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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第159話 悪魔が来たりて笛……ではなく、魔道神が来たりて依頼をする

 今日は、記念すべき日。ハルカがこの世界にやってきて、一周年。その事を祝し、ナナ様主催でハルカの友人、知人を招いてのパーティーが開催されました。


 残念ながら、お母様やレオンハルト殿下は、先日の婚約発表会での後始末及び、諸々の出来事に奔走されている為に辞退。


 しかし、私は参加するようにと促された事も有り、参加。ナナ様が用意された料理、飲み物共に、一級品揃い。途中から参加した、パティシエの安国さんが持参した特製ケーキも加わり、実に楽しいパーティーになりました。


 ですが、ハルカの発言により、場の雰囲気は一変しました。


 先日、突如、北に現れた巨大な『塔』。皆が気を遣って敢えて触れなかった事柄に、ハルカは言及したのです。


 ハルカは空気の読めない人ではありません。だからといって、明らかに眼前に有る問題を無視もしないのです。


 あの『塔』は明らかに『厄』です。このまま放置しておく訳にはいかないでしょう。事実、お母様やレオンハルト殿下が奔走されている理由の大きな部分を占めているのですから。


 そして、あの『塔』が『厄』であるという事をより強固に証明する事態が……。






 ハルカが『塔』について言及した時。


「それについては、私から話そう」


 ナナ様そっくりの声。しかし、ナナ様は何も言っていません。皆が、その声をした方を見れば、服装以外はナナ様と瓜二つの女性。


「暫くぶりだな。ハルカ・アマノガワ」


 真十二柱 序列二位 魔道神クロユリが下界に降臨したのです。






「何しに来た?」


 ハルカを庇う形で前に出るナナ様。私を含め、他の方々も身構えます。


「火急の事態故な。非礼は許せ。ハルカ・アマノガワ、君に対する試練だがな、予定変更する。それどころではなくなってな」


 全ての神魔の頂点にして、多元宇宙の抑止力。真十二柱。その序列二位たる、魔道神クロユリ。


 全ての異能の根源にして、無限の魔力を持ち、そして魔道師の最高位『極魔道』の称号を持つ唯一の存在。はっきり言って、戦おうなどと考える事すら、おこがましい、正に異次元の存在。それ程の方が口にした、火急の事態。一体、何を語るのか?






「粗茶ですが」


「頂こう」


 とりあえず、立ち話もなんだという事で、場所を応接間に移し、本格的に話を聞く事に。ただし、魔道神様から、その場に立ち会う人の指名をされました。ハルカ、ナナ様、後、私、ミルフィーユ。他の方々は外で待機です。しかし、ハルカ、ナナ様は分かりますが、何故、私が指名されたのか? どうせなら、ツクヨを指名しそうなものですが。魔道神様のお考えは分かりません。


 まずはハルカが緑茶の入った来客用の湯呑みを出し、それを一口飲む魔道神様。


 それから、間にテーブルを挟み、向かい合う形でソファに座る両者。


「まずは、異世界に転生して、一周年おめでとうと言っておこう。流石は死神ヨミの最高傑作にして、初の成功作。そして、貴重な観察対象。長期運用を前提とする上位転生者の中でも、最上位だ。使い捨て前提のクズ共とは違うな。あの連中は、その愚かさ故に、すぐ死ぬし、どのみち、3年経ったら死ぬ様に設定されている。君も武神から聞いただろう? あのクズ共は、下級神魔の強化の為の餌にして、新たな命を生み出す為の燃料に過ぎんという事を」


 ハルカが異世界に転生して一周年を迎えた事を祝福したと思ったら、その直後に恐ろしい事を語る、魔道神様。クズ転生者は、下級神魔の強化の為の餌にして、新たな命を生み出す為の燃料に過ぎないと。


 ちなみにハルカは、長期運用を前提とする上位転生者との事。しかも、その中でも最上位と。それにしても、クズ転生者は、どのみち3年で死ぬ様に設定されているとは……。本当に恐ろしいですわ。ハルカは上位転生者故、それには当てはまらない様ですが。


「祝福ありがとうございます。そして、クズ達に関する事は、武神様より聞かされましたので。上位転生者の事も」


 あまり、嬉しくなさそうなハルカ。死神ヨミの最高傑作にして、初の成功作。上位転生者の中でも最上位。これらはともかく、貴重な観察対象と言われて喜ぶ訳にはいかないでしょう。少なくとも、私なら嫌ですわね。プライバシーの侵害ですもの。






「さて、ここからが本題だ」


 湯呑みをテーブルに置き、魔道神様は、本題を切り出しました。


「本来の予定では、次の試練は魔宝晶戦姫。その次に機怪魔博。そのつもりだった」


 その辺りは私も聞いています。


「ところが、だ。そうも言っていられなくなった。あの傀儡師、灰崎 恭也が動き出した。これまで比較的、地味な活動しかしていなかったのが、最近になって、爆発的な加速度で『人形』を増やしている。それに比例して、奴の魔力もまた、爆発的に増大している」


「確か、灰崎 恭也は女性を人形化すれば、する程、魔力を増大させるんでしたね」


「そうだ。手駒を増やしつつ、自身の強化も行う辺り、抜け目の無い奴らしい手口だ。しかし、最近の奴は、あまりにも派手に動いている。……我等、真十二柱を足止めする為の陽動とは、分かっているのだがな」


 苦虫を噛み潰したような顔の魔道神様。明らかに真十二柱に対する足止め。だからといって、放置も出来ない。本当に嫌らしいですわね。特に本命の狙いが分からない辺り。


「更にだ。奴め、最近、下級神魔及び、そいつらの生み出した下級転生者を扇動している。欲望を煽る形でな。そして、扇動された愚か者共が好き勝手に暴れるせいで、多元宇宙の『界理』が大幅に乱れつつある。このまま放置すれば、最悪、多元宇宙が崩壊する」


 魔道神様の口のから語られたのは、恐るべき事実。多元宇宙崩壊の危機。


「灰崎 恭也が原因の一連の動き。その結果が、多元宇宙崩壊の危機。我等、真十二柱は悠長にハルカ・アマノガワに対する試練を行うどころではなくなってしまった。総力を挙げて、この危機を阻止せねばならん。そこで急遽、予定を変更。真十二柱全員招集となったのだが……。そこへ、あの『塔』だ。頭が痛い。あれもあれで、放置は出来ん」


 ようやっと、件の『塔』について触れた魔道神様。やはり、あれはかなり厄介な存在の様ですわね。


「魔道神様、あの『塔』は一体、何なのですか? 単なる建造物ではないとは思いますが?」


 皆を代表して、ハルカが魔道神様にあの『塔』は何なのかと尋ねました。どう考えても尋常ならざる存在。あれは一体、何なのか?


 魔道神様は一口、茶を飲み、その上で説明を始められました。


「あの『塔』はな。遥かな、遥かな太古。第三代創造主が創り出した物でな。その方は、とにかく享楽的なお方だったそうだ。ただし、悪い意味でな」


 もう、この時点で悪い予感しかしませんわね。皆、魔道神様の話の続きを待ちます。


「世の中は常に流動すべし。停滞などつまらん。だから、世の中を掻き回すネタをあれこれ投入してやろう。その方が面白い。という思想の元、下界に様々な干渉を行った。代表的なのが、異能、魔道具、財宝といったファンタジーの定番要素を下界にばら撒いた。更にはそれらの財宝が大量に眠るダンジョンまで作り、あちこちの世界に出現させた。そして、ダンジョン内に高価、貴重な財宝が大量に眠っていると分かると、国、種族を問わず、欲に目が眩んだ者達が大挙してダンジョンに挑み、下界は大混乱に陥ってしまったそうだ。そんな下界の有り様を見て、第三代創造主は酒を片手に、愉悦愉悦とご満悦であったと、当時の記録に残っている」


 第三代創造主のあまりにも酷い乱行。その酷さに、全員言葉も有りません。


「その後、更に下界を掻き回す為に生み出した、ダンジョンの最終形。それが『塔』。自律行動する、生きているダンジョンであり、強者の存在を嗅ぎ付けて、あちこちの世界にやってくる。その内部に眠る財宝の質、量はダンジョンの中でも随一。そして内部の危険度も随一。故に犠牲者の数も随一。これでもまだ飽き足らず、大量に上位転生者を生み出し、下界に送り込んだ。これは殆どが死んだが、その一方で、少ないながら、今でも生き残りがいる。長く生きているだけに、その実力は高く、今では我等、真十二柱の二段階、下。三十六傑に名を連ねている」


 散々、下界を掻き回して、まだ飽き足らず、創り出したのが、ダンジョンの最終形たる『塔』。更に大量の上位転生者まで生み出した。それらは殆どが死んだものの、少ないながら生き残りがいると。その実力は高く、真十二柱の二段階、下。三十六傑との事ですが、三十六傑とは何でしょう?


「魔道神様、質問です。三十六傑とは何でしょうか?

 真十二柱の二段階、下との事ですが? それと二段階、下という事は、一段階、下もいる訳ですよね?」


 ハルカも気になったらしく、魔道神様に質問。言われてみれば、二段階、下がいるなら、一段階、下も当然、いますわね。


「その通り。そういえば、神魔の序列について説明していなかったな。およそ、全ての神魔には序列付けがされている。まず、序列一位から序列十二位までの真十二柱」


「続いて、序列十三位から序列三十六位までの二十四天」


「最後に、序列三十七位から序列七十二位までの三十六傑」


「これら序列七十二位までが、創造主に謁見出来る。これより下。序列七十三位以下は、創造主への謁見は不可。で、さっき言った様に、古株上位転生者達は、三十六傑。その実力は折り紙付きだ」


 この世に無数の神魔がいる事から考えるに、三十六傑に名を連ねる古株上位転生者は、流石に真十二柱には及ばないものの、大変な実力者であるのは確か。


「更に質問です。その三十六傑入りした古株上位転生者達ですが、転生した時点で既に神魔だったのですか? それとも、何らかの方法で神魔に昇格したのですか?」


 ハルカが更に質問。三十六傑入りした古株上位転生者達。彼等は、転生した時点で神魔だったのか、否か。


「あぁ、それか。彼等は転生した時点では、神魔ではなかった。だが、永きに渡り自身を鍛え上げ、力を付け、遂に神魔へと昇格を果たした。その後も変わらず自身を磨き、三十六傑入りした。私から見ても大したものだ。そもそも神魔への昇格自体、並大抵の苦労では済まんからな」


 ハルカの質問により、新たな事実が発覚。神魔ならざる存在でも、鍛え上げれば神魔に昇格出来るとの事。もっとも、並大抵の苦労では済まないそうですが。また、そうでなくては、今頃、この世は神魔に昇格する者だらけでしょう。






「で? 私達にどうしろっていうんだい? さっさと言いな! ああいうのは時間の経過と共に、状況が悪くなるのが定番だからね」


 いい加減、痺れを切らしたナナ様が、魔道神様に対し、私達にどうしろというのかと問いました。時間の経過と共に、状況が悪くなるのが定番だからと。


「すまんな、前置きが長くなって。では言おう。真十二柱 序列二位 魔道神クロユリが、ハルカ・アマノガワに依頼する。今回現れた『塔』。その攻略だ。目的地は『塔』の最上階である1000階。そこにいる『塔の主』。それを撃破すれば、『塔』は消える」


 性悪な第三代創造主が創った、ダンジョンの最終形。『塔』の攻略。その最上階、1000階に到達し、そこにいる『塔の主』を討伐せよと。大変な無理難題です。ハルカも難しい顔をしています。当然でしょう、あまりにも危険な依頼ですもの。


「魔道神様、まずは報酬について聞かせて下さい」


 ですが、ハルカは依頼の報酬について、切り出しました。


「ハルカ、あんた、依頼を受ける気かい?!」


 ナナ様も驚き、ハルカに尋ねました。


「気乗りはしませんが、避けては通れなさそうですし、あの『塔』を野放しには出来ません。放っておいたら、絶対ろくな事になりませんよ、あれは。とはいえ、只働きは嫌なので、報酬に関してはきっちり話を付けたいです」


「これも弟子の成長と喜ぶべきなのかねぇ。ま、確かに報酬に関してはきっちり話を付けないとね。後で揉めるのは御免だよ。そういう訳で魔道神、報酬に関してはどうなんだい?」


 ハルカ曰く、気乗りはしないが、『塔』を野放しには出来ないと。ただし、報酬に関してはきっちり話を付ける模様。ナナ様も後押しをします。


「そうだな。報酬に関しては、今回、『塔』にて発見した財宝、物資、全てそちらの総取りで良い。これでどうだ? 既に話したが、『塔』は大量の財宝が眠っている。金銀財宝に始まり、貴重な魔道具や、素材が有る。第三代創造主が創ったダンジョンの最終形は伊達ではない」


 ハルカの求めた、報酬に関してですが、それに対し魔道神様は、『塔』で発見した財宝、物資、全てそちらの総取りで良いと提示。『塔』は大量の財宝の眠る場所。それらを見付けた分、総取りして良いとは。

 

「なるほど。()()()()()()()()()。ですが、それだけでは、困ります。手付けを頂きたいです。それも出来れば、『塔』でしか手に入らない様な物を。魔道神様は『塔』にお詳しい様子。ならば、何か『塔』に関する物なり、何なり持っておられそうと思いまして」


「……中々やり手だな、君は。では、これを手付けとして出そう。君の師なら、その価値が分かるはず」


 魔道神様がそう言って、テーブルの上に置いたのは、光沢の有る黒い金属らしきインゴット。見た事の無い品ですわ。しかし、ナナ様には分かった模様。


「これはオブシダイト! 『旧世界』の遺物!」


「御名答」


 驚愕するナナ様に対し、してやったりとばかりに、ニヤリと笑う魔道神様。どうやら、大変な品を魔道神様は手付けとして出してきた様ですわ。






「ナナさん、オブシダイトって何ですか? それに『旧世界』の遺物って」


 魔道神様が出してきた、今回の依頼の手付け。オブシダイトという黒い金属のインゴット。ナナ様の反応からして、大変な貴重品なのは確かにしても、『旧世界』とは?


「悪いねハルカ、驚かせて。このオブシダイトはね、()()()()()()()()()()()()()()なんだ。あんたも知ってるだろうけど、これまで、何度か多元宇宙は滅びてる。多元宇宙の支配者である『創造主』の代替わりの度にね」


 ハルカの質問に対し、説明を始めるナナ様。


「そして、このオブシダイトは、かつて存在し、滅びた『旧世界』の金属。今の世界に存在するのは、『旧世界』時代の僅かな遺物だけ。この私でさえ、これまで数回しか見た事が無い、途轍もない貴重品さ。更に、性能の方も凄くてね。神魔絡みの最高クラスの品に使われているよ。もし、世に出たら、どれだけ出しても欲しいって奴が出る事、請け合いさ」


「……とんでもない貴重品なんですね」


「そういう事さ。ふん、流石は真十二柱 序列二位 魔道神クロユリ様ってね。『旧世界』の遺物を手付けに払うとはね」


「依頼が依頼だからな。こういう事に関しては、私は出費を惜しまん。惜しんで失敗したなど、笑えんからな。ついでに言えば、このオブシダイトは、かつて私が『塔』にて手に入れた物。何せ、『塔』自体が『旧世界』時代から存在するからな」


「なるほど。『塔』は単なる宝の山じゃない。『旧世界』の遺物が手に入る場所ってか。そりゃ、確かに放置は出来ないね。何処かのバカが『旧世界』の遺物を手に入れてやらかしたら、洒落にならない」


 非常に貴重な『旧世界』の遺物を惜しげもなく、手付けとして出す辺りは、本当に流石ですわね。それにしても、『塔』とは、とんでもない場所ですわね。ナナ様の仰る通り、放置は出来ません。あまりにも危険ですわ。


「で? 返答は如何に?」


 一連の事情を説明し、依頼に対する手付けを出した上で、魔道神様はハルカに問いました。


「この依頼、正式に受けさせて頂きます。『塔』を放置するのは、あまりにも危険。早急に対処する必要が有ります。しかも、『塔』で見付けた財宝、物資は全て、こちらの総取り。その上、手付けに貴重な『旧世界』の金属まで出して下さる破格の条件。それだけ僕を高く評価して下さっているという事。ご期待に添える様に、微力を尽くす所存です」


 その問いに対し、ハルカは依頼を受けると答えました。まぁ、どのみち、受けざるを得なかったと私も思いますが、確かに破格の条件でもありますしね。私でも受けますわ。


「よし。ならば、契約書を出そう」


 魔道神様は契約書とペンを取り出し、ハルカの前に置きました。


「サイン前に、内容をよく読む様に」


「ハルカ、ちょっと貸しな。まずは私が読む。それから、あんたが読んで、その上でサインしな」


「疑り深い奴だな」


「これぐらい、当然だろ? やらない方がバカだ」


 流石はナナ様。人生経験豊富なだけはありますわね。その後、ナナ様が契約書を熟読、確認し、更にハルカが熟読、確認。その上で、ようやく契約書にサイン。依頼成立となりました。







「それでは、私はこれにて失礼する。せっかくの一周年記念パーティーを邪魔してすまなかった。では、『塔』の事、頼んだぞ」


 ようやっと、魔道神様は帰られる様です。


「もう来るな! ハルカ、塩撒きな! 塩!」


「ナナさん、何もそこまで邪険に扱わなくても……」


 ナナ様は魔道神様が大嫌いらしく、ハルカに塩を撒く様に言う始末。


「おっと、忘れる所だった」


 帰ろうとしていた所で、後ろを振り返る魔道神様。そして、ハルカに問い掛けました。


「ハルカ・アマノガワ。最後に君に問う。君にとって()()()()()()()()


「少なくとも、楽園と思った事はありません。だからといって、地獄とも思いません。それだけです」


 魔道神様の問い掛けに、ハルカはそう返しました。


「そうか。それだけ聞ければ十分だ」


 ハルカの返答を聞き、今度こそ魔道神様は帰られました。……何を考えておられるのか、よく分からないお方ですわね。神とはそういうものだと言えば、それまでですが。







 ハルカside


「やっと帰られましたね」


「全くだよ! いきなり来て、余計な依頼をしていきやがって! ……とはいえ、さっきも言ったけど、確かに放置は出来ないね。『塔』に莫大な財宝が眠っているとなれば、黙って見過ごす訳ないのが人間だ。ましてや、『旧世界』の遺物さえ有る程。欲に目が眩んだ連中が、わんさかやってくるよ。あまり、グズグズはしていられないね。ここからは時間との戦いだ」


 魔道神様が帰られて、ようやく一息。しかし、色々と大変な事を知る羽目に。


『灰色の傀儡師』灰崎 恭也が派手に動き出した。爆発的な勢いで女性を『人形化』し、同時に自らの魔力を増大させている。更に下級神魔、下級転生者を扇動し、『界理』を大きく乱している。このままでは多元宇宙が崩壊するという事。


 それを阻止する為に、真十二柱の総力を挙げて対処せねばならず、急遽、予定変更。真十二柱全員招集という事態に。それ故に、僕に対する試練をするどころではなくなったという事。


 しかも、それが真十二柱を足止めする為の、灰崎 恭也の策略である事も。


 挙げ句、北に突然現れた、『塔』。第三代創造主の創った、生きているダンジョン。大変な危険と、莫大な財宝が眠る場所。特筆すべきは、今では失われた『旧世界』の遺物が有る事。


 そして、魔道神様からの依頼。『塔』の攻略。最上階の1000階に向かい、そこにいる『塔の主』を討伐し、『塔』を消し去る事。


 とりあえず、今やるべき事は……。


「ナナさん、まずは、みんなに報告です。その上で、どうするか考えましょう。いきなり北に行く訳にもいきません。『塔』の出現した地域は明らかに『教国』の領内ですから」


「私もハルカに同感ですわ。『塔』が出現した地域が『教国』の領内である以上、軽はずみな行動は慎むべき。国際問題になりかねません。そして、それさえも、灰崎 恭也の策略の内かもしれません」


「……奴からすれば、騒ぎが起きれば、起きる程、周囲はその対策に躍起となり、奴に構っていられなくなる。そうなれば、非常に都合が良いってか。クソッ! とことん嫌な奴だよ、灰崎 恭也め!」


 まずは、みんなに魔道神様から聞かされた情報を話して、共有。その上で、北の大国である『教国』領内に出現した『塔』に行く為の段取りもしないといけない。


 勝手に行くのは、色々不味い。ミルフィーユさんが指摘した様に、国際問題になりかねない。『教国』側とて、バカじゃあるまい。突如、出現した『塔』に対し、既に調査なり、何なりしているはず。そんな所に、他国の人間を簡単に入れてくれる訳がない。


「とにかく、今はみんなに情報を伝え、今後の対策をするのが最優先です」


「そうだね。そうしよう」







「…………と、いう訳でして」


 応接間から出て、パーティー会場のホールにて、今回、魔道神様から聞かされた、一連の情報をみんなに伝えた。


「なるほどな。灰崎 恭也め……。そうであれば、仕方ない。俺は帰る。魔道神の奴と合流せんとな。そういう訳だから、イサム、コウ、竜胆(リンドウ)、後の事は任せた」


「分かりました」


「了解です、マスター」


「行ってらっしゃいませ、ツクヨ様」


 一連の情報を伝えた結果、まずはツクヨが帰っていった。灰崎 恭也対策で、真十二柱全員招集となったからね。


 そしてツクヨが帰ってからも、議論は続く。


「北に行くのは確定として、誰が行くか? そして、誰が残るか? そこが重要ですな」


 エスプレッソさんからの指摘。『塔』攻略の為にも戦力は必要。だからといって、全員で向かう訳にもいかない。『王国』をガラ空きにするのも不味い。


「そうだね。私達、全員がここを離れたら、それこそ、バカ共が何やらかすか、分かったもんじゃない」


「ハルカは依頼を受けた以上、確定として、あまり大人数には出来ん。『教国』側に余計な詮索をされかねん」


「まぁ、3〜4人が妥当な所だろうね~」


 ナナさん、クローネさん、ファムさんもそれぞれ見解を述べる。


「それだけじゃねぇぞ。『教国』に行くのはともかく、『塔』に入れて貰えるのか? 目茶苦茶、危険だが、同時にお宝の山。はい、そうですかと入れてくれるとは思えねぇ。強力なコネでもないとな」


 安国さんからの指摘。そもそも『塔』に入れて貰えるのか? 強力なコネでもないと入れて貰えないと。


「ミルフィーユ、あんたの家、スイーツブルグ侯爵家や、デブ殿下の伝手で、『教国』側に対し交渉なり、何なり出来ないかい?」


「……難しいですわね。当家は『教国』側と特に繋がりが有りませんし、そもそも『教国』は非常に保守的な国。レオンハルト殿下のお力を借りても、そう簡単にはいかないでしょう。それに、『教国』側が『塔』の価値を既に知っているとしたら、尚更」


 ナナさんがミルフィーユさんに問うも、返答は芳しくない。


「後、魔道神様が、ハルカに『塔』攻略を依頼したって事自体も厄介だと、俺は思います。真十二柱 序列二位である魔道神様なら、邪魔な存在を消し去るぐらい朝飯前のはず。なのに、ハルカに依頼した」


「つまり、あの『塔』は魔道神様でも処分出来ない、という事ですね。先輩」


「だろうな。あの『塔』は第三代創造主が創ったそうだし」


 更に、魔道神様が僕に『塔』の攻略を依頼した事に対し、イサムからの指摘。そこから導き出される事を、竜胆リンドウさんが答える。それはとても厄介な事。魔道神様でも『塔』を処分出来ない。何故なら、『塔』は第三代創造主の創った物。真十二柱より上位の存在が創った以上、真十二柱では破壊出来ない。創った第三代創造主の定めたルールに従うしかない。


「で、結局、どうするつもりなのですか? ここで議論を続けた所で、何も事態は好転しませんよ」


 これまで黙って事態を見ていた、ツクヨの第一の従者。綾○レイもどきの少女、コウの冷たい指摘。会議は踊る、されど進まず。しかし、突如、鳴り響いた、来客を知らせるチャイムによって、事態は急変する事に。


「どうも。先日ぶりですね、ハルカ・アマノガワ殿。此度は、我等が元首、教皇猊下より、貴女宛の書状を預かり、参上した次第。どうぞ、お受け取り下さい」


『教国』元首、『教皇』直属の最精鋭にして、『教国』の闇を一手に担う『暗部』。護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)。その団長。『北の白狐』の異名を取る女。


 ヒョージュ・イツテク


 その人がやってきて、『教皇』からの僕宛ての書状を差し出してきた事で。


 あ、そういえば……。


「ナナさん、バコ様は?」


「あ、そういえば、いない! どこ行った? あの豚!」


 すっかり忘れてた。バコ様がいない! どこに行ったんだ?!







 ツクヨside


「やれやれ、真十二柱全員招集とはな」


「仕方あるまい。灰崎 恭也が原因の一連の異変、放置は出来ん。我等、真十二柱の総力を挙げねばならん」


「分かっている、それぐらい。しかし、奴め、本当に敵の嫌がる事を仕掛けてくるな」


 前回、俺が慈哀坊と話し合った、『王国』と『帝国』の間に有る荒野。そこで、魔道神から一連の事情を聞き、今後について話し合っていた。


「とりあえず、目下の問題は、戦姫をどうするかだな」


「言うな。私も頭が痛い。試練が急遽、取り止めとなったせいで、また大荒れしてな。全く、困った奴だ。魔博は、まだ聞き分けてくれたがな」


「あのマッドサイエンティストまで騒ぎ出したら、たまったもんじゃない。そこは不幸中の幸いか。それにだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() 灰崎 恭也が扇動しているのは、下級神魔、下級転生者だけじゃない。二十四天、三十六傑まで扇動しているとはな。だからこそ、俺達、真十二柱全員招集という事態になった訳だが」


「嘘は言わなかったぞ。真実の全てを言わなかったのは認めるがな。だが、全てを伝えるには、彼女はまだ若過ぎる」


「……まぁな」


 実は、灰崎 恭也は下級神魔、下級転生者といったクズ共だけでなく、上位に位置する、二十四天、三十六傑までも扇動していた。クズ共だけならともかく、上位のこいつらまで暴走を始めたのでは、流石に真十二柱の総力を挙げねばなるまい。


 そして、そんな重大な事実を伝えるには、ハルカはあまりにも若過ぎる。


「しかし、本当に困ったな。灰崎 恭也のせいで、多元宇宙崩壊の危機。それを放置は出来んが、そのせいでハルカへの試練が取り止めになり、戦姫が大荒れ。特に次があいつの番だったからな。そりゃ、怒るよな。だからといって、真十二柱の総力を挙げねばならんのも確か。どうしたものか……」


「現状、真十二柱に欠員が出ているのが、問題だ」


「そうなんだよな」


 ままならぬ現状に俺と魔道神は、揃って頭を悩ませる。現状、真十二柱は、二柱欠けている。


 序列十一位 魔氷女王 アイシア 死亡


 序列一位 現状、行方不明


「やはり、二柱欠けているのは問題だ。可及的速やかに、後釜を据えねばならない」


「そりゃ、俺とて分かっているがな。じゃあ、誰を据えるって話になる訳だが……。現状、いないよな」


「………………」


「おい、黙るな。何か言えよ、魔道神様よ」


 魔道神の気持ちも分からんではない。可及的速やかに、真十二柱の欠員を埋めねばならないのに、それにふさわしい奴がいない。ハルカでさえ、未熟過ぎる。


「とにかく、今は我等、十柱でどうにかするしかない」


「結局、それしかないか」


 話し合ったものの、妙案は出ず。結局、今いる十柱でどうにかするしかないとの結論に至ったその時。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ ヘーヘーブーブー、ヘーブーブー♪ ヘーヘーブーブー、ヘーブーブー♪」


 アホ丸出しの歌と踊りを繰り返し、現れたのは豚……もとい、頭がボケたデブの三毛猫。バコ様だった。


「バッコッコのコ♪ バッコッコのコ♪」


 バコ様は、俺と魔道神の前に来て、アホ丸出しの歌と踊りを披露。


「へ〜〜〜〜〜」


 ブリブリブリブリブリブリ〜〜〜


 挙げ句、変な鳴き声を上げて、その場で盛大にウンコを漏らした。


「…………なるほど、分かりました。では、その様に。ツクヨ、少々、予定を変える。戦姫と魔博に伝えよ」


「ふん! 俺はお前のパシリじゃないんだがな! とはいえ、仕方ない。戦姫と魔博には伝えておくが、そっちこそヘマするなよ」


「言われるまでもない。さっさと行け」


 くだらん言い争いをしている場合でもないので、戦姫と魔博に予定変更を伝えに『飛ぶ』。







 ???side


「キョウゲツ殿〜! 居られるか〜?! キョウゲツ殿〜!」


「コゲツサイ殿、そんなに大声を出さずとも、聞こえておりまする」


 煮えたぎる溶岩の河が幾筋も流れる火山地帯。そこに建つ、質素な小屋。その小屋の扉の前で呼び掛ける女。


 それに応じて、小屋の扉を開けて姿を見せる男。


「これは申し訳ない。されど、この辺りは煩くてな。それにキョウゲツ殿は、作業に没頭されると、とんと周りの事に気付かれぬ故に。非礼は許されよ」


「いやいや、こちらこそ、作業に没頭するあまり、何度もコゲツサイ殿には迷惑を掛けてしまいましたからな。ささ、立ち話もなんです、中へどうぞ。茶の一杯でも馳走しましょう」


「これはかたじけない。では、お邪魔致す」






「では、まず、これを。『夜狐(ヤコ)』、確かにお返ししました」


「確かに受け取り申した。ふむ、流石はキョウゲツ殿。いつもながら、良い仕事をなされる。安心して、我が愛刀を任せられる」


「ははは、コゲツサイ殿もお上手で。某としても()()()()()()()の武具を扱えるなど、鍛冶師冥利に尽きます」


「ところで、クーゲル殿と、クリス殿は遅い。一体、何をしているのか?」


「まぁまぁ、コゲツサイ殿。そう目くじらを立てなくても」


「遅くなってすまない」


「先程、そこでクーゲルさんと合流しまして。お二方共、お変わりない様で、誠に喜ばしい限りですわ。あ、これは、つまらない物ですけれど、手土産でしてよ。私特製のシュークリームですわ」


「ようこそ、クーゲル殿、クリス殿。そちらこそ、息災で何より。それと、お気遣い、ありがたく頂きます。さ、汚い所ですが、どうぞお上がり下さい」


「では、お言葉に甘えて」


「お邪魔致しますわ」







 4人、シュークリームを食べながら、談笑中。


「ところで、最近、愚か者共が騒がしい事、皆さんもご存知かと。あの()()()が、せっせと煽っている様で」


「その分では、キョウゲツ殿の所にも来ましたな?」


「コゲツサイ殿の所にも来ましたか」


「私の所にも来たな。より上位への昇格はしたくないか、と」


「私の所にも来ましたわよ。クーゲルさんが言われたのと、全く同じ事を」


「では、この中で最年長である某、キョウゲツが代表して聞きますが、皆さん、あの傀儡師と手を組むおつもりで?」


「愚問なり、キョウゲツ殿。私は、聖人君子ではないが、さりとて、あの様な輩と組むつもりも無い。私は現状で十分、満足しているが故に」


「コゲツサイ殿に全面的に同意だ。そもそも、あの傀儡師は信用ならん。あれは、誰も信用していない。そんな輩を信用するなど、愚の骨頂」


「全くですわね。しかし、あの傀儡師に乗せられた愚か者の多い事、多い事。呆れて言葉も有りませんわね。わざわざ、自分から死亡フラグを立てるとは」


「それを聞いて安心しました。流石は皆さん、()()()()()()()()()()()()()()()()()







 更に談笑中


「話題は変わりますけれど、皆さん、お聞きになりまして? 最近、上位神魔を始め、実力者達の耳目を集める、若き娘がいる事を。確か……ハル某」


「クリス殿、それを言うなら、ハルカ・アマノガワでは? 」


「あぁ、それですわ。ありがとうございます、コゲツサイさん。で、そのハルカ・アマノガワですが、真十二柱にまで、一目置かれているとか」


「ほう! それは凄い! 某、あまり、『外』の事は知らぬ故。しかし、あの真十二柱に一目置かれるとは。いやはや、とんでもない若き才能が現れましたな」


「腐らぬ事を私としては願う」


「そうですわね~。クーゲルさんの仰る通りですわね~。せっかく『力』を得ても、腐って落ちて消えるばかりですもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()







 まだ談笑中


「さて、私は、そろそろお暇しよう。キョウゲツ殿、『夜狐(ヤコ)』の手入れ、感謝致す。それと、久しぶりに『塔』が出現しましてな。私はそこへ向かおうと思いまして」


「ほう、『塔』が?」


「よろしければ、ご一緒されますか?」


「コゲツサイ殿さえ、良ければ」


「何を仰るやら。私がキョウゲツ殿の同行を嫌がる訳がない」


「『塔』か。懐かしい。コゲツサイ殿、キョウゲツ殿、私も同行したい。よろしいか?」


「私も、皆さんがどうしてもと仰るなら、同行してあげてもよろしくてよ? オーッホッホッホ!!」


「では、私、キョウゲツ殿、クーゲル殿の3人で……」


「あーーーッ!! 冗談ですわ! 冗談!! 私も行きますわ!!」


「……全く、クリス殿はいつまで経っても素直ではないな。では、いつも通り、私が()()()()()()()()()()


 コゲツサイが刀を縦一文字に一閃。空間が切り裂かれ、別の世界が見える。


「さ、早くお通りを。じきに閉じてしまう」


「以前にも増して、技が冴え渡りますな、コゲツサイ殿」


「お褒めに預かり、光栄。キョウゲツ殿。とりあえず、お早く」


「そうしましょう。久しぶりの異世界、実に楽しみです」




お待たせしました。第159話です。


一周年記念パーティーの最中、突然やってきた、真十二柱 序列二位 魔道神クロユリ。


彼女から語られた、厄介な事実。


『灰色の傀儡師』灰崎 恭也の活動が活発化。爆発的な勢いで女性を『人形化』。手駒を増やしつつ、自らの魔力も増大させている。


更に、下級神魔、下級転生者を扇動する事で『界理』を乱し、多元宇宙が崩壊の危機に。しかも、ハルカには伝えなかったが、実は上位である、二十四天、三十六傑までも扇動している。この事態に、真十二柱も総力を挙げて対処せねばならない事に。


その結果、ハルカに対する試練どころではなくなってしまい、次に当たるはずだった、魔宝晶戦姫エルージュは大荒れ。


その一方で突然出現した『塔』について。


遥か昔、第三代創造主が創った、生きているダンジョン。途轍もない危険と、莫大な財宝が眠る場所。人々の欲望を掻き立て、狂わせる、恐ろしい存在。真十二柱より上位の第三代創造主が創った故に、魔道神クロユリにも破壊不可能。消し去るには、第三代創造主が定めたルールに従い、最上階にいる『塔の主』を倒すしかない。


そして、最後には出てきた4人。キョウゲツ、コゲツサイ、クーゲル、クリス。何者なのか?




追記。神魔について。


序列一位〜十二位『真十二柱』


序列十三位〜三十六位『二十四天』


序列三十七位〜七十二位『三十六傑』


序列七十三位以下『その他大勢』


序列は固定ではなく、上に挑んで勝てば奪える。ただし、真十二柱に関しては、永らく就いた者がいない。まず勝てない上、それ相応の格を求められる。


二十四天と三十六傑にそれ程の差は無いが、真十二柱と二十四天の間には、絶対的な差が有る。


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