第11話 ハルカ御一行様、海へ行く 二日目
その子は泣いていた。たった、1人、夜空の下で。帰れない故郷、会えない家族を想って。
あぁ、私はなんて無力なんだ、私の最愛の者が泣いているのに、それを救えないとは……。
「ナナさん、起きて下さい、朝ですよ! ナナさん!」
ユサユサ……。
誰かが私を呼ぶ声がする、誰かが私を揺さぶっている。
その事が私を眠りの淵から引き揚げる。目を醒ますとそこには、もう見慣れたいつもの姿が有った。
朝日を受けて煌めく、腰まで届くサラサラ、ストレートの銀髪。サファイアも顔負けの美しい碧眼。極上の美少女、私の可愛いメイドにして弟子のハルカがそこにいた。
「おはようございます、ナナさん」
「あ~、良く寝た……。おはよう、ハルカ」
私はハルカと朝の挨拶を交わす。いつも通りのハルカだ。とても昨夜、1人で泣いていたとは思えない、大したものだ。だが、その胸の内には深い悲しみが有ると思うと……。
「どうかしたんですか、ナナさん?」
おっといけない、顔に出ていた様だね。ハルカに心配されてしまったよ。
「いや、何でもないよ」
「なら良いんですけど……。それじゃ、早くシャワーを浴びて、着替えたら、食堂に来て下さいね。朝ごはんはもう出来ていますから」
「わかったよ、すぐに済ませて行くからね」
「はい、それじゃ、僕はもう行きますね」
そう言うとハルカは部屋を出ていった。本当に良く働く子だねぇ。招待された客人の立場なのに。まぁ、あの子の料理は絶品だからね。さて、さっさとシャワーを浴びて、着替えるか。私は大きく伸びをすると部屋を出た。窓から外を見れば良い天気。向こうには青い海が見える。今日は海への旅行2日目。
私達はミルフィーユの小娘に誘われて海に来た。正確にはハルカが誘われたんだけど、未成年のハルカだけで行かせる訳にはいかない、保護者として私も同行した。更に、私と同格の魔女であるクローネ、ファムも誘った。ハルカも一緒と聞くと喜んで了承した。
どうせあの小娘の事だからハルカと二人きりを狙っているだろうが、そうはさせない。ハルカは私の可愛いメイドで弟子だ! 誰にも渡さない!
さて、シャワーを浴びて着替えも済ませて食堂へ。テーブルの上には人数分の朝食が並び、既に私以外のメンバーが揃っていた。まだ誰も朝食に手を付けていない所を見ると私を待っていた様だね。これは悪い事をしたね。
「これで全員揃いましたね、ではいただきます!」
『いただきます!』
ハルカが最初にそう言い、他のメンバー達もそれに倣う。
「ハルカ、このだし巻き卵と言う料理は絶品ですわね」
「ご飯に良く合うよね~」
「味噌汁と言うスープも素晴らしいな」
「ハルカ嬢は本当に優秀な方ですな。良い弟子をお持ちですな、ナナ殿。貴女には全くもって過ぎたお嬢さんですが」
「最後が余計だよ、エスプレッソ!」
皆がハルカの料理を褒めちぎる。保護者の私も鼻が高いよ。エスプレッソの余計な一言はムカつくけどね。でも本当に、良く出来た子だよ。家事全般をこなし、魔法も武術も優秀。何より良い子だ、最近のクソガキ共と違ってね。
朝食を済ませたら皆で海へ。名門、スイーツブルグ家のプライベートビーチだけあって、確かに良い所だね。さて、今日こそハルカと遊ぶよ。昨日はエスプレッソの邪魔が入ったからね。それに、ハルカの悲しい顔は見たくない。パーッと派手に遊んで気分転換すべきだよ。せっかく海に来たんだし、ここは泳ぎに誘おう。ハルカはちゃんと泳げるらしいし。でも、ただ泳ぐだけじゃ、物足りないね……。そうだ!
「ハルカ、せっかく海に来たんだし、私と泳がないかい? 昨日はエスプレッソの邪魔が入ったし」
私はハルカを泳ぎに誘ってみる。乗ってくるかねぇ。
「良いですよ。海で泳ぐのは久しぶりですし」
よし、乗ってきた! 私は心の中で快哉の声を上げる。
「そこで提案だけど、賭けをしないかい? あんたが勝ったら、今夜、私を好きにして良いよ。逆に私が勝ったら今夜、あんたを好きにさせて貰うよ」
「お断りします。勝っても負けても僕にマイナスじゃないですか!」
「え~、どこがマイナスなんだい? どっちに転んでも美味しいじゃないか」
「それはナナさんにとってでしょう!」
ちっ、真面目というか、固いというか。せっかく海に来たんだから、もっと羽目を外せば良いのに……。
結局、他の連中も加わっての水泳勝負になってしまった。まったく、ハルカと楽しみたかったのに。まぁ、仕方ないね、何、この先、まだまだチャンスは有るさ。そして私は勝負の内容を告げる。
「それじゃ、勝負の内容は沖合いの島まで行って帰って来る往復とするよ。全員、準備は良いかい?」
すると全員から、準備OKの返事が来た。さぁ、始めるよ! ここはなんとしても勝って、ハルカに良い所を見せなきゃね。
『ナナさん、凄いです! 僕、ナナさんに惚れちゃいました、僕を好きにして下さい!』
って具合になったりして……。フフフフフ……。あれ? 何、ハルカ、その冷たい目? 他の連中も呆れ顔だし。
「ナナさん、全部聞こえてましたよ」
げっ、口に出してたんだ、こりゃマズイね……。
「僕、全力で行きますから、覚悟して下さいね」(ニコリ)
「あのさハルカ、その笑顔、凄く怖いんだけど?」
「えっ? 何の事ですか? 僕、ちっとも怒っていませんよ?」
(ニコリ)
ヤバい、ハルカ怒ってる……。こりゃ、意地でも負けられないね。師匠の面子が掛かってる。だがハルカは更にえげつない事を言った。
「今回、ナナさんより順位が上の人には、僕特製プリンをご馳走しますね」(ニコリ)
悪魔だ、悪魔がいる! 最初の頃はあんなに初初しくて可愛かったのに、最近のハルカはすっかり黒くなって……。私は悲しいよ……。
「自業自得ですな、ナナ殿」
「心を読むんじゃないよ、エスプレッソ!」
相変わらず嫌な奴だね! とはいえ、困ったね。他の連中は私を集中攻撃するはず。私と同格のクローネ、ファムが特にヤバいね。ハルカも侮れない。でも私は勝つよ!
ハルカ、あんたに私の凄さを思い知らせてあげるよ!
「最近、ハルカ嬢からの尊敬度が下がる一方ですからな」
「うるさいよ! エスプレッソ!」
さて、いよいよスタートだ。既に全員、海に入っている。後はエスプレッソの合図を待つばかり。
「それでは……スタート!!」
ドバァァァァン!!
凄まじい水音が上がると共に一斉にスタートした。全員、魔力による身体能力強化で猛スピードで泳いでいる。ちなみに折り返し地点の島は1km先だったりする。往復2kmの水泳勝負。
「ふむ、現在、私、クローネ、ファムがトップ争いをしているね。ハルカと小娘はやや後ろ。メイド3人組は、どうでも良いさ」
とはいえ、目的は優勝だからね。先手必勝、そろそろ仕掛けさせて貰うよ! 私は魔法を発動させる。何、このメンバーなら死にはしないさ。
『水魔大海嘯』
無詠唱で発動させた魔法が生み出した巨大津波が襲い掛かる! さぁ、どうする?
すると、次の瞬間、津波が消えた。見ればニヤリと笑うハルカ。やるねぇ、本気では無いとはいえ、私の魔法を解呪するとはね。
そこへ、突然の魚雷攻撃、更に夢幻獣達も襲ってきた。間違いない、クローネ、ファムの仕業だ。見れば、不気味な艦隊と夢幻獣の大群がいた。
「悪く思うな、ナナ。全てはハルカ特製プリンの為だ」
「ハルカちゃ~ん、ナナちゃんはアタシ達が責任持って足止めするからね~」
「ありがとうございます、クローネさん、ファムさん!」
向こうから、呼び掛けるハルカ。あの子、保護者兼、雇用主兼、師匠の私にここまでする?
「あ、そうだ、これはさっきのお返しです、氷魔凍嵐砲!」
ビュゴォォォォォッ!!
ハルカの現時点で最強の魔法をぶっ放してきた。
「チィッ!」
何とか防ぐも辺りの海が一瞬で凍り付く。高位魔法の氷魔凍嵐砲、すっかりモノにしているとはね。さすがは私の自慢の弟子。
もちろん、その隙にハルカは先へと進む。小娘も後に続いているね。しかし、私に対してこの態度、お仕置きが必要だね!
この後、私対、ハルカ、小娘、クローネの亡霊艦隊、ファムの夢幻獣の大群の大騒動になっちまったよ。ちなみに優勝はメイド3人組。私達が争っているうちに、ゴールされたよ。何てこったい……。
「皆さん、お待たせしました。僕、特製プリンですよ~」
水泳勝負も終わり、3時のおやつ。結局、ハルカは全員に特製プリンを振る舞ってくれたよ。やっぱりハルカは優しいねぇ。何より、ハルカから暗い影が消えたのが良かったよ。思いっ切り暴れてすっきりした様だね。
その夜
「よし、皆寝た様だね」
私は全員、既に寝た事を確認すると、空間転移した。出てきた場所は、ハルカの部屋。うん、良く寝ている、可愛い寝顔だねぇ。
「ハルカ、ハルカ、起きなよ……」
私はハルカに呼び掛け、揺り起こす。
「ん……ナナさん……って、えぇっ!」
あ、やっぱり驚いているね。(ニヤリ)
「ちょっとナナさん、なんて格好を! すぐに帰って下さい! 他の人に見られたらどうするんですか! 大体、何しに来たんですか!?」
何せ、私は全裸だからね。まぁ、この方が好都合だし。
「おやおや、分からないのかい? 久しぶりにあんたと夜の遊びをしようと思ってさ」
「ここは、スイーツブルグ家の別荘ですよ! 他の人達だっているんですよ!」
「大丈夫だって。既に部屋に結界を張ったし、邪魔は入らないよ。それに、あんたにお仕置きをしないとね~」(ニヤリ)
次の瞬間、私はベッドの上のハルカに覆い被さった。
「ちょっと、ナナさん! 止めて……あっ!」
ハルカの着ていたパジャマも下着も全て消える。異空間収納の応用さ。
「あんただけ、服を着てるなんて不公平だからね」
「そういう問題じゃ……ひゃっ!?」
私はハルカのうなじを一舐め、本当にハルカは敏感だねぇ、可愛い声で鳴いてくれるよ。さて、お次は胸を揉んであげよう、フフフ……。夜は長いからね、ゆっくり楽しもうか、ハルカ。
ちなみにハルカは抵抗するものの、大した力は無い。本来ならランクSの実力者なんだから、私を払い除けるぐらいは出来るはずだけど、私の快楽攻めでろくに力が入らない。伊達に経験は積んでないよ。それに、ハルカは本心から嫌がってはいないね。これも経験から。
それから2時間程、私とハルカはゆっくり楽しんだよ。いや、本当にハルカは可愛いねぇ、実に良い声で鳴いてくれたよ。これだから、ハルカとの夜の遊びはやめられないね。
「はい、今回はここまで! あ~、楽しかった!」
「グスッ……酷いですよ、ナナさん……。僕、嫌だって言ってるのに……」
「そりゃ悪かったね。でもその割りには、いつも抵抗が弱いよね」
「………………!」
顔を真っ赤にして黙ってうつむくハルカ。
「ハルカ、1つ言っておくよ。あんたは頑張り過ぎる。何もかも、1人で背負い込む事はないよ。泣きたい時は泣けば良いし、甘えたい時は甘えれば良いさ。あんたは私から見れば、まだまだ子供。私が受け止めてあげるさ。何せ私はあんたの保護者なんだからね」
私はそう言うと、ハルカを抱き締めた。ハルカはびっくりしたものの、やがて、自分から抱き付いてきた。そして静かに泣いていた。私はそんなハルカの頭をそっと撫で続けた。ハルカは頭を撫でられるのが好きなんだよね。それはハルカが落ち着くまでずっと続いた。
「それじゃ、私は部屋に戻るよ。おやすみ、ハルカ」
「はい、ナナさん、おやすみなさい」
かくして私はハルカの部屋を後にした。本当にハルカは良い子だ。私には勿体ない程に。正直、私にハルカを救えるとは思っていない。だが、少しでもハルカの心の重荷を減らせるならば何でもしよう。そう心に誓う私だった。
今回はちょっと、エロい話にしました。ちなみにハルカは処女です。ファーストキスもまだ。ナナさんがその気になれば、容易く奪えますが、それは美学に反するとの事。相手に初めてを貰って下さいと言わせるのがナナさんのこだわり。逆に言えばそれ以外の快楽攻めは色々やりますが。経験豊富ですし。ちなみにナナさんは非処女。過去に何か有った模様。