第133話『灰色の傀儡師』 始動編
目の前の空中に浮かぶ、特大モニター。そこにはさっきまで、銀髪のメイドと金髪の貴婦人による対決が映し出されていた。いやはや、最後は凄かったね。黒い大蛇と青い巨鳥の激突。どうなる事かと思ったよ。幸い、無事に終わったけどね。さて、ちょっと考えをまとめようかな。とりあえず、飲み物が欲しいなー。
「ミルクティーを。それとクッキーもね」
「かしこまりました。ご主人様」
僕が飲み物とお茶請けを頼むと、そばに控えていたメイドが応え、その場を去る。そして、銀のお盆にティーポット、カップ、ミルクの入った小さな容器、クッキーの入った皿を乗せて戻ってきた。
「失礼いたします」
そう言って一礼すると、優雅な手付きでカップに紅茶を注ぎ、そこへミルクを足し、ミルクティーを作る。うん、さすがは『一国の姫に仕えていた』メイド。メイド喫茶の見てくれだけの偽物とは違う。
「ありがとう、下がって良いよ」
「かしこまりました」
僕が命じると、メイドは素直に部屋から出ていく。それで良い。『人形』はかくあるべき。
「本当に良い拾い物をしたよ。元々は国の秘宝を奪う為。正確には、その下準備の為に必要な情報を集めたり、裏工作をする為の手駒にすべく、王女付きのメイドである彼女を『人形』にしたんだけど、実に使えるね。……合法ロリなのが残念だけど」
実際、彼女はとても役立ってくれた。一見、合法ロリだが、王女付きのメイドだけあって文武両道な上、何より王女を始めとする周りからの信望が厚い。おかげで、王女を含めた国の上層部の女達に警戒される事無く近付ける。そんな彼女を使い、次々と女達を洗脳、支配し、僕の『人形』に変えていった。
特に最後に洗脳した王女は傑作だったね。自分の妹同然と思い、絶対の信頼を寄せていたメイドが、自分を洗脳しようとしてきたんだから。更には、周りの人間全てが、既に全員『人形』になっていたんだからさ。あの、恐怖と絶望に染まり切った顔は、最高だったよ。ま、その後すぐにメイドに洗脳されて『人形』の仲間入り。そして『人形』となった王女を使い、正当な王家の血筋の者だけが解ける封印を解除。秘宝を頂いた。そして現在は『人形』と化した王女が王位に就き、間接的に国自体を僕の物に出来た。他にもこの手で、あちこちの国や組織を頂いている。やはり、組織の力は便利だからね。個人では限界が有る。
「しかしだ。ハルカ・アマノガワ。彼女と比べたら、僕の手に入れた『人形』達なんか、塵芥にも劣る。例えるなら、彼女は青く煌めく、極上のサファイア。対して僕の最高の『人形』はせいぜい、その辺に落ちている石ころか」
思考を切り替え、本命であるハルカ・アマノガワの事へ。ぶっちゃけ、存在の格が違う。真十二柱、序列十一位。魔氷女王の身体を持つんだから。
「しかも、あの成長力。戦いの中で成長するか。これだから、天才って奴は。凡人が越えられない壁をあっさり越えていく。嫌になるね」
スイーツブルグ侯爵夫人との対決を通じて、新たな力である黒い水の扱いを早くも、ものにしつつある。冗談みたいな成長力だ。しかも、彼女には豊かな経験と確かな実力を兼ね備えた優秀な師匠までいる。恵まれ過ぎだろう。某、東の方のプロジェクトのキャラ風に言えば、妬ましい。僕は所詮、『凡人、非才』な上、師匠もいなかった。思い出すね、昔を。
遠い遠い昔。今を遡る事、2000年程になるかな? 僕はとある家庭の長男として生まれた。……望まれない長男としてね。
物心付いた時には、僕は女に囲まれて暮らしていた。よく有るハーレム物の作品に憧れるオタク達からすれば、夢の様な状況だろうね。確かに夢の様な状況だったよ。ただし、『悪夢』の方だったけどね。
僕の家。灰崎家は、いわゆる女系一族。女が実権を握っており、男など、子孫を作る為の道具に過ぎなかった。さて、そんな家に長男として生まれた僕はどんな扱いを受けたでしょうか?
そんなもの、火を見るより明らか。人権など一切無く、僕は母、姉、妹を始めとする一族の女全てから、蔑まれ、虐げられた。父? そんなものはいないよ。母は徹底的な女性至上主義者でね。男とセッ○スなんて吐き気がするという理由で、精子バンクで優秀な精子を買って、人工受精で子を成したから。
予定通りなら、眉目秀麗、才気煥発な優秀な子が産まれるはずだったらしいんだけど……。結果として産まれてきた僕は、ガリガリの不細工モヤシ。頭脳は比較的優秀だけど、運動はまるでダメ。要は『失敗作』。その事を知った母は、そりゃあ、荒れたよ。よく殺されなかったものだよ。まぁ、頭脳だけはなかなかの水準だったし。これでバカだったら、間違いなく殺されていたね。そういう女だよ、あれは。
そして僕には『失敗作』なりに、役に立てってね。罵詈雑言、暴力は当たり前。食事も生ゴミ同然だった。とにかく、必死だった。死にたくなかった。何度も死にそうになっては、かろうじて生にしがみついていた。……いつか、復讐する事を誓いながら。
そんな日々を送る僕だったけど、一応、学校には通わせてくれた。灰崎家は地元でも有数の名家でね。そこの長男が学校に通わないなんて、みっともない真似は出来ないと。その代わり、常にテストにおいて、学年5位以内を取る様に母から直々に厳命された。その際、こう言われたよ。
「灰崎家の人間たるもの、本来なら、学年1位が当然ですが、お前は醜悪で愚劣で卑しい男。1位など到底、無理でしょうから、5位以内で良しとしてあげましょう。分かったら、さっさと立ち去りなさい! お前の顔など、用が無ければ見たくもない! 失敗作が!」
あぁ、そういえば、その際に、母からティーカップを投げ付けられて頭にケガをした挙げ句、後片付けまでやらされたっけ。更にそれを見ていた姉や妹にもせせら笑われたなぁ。母にしろ、姉妹にしろ、見た目は良かったけど、中身は最悪のクソ女だったな。今、思い出しても、腹立たしいよ。
そして時は流れ、僕も高校へと進学した。地元でも名の通った進学校さ。猛勉強した甲斐が有ったよ。僕は見た目も運動もダメだからね。唯一の取り柄である頭脳を生かすしか、僕の生きる道は無い。しかし、うちの母から、実にありがたいお達しが有ってね。義務教育が終了した以上、家から出ろってさ。事実上の絶縁だよ。まぁ、僕としても、こんなムカつく女達と離れられるとあらば、異存はない。それに以前から、家の名を生かして、プログラミングの仕事で資金を貯めていたんだ。かくして、僕は高校進学と共に、実家を離れ、安い賃貸アパートに引っ越した。
さて、入学式も無事に終わり、高校デビュー。だからといって、何かをする気は無い。こちとら、一人暮らしだからね。部活なんかしている暇も無ければ、遊んでいる余裕も無い。プログラミングの仕事をしつつ、予習復習にも力を入れる。とにかく、頭脳と学力だけが僕の武器。絶縁された以上、学費を出す訳ないから、学費免除になる特待生の座に就かないといけない。でも、目立ってはいけない。その辺にも気を遣ったよ。出る杭は打たれる。特に僕みたいな不細工が目立ったら、いじめの標的、間違いなしだから。
更に時は流れて、高校2年の夏休み。高校進学以降、実家には戻っていない。絶縁されたし、そもそも戻る気も無し。プログラミングの仕事を増やしつつ、勉強の日々。しかし、僕だって、健全な男子高校生。当然、異性に興味は有る。……手出しはしないけど。僕みたいな不細工が下手に女に手出ししたら、ろくな事にならない事は歴史が証明している。女に興味は有るが、手出しはまずい。なら、どうするか?
「いらっしゃいませ。お一人様ですか? では、こちらの席へどうぞ」
異性。特に綺麗な女性に興味が有る。かといって、手出しはまずい。風俗に行く訳にもいかない。その問題を解決するべく、僕が選んだ方法。それは最近、急激に店舗を増やしつつある、とあるファミレスに行く事だった。このファミレス、露出の高い制服を着たウェイトレスが自慢だそうで、しかも、店毎に制服が違うという、凝りよう。おかげで、各店舗を巡る強者までいるとか。僕はさすがにそこまではしないけど、よく利用していた。
「ご注文のハンバーグセットをお持ちしました。ごゆっくり」
「あ、どうも」
ここに来たらいつも頼む、ハンバーグセット。この店、美人ウェイトレスだけじゃなく、料理もなかなか。しかも値段もリーズナブル。勢力を伸ばしているのも納得。ハンバーグにナイフを入れて、頬張りつつ、それとなく周りの観察もおこたらない。
例えば、僕の所へハンバーグセットを持ってきたウェイトレス。僕より、2〜3歳上みたいだけど、僕に限らず男に対する視線に嫌悪と侮蔑を感じた。何か過去に有ったんだろうね。本人としては上手く隠しているつもりだろうし、実際、客が気付いた節も無い。観察眼を磨いてきた僕ならではさ。しかし、不愉快ではある。……ああいう、男を見下す女を僕の所有物にし、欲望のままに犯してやったら、さぞかし痛快だろうな。まぁ、無理が有るけど。
世の中、甘くはない。仮に実行に移そうにも、まず、1人でやる事自体に無理が有る。更に資金は? どうやって捕らえる? 捕らえたとして、どこに監禁する? 食事や、排泄は? どうやって支配する? 警察などの追求も有る。ざっと考えただけでも、あまりに越えるべきハードルが多い。
「そういうのは、基本的にフィクションの世界の産物、と」
所詮は叶わぬ夢。僕はハンバーグセットを平らげ、伝票を手にレジへ。レジ担当の人も、また美人。こちらは20代前半ぐらいの、スタイル抜群の女性。本当、叶うなら、僕の物にしたいなぁ。そう考えつつ、代金を支払い、帰路につく。まさか、後々に僕の望みが叶うとは、この時点では夢にも思わなかったよ。
それから数日後。僕はかねてより楽しみにしていた、年に一度の大古本市の会場に来ていた。僕には特に好きな趣味が2つ有る。その1つが読書だ。安く上げる為に古本屋によく足を運ぶ僕としては、このイベントは、お祭りに等しい。掘り出し物を求め、あちこちを見て回る。ちなみにもう1つの趣味はフィギュア作成。人形は良いね。人間と違って、不愉快な事は言わないし、逆らわないし。
「さて、良いのが有ると嬉しいね」
そんな僕の目当ては、医学書。将来は医師を目指している。別に人命救助なんてつもりは無い。全ては金と地位と権力の為。司法や、行政、金融関係も悪くないけど、医学知識を身に付けて損は無いと判断した結果だよ。
会場内をぶらぶら歩き、あちこちの売り場を覗いて、良さげな品を物色。せっかく来たんだから、医学書の他にも面白そうな本があれば手に取り、気に入った物を購入。こういう古本市では、既に絶版になった本なんかも見付かるから、やめられない。
そんな中、1冊の本が目に留まった。投げ売りされている本が並べられている中にそれは有った。手にしてみると、表紙の題名からして海外の本。医学書の類いらしい。かなりの年代物だ。パラパラと流し読みすると、下手くそな挿し絵付きで何やら書いてある。正直、時代遅れの本。だが、それ以上に不思議と僕はこの本に興味を引かれた。幸い、投げ売り本だけあって、値段は二束三文。
「すみません、これください」
見るからにやる気の無さそうな店主に代金を支払い、古ぼけたその本を購入。店主からは、変わり者を見る目で見られたよ。別に良いけど。そして、この古ぼけた本を手に入れた事で、僕の人生は大きく変わっていく事になる。
さて、その夜。夕飯、入浴を済ませ、今日買ってきた本を読む事に。真っ先に選んだのが、あの投げ売りされていた古ぼけた本。机に向かい、表紙を開いて内容を読んでみた。僕は日本語の他に、英、中、独、仏、露の5ヶ国語をこなせる。……20ヶ国後をこなす、母や姉妹には及ばないけど。ともあれ、今は本の内容を確かめよう。
「ドイツ語だね。しかし、つまらない内容。投げ売りも当然か」
…………ざっと読んでみたけれど、つまらない。医学書に面白みなど期待すべきではないと分かっているけど、それを差し引いてもなお、つまらない。ひたすら上から目線の内容。つまらないを通り越して不愉快、これの著者は一体、何を考えて書いたんだか? こんなクソな内容で売れると思ったの? 心底、呆れる。
どうやら、僕の勘は外れたらしい。読むのもバカバカしくなり、本を放り出す。次の古紙回収に出してしまおう。
……そのはずだったんだけどね。机の上には古ぼけた本。そう、古本市で買った、あのつまらない医学書。
「よく、オカルト話で、何度捨てても戻ってくる人形の話を聞いた事が有るけど。まさか、自分が当事者になるとは思わなかったよ」
僕は、とんだ外れだった古ぼけた医学書を、古新聞や古雑誌と一緒に古紙回収に出した。間違いなく出したのに、夕方、古紙回収に出したはずの本が、なぜか自室の机の上に有った。怖くなった僕は、今度は紐で厳重に縛り、川に投げ捨てた。にもかかわらず、アパートに帰ってきたら、またしても机の上に。ならば、燃やしてしまえと、灰になるまで燃やし、これで大丈夫と思ったら、やっぱり机の上に。
明らかにこの本、おかしい。大変な物に憑かれてしまった。今は被害を受けていないが、この先、どうなる事かと頭を抱えていると、突然、机の上で本がひとりでに開いた。まるで、『読め』と言わんばかりに。こうなればやけだ!
「分かったよ! 読めば良いんだろう!」
意を決して、本を手に取ってみた。すると……。
「…………どうなっているんだ、これ?!」
本に書かれている内容が、完全に別物に変わっていた。そこに書かれているのは、奇妙な図形や、不可解な文章。文字自体は以前と変わらず、ドイツ語なので読めるけど。何より驚かされたのは最初のページに書かれた前書き。この本は本物の魔道書であると。
更にページをめくると、著者の事が書かれていた。本物の魔道師だったそうで、この本には魔法の基礎から、著者の使う術の全てが記されているそうだ。要は魔道師になる為の教科書らしい。ただし、誰でも読める訳ではなく、人を選ぶとの事。そして僕が選ばれたと。
「……選ばれた、ね」
僕は内心、複雑。まず、書かれた内容が信用出来るか怪しい。ただの本でない事は間違いないけど、はい、そうですかと信用するのは危険。しかし……。
本には、こう書かれてもいた。この本が魔道書になったのは、手にした者がこの本に記された魔法を使うにふさわしいから。更に魔道書になった時点で、その者の魔力を目覚めさせたと。とどめに、魔道師の類いは他にもいる。魔力に目覚め、魔道に足を踏み入れた以上、最低限の魔力の扱いを身に付けないと、最悪、命が無いと。
「この本に書かれている事がどこまで本当かは、分からない。だけど、こんな異常な本が実在する以上、他にも似たようなのがいてもおかしくないか。……やるしかないか。備え有れば憂い無し」
正直、半信半疑ながら、僕は魔道書に書かれた、初歩の初歩。自分の今の時点での魔力や、性質を探る事に。専用の呪符を書くらしい。ペンと紙さえ有れば出来るとの事。ペンとメモ帳を手に、呪符を書く。それが僕の魔道の世界デビュー、第一歩となった。
「……どうやら、本物みたいだね。これは用心して掛からないと。まぁ、幸か不幸か、僕の魔力は貧弱だから、今すぐ殺される可能性は低そうだけど。それでも油断禁物」
初めて書いた呪符。それは本物だった。そのおかげで僕の魔力の程度や適性も分かった。ただ、何とも情けない事に、僕の魔力は極めて貧弱。その上、派手な攻撃魔法の適性はさっぱり。アニメや、ラノベの主人公みたいな派手な活躍は出来ないという事だ。
だからといって、がっかりはしない。ご都合主義の塊であるフィクションならともかく、現実で派手な騒ぎを起こせば、ただでは済まない。ばれないように、地味に、しかし確実に。それが僕のモットーだ。そして、幸いな事に僕はそういう方面の魔力の適性が有った。それに僕の手に入れた魔道書自体、その手の術をまとめた物だった。僕が選ばれたのは、そういう理由らしい。
「僕は弱者だ。でも、弱者には弱者なりの処世術が有る。何も、僕が強い必要は無い。重要なのは強い事じゃない。負けない事。生き残る事。せっかく掴んだこのチャンス、逃してたまるか。必ず、ものにしてやる」
僕は既に、自分なりの魔力の扱い方のスタイルを決めていた。弱者の僕らしいやり方のね。だが、今はまだ、それを実現するには早い。何事も下準備が大事。考え無しに適当にやって成功するのは、安っぽいアニメや、ラノベぐらい。現実は甘くない。
「まずは魔力の扱いに慣れる為の基礎トレーニングを積もう。その後は、移動、探知、隠蔽の3つを重点的に鍛えよう。僕の計画を実行に移すのは、まだまだ先だな」
僕には戦闘の才能は無い。だから、その辺は切り捨てる。その代わり、生き残る事を重点的に鍛えよう。その為の、移動、探知、隠蔽の3つだ。
まず、移動。目的地に行くにしろ、逆に逃げるにしろ、これが無くては始まらない。
続いて探知。目的の物なり、人なり、探すのに。更には、逆にこちらを探知しようとする何かを探ったり。これも重要だ。
3つ目の隠蔽。僕は弱者だ。力ずくで押し切るなんて出来ない。それにそんな事をしたら、警戒され、後々やりにくくなる。決して気付かれず、証拠を残さない。僕という存在を特定されない。その為にも、隠蔽術は必要だ。
基本となる3つ。これらを完全にマスターしてから、徐々に計画を進めていこう。
幸い、今は夏休み。バイトも有るけど、それでも時間の融通は効く。バイトを済ませアパートに帰ったら、ひたすら魔道書を読み込み、知識を蓄え、基礎トレーニングに励んだ。しかし、凡人でしかない僕。どうにか基礎、そして亜空間の部屋を作る術を身に付けた時点で夏休みは終わってしまった。なかなか思い通りにはいかないものだ。
「まぁ、良いさ。いきなり強くなっては目立つ。バレないように、地味に、しかし、確実に。最終的に目的を果たせれば良いんだ」
確かに歩みは遅い。でも確実に僕は魔道を身に付けつつある。いずれ、行動を起こそう。とりあえず基礎は身に付けた。徐々に発展させていこう。次は隠蔽と探知かな? 情報収集に欠かせないし。移動はそれからかな。
僕は次の段階への構想を練る。情報収集に関わる能力の強化。何事も情報が無くては困る。バレないように情報収集をするのが目的だ。で、欲しい情報だけど、まずは、僕好みの若くて綺麗な女性に関する情報。僕の大きな目的の一つが、好みの女性を自分の物にする事だ。以前なら、無理と諦めていたけど、今なら夢じゃない。小さい夢だけど、後々に向けた第一歩だ。
「魔道書には洗脳術も書かれていた。更には捕獲や、監禁術も。今はまだ使えないけど、いつか必ず身に付ける。必ず」
全ては後々の為に。今まで散々に踏みにじられてきたんだ。その分は利息を付けて叩き返してやる。さりとて、焦ってはいけない。所詮、僕は凡人、非才の身。地道にやろう。
さて、女性を手に入れるとしても誰にするか? これに関しては、一応のメドは立ててある。離れ過ぎず、近過ぎない。そういう相手だ。まぁ、いずれにせよ、まずは情報収集から始めよう。お腹が空いたし、ファミレスに行くか。『獲物』の物色にも使えるし。
たまの日曜日。幸い天気も良く、僕はぶらぶらと歩いて行き付けのファミレスへ。お昼時だけに混んでいる。順番待ちをしながら、それとなく周囲を観察。この店の一番のウリである美人揃いのウェイトレス達が忙しく接客や、片付けをしている。毎度の事ながら、ご苦労様な事だ。そして、彼女達こそが僕の『獲物』候補でもある。
「お待たせしました。番号札○○番のお客様」
おっと、呼ばれたね。計画も大事だけど、今は食事が先。まぁ、『仕込み』はするけどね。
「そうだな、ハンバーグセット、ドリンクバー付きで」
席に案内された僕は席に着くなり、いつもの注文。案内してくれたウェイトレスだけど、見ない顔だったな。だが、この店に採用されただけあって、美人。つくづく分かっているね、ここの経営者は。経営者のやり手ぶりに感心しつつ、ちょっとトイレへ。さ、『仕込み』を始めるか。
トイレに入った僕は他に誰もいない事を確認し、大便器の方へ入りドアを閉める。その上で術を発動。まずは探知術。この店の構造を確かめる。幸い、すぐに把握。裏手に事務所と更衣室が有るらしい。ならば次だ。トイレを出た際に、1㎝四方の小さな呪符を数枚放つ。それは事務所と更衣室へと向かった。じきに無事、目的地に辿り着いた事を確認。
「とりあえず、今はこれで良い」
放った呪符は、盗聴、監視及び、移動術の拠点。まずは、内部の人間関係を知りたい。僕はあくまで時々来る客でしかなく、この店の人間全員を知る訳ではない。ましてや、その内情など全く知らない。逆に言えば、それらの情報を知れば、付け入る隙も見付かるかもしれない。
「良い獲物が見付かると良いな」
美人揃いのウェイトレス達。そんな彼女達を僕の物に出来たら。そう考えるだけでも、実に楽しみだ。その時を思い浮かべつつ、席へと戻る。
さて、それから数日。ファミレスに行った際に仕掛けた呪符を通じて、店の内情を探った結果、色々と分かった。近くに社員寮が有る事。その他、何人かのウェイトレスが、家庭の問題を抱えている事も。
「進路についての親との衝突、姉妹間の確執、婚約者とのゴタゴタ。……華やかな表舞台も裏に回れば真っ黒だね。だが、僕にとっては好都合」
こういう心に揺らぎが有る人間程、洗脳術は深く効く。でも、まだ、彼女達に手は出さない。まだ早い。僕はファミレスの人間の会話から得た情報を元に、最初のターゲットを決めた。
「居場所も既に把握しているし、何かと使いでの有る相手。何より、心に付け入る大きな傷が有る。今の僕でも、まず間違いなく、支配出来る」
いよいよ、僕の『人形』第1号を作る時が迫っている。楽しみだよ。
「ずいぶんと練習も重ねたし。失敗も多かったけどさ。ま、あんなクズ共、いくら犠牲になろうが僕の知った事じゃない」
僕の住むアパートの一室。そこに繋げた亜空間の部屋。だだっ広いそこには、数十人に渡る、若い女達。皆、全裸で、涎や糞尿を垂れ流し、訳の分からない事を言っていたり、うめき声をを上げていたり、ケタケタ笑っていたりと、見事に壊れている。
僕があちこちから拐い、洗脳術を始めとする、各種人体実験に使った素材達だ。別段、罪悪感は無い。いわゆる底辺のバカ女だからね。ちょっと金をちらつかせたら、ホイホイ乗ってきた。どうせ、世の中の害にしかならないバカ女だ。だったら、僕が有効活用してやるさ。おかげで、僕の魔道の腕はかなり上がった。少なくとも、今の僕の目的を果たすには十分だ。
「さて、用済みのゴミは処分と。最後まで、きっちり有効活用してあげるよ」
人体実験に使い、完全に壊れた女達から、その魔力、生命力の全てを吸い取る。くだらないバカ女達だけに、大した事は無いが、それでも多少の足しにはなる。女達はたちどころに全てのエネルギーを吸い取られ、カラカラに干からびたミイラと化した。逆にエネルギーを吸い取った僕は、少ないながらも自分の力が増した事を実感。
「ふむ。初めてのエナジードレインだけど、上手くいったな。ま、完全に精神が壊れていたから、抵抗されなかったのが大きいな。まだまだ、実戦には使えないか。ともあれ、今は最初の目的を果たそう」
用済みになったミイラを始末し、いよいよ僕は野望への第一歩を踏み出す。今はまだ小さな一歩だけど、それで良い。焦って事を仕損じてはたまらないからね。
「さて、次の日曜日を決行日としよう。最後のチェックをしないとね」
亜空間の部屋を出て、自室に戻る。今回の標的の行動パターンは既に把握しているし、何度もシミュレーションは重ねた。まず、失敗は有り得ないが、そこは念には念を押して。
「本当に楽しみだな。手に入れたら、思う存分、楽しませてもらおう。まずは童貞卒業だな」
あぁ、楽しみだ。産まれてこの方、散々に女に見下されてきた僕の逆襲の始まりだ。見ていろ、女共め。いずれ、お前達は僕の所有物、『人形』になるんだ。僕の意のままに動く『人形』にな!
長らくお待たせしました。第133話をお届けします。今回は、番外編。『灰色の傀儡師』灰崎 恭也が主役です。その過去に迫ります。
女系家族に産まれ、不細工な事もあり、母や姉妹から散々に見下され、踏みにじられてきたその生い立ち。それが灰崎 恭也の根底に有る、女に対する、怒りと憎悪と支配欲の元凶。
そんな彼が古本市で1冊の魔道書を手に入れた事から、全ては始まりました。
だが、彼は非常に慎重かつ、用心深かった。大抵のオリ主なら、ド派手な必殺技やら、何やらを身に付ける所を、あえて、地味な能力3つに絞りました。すなわち、移動、探知、隠蔽。
そして、地道に努力を重ね、いよいよ最初の『人形』を作る為に動き出しました。彼が選んだ標的は誰なのか? 更に使いでが有るとの事。
番外編は3部構成の予定です。では、また次回。