第162話 ハルカの『塔』攻略記 元、自衛官の昔語り
イサムside
北の大国、ルコード教国領内に突然現れた『塔』。第三代創造主が創った、生きている巨大ダンジョン。途轍もない危険と、莫大な財宝が有る、人を惹きつけて止まない、魔の巣窟。
そして、ルコード教国の元首。『教皇』直々にハルカ宛に『塔』の調査依頼が来た。
あまりにも怪しい依頼。しかし、相手は大国の元首。それに『塔』は放置するには、危険過ぎる存在。ある意味、好都合。渡りに船と、ハルカは依頼を受け、北に向かう事に。
で、今回の北行きのメンバーとして、ハルカを筆頭に、俺、竜胆。更に真十二柱から、序列七位 魔宝晶戦姫エルージュ、序列八位 機怪魔博タマ。それと、ハルカの使い魔の白ツチノコ、ダシマキ。竜胆をボスと仰ぐ、巨大モグラの子供。テルモト。
出発時に魔博が呼んだ、巨大ロボット。ザッ君に乗せて貰い、予定よりずっと早くルコード教国入りを果たした。色々、準備していたらしい、教国側の使いのヒョージュさんは予定をぶち壊されて、えらく凹んでいたが、まぁ、ドンマイ。
……しかしなぁ。やけに『夜桜』が騒ぐな。それとは別に、俺も血が騒ぐ。剣士の勘が告げる。
業物を持つ、強い剣士がいると。
あくまでも、今回の目的は『塔』攻略だけど、そう簡単にはいきそうもないな。……ハルカには言えないな。
さて、巨大ロボット、ザッ君のお陰で、予定より早く着いた、ルコード教国首都。ルコーデグラード。流石に大国の首都。でかいな。ヒョージュさんの案内の元、教皇のいる宮殿に向かう。まずは教皇に謁見。それから会食の後、準備が整い次第、『塔』に向かって出発と聞いている。
そうして宮殿に向かい、歩いていた俺達だが、途中、やけにファンキーな爺さんがハルカに絡んできた。
だけど、単なるファンキー爺さんじゃなかった。いきなりハルカの背後を取り、尻を触るわ、怒ったハルカの繰り出した肘打ちをあっさり躱すわ、挙げ句、煙玉を使って瞬時に逃げやがった。只者じゃないぞ、あのファンキー爺さん。関わり合いたくないなぁ。ハルカも不機嫌だし……。ヒョージュさんも、何か、その場を離れたし……。
早くも先行き不安な状況。俺、自分で言うのも何だけど、頭悪いからなぁ。上手くフォロー出来る自信が……っ!! これは!!
突如、『塔』の方から感じた悪しき気配。それも相当な数が、こちらに向かっている。これは不味い! 魔物大発生だ!
ダンジョンが有る所で、特に恐れられる脅威の1つがこれだ。大量の魔物が現れ、行く手の全てを滅ぼす。手加減もへったくれも無い。ただひたすらに、破壊と殺戮を繰り返す。スタンピードの後には、何も残らない。過去、幾つもの村、町、場合によっては、城や、国さえ滅ぼされた、恐ろしい脅威。
これは不味いぞ! 『塔』由来のスタンピードなら、そんじょそこらのスタンピードとは格が違う。ルコード教国そのものの危機だ!
「イサム!」
「先輩!」
ハルカと竜胆も気付き、俺の名を呼ぶ。
「おや、スタンピードですか」
「ありゃりゃ、依頼を始める前に終わったニャー」
『魔博。迎撃、脱出、いずれにせよ、本機の戦闘体を呼びましょうか? 』
その一方で、のんきな戦姫と魔博。こいつら、スタンピードに対し、何もする気無いな。まぁ、真十二柱たるこいつらからすれば、一国滅びた所で、知った事じゃないか。ザッ君は対処する気は有るみたいだけど……。
あまり時間は無い。グズグズしていたら、ルコーデグラードはスタンピードに飲み込まれて終わる。教皇との謁見に向かう途中だが、やむを得ない。すぐさま、スタンピードが起きた方に向かおうとしたが……。
いきなり、スタンピードの気配が消えた。
正に一瞬。誰かがスタンピードを滅ぼした。それも『塔』由来の強化スタンピードを。そしてこの気配。圧倒的な『剣気』。途轍もなく強い剣士が、一刀の元に切り捨てたのか。俺には分かる。剣士の勘が教えてくれる。
ともあれ、先を越された!
これは剣士として、大変な屈辱。だが、同時に興奮した。強い剣士がいる! 『塔』由来の強化スタンピードを一刀の元に葬り去る、強い剣士が! やはり、俺の勘は正しかった!
剣士たる者、やはり目指すは最強の座。そして、強敵との死闘こそ、最高の糧となる。クズを幾ら斬っても、何の足しにもならない。
「イサム、今の……」
「どうやら、大変な実力者がいる様です、先輩」
ハルカ、竜胆も、状況を把握。想定外の存在に危機感を募らせる。何者かは知らないが、もし、敵に回れば厄介だ。
「現状では何とも言えないな。少なくとも、ルコード教国を滅ぼす気は無さそうだけど。でも、用心に越した事はないな」
現状では情報が無さ過ぎて、何とも言えない。スタンピードを始末したのは何者か? 敵か? 味方か? その目的は?
だが、これ程の実力者が偶然、居合わせたとは思えない。恐らくは『塔』目当てでやってきたと思う。ならば、遅かれ早かれ、俺達と相見える可能性大。果たして、その時どうなる事か……。
先行きに不安を感じていると、ヒョージュさんが戻ってきた。だが、何かえらく動揺しているな。……スタンピードの連絡を受けたんだろうな。
「遅くなり申し訳有りません。緊急の連絡が入りまして。とりあえず、急ぎ、宮殿に向かいましょう。宮殿に着き次第、案内の者を付けますので」
やっぱり大事になったんだな。スタンピードが起きたんじゃな。『塔』が出現した以上、スタンピード発生は考えていただろうが、実際に起きたら、そりゃ焦る。ましてや、何者かがスタンピードを潰したとあれば、尚更。
……カタカタ、カタカタ
ますます、『夜桜』が騒ぐな。やっぱり、スタンピードを潰した奴絡みか。本人も強いが、武器もまた相当な業物だ。でなけりゃ、こんなに騒がない。……少なくとも相手は三十六傑級。武器も夜桜に引けを取らない、最上級か。これは気を引き締めていかないと。でなければ死ぬ。
それから、ヒョージュさんの案内の元、ついに宮殿に到着。
「申し訳有りませんが、私はここで失礼します。すぐに案内の者を寄越しますので、少々、お待ちを」
そう言って、ヒョージュさんは足早に去っていった。間違いなく、上は大騒ぎだな。ご愁傷様。とりあえず、案内係が来るまで、暫し待つ。
「やれやれ、人を呼んでおきながら、待たせるとは。なっていませんね」
「全くだニャー。これだから凡人は困るニャー」
待ち時間の間、好き放題に言う戦姫と魔博。それに対し、ハルカと竜胆。
「『塔』由来の強化スタンピードを即座に潰せる者がいる。これは由々しき事態だね」
「それに関しては、私も同感です。スタンピード自体は私も何度か経験が有りますが、あれは圧倒的な数の暴力。通常、一個人の力でどうにかなるものではありません。スタンピードを上回る、数の暴力。もしくは大火力。出来れば、その両方を兼ね備えないと、とても対処は不可能です」
2人はスタンピード及び、それを潰した誰かに関して、話し合っている。確かに今回のスタンピードは潰された。だからといって、今後、スタンピードが起きない保証は無い。ぶっちゃけ、『塔』が有る限り、スタンピードはいつ起きてもおかしくない。
そして、スタンピードを潰した誰かの正体、目的も分からない。スタンピードを潰したから、味方とは限らない。敵の敵は味方という保証は無い。敵の敵はまた別の敵。別に珍しくもない事だ。
俺、頭が悪いけど、それぐらいは分かるぞ。クズにはそれが分からないみたいだけどな。
いずれにせよ、油断は禁物。何時だって、死神はこちらの目と鼻の先にいて手招きしている。こちらの気の緩んだ時に、あの世に連れ去る気満々なのさ。事実、過去、何人も見てきたよ……。
などと、考えていると、案内係が来た。いよいよ、教国の元首。教皇との謁見だそうだが、ここで問題発生。考えてみれば、当たり前なんだけどな。
『全員の武器を預けないといけない』
「どうしよう?」
「従うしかないでしょう。貴女、一国の元首と会うのに、武装して行くつもりですか? バカなんですか? さっさと死んだらどうですか?」
困惑するハルカに対し、容赦無く責めたてる竜胆。
この2人の仲が悪いのは知ってたが、流石にこれ以上は不味い。今回はこのメンバーで『塔』攻略を目指すんだ。余計なイザコザを起こされるのは困る。だから、止めに入る。
「そこまで。ハルカ、一国の元首と謁見する以上、武装解除は当たり前。それと竜胆、お前も言い過ぎ。今回はこのメンバーで『塔』攻略をするんだ。余計なイザコザを起こすな。仲間割れを起こしたパーティーの末路、お前もよく知ってるだろ?」
「確かに。一国の元首との謁見である以上、武装解除は仕方ないね。あまり、他人に自分の武器は触らせたくないけど……」
「申し訳有りません、先輩。口が過ぎました」
幸い、2人共それ以上、言い争いをせず、大人しく引き下がった。分別の有る2人で助かる。その後、案内係とは別に来た、預かり担当の人にそれぞれの武器を預ける。まぁ、そんじょそこらの武器と違い、いざとなれば、呼べば来る。
それにしてもだ。ハルカと竜胆が揉めかけた時点で止めろよ、戦姫と魔博。真十二柱だろうが。……と、言いたいが、そこは神魔の頂点、真十二柱。たかが、ガキ2人の揉め事なんぞには介入しないってか。あまり、当てにはしない方が良いな。
クーゲルside
私の名は、クーゲル。クーゲル・シュライバー。いわゆる転生者だ。同じ転生者の狐月斎殿、狂月殿、クリス殿は良き友人達だ。
ちなみに私は他の3人と違い、転生前から異世界の存在を知っていた。ついでに言えば、他の3人と違い、転生前から戦闘技術持ち。生前の私は自衛官。銃火器、格闘等の訓練を積んできた。常日頃から肉体トレーニングも欠かさなかった。やはり、自衛官たる者、身体が資本だからな。いざという時、動けませんでは話にならない。『常在戦場』それが私の信条。
私のいた世界は、酷い世界不況下に有り、いつ、世界大戦が勃発してもおかしくない、緊張状態にあった。
そんな最中、とんでもない事件が起きた。
『異世界に通じる門が現れた』
後に分かった事だが、それは世界同時に現れたらしい。
日本、新宿
アメリカ、ニューヨーク
ロシア、モスクワ
中国、北京
インド、ニューデリー
フランス、パリ
出現したのは6カ国、6カ所。
世界各国は、この事態に仰天。同時に門の向こうに何が有るか、調査隊を派遣。その結果、分かった事。
門は各国毎に形が違い、行き先も違う。ちなみに、日本の門は鳥居。そして、門の向こうには広大かつ、豊かな大地が広がっている事。更に、膨大な地下資源も埋蔵されている事が判明。
分かっただけでも、石油、石炭、天然ガス、鉄鉱石、非鉄金属、貴金属、ウラン鉱床、各種レアメタル。正に宝の山。いや、宝の世界。その事実に世界中が沸き立ち、熱狂した。史上最大のバブルが始まると。
門の出現した各国は、喜び勇んで、門のもたらすであろう利益を得んとし、逆に門の出現しなかった各国は、何とか自国も利益を得ようと。或いは、妨害をしようと躍起になった。私も自衛官という立場上、日本の門の防衛任務に当たる事に。
……だが、世界各国は重大な事を見落としていた。
そもそも、何故、門が出現したのか?
異世界が無人だという保証は?
更に言えば。
異世界という存在を見下していた
後出しジャンケンになるが、世界各国はあまりにも愚かだった。世界的大不況である現状を打破したいのは分かるが、あまりにも軽率だった。
そして、世界各国はそのツケを支払う羽目になる。死を持って。
それは正に、突然の出来事だった。その日、門の監視任務に就いていた私は、交代時間になった。
門へ近づく者、もしくは、門から出てくる者、それに対する監視が私達の任務だった。マスコミ、野次馬、各国の諜報員etc……。あの手この手で門を調べよう、門に入ろうとするので、気の休まる暇が無い。
やっと帰って一息付ける。そう思い、交代員の同僚と挨拶を交わし、門から離れた私。
門の前で私に手を振る同僚。同期であり、先月、息子さんが生まれ、散々、自慢話をされたが、気の良い男だった。そんなあいつが……。
今でも忘れない。その時の事を。
いきなり門の内側から噴き出した、砲撃の如き業火が、門の前にいた同僚を。更にはその軌道上にいた者達、全てを飲み込んだのを。それは一瞬の事だった。私は門から離れ、たまたま、その軌道上にいなかった故に難を逃れた。だが、業火が通り過ぎた後の軌道上には何も残っていなかった。まるで、最初から誰もいなかった。何も無かったかの様に。
「おい……何かの冗談か?……冗談にしちゃ、たち悪いぞ……模部ぅ!! 返事しろよぉっ!!」
私は思わず絶叫した。そんな馬鹿な事が有るか。ほんのついさっきまで、あいつはいたんだ。門の前で手を振っていたんだ。
『任務明けにまた、飲みに行こうぜ。良いホルモン焼き屋を見付けたんだ。あ、ウチのカミさんには内緒な(笑)』
あいつはそう言って、手を振っていたんだ。妻子持ちの癖に、下ネタ連発する馬鹿野郎だが、本当に頼もしい奴だったんだ。一番の親友だったんだ!!
しかし、現実は非情だった。私の親友は死んだ。一瞬で跡形も無く、焼き尽くされて死んだ。……こんな事、あいつの嫁さんと、息子さんにどう言えば良いんだ……?
私は混乱の極みにあった。あまりにも、事態が理解の範疇を超えていたから。ただ、呆然とその場に立ち尽くしていた。そんな私を嘲笑う様に、更なる事態が。
門の内側から、武装した軍勢が大挙して押し寄せてきたのだ。まるで、戦国時代の様な軍勢が。突然の業火による混乱。更に追い討ちの大軍。新宿は一方的な大虐殺の舞台と化した。そして、私もまた、抵抗虚しく、軍勢の前に呆気なく、殺された……。
「ちくしょう……何の……為に……俺は……自衛…官……に……」
四方八方から騎兵に槍を突き立てられ、大量の血を流しながら、倒れた私が見た最後の光景。それは私と同じく、軍勢に虐殺される人々の姿だった。老若男女無関係に、手当たり次第殺される、この世の地獄だった。
『ふむ。そんなに無念かね? ならば、チャンスをあげよう。君に新たな命と身体を与えよう。そうだな、今から君は、『クーゲル・シュライバー』と名乗りたまえ。ちなみに君を殺した連中は、門の向こうの異世界の住人だ。転生後の行き先は君の元いた世界にしてやろう。もし、復讐したいなら、門をくぐり給え。連中、君達の世界を手中に収めるのが目的故に、当分、門を処分はしない、出来ないのでね。では、健闘を祈る(笑)』
殺されたはずの私。そんな私の前に現れた、怪しい神父。第三代創造主と名乗る、その男は、私にチャンスを与えると言った。新たな命と身体を与えると。
そして、私達を殺した連中についても教えてくれた。門の向こうの異世界の住人。その目的は、私達の住む世界を手中に収める事。何の事はない。結局、世界が違えど、人間の考える事は同じだったという事だ。
唯一の違いは、こちらは利権争いに夢中になり、向こうはこちらに攻め込む準備を進めていたという事。
だが、そんな事は最早、どうでも良い。やられっぱなしなど、許せない。一度死んだ以上、自衛隊も、国も関係無い。ここからは、『私』。『クーゲル・シュライバー』の戦いだ。
さて、クーゲル・シュライバーとなって、この世に戻ってきた私。ちなみに、あの襲撃から、3年経っていた。帰ってきた日本は、かつての面影など微塵も無かった。植民地、いや、工業、農業のプラントと化していた。後に知ったが、こちらに攻め込んできた異世界の軍勢は6カ国。門の形がそれぞれ違うのも、そのせいだった。もっとも、目的は同じだったが。
こちらの世界を生産プラントと化し、こちらの人間を労働力。要は奴隷としてこき使う。そして、収穫は自分達が全部回収。今は、6カ国が如何に、この世界を独占するかで睨み合いの最中だと知った。
どうやって知ったか? かつての同僚に聞いたからだ。私は新宿の門、鳥居をくぐり、異世界へと渡った。そして出会った訳だ。探し人にな。
「久しぶりだな。まぁ、この姿では分からんか」
私はその男の頭を鷲掴みにして話し掛けた。やはり生きていたか。それこそ、どんな汚い手を使ってでも、生き残ろうとする奴だからな、こいつは。
「誰だ……お前は……」
「元、伊谷 総司 一曹だ。いやはや、出世したな板見 浩二 一曹。いや、今は、コージ・イタミ将軍か? 相変わらず、モテるな。聞いたぞ、日本が攻め込まれた時、早々に裏切り、向こうに付いたとな。そして、向こうの姫様に取り入り、気に入られ、今では将軍位。いずれ、婿入りだそうだな? めでたい話じゃないか。私は同期として鼻が高いぞ? 模部の奴も同感だろうな」
私が頭を鷲掴みにしている男の名は、板見 浩二。かつて、私や、模部と同期の自衛官だった男。
そして、自衛隊の仲間や、日本、ひいては、こちらの世界を裏切り、向こうに付いたクソ野郎だ!
以前から、この男の事が、私も模部も大嫌いだった。女性士官からの評判は良かったが、私や、模部に言わせれば、あんな気味の悪い奴どこが良いのか分からなかった。
確かに人当たりは良い。見た目も悪くないし、アニメやゲームに詳しい、『明るいオタク』という感じで、そういう所が、娯楽の少ない自衛隊の女性士官達に受けが良かったらしい。
しかし、私や模部は気付いていた。あいつ、笑っていても、その目が冷ややかな事を。明らかに相手を値踏みする目だった。それに、あいつ、離婚歴有りのバツイチなんだが、別れた嫁が行方不明である事も。
そんな奴が、異世界からの侵略を機に本性を現し、自衛隊内でクーデターを起こし、実権を握り、侵略してきた異世界の国家に取り入ったという訳だ。ちなみに、クーデターに賛同した大部分が、奴を支持する女性士官だったそうだ。……クズ女共が。
憎い板見を捕らえた私だが、残念ながら、この場は逃げられてしまった。奴の直属となった、元自衛隊の女性士官達、及び、奴が誑し込んだ、異世界の女達。エルフに、魔道師見習いに、戦神に仕える女神官。
特に厄介だったのが、戦神に仕える女神官。戦神に仕える神官だけに強い。刃渡り2mは有ろうかという大太刀を片手で振り回し、その一撃は大地を割る威力。こいつのせいで、私は何度も板見を取り逃す羽目になった。他の女達も散々邪魔をしてくれ、心底腹立たしく思ったものだ。
それから1年後。突然、『塔』が現れた。当然、異世界、地球世界の覇権を狙う6カ国は、『塔』を調べ、その内に眠る莫大な財宝を手に入れんと欲した。
『塔大戦』の勃発であった。当然、板見の奴も黙って見過ごす訳がなく、姫と結婚し王位に就き、他の女達も側室に迎え、更に戦で捕虜にした女達を加えた、一大ハーレムを作って尚、まだ足りぬと、『塔』へ軍勢を送り込んだ。その底無しの欲望だけは、流石と思ったものだ。
しかし、『塔大戦』がもたらしたのは、6カ国全ての衰退と、腐敗だけだった。そもそも、戦争は不毛な物だ。そこへ『塔』攻略を同時進行しようなど、無謀以外の何物でもない。
『二兎追う者は、一兎も得ず』。よく言ったものだ。戦争と『塔』攻略。その同時進行を強行した結果、物資、人員をみだりに失うばかり。
6カ国に先など無いと、誰の目にも明らかであった。それは、かの、板見もまた、分かっていたらしい。奴はかつて日本を、自衛隊を裏切った時と同じく、今度は自国を裏切った。
そもそもが国に取り入り、自分の地位を確かな物とする為だけに、利用した姫。最早、用済みとなった、妻である姫を殺し、ありったけの財宝を奪い、この期に及んでまだ、奴を盲信する女達。元自衛隊の女性士官達。エルフの女。魔道師見習いの娘。戦神に仕える女神官を連れ、『塔』に向かった。
それを知り、私も『塔』に向かった。板見との決着を付ける為に。私は感じていた。決着の時は近いと。板見め、今度こそ、葬り去ってくれる!
既に『塔』が現れてから、5年後の事であった。
板見の後を追い、『塔』へと向かう私。しかし、当然、邪魔が入る。板見が配置した軍勢。確かに国は衰退したが、それでも軍が壊滅した訳ではない。国王たる板見が自由に動かせる、手飼いの軍勢はまだいる。勿論、奴とて、この程度で私を止められるとは思っていまい。時間を稼げれば良い。
奴にとって、自分以外の全ての存在は『駒』でしかない。自分さえ、良ければ、助かれば、幸せになれば良いのだ。徹底的な利己主義者。ある意味、正直者だ。称賛はせんが。
ともあれ、軍勢を蹴散らし、『塔』へ。奴の目的は最上階に行き、そこに有る『宝』を手にする事で間違いない。奴に従う女達も全て、その為の駒、生贄でしかない。……敵ながら、哀れな女達だ。奴はお前達に愛情など一切無い。強いて言うなら、便利な道具として『愛用』しているだけだ。
遂に『塔』に進入。私は既に何度も『塔』に出入りし、便利な道具を得ている。その中には、既に行った事の有る階まで、一気に『跳べる』道具も有る。
銀色の『鍵』を取り出し、空中に差し込み回す。すると、ドアの様に、空間が一部開く。この先は800階だ。しかし、板見の気配は更に上から感じた。奴め! 一体、どれ程の犠牲の元、上への『鍵』を手に入れたんだ! しかし、そんな事を気にしている場合ではない。私は最上階を目指し、急ぐ。板見が最上階の『宝』を手に入れたら、おしまいだ。絶対にろくな事にならない。
そして遂に辿り着いた最上階。だが、最上階は一面、真っ赤な血の海と化していた。魔物ではなく、人の血。周辺には幾つもの肉片が転がっていた。ほとんど原型を留めてはいなかったが、髪の毛や、肌の色、衣服の切れ端から、それが誰かと察する。その上で、1人立つ男に語り掛ける。板見 浩二に。
「相変わらずだな。利用するだけ利用して、用済みになったら殺す。本当に何も変わらない。かつて、お前の嫁さんもこうして殺した訳か。なぁ、板見 浩二」
「用済みのゴミは、処分する。当たり前だろう? それとも何か? お前はゴミを処分しないのか? なぁ、伊谷 総司」
「伊谷 総司は死んだ。私はクーゲル・シュライバーだ。それとゴミを処分するのは同感だな。お前という、最悪の有害ゴミをな」
決着を付けようとしたその時、声が聞こえてきた。聞き覚えの有る声が。
『いやはや、因縁の対決か。これは面白い。ならば、ふさわしい舞台が必要だな。そこで決着を付けるが良い。勝者には『塔』の最上階の『宝』を与えよう』
私を転生させた、第三代創造主の声。私と板見の対決にふさわしい舞台を用意すると。そこで決着を付けよと。勝者には『塔』の最上階の『宝』を与えると。それを聞いて、板見は喜色満面。
「聞いたか伊谷! お前を殺せば、俺は『塔』の最高の宝を手に入れる事が出来る!」
「分からん奴だな。私はクーゲル・シュライバーだ。これ以上、お前と話す事は無い。決着を付けるまで」
そう言い終わると、私と板見のいる床が突然、せり上がっていき、塔の天井が開き、更にその上へ。そして、停止。目算で一辺20m四方の正方形の舞台と化した。勿論、舞台の外は、何も無い空中。1000階に達する『塔』の最上階の更に上。落ちたら、一巻の終わり。
『ちなみに、飛行魔法、道具などは一切無効。舞台から落ちたら、即死だ。では、健闘を祈る(笑)』
……明らかに私達で遊んでいるな。第三代創造主の悪意と嘲りに満ちた声を聞き、腹立たしく思うも、今は板見との決着が先。転生時に渡された、やたらと派手な金ピカの二丁拳銃を構える。対する板見は、刃渡り2mは有る両刃の大剣を構える。
「伊谷、お前にしろ、模部にしろ、以前から気に食わなかった」
「私はクーゲル・シュライバーだ。ただ、私からも言わせて貰えば、私もお前など大嫌いだ。そして、お前なんぞに熱を上げる愚かな女達もな」
「まぁ、確かに馬鹿女達だったよ。それでも俺の役には立ったんだから、感謝されこそすれ、恨まれる筋合いは無いな」
「……下衆が」
私は見たぞ。見るも無惨に、目茶苦茶に破壊された女達の肉片の中に、戦神に仕える女神官の生首が有ったのを。その無念の形相を。偏執的なまでに板見に執着し、守ってきた、その結果が、板見に裏切られて殺されるとはな。さぞかし無念だったろう。
これまで散々、邪魔をされたが、その無惨な最期には少しだけ同情する。もし、来世が有るなら、もっと男を見る目を養うべきだ。
とにかく、今は、板見との決着を付けるのが最優先だ。
『では、始め!』
第三代創造主の合図を皮切りに、私と板見は決着を付けるべく激突した。
結論から言うと。勝ったのは私、クーゲルだ。確かに板見は弱くはなかった。むしろ強かった。奴め、捕虜を使い人体実験を繰り返し、そのデータを元に、自身を改造していた。道理で、刃渡り2mは有る大剣を振り回せる訳だ。しかし、やはり無理が有った様だ。
こちらは第三代創造主が生み出した、上位転生者。対して、板見は単なる人間の身。度を越した強化改造をして只で済む訳がなかった。案の定、暴走を始め、化け物と化した。
しかも、そこへ第三代創造主が、簡単に決着が付いてはつまらないと、化け物と化した板見に手を加え、暴走する巨大肉塊と成り果てた。しかも、自分が殺した女達の肉片を吸収し、最終的に、女達の肉片の集合体となった。あれ程グロテスク、醜悪な化け物は、そうそういない。
その後の戦いは私史上、最低の戦いだった。大して強くはないし、知性も無く、単純に暴れるだけ。だが、とにかく醜い。それに、しぶとい。いくら攻撃しても、すぐ再生してしまう。挙げ句、傷付くたびに、悲鳴を上げる。
4日間に及ぶ戦いの末、最終的に足止めし、動けなくした所で、最大火力の一撃を放ち、完全に消滅させた。その際に戦利品として、『塔』の最上階の宝を手に入れた。
『塔』の最上階の宝。その名は『理想珠』。これは手にした者が望む理想の品に変わるという秘宝。後で聞いたが、狐月斎殿達も同じく『理想珠』を手に入れ、自身の武器を得たそうだ。しかし、事態はこれで終わらない。
『勝利おめでとう! 無限の再生力を持つ怪物との死闘、実に楽しませて貰った! 今回の『塔』はこれにて攻略完了。と、いう訳で、この『塔』は処分する。3分後に爆破するから、悪しからずご了承下さい(笑)』
第三代創造主は用済みとなった『塔』を爆破処分するというではないか! 残された時間は3分。生憎、私は空を飛べないし、『塔』に来る為に使った『銀の鍵』も、力を失い塵と化した。これまでか。私は死を覚悟した。だが、私の命運は尽きていなかった。
ふと目に付いたのは鞄。確かあれは、板見のハーレム要員の1人だった、魔道師見習いの娘の物。その時、私に天啓が閃いた。
「そうだ! あいつ確か、色々な呪符や、魔道具を持っていた!」
かつて、板見と戦っていた際、散々邪魔してくれた、ハーレムの女達。中でもこいつは、様々な呪符や魔道具で邪魔してくれた。ある時、小さいグライダーの様な魔道具を装着し、上空から爆弾を撒き散らしてきた事が有った。板見がそれを使って、空を飛んで逃げた事も有った。
一か八か、鞄を漁る。それ自体が魔道具である鞄。小さい癖に、色々な品が出てくる。頼む、有ってくれ……。祈りながら、鞄を漁る。すると、有った!
折りたたみ式の小さなグライダー。サイズからして板見用か。幸い、私と板見はさほど、体格が変わらない。どうにか装着出来た。しかし、だ。
第三代創造主は飛行魔法、道具などは一切、無効。落ちたら死ぬと言っていた。だが、このままでは間違いなく死ぬ。ならば、やるだけの事はやる。どの道、一度は死んだ身だ。
意を決し、私はグライダーを展開し、『塔』から飛び立つ。
「ウオォオオオオオオッ!!!!」
…………………………気が付けば、私は、空を飛んでいた。かなりのスピードで『塔』から一直線に離れていく。事前に備え付けのマニュアルを読んだおかげで、操作法は分かる。とりあえず『塔』から離れる事を最優先。スピードを上げ、急ぎ、離れる。
そして……
凄まじい爆音と、衝撃が襲ってきた。『塔』が爆発したのだ。たまらず、バランスを崩してしまうが、そこは流石は天才と呼ばれた魔道士見習いの娘の作品。自動でバランスを立て直してくれた。その後、安全な場所を見繕い、ゆっくり降下、着陸に成功。どうにかこうにか、私は命拾いをした。
グライダーを外した後、思わず私は地面に大の字になって寝転んだ。暫くは動く気にすら、なれなかった。
「……私は生きてるぞーーーーっ!!!!!!」
それから、思いっきり叫んだのだった。
さて、その後だが、ただでさえ、『塔大戦』で衰退していた6カ国。そこへ『塔』の爆発による甚大な被害。それが決定打となり、完全に崩壊。その後は、群雄割拠の乱世に突入。
私は旅に出た。憎き板見は討ち取ったし、ならば、好きな様に生きようと思って。世界各地を巡り、やがて、異世界へと渡り、そんな中、別の『塔』。他の転生者達を知る事に。そして、狐月斎殿達と知り合った。
「さて、今回の『塔』。誰が最上階に辿り着くのか?」
「さぁ? 誰でしょうな? 某は、やはり、ハルカ・アマノガワが最有力候補と見ておりますが」
「私も狂月殿と同意見」
「案外、大穴が来るかもしれませんわよ?」
『塔』攻略に備え、取った宿。そこで、『塔』最上階に至るのは誰かと予想を立てる。はてさて、どうなる事か?
とりあえず、ハルカ・アマノガワよ。私達を失望させてくれるなよ?
お待たせしました。第162話です。
『塔』からの魔物大発生、スタンピード。それをあっさり潰した誰かの存在に、危機感を強めるハルカ達。そして、いよいよ、教国の元首。教皇との謁見に臨む。
その一方で、上位転生者4人組の1人。クーゲルの過去。
元、自衛官にして、既に異世界の存在を知っていた変わり種。
異世界から攻め込んできた軍勢に殺され、転生。復讐の為に異世界へ。
自衛隊時代の同期にして、裏切り者の板見を発見。以後、何度も激突。そして決着は『塔』の最上階で。
自分の欲望の為に平気で他人を利用しては、用済みになり次第、裏切り、捨てる下衆、板見。しかし、その最後はあまりにも惨めで不様。下衆にはお似合いの最期。
おまけ
『塔』の最上階の宝。理想珠。手にした者の望む理想の品を手に入れられる秘宝ですが、狂月だけは、武器ではなく、道具を得ました。彼は最強の一刀を自身の手で作りたいと考えているので。
それと、理想の品を手に入れられるといっても、実は制限有り。あくまでも、現時点の世界に存在する素材を使用した物しか出せない。元から存在しない、架空の素材を使用した物は無理。
つまり『ぼくのかんがえた、さいきょうきんぞく』とかは無理。存在しないので。
では、また次回。