第170話 ハルカの『塔』攻略記 ルール有ってのゲーム。デスゲームも例外ではない
ハルカside
『塔』攻略2日目。朝食後、準備を済ませた僕達は、戦姫の持つ『銀の鍵』の力で、昨日撤退した500階へと向かう。しかし……。
「…………昨日と全然違うんですけど」
昨日、撤退した時点では、500階は非常に広く、天井も非常に高い、大広間の階層だった。ところが、再訪した今日は……。
「ジャングルになってるな。つくづく無茶苦茶なダンジョンだな」
イサムが言う様に、大広間から、鬱蒼としたジャングルに変わっていた。本当に無茶苦茶だ。
「別に驚く程の事ではありません。むしろ、この程度の変化で済んでいる事をありがたく思いなさい。この先、更に悪質になりますよ。辺り一面が突然、溶岩地帯や、凍土、砂漠になる事さえ、ザラです」
だけど、戦姫曰く、別に驚く程の事ではないと。むしろ、この程度の変化で済んでいる事をありがたく思えと。この先、更に悪質になると。突然、辺り一帯が変化する事も有ると。
「もしかしたら、突然、深海や宇宙空間に放り出されるなんて事も有るんじゃ……」
突然の環境変化ギミックが有ると聞き、もしかしたら、深海や宇宙空間に変化するかもしれないと危惧する。やりかねない。
「それは有りません。そんなあっさり死ぬ様なギミックなど、第三代創造主からすればつまらないですからね。既に知っての通り、第三代創造主は、下界の者達の愚かさ、無様さを眺めるのを無上の喜びとしていますから」
「……つくづく悪趣味ですね」
「それに関しては、全く同感です」
「環境変化のギミックなんて、序の口ニャ。気を付けろニャ。『塔』の後半戦からのギミックで特に怖いのが、『禁則事項』のギミックニャ。定められた禁則事項を破ると、塩の塊にされて即死ニャ。」
魔博から告げられた恐怖のギミック、『禁則事項』。定められた禁則事項を破ると塩の塊にされて即死。……旧約聖書のロトの奥さんですか。あの人、後ろを振り返るなという言い付けを破って後ろを振り返ったせいで、塩の塊にされてしまった。
「第三代創造主は、禁則事項に気付かず、バカ共が違反して塩の塊になる様を。何が起きているのか分からず、恐怖と混乱の中、次々と塩の塊と化していく様を眺めては、愉悦に浸っていたそうニャ」
「悪趣味の極みですね」
あっさり死ぬのはつまらないが、その一方で、ルールを定め、それに違反した者は死ぬギミックを作る。正にゲーム感覚か。つくづく悪趣味だな。
それはともかく、今は、目の前の問題に取り組まないと。ジャングルだから、見通しが利かないし、足場も悪い。そして何より、いつ、どこで、何が襲ってくるか分からない。非常に危険だ。
『本機が道を切り開きます。皆様は後を付いてきて下さい。くれぐれも周辺への警戒は怠らないで下さい』
ザッ君が道を切り開いてくれると申し出てくれた。片手斧を取り出し、それで行く手を阻む樹木を切り払いながら道を作ってくれるので、その後ろを付いて行く。
……戦場で歩兵が必要な理由がよく分かる。単に大火力で殲滅すれば良いってものじゃない。道を切り開き、拠点を制圧する為にも必要なんだ。それと、こういう樹木の生い茂る状況では、片手斧や山刀が生きるな。邪魔な樹木をたたっ切る事が出来る。
それとは別に、確認しないといけない事が有る。最優先事項だ。
「魔博、先程の禁則事項の内容ですが、どうやって確認するんですか? 確認方法は必ず有るはず。でないと、ゲームとして成立しません」
それは禁則事項の内容の確認方法。デスゲームといえど、ゲームである以上、ルールは有るはず。単に禁止するだけでは、ただの理不尽。ゲームと言えない。ルール有ってのゲーム。
「鋭いニャ。確かにおミャーの言う通り、禁則事項の有る階層には、必ず禁則事項が記されているニャ。もっとも、読める、分かるとは限らないニャ」
魔博に聞いてみた所、嫌な答えが返ってきた。なるほどね。禁則事項は確かに記されている。ただし、読める、分かるとは言っていない。詐欺師の手口だな。
「ちなみに、よく出る禁則事項は『異能禁止』『道具禁止』ニャ。チート云々のなろう系のバカにぶっ刺さるニャ。塩の大量生産ニャ」
『異能禁止』『道具禁止』の階層。これまで異能や道具に頼ってきた者程、逆にやられる事になる。あからさまな、なろう系殺し。本人の素の実力が問われる。チート頼みのバカは、ここで全てふるい落とされる訳か。……主人公気取りの無能が死ぬのは実に喜ばしい事だね。
努力したからといって、報われるとは限らないが、何の努力もせず、最強だの、無双だの、無敵だのとほざき、異世界を見下すクズ共は不愉快極まりない。異世界でスローライフとか言っている奴もだ。異世界以前に、現実を舐めるな。真剣に農業や開拓をしている人達に謝れ!
まぁ、異世界でスローライフなんて舐めた事を言っている奴らは、皆、失敗して死んだとナナさんから聞いたけどね。そんな簡単に農業やら開拓やら出来る訳ない。はっきり言って、異世界でスローライフなんて言っている奴は、わざわざ死亡フラグを立てているバカだ。
ともあれ、『異能禁止』『道具禁止』の階層は、なろう系のバカ共の処刑場となる訳だ。なろう系転生者の魂の処分場である、冥界の焼却炉がフル稼働になりそうだね。
逆に言えば、それら禁則事項エリアを突破しているのは、チート頼みではない、本物の実力者達という事。より一層、気を引き締めていかないと。
……当然、あの三十六傑4人組は禁則事項エリアを突破し、その先にいるんだろうな。あの人達は、本物の実力者揃いだし。
狐月斎side
「またですな」
650階、ひたすら広いだけの階層。そこには幾つもの人間サイズの塩の塊が存在していた。もう、何回目の光景か。その光景に呆れる狂月殿。
「全ては自業自得」
私はそう言うと、この階層の入り口そばに有る、石像を見る。その石像の台座には石板が付いており、そこにはこう書かれている。
『この階層における、全ての異能使用を禁じる。禁を破りし者には、死を』
「確かにルールは書かれているな。もっとも、無能に読ませる気は無いが」
確かに石板に禁則事項は書かれている。だが、誰でも読める訳ではない。一定以上の実力を持つ者にしか見えない。レベル換算で言えば最低限、300以上。最下級悪魔、レッサーデーモンにどうにか勝てるかどうかという所だな。逆に言えば、それに満たない奴は全て足切りという訳だ。
ちなみに、なろう系転生者こと、下級転生者はレベル99が限界。つまり、なろう系転生者には石板に書かれている禁則事項は絶対に見えない。
更に言えば、仮に書かれている内容が見えたとしても、読めるとは限らない。
何故なら、禁則事項は神魔の文字。神威文字で書かれているからな。そんじょそこらの連中には読めん。相応の教養が必要。つまり、力と知識、両方兼ね備えねばならん。
「第三代創造主よ。貴方から見ても、あのクズ共は不愉快極まりないらしいな」
禁則事項の書かれている石板付きの台座の上。そこに鎮座するは、カレー皿とワイングラスを手にした胡散臭い神父の石像。即ち、第三代創造主の石像。……この嫌らしい薄ら笑いを浮かべた顔。初めて会い、転生した時。あの時もこの顔をしていたな。今、思い出しても腹が立つ。
そんな第三代創造主だが、多元宇宙の頂点たる創造主としての務め。多元宇宙の更なる発展、繁栄という事に関してはきちんとやっていた。歴代創造主の治世の中でも、こいつの治世の時が最も多元宇宙が発展、繁栄した。今の世界に残る古代の知識、技術はこの時代の遺産が大部分を占める辺り、その偉業がよく分かる。
……ただし、善意からではなく、あくまで世の中が停滞してはつまらないという理由からだがな。奴にとって、多元宇宙は遊びの場でしかなかった。多元宇宙が発展したのも、結果的にそうなっただけに過ぎん。とはいえ、偉業は偉業。奴の働き無くして、今の多元宇宙は無い。認めるのは癪に障るがな。
などと、物思いに耽っていると……。少し先に空間の揺らぎが発生。何者かがこの階層に転移しようとしている。
「誰か来ますわね」
「果たして誰なのか? ハルカ・アマノガワ一行なら、良いのだがな」
「バカの相手はうんざりですからな」
各々、思い思いの言葉を口にしつつ、油断せず、臨戦態勢を取る。そして現れたのは、残念ながら、ハルカ・アマノガワ一行ではなかった。違ったか……。
「外れ、か」
私は現れた者達を見て、即座に判断する。くだらない雑魚だ。他の3人も、同感らしい。
出てきたのは高校生らしい少年1人と、同じく高校生らしい少女10人程。少女達は全員、少年に対し、ベタベタとくっついている。浅ましい上に下品だな。少年の方はそれをたしなめつつも、その表情からは、支配者の傲慢さが隠し切れない。それと全員から、異能の気配を感じるな。……後、こちらを見下している気配もな。クソガキ共が。典型的なハーレム系の奴か。まぁ、こういう手合いの言う事はいつも同じ。
「おやおや、先客がいたとは〜。もしかして、冒険者さんかな〜? わざわざ、危険を冒してまで、大変だね〜。まぁ、ここで会ったのも何かの縁。そこの女性2人、俺のハーレムに入れてあげようじゃないか。あ、野郎はいらないから、死ね」
「キャ〜〜、釜瀬様、優しい〜〜」
案の定、私とクリス殿にハーレムに入れてやると、狂月殿、クーゲル殿はいらないから死ねと言い出した。そして、そんな少年をおだてる少女達。……実にくだらない。
「寝言は寝てから言え。後、死にたくなければ、今すぐ元の場所に帰れ。死ぬぞ?」
殺す価値すら無い、くだらない連中だ。わざわざ相手にするのも馬鹿馬鹿しいので、今すぐ帰れと告げる。まぁ、聞く訳無いが。
「……はぁ? 何言ってんの? 俺はハーレムに入れてやるって言ってんだよ!! 俺に逆らう気か?!」
「そうよ! そうよ! 何、釜瀬様に逆らってんのよ! この狐!」
予想通り、キレた。取り巻きの少女達もギャーギャー騒ぐ。下品な連中だ。類は友を呼ぶとは真理だな。所詮、カスの周りにはカスしかいない。そんな中、私の耳は、とある音を捉えた。……ピシピシ。微かにひび割れの音が聞こえる。敵出現の前触れだ。
「もう一度だけ言う。帰れ」
最後の忠告をしてやる。しかし、聞き入れない。
「黙れ!! 俺に指図するな!! 俺を見下すな!! 俺はハーレム王、釜瀬 文大様だ!! 俺を崇めろ!! 讃えろ!! 這いつくばって、許しを請え!! お前みたいな女は黙って股を開いて、俺に犯されろ!!」
「断る。後、そういう強い言葉を使うな。自分はバカで下品な雑魚ですと、わざわざひけらかしているだけだぞ? 本物の実力者はそんな事は言わん。言う必要が無いからな。あぁ、バカで下品な雑魚には分からんか。すまんすまん、私とした事が、つい、うっかり」
指図するな、見下すな、挙げ句、俺を崇めろ、讃えろ、股を開いて犯されろと騒ぐので、皮肉たっぷりに煽ってやる。こういう手合いは、コンプレックスの塊だからな。そこを突いてやれば、すぐキレる。
「黙れーーーーーーっ!!!!!!」
顔を真っ赤にしてブチ切れ、異能で私を殺そうとする釜瀬。……愚かな。
次の瞬間、釜瀬は塩の塊と化した。この階層は『異能禁止』だからな。異能を使えば、即座に塩の塊にされる。
「キャーーッ!! 釜瀬様が!!」
で、釜瀬が死んだ事で騒ぎ出す少女達。しかし、誰一人として、釜瀬の敵を取ろうとする者はいない。それどころか、我先に逃げようとする始末。所詮、その程度の関係。忠誠だの、愛情だの皆無。しかし……。
突如、床や壁が砕け散り、そこから敵が湧き出る。今回は昆虫系。全長3メートルは有ろうかという巨大蟻。ガチガチと顎を鳴らし、獲物に襲い掛かってきた。狙いは少女達。そして始まる少女達にとっての地獄絵図。
異能を使おうとした途端、禁則事項違反により、塩の塊と化して即死。だが、それはまだ、ましな方。大半はパニックを起こし、異能を使う前に捕まり、巨大で強靭な顎で噛みちぎられ、貪り食われていく。巨大蟻達からすれば、食い放題のパラダイスだろうな。
巨大蟻達は私達の方には寄ってこない。獲物として狙うなら、弱い方を狙うのが当然。意外と賢いらしい。助けてやる筋合いは無いので、高みの見物を決め込んでいたが、じきに巨大蟻達の食い放題タイムは終わったらしい。また、帰っていった。
「さて、先を急ぐか」
わざわざ覚えておく程の価値も無い連中だ。しかし、バカの相手はほとほと、うんざりするな……。
「お疲れ様でした、狐月斎殿」
「お気遣い感謝する、狂月殿」
ねぎらいの言葉を掛けてくれる狂月殿に礼を言い、最上階を目指し歩を進める。
「しかし、まともな奴はいないのか? ハルカ・アマノガワ一行以外、バカばかりだ」
あまりにもバカばかりの状況に、愚痴をこぼす。頼むから、天才とまでは望まないから、せめて、人並みのまともな感性を持つ奴が出てきて欲しい。
「特に今回は酷いな、狐月斎殿。さっきも、廃嫡された貴族の息子とやらが、闇の魔術うんたらとか、理想国家を築くとか、アホな事を言っていたが……」
「確か、弟が光の紋章に選ばれ、自分が闇の紋章だったから廃嫡されたとか、何とか言っていましたわね。聞いてもいないのに、家庭事情をペラペラ喋ってくれましたけど、弟は強欲。兄は薄っぺらい理想主義。どっちもどっちのバカ兄弟ですわね」
「理想国家。バカの定番ですな。そんなもの、人が人である限り、不可能。人には欲が有る、感情が有る。それらが争い、災いを生む。後、国家運営を舐め過ぎですな。極めつけが、どんな国家もいずれ衰退し、滅ぶのです。永久不滅の国など無いのです」
「まぁ、くだらん戯言ばかり吐く故、首を刎ねたが」
少し前に出くわしたバカな元、貴族のガキについても触れる。理想国家を建国すると、バカの定番台詞を吐く故、即座に首を刎ねた。つくづく、バカはくだらない妄想ばかり口にする。現実を舐めるな。
何より、なろう系のバカの語る理想国家とは、自分にとっての理想国家。間違っても、万人が幸せになれる理想国家ではない。
ひたすら周りから崇められ、讃えられ、全てが自分の思い通りになる、自分にだけ都合の良い国家。自分に従う者だけが存在し、従わぬ者、逆らう者、苦言を呈する者は、存在すら許さない、独裁国家。それがなろう系の理想国家だ。
代表的なのが、ありふれた職業で最強云々のナグモ某だ。確か、魔王を名乗り、魔人族とやらを民間人に至るまで虐殺し、その事を屁とも思っていなかったな。実に元、最底辺のオタクらしい、下衆の所行だ。嫌われるのも虐められるのも納得だ。
だがな、仮に理想国家を建国し、全てが自分の思い通りになったとしても、じきに行き詰まる。やる事が無くなる。そうなれば、後に待つのは、どうしようもない退屈という地獄だ。
そうだな。現実嫌いでゲームばかりのクズにも分かりやすく言えば、全てのイベントをクリア。レアアイテムも制覇。エンディングも制覇。ステータスは全て最大。……こんな状態で、このゲームをする意味が有るか? 無いな。
何より、最終的に真十二柱が誅殺に来るぞ。なろう系の連中は、世界の理さえ無視して、好き勝手するからな。先の自称魔王の大量虐殺犯、ナグモ某など、間違いなく真十二柱による誅殺対象だからな。罪状は、神殺し、魔王僭称、大量虐殺、幾らでも出てくる。
まぁ、その辺は、某スライムやら、某骸骨やら、他のなろう系の連中も似たようなもの。結局、理想国家という名の独裁国家を作りたいだけ。所詮、最底辺のクズ。生前、他者に虐げられていたから、今度は、他者を虐げる。その程度の発想しかない連中だ。そんな連中の作る国など、じきに崩壊し、消え去るだけ。そう考えると、歴史に名を残した帝国達の凄さがよく分かる。
もっとも、なろう系の連中が良い気になっていられるのも、長くは無いだろう。小耳に挟んだ情報によると、近い内に、真十二柱 序列二位 魔道神クロユリと序列九位 死神ヨミによる、なろう系の一斉処分が始まるらしい。遂に動くか。チートに頼り切りのクズ共は、阿鼻叫喚の地獄を味わう事になるな。自業自得だが。更に、その先の計画も有るらしい。遠からず、多元宇宙は大きく変わる事になるだろう。……果たして、その時、私は生きているのだろうか?
現状、私が死ねば、私の知識、技術の全ては失われる。後継者を考えないでもなかったが、ふさわしい者がいなかった。某お労しい兄上の気持ちがよく分かる。兄上も結局、自身の編み出した技を後世に伝えられず、その死と共に、全て失われてしまったからな。あれは実に惜しいと思った。どこかに、私の弟子にふさわしい者はいないものか? ハルカ・アマノガワは既に師がいるしな。横取りは出来ん。悩ましい所だ。
…………これがフラグだと、暫く後に知る事になる。
ハルカside
501階。今回は普通に500階から上がってきた。上層階になる程、ショートカットが見付からなくなるせいだ。先が思いやられる。この階層は、見渡す限り、草原。相変わらず滅茶苦茶だな。
ん、何か有る。通路から出た先に見えた物。……石像だ。台座の上に鎮座する、カレー皿とワイングラスを手にした、胡散臭い神父の石像。某作品の愉悦神父によく似ている。
「それが第三代創造主の石像だニャ。後、台座に付いている石板を見てみろニャ」
魔博曰く、第三代創造主の石像だと。これが、今回の騒動の元凶。第三代創造主か……。嫌らしい薄ら笑いを浮かべた顔が、地味にムカつくな。そして台座に付いている石板を見る。そこには、こう書かれていた。
『この階層における、一切の道具の使用を禁じる。禁を破りし者には、死を』
「この階層における、一切の道具の使用を禁じる。禁を破りし者には、死を。と書かれていますね。それも神威文字で」
石板に書かれている内容をそのまま読み上げ、魔博に告げる。
「へ〜。やっぱり見えるニャ。まぁ、そうでなければ、話にならないニャ」
含みの有る言い方。この石板、何らかの細工がしてあるんだな。あれだけ性格の悪い、第三代創造主が作った物だから、当然か。
「この石板、何らかの細工がしてあるんですね? 誰でも読める訳ではない細工ですか?」
魔博の言い方から、予想を立てる。魔博は僕に対し、やっぱり見える、と言った。普通に見えるなら、わざわざそんな事は言わない。
「その通りニャ。その石板に書かれている内容を見るには、一定以上の実力が必要ニャ。逆にそれに満たない奴には見えないニャ。それに、さっき、おミャーが言った通り、神威文字で書かれているから、バカには読めないニャ。力と知識、両方を兼ね備えた奴だけ読めるニャ」
「なるほど。足切りですか」
「そういう事ニャ。弱者は死ね。愚者も死ね。そんな奴ら、いらない。優秀な者だけ、生きる価値が有る。それが第三代創造主の考え方ニャ。まぁ、否定はしないニャ。無能なクズはさっさと死ね」
予想通り、石板には細工がされていた。書かれている内容を見るには、一定以上の実力が必要な細工。しかも、神魔の文字、神威文字で書かれている念入りぶり。弱者、愚者は、全て切り捨てる仕様だ。……後、最後に素が出ましたね、魔博。
ともあれ、この階層では道具が使えない。武器も駄目なんだろうな。
この階層のあちこちに有る、人間サイズの塩の塊。そのそばには、様々な武器やら、道具やらが落ちている。使った瞬間、禁則事項違反で塩の塊にされたんだな。無知とは恐ろしい。もっとも、第三代創造主からすれば、禁則事項を読めないのが悪いの一言だろうけど。
「つまり、この階層では、武器、道具は一切、使えないと」
「使ったら、塩の塊の仲間入りニャ。そうなりたければ、勝手にしろニャ」
確かに禁則事項は恐ろしいが、第三代創造主からすれば、その程度、乗り越えてみせろって事か。ある意味、試練と言える。ただし、第三代創造主の愉悦の為に有る試練だけどね。クソが。
「ま、こういう武器が使えない状況も、これまで何度も有ったしな」
イサムがそう言い。
「武器が無いから戦えません。殺さないで下さいなんて言い訳、通じる程、甘い生き方はしていませんし」
竜胆さんもその後を継ぐ。
「僕もナナさんから、魔法だけじゃなく、武術も叩き込まれました。ナナさん曰く、真の一流の魔法使いは、魔法が使えない、効かない状況も考慮しているもんだ、って」
「良い師ですね。魔法を過信する魔法使いは所詮、三流以下。真の一流の魔法使いは、魔法も魔法以外も一流なのです」
僕もナナさんからの教えについて語り、戦姫が良い師だと褒めてくれた。
一見、普通に会話しているみたいだけど、既に全員、臨戦態勢。来たよ、敵が。金属製のマネキン。メタルソルジャーの大群が。しかも、黒曜石の様な光沢の有る黒い身体。旧世界の金属、オブシダイト製のオブシダイトソルジャーか。オリハルコンより硬い、厄介な相手。
「禁則事項って、敵にも適用されるんですね」
「禁則事項は、その階層にいる者全てに適用されるニャ」
今回のオブシダイトソルジャーは全員、素手。禁則事項は、敵にも適用されるのか。変な所で公平だな。理不尽系のゲームだと、プレイヤー側が一方的に不利な条件を押し付けてくるものだけど。
「一方的な理不尽の押し付けは、第三代創造主の美学に反するらしいので。そんな展開は面白みに欠けるとか」
「その辺は同感です。一方的な蹂躙なんて、単なる作業ですからね。そりゃ、つまらない」
第三代創造主の好みは、泥沼の醜い争い、殺し合い。その果てに、本物の実力者が出てくれば、なお良し。出てこなくても、バカ共の破滅を眺めて愉悦に浸るので、それもまた良し。……クソが。
ともあれ、相手はオブシダイトソルジャー。物理も魔法もほとんど効かない。禁則事項により、武器、道具も使えない。
しかし、攻略法は必ず有る。腹立たしい相手だけど、第三代創造主は絶対に倒せない敵は配置していない。戦姫が言った様に、第三代創造主は一方的な理不尽の押し付けはしない。それではゲームが成立しないからだ。ルール有ってのゲーム。それが、デスゲームだとしても。
そして、ルールは無闇矢鱈と変えてはいけない。……貴方の事だよ、有名デスゲーム作品のK場A彦。自分だけ不死身設定を付けるな、セコいんだよ。後、主人公に正体を見破られたからといって、ルールを変えるな。第三代創造主が知ったら笑うだろうね。『ルールをコロコロ変える小物が』ってね。
それはそれとして、オブシダイトソルジャー対策。とにかく硬い。今回は武器、道具も使えない。ならば、こうする。
手近なオブシダイトソルジャーに組み付き、まずは肩関節を極めて、根元から折る。意外と簡単に折れてしまう。
こいつら、あくまでマネキンなだけに、関節が球体関節になっていて、脆いんだ。ここが弱点。次々と手足を根元の関節から折り、動けなくしていく。もっとも、相応の実力有ってこそ出来る事。オブシダイトソルジャーは棒立ちしている訳じゃない。こちらを殺しに掛かってきているわけだし。
竜胆さんは、同じく関節技で手足を折りながら、無力化。イサムは……凄いな。その場から一歩も動かず、近付くオブシダイトソルジャーをぶっ飛ばしているよ。あれが『居合拳』か。立った状態から、超高速の拳を放つ。非常に高度な技だ。しかし、凄い威力。一撃でオブシダイトソルジャーを砕いている。
「……まだまだ甘いな。武神様なら、砕くんじゃなく、綺麗に風穴が開くからな」
武神様の技なのか……。
「私は、まだ出来ないんです。笑いなさい」
竜胆さん曰く、まだ出来ないと。笑いなさいと。笑いませんけど。
戦姫は自身の権能を使っているな。そもそもが地属性の魔王。オブシダイトソルジャーにとっての天敵。全て、インゴットに変えてしまう。宝石、鉱石を操るのが、彼女の権能だからね。
魔博は、ザッ君に任せて高みの見物。その一方で、ザッ君が素手で無双している。流石は元の世界で『緑の悪魔』と呼ばれたロボット。
後、地味に役立っている、竜胆さんの舎弟、巨大モグラのテルモト。辺りが草原な事を活かし、地中に潜り、トンネルを掘って、落とし穴を仕掛ける。その落とし穴にオブシダイトソルジャーが次々と落ちる。その間に、他のメンバーがとどめを刺す。
パーティーとは、お互いに力を合わせる事が肝心。誰かに頼り切りでは駄目。最近、よく見るパーティー追放からの、ざまぁ物。くだらないね。
『自分達が最強なのも、活躍出来たのも、全て主人公のお陰じゃないか』
……某死神漫画のT島さんじゃないか。あのさ、主人公上げの為に、主人公を追放した他のメンバーをバカ揃いにするのはやめたら? そんなに世の中、都合良く出来ていない。他人は主人公の引き立て役じゃない。
どの作品も結局、主人公の凄い異能のお陰。真十二柱 序列二位 魔道神クロユリ様が動けば、全て終わる。主人公も、主人公を追放したバカ連中も、皆、平等に破滅だ。異能は便利だけど、過信は危険。過信すると、思わぬ落とし穴が待っている。
この『塔』みたいにね……。オブシダイトソルジャー達との戦いの余波で砕け散る塩の塊。この階層で『異能禁止』の禁則事項を破った者達の成れの果て。
「異能以外もきちんと修めていたなら、もしかしたら……」
いや、そもそも、石板に書かれた禁則事項が見えない、読めない時点でほぼ、詰み。気の毒だが、そういう事。
???side
「やれやれ、突然、現れた『扉』の向こうは謎のダンジョンですか。今更帰れないみたいですし、先に進むしかないですね」
???side
「良い素材を求めて入ったは良いが、変な場所に出たな……。帰りたくても扉が無い。仕方ない、先に進むか」
???side
「おいおい、ジャングルの中に扉が有るから、開けてみたけど、開けなきゃ良かったかな? ま、とりあえず、こいつらぶっ殺してから考えるか!」
???side
「…………うぅ………こ…こは……どこ?………扉が……見え…たから……開け…た…けど……幻覚…なの……?……」
『塔』攻略も後半戦。順調に歩を進めるハルカ達。しかし、そこに立ちはだかるは、後半戦からの恐怖のギミック。『禁則事項』
特定の行為、行動を禁止。禁を破れば、即座に塩の塊に変えられてしまう。非常に危険なギミック。ただし、『禁則事項』の有る階層には、必ずその事が書かれている。
ただし、見える、読めるとは限らない。一定以上の実力、知識を兼ね備えた者だけが読める。読めない者は全て、足切り。
第三代創造主は本物の実力者を求めており、それに満たない者は、雑魚なので不要。
その一方で、対処不可能なギミックは無い。難易度は高いが、必ず攻略法は有る。それが、第三代創造主の美学。単なる理不尽の押し付けではゲームが成立しない。デスゲームといえど、ゲーム。そこには厳格なルールが存在する。間違っても、ゲームマスターの都合でルールをコロコロ変えてはいけない。
一方で、三十六傑4人組。ハルカ達に先行するも、なろう系の連中に遭遇し続け、いい加減、うんざり。
所詮、チート頼みのクズ。『異能禁止』『道具禁止』といった禁則事項に違反し、次々と塩の塊になる始末。
そしてなろう系の定番の1つ。理想国家を笑う狐月斎。なろう系の語る理想国家とは、万人が幸せになれる理想国家ではなく、自分にとっての理想国家。独裁国家に過ぎないと。
ありふれた職業で最強とか抜かす、ナグモ某とか、魔導国とやらを建国した骸骨とか。元々が最底辺の負け組だけに、他者を踏みにじりたくてたまらない、腐り切った性根が丸出し。異世界人はお前達の踏み台ではない。まぁ、狐月斎が指摘した様に、こいつらの国は長くは保たないでしょう。遠からず滅ぶ。そもそもが王の器じゃない。
最後に。『塔』に新しく4人の侵入者。何者か?
では、また次回。