第165話 ハルカの『塔』攻略記 邂逅
竜胆side
紆余曲折の末、『塔』へと侵入を果たした私達一行ですが、入って早々、襲撃を受けました。ブヨブヨとした肥満体の巨人族。ファッツジャイアント。
巨人族としては、最下級。知性も低く、肥満体故に動きも遅い。力任せに暴れるしか能の無い連中ですが、その巨体故の質量自体が凶器となる。しかも怪力。単純に暴れるだけでも、手に負えない脅威と化す。そしてブヨブヨの肥満体は物理攻撃を吸収、無効化してしまう。魔法にも高い抵抗力を持つ。最下級とはいえ巨人族。油断ならない相手。
そのファッツジャイアントの大群を相手取り、戦うは、銀髪碧眼のメイド、ハルカ・アマノガワ。得意の氷魔法を駆使し、ファッツジャイアント達を討ち倒していく。
まぁ、その肥満体故に物理攻撃に高い耐性を持つファッツジャイアントにとって、氷魔法を得意とするハルカは天敵と言える。要は『凍らせて砕く』。
確かにファッツジャイアントは魔法に高い抵抗力を持つ。だが、あくまで高い抵抗力を持つだけで、無効化ではない。それ以上の魔力を持ってすれば抜ける。もっとも、上位巨人族は本当に無効化してくる。上位巨人族は神に近い、亜神故に。
ともあれ、下級巨人族のファッツジャイアントの魔法抵抗力では、ハルカの魔力で抜かれてしまう。瞬時に凍らされる。しかもハルカも考えたもので、凍らせては、即座に離れ、自分狙いの攻撃を凍ったファッツジャイアントに直撃させる。要は同士討ちさせる。凍って脆くなった所へ、怪力の一撃を食らえばひとたまりもない。粉々に砕け散る。
ファッツジャイアントに仲間意識や、連携など無い。自分が全て。巨体、怪力、耐久力。それが強みなものの、それらが通じない相手には無力。もはや、これは戦いではありませんね。単なる粗大生ゴミの掃除。メイドのハルカにはぴったりと言えます。あ、いい加減、魔力が勿体ないと判断したか、戦法を変えましたね。
ピシピシ……
ふん、どうやら、のんびり見物もしていられませんか。
ハルカside
『塔』に入って最初の襲撃。ブヨブヨの肥満体の巨人族、ファッツジャイアントの大群。……何となく、親近感が湧くな。主にバコ様とか、バコ様とか。まぁ、バコ様と違って、変な歌と踊りも始めないし、所構わず、ウンコを漏らさないな。代わりにこちらを殺しに掛かってくるけど。
戦姫から、小手調べにこいつ等を倒せとの事。これぐらい出来て当然、出来なければ許さないという事か。
肥満体だけに動きは遅いが、まがりなりにも巨人族。その巨体と怪力は脅威。しかし、頭が悪そう。天井から落ちてきた奴等は、下にいた連中を巻き込んで、潰れて死んだ。だけど、それを気にする節も無い。仲間意識皆無か。連携も無さそうだな。
見た感じ、物理攻撃は効きが悪い。魔法を主力に据えよう。敢えて物理攻撃で行くなら、頭、脳天を狙うか。戦術を決める。
「恨みは無いけど、話の通じない敵である以上、掃除する」
戦術を決めたなら、意識を切り替える。日常から、戦闘へ。敵という名のゴミを掃除する。ゴミはゴミ箱へ。それがメイドの仕事。
「まずは、基本に従いますか。攻撃が効かないなら、効く様にする」
こういう時、自分が氷系を得意とする事がありがたい。2つの宝石扇を手に、同時に術の発動。ただし、放たない。留めておく。任意のタイミングで放てる様にする。小技だけど、便利。その状態で、敵陣に向かって駆ける。
自分達の群れにわざわざ飛び込んできたと思っているのか、手を振りかぶり、叩き潰そうとしてくる。振りかぶる速度は遅いが、そこからの、振り下ろす一撃の速さと威力は流石。
バァンッ!!!!
凄まじい音と共に、白い大理石の様な床がひび割れる。まともに食らったら、ひとたまりもないな。しかも、石の床を平手で思い切り叩いたのに、まるで堪えた節が無い。構わず、二撃、三撃と繰り出してくる。呆れたタフさだ。痛覚が無いのかな?
ただ、やっぱり頭が悪い。どいつもこいつも、好き勝手に攻撃を繰り出すばかり。協力、連携など皆無。挙げ句、味方同士でぶつかる始末。……ある意味、なろう系転生者の同類だな。自分の事しか考えていない。目先の事しか見えていない。
とりあえず、観察終了。これより掃除に掛かる。自分達の自慢の怪力で死ぬが良い。
「白氷殺!!」
予め発動し、留めておいた術を放つ。かつて、あの灰色の傀儡師、灰崎 恭也より貰った古の書物(第130話参照)。それに記されていた術。手をかざした対象を瞬時に凍らせる術。強力ではあるが、消耗も激しい。少なくとも、並の人間の使う術じゃない。
この術を考案し、書に記した著者は、氷系の天才術者だった。そんな彼は実験台を簡単に手に入れられ、思う存分、術の実験をする上手い方法として、宗教団体を興した。そして教祖として君臨していた。その能力で『奇跡』を起こし、バカな人間を騙しては信者という名の実験台として集め、様々な術を考案しては、信者を実験台にし、その結果を書に記していた。この『白氷殺』にしてもそう。
『新しく開発した術、白氷殺と名付けよう。いや〜、実験台の女が、一瞬で真っ白に凍り付いて白い彫像みたいになったよ。叩いたら、粉々に砕け散って、破片がキラキラ光って、実に幻想的な美しさで感動したね。確か、妊婦だっけ? 暴力亭主から逃げてきたそうだけど、良かったね。もう、苦しむ事は無いよ。良い事すると、気分が良いね。これからも、もっと善行をしよう』
……術式から始まり、その効果。挙げ句は、実験台の信者がどうなったかまで、仔細に渡り記されていた。記された術の数は数百にも及び、その全てが、信者を使った人体実験により、効果を確かめられている。……倫理もへったくれも無い、文字通り、鬼畜の所行だが、非常に有益な内容。ありがたく有効活用させて貰う。僕は正義の味方じゃないんでね。
白氷殺で瞬間凍結し、白い彫像と化したファッツジャイアント。そんな事、御構い無しに僕を叩き潰そうとしてくる、その他の連中。速いが単調で大振りな攻撃を軽く回避。すると空振った攻撃が凍結した奴に当たり、粉々に砕いてしまう。……白氷殺、書にも記されていたけど大した威力。あれだけの肥満体、本来なら、短時間で芯まで凍結させるのは難しい。それを成し遂げるか。
「著者の教祖じゃないけど、お前達を新術の実験台にさせて貰う」
敵は最高の実験台。ナナさんの言葉だ。存分に実験台にしてやろう。やはり、実際に使わないと分からないからね。
「刺樹氷陣」
地面から鋭い氷の棘が飛び出し、串刺しにしてから、更に樹木の様に成長し、内部からズタズタに切り裂く。その上、氷の樹木が障害物となり、行動を阻害する。敵の殺害と妨害、一挙両得の術。ファッツジャイアント達は氷の樹木に内部から切り裂かれ、生き残りも、氷の樹木のバリケードに切り裂かれる。
「天氷槍破」
今度は上空から、巨大な氷の槍が雨霰と降り注ぐ。刺さるとそこから凍らせる。
「桜吹雪」
桜の花弁形の無数の氷の刃を突風と共に撒き散らす、広範囲殲滅術。
「死鏡氷盾」
氷の鏡を作り出す。その鏡に映った者は、鏡が破壊されると、同じく砕け散る。ついでに飛び散る破片で、周囲を攻撃。
とりあえず、この辺の新術を試してみた。確かに強力。しかも相手がバカだから、面白い様に引っ掛かる。しかし、同じ様な戦い方をしていても芸が無い。魔法は便利だけど、万能でも無敵でもない。当然、対策は幾つも有る。魔法封じとかね。過信は禁物。
ちなみに、なろう系の連中はその辺が分からないらしい。スキルで無双なんて、スキル封じ、スキル無効が来たら、即、詰むのに。何より、スキルで無双とは、逆に言えば、スキルが無ければ無能と認めているに等しい愚行。
そうだな、御津血神楽改も使おう。未だ未完成だけど、場数を踏んで完成に近付けよう。後、先の事を考えると魔力を温存すべき。
御津血神楽改、水舞。基本にして、極意たる、歩法。水に決まった形は無い。時には止水。時には激流。自らを変幻自在の水とし、攻防一体を成す。ぶっちゃけ、これさえ出来れば困らない。他はここからの発展形。
イメージをする。自らを敵陣を流れる水と化す。余計な力は要らない。速さすら要らない。水の流れと、宝石扇の鋭利さ。この2つさえ有れば良い。極限まで集中する。すると……見えた。
ファッツジャイアントの大群の中に、水の流れる道筋が。ならば、後はその流れに沿うだけ。静かに踏み出す。
僕を叩き潰そうと、腕を振り上げるファッツジャイアント。すれ違いざまに、その足の腱を切る。途端にバランスを崩し、倒れて暴れる。それが他の奴等に当たり、怒ったそいつ等が、僕そっちのけで仲間割れを始める。
その間に、更に他のファッツジャイアントの足の腱を切り、叩き潰そうとしてきた拳の指を切り、その腕を足場に飛び、他の奴の両目を切り裂く。
わざわざ致命傷を与えるまでも無い。まともに戦えなくしてやれば良い。所詮、怪力、巨体が取り柄なだけで、仲間意識も連携も皆無の、烏合の衆。一度、パニックが起きたら止まらない。止めるべきリーダーがいない。後は、ゆっくり確実に殺していくだけだ。急所は分かっているしね。
仲間割れを起こし、暴れている内の1体の首筋の後ろに飛び乗る。何が起きたか気付く前に、宝石扇を下から上に一閃! 剣術で言うと『逆風』。
頭を縦に切り裂かれ、血を噴出して倒れるファッツジャイアント。如何にタフな巨人といえど、脳を破壊されたら死ぬ。それ以外では……。
今度は首筋の後ろを取ると、宝石扇を横一文字に一閃。太い首があっさり刎ね飛ぶ。斬首された以上、当然死ぬ。まぁ、いずれも宝石扇の鋭利さ有っての芸当。まだまだ未熟と痛感。しかし、この期に及んで、まだ仲間割れをしているファッツジャイアント。まぁ、せいぜい殺し合っていれば良い。こっちは粛々と、ゴミ掃除をするだけ。
30分程で、ファッツジャイアント達は片付いた。巨人族とはいえ、所詮、最下級。
「終わりました」
とりあえず、戦姫に終わったと報告。
「あの程度の輩に遅れを取る様な不様はしなかった様ですね」
「したら許さないでしょう?」
「当然です」
戦姫からの賞賛の言葉は無い。戦姫に言わせれば、あの程度の相手など、勝って当然、負けたら恥。それが分かっているから、こちらも何も言わない。余計な火種をばら撒く必要は無い。それに、向こうとて、高みの見物を決め込んでいた訳じゃない。辺り一面に散らばる金属片。1つ摘んで確認する。……アダマンタイトか。
アダマンタイト製の残骸が辺り一面に散らばる様は、中々に壮絶な光景だ。オリハルコンに次ぐ硬度、強度を誇るアダマンタイト。そう簡単に破壊出来る代物じゃない。にもかかわらず、それが破壊されている。ただし、血や肉片は見当たらない。
それはそうだろうね。元から無いんだから。
「メタルソルジャーですか。しかも、アダマンタイト製。お見事な腕前」
「褒めても何も出ませんよ」
僕がファッツジャイアント達と戦っている最中、戦姫達は新たに出てきた、金属生命体、メタルソルジャーの上位種。アダマンタイトソルジャーと戦っていた。オリハルコンに次ぐ硬度、強度のアダマンタイト製の戦士達。そんな強敵を相手にし、しかも、1体たりとて、僕の方には向かわせず殲滅。並大抵の奴では、アダマンタイトソルジャーに全く歯が立たずに殺されているだろう。本当に見事だと思う。
「とりあえず、一段落したみたいだな。新手が出てくる気配は無い。今のところは」
刀を一振りして、鞘に納めながらイサムがそう言う。
「だからといって、長居は無用です。いずれ、また出てきますよ。上を目指しましょう」
竜胆さんの言う通り。いずれ、また出てくる。その前に上を目指そう。で、その為にやる事が有る。
「ザッ君、このフロア全体をスキャンするニャ。上層階へのショートカットを見付けるニャ」
『了解です、魔博。空間スキャン開始』
それは、上層階へのショートカット通路を探す事。『塔』は1000階にも及ぶ、高層ダンジョン。一々、各階層をクリアしていたら、最上階に着くのはいつになるか。それに、こちらも保たない。
だが、『塔』内には上層階へのショートカット通路が隠されている。それを使えば、一気に上に行ける。最低、5階。最高、100階のショートカットが出来る。正にゲームだね。ただし、上に行く程、危険も増すから、下手に上層階にショートカットすると、死ぬ羽目になる。
特に今回は、1階の時点で上位の魔物、ファッツジャイアントやアダマンタイトソルジャーが出る異常事態。油断ならない。
「ほほう、死体が見付からんと思っておったが、そういう事か」
先の事を考え、気を引き締めている所へ、教皇……もとい、遊び人のゴールドさんが、何かに気付いたらしい。そのサングラス越しの視線の先では、僕が殺したファッツジャイアント達の死体、それが床に沈む様に消えていった。別方向を見れば、アダマンタイトソルジャー達の残骸も同じく、床に沈んで消えていく。……資料にも書かれていたけど、なるほど、『塔』はこうやって捕食するのか。
やがて、全ての死体、残骸は跡形も無く消えた。アダマンタイトソルジャーの残骸は、ちょっと勿体なかったかな? ……あっ!
死体、残骸が全て消えた後、今度は床から大きな繭みたいな物がペッと吐き出された。その数、2つ。
「おやおや、今度はでっかい繭を吐き出しおったわ。長生きはするもんじゃのう。こんなおかしな体験をするとはの。ヒョヒョヒョ! ……しかし、あれは何じゃろうな? でっかい蛾とかが出てきたら、流石に嫌じゃのう」
「『宝箱』ですね。今回の戦利品という事ですか。とりあえず、中身を確認しましょう」
床から吐き出された大きな繭2つ。あれは何か? と言うゴールドさんに、戦姫が『宝箱』と答える。資料に書かれていたけど、あれが『宝箱』か。つくづくゲームだけど、世間一般の宝箱のイメージとはかけ離れているな。正直、気持ち悪い。生理的に受け付けないデザイン。本当、中から巨大な蛾が出てきたりしないかな?
『スキャン完了しました。その『宝箱』2つは安全です』
戦姫が『宝箱』を宝石槍で切り開く前に、ザッ君がスキャンし、安全を確認してくれた。つくづく気が利くロボットだな。で、ザッ君が安全を確認してくれた『宝箱』2つを戦姫が宝石槍で切り開く。
片方からは、白い林檎みたいな果実が数個。もう片方からはかなり大きな金属塊。
「巨人の実に、アダマンタイトの塊ですか。まぁまぁの内容です」
戦姫からすれば、大した事無い品なんだろうけど、どちらもかなりのレア物だ。巨人の実は、巨人族の死んだ後に生えた木に成るという果実。滋養強壮の秘薬の材料として知られ、専ら、富裕層の間で非常に高価で取引されている。アダマンタイトも優れた金属素材として、価値が高い。
『本機が回収しておきます。後ほど、分配しましょう』
戦利品はザッ君が回収。本当に助かるよ。
『それと、上層階へのショートカット通路を発見しました。こちらです』
更に上層階へのショートカット通路を発見したと。有能過ぎるザッ君。その場所へと案内してくれる。
『ここです』
一見、何も無い床。だが、ここが上層階へのショートカット通路だとの事。通路といっても、本当に通り道が有る訳じゃない。要は、空間転送システムだ。
「ん、確かに上層階へのショートカット通路ニャ。どうやら、30階まで飛べるニャ。ほら、さっさと集まるニャ。30階まで飛ぶニャ」
魔博が床のその部分に触れると、システム起動。魔博を中心に、幾何学模様が床に広がる。全員、魔博を中心に集まる。
「それじゃ、一気に30階までひとっ飛びニャー!」
魔博の元気な声と共に、強烈な浮遊感と共に僕達は30階へと一気に歩を進めた。そして……大きな出会いを果たす。
狐月斎side
一夜明け、再び『塔』へ。前回はショートカット通路で、一番スカの5階しか引けないくじ運の悪さも有り、26階で撤退したが、今日は最低、100階は達成したい。そんな私達は現在、64階にいるのだが……。出てきたぞ、なろう系のバカ共が。早々にあの世に送ってやったが。
今回もまぁ、見事にバカばかり。初対面でいきなり、私とクリス殿を俺の女にしてやるとか、聞いてもいないのに、ベラベラと能力を明かすやら……。
まず、初対面の相手、しかも女性への礼儀を知らんのか。
更に、聞かれてもいないのに、ベラベラと自分の能力を明かす奴が有るか。能力は隠すのが鉄則中の鉄則。長い付き合いの私達4人ですら、自分の手の内を全て明かしはしない。
最初に出くわした、防御力全振りだ、完全回避だとか言うバカ2人。確かに大した防御力だったし、完全回避の方には確かに攻撃が当たらない。
で、それが何だ?
能力が分からなければ、流石に私達といえど、対処に困るが、能力が分かれば対処出来る。今回は私が対処。私は黒巫女故に、符術にも通じている。それを使い、周囲の空気の組成を変えた。
純粋窒素にな。
バカ2人は直後に死んだ。窒息死だ。理由が分からん者は調べよ。ちなみに窒素は毒ではないから、毒無効、と調子に乗るバカにも有効だ。繰り返すが、自分の能力を聞かれてもいないのにベラベラ喋る奴はバカだ。
『口は災いの元』
先人の残してくれた、諺というありがたい教訓。なろう系のバカ共には分からんみたいだな。
その後に着いた、72階。ここで、問題発生。ある意味、恐れていた事。異世界に通じている出入口が複数存在する階層。それを通って、複数世界からなろう系の連中がやってきていた。しかも、愚かな事に、殺し合いを始める始末。何せ、自分は主人公。それ以外は全てモブ、踏み台と考えている連中だからな。自分以外の主人公など、断じて認めん。
『主人公を騙る悪を討つ』
という、お題目を掲げ、『塔』攻略そっちのけで殺し合っている。厄介な事に、私達まで攻撃対象だ。やはり、ゴミは早急に処分すべきか。私は再び、純粋窒素変換の呪符を出す。範囲はこのフロア全体だ。
「静かになった」
「やはり、純粋窒素攻撃は効きますな」
「スキル等を過信している連中程、よく効きますわね」
「スキル云々以前に、少なくとも、酸素呼吸をしている生物なら、ひとたまりもない。我等でもヤバいな」
私達の周囲を除いた、フロア全体の空気を純粋窒素に変換。くだらない殺し合いをしていたなろう系のクズ共は、全員仲良く、即座に窒息死。きっと今頃、冥界の焼却炉はクズ共の魂の大量投入でフル稼動中だろう。あんな有害無益なクズ共でも、新たな命を生み出す為の燃料としてなら、優秀だ。
逆に言えば、それしか価値が無いという事だがな。
「さて、鬱陶しい連中はいなくなりましたし、先を急ぎましょう。もし、なろう系の連中の手に理想珠が渡ったら、最悪、世界が終わりますわよ」
クズ共が片付いた事もあり、先を急ぐ。私達の今回の目的は、『塔』の処分及び、理想珠をなろう系のクズ共の手に渡らぬ様にする事。手にした者の望む理想の品を1つだけ手に入れられる願望器たる理想珠。まともな者なら良いが、最低最悪の狂人揃いのなろう系のクズの手に渡れば、どうなるか分かったものではない。
「もっとも、某達も理想珠を手にする事が出来ない辺りは、残念ですな」
「それは仕方ない、狂月殿。我等全員、かつて理想珠を手にし、理想の品を手に入れた。そして、理想珠が願いを叶えてくれるのは、1人につき1回限り」
ただ、私達も理想珠を手にする事は叶わない。クーゲル殿の言う通り、私達はかつて、理想珠を手にし、理想の品を得た。だが、願いを叶えられるのは1人につき、1回だけ。何度も願いを叶えられるなどと、都合良く出来てはいない。
ともあれ、先を急がねばなるまい。邪魔が入る前に、上層階へのショートカット通路を探さねば……。
カタカタカタ!
そう思っていた矢先、背中に背負っている我が愛刀『夜狐』がこれまでに無く騒ぐ。
「……来たか」
少し離れた場所。そこに、数人の人影が現れる。私達と同様、ショートカット通路を使ってここまで来たか。特に目を引くのは、巨大ダンジョンたる『塔』に似つかわしくない、メイド服を着た銀髪碧眼の娘。なぜか頭の上に白いツチノコを乗せているが。
それ以外も、また、とんでもない実力者揃い。というか、真十二柱がいるぞ。それも二柱。
序列七位 魔宝晶戦姫エルージュ
序列八位 機怪魔博タマ
一柱でさえ、滅多に地上に干渉しないのに、これは異常事態。
だが、何より……。
腰に一振りの刀を差した、長い黒髪にブレザー姿の美少女……に見えるが、男だな。遠目ながら、筋肉の付き具合、骨格で分かる。その姿を見た途端、あれ程騒いでいた『夜狐』がピタリと静かになった。そうか、彼が……。『夜狐』には分かったらしい。私にも分かる。そうかそうか、君がそうなのか。中々に感慨深いものがあるな。ならば、やる事は1つしかない。
「ちょっと! 狐月斎さん!」
何かに気付いたのか、止めようとするクリス殿。
「もしや……あれが……」
狂月殿もまた、気付いたらしい。彼が永きに渡り追い求めてきた物が、そこに有ると。
「クリス殿、諦めろ。久しぶりに狐月斎殿に火が着いた。これは止められん」
すまん、クーゲル殿。感謝する。私は背中に背負っている愛刀の柄を握り、抜いて構える。その上で名乗りを上げる。
「私は三十六傑が、一。序列四十二位。そして、四剣聖が筆頭。夜光院 狐月斎。そこな、剣士よ。さぞかし腕の立つ者と見受けた。一戦、所望致す」
第165話です。
遂に『塔』に入ったハルカ達。早々に魔物達による襲撃を受ける羽目に。ハルカは最下級巨人族。ファッツジャイアントの群れと。それ以外のメンバーは、金属生命体、メタルソルジャーの上位種。アダマンタイトソルジャーの群れと交戦。どちらも撃破。
一方で、上位転生者4人組もまた、『塔』を攻略中。複数世界からやってきた、なろう系転生者達と交戦。狐月斎の『純粋窒素攻撃』で、まとめて抹殺。詳しくは各自、調べて下さい。ただ、この攻撃、本当に恐ろしいです。即座に意識を失い、死に至ります。しかも窒素は毒ではないので、よく有りがちな『毒無効化』も無意味。少なくとも、酸素呼吸している生物なら、ひとたまりもない。科学舐めるな、ファンタジー。
そして……。遂に出会った、イサムと狐月斎。
次回予告。
「貴女が、『四剣聖』の筆頭。夜光院 狐月斎か」
「私も君の事は、かねがね、聞き及んでいた。『八剣鬼』が筆頭。大和 勇よ」
では、また次回。
追記
メタルソルジャー∶全身が金属で出来た、人型の魔物。見た目は、金属製のマネキン。その性質上、毒、麻痺、睡眠等は無効。疲労、空腹、痛覚も無く、完全に破壊しない限り、止まらない。
鉄、銅、銀、金、プラチナ、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンと、色々な種類がおり、特に貴金属製の者は、一攫千金を狙う者からは、生きたお宝と呼ばれている。……勝てればだが。
特に、ミスリル以上の者は、その素材の性質上、生半可な攻撃では通じない。返り討ちにされるのがオチ。