第169話 ハルカの『塔』攻略記 消えぬ妄執、過去より来たれり
ハルカside
『塔』攻略、2日目の朝。朝から良い天気。しかし、気分はそうもいかず。初日で強烈なダンジョンの洗礼を受けた。
ダンジョンというものは、実はそうそう無い。そしてダンジョン探索は遺跡、洞窟探索とはまた違う。
大抵のダンジョンは異世界からの侵蝕であり、放っておくとどんどん広がり、最終的には異世界に取って代わられてしまう。だから、早急に対処し、侵蝕を止めないといけない。後、ダンジョン経由で異世界の危険な存在。魔物、兵器、疫病なんかが来かねないし、実際、過去にはそういう事が有った。その結果、国どころか、世界丸ごと滅びた事も有る。事実、今回の『塔』も魔物大量発生、スタンピードを起こしている。それは狐月斎が一掃してくれたが、また起きないとも限らない。
そして今回の『塔』。厄介な事に、複数世界と繋がっている。その結果、あちこちの世界から、色々な奴等が来ている。だけど、まともだったのは三十六傑の4人組だけ。それ以外は全て、頭がおかしいなろう系のクズばかり。
まぁ、なろう系の連中なんて人ではなく、人擬きだから、さっさと処分しているけど、面倒なんだよ。人擬きの癖に生意気に人の言葉で喋り、しかも聞くに堪えない自分勝手な戯言ばかり。更に自分は平気で他者を踏みにじり、殺す癖に、ちょっと怪我をしただけで大騒ぎするし。鬱陶しいから黙って死ね、社会のゴミが。
ともあれ、朝食。食事を始め、必要な事は全て教国持ちなのはありがたい。
食堂では既に、戦姫と魔博にザッ君がいた。お早い事で。
「おはようございます」
まずは挨拶。礼儀は大切。礼儀は人間関係の潤滑油。
「おはよう」
「おはようニャ」
『おはようございます、ハルカ様』
向こうも挨拶を返してくれた。その程度の常識は、きちんとわきまえているらしい。程なくして、竜胆さんとイサムも来た。
「おはようございます」
「おはよう」
とりあえず、朝の挨拶をし、席に着く。これで全員揃った。
「では、全員揃った事ですし、朝食にしましょう」
戦姫がそう言い、朝食を摂る事に。
「朝食を食べながらで良いので、昨日の反省会及び、今後について話し合いたいと思います」
そう話を切り出す戦姫。
『ならば、防諜フィールドを展開します』
それに対し、すぐに防諜フィールドを展開するザッ君。これで話し合いの場は整った。
「ありがとう、ザッ君。では、始めましょう。まず、昨日の反省点から。三十六傑4人組と遭遇し、挙げ句、その内の1人。四剣聖筆頭、夜光院 狐月斎と戦闘になった事」
戦姫が切り出した話題は予想通り、三十六傑4人組の事。そして、その内の1人。夜光院 狐月斎と戦闘になった事。確かにあれは危なかった。死者が出なかったのが不思議なぐらい。はっきり言って、その後のヘカトンケイル達より狐月斎の方が怖かった。
「しかし、あれに関しては仕方なかったと言えるニャ。ニャー達も『塔』に来ている奴全てを把握している訳ではないニャ。それにあの出会いは偶然ではないニャ。そもそも、『塔』は200階以降は複数に分岐しているニャ。そんな状況でああもタイミング良く出くわすなんて、明らかに『塔』の意思が仕組んだ事ニャ。その結果があれ。『塔』の意思もご満悦ニャ」
しかし、あれに関しては仕方なかったと魔博。あの出会いは偶然ではなく、『塔』の意思が仕組んだ事だと。……悪趣味だな。
「それに、出くわした時点で、どうにもならない。逃がしてくれる様な甘い相手じゃない。はっきり言って、今回はハルカのお手柄だと思う。あの4人組と交渉に持ち込めたんだからな。俺だけじゃ仮に狐月斎に勝っても、残り3人との連戦になるだけだったろうさ」
更にイサムからも、出くわした時点でどうにもならないと。逃がしてくれる様な甘い相手じゃないと。その上でハルカのお手柄と言ってくれた。交渉に持ち込めたからと。僕からすれば、イサムのお手柄だけど。イサムが狐月斎相手に善戦したから、交渉に応じてくれた。でなければ、交渉に応じてくれなかっただろう。弱者には何の権利も無いから。
「僕からも意見を」
右手を上げ、意見を述べる事に。重要な事かは分からない。だけど、気になる事が有るから。
「昨日の時点で500階まで進み、その間に、多くの戦闘が有りましたが、気になる事が。『塔』は複数世界と繋がっている以上、当然、色々な者達が来ているはず。ですが、昨日の時点で出会った内、まともに話が通じたのは、三十六傑の4人組だけ。それ以外の人間系は全て、なろう系の狂人ばかり。不自然です。……やはり『塔』の意思ですか」
これが昨日の時点で気になった事。出会った人間系が話の通じない、なろう系の狂人ばかり。通じたのは三十六傑の4人組だけ。幾ら何でも不自然。その疑問に答えてくれたのは魔博。
「その通りニャ。『塔』が選んでいるんだニャ。今回の『塔』は、おミャーを主役に据えた、デスゲームをやるつもりニャ。アホ共は、雑魚キャラ。あの三十六傑の4人組は大方、ライバルチームポジションニャ」
「やっぱりですか。三十六傑4人組とは、今回は争わないと約束しましたが……。この分だと、どうなるか分かりませんね」
「そういう事だニャー」
全ては『塔』の意思が仕組んだ事か。やはり、単なるダンジョン攻略とは違う。最大の敵は『塔』自身だ。この分だと、今後も何を仕掛けてくるか分かったもんじゃない。
「『塔の意思』は『第三代創造主の人格のコピー』ニャ。ゲームを盛り上げる為なら何でもやるニャ」
非常に嫌な情報を教えてくれた魔博。なるほど、納得。
「最悪、何らかの理由で、あの三十六傑4人組と敵対、戦闘になるかもな。あいつら、狐月斎を始め、全員、序列詐欺だ。もし、戦う事になれば、こちらに真十二柱が二柱いる事を差し引いても只では済まないぞ。既に言ったけど、前回、狐月斎は最低限に力を抑えていた。次は分からない。他の3人に至っては、未知数」
そこへ、更に嫌な可能性を語るイサム。三十六傑4人組との敵対、戦闘の可能性。向こうが今回のライバルチームポジションなら、有り得る。どうしよう……。
「とりあえず、あの4人組の情報は無いのですか? 序列七十二位以内の神魔一覧が有ると、かつて師匠より聞いた事が有りますが」
竜胆さんが、あの4人組の情報は無いのか? と。彼女曰く、序列七十二位以内の神魔一覧が有るとの事。要は名簿の類か。
「確かに有りますが、永らく読んでいません。そもそも、私達、真十二柱以外など所詮、疑似神魔ですから、どうでも良いですし。読みたければ好きになさい」
その質問に対し、戦姫が有ると答えた。もっとも彼女は興味が無いらしい。彼女達、真十二柱からすれば、自分達以外の神魔など所詮、疑似神魔。真の神魔たる自分達の下位互換、劣化品と考えている。『真』と付いているのは伊達ではない。
しかし、そういう考え方は、足元を掬われますよ。特にあの4人組は、序列詐欺だそうだし。
ともあれ、戦姫が出した名簿を手に取る。え〜と三十六傑だから、序列三十七位からで…………有った! 該当するページを見付けて開く。
序列四十二位 『天狐』夜光院 狐月斎
序列四十三位 『砲火魔』クーゲル・シュライバー
序列四十六位 『妖匠』朧 狂月
序列四十八位 『千剣万禍』クリスティーヌ・リツハ・ソーディン
顔イラスト付きで、全員載っていた 。しかし……。
「当たり障りの無い事しか書いていませんね」
「そりゃそうだろ。わざわざ、自分の情報をばらす訳ない」
「確かに」
書かれている内容は当たり障りのない、悪く言えば、分かり切った内容ばかり。強い剣士とか、名工とか。
「だから、永らく読んでいないのです。役に立ちませんから。せいぜい、顔と名前を知るぐらいにしか役立ちませんよ」
永らく読んでいない理由を教えてくれた戦姫。そういう事は早く教えてくれませんか? ……まぁ、顔と名前が分かるだけでも、無駄ではないにしろ。
「実際に戦った感想だけど、狐月斎は力を最低限に抑えていただけじゃない。まだ手札を隠しているぞ。あの狐月剣は見せ札に過ぎない。まぁ、普段はあれで片付くから、わざわざ切り札、奥の手を出すまでもないんだろう」
実際に狐月斎と戦ったイサムから、狐月斎についての情報。力を最低限に抑えていただけじゃなく、まだ手札を隠していると。狐月剣は見せ札に過ぎないとも。あれだけ強力な技が見せ札。なら、隠している切り札、奥の手はどれだけ強いんだろう?
「でもな。何より怖いのが、狐月斎が純粋に強い事。なろう系のバカ共みたいな、スキルだ、チートだなんて小細工、邪道ではなく、正真正銘、本物の実力者だ。この世で二番目に強い剣士。四剣聖筆頭は伊達じゃない。はっきり言って、総合力なら真十二柱の戦姫や魔博が上だろうが、戦闘力に関してなら、狐月斎が上だろうな。言っただろ? 奴が九尾を開放したら、魔剣聖様を呼ばないと手に負えないって」
更に、狐月斎は戦闘力なら、真十二柱の戦姫、魔博より上だと。考えてみれば、最強の剣士である魔剣聖様に次ぐ、第二位の剣士。当然か。
「更に言えば、やられ役としてバカ共を大量投入してきそうですね。あんな連中でも、数を揃えられたら、それなりに邪魔ですし」
「十分有り得るな。幾ら使い捨てにしても、全く惜しくない。むしろ、積極的に処分したいクズ共だからな。捨て駒にはピッタリだ。ここぞとばかりに、在庫一掃処分がてら、大量投入してきそうだな」
竜胆さんからの指摘。今回の『塔』が仕組んだデスゲーム。ライバルチームが三十六傑4人組なら、やられ役に、なろう系転生者を大量投入してきそうと。その指摘にイサムも同意。
確かに、なろう系転生者はやられ役として最適。イサムの言う通り、幾ら死んでも全く惜しくない。むしろ、積極的に処分したいクズ共だし。
何せ、無能、愚鈍、怠惰、他責思考、被害妄想狂、自己愛性人格障害、サイコパス、アスペルガーetc……。人間の持つ悪性をとことんまで凝縮した存在。はっきり言って存在自体が害悪。挙げ句、異世界転生すれば、力が有れば、知識が有れば、勝ち組になれると思っているバカ。
残念だったね、異世界は楽園でも理想郷でもないし、力が有る、知識が有る、だけでは勝ち組になれない。クズが異世界に来たところで、待っているのは破滅だけ。
何せ、なろう系転生者は力や知識が有るだけ。それ以外は人望を始め、無い無い尽くし。最初は良くても、いずれ裏切られる。破綻する。そして破滅する。
そもそも、なろう系転生者は根本的な所から間違っている。幾ら凄い能力を得ようが、美形になろうが、その腐った性根は変わらない。成功したいなら、まず性根を叩き直す必要が有る。そうでない限り、何も変わらない。同じ事の繰り返し。
……ぶっちゃけ、真十二柱 序列二位 魔道神クロユリ様が黙認しているから、なろう系転生者は存在出来る。あのお方、異能の根源たる神だから、その気になれば、いつでも異能を没収出来る。最悪、全ての世界から全ての異能を消せる。スキルだの、チートだの言っているバカ共はその時点で終わる。クロユリ様、その辺、どう考えておられるのかな? クズ共をいつまでも野放しにして良いとは、思っておられないはずだけど。
まぁ、なろう系転生者なんて、僕達からすればウザいだけの存在だが、数の暴力という言葉も有る。竜胆さんの言う様に、使い捨てのクズ共でも徒党を組まれたら、それなりには邪魔だし、不愉快だ。しかし、それ以上に危惧している事が有る。
「…………どうも嫌な予感がするんですよね。ライバルチームポジションに、三十六傑4人組。やられ役として、なろう系転生者。果たしてそれだけで済ませるでしょうか? 更に何か追加してきそうです。先の乱入者。自称剣聖のリドキノもそうですが、クリスティーヌさんは言っていました。リドキノの狂信者にして、没落貴族のラナ・メオンヘン。彼女もいるかもしれないと。これはあくまで僕の憶測に過ぎませんが、過去に因縁の有る相手が現れるのではないかと」
過去の因縁。それを『塔』の意思が利用するのではないか? 特に今回は、真十二柱の戦姫と魔博。更にイサムと、長生きしているメンバーがいる。長生きしているだけに、過去の因縁は多いだろう。
ちなみに、竜胆さんはそこまで長生きではないらしい。それでも僕より歳上だそうだけど。実年齢は不明。僕も聞かない。藪蛇にしかならないからね。女性に年齢と体重は禁句。
「なるほど。過去の因縁の相手ですか。使い古された内容ですが、逆に言えば、それだけ有効且つ、盛り上がるという事。今回がハルカ、貴女を主役に据えたデスゲームなら、『塔』はそれを実行するでしょう。第三代創造主は、とにかく享楽的な性格でしたからね。下界の者達の醜い争い、殺し合いを眺めるのが、一番の楽しみだったそうです」
「悪趣味ですね」
「バカの争いを安全な場所から眺めるのは、楽しいからニャー。昔っから変わらないニャ。『他人の不幸は蜜の味』ニャ」
戦姫曰く、下界の者達の醜い争い、殺し合いを眺めるのが、第三代創造主の一番の楽しみだったと。魔博もそこへ付け加える。他人の不幸は蜜の味と。悪趣味だけど、理解は出来る。自分の安全を確保した上で他人の不幸を眺める程、楽しい事は無い。ローマ時代の剣闘士がその典型だ。
「まぁ、油断はするなという事です。『塔』は悪意の塊ですからね。何を仕掛けてきてもおかしくありません」
戦姫はそう言って纏めた。幾らあれやこれや考えた所で、先の事は分からない。ましてや『塔』の悪意の企む事なんて。出来るとしたら、警戒する事ぐらい。世の中、そんなに都合良くは出来ていない。
「朝食を済ませたら、出発に向けて準備しなさい。全員揃い次第、出発します。あまり長々と時間を掛けられませんからね」
それだけ言うと、戦姫は朝食を済ませて去って行った。僕もさっさと朝食を済ませよう。『塔』攻略に長々と時間を掛けてはいられない。一刻も早く済ませないと。……後、あまりナナさんの元を留守には出来ないし。ぐうたらなナナさん、頭がボケたデブ猫のバコ様に、アホ猫のチーたんまで加わったからね。バコ様とチーたんはコウが面倒を見てくれると言っていたけど、不安だし。
狂月side
セーフティエリアを離れ、現在、630階。『塔』攻略も既に後半戦。上に行く程、上層階へのショートカット通路も見付かりにくくなり、必然的に攻略のペースも落ちます。なれど、止まる訳にもいかず。某達は最上階を目指して進んでおりました。それにしても……。
「いい加減、バカ共の相手はうんざりですな。とりあえず、黙れと。そういう存在だとは知っておりますし、分かってもおりますが、よくもあそこまで、くだらない戯言ばかり抜かせますな」
次から次へと湧いて出てくる、親の顔より見た、なろう系転生者こと、下級転生者。口を開けば、チート、サイキョー、ハーレム、ナリアガリ、カイカク、ザマー、といった、お馴染みの戯言ばかり。……つくづく知能の低さを露呈させていますな。幼稚極まりない。
そして、某達に対し、刃を向けてくる。なろう系転生者は自分が最強、絶対正義。敵は全て雑魚、悪と決め付けている故に。繰り返しますが、知能が低く、幼稚。世の中、そんなに単純でもなければ、都合良く出来てもおりませぬ。
「同感ですわね。さっきの『ステータスが見える』とか言う奴も、完全に狂っていましたわね」
「……私達に対し、魔王軍四天王などと、訳の分からない言い掛かりを付けてきたな。以前の『好感度メーターが見える』と言っていた少年の同類。有りもしない幻覚を見ている。現実と幻覚の区別が付かなくなっている。霊視の結果、やはり脳腫瘍だった」
「脳障害は恐ろしいな、有りもしない幻覚を見るとは……。やはり、健康に勝る宝は無い。私も自衛官時代から健康には気を遣っている。自衛官は身体が資本だからな」
つい先程も、『ステータスが見える』と言う狂人を殺してきたばかり。出会い頭にいきなり『魔王軍四天王め! 成敗してやる!』と、訳の分からない事を言い出し、襲い掛かってきたので、返り討ちにした次第。 狐月斎殿の霊視によれば、脳腫瘍とか。現実と妄想の区別が付かないとは恐ろしい事です。この手の輩は殺処分一択ですな。
「……それにしても、今回はなろう系のバカが多過ぎる。鬱陶しい」
狐月斎殿もかなり不機嫌。鉄面皮な彼女が珍しく不快そうな表情を見せる。
「恐らくは、在庫一掃処分、下級神魔の強化、新たな命を生み出す為の燃料、そして、『塔』攻略をしようとする者への嫌がらせ。一石二鳥ならぬ、一石四鳥といった所でしょうな」
そんな狐月斎殿に対し、某は今回の件への推論を述べる。
「……迷惑な」
「そこは某も同感ですな」
とはいえ、あんなクズ共でも、多元宇宙存続の為には必要な存在。多元宇宙を支えているのは生命力。故に命が減ってしまうと、多元宇宙を支え切れなくなり、最悪、多元宇宙が崩壊します。そして、命を生み出す為の燃料。それが、なろう系転生者の魂。
つまり、あの連中は最初から使い捨て。破滅が約束されているのです。チート云々は、クズ共を釣る為の餌。まぁ、あんなクズ共、幾ら死のうが某達の関与する所ではありませぬ。
チートで最強、無双。結構な事ですな。しかし、忘れておりませぬか? それは裏を返せば、チートが無ければ何も出来ないという事。
何らかの理由でチートが通用しない。もしくは失い、破滅したなろう系転生者は数知れず。所詮、チート頼みのクズはその程度。
やはり、最後に物を言うのは、常日頃からの努力と、本人の才能、実力。
何より、なろう系転生者如きクズが最強を名乗るなど、片腹痛い。狐月斎殿から聞きましたが、先日も全ステータス最高で無敵の身体、とか言っている少女に会ったそうで。
狐月斎殿に喧嘩を売り、直後に狐月斎殿に首を刎ねられたとか。本人は『全ステータス最高の無敵の身体の私が何故?』と言い遺して死んだそうですが、全くもって愚か。
確かに全ステータス最高なのでしょう。しかし……。
人間としてはですが。
某達は人間より遥かに上位の存在、三十六傑。そのステータスは人間の比ではありませぬ。たかが、人間として最高のステータス如きで、三十六傑に喧嘩を売るなど、自殺行為。
なろう系転生者特有の、自分は最強、主人公。他人は雑魚、踏み台、引き立て役という思い上がりが招いた悲劇、いや喜劇ですな。某は爆笑しましたぞ。尚、なろう系転生者の魂は死後、新たな命を生み出す為の燃料にされ、焼き尽くされる故に、来世も有りませぬ。恨むなら、己の愚かさを恨むべき。
そもそも、『最強』の名はそんなに軽々しく名乗れるものではありませぬ。その名は途轍もなく重く、果てしなく遠い。三十六傑に名を連ねる某達でさえ、最強には程遠い。ましてや、なろう系転生者が最強を名乗るなど、身の程知らずも甚だしい。
その後も、自分をクビにした元、仲間達に対し、『お前達が強力な技や魔法を使えたのは自分が貸した魔力のお陰。だから貸した魔力を返せ』とドヤ顔で請求したものの、『だったら、自分達の技や魔法で勝利して得た利益。並びに、助かった分の命を返せ』と反論されて、大恥をかいたバカの話。
ちなみにこのバカ、妖精を騙る悪魔に唆されてこんな事をやらかしたらしく、最終的に仲間は悪魔に魔力を支払うだけで済みましたが、バカは悪魔に命を奪われ、死にました。要は悪魔の一人勝ち。
魔力なら、また鍛え直せば良いですが、命を奪われ、死んだらどうしようもない。都合の良い話に飛び付くとろくな事にならないという教訓ですな。
そもそもパーティーを組むのは、お互いに足りない部分を補い合う為。このパーティーの場合、魔力を貸す側と、魔力を借りて敵を倒す側の組み合わせだった。どちらかだけでは駄目。両方揃ってこそのパーティーでした。
ちなみに魔力を貸した云々の彼がクビにされた理由ですが、ただの自業自得。
元々、非常に良心的なパーティーで、報酬は皆で等分していたそうで。しかし、魔力貸与能力持ちのバカの、チームワークを無視した、あまりにも自分勝手な行動が原因で揉めて、クビになったと、元、仲間のメンバーから聞きました。
パーティーはチームワークが命。それを乱す者は危険因子でしかない。自分の非を棚上げしての、逆恨みですな。それを悪魔に利用されて死んだのですから、救えない。魔力と命を取り立て、一人勝ちした悪魔は笑いが止まらないでしょうな。
『バカはチョロい』と。
それ以外にも、スキルを使い、村を開拓し、異世界でスローライフなどと抜かしていた男。村にやってきた女達にチヤホヤされ、ハーレムなどといい気になっていたら、女達に魔道具でスキルを奪われ、殺されて、解体されて、最終的に畑の肥料にされました。当然、村も乗っ取られました。
女達は最初からスキル強奪、村の乗っ取り目的で近付いてきたのです。それに気付かずハーレムなどと浮かれた結果、殺される羽目に。救えないアホですな。
異世界でスローライフなどと舐めた事を考えている愚か者は皆、この様に破滅します。異世界は楽園でも理想郷でもありませぬ故に。異世界で生き残り、成功する方は皆、優秀且つ、真剣に物事に取り組んでおられる。某作品でも語られていましたな。
『大切なのは必死の気持ち』
チート云々などと、異世界を舐め腐っている愚か者には、死有るのみ。どんなに凄い力を得ても、クズは所詮、クズなのです。
その後も、女奴隷を集めてハーレムを作ろうとして、女奴隷に寝首を掻かれて死んだクズの話、無能上官を駆逐して成り上がるなどと言っていたら、自身が駆逐されて破滅した無能士官の話等と、自身の無能を棚上げしては、破滅する愚か者達の事をネタに話しながら進んでおりましたが……。
「……霧、か」
狐月斎殿が呟く。突如、辺り一面に白い霧が立ち込め始めました。自然現象ではありませぬ。『塔』の悪意です。即座にお互いに背中合わせとなり、円陣を組み、戦闘態勢に。
「毒ガス攻撃では無さそうですわね」
「いずれにせよ、何らかの形で仕掛けてくるはずだ」
今回は何を仕掛けてくるのか? 出方を伺っていると、霧が晴れてきた、いや、幾つもの塊になろうとしております。そして声が聞こえてきました。それは怨嗟の声。しかも某達に対する。
「メギツネェェェェェェ…………」
「キョーゲツゥゥゥゥ………ウラギリモノガァァ…………」
「イタニィィィ…………コロシテヤルゥゥゥ…………」
「オノレェェェェ………ソーディンケノツラヨゴシガァァァァ……………」
怨嗟の声の主は霧の塊。更に霧の塊は何らかの形を取り始めました。それは人型をしておりました。しかも、その姿に某達は見覚えが有ったのです。……なるほど。『塔の意思』め、今回はこう来ましたか。相変わらず、悪趣味な事で。
「恨みを買っている自覚は有るが、悪趣味な真似をしてくれる」
狐月斎殿は背負った大太刀を鞘から抜き放ち、構えを取り。
「全くですわね」
クリス殿も腰に差したレイピアロッドを抜いて構える。
「長生きし、多くの恨みを買っている相手程、有効な辺り、『塔』もなかなかやるな。しかも、この手の輩に物理的な攻撃は効かん。ガスの塊だからな」
クーゲル殿は霧の怪物をそう分析する。某達への怨嗟の声を上げる霧の怪物。その正体は、『塔』の悪意が呼び寄せた、某達へ恨みを持つ死者達。霧によって形を得た、霧の亡者といった所ですか。
某達は長生きし、その分、数多くの恨みを買っております。その結果がこの有り様。全ては自業自得の結果。自分で撒いた種は、自分で刈らねばなりませぬ。
さて、こういう物理的攻撃が効かない敵を相手にする場合は、クーゲル殿が最適。彼の異能は炎。『砲火魔』の異名を取り、その火力は某達4人中、随一。
「私が焼き尽くす」
そう言って前に出ようとした所、狐月斎殿が止めに入りました。
「クーゲル殿、今回は私に任せてはくれまいか? 狐空剣を試すに丁度良い」
なるほど、確かに狐空剣ならば、霧の亡者達にも有効でしょう。
「クーゲル殿、某からもお願い申す。ここは狐月斎殿に譲って頂きたい。何、悪い様にはなりませぬ」
某からも口添え。狐月刃を作った刀匠として、狐月斎殿が狐月刃を使って繰り出す、狐空剣を見たい気持ちも有りまして。
「……仕方ないな。今回は譲ろう。その代わり、きっちり終わらせる事。それが条件だ」
クーゲル殿は暫し黙考の後、狐月斎殿に出番を譲りました。ただし、きっちり終わらせる事を条件として。
「無理を聞いて頂き、かたじけない。その代わり、私が責任を持って終わらせよう」
狐月斎殿もまた、その条件を飲みました。その一方で。
「あの! 話が付いたなら、早くして貰えませんこと! 流石にこの数を止めておくのは辛いんですけど!」
某達の四方を囲む剣で結界を張り、霧の亡者達を食い止めていたクリス殿。某達が敵の大軍を前に悠長に話せていたのは彼女のお陰。これは早く済ませませんとな。
「すまぬ、クリス殿。すぐ終わらせる故。結界を解除次第、私の後ろに。決して私の前に出るな」
「了解ですわ!」
手短に打ち合わせをし、クリス殿が結界を解除。すぐさま狐月斎殿の後ろに避難。当然、某とクーゲル殿も避難済み。そして結界が解除された事で、一斉になだれ込んでくる、霧の亡者達。
「……亡者はこの世から消え去れ」
狐月斎殿がそう呟き、狐月刃を一閃。
「お見事な手前でした、狐月斎殿」
「……いや、まだまだ狐空剣は未完成、不完全。あれでは魔剣聖の『三必剣』には遠く及ばない」
狐月斎殿の狐空剣により、霧の亡者達は一掃されましたが、当の狐月斎殿は浮かぬ顔。まだまだ狐空剣は未完成、不完全と。あれでは魔剣聖の三必剣には遠く及ばないと。
真十二柱 序列三位にして、最強の剣士、魔剣聖。そして魔剣聖の使う三必剣。必中、必断、必滅の恐ろしい魔剣。確かにそれと比べれば、見劣りしますが……。狐空剣も十分過ぎる程、恐ろしい魔剣ですからな。
「……まだまだ最強の剣士の座は遠い。精進有るのみ」
狐月斎殿は、ただひたすらに、最強の剣士の座を目指す。狐月斎殿は、何も成せず、何者にもなれなかった、前世の事を今でも気にしておられる故。まぁ、その点は某達も同じですが。
さて、先を急ぐとしますか。それにしても……。
某は後ろを振り返りました。壁や床が綺麗に切り取られた様に無くなっておりました。
恐ろしい魔剣ですな、狐空剣は。しかし、まだまだ制御が甘い。余計な所まで巻き込んでおります。燃費も悪いと狐月斎殿も申しておられましたし。確かにまだ未完成、不完全。故に完成した時が楽しみですな。
教皇side
「やれやれ、儂も行きたかったのう……」
執務室の机の上に積まれた書類の山。全て、教皇たる儂の決裁を必要とする物。その性質上、投げ出す訳にもいかず、書類の山と格闘中じゃ。既にハルカ達は『塔』に出発したと聞き、思わず愚痴をこぼす。
「文句を言われる暇が有るなら、早く書類の決裁を済ませて下さい。これら全て、猊下の決裁を必要としているのですから」
「分かっとるわい。全く、『塔』が出現したせいで、いらん仕事が増えた。さっさと処分せねば、儂の身体が保たんわい」
御目付役のヒョージュに説教されるが、儂としては、愚痴の一つも言いたくなるわい。
『塔』が出現したせいで、情報統制に、人員配置に、経済物流に、周辺諸国への工作に、数え上げたら、きりがない程、やる事が増えた。今読んどる書類は、壊滅した『塔』監視部隊の再編についてか。ふむ、人員抽出に、費用に、必要物資に……。やれやれ、頭が痛いわい。
「いや〜、昨日は楽しかったわい。久しぶりに身体を存分に動かしたでな。聞かせてやろう、儂の武勇伝を。メタルソルジャーの上位種、アダマンタイトソルジャーの大群が現れてな。それを儂がちぎっては投げ、殴って蹴っては砕き……」
せっかくなので、ヒョージュに昨日の儂の武勇伝を聞かせてやろうとしたものの。
「はいはい、その手の武勇伝は聞き飽きました。それより、仕事をして下さい」
やれやれ、面白みの無い奴じゃのう。そんなんじゃから、未だに独身なんじゃ。儂がお前ぐらいの歳の頃は、若いお姉ちゃん達相手にブイブイ言わせとったもんじゃ。などと、内心で愚痴りながら、書類の山と格闘しておったんじゃが……。
「どうした? ヒョージュ」
ヒョージュがタブレットを手に浮かぬ顔をしておる。
「……おかしいですね。アルトバイン王国に派遣している諜報員からの定時連絡が来ていません」
「何じゃと?」
ヒョージュ曰く、アルトバイン王国に派遣している諜報員からの定時連絡が来ていないと。普通なら、単に遅れているだけとか考えるであろう。普通の諜報員ならな。
じゃが、ヒョージュ配下の諜報員となれば、話は別じゃ。我が国の誇る精鋭、護教聖堂騎士団の団員とあろう者が、定時連絡を怠るなど、まず有り得ん。にも関わらず、定時連絡が来ない。……何か有ったのか? 護教聖堂騎士団団員でもどうにもならない何かが。
どうにも嫌な予感がしている所へ、慌ただしい足音が。しかも、この執務室に向かってきておる。そして、勢い良く執務室の扉が開かれ、1人の神官が飛び込んできた。余程、慌てていたのか、激しく息を切らしている。
「無礼者!! ここを教皇猊下の執務室と知っての狼藉か?! 名前と所属を言え!! 相応の処罰を下す!!」
突然の乱入者に対し、容赦無く責め立てるヒョージュ。ここが教皇たる儂の執務室であり、そこへノックも無しに突然飛び込んできた者がいたら、その対応にもなるわな。最悪、儂を暗殺する気かもしれんしな。まぁ、そんな感じではないが。
「よせ、ヒョージュ。それよりどうした? ここが教皇の執務室と知らん訳ではあるまい。なのに、慌てて飛び込んできた辺り、一大事と見た。ほれ、茶じゃ。これを飲んで一息付け。その上で、何が有ったか話せ」
ヒョージュをたしなめ、その上で神官に茶を出し、一息付く様に勧める。まずは落ち着いて貰わんとな。でないと話にならん。そして、神官の男は、儂の差し出したティーカップの茶を一息で飲むと、ようやっと話し始めた。
「ふぅ~ふぅ~。…………お気遣いありがとうございます猊下。突然の無礼、誠に申し訳有りませんでした。で、ですが、火急の事態故、こうして参上した次第」
「……前置きは良い。何が有った?」
「申し訳有りません。先程、アルトバイン王国側を監視していた者から、王国首都、グランレオン。通称、王都が正体不明の軍勢による襲撃を受けたと。更に、その直後にグランレオンを中心に、広範囲に渡り、濃霧が発生。その結果、グランレオン内部の様子が一切不明。連絡も一切不通となっております」
「何じゃと?!」
「王国側に派遣した諜報員からの定時連絡が来ないのも、そのせいか……」
神官から知らされたのは、アルトバイン王国首都、グランレオンへの正体不明の軍勢の襲撃並びに、濃霧による、一切の情報の遮断。……『塔』とは別件で何かが起きておる様じゃ。
「よく、知らせてくれた。とりあえず、お主は持ち場に戻れ。追って指示を出す」
「は、畏まりました。では、失礼致します」
礼儀正しく一礼し、去って行く神官を見送り、儂はヒョージュと視線を交わす。
「いかがなされますか、猊下?」
「教皇の名において命ずる。第一種対外警戒態勢を発令じゃ」
第一種対外警戒態勢。我が国への外部からの攻撃に対し、最大限の力を持って反撃する、宣戦布告のギリギリ手前じゃ。滅多に発令する物ではないが、今回は場合が場合じゃ。アルトバイン王国首都を襲撃した軍勢が、こっちに来ないとは限らんからのう。
「やれやれ。次から次へと厄介事が舞い込むわい。教皇など、ならなければ良かったわい」
全く、偉くなるのも良し悪しじゃ。馬鹿の一つ覚えで、ナリアガリ、ナリアガリと煩い、下級転生者には、分からんじゃろうがな!
ナナside
「全く、今頃になって帰ってきやがるとはね!」
「すまん、ナナ殿。我が王家の過去の因縁が、今になって牙を剥いてくるとは」
「私からも謝罪しますナナ様」
「別に謝って欲しい訳じゃないさ。そもそも、あんた達のせいじゃないし。悪いのは、あの『自称、聖女』さ! あぁ、嫌だねぇ。ああいう自意識過剰のバカは。全て、自業自得の結果だってのに、逆恨みしやがって、クズが!」
辺り一面に立ち込める濃霧。そこから際限無く湧き出る、霧の怪物達。真十二柱が不在の、このタイミングで来やがるとは。狙ってやがったね。
全く、ハルカが帰ってきた時、街が滅茶苦茶になっていたら、怒られるじゃないか。『自称、聖女』にはさっさと地獄にお帰り願おうか!
『塔』探索2日目。事前に打ち合わせをしているハルカ達。そんな中、ハルカが危惧したのは、過去の因縁を『塔』が利用するのではないかと。
更に、魔博から、『塔』はハルカを主役にしたデスゲームをしていると。それを盛り上げる為なら、何でもやるだろうと。何故なら、『塔の意思』は、第三代創造主の人格のコピーだから。第三代創造主は、下界の者達の醜い争い、殺し合いを眺めるのを無上の喜びとしているが故に。
その一方で、三十六傑4人組。なろう系転生者の多さにうんざりしながらも、最上階を目指し、進む。そこへ現れたのが、彼等にかつて倒された者達の亡霊。狐月斎の新技、狐空剣で一掃されましたが。
そして、アルトバイン王国に突如、襲撃してきた謎の軍勢。王国の過去の因縁が今になって、牙を剥く。ナナさん曰く『自称、聖女』率いる軍勢。
では、また次回。
追記
私事ですが、相変わらず、なろう系作品はくだらない。駄作者の自分が言うのもなんですが、最近のは酷すぎる。
魔力を貸したから、返せ? お前こそ、仲間達の活躍で得た、利益を返せ。何の為にパーティーを組んでいるのか分からないのか。それは、お互いに足りない所を補い合う為。
無能上官を駆逐して成り上がる? その思考こそ、自分の手柄、利益、出世しか考えていない、正に無能上官そのもの。特大のブーメランが刺さっているぞ。
チートで村を開拓。やってきた女達とハーレム。どう見ても、女達は下心満載。その内、女達に裏切られるのが見え透いている。
何より、なろう系転生者は性根が腐り切っている、人間のクズ、社会のゴミ、最底辺の存在。幾ら、凄い力を得ても、その腐り切った性根が変わらない限り、いずれ破滅するだけ。
そもそもがチート前提。もし、チートを失えば、通じなければ、その時点で終了。所詮、無能のクズ。ちなみにハルカはチート無しでも優秀。性格良し、頭脳良し、身体能力良し、何より家事万能。
後、永久不滅の支配など有り得ない。某作品の骸骨様、貴方の事だ。平家物語を知らないのか。
作中、何度も書きましたが、クズは所詮、クズ。光り輝く宝石にはなれない。現実は厳しいのです。
お目汚し、失礼しました。