第13話 ハルカ御一行様、海へ行く 最終日
ジリリリリリ! バシッ!
「う~ん、よく寝ましたわ……」
私は目覚まし時計を止めると、大きく伸びをします。
窓から外を見れば、今日も良い天気。爽やかな朝ですわ。
私、ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグは私の大切な友人、ハルカを誘って海に来ましたが、今日が最終日。正直、特にハルカとの仲の発展が有りませんでしたわ……。ゆえに今日は勝負を賭けますわ! 目指すはハルカとより親密な関係に!欲を言えばそれ以上の関係に……。って何を考えていますの私! はしたないですわ! でも、ハルカなら……、ってダメですわ! 私達は女同士ですのよ!
う~、私、最近どうも変ですわ。そんな趣味は無かったはずなのに。エスプレッソに、百合呼ばわりされていますし。私は断じて百合ではありませんわ! ハルカはあくまで、大切な友人ですわ!
「ハッハッハ! ミルフィーユお嬢様は順調に百合の道を突き進んでおられますな」
「エスプレッソ! いつの間に!」
「いや、ミルフィーユお嬢様の面白い発言が聞こえてきましたので。しかし、厳しい戦いになりますな。何せ、ハルカ嬢にはナナ殿がそばに付いておられますからな」
「お黙りなさい! エスプレッソ!」
まさか、口に出していたなんて……。しかもエスプレッソに聞かれるとは、とんだ失態ですわ……。
「これは失礼いたしました。ところでミルフィーユお嬢様、既に朝食の準備が整っております。お早めにお越し下さいませ」
そう言うとエスプレッソは去って行きましたわ。全く、嫌な性格ですわね。それにしても、私はハルカをどう思っているのかしら? 自分の気持ちが分かりませんわ。私は百合ではありません! 百合では……。
さて、朝食を済ませたら、皆で海へ。何とかハルカと二人きりに……ってどうしてそっちに思考が行きますの私! これでは、ナナ様と同類ですわ!ガチ百合ですわ! あの方、堂々と百合を公言していますし。
このままでは、いつかハルカもナナ様の毒牙に……。
どうしましょう、ハルカの純潔がナナ様に奪われてしまいますわ! 何とかしなくてはいけませんわ! ここはやはり、私がハルカと既成事実を作って……。
「ほ~、面白い事を言ってるじゃないか、小娘。誰がハルカと既成事実を作るって? あんたハルカに何する気だい?」
ナナ様!? 何故、その事を! まさか、私の心を読んで……。
「さっきから丸聞こえだったよ! ハルカには聞かれていないけどね。この際、はっきり言っておくよ。ハルカは私のメイドだ。絶対に手離さないし、誰にも渡さない! ハルカは私とずっと一緒に暮らすんだ!」
「そんな! ハルカにも自分の道を選ぶ権利が有りますわ!」
「ふん! ハルカ自身、私にクビにされない限り、私のそばにいると言ったんだ。文句有るかい?」
そういえば、そうでしたわ。以前、私の家に来た時ハルカがそう言っていましたわね……。
「分かったら、ハルカにちょっかい出すんじゃないよ。いいね!」
そう言って、ナナ様は去って行きましたわ。確かにエスプレッソの言うように、厳しい戦いですわね、ってだから私は百合ではありませんわ!
私はノーマルですわ、断じて百合ではありませんわ。でも、どうしてもハルカの事が頭から離れませんわ……。一体、何故かしら……。
「あの、大丈夫ですか、ミルフィーユさん」
「ハ、ハルカ! いつの間に!」
「あっ、驚かせてすみません。何だか、ミルフィーユさんがふさぎ込んでいたんで気になって。先日も言いましたけど、何か悩んでいるんですか? 僕で良ければ話して下さい」
言えませんわ、貴女の事で悩んでいるなんて。知られたら何と言われるか……。
「大丈夫ですわ、ハルカ。何でもありませんから」
「でも……」
「本当に何でもありませんから! お願いですからしばらく一人にして下さい!」
「……分かりました。それじゃ、僕、向こうに行きますから。でも、辛い時はいつでも話して下さいね」
そう言って、ハルカは向こうに行ってしまいましたわ。ごめんなさい、ハルカ。貴女は何も悪くないのに。全く、私は何をしているのかしら……。
「ミルフィーユさん、スイカ割りしませんか?」
しばらくして、ようやく気持ちが落ち着いてきたところで、ハルカが声を掛けてきましたわ。やはり、どこか気遣う感じが有りますわね。ここは明るく振る舞わないと!
「夏らしくて良いですわね。参加しますわ!」
「良かった。じゃ、一緒に来て下さい。ナナさんが準備していますから」
えっ? ナナ様が準備している? 何だか嫌な予感がしますわね……。
「ナナさん、これ一体何ですか?」
私もハルカと同意見でしたわ。何ですのこれは?
「見てわからないかい? スイカ割りだよ」
確かにスイカが有りますわね。それは良いとしても、その他の物は何ですの!? 何故か、剣が有りますし、周り中、罠が仕掛けて有りますし、しかもスイカが6個も並んでいますわ。こんなスイカ割り、知りませんわ!
「正確にはスイカ割りじゃなくて、スイカ斬り。割ると粉々になって勿体無いじゃないか。だから棒の代わりに剣を用意したよ」
「それは良いですけど、罠と6個のスイカは何ですか?」
ハルカがナナ様に聞いていますわ。
「普通にやってもつまらないからね。スリルを追及したよ。ちなみに6個のスイカの内、本物は1つだけ。後はミミックだよ。下手に手出しすると食い付かれるよって、どこ行くんだい?」
「そんなデスゲーム嫌です! デスゲームはフィクションの世界だけで十分です! 行きましょう、ミルフィーユさん!」
ギュッ
次の瞬間、ハルカは私の手を取ってその場を立ち去りましたわ。ちなみに手を握られた瞬間、ドキドキしたのは秘密ですわ。
「なるほど、そんなバカな真似をしたのか、ナナは」
次に出会ったのは、ナナ様と同じく三大魔女の1人、死者の女王ことクローネ様。ナナ様のデスゲームの事を話したら呆れていましたわ。
「全く、非常識な奴だな。よし、我が豪華なクルージングに連れて行ってやろう!」
「ありがとうございます、クローネさん!」
ハルカは無邪気に喜んでいますけど、またしても嫌な予感がしますわね……。
「あの……、クローネさん。これ何ですか?」
ハルカが顔を引きつらせながら、クローネ様に聞いていますわ。
私もドン引きですわ……。
私達の目の前の海には巨大な豪華客船……だった物。朽ち果てた巨大な船が浮かんでいましたわ……。
「かつて、異界で沈没した豪華客船だ。亡霊船員達によるサービスもばっちりだ。遠慮はいらんぞ、さぁ乗ると良い!」
「幽霊船じゃないですか! こんな怖い船、乗れません! 失礼します!」
考えてみれば、この方、死霊術師ですものね。まともな船を出す訳が無いですわね……。
「ふ~ん、ナナちゃんもクローネちゃんもダメダメだね~」
今度は三大魔女の3人目。幻影の支配者こと、ファム様。いい加減、ハルカも警戒していますわね。
「あの、ファムさん。お願いですから、物騒な遊びをしようとか、妙なものを呼び出そうとかしないで下さいね」
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ~。それよりも、一緒にフルーツを食べようよ! 最近、発売された新種なんだよ~」
「へ~、そうなんですか。美味しそうですね、頂きます」
「新種だけあって見た事の無いフルーツですわね」
「ハルカちゃん、食べる前に氷魔法で冷やしてね。冷やして食べると最高だよ。ちなみに食べると気持ち良くなって、楽しい夢を見られるよ」
「「いりません!」」
私とハルカ、2人同時に謎のフルーツをファム様に返しましたわ!。明らかに危ない果実じゃありませんの!
「え~、美味しいのに~」
「そんなフルーツ食べたらダメです! 失礼します!」
私、伝説の三大魔女がただのダメ人間に思えてきましたわ……。
「すみません、ミルフィーユさん。何とか、ミルフィーユさんに元気を出してもらおうと思ったんですけど……」
「ハルカが謝る必要は有りませんわ。私こそ、ごめんなさい。心配をお掛けして……」
何だかんだと有った末、私達は二人きりになれましたわ。今、私達は2人で海を見ていますの。本当に海は広いですわね。心が洗われますわ。
「本当に綺麗な海ですねぇ。家族のみんなにも見せてあげたかったな」
しんみりとした口調で言うハルカ。その横顔はどこか寂しげでしたわ。
「元気を出して下さい、ハルカ。良く言うでは有りませんの、どんなに離れていても空は繋がっていると」
「……そう、ですね」
余計、暗い表情になるハルカ。もしかして私、地雷を踏みました? あぁぁ! 大失敗ですわ! 何とかしないと!
私が何とかしようと焦っていると、救いの神が現れましたわ。
「ミルフィーユお嬢様、ハルカ嬢、こんな所におられましたか。捜しましたぞ」
執事のエスプレッソですわ。相変わらず、良いタイミングですわね。
現在、夕食。これが済んだら、いよいよ帰宅ですわ。ですが、どういう訳か、好みのタイプについて語る場になってしまいましたわ……。
「誰が何と言おうと美少女! 特にハルカ!」
さすがはナナ様、堂々と百合を宣言していますわね。
「やれやれ、ナナは相変わらずの百合だな。我は女には興味が無い。我の好みは男だ。ただし、軟弱な男に興味は無い。真の男の魅力は、筋肉だ! 鍛え上げられた肉体だ! 強い男こそ美しい!」
クローネ様って、そういう趣味ですのね……。まぁ、ハルカを取られる心配は無さそうですわね。
「アタシは可愛ければ、男でも女でも構わないよ~。最近、流行りの男の娘も良いね~」
ある意味、一番危険な発言をしていますわね、ファム様。恐ろしい方ですわ……。
「で、ハルカ。あんたの好みのタイプは?」
「我も興味が有るな」
「アタシも~」
ハルカに詰め寄る、三大魔女。私も興味が有りますわね、ハルカの好みのタイプ。ですが、ハルカは、
「秘密です!」
の一点張り。
「え~、良いじゃないか、教えてくれたって。ケチ!」
「ナナさん、いい加減にしないと僕、怒りますよ」(ニコリ)
ピシ、パシッ、ピシピシッ!
ちょっ!? ハルカを中心に周りが凍り始めていますわ!
「あっ、ゴメン! ハルカ落ち着きな! 私が悪かったよ!」
「分かってくれれば良いです」
シュウウウ……
辺りの凍った部分が元に戻りましたわ。なんて魔力ですの。魔法を発動させずとも冷気を操れるなんて。
さて、いよいよ帰宅ですわ。行きは我が家に集合して、転送魔法陣で来ましたが、帰りは各自で帰宅ですわ。でもその前に。私はハルカと二人きりで話をしましたの。ナナ様が騒いでいましたが、エスプレッソが足止めしてくれましたわ。
「ハルカ、私、貴女に聞きたい事が有りますの。貴女の好みのタイプはどんな方ですの? やはり、ナナ様?」
「ミルフィーユさんまで、聞きますか……」
呆れた様な、疲れた様な顔をするハルカ。
「ごめんなさい、でも気になりますの、貴女の好みのタイプが」
そう言うと、ハルカは何だか複雑な表情を浮かべて言いましたわ。
「以前にも言いましたよね、僕には色々、事情が有るって。僕は好みのタイプと言われても困るんです。それ以上は言えません。すみません……」
「分かりましたわ。ごめんなさい、余計な事を聞いてしまって」
「いえ、僕の方こそ、すみません……」
「ミルフィーユお嬢様、ハルカ嬢、そろそろ帰りますぞ!」
「ハルカ、早くおいで!」
「呼んでいますし、帰りましょうか」
「はい!」
かくして、私達の海への旅行は終わりましたわ。ハルカとの仲は特に進展しませんでしたが、私の知らなかったハルカの一面を知ることが出来ましたわ。
初日の夜に泣いていた、ハルカ。貴女は他にも色々秘密を抱えていますのね。
何より、私はハルカをどう思っているのかしら?まだまだ答えは出そうも有りませんわね……。
やっと海編、終了。全然、海らしい話になりませんでした……。文才の無さを痛感。
さて、次回はどうなるか?。