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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
162/175

第161話 ハルカの『塔』攻略記 北へ行く者達、北で待つ者達

 あれから2日後。4月13日 午前10時。約束通り、ヒョージュさんがやってきた。


「お待たせしました。……ふむ、以上5人が今回のメンバーですか」


 今回の北行きのメンバー5人。僕、イサム、竜胆(リンドウ)さん、そして真十二柱の二柱。魔宝晶戦姫エルージュさんと、機怪魔博タマさん。


 以下、5人のメンバーを軽く値踏みする様に見ている。色々、思惑が有るんだろうな。指摘しないけどね。


「良いメンバーを揃えられた様で」


「それはどうも」


 当たり障りのない、やり取りを交わす。こんな所で揉めている場合じゃないし。


「とりあえず、お名前を伺っても? 名前が分からないでは、困りますので」


 こちらの名前を尋ねるヒョージュさん。まぁ、言っている事はもっともだけど、相手は暗部の長。油断も隙もない相手。しかし、僕以外の4人は別に臆する事もなく、名乗った。


大和(ヤマト) (イサム)です」


竹御門(タケミカド) 竜胆(リンドウ)と申します。よろしく」


「エルージュ」


「タマだニャー」


 ……イサムと竜胆(リンドウ)さんはともかく、真十二柱の二柱が酷い。そりゃ、真十二柱です。なんて言えないのは分かるし、真十二柱からすれば、たかが、人間相手に礼儀なんぞ知るか、という事なんだろうけど。


「これはご丁寧にどうも。私はルコード教国、護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)団長。ヒョージュ・イツテクと申します。よろしく」


 しかし、向こうも大したもの。戦姫、魔博の無礼な態度を気にした風も無く、自己紹介。この程度で動じる様では、暗部の長は務まらないか。


「後、そちらが使い魔達ですか」


「シャー」


『よろしく』


 僕の使い魔。白ツチノコのダシマキが一声鳴き、竜胆(リンドウ)さんに付き従う、巨大モグラの子供。テルモトが爪で地面に字を書いて挨拶。賢いな。それと比べて、うちのチーたんは……。バコ様はまぁ、年寄り猫で頭がボケているから仕方ないけど。


「さて、教国までの足はこちらで専用車を用意しました。3日程で、教国の首都であるルコーデグラードに着く予定です。まずは教皇猊下に謁見の上、準備が整い次第、『塔』に向かいます。調査期間中の衣食住及び、必要物資は全て我等、教国側で提供致します」


 その後、ヒョージュさんから、一通りの説明。専用車で教国の首都まで向かう。3日程掛かるらしい。教国は広いからね。そして、教国の元首。教皇との謁見を済ませるそうだ。それから準備が整い次第、『塔』の調査。調査期間中の衣食住、必要物資は向こう持ちとの事。随分、気前が良いね。


 ……絶対、裏が有るね。そんな親切な訳がない。真に受ける奴は馬鹿だ。とはいえ、利用出来る所は利用させて貰おう。向こうがこちらを利用する気なら、こちらも向こうを利用するまで。


 しかし、ここで文句を言うのが1人。


「遅いニャー。3日も掛かるなんて、遅過ぎるニャー。おい、ハルカ。空間転移ぐらい使えないのかニャー?」


 魔博が3日も掛かるなんて遅いと言い出した。挙げ句、僕に空間転移ぐらい使えないのかと言い出す始末。


「使えません。そもそも、行き先の座標を知りません」


 空間転移は空間干渉系の上位。僕はまだ使えない。そもそも、行き先の座標が分からなければ、無意味。


「使えないニャー。は〜、マジ使えないニャー」


 空間転移は使えない。そもそも行き先の座標を知らないと言うと、あからさまにため息を付きながら、使えない呼ばわり。……一々、癇に障るな、この猫女。だからといって、文句は言えない。相手は真十二柱。下手に怒りを買えば、死有るのみ。ひたすら我慢。


「は〜。仕方ないニャー。ニャーが手助けしてやるニャー。使えないヘッポコは額を地面に擦り付けて感謝するニャー」


「魔博、まさか……()()を呼ぶ気ですか?! ちょっと! やめなさい! せめて、もっと広い場所で!」


 仕方ないから手助けしてやると言う魔博。それに対し、やけに慌てる戦姫。魔博は何か呼ぶ気らしいが……。嫌な予感しかしない。そして戦姫の静止も虚しく、魔博はその名を呼んだ。


「ザッく〜ん!!」


 魔博の呼び声が響くや否や、空の彼方で何かが光った。しかも、それはこっちに向かってくる。最初は小さな点だったのが、近づくにつれ、段々とその輪郭が分かってくる。その大きさも。そして……。


 ズズーーーーーン…………


 轟音を立てて、()()はナナさんの屋敷の庭に降り立った。……良かった。ナナさんの屋敷の敷地が広くて本当に良かった。だけど、この後始末、どうしよう?


 何せ、屋敷の庭に降り立ったのは、()()()()()()だったのだから。


『お呼びですか? 魔博』


 しかも喋ったよ。






「ん、呼んだニャー。ちょっとニャー達を北の教国の首都。ルコーデグラードまで、運んで欲しいんだニャー」


 魔博の呼び掛けに応じ、やってきた巨大ロボット。その巨大ロボットに、自分達を北の教国の首都。ルコーデグラードまで運んで欲しいと言う魔博。それはともかく、突然、巨大ロボットが飛んできたせいで、辺りは大騒ぎ。


 それにしても、この巨大ロボット、某有名ロボットアニメに出てくる量産型によく似ているんだけど……。ぶっちゃけ旧ザ○。ただし、微妙にデザインが違う。パチもん臭い。


「何やってくれてんだよ! この猫!!」


 ほら、ナナさんが出てきた。怒ってるよ。


「ゴチャゴチャ煩いニャー。おミャーの弟子が使えないから、ニャーが手助けしてやったんだニャー。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは無いニャー。それに、今は何より時間が大切だニャー。一刻も早く、『塔』に行かねばならないニャー。あれは放置しておくには、あまりにも危険ニャー」


 怒るナナさんに対し、全く悪びれない魔博。流石は真十二柱。そんじょそこらの奴が同じ事をしたら、間違いなく殺される。それに、言っている事は正論。言い方はともかく。


「チッ! そう言われちゃ、反論も出来ないね。その代わり、さっさと行って、さっさと終わらせてきな」


「言われるまでもないニャー」


 とりあえず、ナナさんと魔博の間で話は付いたらしい。ただね、周りが……。


「何見てんだい! 見世物じゃないよ! 散りな!」


 ナナさんが集まってきた野次馬に、散れと怒鳴る。


「あの、そろそろ出発したいのですが……」


 これまで空気を読んで、ナナさんと魔博以外の面々は黙っていたけど、流石にこれ以上は困ると思ったか、ヒョージュさんが口を挟む。


「確かに。こんな所で時間を無駄にしていられないニャー。という訳だから、ザッ君、頼むニャー」


『は、了解であります魔博。では、皆さん、本機(わたし)の掌に乗って下さい』


 ヒョージュさんに促され、ようやく出発となった。で、魔博はザッ君と呼ぶ巨大ロボットに指示を出す。そして巨大ロボットは屈んで、僕達に向かい、両手の掌を差し出し、乗れと言ってきた。


「さっさと乗れニャー」


 魔博もさっさと乗れと催促してくる。……まぁ、真十二柱絡みのロボットなら、大丈夫かな。言われるまま巨大ロボットの掌に乗る。他の皆もそれに続く。ただし、ヒョージュさんは除く。


「あの、まさか、この巨人の掌に乗って、北へ行くと?」


「そうだニャー。ザッ君に乗れば、すぐに着くニャー。さっさと乗れニャー。出発出来ないニャー。良いから、さっさと乗れニャ!」


 ドカ!


 巨大ロボットの掌に乗って、北に向かう事に抵抗が有るらしいヒョージュさん。気持ちは分かる。だけど、魔博からすれば、そんなの知った事じゃない。イライラしたのか、ヒョージュさんを蹴っ飛ばし、無理やり乗せた。そして、自分もすかさず乗り込む。


「それじゃー、出発ニャー! ザッ君、目的地、ルコード教国首都。ルコーデグラード。安全第一で発進ニャー!」


『了解です魔博。命令を復唱します。目的地、ルコード教国首都。ルコーデグラード。安全第一で発進します』


 魔博が指示を出し、巨大ロボット『ザッ君』がその内容を復唱。そして僕達を両手の掌に乗せた状態で立ち上がる。掌の上という不安定な場所にいるのに、全く揺れない。凄い安定性だ。


『それでは、ザッ君。行きまーす!!』


 何か、某有名ロボットアニメの主人公みたいな掛け声と共に巨大ロボット『ザッ君』がナナさんの屋敷の庭から飛び立つ。見る見る内に、地上の景色が豆粒の様に小さくなる。


 それ程の高度に登ったのに、寒さも風圧も気圧の差の影響も受けない。何らかの防護システムに守られているらしい。流石は機怪魔博。


『皆様、これよりルコード教国首都、ルコーデグラードに向かいます。魔博より、安全第一と仰せつかりましたので、遅めである事、予めご容赦願います。本機(わたし)の計算では、予定到着時刻は、約1時間後になります。それでは空の旅をお楽しみ下さい』


 巨大ロボット、ザッ君は、安全第一の為に遅いと言うが、それでも約1時間で着くという辺りは凄い。本来の予定なら、3日は掛かっていたはずなんだから。


「……予定が狂いました。教国へ向かう為に色々準備、用意をしていたのですが」


 その一方で、暗い顔のヒョージュさん。仕方ないね。魔博のせいで、予定をぶち壊しにされたんだから。まぁ、ドンマイという事で。ともあれ、僕達を掌に乗せて、巨大ロボット、ザッ君は、一路、北の大国。ルコード教国の首都、ルコーデグラードを目指して飛ぶ。







 キョウゲツside


 某の名は、(オボロ) 狂月(キョウゲツ)。しがない鍛冶師の端くれ。そして、俗に言う上位転生者の端くれでもあります。


 某、生前から、大の刀剣マニアでありまして。実在、架空を問わず、刀剣が大好き。特に、自分の手で最強の刀剣を作れたら、などとよく、夢想していたもの。ちなみに、本業はしがない会社員でしたがね。


 そんな某は、突然の大震災により命を落としました。だが、そこで出会ったのが、第三代創造主とか名乗る、怪しい神父。


 そして、第三代創造主の手により、某は、自分が夢想していた鍛冶師。朧 狂月となって、異世界送りとなりました。そこに有ったのが『塔』。その世界では、『塔』を中心に巨大な都市が出来ており、正に『塔』が世界の中心でした。


 途轍もない危険と引き換えに、莫大な富と力と名誉が手に入る『塔』。多くの冒険者達が『塔』を攻略すべく集まり、更には彼等を相手に商売人達も集まり、そうして人が人を呼ぶ形で、街が生まれ、発展していったのです。


 やがて、冒険者達は大小、幾つもの集団を作りました。それが『クラン』。やはり、数は力ですので。






 今でも、よく覚えておりまする。数有るクランの中でも、特に強い3つのクラン。


武龍(ウーロン)


漆黒騎士団(シュバルツリッター)


神聖妖精魔導会(ホーリーエルフィンズ)


 ……妙ちきりんな名前の某が言えた筋合いではありませんが、実に痛々しい名前のクランでした。実力は有りましたがね。


 竜人族の女が団長を務め、獣人系のメンバーで構成され、物理攻撃力なら、世界最強とまで謳われた『武龍(ウーロン)』。


 全員、人間ながら、オブシダイト製の装備に身を固め、鋼鉄の規律と、団長の指揮下、一糸乱れぬ団結力を発揮し、集団戦において無類の強さを誇った『漆黒騎士団(シュバルツリッター)』。


 非力なエルフのみで構成されるも、絶大な魔力と、それに裏打ちされた強力無比な魔法で、火力においては随一と恐れられた『神聖妖精魔導会(ホーリーエルフィンズ)』。


 ……皆、強かった。確かに強かった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()






 某は、鍛冶師として街で働いておりました。元々は某が生前夢想していたキャラだけに、どういう能力を持ち、何が出来るか熟知しております故、じきに腕利きの鍛冶師として、名を馳せました。……生前の冴えない人生を思うと、複雑な気持ちでしたが。


 そして、鍛冶師として名が売れた結果、先の三強クランとも、関わりを持ちまして。武器、防具等の作成を依頼される様になりました。そして、事有る毎に、勧誘されたものです。


 しかし、某はそれら全てを拒否。某は元々、他人とつるむ事を好みませぬ。それに、当時は三強がお互いに牽制し合う事で、バランスが取れていたのです。


 もし、某が三強のいずれかに与すれば、そのバランスが崩れます。そうなれば、間違いなく争乱が起きるでしょう。実は彼等も某と同じく、第三代創造主により送り込まれた転生者。しかし、彼等はあまりにも品性下劣過ぎた。某も聖人君子ではありませんが、彼等の所業は目に余るものがありました。流石にその様な輩とは組めませぬ。






 まぁ、そんな訳で、三強からの勧誘をのらりくらりと躱しつつ、時には、彼等に同行し、また時には1人で『塔』に挑んでおりました。この朧 狂月、最強の一刀を作る為には、自身も強くならねばならぬが、信条でして。


 そして、10年程、経ちましたかな。某は『塔』の最上階。1000階に辿り着いたのです。いやはや、三強にはお世話になり申した。お陰様で、良い素材が手に入り、良い経験も積めました。


 何より、お互いに潰し合ってくれたお陰で、余計な邪魔者もいなくなり、某が最上階に辿り着けたのですから。卑怯? 卑劣? 失礼な。これは戦略というもの。自信過剰な愚か者は、せいぜい踏み台として役立って頂きませんと。


 かくして辿り着けた1000階。そこで待ち受けていた『塔の主』。()()姿()()()()()()()()事、今でもはっきり覚えております。後に知り合った狐月斎殿達も同じ事を仰っておられた。全く、第三代創造主は悪趣味極まりない。






 その後、数日間に及ぶ死闘の末、某は『塔の主』を討ち取りました。が、今度は『塔』が爆発するというではありませんか。しかしながら、こういう事も有ろうかと、事前に三強が一角。『神聖妖精魔導会(ホーリーエルフィンズ)』に上手い事言って作らせた、空間転移の呪符で脱出。どうにか命拾いしました。やはり、美味い話には、裏が付き物。


 さて、その後、某は最強の一刀を作るという悲願達成の為に旅立ちました。『塔』が爆発したせいで、その周囲に有った街も巻き添えを食らい、壊滅。もはや、いる理由も無くなりましたので。


 幾つもの国を渡り、やがて幾つもの異世界を渡り、他の『塔』の存在も知りました。その中で知り合ったのが、狐月斎殿を始めとする、他の上位転生者達。


 それから幾星霜もの歳月が流れましたが、未だに某の悲願。最強の一刀を作るという事は果たせておりませぬ。


 某が旅の最中で聞き及んだ、最強の一刀。神魔どころか、これ以上死ぬはずの無い、死者さえ殺せる至高の一振り。


『凶刀 夜桜(ヨザクラ)


 是非とも見たい。手にしたい。その上で、それを上回る刀を打ちたい。それが、某の悲願。


 しかし、一体、どこに有るのか?







 ハルカside


『皆様、間もなく目的地。ルコード教国首都、ルコーデグラードに到着します』


 巨大ロボット、ザッ君の掌に乗っての空の旅。邪魔が入る事も無く、予定通り、1時間程で目的地のルコード教国首都、ルコーデグラード付近まで来た。


「ザッ君、ルコーデグラードの少し手前で、着陸に手頃な開けた場所を見繕って降りるニャ」


『了解しました、魔博』


 魔博はザッ君に、ルコーデグラードの少し手前で着陸する様に指示。


『着陸に好適なエリアを発見しました。これより着陸体勢に入ります。多少、揺れますので、皆様ご注意下さい』


 それから、じきにザッ君から、着陸すると報告。着陸体勢に入り、見る見る内に地上に近付いてくる。


 ズズーーーーン…………


 そして雪原に着陸。向こうには大きな都市が見える。あれが、ルコード教国首都、ルコーデグラードか。着陸後、ザッ君は乗り込んだ時同様、屈み込み、僕達を乗せた両手の平を静かに地面へと下ろす。


『皆様、お疲れ様でした。ルコード教国首都、ルコーデグラード近辺です。気を付けてお降り下さい』


 全員、ザッ君の手から雪原へと降り立つ。見渡す限りの雪原。ここがルコード教国。初めて訪れる北の大国か。感慨に耽るその一方で、魔博はザッ君と話していた。


「ありがとニャー、ザッ君。後、今回はザッ君にも付いてきて欲しいニャー」


『了解しました、魔博。随行形態に移行します』


 巨大ロボットのザッ君に付いてきて欲しいと言い出し、それに対して、随行形態に移行すると答えたザッ君。


 どういう事かと見ていると、ザッ君の胸の装甲が開き、コクピットらしき中から、小さいザッ君が出てきて着地した。小さいといっても、それは元のサイズと比べての話。180cmは有る。


『魔博、随行形態への移行、完了しました』


「ん。今回も頼りにしてるニャー」


『では、戦闘体の方は、帰還させます』


 なるほど。ザッ君はそのままでは大き過ぎるから、小さいサイズの姿に移行すると。そして巨大な本体は、また空へと飛び去っていった。


「やれやれ、すっかり予定が狂ってしまいましたが、確かに早く着きました。では、これよりルコーデグラードに向かいます」


 ザッ君の本体が飛び去ったのを確認し、ようやっと口を開くヒョージュさん。予定が狂ったせいで、後々大変なんだろうなと思いつつ、いざ、ルコーデグラードへ。


 ここから見ても大きく立派な宮殿が見える首都、ルコーデグラード。白亜の宮殿は、その威容を周囲に見せ付けている。


 だが、今は、それより遥かに目立つ物が出現している。


 天を衝く、巨大な『塔』。向こうの雪原にそびえ立っている。


「あれが『塔』」


 確かに、あれは単なる建造物じゃない。ここからでも、不気味な気配を感じる。


「臆しましたか?」


「正直、良い気はしませんね。とはいえ、依頼を受けた以上はやりますよ」


 臆しましたか? と聞く戦姫にそう答える。この方も、竜胆(リンドウ)さんと同じく、僕に対して当たりが強い。だからといって、わざわざ食って掛かる程、僕は馬鹿じゃない。余計ないざこざは避けるべし。


「何、ゴチャゴチャ言ってるニャ。さっさと行くニャ。ニャーは腹が減ったニャ」


 そんな僕達と戦姫の間の良くない雰囲気を察してか、どうかは知らないけど、魔博がさっさと行こうと声を上げる。


「そうですね。早くルコーデグラードに向かいましょう。まずは教皇猊下との謁見。それが済み次第、会食となっておりますので」


 魔博の言葉にヒョージュさんも同意。まずは教国の元首である、教皇との謁見を済ませねばならない。今回の件の依頼人でもあるし、待たせるのは良くない。幸い、魔博が大きめのワゴン車を出してくれたので、一同、乗り込み、いざ、ルコーデグラードへ。


「この先、どうなるかな?」


 どうなるかは、分からない。教国側の思惑。『塔』。そして、北にいる『誰か』。もしくは『何か』。吉兆か? はたまた凶兆か? ……こういう場合は、敢えて悪い方に考えておくか。


 あの、灰崎 恭也の基本思考を見習って。






 狐月斎side


 久しぶりに『塔』が出現した事を知り、気心の知れた友人達と共に訪れた、異世界。今回、『塔』が出現したのは寒い北国。やはり、寒いのは堪える。という事で、まずは宿を取る、の前に換金。


 私達はこの世界の通貨を知らないし、持っていない。そもそも、身分証明すら無い。なれど、蛇の道は蛇とはよく言ったもので、闇の換金所は必ず有る。


 裏路地に入り、歩く事暫く。その手の匂いのする、寂れた店に入る。


「……らっしゃい」


 やる気の無さそうな、陰気臭い親父が迎えてくれた。店内には、雑多な品々が並んでいる。一応、骨董屋らしい。()()()()。私は口下手なので、率直に切り出す。


「換金を頼む」


 それだけ伝えると、陰気臭い親父はジロリとこちらを一瞥する。そして一言。


「……ブツは?」


 これまた率直に聞いてきた。どうやら、合格らしい。この手の闇の換金所は、相手を選ぶ。単に金を持っていても相手にしてくれない。


「貴金属を中心に、宝石も幾らか。宝石は原石と、カット済が半々」


 ブツは? と聞かれたので、袖口から袋を取り出し、中身を見せる。金のインゴット10kg相当に、ルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ。親父はそれらを手に取り、鑑定する。


「……上物だな。だが、そんなには出せんな。200万マギカだな。現金、即払いで出そう」


「構わない」


 安く買い叩かれているのは、百も承知。だが、そんな事は些細な事。重要なのは、資金を得る事。それに私達からすれば、貴金属、宝石などガラクタに等しい。別段、惜しくもない。


 ……ちなみに私が換金所に来た理由だが、単にジャンケンに負けたせいだ。






「おい、あんた」


 換金を終え、帰ろうとした私に、店の親父が声を掛けてきた。


「何か?」


「……あんたも、あのけったいな『塔』目当てで来たのか?」


「如何にも」


「悪い事は言わん。やめとけ。儂も長年、裏稼業をしてきたが、あれはヤバい。教国のお偉いさん達は、あんた達みたいなのを使って『塔』を調べさせているみたいだが、まともに帰ってきたって話は、とんと聞かない。何より、あの『塔』からは酷く嫌な感じがする。ありったけの悪意を煮詰めたみたいな、嫌な感じがな」


 中々に勘の鋭い御仁らしい。その上で忠告をくれた。


「忠告、感謝する。なれど、私はあそこに行かねばならぬ。それと、これはほんの礼だ」


 袖口から、狐の面を取り出し、店の親父に渡す。所有者を守る護符の一種。親父も一目で見抜く。優れた鑑定士だ。


「……ふん。まぁ、せいぜい死なない様にな」


「貴殿もな」


 闇に属する者に、必要以上のなれ合いは不要。手短に言葉を交わし、私は店を後にした。






 ハルカside


「おっ! そこのメイドのお嬢さん、儂と遊ばない?! 金なら有るぞ! 幾ら欲しい?」


 ルコーデグラードに入り、まずは教国の元首である教皇との謁見を済ませるべく歩いていた僕達。


 そんな時、突然、声を掛けてきた、北国なのに、やけにファンキーなお爺さん。ツルッパゲの頭に、白い長い髭と、ベタな老人スタイル。こういう手合いは無視一択。しかし……。


「おぉ! こりゃ、良い尻じゃ! 素晴らしい触り心地じゃ!」


 いきなり、お尻を触られた! 相手が老人である事も忘れ、反射的に肘打ちを入れようとしたが、空振り。


「ヒョヒョヒョ! 怖い怖い! こんな老いぼれに暴力を振るおうとするとは。短気はいかんな。とりあえず、さらばじゃ!」


 お爺さんはどこから取り出したのか、煙玉を地面に叩き付け、煙が晴れた時には、既にいなかった。……何者なんだ? あのお爺さん。単なるスケベ老人じゃないぞ。


「背後を取られるとは、甘いですねハルカ。あれが敵なら、殺されていてもおかしくなかったですよ」


「全くです。仮にもアイシア姉様の身体を持つ者が、何たる様ですか、情けない」


 容赦無く責めてくる、竜胆(リンドウ)さんと戦姫。すみませんね!


「とはいえ、あの爺さん、只者じゃない。相当な達人だ。それも単なる武術の達人じゃなくて、実際に幾多もの修羅場を潜り抜けてきた、歴戦の達人だ」


 僕に対するフォローなのか、イサムがそう言う。単なる武術の達人ではなく、歴戦の達人だと。


「へ〜、流石はイサム。次期魔剣聖最有力候補だけに鋭いニャ」


本機(わたし)もイサム殿に同意します。先程の老人のスキャン結果ですが、無数の、実戦によると推測される負傷の治癒の痕跡を確認しました。中には、致命傷クラスも複数、確認。また、身体能力も年齢から考えられない程の、高数値を確認。危険度B以上と認識します。次回、遭遇時には十分な警戒をする事を推奨します』


 そんなイサムの指摘に魔博は感心し、ザッ君は更に補足をする。次回、遭遇時には十分な警戒をする事を推奨する、と。


 そんな中、何故か静かなヒョージュさん。どうしたんだろう?


「皆様、すみません。少々、お花を摘みに……」


 すると、気まずそうにそう言って、離れていった。まぁ、寒いしね。そりゃ、トイレも近くなるか。


「とりあえず、ヒョージュさんが戻るまで待ちましょう」






 ヒョージュside


「ヒョヒョヒョ! いやはや、やっぱり若い娘の尻を触るのは、最高じゃな! 男子たる者、枯れてしまってはいかん! 幾つになっても、少年の心を持たねば! それが若さの秘訣よ ヒョヒョヒョヒョ!」


「御高説大いに結構。しかし、こんな所で何をしておられるのですか! 猊下!!」


「……もう来たか。見付かるにはもう少し、掛かると思っておったがの〜。腕を上げたな。実に結構。ヒョヒョヒョ!」


「悪ふざけも大概になさって下さい、猊下! 相手は()()『名無しの魔女』の唯一の弟子にして、最近、話題の超新星。ハルカ・アマノガワです! 下手に怒りを買えば、取り返しの付かない事態になるのですよ!」


「まぁまぁ。そんなに怒るでない。老い先短い、老いぼれのお茶目じゃ。ヒョヒョヒョ! それに、その辺のフォローはお前の仕事じゃろ? 何の為にお前に高い給金を払っとると思っとるんじゃ? のう、護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)団長、ヒョージュ・イツテク」


「……全く、狡いお方です」


「ヒョヒョヒョ! 伊達に長生きはしとらんわい! とはいえ、流石にこれ以上、向こうを留守には出来んな。儂は戻るが、後の事は頼んだぞ。ヒョヒョヒョヒョ!」


「……もう行ってしまわれたか。相変わらず、恐るべき腕前。流石は()護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)団長。まだまだ、私など足元にも及ばぬか。さて、私も戻らねば。やれやれ、ハルカ殿が向こうに着いた時に面食らわねば良いが……」


 だが、この時、私は知らなかった。『塔』より大量の魔物達が出現し、大挙してルコーデグラードに押し寄せようとしていた事を。


 そして……。その魔物の大群が横薙ぎの()()()()()()()()()()()()()()により、全て、一刀両断された事を。







 狐月斎side


「……他愛なし」


「お見事。以前にも増して技が冴え渡りますな、狐月斎殿」


「全く。いつ見ても、美しくも恐ろしいな。『狐月剣』は」


「流石は()()()()4()()()()()()()『剣聖』ですわね。敵にしたくはありませんわ」


 換金を終え、宿を取ろうとしていた私達だが、突如、『塔』の悪しき気配が増大したのを感じ、急ぎ、そちらに向かえば、『塔』から魔物が大挙して押し寄せてくるではないか。


『塔』の周囲にいた警備隊及び、『塔』で一攫千金でも狙っていたであろう連中は皆、魔物の大群に飲み込まれて消えた。


 そして魔物の大群は明らかに、こちら、ルコーデグラードを目指している。私としては、別にルコーデグラードがどうなろうが知った事ではないが、だからといって、今、壊滅されたら困るのも事実。後、雑魚の大群は目障り。


 背中に背負った五尺の大太刀。愛刀の『夜狐(ヤコ)』を抜き、横薙ぎ一閃。全部纏めて一刀両断。片付ける。


 金色の三日月型の斬撃を放つ『狐月剣』。斬撃の数、大きさ、攻撃範囲等を自在に操れる、我が秘剣。


 ……まぁ、昔からよく有る類いの技ではあるが……。


「とりあえず、街に戻りましょう。某は寒くてかないませぬ」


「狂月殿の言う通り。まずは宿を取り、今後に備えるべき」


「そうですわね。それに、この場にグズグズ留まっていれば、教国側に見付かって、面倒な事になりますわよ。特に狐月斎さんは当事者ですし」


 雑魚共は一掃したものの、長居は無用。速やかにこの場を立ち去る事に。


「しかし、また一段と『夜狐(ヤコ)』が騒ぐ。その原因が近くにいるという事か……」


「狐月斎殿! 早く早く! もう教国側が近付いておりまする!」


「すまぬ、狂月殿。クリス殿、頼む」


「承知ですわ!」


 次の瞬間、クリス殿の空間転移でその場を立ち去る私達。さて、今後どうなる事か?






お待たせしました。第161話です。


魔宝晶戦姫エルージュ、機怪魔博タマをメンバーに加え、北の大国。ルコード教国に向かうハルカ達。本来の予定では、教国側の用意した車に乗り、3日程掛けて向かう予定でしたが、魔博が呼び出した巨大ロボット。ザッ君に乗り、1時間程で到着。色々用意していたヒョージュ、涙目。


教国に到着したハルカにちょっかい掛けてきた、スケベ爺。ハルカの背後を取ってお尻を触り、ハルカの反撃をあっさり躱した、只者ではない御仁。


その一方で、狐月斎達。換金をし、資金調達。その後、『塔』から大挙して押し寄せた魔物達を、あっさり一刀の元、葬り去る狐月斎。この世に4人しかいない『剣聖』との事。






おまけ


『狐月剣』 狐月斎の秘剣であり、金色の三日月型の斬撃を放つ技。要するに、某、お労しい兄上のパクり。ただし、兄上より遥かに長生きしているだけに、兄上より格段に強い。ぶっちゃけ、弟のY壱さんより上。



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