第118話 魔道神クロユリとの対談。『武神』と『魔宝晶戦姫』と『機怪魔博』。そして……
魔道神クロユリから語られた、真十二柱、きっての危険人物達。序列三位、魔剣聖。序列六位、慈哀坊。タイプは違うが、どちらもシャレにならない、ヤバすぎる奴ら。考え方がぶっ飛んでやがる。そりゃ、序列二位の魔道神も関わりたくないだろうさ。
「魔剣聖による、一連の破滅劇は今でも私達、真十二柱の語り草だ。あいつ1人の為に、世界中が恐怖のどん底に叩き落とされたんだからな。そして、最終的には魔剣聖によって、一切合切、全てが滅ぼされ、完全な『無』と化してしまった訳だ」
魔道神の語った、魔剣聖の起こした大虐殺。そして、宇宙の破滅に至った経緯。本当に恐ろしい限りだ。
「さて、真十二柱の残りのメンバーについてもざっくりとだが、話そう。まずは序列四位。武神 鬼凶」
魔剣聖についての説明が終わり、次は真十二柱の残りのメンバーについての説明に。まずは、序列四位の武神とやら。武において、魔剣聖と並び称される奴らしい。
「剣を極めた魔剣聖に対し、こいつは徒手空拳の武を極めた奴だ。その拳はもはや物理法則を超越し、全てを破壊する。文字通り、一撃必殺だ。あの魔剣聖とも正面切ってやりあえる凄まじい武力を誇る」
「凄いですね!」
「宇宙を滅ぼす剣士と正面切って戦えるとは、恐ろしい強さですわね」
武神は、あの凶悪極まりない魔剣聖と正面切って戦えると聞き、ハルカとミルフィーユが驚嘆の声を上げる。でも、なぜこいつが序列四位なんだ? 魔剣聖と正面切って戦えるんだろう? 私は、気になったので聞いてみた。
「おい、魔道神。なぜ、武神の方が魔剣聖より序列が下なんだい? 正面切って戦えるんだろう?」
「あぁ、それはな」
私の質問に魔道神が答える。
「武の純度の差だ。魔剣聖はただ一人。弟子も何も無く、ただひたすらに剣の腕を磨いている、正に剣鬼だ。それに対し、武神には弟子がいる。代々の武神の伝統でな。12人の弟子を取り、それを育てる」
「ふん。なるほどね」
その説明に私も納得する。ただ一人、ひたすら剣の腕を磨く魔剣聖。それに対し、弟子を育てる武神。確かに武の純度で魔剣聖が上だ。言っちゃ悪いが、弟子を取れば、それだけ自分の時間が減る。要は不純物なのさ。……私はハルカを弟子に取った事を後悔なんかしてないけどね。
「だが、武神には恐ろしい掟が有る」
説明に納得している所へ、魔道神が何やら物騒な事を言い出した。恐ろしい掟?
「何ですか、恐ろしい掟って?」
ハルカも気になったらしく、尋ねる。魔道神は紅茶を一口飲むと説明を始めた。
「代々の武神は、12人の弟子を取り、これを育てる。だが、最終的には1人に絞る。どうやって絞ると思う?」
わざわざ含みの有る言い方をする魔道神。12人の弟子を最終的に1人に絞る。……あからさまに嫌な予感がするね。こういう場合、やる事といえば、相場は決まっている。
「12人の弟子同士で殺し合いをさせる。そして最後まで生き残った奴を後継者にする」
やっぱりね。そんな事だろうと思ったよ。同じ師の元で学び、共に過ごしてきた連中を殺さなきゃならないなんてね。まぁ、必ずしも、仲が良いとは限らない。お互いに毛嫌いしている奴もいるかもしれない。いずれにせよ、悪趣味なやり方だね。効果は認めるけどさ。
「で、当代の武神である鬼凶だが、既に12人の弟子による殺し合いを済ませ、後継者が決まった。若いながらも、実に将来有望な娘だ」
ふーん。後継者は決定済みか。どんな奴かは知らないけど。
「残りもざっくり行かせてもらう。序列七位。魔宝晶戦姫。名前で分かるだろうが、あらゆる宝石を操る魔王だ。その場の状況に合わせ、宝石を生み出せる汎用性の高い奴でな。本人の技量も高い」
なるほど。真十二柱、序列七位は宝石使いか。確かに汎用性が高いね。いわゆる創造系の能力。本人の発想力と機転次第で、その可能性は計り知れない。……もっとも、バカが持ったら、無意味な能力だけど。そこは真十二柱。実力は折り紙付きか。序列七位について思いを馳せていると、魔道神は思わぬ事を言い出した。
「そして、こいつはハルカに対し、浅からぬ関係が有る」
「えっ?! どういう事ですか?」
魔道神の発言に驚くハルカ。会った事も無い相手なのに、関係が有ると言われたんじゃね。しかし、どういう事だい? ……そうか、そういう事か! 私は1つの推測を立てる。
「こいつはな。生前の魔氷女王を姉の様に慕っていてな。彼女が死んだと聞いた時は、そりゃ荒れた荒れた。取り押さえるのに苦労したものだ」
ビンゴ! ハルカのもう1つの前世である、魔氷女王絡みか。よっぽど荒れたんだろう。遠い目をする魔道神。それでも、序列一位が出ない所を見るに、魔剣聖と比べたら格段に弱いのか。いや、あれは比較対象にしたらダメか。で、それだけ魔氷女王に執着している奴となると……。
「そして、今回もかなり荒れた。蒼辰国での一件でな。とりあえず、殴られた。魔宝石で創造した巨大槌でな。……あいつ、完全に殺しに来てたな」
……あぁ、やっぱり。ヤバい奴だよ。百合を拗らせているタイプだ。
「ナナ殿とよく似たお方の様で」
ここぞとばかりに皮肉を言うエスプレッソ。悪かったね!
「ちなみに、あいつ、かなり早い内からハルカの事に気付いていてな。わざわざ自分の秘蔵の魔宝石を出してくる始末。そう、ハルカ。君の小太刀の素材だ」
驚いた事に、魔宝晶戦姫は、そんな早い時点でハルカの事に気付いていたらしい。そして、ハルカの為に自分の秘蔵の魔宝石を出したと。ハルカの小太刀の素材になった双子魔水晶を。私がハルカの17歳の誕生日プレゼントに武器を作ろうとしていた事も、きっちり把握していたのか。恐ろしい奴だよ。ハルカも驚いている。
「そもそも、出来過ぎだろうが。ハルカの為に素材を探しに行ったら、極上品の魔水晶。それも双子水晶が見付かるなんてな。サイズもちょうど良い。そんな偶然、有るか」
言われてみれば確かに。そもそも魔水晶は滅多に見付からない、希少鉱物。ましてや、ハルカの武器に使える程のサイズとなれば、更に希少度が跳ね上がる。事実、私もハルカの誕生日までに間に合うかどうかで焦っていたもんだ。そこへ、突然の発見だったからね。あの時は発見の嬉しさについ、舞い上がってしまったけど、冷静に考えたら、不自然極まりない。魔宝晶戦姫がわざと置いていったのか。
でも、だったら、なぜ自分が出てこない? ハルカの事を把握しているなら、姿を見せれば良さそうなもんだけどね。そんな私の疑問に魔道神が答える。
「なぜ、姿を見せないのかと思うだろう? 単純な事だ。まだその時ではないと判断した。真十二柱たる自分が姿を見せるには、まだ早いとな」
なるほど。真十二柱が下手に動けば、周りも黙ってはいない。あの時点では、まだハルカの前に姿を現すべきでは無いね。となると、また疑問。かつてはダメでも、今なら良さそうだけど? この疑問にも魔道神が答える。
「そして、今回来ていない理由。本人は来たがっていたがな。あいつが来てみろ。絶対に暴走する。だから、無理やり足止めしてきた。やれやれ、また後で殴られる」
「つくづくナナ殿によく似たお方でいらっしゃる様で」
魔宝晶戦姫が来ていない理由をため息交じりに語る魔道神。危ない奴なんだね。後、エスプレッソうるさい!
「最後は序列八位。機怪魔博。私達、真十二柱の中でも、異端の存在だ」
最後は序列八位か。機怪魔博ね。真十二柱の異端者らしいけど? まぁ、説明を聞くとしよう。
「序列八位、機怪魔博。こいつは異能ではなく、科学を追及していてな。その科学力は全宇宙一。ただ、同時に大変な変人でな。度々、訳の分からん発明をしては、騒ぎを起こす。いつぞやも、一晩で変な巨大ロボットを作るわ、どこぞのパワードスーツに関して学ぶ学園に、その巨大ロボットを連れて殴り込みかけて壊滅させるわ、やりたい放題でな」
おい、止めろよ。何だよ、一晩で巨大ロボット作るって。更にどこぞの学園に殴り込みかけて壊滅させたって、危な過ぎる。呆れていると、魔道神は語る。
「しかし、そういったマイナス面を差し引いても、機怪魔博の頭脳は魅力的でな。それにだ。あいつはあいつなりに潰す相手はちゃんと見極めている。無差別攻撃はしない。あいついわく、メカを愛さない奴は死ね、だそうだ。先ほどの学園も、下らない所でな。せっかくのパワードスーツをただの兵器としか見ていない。それが、魔博の怒りを買った。魔博直々に乗り込み、自作の巨大ハンマーで、次々と教師も生徒も叩き潰していき、最後に魔博の巨大ロボットで学園を叩き潰した」
「無茶苦茶しますね……」
機怪魔博の徹底的なやり方に、少なからず恐怖したらしいハルカ。
「だが、これすら、ただの挑発に過ぎん。実はその世界の裏で暗躍している女科学者がいてな。そいつに対する挑戦状だ。案の定、そいつは乗ってきた。何せ、お気に入りの『オモチャ』を学園もろとも潰されたんだからな。もっとも、真十二柱である機怪魔博を敵に回した時点で詰んでいたがな」
そりゃ、そうだ。さて、どうなったんだろうね? まぁ、ろくな最期じゃなさそうだけど。
「実に一方的だったぞ。魔博は相手の居場所をあっさり突き止め、そして、巨大ロボットで宇宙から隕石を落としまくった。その際、こう言ったよ。悔しかったら、宇宙まで来てみろと。言われた女科学者、そりゃもう、顔を真っ赤にしてキレたさ。だが、こいつの作ったパワードスーツじゃ、宇宙どころか、成層圏にも行けん。これじゃ、勝負にならない」
鼻で嗤う魔道神。ま、勝負って奴は、対等の舞台に立ってこそ成り立つ。成層圏にも行けないパワードスーツ(笑)と、宇宙から、隕石を落としまくる巨大ロボット。レベルが違い過ぎる。始まる前から終わってる。その女科学者とやら、何がしたかったんだか? あぁ、よくいるあれか。格下相手に勝ち誇る、天才(笑)か。自分より上がいると考えないから、格上が現れるとあっさり崩れる。
「最後は魔博自ら、自作のパワードスーツを装着してやってきてな。その女科学者の襟首を掴んで、宇宙まで飛んでいった。宇宙旅行を無料プレゼントってな。あいつの定番のやり方だ。最後は相手の一番自信の有る作品の上位互換を作り、相手を完膚なきまでに叩き潰す」
「なるほど。心の折り方というものを良く分かっていらっしゃる。パワードスーツ(笑)を作った者にパワードスーツ(真)で死出の旅路をプレゼント。行き先が宇宙とは、いやはや何とも、斬新ですな」
嫌味たっぷりの機怪魔博のやり方に、同じく嫌味な性格のエスプレッソが感心する。類は友を呼ぶってか。話が合いそうだね。
「まぁ、とりあえず、お前達とまだ面識の無い真十二柱に関する説明は以上だ。後は、資料を読め」
どうやら、真十二柱に関する説明はここで終わるらしい。後は資料を読め、か。しかし、ろくな奴がいないね。抑止力として役に立たないのも納得。こんな連中、どうやってまとめ上げるんだい? 私は御免だね。
「ふぅ。長話をしたせいで、腹が減った。今日の夕飯は何だ? わざわざ来てやったんだ。せいぜい、もてなせよ」
真十二柱に関する説明を終え、一息つく魔道神は、夕飯の催促をする。勝手に来たくせに偉そうに。とはいえ、相手は真十二柱、序列二位。怒らせてはまずい。そこはエスプレッソが上手くやってくれた。
「は。本日の夕食は、粕汁をメインディッシュに、和食を予定しております。なにぶん、此度はハルカ嬢の為の慰安旅行でございますが故に、ハルカ嬢になじみ深いメニューに致しました。魔道神様のお口に合うかどうかは分かりませんが、そこは、真十二柱、序列二位としての広大無辺の慈悲の心で、何とぞご容赦くださいませ」
「……ふん。口の上手い奴だな。まぁ、良いだろう。そこまで言われては、文句も言えん」
ハルカの為の慰安旅行である事を伝え、なおかつ、向こうの譲歩を得やがった。ああ言われては、魔道神も強くは出られない。これでごちゃごちゃ言えば、魔道神の名に傷が付く。いたいけな少女の為の慰安旅行にケチを付けた、狭量な神だとね。
「まぁ、慰安旅行ならば、私からも食材を提供しよう。粕汁がメインディッシュなら、ちょうど良い物が有る。よし、キッチンへ向かうぞ。この際だ、私が腕を振るうとしよう。執事、案内しろ」
魔道神の奴、食材を提供する上、料理を作ると言い出した。止めるのは得策じゃないと、エスプレッソも判断したらしく、キッチンへ案内する。……せっかくのハルカの為の慰安旅行、ぶち壊しにしないで欲しいね。
さて、魔道神の提供する食材及び、作る料理が実に気になり、私達はぞろぞろとキッチンへ。こと、ハルカは興味津々。
「ふむ。では、さっそく始めようか」
キッチンに立つ魔道神。まずはまな板を用意。そして、空中から取り出したのは、デカい鮭、丸々1匹。見るからに美味そうな立派な奴だ。
「良い鮭だろう? こいつは時知らずだ。滅多に食べられない、貴重な奴だ」
その説明にハルカが驚く。
「時知らずって、確か、1万匹に1匹とかいう、凄いレア物の鮭ですよね? 初めて見ました」
「さすがだな。知っていたか。その通りだ。先日、私当てに献上されてな。ま、神の特権だ。ただ、これだけの立派なサイズとなると、食べるのが大変でな。この際、お前達にも振る舞ってやろう。という訳で、今日の夕食は鮭尽くしだ」
そう言うが早いか、即座に鮭を捌き始める。はっきり言おう。速い! ハルカはもちろん、私でも無理だね。で、あっという間に鮭を捌くと料理開始。
「ほら、料理の邪魔だ。さっさと散れ」
魔道神にそう言われ、私達はその場から離れる。ハルカだけは見たがっていたが、引きずっていった。邪魔して怒らせたらまずいんだよ。
で、それからしばらく。料理が出来たとの事で、ダイニングに集まる。そこには圧巻の光景が。テーブルの上には様々な鮭料理がズラリと並んでいた。実に美味そうだ。
「ほら、さっさと席に着け」
言われて、皆、席に着く。
「よし、全員席に着いたな。では、乾杯」
いつの間にやら、魔道神の奴が仕切ってやがるが、ハルカも特に何も言わないし、なら良いか。とりあえず、食う。まずは鮭と言えばこれ。切り身の塩焼きだ。箸で一摘まみ。続けてご飯をかきこむ、……美味い。よく脂が乗っている上、塩加減が絶妙だね。ご飯に合う。
続けて粕汁を頂く。これまた具がたっぷり入っているね。野菜嫌いの私もこれなら食べられる。それ以外にも、刺身、炙り、フライに、グラタン。色々並んでいる。見れば、ボケ猫も、刺身をもらっている。酒も美味いし、言う事無しだね。でもね、それをぶち壊す奴がいたよ。
「あの、魔道神様。質問よろしいでしょうか?」
「ん、何だ? 料理のレシピについて聞きたいのか? だったら、後でレシピを書いて渡してやるが?」
夕食もたけなわの中、突然、魔道神に質問したハルカ。料理のレシピについて聞きたいのかと思ったんだけど。
「いえ、違います。まぁ、料理のレシピについては、それはそれで聞きたいですが、今は別の事についてです」
「……何が聞きたい?」
ハルカの雰囲気から、何かを察したらしい魔道神。真剣な態度だ。
「ここでは言えません。後で、僕とナナさん。そちらは魔道神様とで、場所を改めた上で、お話します」
「分かった」
この場では言えないとハルカ。後で場所を改めた上で、私とハルカ、魔道神で話をする事で、まとめた。魔道神もそれを了承。せっかくの夕食。美味い料理。雰囲気を台無しにはしたくないらしい。しかし、ハルカも思いきった真似をする。空気の読めない子じゃないんだけどね。
さて、その夜。私とハルカの部屋へ来客。魔道神だ。ドアをノックした後、入室。
「失礼するぞ」
ハルカがとりあえず3人分のお茶を用意。テーブルに並べ、対談の準備完了。3人共に席に着く。
「で、私に聞きたい事とは何だ? わざわざ場所を改める程だ。重要な話と見た」
魔道神は、場所を改めてまで聞きたい話とは何だとハルカに問う。その問いにハルカが答える。
「聞きたい事は単純です。なぜ、貴女はそんなにも、ナナさんとそっくりなんですか? それに、ナナさんが全ての属性の魔法を使える事から見て、貴女とナナさんが単なる他人の空似とは思えません。納得のいく説明をお願いします」
このバカ弟子。とんでもない爆弾を投下しやがった。ハルカの発言に私も魔道神も言葉が無い。しばしの沈黙の後、ようやっと口を開いたのは魔道神。
「……ずいぶんと大胆な質問だな。だが、当然の質問でもある。私とナナの顔を見ればな。ましてや、君はナナの弟子。自らの師匠の異常さに疑問を持って当然か」
淡々と語る魔道神。爆弾発言投下されたのに動じないね。さすがは真十二柱、序列二位。大した肝っ玉だよ。
「では答えよう。私がナナに似ているのではない。ナナが私に似ているのだ。大方、予想済みだろうが、私がナナのオリジナル。ナナ・ネームレスは私、魔道神クロユリのクローンの一体だ。彼女が全属性の魔法を使えるのも、その為。しかし、完全なクローンとはいかなかった。劣化コピーだ」
「分かりやすい説明、ありがとよ。泣ける程、分かりやすいよ」
長年、私自身知らなかった、自分の出自。……まぁ、自分が普通の生まれじゃない事は知っていたけどね。一番古い記憶が、無数の培養カプセルが並ぶ、怪しい施設の中にいた事。私自身、壊れたカプセルの中にいた。打ち捨てられて長いらしいその施設を拠点に、必死に生きてきた。
やがて、どれだけの歳月が過ぎたか、私は施設を離れ、外へと旅立った。その後も、幾度となく死にかけながらも、力を蓄え、いつしか私は魔女となった。なぜか、全属性の魔法を使える魔女にね。
通常、魔法は人それぞれに適性が有り、得意、苦手が有る。例えばハルカの場合、『水』に極めて高い適性が有り、『闇』が次いで高い。そして『風』と次ぐ。その反面、『火』は極端に苦手。『光』も相性が悪く、『地』はそこそこ。対し、私は苦手属性が無く、全ての属性を十全に扱える。魔女として破格だ。その理由が長い間、謎だったが、これで納得。異能の神たる、真十二柱、序列二位。魔道神クロユリのクローンだったからか。
魔道神の説明が終わり、ハルカはというと複雑そうな顔。自分の質問のせいで、私の出生の秘密が明らかになったからね。しかも、普通の生まれ方じゃないし。
「あの、ナナさんすみません。余計な事を聞いてしまって」
ハルカは悪い事を聞いてしまったと思ったらしく、謝ってくる。
「別にあんたが謝る事じゃない。気になる事を聞いただけじゃないか。むしろ私としては、長年、分からなかった事が分かって、すっきりしたよ」
私が知る限り、全属性を使いこなすのは私だけだからね。過去の資料を調べても、無かったし。それより、ハルカに聞きたい事が有る。
「ハルカ。あんたこそ構わないのかい? 聞いての通り、私の出生は普通じゃない。人工的に生み出された存在。クローンだ」
私としては、むしろ、そっちを気にしていてね。人は己と違う存在を拒絶する。なまじ、自分に似ていれば似ている程に。私は長生きしているもんでね。そういうのを幾度となく見てきた。しかし、私のバカ弟子は、私が考えていた以上に大物だったよ。
「それが何か? ナナさんが魔道神のクローンである事には驚きましたが、言ってしまえば、それだけです。ナナさんが僕の保護者であり、師匠である事に何ら変わりはありません」
ハルカは私が人工的に生み出された存在、クローンである事を、だから、どうしたと、あっさり流しやがった。おい、私はずっとこの事で悩んできたんだからね! 特にあんたに知られたらどうしようって! それなのに、このバカ弟子は……。これじゃ、悩んできた私がまるっきり、バカじゃないか! ハルカの言葉を聞き、魔道神が笑う。
「ハーーッハッハッハ!! これは大したものだ! 師匠の出生の秘密を、あっさり流すか! 見事だ。ハルカ・アマノガワ。君の師に対する信頼は不動にして不壊。全くもって見事なり!」
よほどウケたのか、腹を抱えて爆笑してやがる。笑うな! 腹立つね! 魔道神は笑い過ぎて滲んだ涙を拭きつつ、お茶を啜り、一息付く。
「あぁ、久しぶりに大笑いさせてもらった。全くもって、面白いな、お前達、師弟は」
「そりゃ、どうも!」
さんざん笑いやがって! 腹立つね。そんな私に魔道神は語る。
「そして良い師弟だ。私も数多くの師弟を見てきた。しかし、これ程の強い絆を持つ師弟はずいぶんと久しぶりだ。しかも、師弟となって、1年にも満たないにも関わらずだ」
言われた通り、私とハルカは師弟となって、まだ1年にも満たない。でもね、私にとってハルカは自慢の弟子さ。ハルカは私をどう思っているかは知らないけど。
「この魔道神クロユリから言わせてもらおう。良き師、良き弟子に恵まれたな。この出会いはもう二度と無い奇跡。感謝する事だな。さて、私はそろそろ戻らせてもらう。お前達もさっさと寝る事だな」
それだけ言うと、魔道神は席を立ち、部屋から出ていった。そうだね、そろそろ寝るか。
「ハルカ、寝るよ」
「はい、ナナさん」
私は寝る時は裸で寝る。ハルカはパジャマを着るんだけどね。……ん? ハルカまで脱いでるよ。ったく、この子は。
「ナナさん。一緒に寝ても良いですか?」
上目遣いに聞いてくる、バカ弟子。一糸纏わぬ全裸になった以上、今さらダメだとは言えない。
「好きにしな」
「はい」
まず私がベッドに入り、ハルカが続く。そして、ぴったり寄り添ってくる。
「ナナさん、今日は大変でしたね」
「まぁね。私としては、いい加減、慣れてきたけどさ。そんな事より、さっさと寝る」
「そうですね。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
お互いの頬におやすみのキスをして、目を閉じる。晩飯を腹一杯食べたし、今日一日色々有って疲れた事も有り、すぐに睡魔がやってきた。寝よう……。
「……………………目が覚めちまったね。午前2時過ぎか」
ハルカと一緒に寝たものの、夜中に目が覚めた。まぁ、理由は分かっているけどね。
「ん……ちゅうちゅう」
私のおっぱいを夢中で吸うハルカ。また寝ぼけてるよ。この子、17歳なのに、まだ乳離れ出来てなくてね。トイレに行きたいが、これじゃ行けない。こういう時は慌てず騒がず、必要な物を出す。
「ほら、ハルカ、ちょっとごめん」
「ん〜〜…………」
おっぱいに吸い付くハルカを離し、不満そうな声を上げる口におしゃぶりをくわえさせる。すると再び満足そうにおしゃぶりを吸い始める。全く、このマザコン娘が。
世話の焼ける大きな赤ん坊をベッドに残し、ナイトローブを着て部屋を出る。さすがに裸で外をうろつけないし。さ、トイレトイレ。
「ふぅ、すっきり」
トイレ(小の方)を済ませ、部屋に戻ろうとしたら、キッチンの方から明かりが漏れていた。誰だろうね? 私は気になり、そちらに向かった。
「嫌な所を見付かりましたね」
そこにいたのは、真十二柱、序列五位。暗黒神アンジュ。テーブルの上には湯気を立てる丼。あ、こいつ、ラーメン食べてやがる。それも、濃厚な味噌ラーメン。ゴツいチャーシュー大盛りの上、バターまで乗せて。とことん濃厚な奴だ。
「良い物、食べてるじゃないか、暗黒神様」
こう言ってやると気まずそうな顔をする。夜中にこっそり食べているのを見られるのは、神といえど気まずいらしい。
「……貴女にも分けますから、カオルには黙っていてくれませんか? バレるとうるさいので」
どうやら魔道神は、食生活にはうるさいらしい。ウチもハルカがうるさいからね。気持ちは分かる。ともあれ、丼を出し、味噌ラーメンを分けてもらう。で、さっそく一口啜る。うん、美味い。とにかく濃厚。あっさりも良いけど、こういう濃厚な奴もクセになる。こうして女2人。夜中に味噌ラーメンを啜る。
そこへ暗黒神が話しかけてきた。
「蒼辰国に来る少し前、私とカオル、ジュリの3人でとある世界を消してきました」
「何だい? いきなり物騒な話だね」
何の脈絡もなく、物騒な話を始めた暗黒神。何のつもりか知らないが、今は聞き手に徹しよう。
「その世界には、下らない男がいましてね。何とか言う籠手の力で女性を何人も侍らせていました。努力など全くせず、ただ籠手の力に頼りきり。そして自らを唯一絶対覇王と自称していました。周りの女性達は皆、籠手の力で正気を失い、男の言いなりでしたからね。さぞ、男は良い気分でしたでしょうね」
どうやら、よくいるゲスと出くわしたらしい。全く、こういうタイプは後を絶たない。突然、凄い力を持つ何かを手に入れて、バカやる奴。ま、こういう奴は簡単に潰せるけどね。
「まぁ、『灰色の傀儡師』と比べたら、向こうに失礼な程の雑魚。あからさまに怪しい籠手を腕ごと切り落とし、更に籠手を斬って滅ぼした途端に、全てのメッキが剥がれ落ちました。傑作でしたよ。女性達が正気に戻った途端、袋叩きにされましたからね。元々が覗きを始め、数多くの性犯罪を犯してきた上、籠手の力を得てからは、洗脳して、無理やり自分の物にしては犯してきたのですから」
こういう奴は所詮、品物頼り。それさえ奪うなり、潰すなりすれば、即、終了。最近のアニメやラノベの主人公(笑)にも同じ事が言えるけどさ。
「この者に限らず、最近、こういうゲスが多くて困っているのです。自分は正しいと思っているので、自制しませんし」
心底うんざりといった様子の暗黒神。そうだね。こういう奴は止まらない。欲望や、薄っぺらな正義感を振りかざし暴走する。そう考えると、やはり『灰色の傀儡師』は大したもんだ。しかしだ。こいつ、そんな事が言いたい訳じゃあるまい。私としても、回りくどいのは嫌いでね。
「……で、本題は何だい?」
ズバリ、聞いてやった。
「別に大した事ではありません。ただ、願わくば、貴女達師弟が、道を踏み誤らないで欲しい。それだけです」
「ふん。私はともかく、ハルカは大丈夫さ。あの子は良い子だからね」
全く、余計なお世話だよ。だが、暗黒神は忠告する。
「そうですね。彼女は良い子です。しかしながら、彼女は若い。時には道を見失い、迷う事も有るでしょう。その時こそ、貴女が必要なのです。かつて、邪悪の限りを尽くした貴女が。私は薄っぺらな正義感にはうんざりしていますから」
そう言うと、暗黒神は空になった丼を片付け、去って行った。
「……買いかぶりだっての。ま、私は私のやり方でハルカを育てるだけさ。最善の教育法なんて知らないからね」
私は残っていた味噌ラーメンを一気に啜ると、空になった丼を片付ける。
「……寝よう」
ハルカを部屋に待たせているからね。あの子は基本的に朝まで起きないが、絶対じゃない。もし、起きて私がいないと気付いたら、後がうるさい。さっさと戻ろう。明日の事も有るからね。
未登場の真十二柱の説明も今回で最後。序列七位、魔宝晶戦姫。序列八位、機怪魔博。
魔宝晶戦姫。真十二柱、序列七位。あらゆる宝石を自在に操る魔王。創造系の異能であり、非常に汎用性が高い。本人自身の実力も高く、真十二柱の名に恥じない実力者。
真十二柱の中では2番目に若手であり、序列十一位の魔氷女王を姉の様に慕っていた。それだけに、彼女が死んだ際には大荒れ。止めるのに苦労したと、魔道神クロユリ談。その後の蒼辰国事件の事でも、また大荒れ。殴られたと、魔道神クロユリ談。
ハルカの事はわりと早い内から把握。ただ、今はまだ接触するには早いと自重。ナナさんがハルカの17歳の誕生日プレゼントに魔水晶製の武器を作ろうとしているのを知り、自分の秘蔵の双子魔水晶を置いていった。
今回はハルカに会いたがっていたが、暴走すると判断され、魔道神クロユリに足止めされた。御愁傷様。
序列八位、機怪魔博。真十二柱の中でも異端の存在。科学者である。全宇宙一と言われる天才科学者だが、同時に変人。訳の分からない発明を繰り返しては騒ぎを起こす。しかし、そのマイナス面を差し引いてもなお、余りある程、その頭脳は魅力的。
メカをこよなく愛しており、メカを愛さない奴は死ねがモットー。戦闘力も高く、自作の巨大ハンマーを片手で振り回し、敵を叩き潰す。ちなみにこのハンマー、インパクト時の質量を自在に変化可能。魔博側には影響を及ぼさない一方通行の作用。
その頭脳は凄まじく、ロボットアニメを見た翌朝には巨大ロボットが完成している始末。少なくとも、2日以上、掛かった事は無い。
序列四位、武神 鬼凶に関しては、既に登場しているので、省略。
そして最後に明かされた、ナナさん出生の秘密。魔道神クロユリのクローンでした。この作品の最初の方で、ナナさんは全ての魔法を極めたと有りますが、その答えがこれ。全ての属性を十全に使えるんです。
この作品世界の魔法について。
地、水、火、風、光、闇、無の7属性。人それぞれ得意、苦手が有る。ハルカは、水が断トツで得意。次いで闇。更に次いで風。。逆に火は非常に苦手。光も相性悪い。地はそこそこ。ちなみに無属性は適性に関係なく使える。実際にはもっと複雑で、血筋や、種族なんかも絡んでくる。ハルカの場合、風属性でも、高熱を発する雷系は相性悪い。
では、また次回。