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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第15話 お嬢様のカミングアウト

「ん~~、良く寝ましたわ……。爽やかな朝ですわね」


 窓から射し込む朝日。本当に爽やかな朝。何か良い事が起きそうな気がしますわ。


 さて、朝のシャワーを浴びてきましょうか。淑女たる者、身だしなみは大切ですわ。ですが、その時。


 コンコン


 私の部屋のドアをノックする音が聞こえましたわ。こんな朝から誰かしら?






「お入りなさい」


「おはようございます。ミルフィーユお嬢様。良く惰眠を貪っておられたようで」


 入って来たのは、執事のエスプレッソでしたわ。それにしても、惰眠とは失礼ですわね! 後、何の用かしら?


「ミルフィーユお嬢様。今日は大事な日です。早く身だしなみを整えて、出発の準備をして下さいませ」


 えっ? 大事な日? その様な話は聞いていませんわ。


「エスプレッソ、今日は何か大事な用が有ったかしら?」


 すると、エスプレッソは心底呆れたといった顔をしましたわ。


「おやおや、ミルフィーユお嬢様はその歳でボケられたのですか? 悲しい事ですな。では、お話しましょう。今日はナナ殿とハルカ嬢の結婚式でございます」


「……えっ?」


 私は我が耳を疑いましたわ。ナナ様とハルカの結婚式?






「ど、どういう事ですの、それは! 私は聞いていませんわ! 大体、あの2人は女性同士ではありませんの!」


「そう言われましても、事実ですので。それに、2人共に強く惹かれあっていましたしな。いや、愛の力とは偉大ですな」


 涼しい顔でそう話すエスプレッソ。冗談ではありませんわ! その様な事、断じて認めません!


「まぁ、そういう事でございますので、ミルフィーユお嬢様も早く支度をして下さいませ。結婚式に招待を受けていますので。晴れの結婚式に遅刻してはスイーツブルグ家の恥ですからな。では、失礼致します」


 そう言うとエスプレッソは部屋を出て行きましたわ。


 私には信じられませんでしたわ。ハルカとナナ様の結婚式なんて……。






 ですが、現実は非情かつ残酷ですわ……。


「今日は来てくれてありがとうございます、ミルフィーユさん!」


「え、えぇ。せっかく招待されたのですもの……」


 ここは結婚式の会場。ハルカは幸せ一杯の表情をしていましたわ。


「おや、来たのかい、小娘。てっきり来ないものと思っていたのに」


 こちらは、勝ち誇った表情を浮かべるナナ様。ムカつきますわね!


「失礼ですよ、ナナさん!」


「良いじゃないか別に。残念だったね、小娘。ハルカは私を選んだよ。ま、あんたも頑張って良い相手を見付けな」


「ナナさん!」


「はいはい、分かったよ。それじゃ後でね、小娘」


 そう言って去って行くナナ様。


「すみません、ミルフィーユさん。ナナさんが失礼な事を……」


「いえ、別に気にしていませんわ。それよりも本気ですの、ナナ様と結婚なんて」


「はい、本気です! ナナさんを始め色々な人達に聞かれましたけど」


 強い意思を宿した瞳ではっきり言い切るハルカ。間違い有りませんわ、ハルカは本気ですわ……。もはや、私が何を言ったところで翻意はしないでしょうね……。






 そして、いよいよ結婚式が始まりましたわ。出席者は、はっきり言って少ないですわ。私、エスプレッソ、クローネ様、ファム様。お母様は今日は忙しくて来れませんでしたわ。


 それにしても綺麗ですわ、純白のウェディングドレスに身を包んだハルカ。頬をほんのり染めて幸せそうですわ。


 ナナ様は黒いタキシードを着ていますわ。花婿ですのね。


「それにしても驚いた。まさか、あの二人が結婚するとは。長生きはするものだな」


「本当にね~、招待状を貰った時はびっくりしたよ~」


「何より驚いたのは、ハルカ嬢からナナ殿にプロポーズしたという事ですな」


 今回の結婚について話す3人。聞きたくありませんわ!


 そんな私の気持ちとは関係なく、結婚式は順調に進んで行きますわ。






 そして、結婚式もいよいよクライマックス。誓いのキスですわ。


「ナナさん、僕、幸せです……」


「何言ってるんだい! これから私達はもっと幸せになるんだよ!」


「はい、ナナさん!」


 そう言うと、目を閉じるハルカ。


 そしてハルカに顔を近付けるナナ様。


 嫌……、やめて! こんな事、認めない! 認めるものですか!


 飛び出そうとする私をエスプレッソが止めます。


「なりません、ミルフィーユお嬢様。お二人の結婚式をぶち壊すおつもりですか?」


「…………!」


 そして、ナナ様とハルカは熱烈なキスを交わしましたわ……。


「愛してます、ナナさん」


「私も愛してるよ、ハルカ」


 あっ、分かりましたわ!これ、ドッキリ企画ですのね!ドッキリ大成功! と書いた看板持った人が出てきますのね! カメラマンはどこかしら?


「ねぇ、エスプレッソ。これドッキリ企画なんでしょう? もう、みんなで私を騙すなんて……」


 そんな私に気の毒な人を見る目を向けるエスプレッソ。


「ミルフィーユお嬢様。お気持ちは分かりますが、事実です」


「そんな……」


 嫌、嫌、嫌、嫌、いやぁああああぁああぁあっ!

 認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない! 認めない!


 こんな現実、絶対認めませんわーーーーーーーっ!!






「…………夢、でしたの……」


 気が付けば、私は自室のベッドの上にいましたわ。


 私とした事が、なんて夢を……。


「おはようございます、ミルフィーユお嬢様」


「エスプレッソ! いましたの!?」


「はい、何やらミルフィーユお嬢様がうなされている声が聞こえましたので。いや、実に愉快な内容でしたな」(笑)


「どの辺りから聞いていましたの?」


「ナナ殿とハルカ嬢の結婚式の辺りからです。いや、お嬢様の乱心ぶりは見事でしたな。今や筋金入りの百合ですな」(笑)


「私は百合ではありませんわ!」


「ならば、ハルカ嬢が誰と結婚しようと問題無いのでは?」


「…………」


 相変わらず、嫌な性格ですわね。






「ミルフィーユお嬢様、冷静に考えれば、ハルカ嬢はまだ結婚は出来ません。何せ17歳ですから。結婚は18歳からです」


 そういえばそうでしたわね。この国では、結婚は18歳からですわ。


「まぁ、それはさておき、面白い本を入手しましたのでお持ちしました。百合小説界のカリスマ、「リリィ・ブラック」先生の名作『百合の竜巻』です。侯爵令嬢とメイドの恋を描いた作品です」


「私は百合ではないと言ったでしょう!」


「ハッハッハ! 説得力に欠けますな。とりあえず置いておきますので、後はお好きに。では失礼致します」


 行ってしまいましたわ。とりあえず、朝のシャワーを済ませないと。すっかり忘れていましたわ!小説は……とりあえず置いておきましょう。






 シャワーを済ませて自室に戻ってきた私。目に付くのは、エスプレッソの置いていった小説。


 …………えっと、その、私は断じて百合ではありませんわ。勿論、この様な百合小説にも興味は無いですわ。とはいえ、せっかくエスプレッソが置いていったのですし、少しぐらい目を通しても良いですわね。言い訳ではありませんわ!


 小説のあらすじは親の借金のカタとして売られた少女、マリィが侯爵令嬢、エリザに買われる事から始まりますわ。


 素朴な田舎少女マリィがその優しさと真っ直ぐな心で侯爵令嬢エリザの頑なな心を解きほぐし、次第に惹かれあうのですわ。


 ですが、2人の間に身分差や、様々な障害が降り掛かりますの! もう、ハラハラさせられ通しですわ! この恋はどうなるのかしら?


 それに、侯爵令嬢とメイド。まるで私とハルカみたいですわ……。って私は断じて百合ではありませんわ!






 しかし、身分差。これは大きな障害ですわね……。貴族と庶民が結ばれるなど、この国ではまず有り得ませんわ。貴族に恋愛、結婚の自由など事実上無いですもの。


 私とハルカが結ばれるなど正に夢物語ですわね。ってまた、百合の方向に向かっていますわ!


 全く、私とした事が……。ですが、ある意味、ナナ様が羨ましいですわ。あの方は自由に生きておられますから。更には圧倒的な力も有る。あの方が望めば手に入らない物など、まず無いでしょうね。


 その気になればハルカさえも……。って、だから私は断じて百合では……。






「エスプレッソ、貴方に頼みが有りますの」


「何でしょう、ミルフィーユお嬢様?」


「この小説『百合の竜巻』の続刊は有りませんの?」


「それならば、ここに。全20巻揃っております。しかし、すっかりハマられましたな」


「大きなお世話ですわ! まぁ、百合小説とはいえ確かに面白いですし……」


「作中の侯爵令嬢とメイドをご自身とハルカ嬢に重ねられましたか」


「お黙りなさい! エスプレッソ!」


「これは失礼致しました」


 全く悪びれる風の無いエスプレッソ。実力は確かですけど。






 ふと、気になってエスプレッソに相談してみましたわ。


「あの、エスプレッソ。聞いて貰いたい事が有りますの。私の見た夢の事ですわ」


「ほう、ミルフィーユお嬢様のうなされていた夢ですか」


 私はエスプレッソに夢の内容を話しましたわ。


 ナナ様とハルカが結婚する夢を。






「なるほど。そういう事でしたか」


「本当に酷い悪夢でしたわ……」


「ミルフィーユお嬢様。その夢を単なる夢と片付けられないやもしれませんぞ。正夢という事も有り得ますしな。何より、ナナ殿とハルカ嬢は同じ、一つ屋根の下で暮らしておられますし、ナナ殿は美人で巨乳、しかも百合で経験豊富なテクニシャン。ウブな美少女のハルカ嬢が落とされる可能性は大ですな」


 嫌な事をはっきり言うエスプレッソ。ですが否定出来ないのも事実ですわ。






 私は自室に戻り、1人考えます。ハルカは私を友達と言っていますわ。では私にとってハルカは何なのでしょう?。友達?、それとも……。


 私はハルカとの初めての出会いを思い出していましたわ。魔蟲の森でランクAAAの魔物、巨大カマキリのブラッディハンターに襲われていた私をハルカが助けてくれましたわ。


 今でもはっきり目に焼き付いているその瞬間。強固な外甲を持つブラッディハンターを容易く斬り殺したハルカ。


 両手に無色透明の刃の短剣を持ち佇むその勇姿、正にヒーローでしたわ。






 認めざるを得ませんわね。私はあの時、ハルカに恋をしてしまった。あの勇姿に一目惚れをしてしまった。


 他人は百合と言うでしょうね。ですがそれほどまでに美しかった。それに私に近づく殿方は皆、当家の名や力が目当て。何せ当家は国内屈指の名門ですもの。


 それに対して、ハルカは私を同年代の相手として接してくれますわ。


 無礼と言われるかもしれませんが、私にはそれが嬉しかった。






 私とハルカ。お互いの間には様々な障害が有りますわ。同性であること、身分差、ハルカを溺愛するナナ様。その他にも色々。ですが、自分の気持ちに嘘はつけませんわ!


 ナナ様! たとえ伝説の魔女である貴女といえども、ハルカは渡しませんわ! ハルカと結ばれるのは私ですわ!


 その為ならば、家さえも捨てられますわ!


 愛していますわハルカ。いつかこの想いが貴女に届きます様に。そして貴女と結ばれます様に。




遂にミルフィーユお嬢様、百合を認めました。さて、今後どうなるか?。作者にも分かりません。

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