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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第127話 ハルカの使い魔 大根と赤カブの正体

 やれやれ。とんだ事態に巻き込まれてしまいました。事が済んだら、今回の件に関する苦情と、賠償を請求するつもりです。請求先はあの魔女にしましょう。


 師匠に言われて修行に来たとある世界。師匠がおっしゃるには、『大自然の力に満ちた場所じゃ。変わった生き物がたくさんいて、面白いぞ』との事。


 実際、風変わりな生き物がたくさんいて、退屈はしませんでしたが、ある時、いきなり師匠と音信不通に。更には、脱出も不可能に。何者かによる結界です。しかも惑星一つ、丸ごと包み込む程の巨大かつ、強力な結界。並大抵の者に出来る芸当ではありません。


 この事態には少なからず焦りましたが、情報収集の為、探知をした結果、なんと、私の知る人物が3人来ていました。しかし、それ以外にも、3つの気配。どうやら交戦中の模様。さすがに無視するのも何なので、助太刀に入りましたが、そこでまたびっくり。彼女達が戦っていた相手は灰崎 恭也の『人形』です。まさか、あいつが動いていたとは。どうにか撤退しましたが、ハルカとミルフィーユが少なからず負傷。万全に戦える状態ではありません。


 そして今。ともあれ、この状況をどう切り抜けるかですね。……相手が相手ですし。全く、こんな所に現れるとはね。『灰色の傀儡師』灰崎 恭也。








 突然、私達の前に姿を現した灰崎 恭也。真っ先に叫んだのは、先輩こと、大和(ヤマト) (イサム)。激しい怒りの表情と共に、刀を構え、灰崎恭也を睨み付ける。


「ダメだよ、イサム! 落ち着いて!」


「そうですわ! 冷静さを欠いては、相手の思うつぼですわ!」


 そんな先輩に対し、冷静になれと言うハルカとミルフィーユ。……ふん、未熟な。先輩が『わざと』大声で叫び、怒りをあらわにしているのが分からないとは。


 未熟な2人が騒ぐ前に、自分が怒りをあらわにするのを見せ付ける事で、逆に2人の頭を冷やした。見た目こそ若いですが、先輩は歴戦の猛者。怨敵を目の当たりにしたぐらいで冷静さを失う様なバカではありません。


「貴女達こそ、落ち着きなさい。そしてこの状況をどう切り抜けるか考えなさい。選択を誤れば、人生終了です」


 私の言葉を受け、この状況の危険さに気付き、即座に武器を抜き構える2人。遅いんですよ! あれがその気なら、とっくに殺されるか、連れ去られて、『処理』を施され、『人形』の仲間入りを果たしています。で、当の灰崎 恭也ですが、別に手出しをするでもなく、空中に浮かぶ、馬代わりの『人形』にまたがり、こちらを見下ろしています。


「やぁ、こうして直接言葉を交わすのは初めてだね、お嬢さん達。とりあえず、はじめまして。僕の名前は灰崎 恭也。周りからは『灰色の傀儡師』なんて呼ばれているよ。僕としては、もっとカッコいい呼び名が良いんだけどね(笑)」


 余裕綽々といった態度で自己紹介をする灰崎 恭也。見た目は3〜4歳ぐらいの幼女の口から紡がれる、明らかに不釣り合いな喋り方。今、その肉体を動かしているのが、その肉体本来の意思ではない事は明白。相変わらず、卑劣なやり方です。しかし、同時に上手い。自らの安全を確保しながら、対象に接触出来る。とりあえずは、未熟な2人に注意をしておきますか。


「気を付けて。あの幼女は灰崎 恭也の本体ではありません。あれも『人形』。『人形』を通じて話しているだけです。ですが、『支配』の力は持っています。油断したら、『人形』の仲間入りですよ。しかも、殺しても、奴には何の痛痒も有りません。所詮、『人形』ですから」


「あんな小さな女の子まで『人形』にするなんて! 許せない!」


「なんという卑劣な! いえ、卑劣と言うのすら、生ぬるいですわ!」


 灰崎 恭也のやり口に怒る2人。やっぱり、未熟。奴は、自分の目的を果たす上で、より有効な手を使っているに過ぎません。人は見た目に惑わされる生き物。幼女相手に警戒するなど、通常あり得ない。その心理を灰崎 恭也は突いた。数多くの幼女に『処理』を施し、『人形』に仕立て、そして、世に放つ。幼女故に、警戒される事なく、ターゲットの女に接触し、『処理』を施す。そして、新たな『人形』と化した女は更に『仲間』を増やしていく。一切の迷いもためらいも無く。なぜなら、『人形』に心など無いですから。








竜胆(リンドウ)。いつでも2人を連れて逃げられる準備をしておけ」


「了解」


 空中に浮かぶ灰崎 恭也から視線を外す事なく、小声で先輩が指示を飛ばしてきました。いかに本体ではないとはいえ、油断ならない相手。ましてや、足手まとい2人がいます。ここは撤退するのが利口。真十二柱が殺せない相手なのですから。しかし、それを灰崎 恭也は聞き付けていました。地獄耳です。考えてみれば、灰崎 恭也の得意とする一つが、情報収集でした。


「人の顔を見て逃げようとするなんて、失礼だなぁ。傷付くじゃないか。というか、逃げようとしたら、即、この星ごと爆破するからね。他人の話はきちんと聞きなさい。そう教わらなかったのかな? かな?」


 燗に障る、嫌らしい言い方で煽ってくる。どこまでも、不愉快な性格です。しかし、この発言により、『逃げる』という選択肢は絶たれました。奴はやると言ったら、本当にやります。ここはおとなしく、話を聞く以外は無さそうです。


「ちっ、分かった。話を聞こう」


 先輩も灰崎 恭也の性格は熟知しています。渋々ながら、話を聞く事を了承。果たして、何を言い出すのか? まぁ、ろくな事でないのだけは確かです。







「うんうん。話の分かる子だね。褒めてあげよう。やっぱり他人の話をしっかり聞くのは大事だからね。話を聞かずに突っ走って失敗するバカは死ね」


 大げさに頷きながら、語る灰崎 恭也。相変わらずの嫌味な態度ながら、言っている事は正論。


「やっぱり、考え方がナナさんに似てる」


「不愉快ですが、奴の言い分は私も否定出来ませんわ」


 ハルカとミルフィーユの2人も、灰崎 恭也の発言に思う所が有る様です。そんな彼女達の声が聞こえていたらしく、ニヤリと笑う灰崎 恭也。


「おやおや、嫌われたみたいだね。やっぱり、年頃のお嬢さん達は難しい」


 嫌味な口調でまた煽ってくる。ハルカとミルフィーユもいい加減、かなり頭に来ている模様。


「で、結局、何をしに来たんですか?!」


「用が無いなら、早急にお引き取り願いたいですわね!」


 灰崎 恭也に対し、ハルカは何をしに来たのかと問い、ミルフィーユは用が無いなら、さっさと帰れと言う始末。すると、奴は『人形』を介してとはいえ、姿を現した理由を語りました。実に嫌味ったらしく。


「若いのにそんなにカリカリしてはダメだよ。もっと器の大きい人にならなきゃ。しかし、質問には答えてあげよう。理由は2つ。1つ目の理由は、ハルカ・アマノガワ。ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグ。君達の事は『人形』越しに見ていたけど、より、はっきり見たくなったんだ。だから、今回はわざわざ『人形』と『接続』してまで来たんだ。これは滅多に無い事だよ」


「……一応、褒め言葉と受け取っておきますね」


「あまり嬉しくありませんが」


 滅多に人前に姿を現さない灰崎 恭也。それが『人形』越しとはいえ、接触してきた理由。その1つ。それはやはり、ハルカ達をより詳しく観察するためでした。

 

「そして、もう1つの理由。それはゲームのルール変更のお知らせ。こういう事はきちんと伝えないといけないからね」


 続いて2つ目の理由を語る灰崎 恭也。それはゲームのルール変更だと。その言葉に私達に緊張が走ります。一体、何を言い出すのか? そんな中、新しいルールについての説明開始。


「最初はね、期間無制限のつもりだったんだ。でもね、さすがにちょっと甘いかなと思ってね。ルールを変更したよ。新ルールはね。3日後に僕の『人形』とお嬢さん達2人による試合を行う。お嬢さん達が勝ったなら、この星から出られる。ただし、負けたら、星ごと爆破するよ。試合の決着が付かず、3日目をオーバーした場合も同様。頑張ってね。あ、余計な助っ人はルール違反と見なし、即座に爆破するよ」


 変更された新ルール。それは試合の告知。そして、タイムリミットの設定。残り時間は後、3日にされてしまいました。








「綿密な計画を立てて行動するお前が、大幅に計画を変更するなんて、らしくないな?」


 油断なく刀を構えつつ、先輩は灰崎 恭也に尋ねました。私も同感です。灰崎 恭也は基本的に、綿密な計画を立てて行動します。そう極端な予定変更はしないのですが。すると、それに対する回答が来ました。


「まぁね。僕の望みはお嬢さん達が成長する事。そして期限を切り、追い詰めたほうが、より真剣に努力するだろうし。この際だから、はっきり言うね。こうして、間近でお嬢さん達2人を見たんだけど……。正直、『がっかり』だね」


 何と、灰崎 恭也はハルカ達2人に対し、『がっかり』と評価したのです。さっきは高く評価していると言ったのに。そして、そんな事を言われて黙っている2人でもなく。


「失礼ですね! 何よりさっきと評価が矛盾しているじゃないですか!」


「全くですわ! いい加減な事を言うのも大概になさい!」


 侮辱され、当然怒る。ギャーギャーと灰崎 恭也に対し、文句を並べ立てています。ある意味、大した度胸です。貴女達、忘れていませんか? 今、貴女達が対峙しているのは、真十二柱を持ってしても殺せない、最大最悪の犯罪者なんですよ? ですが、今は灰崎 恭也がなぜ、2人に対する評価を手の平返ししたのかを知らねばなりません。奴はそんないい加減ではありませんから。必ず理由が有ります。


「2人共、落ち着いて! 灰崎 恭也、どういう事か説明しろ!」


 先輩が騒ぎ立てる二人を一喝して黙らせると、灰崎 恭也に理由の説明を求めました。さすがです。


「それが他人にものを聞く態度かな? まぁ、良いや。僕は寛大だからね。いわゆる、支配者の余裕? そんな訳だから、無知な君達に教えてあげよう」


 先輩の質問に対し、答える灰崎 恭也。しかし、徹底的に上から目線の言い方ですが。また、未熟者2人が騒ぎそうになりましたが、先輩が一睨みで黙らせる。


「その理由だけどね。せっかく『根源の型』に至っているのに、さっぱり活かせていないからさ。もったいない。実にもったいない。だから、がっかりしたんだよ」


 魔道の極意、『根源の型』。ハルカとミルフィーユがそれに至っているにもかかわらず、まるで活かせていないと指摘。確かに、以前よりは強くなっていましたが、逆に言えば、単にそれだけ。『根源の型』を存分に活かせたなら、私も苦戦はまぬがれないでしょうね。


「特に、ハルカ・アマノガワ。君には、本当にがっかりだよ。もう、超がっかり。がっかり過ぎて、ブラックホールが出来そうなぐらい、がっかり。僕の期待を返してよ、このがっかりメイド!」


 灰崎 恭也はハルカに対し、特に痛烈に批判。がっかりメイド呼ばわり。さすがにハルカもがっかりメイド呼ばわりは気に入らなかったらしく、食って掛かりました。


「誰が、がっかりメイドですか! さっきから好き放題言ってくれますね!」


 そんな彼女に対し、灰崎 恭也は実に鋭い指摘をしました。


「僕としては、これでも優しく言ってあげたつもりだけどね。じゃあ、分かりやすく言ってあげよう。ぶっちゃけ、今の君は、最近の安っぽいアニメや、ラノベの主人公(笑)と何ら変わりないから。凄い武器、兵器を手に入れて、自分は強いと浮かれている、あのクズ共と」


 その指摘を受けた瞬間、凍り付くハルカの表情。しかし、灰崎 恭也は容赦しません。更なる追い討ちを掛けてきました。


「君は強い。神速の速さ。精密極まりない、動き。絶大な魔力。その上、絶対凍結眼(アブソリュート・フリーズ)魔氷女王化(クイーンモード)と強力な切り札まで有る。いやはや、大したものだよ。しかも美少女。ここまで来たら、出来すぎ。正に主人公だ。凄〜い! カッコいい〜!」


 ハルカに対し、称賛の言葉を並べ立て、褒めちぎる。しかし、そこには強烈な悪意と侮蔑が込められています。いわゆる、褒め殺し。そして、いよいよその悪意の牙を向けてきました。


「でも、それって……」


 一旦区切り、奴は決定的な一言をハルカに叩き付けたのです。


『全て、魔氷女王の力であって、何一つ、ハルカ・アマノガワの力じゃない』







 灰崎 恭也から突き付けられた、その言葉に対し、ハルカは何も言いません。いや、この場合は言えないというのが正解でしょう。灰崎 恭也の指摘は正論であり、事実ですから。こればかりは私にも、先輩にも、ミルフィーユにも、どうにもなりません。


 ハルカは悔しそうに歯噛みするばかり。これが恥知らずのバカなら、自分を正当化した上で、逆ギレをする所。それこそ、灰崎 恭也の言う、安っぽい主人公(笑)の様に。


 しかし、ハルカにはそれが出来ない。真面目な性格であるが故に。彼女自身、自覚が有るのでしょう。自分が強いのではなく、あくまで、魔氷女王の身体が強いのだと。そこへ灰崎 恭也がハルカに語りかける。


「僕はね。ハルカ・アマノガワの力が見たいんだ。なのに、君ときたら、魔氷女王の力を使うばかりで、ちっとも君の力を見せてくれない。それとも、所詮、その程度だったという事かな? 黙っていないで、答えて欲しいね」


 どこまでも他人の心を抉るやり方です。ハルカは悔しさのあまり涙を流す始末。


「……まぁ、良いさ。とにかく、用件は伝えたよ。でも、このまま手ぶらで帰るのもあれだなぁ。ん? 良いおみやげになりそうなのが有るじゃないか!」


 悔し涙を流すハルカをつまらなさそうに一瞥すると、用件は伝えたと言い、帰ろうとする灰崎 恭也。ですが手ぶらでは帰れないと不穏な事を言い出す。その視線の先には、巨大モグラ達。……まずい! 奴の狙いが読めた。高級品のモグラの毛皮です。しかも、珍しいギガントモール。先輩やハルカ達も、奴の狙いがモグラ達と察したらしく、止めようとします。しかし、灰崎 恭也の方が一枚上手でした。


「せっかくの高級毛皮を大量に手に入れるチャンス。邪魔はさせないよ」


 その言葉と共に、わらわら現れる『人形』達。そして結界。モグラ達は慌てて逃げようとしますが、パニックを起こしている上、その巨体が仇となり、上手く逃げられません。灰崎 恭也は捕獲用の魔力弾を出し、いつでも撃てる状態を確保。


「思いがけない、収入ゲット。こういうイレギュラーは大歓迎さ」


 結界と『人形』に阻まれ、モグラ達を助けに入れない私達にわざわざ見せ付ける、嫌らしさ。しかし、その勝利を疑わない余裕の表情が一つのイレギュラーによって打ち砕かれたのです。








「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 聞こえてきたのは意味不明の歌? とにかく意味不明です。知性の欠片も無い、バカ丸出しの歌。確か、この歌は……。すると大声を上げるハルカ。


「バコ様! 何してるの、危ないよ!」


 あぁ、そうでした。バコ様と言う、デブの三毛猫でしたね。で、そのバコ様ですが、何をとち狂ったのか、この状況下で歌って踊り始めたのです。うん、バカですね。バカ以外の何者でもありませんね。


「呆れたバカ猫ですね。デブの時点で終わっていますが」


 デブの時点で、私としては処分もの。その上、バカと来ました。私なら、即、処分します。


「バコ様はバカじゃありません! ちょっと、頭がボケているだけです!」


「フォローになっていませんわよ、ハルカ!」


「あのさ、今、戦闘中だからね?」


 私が三毛猫をバカ呼ばわりしたのが聞こえたらしく、ハルカが、バコ様は頭がボケているだけと訂正。でも、ミルフィーユの言う通り、フォローになっていませんよ。先輩も呆れています。それでも、戦っている辺りはさすがですが。


 そんな中、現状を打ち砕く異変が起きたのです。それに真っ先に気付いたのは、あろうことか、灰崎 恭也でした。


 空中に四つん這いで浮かぶ、全裸の妙齢の美女に跨がり、実に愉快と言わんばかりの笑みを浮かべ、私達を見下ろしていたのですが、その表情が僅かながら、初めて歪んだのです。


「?! どういう事かな? 変なノイズが発生している」


 本人としては、ほんの独り言でしょうが、私は読唇術でそれを読み取りました。その内容には私も疑問でしたが、すぐに分かる事に。一体、どうしたのか、『人形』達が突然、同士討ちを始めたり、口から泡を吹いて倒れ、痙攣を起こしたり、とにかく、異常事態です。これには私達も驚くばかり。更には……。


 ドサッ!


 何か、わりと大きな物が落ちた音。そっちを見れば、全裸の妙齢の美女が口から泡を吹いて、全身を激しく痙攣させて倒れていました。そう、灰崎 恭也が乗り物にしていた女性です。


「クソッ! とんだイレギュラーだ!」


 口汚く罵りながら、姿を現したのは、幼女。正確にはその肉体を通じてこちらに干渉している灰崎 恭也。乗り物にしていた女性が突然、墜落したせいで、多少なり、痛い思いをしたらしく、実に不機嫌。


「この役立たずが!!」


 いまだに泡を吹いて激しく痙攣している女性を思い切り蹴飛ばす。魔力による強化でしょう。幼女であるにもかかわらず、蹴り一発で、大の大人を軽々と空高く吹き飛ばす。そして、まっ逆さまに落ちてきた女性が地面に激突した際に、ゴキッと鈍い音。その首は明らかに曲がってはいけない方向に曲がっていました。……完全に頸椎が折れましたね。首が異常な方向に曲がった女性は、もう二度と動きませんでした。ちなみにその間も、『人形』達の異常事態は継続中。何より異常なのは、『人形』達があっさり『死んでいる』事。凄まじい生命力と再生力を持ち、そう簡単には死なないのですが。


 さて、この異常事態に真っ先に気付いたのが灰崎 恭也なら、いち早く対応したのもまた、灰崎 恭也でした。奴は即座に撤退を選びました。退くべき時はすかさず、ためらわず退く。この撤退の上手さが奴の厄介な所です。まだ混乱が続く中、姿を消しました。ですが、姿を消す直前に、ハルカ達にアドバイスを残していったのです。


「お嬢さん達、僕からアドバイスをあげよう。『鍵』を探せ。君達が次の段階に至る助けとなる存在だよ。1人で何でも出来ると思わない事。僕が『人形』を操るのも、僕一人じゃ無理が有るからさ。それじゃ、お嬢さん達、頑張ってね〜♪」


 嫌味ったらしくそう言って、消えていきました。程なくして、『人形』達は全滅。大部分が同士討ちと、突然の自壊で倒れ、残りは先輩が始末をつけてくれました。さすがは死者さえ殺す『凶刀 夜桜』。凄まじい再生力を持つ『人形』もこの刀の前には無力。とりあえず、この場は切り抜ける事が出来ました。ですが、今後の事を考えねばなりません。








「みんな無事? ケガとかは無い?」


『人形』の最後の一体を始末し、刀身に付いた血脂を拭き取りつつ、先輩が私達の無事を確認。……また一段と腕を上げられた様です。息一つ乱れていません。あれだけの騒ぎの中、戦ったにもかかわらず。それに『凶刀 夜桜』は手にするだけで、使い手に膨大な負担を強いる、恐ろしい刀。そんな刀を使いこなす先輩が一番恐ろしいと言えるでしょうね。期を見て、また手合わせ願いましょう。その時は私の魔槍『穿血(ウガチ)』で。凶刀 対 魔槍。楽しみです。でも、今はそれどころじゃありません。残念。


「僕は大丈夫。危ない所だったけどね」


「私も、大丈夫ですわ。しかし、ハルカの言う様に、危なかったですわね」


 先輩からの無事の確認にハルカ達は大丈夫だと答えます。……先輩、私には聞かないんですね? 少々、ムカついたので、先輩を睨みます。すると、向こうも私の言いたい事を察した模様。


竜胆(リンドウ)はわざわざ聞くまでも無いだろう? たかが足止めぐらいで、どうにかなる様なら、武神の後継者は務まらない」


 私にも、フォローの言葉を掛けてくださいました。まぁ、こう言われたからには、私も引きましょう。さ、今後の事を考えなくては。期限を3日と切られた以上、時間が有りません。


「ひとまず、この場を離れましょう。その上で拠点を構え、まずはハルカとミルフィーユの治療を済ませましょう。それから、私と先輩で2人を3日後の試合まで、徹底的に鍛え上げる事を提案します」


 とにもかくにも、ハルカとミルフィーユの2人を万全に戦える状態にしなくては、話になりません。3日後のデスゲームに参加出来なければ、その時点でおしまいですから。ちなみに、モグラ達ですが、私に付いていく事に決めた子供のモグラを残して、帰っていきました。一族の長である一番大きなモグラが私に何度も頭を下げていたのが印象に残りましたね。


「確かに竜胆(リンドウ)の言う通りだけど……。治療の当てが無いぞ。俺は剣士だから、治療は専門外だし」


「おまけに、エリクサーを飲んでも傷が治りませんし」


「ずいぶんと悪質な呪詛が込められている様ですわ」


 意見を出した私に対し、現状、一番の問題について指摘する三人。そうです。ハルカとミルフィーユの受けた傷が治らないのです。正確には傷の治癒が異常に遅い。治癒阻害の呪詛が込められていたらしく、エリクサーを飲んでも効果薄。更に困った事に、ハルカとミルフィーユでは解呪出来ず、先輩は剣士。私も解呪は専門外です。……ここは荒療治もやむ無しですか。私は先輩に提案しました。


「先輩、貴方の剣の腕と『凶刀 夜桜』の力を見込んでお願いが有ります」


「何だ?」


 先輩も薄々、私の考えに気付いているのか、その眼差しは鋭い。ですが時間が無い以上、私も退く訳にはいきません。


「二人の傷の治癒を阻害している呪詛を、先輩に『斬り殺して』頂きたいのです。貴方の腕と貴方の刀が有れば可能です」


「確かに、やろうと思えば出来なくはないだろうな。しかし……」


 私からの提案。それは先輩にハルカ達を蝕む呪詛を『斬り殺して』頂く事。先輩の腕と『凶刀 夜桜』なら、『概念』すら斬り殺せます。しかし、先輩は簡単には了承しません。リスクが有りますから。そうとは知らないハルカが、その事について聞いてきました。


「解呪する方法が有るの?」


「待ちなさい、ハルカ。そんなに簡単に解呪出来るなら、とっくにしているはず。何か、リスクが有りますわね?」


 しかし、そこへ待ったを掛けるミルフィーユ。こういう所に両者の経験の差が見えます。そして2人に先輩からの説明。


「ミルフィーユさん、正解。正確には解呪じゃなく、呪詛自体を斬り殺して効果を消し去るんだけど、呪詛を斬り殺す為の『負』の力のせいで全身に激痛が走るんだ。人によっては、ショック死する程の。正に、荒療治。禁じ手だよ。それでも、受ける?」


 先輩から語られた、呪詛を斬り殺す際のリスクに、2人とも絶句。しかし、他に良い手が無いのも事実。何より時間が有りません。2人は覚悟を決めた様です。


「痛いのは嫌だけど……。仕方ないね。イサム、お願い」


「私もお願いしますわ。このままではどのみち、おしまいです。ならば、少しでも可能性の有る方に賭けます」


 全身に激痛を受ける。それも人によってはショック死する程と聞いてなお、荒療治を受ける事を所望。そんな2人を前に、先輩はしばし目を閉じ、そして一言。


「分かった」


 どうやら先輩もまた、覚悟を決められた模様。2人に指示を出します。


「それじゃ、2人共、そこに座って。目は閉じていて。見ていて気分は良くないだろうし。それと念の為、猿轡をするからね」


 言われて2人はその場に座ります。私は手頃なタオルを2枚取り出し、捻って縄状にした上で、2人に猿轡を噛ませます。舌を噛まない様に、保険です。用意が済むと2人は目を閉じました。それを確認し、先輩が刀を抜き、構えます。


「……2人共、準備は良い? だったら、頷いて」


 先輩はハルカとミルフィーユに最後の確認を取ります。2人は猿轡で喋れないので、頷いて返します。


「分かった。それじゃ」


 意志確認を済ませ、いざ、呪詛を斬ろうとしたその時でした。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 頭のボケた、デブの三毛猫。バコ様が歌って踊りながら、ハルカ達と先輩の間に割り込んできたのです。そのせいで、斬るタイミングを逃してしまった先輩。さすがに怒ります。


「バコ様、今から大事な事をするんだ。邪魔しないで。ほら、あっち行って」


 しかし、バコ様は聞く耳持たぬとばかりに、ハルカ達の周りで歌って踊ります。仕方ないので、私が捕まえて移動させようとしたのですが、そこで、不思議な事が。ハルカ達を蝕む、呪詛がどんどん弱まっているのです。そして遂には、完全に消えました。先輩もこの事態に気付いたらしく、驚いています。


「どうなっているんだ? 呪詛が消えた」


「私にも、分かりません。とりあえず、2人にも話を聞きましょう」


 突然の呪詛の消滅。原因は不明ですが、今は2人の猿轡を外し、話を聞くべきと判断。しかし、一体どういう事なのでしょう? そう簡単には解呪出来ない呪詛だったのですが。


「バッコッコのコ♪ バッコッコのコ♪」


 先輩と共にハルカ達の猿轡を外す中、バコ様は能天気に歌って踊っていました。もしかして、この三毛猫の仕業でしょうか? …………まさかね。この三毛猫からは『何の力も感じませんし』。







「一体、どうなっているんだよ、これ? 不思議過ぎるだろ……」


「安っぽい言い方ですが、奇跡としか……」


「僕としては、万全の状態に戻れた事自体は、ありがたいんですけど、やはり、気味が悪いですね」


「あまりにも都合が良過ぎますものね……。何か反動が来そうで怖いですわね」


 リスク覚悟の上で、呪詛を斬り殺すはずが、突然の呪詛消滅。更に猿轡を外したハルカとミルフィーユが言うには、傷が全快という異常事態発生。実際、2人共、傷が全て跡形もなく消えていました。この事に私達4人は顔を突き合わせて、議論を交わしましたが、結局、分からない。この際、分からない事を突き詰めている暇は無いので、今後についての話題に切り替え。


「ともあれ、これで、呪詛と負傷、2つの問題が解決しました。残る問題は」


「奴の言った『鍵』について。更には、ハルカとミルフィーユさんが『根源の型』の力を使える様になる事」


 私と先輩で、残る問題について話を詰めていきます。3日後のデスゲームはハルカとミルフィーユが主役。よって、2人の強化は欠かせません。そして、『鍵』については検討が付いています。


「灰崎 恭也の言っていた『鍵』ですが、まず間違いなく、使い魔の事でしょう。そうは思いませんか? ハルカ、ミルフィーユ」


 私は『鍵』とは使い魔の事であろうと指摘。ハルカ、ミルフィーユにも、問いかけます。


「僕も同感です。ナナさんから教わったんですけど、使い魔は単なる下僕ではなく、主人とお互いに影響を与え合う関係だと」


「事実、使い魔を得た事で、主人の能力が強化されたり、逆に使い魔が高い知性を得て、人語を解する様になったという例が過去にいくつも記録が残っていますわ」


「良く分かっていますね。何より、灰崎 恭也は貴女達が使い魔探しに来た事を把握した上で、今回の件を起こしています」


 奴が単なる気まぐれで来たとは到底、思えません。そういう点から見ても、使い魔が『鍵』でしょうね。となると、どうやって使い魔を見付けるかです。


「ハルカ、ミルフィーユ、貴女達、使い魔に関して何か手掛かりは有りませんか? どんな些細な事でも構いません」


 当事者である二人から、話を聞きます。すると、興味深い話が聞けました。


「白い大根の様な何かと、赤カブの様な何かに出会ったと。それも2回」


 2人が言うには、昨日の昼食の際におかずを盗まれ、更には昨夜の『人形』の襲撃の際にも現れ、助けられたそうです。


「あの大根が『人形』の首筋に噛み付いたおかげで、逃げる隙が出来ましたから。ただ、その後、大根は『人形』に地面の裂け目に投げ捨てられてしまったんです」


「私の方も、拳銃で撃たれそうになった所を、突然飛来した赤カブが『人形』に突撃して吹き飛ばしてくれたおかげで命拾いしましたの」


「ハルカとミルフィーユさんの話を聞く限りでは、味方寄りかな?」


 突然、現れ、2人を救った何か。先輩の言う様に、敵味方で言えば、味方寄りかと。まだ、断言は出来ませんが。いずれにせよ、直接会わない事には、始まりません。


「貴女達の話から察するに、その何かは、貴女達の後を付いてきている様ですね。少々、探ってみましょう」


 私は自分の探知能力を最大限まで発動。すると………いました! 地上に、とても微かな気配が1つ。更に遥か上空にも気配が1つ。両者共に、こちらを伺っている模様。


「いましたよ。こちらを伺う、気配が2つ。恐らくこれでしょう。断言はしませんが。しかし、地上の気配は変わっていますね。距離はそれほどでもないのに、極めて希薄。優れた隠密能力を持っているのでしょう。ちなみにもう1つは、遥か上空にいます」


 ハルカとミルフィーユに、奇妙な気配2つを捉えた事を告げると、こと、ハルカが喜びました。


「あの大根が生きていたんですか?!」


「断言は出来ませんが、可能性は有ります」


 私は大根とやらをはっきり見ていませんからね。さて、それらしい何かを見付けた以上、今度は接触をしないといけません。


「時間が有りません。使い魔召喚の術は使えますか? 使えるなら、それで召喚しましょう」


 使い魔召喚の術は、使い手に最適な使い魔を召喚します。使えば、高確率で、大根と赤カブとやらを召喚出来るでしょう。2人も状況が状況だけに承諾。本当はこの様な無理やり呼び出すやり方はしたくなかったそうですが。しかし……。


「拒否されました」


「私もですわ」


 何と召喚失敗。正確には拒否されました。通常、召喚術は強制的に対象を呼び出します。それを拒否するとなると、相当な大物です。そんな大物を使い魔にしようとしている、ハルカ、ミルフィーユの秘めたる力の大きさに驚かされました。でも困りましたね。これでは大根と赤カブに接触出来ません。召喚術を拒否する程の大物、出来るだけ穏便に済ませたいのですが。そこで、先輩からの提案。


「古典的な手だけどさ。餌で誘き寄せるのはどうかな? ほら、最初に出会った時、だし巻き玉子と、唐揚げを盗まれたじゃない。あれをもう一度、再現してみよう。どんな奴かは知らないけど、生き物なら、美味しい食べ物が好きなはずだから。特に前回で味をしめているなら、なおさら」


「……古典的ですが、一理有ります」


 古典的、テンプレ。良く、二次創作において、コケにされる言葉ですが、逆に言えば、それだけ効果的であるからこそのテンプレ。やってみる価値は有ります。


「そうと決まれば善は急げです。すぐに作りましょう。食材や調味料は十分ですか? 無いなら、提供します」


 こういう時は即断即決です。さっそく準備に掛かります。


「だし巻き玉子なら、大丈夫です。卵と調味料一式は持って来ましたから」


「唐揚げは鶏肉が無いな。後、調味料と油」


「それなら、私が提供します。ただし、鶏肉ではなく、飛竜(ワイバーン)肉ですが。先日、仕留めまして」


「世間一般のハンターが聞いたら、卒倒ものですわね」


 打ち合わせをしながら、手早く調理の準備を進めます。だし巻き玉子はハルカ。唐揚げは先輩が受け持つ事に。唐揚げは邪神ツクヨ作。その味に最も近いのは先輩なので。石を積み上げ、2つのかまどを作り、薪を集め、火を起こす。片方ではハルカがフライパンを手に、だし巻き玉子を作り始め、もう片方では、先輩が飛竜(ワイバーン)肉の下ごしらえの最中。そして、それが済んだ肉を熱した油に投入。ジュワ〜と良い音と、香ばしい香りが立ち込めます。……ご飯が欲しい所です。







 さて、ハルカと先輩が調理中の間に、更に打ち合わせ。使い魔の捕獲についてです。


「私はこの周囲に探知網を敷きます。何かが範囲内に侵入すれば、即、分かります。その代わり、探知に全振りしているのでそれ以外は出来ません、何としても捕獲してください」


「分かりました。ありがとう竜胆(リンドウ)さん」


「恐らくこの機会を逃せば、後は無いでしょう。一発勝負ですわね」


 ハルカとミルフィーユも、一度きりの勝負。失敗は許されないと、気を引き締めています。そうこうしている内に、ハルカのだし巻き玉子が出来ました。出来立てほかほか、湯気の立つ美味しそうな、一品。すると、来ました! 私は事前に取り決めたハンドサインでハルカに、『地上』『接近中』と伝え、ハルカも『了解』とハンドサイン。あえて気付かないふりをします。すると何かが近付いてきます。


 テン、テン、テン


 微かですが、何かが跳ねる様な音。一体、何でしょう? 姿は見えません。しかし、確実に近付いてきます。それも直線的ではなく、ジグザグに移動する辺り、知能の高さを感じます。そして遂に、テーブルの上のだし巻き玉子に飛び掛りました。でも、そこで、ハルカの仕掛けた罠が発動。


水魔封網(アクアウェブ)


 水の魔力で編まれた網による捕獲魔法。殺傷力は皆無ながら、その弾力性と粘着力。そして、発動の速さで何かと重宝される魔法。ハルカはあらかじめ、だし巻き玉子を乗せたテーブルにそれを仕掛けておいたのです。見事に引っ掛かりました。水の網は泥棒を包み込むと、宙に浮かび上がり、逃げられない様に確保。その中には白い大根の様な奇妙な生き物がいて、暴れています。ハルカは申し訳なさそうな顔をしていますが。


「ハルカ、今はまだ手出し無用です。もう片方が残っています」


 捕らえた生き物を網から出そうとしたハルカに、手出し無用と注意。まだ終わっていません。渋々引き下がりましたが、恨めしそうに睨まれましたね。まぁ、良く有る事です。


「唐揚げが出来たぞ」


 先輩の方も唐揚げが出来たとの事。これまた出来立て熱々のカラッと揚がった美味しそうな唐揚げ。香ばしい、食欲をそそられる香りです。そこへ、上空から急速に近付いてくる反応有り。もう片方が来ました!


「もう片方、来ます!」


 それはとてつもない速さで、上空から突撃してきました。狙いはテーブルの上の揚げたて熱々の唐揚げ。それはあらかじめ身構えていたミルフィーユを置き去りに唐揚げを盗んだまでは良かったのです。ですが、唐揚げ泥棒は1つミスを犯しました。前回盗んだのは、弁当に入っていた冷めた唐揚げ。それに対し、今回は揚げたての唐揚げ。つまり……熱い!


「アギャアアアアアアアアッ!!!!!」


 口の中にいきなり、揚げたて熱々の唐揚げを放り込んだのです。しかも、先輩がニンニクを始め香辛料をたっぷり効かせた、辛口。たまったものではありません。悲鳴を上げて墜落しました。そこへ素早くミルフィーユが飛び掛かり、赤く、丸っこい奇妙な生き物を確保。


「水! 水を所望する!」


 その奇妙な生き物は喋った上、水を要求。とりあえず確保しましたし、ハルカがコップに水を入れて差し出しました。


「バカ者! コップで水が飲めるか!」


 しかし、文句を言われる始末。なかなか図太い様です。さて、奇妙な生き物達の正体を暴くとしましょうか。








 やっと捕らえた2体の奇妙な生き物達。今は逃げられない様に、ハルカの作った水の縄で縛っています。しかし、締め付けない辺り、気遣いを感じますね。で、2体の奇妙な生き物達の正体なんですが……。


「この蛇、僕の世界で未確認生物と評判のツチノコに見えるんだけど? しかも白いし」


「うん、間違いない。ツチノコだよ。以前、コウから借りた本に載ってたよ。実物を見るのは俺も初めてだけど」


「ハルカの世界にも、ツチノコの話が有りましたのね。こちらでも、幻の珍蛇と評判ですわ」


「極めて珍しい蛇ですからね。しかも、いわゆる白蛇。更に珍しさに拍車が掛かりますね。世の好事家が騒ぐ事請け合いです。この場に、あの女狐や、はた迷惑なイカれ魔博がいなくて幸いでした」


 まずはハルカの捕らえた方。その正体はツチノコでした。初めて見ましたよ。幻の珍蛇の名は伊達ではなく、師匠ですら、過去に数回、それもほんの一瞬しか見た事が無いとおっしゃっていました。そんな極めて珍しい蛇を捕まえるとはね。女狐や、機怪魔博がいたら、大騒ぎです。


 そしてもう一方。ミルフィーユの捕らえた奇妙な生き物。これもまた初めて見る生き物です。鳥なのは確かなのですが。


「あろう事か、この我輩を卑劣な罠で捕らえたばかりか、あまつさえ、縄で縛るとは、何たる不当な扱い。我輩は断固抗議する所存である!」


 とにかく良く喋る。しかもやたらと上から目線の口調。正直、かなりウザい。その上、不細工な顔で、デブ。


「とりあえず、食事を所望するのである! 唐揚げとやらを大量に持ってくるのである!」


「……捕まっているのに、こんなに態度が大きいなんて、ある意味、大物かも」


「いや、単にバカだと思うよ、ハルカ」


「それ以前に、これが私の使い魔候補である事が信じがたいですわ」


「諦めなさい。常に現実は非情で残酷です」


 良く喋る、ウザい不細工なデブ鳥に、私達はある意味、感心するやら、呆れるやら。そして一番の当事者のミルフィーユはこんなのが自分の使い魔候補である事に、へこんでいます。しかし、この鳥は何でしょう? ずんぐりした体型に、大きな嘴。不細工な顔。初めて見る鳥です。さすがに師匠からも聞いた事が有りません。すると、ハルカが、何かを思い出した様です。


「ちょっと待って。確か、以前、元の世界で読んだ本にこんな鳥がいたっけ。…………………………そうだ! ドードーだ! 色は赤くないし、喋らないけど。この鳥、僕の世界で既に絶滅した鳥のドードーにそっくりなんです」


 ハルカはこのウザい不細工デブ鳥が、自分の元いた世界の絶滅種、ドードーと言う鳥に似ていると指摘。それを聞いた不細工デブ鳥、ここぞとばかりに、盛大にどや顔をかまし、名乗りを上げました。


「モハハハハ! なかなか博識であるな、少女よ! いかにも! 我輩こそは、偉大なる鳥の王。天空の覇者、疾風迅雷の紅き閃光、ドードーの藤堂さんである!」


 とにかく、偉そうにふんぞり返りながら、名乗りを上げますが、縛られている現状、全く締まりません。


「あのさ、僕の話、聞いてた? 僕の世界じゃドードーは絶滅したんだよ」


「モハハハハ! その様な虚言を弄しても無駄である! 偉大なるドードーは不滅である! モハハハハ!」


「ハルカ、バカに何言っても無駄だよ」


「こんなバカが私の使い魔候補だなんて……」


 ハルカの指摘も何のその。ひたすら勝ち誇る赤いドードー。どうやら、とんでもないバカの様です。哀れ、ミルフィーユ。こんなバカが自分の使い魔候補である事に、本格的にへこんでいます。


 やれやれ、幻の珍蛇に、喋る絶滅種の鳥。こんなのが使い魔候補だとは。果たして、3日後のデスゲームはどうなる事でしょうか?





やっと出てきた、使い魔候補。その正体は幻の珍蛇、ツチノコと、既に絶滅したはずの鳥、ドードーでした。ただし、単なるツチノコとドードーではありません。白いツチノコに、高速飛行する、赤い喋るドードー。ただ、ツチノコはともかく、とにかくウザいドードー。頑張れミルフィーユ。


しかし、事態はヤバいのは変わらず。3日後のデスゲーム。勝たねば、死有るのみ。使い魔候補には会えたものの、いまだに『根源の型』の力を使うには至っていないハルカとミルフィーユ。残り時間は僅か。


では、また次回。

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