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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第146話 ハルカ留守中における、ナナさんの様々な考察

 前回より、時間を遡る。ハルカが真十二柱による、第一の試練に向かった後。ナナさんの屋敷では……。







「行ったね。現状、私に出来る事は無い。……部屋に戻るかね。ほら、戻るよ、ツチノコ、ボケ猫」


 真十二柱による、ハルカの価値を見定める為の試練。その一番手である、序列三位 魔剣聖の試練へと、弟子のハルカを送り出した。一度始まれば、部外者には一切の干渉は不可能。ハルカが合格を貰って帰ってくるか、不合格で殺されるか。その、どちらかだけだ。現状、私に出来るのは、ハルカが無事に帰ってくる事を祈るのみ。しかし、そう割り切れない奴もいる。


「シャー!!」


「何、怒ってんだよ、あんた。仕方ないだろ、今回の試練は部外者お断りなんだから」


 ハルカの使い魔の白いツチノコ、ダシマキ。ハルカと一緒に行けなかった事で、大層、ご機嫌斜め。拗ねてやがる。私クラスの魔女ともなれば、動物の言葉も分かるのさ。しかし、何事にも例外は有る。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


「…………何度聞いても、意味が分からないんだよね、これ」


 今日も今日とて、変な歌と踊りを繰り返す、頭がボケた、デブの三毛猫、バコ様。こいつが何を言っているのか、私には分からない。ハルカは、なんとなく分かるらしいけどさ。それでも分かるのは、せいぜい、『餌くれ』『ウンコ出る』後、機嫌の良し悪し程度らしい。


「とにかく、部屋に戻るよ。ほら、帰った帰った」


 とりあえず、部屋に戻ろう。ツチノコとボケ猫にも、そう促す。現状、ハルカに対して出来る事が無いのは、ちゃんと分かっているツチノコ、不満そうながら、仕方ないとばかりに飛び跳ねながら、ハルカの部屋へと帰っていった。で、ボケ猫はというと……。


「バッコッコのコ♪ バッコッコのコ♪」


 変な歌と踊りを繰り返しながら、どこかに行こうとする。徘徊癖が有るんだよ、このボケ猫。


「お前はこっち! 徘徊すんな!」


 捕まえて、無理やり、屋敷の中へと連れていく。放っておくと、どこに行くか分からないからね。挙げ句、所構わずウンコを漏らすし。








「さて、と。何するかね? とりあえず、一杯やるってのも悪くないけど……」


 何かと口うるさいハルカは留守。正に自由時間。しかし、いざ、そうなると、意外とやる事が無い。


「……とりあえず、部屋に戻るかね。あのクソ邪神から貰った『資料』も有るし。暇潰しには丁度良いさ」


 せっかくハルカがいないんだ。だったら、ハルカがいては出来ない、やりにくい事をしよう。


「あのクソ邪神をして、()()()()()()()()と言わせる程だからね」


 さてさて、何が書かれているんだろうね?







 屋敷の2階に有る、私の部屋に戻り、亜空間収納から、クッソ分厚い、1冊のレポートの束を取り出す。タイトルは『灰崎 恭也についての調査レポート(裏)』。捻りも何もないタイトル。(裏)と付いている事を除けばね。


 こいつはその名の通り、真十二柱達がこれまで調べ上げた、『灰色の傀儡師』こと、灰崎 恭也に関する調査レポートだ。で、(裏)とタイトルに付いている理由だけどね。(表)が有るからだよ。


 私達は、真十二柱から灰崎 恭也について聞かされた際に、奴についての情報として、調査レポートを受け取った。それはハルカも目を通している。当然だ。ハルカを狙っている奴の情報なんだからさ。


 だが、調査レポートは実は『2冊』有った。それがこの、(裏)だ。今まで何だかんだと忙しかったし、万が一、ハルカに見られても困るので、目を通す機会に恵まれなかったが、ハルカが留守中の今なら安心して読める。


「じゃ、読むとするかね」


 缶ビール片手に、調査レポート(裏)を読み始める。ハルカに見せるなと言われた調査レポートを。








「…………あのクソ邪神がハルカに見せるなと言ったのも、納得だね。こりゃ、確かに見せられない。少なくとも今はまだ」


 クッソ分厚い調査レポート(裏)を読み終えた時、既に日付が変わっていた。真十二柱が調べ上げただけあって、情報量もさることながら、その内容もまた、非常に濃密だった。正に価千金どころじゃ済まない価値が有る。


「しかし、まぁ、よくやるよ灰崎 恭也ってのは。正直、恐れ入る。かつての私でも、ここまではやらなかった」


 レポートに書かれた灰崎 恭也の所業の数々。そこから読み取れるのは、灰崎 恭也の底知れない恐ろしさだ。例えば、この一件。


 とある世界での事だ。その世界は、ここと同じく、魔法と科学が共に存在する世界。そして、その世界においても屈指の大国。それも二ヶ国からそれぞれ姫君が留学に来たそうだ。どちらの姫君も、若く、美しく、そして優秀な才媛だったそうでね。


 そんな逸材を灰崎 恭也が見逃すはずがなく、当然、目を付けた。


 だが、ここからが奴の怖さだ。これがよくいる、催眠、洗脳系の能力持ちの転生者辺りだったら、姫達を洗脳し、好き放題に犯すなり、何なりしようとするだろうね。


 ま、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 当たり前だけど、この手のお偉いさんには護衛が付いている。ましてや、世界屈指の大国の姫君と来た日には、それこそ、選び抜かれたエリート達が陰ながら守っている。


 突然、得た『力』に溺れ、目先の欲を満たす事しか考えられないバカに出し抜かれる程、間抜けじゃない。


 むしろ、その手の輩を警戒しているし、対策も当然、している。実際、そんなバカが何人も秘密裏に始末されたそうだ。


 対して、灰崎 恭也はというと、すぐには動かなかった。奴は狙いを定めると、徹底的に自分の存在を隠した上で、標的に関するあらゆる情報を集め、じわじわと遠回しに周囲から切り崩してくる。端からすれば回りくどい位にね。この辺が奴がバカ共と違う所だ。


 大抵の転生者や異界人は、待つ事が出来ない。目先の欲を満たす事が全てだ。何よりバカなのが、こいつら、自()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 こういう転生者や異界人は異世界を見下す。自分が上、異世界は下と。


 ()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんなもの、どこにも有りはしない。たかが、『力』を得たぐらいの凡人に何が出来るものか。それこそ、本物の天才でなければね。それほどまでに、現実は、世の中は厳しい。


 話が脱線したけど、要は、こいつら、『力』は有る。『強い』。だけど、()()()()


 対して、灰崎 恭也。こいつは『弱い』。調査レポートにも書かれているけど、戦闘の才能は全く無い。剣や槍を持たせれば、へっぴり腰。パンチやキックも、へなちょこ。銃を始めとする飛び道具はさっぱり標的に当たらない。攻撃魔法もスッカスカの威力。もう、なんというか、絶望的な戦闘の才能の無さ。ここまで戦闘の才能の無い奴は初めて見たとの事。まぁ、本人もそれではまずいと思ったらしく、多少は改善したらしいけど、所詮は多少。ザコの域を出ない。


 ()()()()()()()()()()()()


 灰崎 恭也の怖さの一つは、自分の弱さを熟知している事。灰崎 恭也は確かに『弱い』。だが、それはあくまで、直接的な戦闘に関してはだ。それ以外に関しては、滅法強い。話を戻すけど、先程の大国の姫君達。彼女達を手に入れるべく、奴は動き出した。じっくりと時間を掛け、周囲の人間関係を始め、徹底的に情報を集めた上で、周到に計画を練り上げてね。


 そのやり方たるや、少しずつ、少しずつ、水が染み込み、徐々に小さなひび割れが出来、それが更にじわじわと広がり、より一層、水が染み込むが如し。誰にも気付かれる事なく、じわじわと。しかし、確実に灰崎 恭也の魔手は姫君達に迫っていたのさ。


 姫君達は夢にも思わなかっただろうね。まさか、自分が『人形』にされるなんてさ。周囲には選び抜かれたエリート揃いの護衛達が陰に日向に、守ってくれているし、それ以外にも、最先端かつ、最高クラスのセキュリティ。何より自身の実力もまた、世界最高クラス。それだけ揃って、自分が害される訳が無いと。


 しかし、現実は非情でね。姫君達はあっけなく、灰崎 恭也の手に落ちた。護衛も、セキュリティも、そして、自分自身の実力さえも、灰崎 恭也の前には全くの無力だった。


 護衛達を始め、姫君達の周囲の者達全てが、灰崎 恭也の操り人形と化していたのさ。全ては奴の計画通り。


 灰崎 恭也の持つ武器の一つ。『支配』の力。相手が『女』であるなら、問答無用で自分の意のままに動く『人形』にする力。その威力は絶大。『女』はたちどころに、奴の操り人形と化す。人間はもちろん、エルフや精霊、神魔さえも『人形』と化し操る、恐ろしい『力』。


 まずは、無関係とすら言える周囲の女から『人形化』していき、『人形化』した女を使い、更に次の女を『人形化』。これを繰り返し、徐々に徐々に護衛のメンバーへと近付いていく。そして、遂に護衛のメンバーの内、女へと辿り着いた。こうなれば、もはや、灰崎 恭也の勝ちはほぼ、確定。ねずみ算の要領で、護衛のメンバー中、女は全て『人形』と化した。


 逆に『男』には無力だが、そこは護衛の女を始めとする『人形化』した女達を使い、これまた操り人形とした。こうして、じわじわと周囲から切り崩し、完全に詰みの状況を作り上げた。こうなっては、エリート揃いの護衛も無意味。更に、セキュリティ関係者も操り、セキュリティも無力化。最後の障害となる姫君達自身の実力に関しては、一切の『力』を封じた上で、まばたき一つ出来ない程に、完全に身動きを封じて無力化。その上で、姫君に仕える侍女を操り、姫君を洗脳。『人形』にしたのさ。


 さて、普通なら、姫君達を『人形』にして終わり。後は、犯すなり、何なりとするだろう。だが、灰崎 恭也は違う。奴にとって、姫君達の『人形化』はあくまで、その後の計画の準備でしかなかった。もちろん、『人形』と化した姫君達を欲望のままに犯し尽くし、更には『力』を絞り尽くし、記憶も徹底的に調べ上げ、奪える全てを奪い尽くし、脱け殻にしたそうだけど。







 そして、奴は仕上げに掛かった。脱け殻と化した姫君に、必要最低限の『力』を与えた上で、とある奴らに『人形』越しに接触した。姫君達の国の貴族の若者二人に。それも、姫君と釣り合うだけの家格が有り、実力も有り、それなりに野心も有り、なおかつ、姫君に想いを寄せているが、見た目がパッとしないから内心、諦めている奴らにね。


 灰崎 恭也は、自分が選んだ貴族の若者二人に、こう話を持ちかけた。


『この国の実権を握りたくはないか? 何より、姫君を自分の物にしたくないか? 憧れていたんだろう? 姫君に。登り詰めたかったんだろう? この国の頂点に。でも、自分には無理だと諦めていた。しかし、僕の手を取るなら、それが叶う。要は取引さ。君は姫君と結ばれ、この国の実権を握る。その代わり、僕に少々、便宜を図って欲しいだけ。後、必要と有らば、助言や援助もするよ。ま、とりあえずは、お試しだよ。今夜一晩、姫君を貸してあげる。君好みに調整してあるから、存分に楽しむと良いよ。夜明け前には勝手に帰るから、心配無用さ。返事もすぐにとは言わない。1週間後の、この時間にまた来るよ』


 そうして、灰崎 恭也は立ち去ったそうだ。全裸の姫君をその場に残してね。で、貴族の若者だけど、憧れの姫君が全裸で、しかも従順な『人形』と化して目の前にいる。随分、迷ったらしいけど、『人形』と化した姫君の誘惑に負けて、明け方までヤりまくったんだと。童貞だったそうだし、無理もないか。


 それから1週間後、貴族の若者二人は、さんざん悩み迷った末に、灰崎 恭也と手を組んだそうだ。彼らなりに、損得勘定の末の結果だとさ。これに対して、灰崎 恭也は『合格』と二人に告げた。


 いくら、憧れの姫君を好き放題に出来て、なおかつ国の実権を握れるとしても、はい、そうですかと、あっさり自分の手を取る浅はかな奴なら、始末していたと。







 さて、その後はというと、貴族の若者二人は、それぞれ姫君と結婚した。しかし、自分は王位に就かず、姫君が女王として即位。自分はあくまで補佐に終止したそうだ。


 ま、()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()


 でも、結果から言えば、国はその後、随分と栄えたそうだ。姫君と結婚した貴族の若者は二人共、十分、有能だったし、灰崎 恭也も的確な助言や援助をしていたそうだ。これも奴の怖い所だ。奴は目先の利益に囚われない。将来的な利益の為なら、他人にも利益を与えるのさ。こうして奴は協力者を増やす。


 しかも、協力者は大きな権力やら、財力やらを得ているから、そう簡単には潰せない。今回の場合だと、大国二つを潰す事になる。そうなれば、間違いなく、世界は大混乱に陥るだろう。これでは下手に手出し出来ない。


 厄介な点はまだ有る。奴は、『人助け』もするんだよ。マジで。灰崎 恭也は、かつての自分の様に、周りから理不尽な仕打ちを受けている者、虐げられている者、蔑まれている者に救いの手を差し伸べている。奴に救われた者は多い。そして、そいつらもまた、灰崎 恭也の協力者となる。それも、狂信的なね。


 そりゃそうだ。誰も助けてくれなかった、全てが敵だった中、助けてくれたんだからさ。下手なヒーローより、ヒーローしているんだから、実に皮肉なもんだ。事実、灰崎 恭也はヒーローが大嫌いらしい。


『助けてくれなかった』からね。







 その後も私はレポートを読み続けた。おぞましい人体実験やら、優秀な男女を掛け合わせて、より優秀な子供を作らせるやら、古代遺跡の調査発掘やら、色々、やっていやがる。全く、熱心な事だよ。もしかしたら、奴は歴史に名を残す、偉大な人物になっていたかもしれないね。ま、世の中『たられば』や『if』は存在しないけどさ。その上で私は考える。


「…………全く、ハルカは厄介な奴に目を付けられたね。少なくとも、私じゃ、手に負えない」


 灰崎 恭也。少なくとも私の知る限りでは、間違いなく『最恐最悪の敵』だ。


『最強』ではなく、『最恐』。


 灰崎 恭也の『最恐』たる理由。それは……。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 確かに、女を『人形』にする『支配』の力。人の欲望、弱さを的確に突く頭脳。幾重にも逃亡手段を用意する抜け目の無さ。それらもヤバいが、一番ヤバいのが、奴に関する『情報の無さ』。


 情報を制する者が勝負を制す。これは古今東西、種族を問わず、変わらない。


 そして、灰崎 恭也はこれを徹底している。常に情報を集め、その一方で、自分の情報はひた隠しにする。


 自慢じゃないが、私の情報網はかなりの物だとの自信が有る。だが、奴に関しては、真十二柱 序列二位 魔道神クロユリから知らされるまで、全く知らなかった。少なくとも2000年前から活動していたらしいのに。これは、屈辱だったが、同時に脅威も感じた。


 この私が。伝説の魔女と呼ばれ、恐れられた私が、灰崎 恭也の存在を知らなかった。言い方を変えれば、奴は、完璧に自身の存在を隠し続けてきたという事だ。


『知らない』『分からない』


 真の『恐怖』とは正にこれだと私は思う。『強い』相手なら、それはそれで、手は有る。だが、『知らない』『分からない』では手の打ちようが無い。


 先の姫君達もそう。彼女達は何が起きたのかも、一切知らない、分からないまま、最終的には『人形』にされてしまった。


 これは本当に恐ろしい事だ。自分の周り全てが。信頼している仲間、友人。愛する家族、恋人。それらが、いつの間にか、灰崎 恭也の操り人形と化している。考えるだけでも、ゾッとするよ。


 逆に灰崎 恭也のやり口を知っていたら、それはそれでヤバい。いつ、どこで、誰が『人形』と化しているか分からないからね。しかも『人形化』した奴を見破るのは困難。そうなると待っているのは疑心暗鬼による、人間関係の崩壊だ。どんな強大な組織もこうなったら、もう止められない。おしまいだ。







「ぶっちゃけ、灰崎 恭也は、よく有る『なろう系』の最強ハーレム系主人公の『天敵』なんだよね」


 既に深夜だけど、腹が減ったから、ハルカが作り置きしていったビーフシチューを温めて、食パンと合わせての夜食。ついでに気分転換にラノベを読む。


 クソ邪神からの貰い物の最近、流行りのラノベ。『なろう系』と呼ばれている類いの奴だが、まぁ、どれもこれもコピーみたいに同じ内容の物ばかり。


 やれ、最強だ、ハーレムだ、成り上がりだ、改革だ。最近だと、パーティー追放からの復讐だ、悪役令嬢だ、婚約破棄だの。後、死にたくないから防御力最大とか、回避力とか……………………ふん、くだらないね。どいつもこいつも、灰崎 恭也と比べたら、取るに足らないクズばかり。


 さっきも言ったが、いくら『力』が有っても凡人風情に何が出来るものか。


 パーティー追放? 結果を出せなかった、お前が悪い。


 婚約破棄? どんだけ婚約、契約ってもんを軽く見てやがる。


 パーティー追放にしろ、婚約破棄にしろ、その時点で、そいつの社会的立場は地に落ちる。要するに、『最低のクズ』のレッテルを貼られるのさ。そうなれば、もはや人生終了。なぜなら、誰からも相手にされないからね。


 パーティーから追放されるような無能。婚約破棄されるような害悪。そりゃ、世間は相手にしないさ。私だって相手にしない。


 実際、過去にパーティー追放された奴やら、婚約破棄された令嬢やら、何人か知っているけど、全員、破滅したね。自殺したり、訳の分からない事業に手を出して失敗したり、挙げ句の果てに、クーデターや、テロに走った奴もいたっけ。全部、失敗したけどね。


 パーティー追放、婚約破棄とかされた時点で地に落ちた評価。これを引っくり返せるとしたら、それこそ、とんでもない天才だし、そもそも、それだけの天才なら、パーティー追放も、婚約破棄もされないさ。結局、本人が無能、害悪なのが悪い。他人、周囲のせいにするな。


「全く、ハルカの対極に有る奴らだね。こいつらの言い分は『自分は有能。自分の有能さを理解しない、周りが悪い』……典型的なクズの言い訳だね」


 この世は結果が全て。結果を出せない奴は無能だ。無能はいらない。これが世の真理。ハルカは言い訳なんかしない。結果を出し続けてきたからこそ、今が有る。







 後、死にたくないから、防御力最大とか、回避力全振りとか、それと射程距離無限だっけ? まぁ、くだらないね。私から言わせれば、それがどうした?


 防御力無視の攻撃なんざ、ある程度以上の奴なら使ってくるよ。例えば私が使う、空間そのものを切り裂く『次元斬』。虚数空間に飛ばすのも有るね。毒や呪いだって有る。


 回避力全振りも『次元斬』の応用の『空間牢獄』を始めとした、封印系で終わり。後、格の高い武具には『必中』の効果持ちが有る。さっき言ったが毒、呪いも有効だ。


 最後の射程距離無限だけど、こんなもの、灰崎 恭也からすれば、鼻で笑うだろうね。相手を捕捉出来なければ無意味なんだから。むしろ、逆に灰崎 恭也に殺られるだろう。奴が特に恐れているのは、そういう暗殺の類いだそうだし。


 結論を言うと、死にたくないなら、そもそも戦うな。それを徹底しているのが、灰崎 恭也な訳だ。






「そして、こういうクズが、灰崎 恭也にとっては絶好のカモな訳だ。特に最強ハーレム系主人公が」


 『なろう系主人公』(取るに足らないクズ)から、灰崎 恭也へと思考を切り替える。


「灰崎 恭也からすれば、最強ハーレム系主人公(色欲狂いの猿)は実にありがたい存在だろうね。わざわざ、『人形』の素体をたくさん集めてくれているんだからさ」


 事実、レポートによれば、灰崎 恭也は、これまで何人もの男達からハーレムの女達を『人形化』して奪ってきたそうだ。


 猿共からすれば、たまったもんじゃないだろう。いつの間にか、自分のハーレムの女達が全て敵に回る。


 仮に、どんなに深く愛しあった間柄であったとしても、灰崎 恭也の『支配』の力は愛も絆も信頼も全て、徹底的に踏みにじり、完膚なきまでに破壊する。


『女』は全て灰崎 恭也の『人形』と成り果てる。奴の意のままに動く手駒となる。


「…………本当に、シャレにならないね」


 かく言う私もまた、『女』な訳だ。


「最悪の事態も考慮に入れなきゃならないね」


 灰崎 恭也なら、私を手駒にする可能性大だ。自分で言うのもなんだけど、ハルカに対する、最高の切り札になるだろうし。それに対し、何らかの手を打つ必要が有るね。無駄かもしれないけどさ。


「まぁ、いずれにせよ、ハルカが帰ってこなけりゃ意味が無い」


 ハルカが魔剣聖から不合格を食らって殺されたなら、全ては台無し。もっとも、ハルカが死んだら、死んだで、灰崎 恭也はまた別の誰かを標的に変えるだけだろうけどさ。


「…………もう遅いし、寝るか」


 なんだかんだで、深夜の1時を回っていた。ごちゃごちゃ考えても気分が滅入るだけだ。それに、ハルカが帰ってきた際に、しけた面を見せる訳にもいかないしね。







 そして、翌日の夜。ハルカは無事に帰ってきた。ちゃんと、五体満足で帰ってきた事は、実に喜ばしい限り。ハルカの使い魔の白ツチノコ、ダシマキは飛び跳ねて喜び、ボケ猫も変な歌と踊りを繰り返す。


「ただいま、ナナさん」


「お帰り、ハルカ」


 手短に言葉を交わす。疲れているだろうし、長話は無用。だが、ハルカの表情は、大きな収穫が有ったと物語っていた。


「収穫は有ったみたいだね」


「はい。さすがは真十二柱。大いに学ぶ所が有りました。やっぱり、格上と接するのは有意義ですね」


「当たり前だよ。格下いじめをしても、せいぜい、優越感を満たせるだけさ。格上に挑んでこそ、なんぼだよ」


「まぁ、弱い者いじめは、最低ですよね」


 なかなか辛辣な事を言うね。それに弱い者いじめは最低か……。胸に刺さるよ……。だが、ハルカはそこへ、更なる爆弾をぶちこんでくる。


「……後、ナナさん。実を言いますと……」


「何だい? あんたにしちゃ、歯切れが悪いね」


()()()()()()()()()


「へー、武器が変わりました…………って、はぁ?!」


 武器が変わったって………。思わず、聞き返す。


「どういう事だい?!」


「……実は……」


 ハルカから手短に一連の事情の説明を受ける。……全く、なんて子だい。確かにハルカは剣の腕に限界を感じていたのは知っているけど、そこから、武器を変えて、新しい扉を開くとは。思いきった事をすると思っていたら、爆弾二発目。


「更に言うと、その先も見えています」


「……何と言うか。……言葉が無いね」


 全く、この子はどれだけ私を驚かせたら気が済むのか? つくづく、底の見えない子だよ。武器が変わった事で、また、あれこれと手回しをせねばならないし。


「でも、それが良い」


 ハルカは私を退屈させない。私にとって『未知』そのもの。


 まぁ、今はゆっくり休め。まだまだ先は続くんだからね。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





長らくお待たせしました。第146話です。


今回は閑話休題。ナナさんによる、考察回です。


まずは、灰崎 恭也の恐ろしさについて。


作中で何度も語りましたが、灰崎 恭也は直接戦闘の才能は全く無いです。クソザコナメクジです。まともに戦えば、ハルカやナナさんの敵ではありません。あっさり殺られます。


でも、そんな事は灰崎 恭也本人が一番分かっています。だから、灰崎 恭也は戦わない。痛いのも、死ぬのも嫌なので。


防御力だの、回避力だの、灰崎 恭也からすれば、笑える冗談。某作品でも言っていましたが、究極の護身は戦わない事なのです。常に自分は安全な場所にいて、『人形』を駆使して事を成す。それが灰崎 恭也の護身術。


そして一番の恐ろしい点。灰崎 恭也に関する『情報の無さ』


どこにいるのか? どんな姿をしているのか? 何をしているのか? 全く情報が無い。


それどころか、そもそも、灰崎 恭也の『存在』が知られていない。作中でもナナさんが語りましたが、『知らない』『分からない』これこそ、真の恐怖。


知らない、分からない、では対処のしようがない。誰にも気付かれる事も、知られる事も無く、じわじわと蝕み、いつの間にか全てが灰崎 恭也の支配下に落ちている。とても恐ろしい事です。


その一方で、『なろう系主人公』に対しては、ナナさん、灰崎 恭也と比べたら、取るに足らないクズと一蹴。


『強い』。だけど、それだけ。後、異世界を見下し過ぎ。世の中を舐め過ぎ。王候貴族が軽々しく婚約破棄とか、婚約、契約を何だと思っているのか。


後、これは作者からの意見ですが、最近流行りのパーティー追放物。主人公には秘めた才能が有った。しかし、周りはそれに気付かない無能揃いだった。これが気に入らない。


主人公に非は無い。主人公を認めない周りが悪い。こんなもの、ガキの言い訳ですよ。


この世は結果が全て。結果を出せないのが悪い。何より、周りを無能揃いにしないと、主人公のキャラクターを立たせられないのか、と。まぁ、結果を出せない無能な主人公である以上、周りは更に無能揃いにしないと話になりませんか。


ぶっちゃけ、周囲のキャラクターより、主人公が不快です。


さて、次回は王国の第三王子 レオンハルト殿下(デブ殿下)と、ミルフィーユの婚約発表会。ハルカはミルフィーユのお付きのメイドとして同席。しかし、事件が起きぬ訳も無く……。


では、また次回。出来るだけ早めに出す予定です。




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