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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
131/175

第130話 弟子を使い魔探しに送り出したら、ツチノコを連れて帰ってきた件

 ナナside


 ハルカ達が使い魔探しに出発して、はや数日。灰崎 恭也によるジャミングのせいでハルカと一切の連絡が取れなくなり、現在に至る。ハルカの安否が知れないストレスで、否応なしに酒の量が増える。今もせっせとビールの空き缶を増やしているところだ。


「ちっ、もう空か。冷蔵庫の中にまだ残っていたかね? そろそろ切らす頃だけど……」


 また一つ、ビールの空き缶を増やし、新しい缶ビールを取りにキッチンへ。冷蔵庫を開けて中を見ると、残念ながら缶ビールは無かった。切らしたか。あのクソ邪神、バカスカ飲みやがって。最近、ウチに入り浸っている邪神ツクヨに対し、内心、悪態を突く。


「……仕方ないね。買ってくるか」


 ぶっちゃけ、酒ならワインやウイスキー、その他色々、取り揃えているんだけどね。今はビールな気分なんだよ。


「ハルカが見たら、怒るね。『ナナさん、飲み過ぎです!』って。……あのバカ弟子! さっさと帰ってこいってんだよ! 私は待たされるのが大嫌いだって、知ってるだろ!」


 これまた、この場にいないハルカに対し悪態を突く。だからといって、ハルカが帰ってくる訳じゃないが。


「……本当に、今はどうしているんだろうね? 灰崎 恭也がちょっかいを掛けているのは確か。無事だと良いんだけど」


 などと考えていると、私のスマホから着信音。私の番号を知る者は数少ない。誰からかと見てみると、ハルカから。私は慌てて、通話に出る。しかし、聞こえてきたのはハルカの声じゃなかった。


「……何で、ハルカのスマホであんたが出るんだよ、オカマ小僧! ハルカはどうした?!」


 通話の相手はイサム。私はハルカからだと思っていただけに、かなり不機嫌。だが、今は事情を知るのが先。まずはハルカについて聞く。


『ハルカに関しては無事です。ただ、灰崎 恭也が仕掛けてきて……』


 イサムいわく、ハルカは無事。それを聞いて一安心。しかし、その後が聞き捨てならない。やはり、灰崎 恭也が仕掛けてきたらしい。


「分かった。詳しい話はこっちに戻ってから聞くよ。後、本命の使い魔探しは上手くいったのかい?」


『それに関しては、大丈夫です。もう少し落ち着いたら、また連絡します。その時に帰りますから、よろしくお願いします』


「そうかい。じゃ、待ってるよ。ただし、出来るだけ早めに頼むよ」


『はい』


 こうして、イサムとの通話を終える。結果から見れば、本来の目的は果たせたし、灰崎 恭也も退ける事が出来て、万々歳か。


「ま、今は待つか。とりあえず、ビール買ってこよう」


 待たされるのは嫌いだが、もう少しだけ待つ事にし、新しい缶ビールを買いに私は出掛けた。ついでにあの子の好きなケーキの一つでも、安国のハゲの所で買ってやろうと思いつつ。







 イサムside


 時間を少し遡り、ハルカとミルフィーユがドアの向こうに行ってから、約1時間後。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


「お前、お気楽で良いね。そうやって歌って踊っていれば良いんだからさ」


 ハルカとミルフィーユさんがドアの向こうに行ってしまい、現状、待ちの一手の俺達。何せ、ハルカ達が閉めた途端、ドアが消えてしまい、手出しが出来なくなってしまった。まぁ、灰崎 恭也からすれば、余計な手出しはさせない算段か。


 幸い、竜胆(リンドウ)が椅子とテーブル、パラソルを出してくれたので、そこでひたすら待つ。テーブルの上には2人分の緑茶の入った湯呑みと、醤油せんべい。緑茶をすすり、醤油せんべいをかじり、ハルカ達の無事と一刻も早く、戻ってくる事を願う。しかし、既に1時間程、経過。向こうはどうなっているのか? ちなみにこちらはバコ様がモグラのテルモトをお供に、能天気に歌って踊っている。


「先輩、今は信じて待つしか無いでしょう。少なくとも、全く勝ち目の無い相手では無いはず。でなければ、ゲームが成立しません。勝つか負けるか分からないからこそ、ゲームは楽しいのですから。お茶のおかわりを淹れましょうか? それと、カレーせんべいも出しましょう」


「頼む」


 竜胆(リンドウ)も気を遣ってくれて、信じて待てと。そして、湯呑みが空なのを察し、お茶のおかわりを淹れてくれた。やれやれ、これで何杯目かな? 後、いい加減、醤油せんべいも飽きてきたから、カレーせんべいを出してくれるのはありがたい。竜胆(リンドウ)の淹れてくれたお茶をすすり、新しく出されたカレーせんべいをかじる。うん、スパイシー。


「師匠が最近、よく食べておられましてね」


 同じく、カレーせんべいをかじりつつ、竜胆(リンドウ)が語る。確かに美味いな、このカレーせんべい。二人して、カレーせんべいを食べているその時だった。


「ん? 何だ?!」


 ミルフィーユさんが入ったドアの有った辺りから、金色の光が射し込んできた。よく見れば、空間がひび割れている。そのひび割れから、金色の光が漏れ出している。……中で何が起きているかは知らないが、これはまずい!


竜胆(リンドウ)!」


 返事も待たずに即座にその場から離れる。竜胆(リンドウ)も心得たもので、同じく即座に離脱。直後、空間のひび割れが一気に崩壊。黄金の閃光が噴き出し、俺達のいたテーブルを巻き込み、遥か空の彼方へと消えていった。危ない危ない。もう少しで巻き込まれる所だった。凄まじい威力を感じた黄金の閃光。直撃していたらと思うと、ゾッとする。


 幸い、バコ様とテルモトは方向が違っていたおかげで無事。もっとも、テルモトはすっかり腰を抜かしてしまったが。逆にバコ様は何事も無かったかの様に歌って踊っている。ある意味、とんでもない大物だ。さて、黄金の閃光による土煙が収まりつつある中、聞こえてきたのは一つの足音。その足音、そして気配。誰なのかはすぐに分かった。とはいえ、念の為、俺も竜胆(リンドウ)も武器を構えているが。


「せっかく勝って戻ってきましたのに、随分な歓迎ですわね」


「全く、同感である! 偉大なる我輩の華麗なる勝利を諸手を上げて称賛するのが筋というものである、下郎共!」


「悪いね。用心するに越した事は無いからさ。お帰り。ミルフィーユさん、藤堂さん。無事とは言いがたいけど」


「とりあえず、治療をしましょう。代金は後程、そちらの御実家に請求しますが」


「……がめついですわね。ですが、お願いしますわ。私は疲れましたので、一休みさせて頂きますわ……」


 空間をぶち破り、帰ってきたのはミルフィーユさんと、赤いドードーの藤堂さん。しかし、どちらも酷い有り様だ。ミルフィーユさんは、金髪が焼け焦げ、更には全身に重度の火傷。藤堂さんも、丸焼け状態。両者共、よく生きているな。竜胆(リンドウ)が治療を申し出、それを受けると限界だったのか、ミルフィーユさんはその場で意識を失い倒れてしまう。すぐさま受け止め、竜胆(リンドウ)の出した簡易ベッドに寝かせ、治療開始。ついでに藤堂さんも。








「先輩、ミルフィーユと藤堂さんの治療が終わりました」


「そうか。ありがとう」


 竜胆(リンドウ)から、ミルフィーユさんと藤堂さんの治療が終わったと伝えられた。つくづく、味方だと頼もしい奴だ。その分、敵に回すと厄介極まりないけどな。


「ハルカの事が気になりますか?」


「まぁな」


 ハルカが入っていったドアの有った辺りを見ている俺に、竜胆(リンドウ)が尋ねた。ドアが消えてしまい、中の状況が分からないのが、実に歯痒い。


「帰ってきますよ、彼女なら。何せ、私は彼女の『蛇』の力を一度、見ていますから。あれは恐ろしい力です」


 竜胆(リンドウ)はハルカが帰ってくると言った。その根拠として、ハルカの『蛇』の力を挙げる。そういえば、こいつ、以前ハルカ達と戦った事が有るんだっけ。更に模擬戦も。


「模擬戦の際、最後の反撃として、巨大な水の蛇を出してきましてね。辺り一帯を滅茶苦茶に破壊してくれましたよ。しかも、まだあれは不完全。末恐ろしいですね。……今の内に始末すべきかもしれません。魔道神クロユリ様も、一度はそれを検討されたそうですし。とりあえず、先輩。刀を納めて頂きたいのですが」


「お前がいらん事を言うからだろ?」


 俺は竜胆(リンドウ)の喉元に突き付けていた凶刀 夜桜を鞘に納める。


「言い過ぎた事は謝罪します。ですが、先輩。貴方なら、分かっているはずです。『力』の恐ろしさを。凶刀 夜桜の使い手である貴方なら」


「……まぁな」


 俺は竜胆(リンドウ)の方を見ずに答える。すると、またしても、異変が起きた。今度はドアが現れた。それも青いドア。ハルカの入っていったドアだ。それを見て、再び俺と竜胆(リンドウ)は武器を構える。誰だ? 誰が出てくる? ハルカか? それとも……。俺達が見守る中、ドアが開き、誰かが出てきた。








 開いたドアから出てきたのは『3人』。1人はハルカだったが、問題は残りの2人。思わず、凶刀 夜桜を握る手に力が入る。それは竜胆(リンドウ)も同じらしく、最大限の警戒をしている。すると、ドアから出てきた、そいつは話しかけてきた。


「やぁ、わざわざ出迎えご苦労様。でも、出来ればその物騒な物をしまってもらえると嬉しいね。僕は彼女を送り返しに来たんだからさ」


 相変わらずの人をコケにした態度。殺したいのは、山々だが、簡単に殺せる奴じゃないし、何より、今、向こうにはハルカがいる。気を失っているらしく、もう1人に抱き抱えられている。


「そっちこそ、わざわざハルカを送り返しに来るとはな。随分と親切じゃないか、灰崎 恭也」


 そう、ドアから現れたのは、幼女の姿の灰崎 恭也と、ハルカを抱き抱えた『人形』だった。ハルカが戦ったのとはまた、別人。果たして、ハルカと『人形』の戦いの結果はどうなったんだ? 俺の疑問に灰崎 恭也が答える。


「デスゲームの結果だけどね。彼女、ハルカ・アマノガワの勝利だよ。いや、見事な大逆転勝利だったね。漆黒の水を操り、更には巨大な漆黒の蛇を放って僕の『人形』を消し飛ばしてしまったよ。本当に凄い。もっとも、その後、倒れてしまったけどね。ま、勝った以上、約束は守る。こうして送り返しに来た訳さ」


「そりゃ、どうも、ご親切に」


 警戒は崩さないが、俺はハルカを受け取りに向かう。彼女を抱き抱えている『人形』。見た目からして、20代半ばから、やや後半か。落ち着いた感じの美人から、ハルカを受け取る。気を失ってはいるが、呼吸は安定しているし、特にケガも無い。胸の上には使い魔の白いツチノコ、ダシマキが同じく気を失っていた。


「敢闘賞として、彼女と使い魔は治療してあげたよ。しかし、ツチノコを使い魔にするとはね。というか、ツチノコって、実在したんだ。初めて見たよ」


 驚いた事に、灰崎 恭也がハルカとダシマキを治療したそうだ。もっとも、こいつが親切で治療などする訳がない。利用価値が有るからだ。


「あぁ、それと今回のデスゲームの戦利品を渡すよ。お嬢さん達は勝ったからね。勝者の権利さ」


 そう言うと、灰崎 恭也は2冊の本を空中から取り出し、こちらに差し出した。女を支配し操る力を持つ奴に、女である竜胆(リンドウ)が近付くのはヤバい。ハルカを竜胆(リンドウ)に託し、俺が受け取る。見るからに古びた本で、強い力を感じる。かなりタチの悪い本だ、これ。


「今回はなかなか有意義で、楽しめたよ。お嬢さん達によろしくね。それじゃ、『また』会おう」


 そして灰崎 恭也は『人形』と共に姿を消した。奴が姿を消してもしばらくは辺り一帯を警戒。その上で、脅威は無いと確認してから、ようやっと、一息付く。全く、恐ろしい奴だ。


「先輩、大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。全く、灰崎 恭也と対面するのは何度やっても、寿命が縮む思いだな」


「油断も隙も有りませんからね。どうぞ、お茶です」


「ありがとう。頂く」


 一息付いた所で、竜胆(リンドウ)がペットボトルのお茶を差し出してくれた。礼を言って受け取り、一口飲む。やっと、落ち着いた所で、ナナさんに連絡を取らないといけないと気付く。


「ハルカが何か持っていないかな? 竜胆(リンドウ)、頼む」


 あいにく、俺はナナさんとの連絡手段を持たない。ハルカなら、何か持っているだろうけど、男の俺が調べる訳にもいかないので、竜胆(リンドウ)に頼む。


「分かりました」


 で、竜胆(リンドウ)がハルカの持ち物の中から、スマホを発見。それは使い、ナナさんと連絡を取る事が出来た。もう少し落ち着いたら、帰るとしよう。








 ナナside


 缶ビールと、ハルカの為のケーキを買って帰ってきた私。ハルカが帰ってくる事を考え、ビールは我慢。リビングで、連絡待ちをしていると、再びスマホから着信音。表示はハルカ。私はすぐさま通話をONにする。


「もしもし?!」


『ナナさん、ハルカです』


 通話に出たのは、ハルカ。その声を聞いて安心する。……ほんの数日、いなかっただけなのにね。ともあれ話を進める。手短に、分かりやすく。


「イサムから、話は聞いたよ。とりあえず、よくやった。そして無事で良かった。そちらの準備さえ良ければ、こっちに呼び戻すよ」


 こっちに呼び戻す事を告げるとハルカから注文が来た。


『ナナさん、それなんですけど、こっちで1人と1匹追加になりまして。それも含めてお願い出来ますか?』


 ハルカが言うには、向こうで新しいメンバーが加わったらしい。邪神ツクヨが言っていた助っ人か。まぁ、ハルカがそう言うなら構わない。大した手間じゃないし。


「分かった。それじゃ、後、5分したら呼び戻すよ。良いね?」


『はい。お願いします』


 そう言って、私はハルカとの通話を終える。さ、ハルカ達を迎える準備をするか。


「さっさと地下に行くかね」


 私は転送魔法陣が描かれている、地下の部屋へと向かった。







「時間だね」


 あれから5分。私は転送魔法陣の描かれている地下室。転送ルームにいた。すると、スマホから着信音。相手はハルカ。


『ナナさん、準備出来ました。お願いします』


「分かった」


 手短に答え、通話を切ると、少し間を置いてハルカ達の召喚を始める。魔法陣が淡い光を放ち始め、やがて一際、強く輝く。その光が収まると、魔法陣には4人の人影と、複数の動物。


「ただいま、ナナさん」


「お帰り、ハルカ」


 お互いに、言葉を交わす。ハルカが修行から帰ってきた際の恒例だ。良かった。今回も無事に帰ってきたよ。帰ってくるまでが修行だからね。


「他の連中もよく帰ってきたね。……1人、余計なのがいるけど。まぁ、話は後でゆっくり聞くさ。疲れただろう? まずは風呂に入って疲れを癒してきな」


「ありがとうございます、ナナさん」


「お心遣い、感謝しますわナナ様」


「では、お言葉に甘えて」


「……俺は後で良いです」


 向こうで色々有って疲れているだろうハルカ達に、まずは風呂に入れと勧める。ゆっくり風呂に浸かって、疲れを癒し、さっぱりしてから話を聞くとしよう。さて、その間に、ケーキを用意してやるか。







 さて、現在リビング。ハルカ達は風呂を済ませて、着替え、ソファーに座っている。私はテーブルを挟んでその向かいのソファーに座っている。テーブルの上には、人数分の紅茶の入ったティーカップ。ハルカの前にはケーキも。後、ついでに適当に見繕った茶菓子。


「まずはよく帰ってきたね。無事で何よりだよ。使い魔契約も出来たそうだし、実に結構。しかし、あんた達、私の予想の斜め上を行くね。特にハルカ」


「やっぱりナナさんもそう思いますか」


 私はハルカの頭の上に乗っている、奇妙な生き物に視線を送りつつ、紅茶を一口。


「ある意味、凄いよ。使い魔ってのはね、実力もそうだけど、その珍しさもまた、評価の内だからね。幻の珍蛇と名高いツチノコ。それを使い魔にしたなんて、私が知る限りでは初めてだよ。正直、私としてはリアクションに困るね」


「笑えば良いんじゃないでしょうか?」


「笑えないよ、バカ弟子」


 どこぞの14歳のパイロットみたいなやり取り。でも実際、笑えないよ。全く、このバカ弟子、えらいの捕まえてきたね。


「ハルカ。あんたも知っての通り、ツチノコは大変な希少種。昔、腐った死骸が見付かった際も大騒ぎになってね。その前の白骨さえ、大変な値段が付いたんだ。ましてや、生きたツチノコを連れて帰ってきたなんて。しかも白蛇ときたもんだ。もはや、どれだけの値段が付くか検討も付かないね。怖いよ、欲に駈られた人間は」


 そう言うと、さすがにハルカも顔を青くした。怖がらせる気は無いんだけど、この際、はっきり言ってやらないといけない。


「ついでに言うと、ツチノコは毒蛇だからね。あまりにも希少種過ぎて血清も無いから、気を付けるんだよ」


 ハルカには悪いが、更に追い討ち。でも事実だし。しかも、その希少性の為、血清が無い。


「何より、ツチノコの飼育法なんて、私は知らないよ。あんた、ちゃんと面倒見られるのかい?」


 一番の問題がこれ。幻の珍蛇、ツチノコ。目撃談は有れど、その生態は全く不明。どうやって世話をするのか分からない。その事を指摘すると、ハルカはいよいよ、黙ってしまった。……ちと、やり過ぎたかね。フォローを入れるか。


「ちょっと言い過ぎたね。まぁ、野良のツチノコならともかく、あんたと契約を交わした使い魔だからね。私が手出しはさせないさ。世話に関しても調べてみよう。多分、普通に蛇を飼う要領でいけるんじゃないかと思うよ」


 そう言うと、多少なり安心したらしい。私としても、弟子がせっかく契約を交わした使い魔を他人に取られるのは、不本意だからね。







 さて、その後はミルフィーユの使い魔の不細工な赤鳥と一悶着有ったりしたが、ともあれ腹が減った事も有り、晩飯に。そこでミルフィーユから提案が。スイーツブルグ侯爵家で、今回の件についての礼と情報共有を兼ねて、会食を開いてくれるらしい。まぁ今後の事を考えても、スイーツブルグ侯爵家に早く話を通して損は無い。


「分かった。その話乗ろう。という訳だから、あんた達、さっさと支度しな。ツチノコや不細工鳥を世間の奴らに見られるのは色々とまずいから、空間転移で飛ぶからね」


 今はまだツチノコと新種の鳥を世間に知られる訳にはいかない。何かと面倒だからね。







 支度を済ませたハルカ達を連れて、スイーツブルグ侯爵家へと空間転移で飛ぶ。出た先はスイーツブルグ侯爵家の秘密の裏口。大貴族の屋敷だけに、こういう秘密のルートがいくつも用意されているのさ。私達も事情が事情だけに、真正面から入る訳にはいかなくてね。


「ミルフィーユ、頼むよ」


「分かりましたわ」


 秘密のルートについて知っているミルフィーユが壁に手を当て、何かを呟くと、そこにぽっかりと、大人が通れるサイズの穴が開く。


「開きましたわ。さ、行きましょう。お母様とエスプレッソが待っていますわ。私が先導いたしますわ」


 ミルフィーユの案内の元、秘密のルートを通り、奧へと向かう。ちなみに私達全員が入ると、入り口は閉じてしまった。恐らく、スイーツブルグ侯爵家の血筋に反応する術式が組まれているらしい。他人にホイホイ使われる訳にはいかないし。


 秘密のルートは、等間隔にセットされた明かりでほんのり照らされているものの、基本、薄暗い。ハルカは気味が悪いのか、不安そう。情けないね。私を始め、他の奴らは平然としているのにさ。すると、突然立ち止まるミルフィーユ。


「着きましたわ。開けますので、少々、お待ちになって」


 どうやら到着らしい。一見、行き止まりの壁に手を当て、また呟く。すると、明るい光が差し込む。


「お帰りなさいませ、ミルフィーユお嬢様。そして、ようこそおいでくださいました、皆様方。ささ、こちらへどうぞ。奥方様がお待ちかねです。それとささやかながら、歓待の準備が整っております」


 秘密のルートを抜けた先は、スイーツブルグ侯爵家の一室。普段は使われていない、客間の一つか。出てきた所へ、執事のエスプレッソの出迎え。相変わらず、そつの無い奴。ともあれ今は、飯と酒。エスプレッソに案内され、別の一室へ。あらかじめ人払いしたそうで、他の使用人には出会わなかった。







「奥方様。ミルフィーユお嬢様。及び、ナナ殿御一行をお連れしました」


 豪華なドアの前でエスプレッソが、2回ドアをノックした上で、私達の到着を伝える。するとじきに返事が来た。


「分かりました。お入りなさい」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 そう言ってドアを開け、横に控えるエスプレッソ。続いて私達が部屋へと入る。さすが、王国でも五指に入る大貴族、スイーツブルグ侯爵家。豪華な部屋だね。


「豪華な部屋ですね、ナナさん。……それだけじゃないですけど」


「まぁね。……よく気付いたね。褒めてやるよ」


 部屋の豪華さに感心するハルカ。だが、それだけじゃない事をこっそり伝えてきたので、こっそり褒めてやる。この部屋、豪華なだけじゃなく、物理的、霊的にも防諜がバッチリ施されている。要は密談用の部屋だね。下手にコソコソすると余計、怪しまれる。だから逆に堂々と豪華絢爛な部屋にしたと。


「わざわざお越し頂き、ありがとうございます。とりあえずお掛けになって」


 まずは侯爵夫人の挨拶。そして席に着くように勧められ、各々、席に着く。そこへ、人数分の紅茶の入ったティーカップをエスプレッソが配り、それが済むと侯爵夫人の後ろに控える。さ、話し合いを始めるとするかね。








「まずは、全員の無事の帰還と、使い魔契約が成立した事を祝しましょう。しかも、極めて珍しい種を使い魔に出来た事、誠に喜ばしい事です」


 まずは、そう言って話を切り出す侯爵夫人。確かに、珍しい使い魔を得るのは、そのまま主人の格に繋がるからね。だからこそ、あの手この手で、珍しい使い魔を求める奴は後を絶たないし、そういう奴相手の業者も無くならない。


「しかし、今回の場合、喜んでばかりもいられませんね。新種の鳥に、ツチノコ。特にツチノコは、生きた個体が捕獲されたのは、恐らく史上初。そしてその存在は使い魔という関係上、いつまでも隠し通せるものではないでしょう」


「そりゃ、そうだね。基本的に使い魔は主人と共に有る。そして、使い魔の格が、主人の格の証明でもある以上はね。だが、これだけの希少種となれば、周りが黙っていない。人間の醜さ、汚さは、あんたも知り尽くしているだろう? 侯爵夫人」


 今回の使い魔獲得の問題点について、侯爵夫人と私は語り合う。珍しい使い魔は主人の格に繋がるが、今回の場合、ぶっちゃけ、珍し過ぎるんだよ。


「えぇ、良く存じております。……それなりに権力、財力を使う事になりますわね」


「悪いね。表に関してはそちらに頼むよ。その代わり、裏は私が抑えてやるよ。蛇の道は蛇ってね」


「分かりました。では、その様に」


 さすがは侯爵夫人。話が早い。さて、使い魔についての話が付いた。でも、それで終わりって訳にはいかない。まだ、話をしておく事が有る。今回、初対面の2人の事だ。後、ついでにデカいモグラも。


「ところで、失礼ながら、そちらのお二方は?」


 侯爵夫人は、新顔の2人。イサムと竜胆(リンドウ)に話を振る。そこで、初めて自己紹介をする二人。


「初めまして。お、私は真十二柱、序列十二位。邪神ツクヨの側近。大和(ヤマト) (イサム)と申します」


「同じく、真十二柱、序列四位。武神 鬼凶の後継者。竹御門(タケミカド) 竜胆(リンドウ)。またの名を武帝 竜胆」


 イサムはともかく、竜胆(リンドウ)はやけに偉そうだね。しかし、侯爵夫人は特に怒るでもなく、2人の自己紹介を聞いていた。恐らく、色々と打算を巡らせているんだろう。全ての神魔の頂点に君臨する真十二柱。その極めて近い関係者が2人もいるんだからさ。


「これは御丁寧な挨拶、痛み入ります。私はスイーツブルグ侯爵家当主。ティラミス・フォン・スイーツブルグと申します。偉大なる真十二柱の側近くにおられる方々と巡り会えた事、誠に光栄に存じます」


 とりあえずは、丁寧に挨拶を返す侯爵夫人。さすがに今すぐ、どうこうする訳にもいかないだろうし。


「さて、皆さん、お腹が空かれた事でしょう。此度の使い魔獲得と、全員の無事の帰還を祝して、ささやかながら祝宴の用意が出来ております。エスプレッソ」


「は、ただいま」


 固い話はここまで。侯爵夫人も心得たもので、話題をさっさと切り替える。お待ちかねの飯と酒だよ。侯爵夫人がエスプレッソに指示を出し、更にエスプレッソがどこかに連絡を取ると、じきに料理を乗せたワゴンを押して、複数のメイド達がやってきた。そして、手慣れた様子でテーブルの上に料理と飲み物が並べられていく。さ、楽しい宴会の始まりだ。…………と、思っていたんだけどね。







「おいおい。俺達を除け者なんて、酷いな」


「私もマスターに同感です。それにイサム。帰還したなら、直ちに連絡をしなさい。当然の義務でしょう?」


 いきなり乱入してきた邪神ツクヨと、その従者の無表情娘、コウ。こいつらの事を忘れてた。何よりこいつの性格からして、事前の連絡なんかしないし。しかも、こいつ、来て早々に爆弾を投下してきた。


「ハルカ。君に良い知らせと、悪い知らせが有る。どちらから、聞きたい?」


 自前の皿にローストビーフを山盛りにしながら、邪神ツクヨはそう語る。


 ……全く。ようやっと、使い魔探しの一件が片付いたっていうのに、また新しい厄介事かい? どうやら、のんきに飯を食っている場合じゃなさそうだね。




今回もお待たせしました。第130話です。


ハルカの安否を心配するナナさん。そこへ待望の連絡が。灰崎 恭也の『人形』による襲撃が有ったものの、これを退け、更には使い魔獲得も達成と知り、一安心。


しかし、帰ってきたハルカの連れてきた使い魔。白いツチノコを見て、あまりにも珍し過ぎるが故の問題点を指摘。ともあれ、スイーツブルグ侯爵家へ。


侯爵夫人に話を通し、表はスイーツブルグ侯爵家が。裏はナナさんが抑える事で、使い魔絡みのトラブル阻止の件は一段落。


ところがそこへ、突然の邪神ツクヨの来訪。彼女か言うには、良い知らせと悪い知らせの2つが有ると。その内容はいかに?


では、また次回。

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