺はCクラス。態度が悪く、暴力的、反抗的ってのが理由だと。だが、Dクラスにならなかったのは、テストの点数が良かったからだと。今時、暴力だけじゃ、成り上がれないからな。スラム街出身の俺だが、この学院でのし上がり、天辺獲ってやる!!


 そう考えていたさ。……あの『塔』が出てくるまではな!!







 ある日、突然、現れた『塔』。それは、いきなり、大量の煙を噴出。その煙は凄まじい勢いで広がり、黒雲となって、世界中の空を覆い尽くしてしまった。それだけでも、大事件なのに、更に追い討ちを掛ける様に、世界中の空を覆う黒雲から黒い雨が降ってきた。


 すると、植物が異常な速度で成長、巨大化。辺りの物を片っ端から養分とし、ほんの1ヶ月程で、世界中がジャングルと化してしまった。国家もへったくれもない。全てが崩壊した。


 当然、そんな環境でまともに人間が生きられる訳がない。食料、飲料水を巡っての争いや、この状況で権力争いをするバカ。状況に悲観し自殺する奴など、世界は滅茶苦茶になってしまった。


 EXクラスの奴らは、仕切ろうとして周囲の反感を買い、袋叩きにされて死んだ。


 Aクラスは、この期に及んで、2つの派閥が主導権争いをした挙句、結局、共倒れ。


 Bクラスは一致団結、協力、助け合おうなんて抜かしていたが、その結果、みんな仲良く全滅だ。


 俺の所属するCクラスは散り散りになっちまった。


 Dクラス? 異常成長した植物に養分にされて、真っ先に全滅したよ。


 そうこうしている内に、次々と死んでいき、とうとう、俺の周りには人間がいなくなってしまった。最後に見たのが、頭がおかしくなって飛び降り自殺した、どっかの女子だったな。もう、何年前になるかな? カレンダーとかも無いからな。はっきり分からん。







 で、今は、元、軍のシェルターだった所を拠点にして暮らしている。流石に軍のシェルター、どうにか形を留めていた。しかし、いつまでもは保たないな。いい加減、ガタが来ている。


「それにしても、スラム街育ちやってて良かったぜ。でなけりゃ、とっくに死んでる。……ま、今、幸せか? と聞かれたら困るけどな」


 スラム街には、色んな奴がいてな。色々教わったもんだ。中でも役に立ったのが、どこぞの戦地帰りの元、兵士のおっさんだ。格闘、ナイフ、銃を始めとした殺人術やら、サバイバル術やら、あれこれ、徹底的に叩き込まれた。その果てにおっさんは死んじまったけどな。ありがとよ、おっさん。お陰でどうにか今も生きている。……もっとも、ジリ貧なのも事実だけどな。


「あの日以来、ずっと曇り空。まともに作物も育たない。あちこち巡って缶詰やら、保存食を探したり、獣を狩ったりして暮らしているが、いつまでもは保たないな」


 所詮、1人。しかも、文明の利器は全滅だ。かつて、世界の科学の最先端を行くと言われた都市、カイゼラードで、今じゃ、原始人暮らしだ。クソが。


「……俺、何の為に生きているんだろうな?」


 ふと、暗い考えが頭をよぎる。……ヤバい、ヤバい! つい、ネガティブに。頭を振り、ネガティブな考えを追い出す。こういう時は、しっかり食って、さっさと寝るに限る。解体したターブの肉を串に刺し、焚き火で焼く。暫くして焼き上がったら、塩を振ってかぶり付く。ソースなんて無くてな。


「美味い」


 お粗末な調理だが、空腹は最高の調味料ってな。







 事態が動いたのは、その数日後。ジャングルに食料調達に向かった俺の目の前に、いきなり『扉』が現れた。その『扉』にはこう書かれていた。


『汝の求めるものが、この向こうに有る。進むも進まぬも汝次第』


 ……何だこりゃ? 試しに後ろに回り込んでみたが、何も無い。『扉』が宙に浮かんでやがる。どんな怪奇現象だ?


 怪しい。怪し過ぎる。しかし、妙に心惹かれるんだよな。………………行くか!


 どうせ、ここにいたって、何も変わりゃしない。遅かれ早かれ、死んでジャングルの養分になるだけだ。最早、俺に失う物は何も無い……って訳じゃないが、唯一、俺に残された、この命。賭けてやんよ!!


 ……でも、その前に準備な。








 さて、これまで住処にしていたシェルターから、必要な物を持てる分だけ持ち出し、リュックに詰め込み、装備も新品一式をきちんと身に着ける。軍のシェルターだけに、装備一式やら、食料、医薬品が保管されていてな。これまでも随分、助けられた。


 出発前に、ちょっと立ち寄ったのが、死んだ連中の墓。一応、義理は通さないとな。


「じゃ、行くわ」


 墓に別れを告げ、俺は『扉』を開き、中へと進む。一体、この先に何が有るんだろうな?







『扉』をくぐった先。そこは白い床が果てしなく広がる、何も無い大広間。本当に、どうなっているんだ? 『扉』の裏側には何も無かったのに。


 だが、そんな悠長に考え事をしている場合じゃなさそうだ。


「ブヒ! ブヒ!」


 二足歩行する豚っぽい奴らが、お出迎えだ。ファンタジー物の定番のオークか? しかも、こん棒を手にしている辺り、どう見ても、仲良くしましょうって感じじゃない。こっちを殺す気満々だな。


「おいおい、ジャングルの中に扉が有るから、開けてみたけど、開けなきゃ良かったかな? ま、とりあえず、こいつらぶっ殺してから考えるか!」


 こいつは、挨拶代わりだ! 遠慮なく受け取れや!

 持ってきた装備のサブマシンガンをぶっ放す。掛かってこいや! 化け物共!







 ???side


「やっぱり、誰もいない……」


 ようやっとの思いで帰ってきた、我が家。だけど、そこには誰もいなかった。残っていたのは服や、身に着けていた品だけ。


「……あの『塔』の仕業よね」


 庭に出た私の視界に入る、巨大な『塔』。あれが、世界を壊滅させた。私が出会った生き残りは、ほんの数人。しかも、皆、()()()()()()()()


「そりゃ、私は世の中に不満が無かったとは言わないけど……。滅びろとまでは思っていなかった。それが、こんな事になるなんて……」






 私は国内、随一の名門。ローゼンシュタイン公爵家の娘として生まれた。自分で言うのも何だけど、幼い頃から、蝶よ花よと、それは大事に育てられてきたし、また、ローゼンシュタイン公爵家の娘として恥ずかしくないよう、相応の教育も受けてきた。私としても、ローゼンシュタイン公爵家の名に恥じぬよう、努力を重ねてきた。大変だったけれど、やり甲斐は有った。


 私が16歳の誕生日を迎えるあの日までは……。






 私が16歳の誕生日を迎えた、その日。『あの女』は現れた。そいつは『私の双子の姉』を名乗った。私は訳が分からなかった。こんな奴、昨日までいなかった。なのに、何故か、皆、この女を私の双子の姉だと言う。


 それだけじゃない。この女は自分がローゼンシュタイン公爵家、次期当主であり、今後は自分がローゼンシュタイン公爵家を支配すると宣言。一体、こいつは何を言っているのか? 滅茶苦茶だ。


 だが、誰もが皆、女の言う事に従った。父様も母様も、女の前に平伏し、挙げ句、その靴の裏を舐めて、媚びへつらった。更には私を縄で縛り上げ、床に転がし、殴る蹴る。なのに誰も助けてくれない。忠実な執事長も、厳しくも優しいメイド長も、執事達やメイド達の誰も。


 更に悪夢の様な光景は続く。縛り上げられ、暴行を加えられ、動けない私の目の前で、母様が。若く美しく、貞淑な、淑女の鑑と評判の。自慢の母様が、美しいドレスを脱ぎ捨て、全裸に。


 それに続く様に、メイド達もメイド服を脱ぎ捨てて、全裸に。


 極めつけが、双子の姉を名乗る女もドレスを脱ぎ捨てると……その股間には、その……殿方の……女には有るはずの無い物が、そそり立っていた。


 そして、その場で母様にのしかかり……、股間の物を、その……母様に……突き入れて……。激しく腰を前後させ……。母様が、今まで見せた事のない、下品な表情を……。涙、鼻水、涎を盛大に垂れ流しながら、聞くに堪えない下品な大声を上げて、快楽に狂い……。


 それが済んだら、今度は、メイドの中でも、若く、特に美しい者を選び、同じ様に……。それが済んだら、また別のメイドを……。


 正直、死にたかった。それが無理なら、狂ってしまいたかった。だけど……。


「悪いけど、死ぬのも、狂うのも許してあげない。しっかりと見届けなさい。ローゼンシュタイン公爵家の全て、私が貰ってあげるから。アハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 私の双子の姉を名乗る女は、そう言って、嘲笑った。それは心底、楽しそうに。愉快そうに。






 その後、私は、どこかの森の中へと捨てられた。場所は分からない。ひと思いに殺せば良いものを……。


 私をここに捨てる際に、あの女はこう言った。


「ローゼンシュタイン公爵家を手に入れたのは、ほんの序の口。いずれ、この世界全てを手に入れ、最終的に私は神になる」


 狂っている。そう思った。だが、私に反撃するだけの力も無く、女は勝ち誇りながら、去っていった。ここに来た時と同様、()()()()()。……普通の人間ではなかった。化け物が。奴の力で、父様も母様も、みんなおかしくなってしまったのね。私は、自らの無力が悔しくて泣いた。






 しかし、天は私を見放してはいなかったらしい。ふと、先を見れば、何やら、白い物が見えた。何故か気になった私は、痛む身体を引きずりながら、そちらに向かった。


「!! これは……」


 そこに転がっていたのは、人間の白骨死体。一体、いつから有るのか、既にかなり風化していた。そして、その手にはタクトの様な物が。


 白骨死体の持っている物など、気持ち悪いが、何故か、それに心惹かれた私は、タクトを手に取る。


 不思議な事に、白骨死体はかなり風化しているのに、タクトの方は、まるで劣化していない。見た事の無い、赤い硬い素材で作られ、握りもきちんと滑り止めの布が巻かれ、柄の部分には、赤い宝石があしらわれている。しかも、タクトの先は鋭く研ぎ澄まされていて、タクトというより、レイピアみたい。持ち主であろう、この白骨死体。一体、何者なのかしら?


 とはいえ、武器として、中々に使えそう。悪いけれど、貰っていく事にする。


「どこのどなたか存じませんが、貰っていきます」


 出来れば、埋葬してあげたい所だけど、私は満身創痍。そんな状況じゃない。最悪、白骨死体を1体追加する事になる。


「食料も水も医薬品も何も無い状況で放り出して、野垂れ死にさせようって辺り、本当に、嫌な女……」


 私が苦しみ、絶望し、死んでいくのが楽しみなんだろうと思う。……悔しい。家を、家族を、全てを奪われ、挙げ句、命まで奪われるなんて。


 このままやられっぱなしなんて、嫌! せめて、一矢報いたい! ……その時、右手に握ったタクトの柄の赤い宝石が光った。


「え?! 何??」


『回復魔法、ヒール発動』


 タクトから男とも女ともつかない声がした。すると私の身体が淡い光に包まれ、みるみる内に怪我が治った。痛みも無い。存分に動ける。一体、どういう事?


『前マスター死亡に伴い、新マスターを仮登録。能力、限定的に使用可能。使用可能能力。回復魔法ヒール。火炎魔法、ブレイズ。水魔法、アクエリア。風魔法、ウィンド。土魔法、ランドメイク。新マスターに、使用法をインストールします』


 困惑しているとタクトから、更に声。魔法? そんなおとぎ話が? でも実際、満身創痍だった私の身体は治った。などと考えていると、頭に何か無理矢理流し込まれる様な、嫌な感覚が。それはじきに収まり、同時に、タクトの使い方が分かった。


 信じられない様な話だが、これは異界の品。使い手の力を消費し、内蔵された魔法を使える。ただし、私は正式な所有者ではなく、あくまで仮所有者なので、使える魔法は制限される。後、そもそも、そんなに高位の魔法は内蔵されていないらしい。良い所、中級止まり。


 ただ、満身創痍の身体が治ったは良いものの、代わりにかなりの疲労感に襲われた。やっぱり、世の中、そんなに甘くない。魔法発動分、力を消費したという事。だけど、このタクト、使える。間違いなく、今後の助けになる。私は改めて、白骨死体に礼を言う。


「どこのどなたか存じませんが、本当に助かりました。せめてものお礼です。埋葬させて下さい」


 タクトに内蔵された魔法の1つ。土を操作するランドメイクで穴を掘り、そこへ白骨死体を埋葬。再びランドメイクを使い、埋める。


「とりあえず、雨風をしのげる場所を探さないと」


 私は貴族の娘だけに、サバイバルの知識、技術には詳しくない。それでも、雨風をしのぐ場所が必要なぐらいは分かる。洞窟とか、木の洞とかを探さないと。…………そうだ! もしかしたら! 私はタクトの魔法を使う事に。


「使い過ぎには気を付けないと……」


 魔法の発動は相応に体力を消耗する。使い過ぎて死んだなんて、本末転倒。で、作ったのが、土のドーム。確か、北国でカマクラとか言われていた物を真似たんだけど、中々の出来。


「とりあえず、休みましょう。後の事は追々……」


 とにかく疲れた。今は休みたい。土のドームの床は滑らかだけど、冷たく固い。いつも使っていた最高級ベットとは雲泥の差。でも、今はとにかく寝る……。






 それから何日経ったのか? 半年を過ぎた辺りから、面倒になって、数えるのを止めたし。


 しかし、人間、死ぬ気でやれば、案外、出来るもので……。私は見知らぬ山の中で、割りと元気に暮らしていた。間違っても贅沢ではないけれど、生きているだけでもありがたい。勿論、私をこんな所に追放した、あの女に復讐したい気持ちは有るけれど……。


「勝てないわね」


 私が使える魔法は、変わらずタクトに内蔵された5種類だけ。威力も大した事はない。対して、向こうは、分かっているだけでも、大人数を操り、空を飛ぶ。まだ他にも有るかもしれない。


「そもそも、現在地も、ローゼンシュタイン家がどの方角なのかも分からないし、移動手段も無いわね……」


 何より、現在地、ローゼンシュタイン家が有る方角が分からない。移動手段も無い。これではどうしようもない。


「……今頃、ローゼンシュタイン家はどうなっているのかしら?」


 ローゼンシュタイン家の人間全てが、あの女の操り人形と化した以上、ろくな事にはなっていないのは確実。しかも、あの女、この世界全てを手に入れ、最終的には神になると言っていた。


「ふざけるんじゃないわよ!!」


 悔しい!! 何も出来ない自分が!! 無力な自分が!!


 自分の不甲斐なさに、涙していたその時だった。突然の激しい地震。あまりの激しさに立つ事も出来ず、四つん這いになり、タクトの土魔法でドームを作って身を守る。暫くして、揺れが収まり、ドームから出た私は、我が目を疑った。


 ずっと遠くに巨大な『塔』が現れた。一体、何なの?!


 と思っていたら、『塔』から眩しい光が迸った! 距離が離れているのに、まるで太陽を見てしまったみたいに目が眩む。更に……。


「身体が……溶ける!!」


 身体が溶けていく。まさか、あの光を浴びたせい?! なんて事!! こんな所で死ぬなんて……。急速に全身が溶けていく。最後の言葉を言いたくても、もう、声も出せない。


(ごめんなさい、父様、母様、ローゼンシュタイン家に仕えるみんな。敵を取れなくて……)


 そこで私の意識は途切れた……。







 ポツ、ポツ、ザァアアアーー


 頬に当たる冷たい感触、更に水が掛かる感触に目が覚めた。


「………………私、生きている?」


 突然現れた巨大な『塔』から、突然放たれた、謎の光を浴び、全身が溶けたはずの私。なのに、生きている? 周りを見渡せば、意識を失う前の景色。ただ……。


 私の声が変わっている。なんというか、大人っぽい声に。それに、身長も伸びているらしい。目線が高い。挙げ句、髪の色まで変わっている。赤毛だったのが、黒髪に。極めつけが……。


「これ、明らかに私の背中から生えているわね……」


 鳥の様な、漆黒の翼が生えていた。後、全裸。獣の皮を剥いで作った、一応、服は、近くに落ちていたけど、もう、サイズが合わないわね。作り直さないと。とりあえず、最低限、股間は隠さないと、ただの痴女だわ。


「後、どんな顔になっているかね」


 ローゼンシュタイン公爵家の娘だけど、残念ながら、私は美人と評判の母上に似なかった。はっきり言って地味。ともあれ、近くに落ちていたタクトを拾い、土魔法で地面に窪みを作り、続いて水魔法で窪みに水を満たし、水鏡を作って、顔を映す。


「…………美人だわ。文句なしに美人だわ」


 水鏡には、やや吊り目ながら、文句なしの美人が映っていた。試しに頬をつねると、水鏡に映った姿も同じくつねるから、どうやら、本当に今の私の顔らしい。見た感じ、元の私より少し歳上かしら? 18〜19歳ぐらいかしらね?


「とにかく、まずは衣服を何とかしましょう。後はそれから」






 さて、その後、獣の皮で作った元の服を材料に、簡単なスカートと、胸当てを作る。はしたない格好と思うけど、全裸の痴女よりはマシ。で、今後の方針を決める。


「ここから脱出する。出来れば、ローゼンシュタイン家に帰る」


 今まで、現在地が分からない、ローゼンシュタイン家の有る方角が分からない。移動手段が無いという事で、この地で燻っていたけれど、今の姿の私なら、ここから脱出出来るかもしれない。


 どういう訳か、今の姿になってから、背中の翼での飛び方が分かった。試しに飛んでみたところ、問題なく飛べた。これならいけるかもしれない。


「まずは、現在地と周辺の確認ね」


 私は住処にしている洞窟から出ると、開けた場所に行き、背中の翼を広げる。


「じゃ、行くわよ!」


 勢い良く羽ばたき、空へと舞い上がる。みるみる内に地上が遠ざかり、上空へ。


「凄い……。これが、空……」


 初めて見る上空からの景色に息を飲む。……っと、いけない、いけない。現在地の確認と、周辺の確認。


 羽ばたいて上空に滞空し、周辺を見渡す。かつて見た世界地図の知識と照らし合わせる。


「う〜ん。どうやら、ここは、南東の大森林地帯みたいね。となると、ローゼンシュタイン家の有る方角は北西ね。ただ、地図とか無いから、はっきりとは分からないわね」


 上空から見た景色と、世界地図の知識を照らし合わせ、大体の現在地と、ローゼンシュタイン家の方角を判断。


「戻って準備しましょう」



 



 そして、私は半年程過ごした、大森林地帯に別れを告げ、上空からの景色と、世界地図の知識を元に、北西を目指して、一路、空の旅へ。途中、何度も道に迷ったものの、3ヶ月程で、懐かしいローゼンシュタイン家へと、帰ってきた。しかし……。






 ローゼンシュタイン家には、誰もいなかった。ただ、衣服や、身に着けていた品が、落ちているだけ。憎き、あの女の姿さえ無かった。


 まぁ、そうではないかと思っていたけれど。『塔』から迸った、あの怪しい光。あれは世界中を襲ったらしく、ほとんどの者達が溶けて死んだそうだ。ここに来る途中出会った、牛の顔になった農家のおじさんや、半魚人になった漁師のおじさんが、そう教えてくれた。


 半魚人の漁師のおじさん、悲しそうに言っていたっけ。


「みんな溶けて無くなっちまった。俺もこんな姿になっちまった。この世はもう、終わりかもな」


 その言葉を私は否定出来なかった。恐らく、人類は絶滅したのだろう。もう、かつての世界には戻らないだろう。


 ちなみに、あの女だけど、やはり、溶けて無くなったらしい。ローゼンシュタイン家の当主の間。以前には無かった、金銀宝石で飾り立てた玉座が有り、そこには、あの女が着ていたドレスや、身に着けていたアクセサリーの数々が落ちていた。……死んだ事に関しては、ざまぁ見ろと思う反面、私の手で敵を討ちたかったという思いも有る。






「……これから、どうしようかしら?」


 ローゼンシュタイン家に帰ってきたものの、もう誰もいない。憎きあの女もいない。そもそも、世界自体が終わってしまった。今の私にはするべき事が無い。


 しかし、その油断が、思わぬ事態を招いた。背後からの不意打ち。背中を斬り付けられる。何者?!


(ヨコセ! ソノ美シイ身体!)


 聞こえてきたのは、くぐもった声。振り返れば、何本もの触手を生やした、肌色の大きな粘液の塊。斬り付けてきたのは、触手か。しかし、その声。くぐもってはいるものの、聞き覚えが。まさか!


(ヨコセ! ソノ美シイ身体ヲヨコセ! 私ハ神ニナル!)


 間違いない。あの女! 生きていたとは。しかし、酷い姿。最早、原型を留めていない。不気味な粘液の塊。触手を振り回し、襲い掛かってきた。


「まさか、生きていたとは! 父様、母様を始めとしたみんなの敵。そして、私を陥れてくれた恨み。きっちり晴らしてあげるわ!」






 私と、粘液の塊と化した女の戦い。しかし、思った以上に苦戦。そもそもが火力不足。しかも粘液だけに、物理的な攻撃は無効。そして向こうは何本もの触手を振り回して攻撃してくる。この触手が鋭利な刃であり、まともに当たれば、只では、済まない。空を飛べれば良いが、そうはさせじと妨害してくる。


(ヨコセ! ソノ美シイ身体ヲヨコセ! 私ハ神二ナル!)


 さっきから、同じ事しか言わない辺り、既に人格が壊れているのでしょう。これ以上、付き合っていても時間の無駄。奥の手を使うしかないでしょう。勿体ないですが、他に決め手が無い。


 今の姿になった際に、タクトから伝えられた、最後の魔法。1回限りの大火力魔法。


「先に謝ります。ごめんなさい、元の持ち主さん」


 そう言って、タクトに内蔵された最後の魔法を発動。


「ファイナルノヴァ!!!!」


 タクトのリミッターを解除、暴走状態にして標的に向けて発射。大爆発を起こす魔法。タクトを使い捨てにする、その性質上、1回しか使えない。だが、威力は折り紙付き。


 私の手から放たれたタクトは、矢の如く、一直線に飛び、粘液の化け物に突き刺さり、大爆発を起こした。ただ、その威力は私の予想以上であり、私まで爆風に吹き飛ばされてしまった。







「……う………何とか……生きているみたいね………」


 爆風に吹き飛ばされて、意識を失っていたけれど、どうにか生きていた私。向こうには大きな窪地が出来ていた。どうやら、今度こそ、あの女は死んだらしい。ようやっと、敵討ちを果たせた。しかし……。


「これは……失敗した……かもね……」


 爆発の際に飛んできたであろう、鋭いガラクタの破片が、お腹に突き刺さっていた。あちこちにガラクタが散らばっていたし。


「まぁ、敵討ちは果たせたし……。もう、良いかな……」


 敵討ちを果たす。その一念で生きてきた。それを果たした以上、もう良いかなと思った、その時。


 私の目の前に『扉』が現れた。その『扉』にはこう書かれていた。


『汝の求める物が、この向こうに有る。進むも進まぬも、汝次第』


 ……何かしらこれ? 死ぬ前の幻覚? それにしても、胡散臭い謳い文句ね……。


 そう思った私だが、それでも、その『扉』に手を伸ばした。この期に及んで、私は死にたくないらしい。そして『扉』を開け、中へ。


『扉』の向こうは何も無い、白い床が果てしなく広がる大広間。


「うぅ……………こ…こ…は…………どこ?………扉が………見え……たから……開け…た…けど……幻覚……なの……?……」


 およそ、この世の物とは思えない光景。やはり、死ぬ前の幻覚だったのかし……ら……。







 狐月斎side


「後継者問題ですか。確かに悩ましい所ですな」


「そうですわね。私達といえど、永久不滅ではありませんもの。せっかくの蓄えた知識や、磨き上げた技、受け継いで欲しいですわね。」


「しかし、狐月斎殿の言う通り、私達の後継者にふさわしい者がいないのも、また事実」


 現在、後継者問題について話していた。実際、頭の痛い問題だからな。せっかくの知識や技術。私達の死と共に失われるのは、やはり、しのびない。


 しかし、現実問題として、クーゲル殿の言う通り、後継者にふさわしい者がいない。困ったものだ。何せ、旧世界時代から探し続けているが、未だに見付からん。


「『塔』よ、どうせなら、つまらない下級転生者ではなく、私の後継者となるにふさわしい奴を出してみろ。出来るものならな」


 冗談半分で言ってみた。


「ふむ。某もお願い申す。出来るというのなら、ですがな」


「私からもお願いしますわ。出来るのなら」


「この流れに私も乗ろう。後継者にふさわしい奴がいるというなら、会わせてみろ。出来るのならな」


 面白がって、他の3人も便乗。『塔』に対して、後継者にふさわしい奴を出してみろと挑発。すると……。


『出来らぁ!!』


 そう言う声と共に、突如、私達の足元に展開される転移陣。不味い! どこかに飛ばされる! 流石は第三代創造主が創った『塔』による強制転移。三十六傑たる私達でも逃れる事叶わず、それぞれ、バラバラにどこかへと、飛ばされる羽目に……。口は災いの元。迂闊だった……。







 クリスside


「う〜ん。『塔』内のどこかである事は間違いなさそうですが……。完全にはぐれてしまいましたわね」


『塔』による、強制転移。飛ばされた先は、白い床が果てしなく広がる、何も無い大広間。周囲を見渡すと……。誰か倒れていますわ! 狐月斎さん達ではないですわね。


 …………どうしましょう? 下手な親切は仇になるのが、『裏』の世界。放っておくのが無難。しかし……。


「やはり、見過ごすのは、気が引けますわね。まぁ、危害を加えるつもりなら、三十六傑たる私の力を思い知らせてやるだけですわ」


 やはり、どうにも見過ごせず、向かう事に。いざとなれば、殺せば良いだけですし。


 で、近くに来てみて、びっくり! 有翼人?……いえ、違いますわね。これは驚きました。堕天使です。しかも、ここまで格の高い堕天使は珍しい。堕天使は下っ端は化け物ですが、上位程、美しい姿をしているのです。しかし……。


「おかしな堕天使ですわね。普通、二翼は最下級堕天使なのですが……」


 天使、堕天使、共に、翼の数が格を表しています。翼が多い程、格が高い。堕天使ルシファーの十二翼は有名ですわね。で、この堕天使。翼は二翼。最下級ですわね。普通なら、最下級堕天使はとても元、天使とは思えない、見るからに醜い化け物。


 ですが、彼女は最下級堕天使でありながら、とても美しい姿をしていました。あと、邪気を感じない。堕天使はとにかく邪気が凄い。流石は天界を追放されただけはあります。どんなに表面を繕っても隠し切れない邪気を感じる。それこそ、寝ていても。しかし、彼女からは感じない。


「……判断材料が足りませんが、推測するに、彼女は()()使()()()といった所でしょうか。危険は無さそうですし、治療をしてあげましょう」


 見れば、お腹にガラクタの破片が突き刺さった、重傷の身。堕天使擬きだからこそ、何とか生きていたのでしょうね。回復魔法を掛けながら、破片を取り除く。後は、本人が起きてから聞きましょう。


 それにしても……。他の皆さんは大丈夫でしょうか? まぁ、そう簡単に死ぬタマではないですが。






「君も黒巫女にならないか?」


「某より提案が有ります。某の弟子になりませぬか?」


「無闇に人様に銃を向けてはいけない。常識だぞ?」




今回は、別世界での『塔』絡みの事件からの、『塔』への新たな来訪者達。


『塔』は現れたからといって、必ずしも中に入れるとは限らない。『塔』が自身の現れた世界の住人が弱いと判断した場合は、間引きをしてくる。


その上で、生き残った強者だけが、『塔』に入る資格が有ると、招かれる。


今回は、招かれた内の4人に焦点を当てました。実際には他にも何人か招かれています。


『塔』の間引きについて。


ウィルスによる肉体変化。環境の急激な変化。肉体を分解し、再構成する事も。様々な手段で、その世界の住人達を間引き、選抜する。死亡率は非常に高く、大部分の人間は死に、生き残るのは、ほんの一握り。故に、基本的にその世界は滅ぶ。もっとも、第三代創造主からすれば、そんな弱い人間達が悪いの一言。所詮、全ては自分のおもちゃ。


では、また次回。



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