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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第153話 狂僧VS若手3人組……+α?

 ハルカが慈哀坊を引き付け、離宮の中庭へと去った後。婚約発表会会場にて。


 ミルフィーユside


 自らを囮とし、真十二柱 序列六位 慈哀坊を引き付け、中庭へと去ったハルカ。そして、その後を追って行った慈哀坊。とりあえず、この場で戦闘が起きるという、最悪の事態は避けられました。しかし、それだけで済む程、世の中は甘くない訳で。出席者の面々は事態の説明を求めてきました。


「あの怪しい坊主は誰だ?」


「侵入者を許すとは、警備はどうなっているんだ!」


「メイドが飛び出していったが、無礼ではないか!!」


 その他、色々。喧々轟轟の騒ぎに。その裏には、これ幸いと、我が国に対し、弱みを握りたいという魂胆が見て取れます。……知らないとは幸せな事ですわね。自分達が置かれた危機的状況が分からないのですから。


 侵入者が、そこらのテロリスト風情ならともかく、よりによって、多元宇宙の抑止力、全ての神魔の頂点である、真十二柱。その中でも屈指の危険人物である、序列六位 慈哀坊。その力は絶大。しかも、善意の名の元、暴走する狂僧。今はハルカが標的とはいえ、もし、ハルカが敗れたなら、次の矛先はどこに向かうか? まず、間違いなく、私達でしょう。


 一刻も早く避難せねばなりません。少なくとも、形式上だけでも。この非常事態に何の対策もしなかったとあっては、後の禍根となるでしょう。幸い、この離宮は王家の所有だけに緊急時の地下シェルターが有ります。もっとも、真十二柱の力の前には、何の役にも立たないでしょうが。それでも、真十二柱の事を知らない来賓達には有効だと思われるはず。


 しかし、物事はそう上手くは運びません。レオンハルト殿下が代表として来賓達を説得しようとしていますが、来賓側は聞く耳を持ちません。せっかくの弱みを握るチャンス、そうそう手放すはずがありません。その時、レオンハルト殿下がハンドサインを送ってきました。


『切り札を1枚切る』


 やむを得ませんわね。私は軽く頷き、了承の意を返します。私の出番ですわね。一旦、深呼吸をして、呼吸を整えてから、声を張り上げます。


「皆様、静粛に!! 今は、こんな事をしている場合ではありません!! 私達は今、大変な危機的状況に有ります!!」


 私の張り上げた大声に驚いたのか、一同、静まり返ります。まぁ、国内屈指の大貴族にして、王家と婚約を結んだスイーツブルグ侯爵家の三女ともあろう者が、こんな大声を張り上げるなど普通、思わないでしょうし。ですが、これはチャンス。その場の主導権を握れました。手放しはしません。このまま、押し切ります。


「まずは先程、飛び出していったメイドですが、彼女よりも、彼女の師について語りましょう。彼女の師は『名無しの魔女』。あの、悪名高い恐るべき魔女です。その強さ、恐ろしさは、皆様もよくご存知でしょう? 既に死んだなどと噂されていましたが、存命でした。そして、最近、弟子を取りました。それが先程のメイド。ハルカ・アマノガワ」


 ハルカ、ナナ様には申し訳ないですが、ここは事態打破の為、ある程度、情報を開示します。ま、()()()()()()()()()()()()()()()()


 その効果は絶大で、一同、騒めきます。


「あの『名無しの魔女』が生きていた?」


「弟子だと?!」


 情報の遅い連中ですわね。内心で侮蔑しつつも、決して表情には出しません。その一方で、食わせ者もいますが。







「いやはや、何ともお人が悪い。その様な隠し玉を持っておられたとは。こんな事なら、もっと上等な衣装を着た上で、あのメイドのお嬢さんに対し、手土産の1つも渡しておくべきでしたな。全く、教皇猊下にお叱りを受けてしまいますな」


 やけに芝居がかった台詞回しに態度。それは大陸四大勢力が一角、北の『教国』よりの来賓。そして、『教国』の元首、『教皇』の直轄組織『護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)』の団長。『教皇の懐刀』、『北の白狐』と呼ばれる女。


『ヒョージュ・イツテク』


 いかにも困りましたと言わんばかりの態度。ふん、よく言いますわね。そんな事、()()()()()()()()()()()()()()護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)。表向きは教皇及び国教を守るのが務め。しかし裏の顔は、諜報、暗殺、破壊工作を始め、あらゆる汚れ仕事を請け負う闇の組織。他国の情報収集など、お手の物。


 正直、この女狐に情報を与えたくはないのですが、今はそれどころではありません。それに少なくとも、今は邪魔をしないでしょう。バカに護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)団長は務まりません。


「申し訳ありません、その事に関しては、無闇矢鱈に開示出来ない情報でしたので。何より、今はそれどころではありません。一刻も早く避難しなくてはなりません。あの僧侶の目的は分かりませんが、明らかにハルカを狙っています。『名無しの魔女』の弟子であるハルカを。そんな事をすれば、間違いなく、師である『名無しの魔女』の怒りを買うのに。この意味、お分かりですわね?」


 ここまで言われて分からない程、バカ揃いではなかったのは幸い。女狐ヒョージュも補足してくれました。


「なるほど。つまり、あの坊主は、『名無しの魔女』を敵に回しても構わないと思うだけの力が有ると。少なくとも、厳重に警備が敷かれていたこの離宮に堂々と入り込めるだけの力が有ると。これは確かに不味い事態ですな。我が護教聖堂騎士団(テンプルナイツ)の団員でも、この離宮に入り込む事は容易ではない。恐ろしい坊主ですな」


 来賓達も、いかに今の状況が危険か分かってきたようです。パニックが起きる前に、一同を避難させましょう。レオンハルト殿下、ヒョージュ、どちらも頷きました。流石です。


「では、避難を始める! 誰か有るか!」


 レオンハルト殿下が避難の指揮を取ります。その呼び掛けに応じ、婚約発表会のスタッフ達が、一同を地下シェルターに向かって誘導。幸い、ハルカが向かった中庭方面から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからパニックも起きず、一同、行列を作り、シェルターに向かっています。


 恐らく、慈哀坊が中庭を結界で覆ったのでしょう。ハルカを逃さない為に。そのおかげで、こちらは比較的、楽に避難行動が出来ているのですが。もっとも、ハルカが慈哀坊に敗れたら、全てが無駄になります。地下シェルター如き、真十二柱の前には塵芥にも劣るのですから。


「ミルフィーユ、調べに行かせた者達からの報告じゃが、やはり、外には出られぬ。そして、これだけの騒ぎになっても外から何も音沙汰が無いという事は、外部からもこちらに干渉出来ぬ様にされていると見て間違いあるまい」


「慈哀坊の結界ですわね。となると、結界を張った張本人である慈哀坊をどうにかするか、結界を解除なり、破るなりする必要が有りますが……」


「無理じゃな。少なくとも、我々ではどうにもならん。特に慈哀坊とやらに手を出すのは単なる自殺行為じゃ。無駄な犠牲者を出す訳にはいかぬ。ハルカに望みを託すしかあるまい」


「後は、邪神ツクヨが援軍を送ってくれる事に期待ですわね。現状、頼れるのは、あの方ぐらいですわ。他の真十二柱は期待出来ませんし」


 予想はしていましたが、やはり、離宮全体が慈哀坊の結界に包まれていました。内からの脱出、外からの侵入、どちらも出来ません。完全に閉じ込められてしまいました。今はまだ来賓一同には知られていませんが、万が一、知られたら、それこそ詰みます。


「それと、もう1つ。これも悪い知らせじゃ。この離宮内の警備担当の者達が、全て姿を消しておる。代わりに、その衣装を着た『木』が生えておったと。その数は、警備担当の者達の数とぴったり同じだったそうじゃ」


「やはり……全滅でしたか」


「……うむ」


 侵入者である慈哀坊が婚約発表会の場に現れた時点で、これも予想はしていましたが、警備担当の者達は全滅していたとの報告。


「殿下」


「うむ。殉職者の遺族には、きちんと補償は出す。どう説明するか考えておかねばならぬな」


「そこは殿下の手腕の見せ所ですわね」


 そう話し合う私達でしたが、お互い、あえて言わなかった事が有ります。


 ()()()()()()()()()()()()()という事を。






 ???side


「う〜む。これは流石に想定外だったな。グリフを排除してくれた事に関しては手間が省けて助かったが、これではレオも助からん。レオに死なれては困る。後、私も死にたくないしな。さて、どうしたものか? おや? ()()は……」







 竜胆リンドウside


 ……正直、気が進まなかったのですが、ツクヨ様直々の命令とあり、拒否権など無く、慈哀坊撃退、ハルカ・アマノガワ救援に出撃。そして現在、慈哀坊と交戦中なのですが……。


 分かっていた事とはいえ、やはり強い!!


「シッ!!」


 間合いの内ならば、確殺とさえ言われる先輩の居合の一閃。それを容易く見切り、刀身に錫杖を沿わせ、滑らせ、刀の軌道を逸らし、先輩の体勢を崩すや……。


「オン!!」


 強烈な掌底を先輩の腹に打ち込み、吹き飛ばす。慈哀坊は法力だけでなく、錫杖を使った棒術、更には格闘にも長けているのです。人間時代から天才僧侶と呼ばれていたのは、伊達ではありません。


 しかし、こちらとて、やられてばかりではありません。ハルカの影が伸び、そこから現れた巨大な黒い『手』が先輩を受け止める。


 間髪入れず、慈哀坊の背後の影から黒い『蛇』が大量に現れ、慈哀坊の足に絡みつく。ハルカの『黒い水』。色々と応用の効く便利な能力ではあります。もっとも、それでどうにかなる程、甘い相手ではないですが。そして、それが分かっていて、何もしない私ではありません。


「頑張って足止めしなさい!」


 返事は求めません。そんな余裕は無いので。ハルカが稼いでくれた僅かな時間。それを私が更に引き伸ばす。手にする魔槍 穿血(ウガチ)の柄を地面に突き立てる。


槍茨(ヤリイバラ)


 地面から大量の槍が突き出し、更に茨の様に枝分かれし、慈哀坊へと襲い掛かる。ハルカの黒い蛇に足を取られている状況。普通ならバラバラに切り刻めるのですが……。


「チッ、やはり通じませんか」


 バラバラになったのは槍の茨の方。確かに茨の刃は慈哀坊の身体に届きました。しかし、その身体に傷一つ付ける事も叶わず。いわゆる硬気功で、その身体を瞬間的に硬化させて防いだのです。とんでもないレベルの硬気功。まがりなりにも、我が師、真十二柱 序列四位 武神 鬼凶より授かった魔槍の攻撃を無傷で防ぐとは。つくづく嫌になります、この坊主。などと、愚痴っている場合ではありませんねっ!


 すぐさま、その場を飛び退く。直後にその場に出来るクレーター。危ない、危ない。飛び退くのがあと少しでも遅かったら、挽き肉どころか、消し飛んでいました。


「一切衆生是救済、じゃなかったんですか?」


「……救済を拒む輩には、制裁有るのみ」


「腐れ坊主が」


 クレーターを作ったのは慈哀坊の拳。……正直、不味い展開です。ハルカ1人だけならともかく、私達と先輩が助っ人に来た事で、少々、本気を出してきた模様。あくまで少々ですが、それは慈哀坊からすればの話。遥かに格下である私達にとっては脅威以外の何物でもありません。


 私とハルカで慈哀坊を足止めし、出来るだけ早く、先輩に一太刀入れて頂くのが理想的な展開なのですが、やはり、そう上手くは行きませんか。……全く、ハルカに関わるとろくな事になりませんね。


 と、そこへ音も無く、突如、降り注ぐ『黒い雨』。それは慈哀坊を狙い撃ちする形で降り注ぎました。ハルカの仕業ですね。慈哀坊は硬気功で防ごうとした様ですが、危険を感じたか、後ろに飛び退る。その判断は正しかった様で……。


 地面を落ちた雨の立てる音が明らかにおかしい。バルカン砲でも撃ち込んだ様な音がしました。というか、降り注いだのは雨ではなく、細長い針でした。しかも、ハルカの攻撃はまだ止まらない。


 飛び退り、着地するその瞬間を狙い、無音で黒い針の弾幕による面制圧を仕掛ける。……後で知りましたが、ハルカの元いた世界の漫画に出てくる『卑劣様』とやらの使う術を真似たとか。確かに暗殺、不意討ち向きで、『卑劣』と言われるのも納得。もっとも、殺し合いに卑劣もクソも有りませんが。


 実際、強力な術だった様で、慈哀坊の腕に数本の針が刺さっていました。硬気功で防いだのでしょうが、それでも刺さるとは。私の魔槍の攻撃より上ですか。後で教わりたい所です。……慈哀坊を退かせる事が出来たら、ですが。


「……恐ろしい術を使う。愚僧が傷を負うとは。やはり、早急に救済せねばなるまい」


「一応、褒め言葉と受け取っておきます」


 私が傷一つ付けられない慈哀坊に対し、針数本とはいえ、その身体に傷を付けたハルカ。癪に障りますが、その実力は認めざるを得ません。初めて会った時は私が勝ちましたが、今はどうなるか分かりませんね。……慈哀坊が彼女を危険視する気持ち、分からなくもないですね。はっきり言って、天才と言う言葉すら生温い。一種の化物ですよ、あれは。確かにさっさと殺しておくべきかもしれません。


 もっとも、その様な事、先輩やツクヨ様が許さないでしょうが。お二方共、ハルカが大層、お気に入りの様ですし。……実に不愉快な事にね。






 しかし、困りましたね、これは。少々とはいえ、実力を見せ始めた慈哀坊。それに対し、こちらは決定打を入れられずにいます。このままでは、いずれ押し潰されます。現状、3人掛かりで切れ目なく波状攻撃を仕掛けるも、ことごとく錫杖で防がれ、反撃される始末。


「甘い。その様な連携の取れぬ攻撃で、愚僧に通じるとでも?」


 慈哀坊から、ぐうの音も出ない程の正論によるダメ出し。正にその通り。私達は個の練度は高くとも、3人揃っての連携はした事が無い。厳密に言えば、私と先輩は過去、幾度となく共闘した事が有り、2人ならば、呼吸を合わせるのも容易い。


 しかし、今回はハルカという『不純物』が混ざっています。……連携とは『音楽』と私は考えています。それぞれの奏でる『曲』、それらが調和してこそ、美しい『音楽』となるのです。どんなにそれ単体が美しかろうが、余計な『雑音』を撒き散らされては困るのですよ。本人もそれは分かっているはず、と思いたいのですが。







 ハルカside


 イサムと竜胆リンドウ)さんが助っ人に来てくれた事もあり、ひとまずの難は逃れた。だけど、そこからがどうにも良くない。3人掛かりで慈哀坊に挑んでも、まるで歯が立たない。真十二柱なんだから、強いのは分かっているけど、それだけじゃない。


 はっきり言って、僕が2人の足を引っ張っている。3人の連携ではなく、2人と1人。これではダメだ。ただ、言い訳をする訳じゃないけど、そもそも連携を成り立たせるには、お互いの力量、思考、戦法を知るのは無論、何より、連携を積み重ねてきた経験が必要。だが、その経験の無さが仇となった。


 イサムと竜胆リンドウさんはまだ良い。長い付き合いらしいし。しかし僕は違う。そこまでの付き合いは無い。竜胆リンドウさんとは特に相性悪いし。そして、僕達3人の力量差。図にしたら、こんな感じか。


 慈哀坊>>>>越えられない壁>>>>イサム>>非常に高い壁>>竜胆リンドウ)>大きな壁>ハルカ


 ……これでは連携もへったくれもない。あまりにも僕達はちぐはぐ過ぎる。かと言って、このままでは3人まとめて、慈哀坊に『救済』されるのがオチ。悠長に考えている暇は無い。現に、今まさに慈哀坊の猛攻を必死で捌いているのだから!


「フォーム!!」


 錫杖による怒涛の如き滅多打ち。慈哀坊はイサムと竜胆(リンドウさんの2人は、とりあえず後回し。まずは当初の標的である僕を集中攻撃する事にしたらしい。2人を適当にあしらいつつ、執拗に僕を狙う。標的を弱らせ、最終的に仕留める。ありきたりではあるが、同時に極めて正しいやり方。


 どうすれば良い? 3人掛かりの連携はままならず、このままでは全滅必至。…………だったら、この場で連携を成り立たせる。やるしかない。感謝しますよ、慈哀坊。貴方のおかげで、御津血(ミヅチ神楽の本質を思い出しつつある。とにかく、2人にその事を伝えないと。その為にも、この猛攻を崩す!


 冷静になれば、意外と慈哀坊の隙が見えてくる。確かに慈哀坊は強い。圧倒的格上だ。でも、それは逆に言えば、油断、慢心に繋がる。だから、こんな、つまらない手に引っ掛かる。


「フッ!!」


 錫杖の滅多打ちの僅かな合間を突き、『黒い水』の含み針を慈哀坊の顔面目掛けて放つ。その威力は既に知っているだけに当然、防ぐ慈哀坊。


「そんな見え透いた手が通じるとでも? 実に愚かなり」


「でしょうね。でもね、こんなのはどうですか?」


 ズボッ!!


 突然、右足を取られ、バランスを崩す慈哀坊。


「ぬうっ! これは!?」


 水系の術の初歩の初歩。水呼び(サモン・ウォーター)。それをアレンジし、地面にぬかるみを作る。


 地味な術ではあるが、足止めに最適。これまで数々の戦で使われ、数多の犠牲者を出した術だとナナさんから教わった。


 慈哀坊が動き回っていた間は使えなかったが、僕を錫杖で滅多打ちする為に足を止めたのが仇。慈哀坊の油断、慢心が招いた結果だ。ついでに食らえ、久しぶりに使う、現状の僕の最強の一撃。範囲は慈哀坊1人に指定。


絶対凍結眼アブソリュート・フリーズ)


 僕の今の身体は、真十二柱 序列十一位 魔氷女王の身体。そして魔氷女王の持つ『凍結』の権能。その極致が、見る物全てを絶対凍結させる魔眼。


 その力は凄まじく、これまでまともに攻撃の通じなかった慈哀坊を瞬時に凍らせ、氷像へと変えた。


「……………ふぅ~。どうにか、効いたか」


「ハルカ!」


 イサムと竜胆(リンドウさんが僕の元へと駆け寄ってくる。しかしながら、2人共、氷像となった慈哀坊から視線を外さない。


「多少の時間稼ぎにしかならないな」


「本家本元の魔眼なら仕留めていたかもしれませんが、劣化版ではね」


「すみませんね! 劣化版で!」


 イサムはともかく、竜胆リンドウさんは一々、批判をしないと気が済まないのか? やっぱり、僕、この人嫌い。向こうも同じらしいし。しかし、今は個人的な好き嫌いを言っている場合じゃない。それが分からない竜胆リンドウさんでもない。僕は手短に自分の考えを2人に話す。


「俺は別に構わない。竜胆リンドウ、お前はどうだ?」


「……不本意ではありますが、先輩がそうおっしゃるなら。その代わり、失敗は許しませんよハルカ。まぁ、その時は命が無いでしょうが」


「ありがとうございます」


 とりあえず、2人の了承は取れた。後は、()()()()()()()()


 どうやら時間切れの模様。周囲を覆っていた氷を粉砕し、慈哀坊が出てきた。凍傷一つすら無い辺り、流石は真十二柱。さて、仕切り直して、最終ラウンドの始まりだ。






 イサムside


 ハルカが慈哀坊を氷漬けにして時間を稼いでくれた間に、手短に作戦会議。ハルカなりに、考えが有ると伝えられた。その内容に、俺は賭けた。竜胆リンドウは渋々ながらも了承。後は、ハルカを信じるのみ。


 何、失敗しても()()()()()。しかし、ハルカも大胆と言うか。随分と思い切った事を言う。でも、確かに慈哀坊には有効かもな。生まれながらのエリートで、プライドの高さは真十二柱の中でもトップクラスだからな、あの坊さん。そんじゃま、やりますか!






「やってくれましたな。愚僧、これ程の屈辱を味わったのは、かつての大戦で()()()()と相対して以来」


 やっぱり怒ってるな、慈哀坊。そりゃそうだろうな。格下と見くびっていた相手に足元を掬われた挙げ句、氷漬けにされたんだからな。いい恥さらしだ。ツクヨさんが知ったら、爆笑間違いなし。


「いい気味だ! クソ坊主が!!」ってな。


 しかし、恥をかかされて怒った慈哀坊、当然、攻撃の威力を上げてきた。これまではあくまで、速く、重い()()だったんだけどな。


 破魔の力を加えてきやがった。こりゃ不味い。竜胆リンドウはともかく、俺とハルカには相性が悪い。


 ボッ!!


 凄まじい速さで繰り出される錫杖の突き。咄嗟に刀で受け流すが、錫杖が刀身に触れた際に、ジュッ! と熱した鉄板に水を垂らしたみたいな音がした。生身で触れたら……考えるのはやめよう。絶対にあれはヤバい。


 慈哀坊の攻撃のヤバい所は、その継ぎ目の無さに有る。とにかく、徹底的に攻勢を掛けて、相手を圧殺する。


 その一方で弱点も有る。その実力故の油断、慢心。そして、意外と短気な事だ。確かに怒りで威力が増しているよ、慈哀坊。でもな、その分、攻撃が雑になっているんだよ!


 錫杖を振りかざしてきた、その瞬間を狙い、胴体目掛けて竜胆リンドウの重機関銃斉射。装填されているのは特製の破魔徹甲弾。


「小癪な真似を!」


 竜胆リンドウに意識を向けようとするが、そんな隙、見逃す訳無いだろ。遠慮無く、首を刈りに行く。首を落としてもこいつなら、死なないだろうしな。


「調子に乗るな!!」


 いい加減、頭に来たらしい。魔力の増大を感じる。纏めて吹き飛ばす気か。……バカが、狙い通りだ。


 突如、無音で飛んできた数本の無色透明の鋭い針。それは正確に魔力の増幅点を刺し貫く。結果、魔力暴発を招き、体内から爆発を起こす慈哀坊。普通なら、これで木っ端微塵になるんだが、そこは真十二柱。最低限に抑えやがった。しぶとい坊さんで。


「ぐぬ…ぬ……」


 自分の魔力で受けたダメージだ。さぞ効くだろうさ。で、悠長に回復を待ってやる気は無い。一気に畳みかけ、追い返す。……流石に殺せないしな。色々な意味で。






竜胆リンドウ、俺に合わせろ! フォローはハルカに任せる!」


「了解」


 相手は格上。下手に狙っても当たらない。ならば、避けられない面制圧だ。徹底的に面制圧。相手に何もさせない。というか、されたら負ける。という訳で……。食らえ「籠目斬り」


 凶刀 夜桜を一閃。慈哀坊を取り囲む形で縦横無尽の斬撃が発生。中心の慈哀坊に向かい集束する。当然、防ごうとするが、またしても邪魔が入る。今度は足元に針が突き刺さる。殺傷力は弱いが、集中を邪魔するには十分。全身に切り傷を負う慈哀坊。そこへ更なる追い討ち。


「吹き飛びなさい!」


 竜胆リンドウが出してきたのは、大口径のバズーカ。当然、対怪物仕様の代物。容赦無く慈哀坊に向けてぶっ放す。まともに食らい、上空に吹っ飛んでいく。そこへダメ押しとばかりに、砲撃魔法。


氷魔凍嵐砲(ブリザード・バスター!!」


 集束された極低温の吹雪の砲撃。それが慈哀坊を直撃し、更に吹き飛ばす。このまま、外まで吹き飛ばせれば万々歳なんだけどな……。


「お、おのれ、この愚僧が……。なぜ、こうも押される……」


 やっぱり、耐えやがった。空中で止まり、怒ってやがる。しかし、しつこい。これがツクヨさんや、武神様なら、退いていだだろう。分が悪いと見たら、すぐに退くからな。


 しかし、慈哀坊は退かない。プライドの塊だからな。どうにか、奴のプライドをへし折るか、でなけりゃ、退()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのどちらかしかない。


 ハルカが何かを掴みかけているおかげで、今は押しているが、所詮、付け焼き刃。長くはもたない。……ツクヨさんなり、武神様なりが来てくれたらな~。


 期待出来ないけどな。ん? 何だこの音?


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!


 何か重い物が転がってきている様な、って、こっちに向かってきてないか!?


 ハルカと竜胆リンドウも気付いたらしい。だが、地上に降りてきた慈哀坊は気付いていない。バズーカ、砲撃魔法と轟音を放つ直撃を2連発で食らい、一時的に聴覚をやられたか。そして……。


「バッコッコのコ〜〜」


 凄い勢いで転がってきた茶、黒、白の3色柄の巨大な塊が、慈哀坊を背後から思いっ切り轢いた。


「……凄い音したけど」


「これは流石に予想外」


「あのさ、ハルカ。あれって……」


 哀れ、地面にめり込んだ慈哀坊。そして、そんな慈哀坊の上で変な歌と踊りを繰り返すのは……。


 頭がボケたデブの三毛猫。バコ様だった。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


「「「何でいるの!?」」」


 思わず、3人揃って叫ぶ。いや、本当、何でいるの!?

 色々とおかしい奴だとは思っていたけど。


 何か、妙な事になってきたな……。


























「おの…れ……()()()()()()()()()()()()……」


長らくお待たせしました。


今回は表と裏。両方の戦い。ミルフィーユとレオンハルト殿下は、上に立つ者として、務めを果たす。そして、やはりハルカ達が来た事で、周辺諸国が動き出した事を改めて知る事に。北の『教国』の暗部。『護教聖堂騎士団』の団長が来たのが何よりの証拠。間違いなく、他の諸国も暗部を差し向けてきている。


その一方で、慈哀坊戦は第2ラウンドに。イサム達が来てくれたものの、連携が上手く出来ず、苦戦。


しかし、そんな中、ハルカが御津血神楽の『本質』を思い出し、連携がスムーズに。とはいえ、慈哀坊を退かせるには足りない。慈哀坊のプライドをへし折るか、撤退やむ無しと判断する状況にするしかない。


そこへ突如、現れたバコ様。容赦無く慈哀坊を轢いた上に、その上で踊る始末。なぜ、いるのか? その辺の疑問はバコ様にしか分からない。


次回、慈哀坊戦、決着。そして、その後……。








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