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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第116話 魔道神クロユリとの対談。『灰色の傀儡師』とは?

 私は思う。運命の女神って奴がいるのか、いないのか知らないが、もし、いるなら。そして、そいつの元に行けるのなら。


『徹底的に、完膚なきまでに、この上無く、ぶちのめした上で、塵一つ残さず、消し去ってやる!!』


 私の機嫌は今、すこぶる悪い。とことん悪い。レンタルしてきたメイド物の百合AVが大外れだった時より悪い。とにかく悪い。


 私は願ったんだ。今回の旅行はハルカの為にも、厄介事は起きるなと。なのにだ。


「いつまで私達を玄関で待たせる気だ? さっさと上がらせてはくれないか? なにぶん、雪山なものでな。寒くてかなわん」


 私の目の前にいる、『私そっくりな顔の女』が、さっさと上がらせろと要求してくる。


 もう一度、言うよ。おい、運命の女神。もし、いるなら。そして、そこへ行けるのなら。絶対にぶち殺してやる!! せっかくのハルカの為の旅行を台無しにしやがって! 何でわざわざ来るんだよ?!


『魔道神クロユリ!!!』







「ナナさん……」


 私の後ろに隠れたハルカが、不安そうに見上げてくる。私のジャージの裾を掴むその手は微かに震えている。そこから伝わるのは怯え。


 そりゃ、そうだろう。相手は真十二柱が序列二位。単純に考えれば、全宇宙で3番目に強い奴。そして、つい先日、自分を殺そうとしてきた相手だ。よほどの自信家かバカでもない限り、怖いのが当たり前。正直、私も怖い。


 しかし、弟子の手前、そうもいかなくてね。内心の恐怖を必死に押さえ込み、なおかつ、それを表に出さず、更に魔道神と相対するという、難易度ルナティックな事をこなしていた。……胃が痛い。


 とはいえ、どうしたものか? 帰れと言って、帰る様な奴じゃないし、ましてや、追い出すなど無理だ。途方に暮れていると、他の連中がやってきた。案の定、皆、一様に面食らっているね。私そっくりの顔をした女がいるんだから。魔道神と面識が有るのは私とハルカ。後、ボケ猫。もっとも、こいつは数の内に入らないか。そんな中、いち早く動いたのはエスプレッソ。


「ナナ殿、お客様の前でそう、いきり立つものではありません。少しは落ち着かれてはいかがですかな?」


 とりあえず、落ち着けと。言われれば確かに。頭に血が登った状態では上手い打開策は出ない。ましてや相手は真十二柱。冷静さを欠いてはどうにもならない、


「すまないね、エスプレッソ。おかげで頭が冷えたよ」


「それは何より」


 頭を冷やしてくれたエスプレッソに手短に礼を言う。そして、エスプレッソが魔道神達に向き合う。


「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。外はさぞかし寒かった事でしょう。どうぞお上がりください。温かい甘酒を用意しております」


 エスプレッソの奴は、魔道神達を別荘に上がらせやがった。……まぁ、妥当な判断だろう。怒らせたら、ヤバい。ここは下手に出て、穏便に事を運ぼうってか。


「ほう、それはすまないな。では、お言葉に甘えてお邪魔するとしよう」


 かくして、別荘に上がる魔道神達。エスプレッソの案内の元、リビングへ。私達もその後に続く。







 リビングに到着するなり、どっかとソファーに座る魔道神クロユリ。その隣に暗黒神アンジュが座り、後ろには暗黒天使長ジュリが控える。


 向かいのソファーには私とハルカが座り、その他の面々は後ろに控える。ピリピリとした嫌な雰囲気だ。そんな中、口火を切ったのは魔道神。


「とりあえず、自己紹介をするとしよう。私は真十二柱が序列二位。魔道神クロユリ」


 続けて暗黒神が自己紹介。


「同じく、真十二柱が序列五位。暗黒神アンジュ。お見知りおきを」


 最後に、後ろに控える暗黒天使長。


「暗黒神アンジュ様、直属。暗黒天使長ジュリ。よろしくッス」


 一通りの自己紹介を済ませる魔道神達。ならば、こちらもするのが、筋ってもんか。


「そりゃ、どうもご丁寧に。まぁ、私とハルカは既にあんた達も知っているから、省略させてもらうよ」


 私とハルカの事は既に向こうも知っているからパス。という訳で他の面々が自己紹介。こうして魔道神達との第1ラウンドは無難に終了。だが、本番はこれからだ。私は改めて気を引き締める。







「お待たせしました、甘酒でございます」


 自己紹介を済ませた後、客である魔道神達に甘酒を出すエスプレッソ。


「頂こう」


 甘酒を受け取り、さっそく一口すする魔道神。


「ふむ、悪くない。やはり、寒い季節は甘酒が良い。染み渡るな」


 甘酒がお気に召したらしく、満足そうだ。しかし、いつまでもこうしてはいられない。私はまどろっこしいのが嫌いでね。さっさと本題を切り出した。


「悪いんだけどね、私はさっさと本題に入りたいんだよ。あんた達、一体何しに来た? まさか、甘酒を飲みに来た訳じゃあるまい」


「ちょっと、ナナさん!」


 私の隣に座るハルカが声を上げる。しかし、私としては、こいつらの来た目的が分からなくては気分が悪い。すると、魔道神は呆れた表情を浮かべる。


「なんだ、私の話を聞いていなかったのか? 言ったはずだぞ。日を改めて来ると。だから私達は来た。むしろ、感謝されるべきなんだがな。わざわざ時間を都合して来たのだからな」


 実に上から目線の言い方。だが、言われてみればそうだった。蒼辰国で去り際にそう言っていた。でもね、こっちにだって言い分は有る。


「言われてみれば、そうだったね。でもね、こっちはハルカの為に旅行に来てるんだよ。そんな所へ来るんじゃないよ。空気読みな!」


 蒼辰国での一件で深いトラウマを負ったハルカ。そんなハルカの為に企画した温泉旅行。真面目な性格故に何かと溜め込みがちなハルカに存分に羽を伸ばしてもらおうと思っていたのに、そこへ先日、自分を殺そうとした奴がやってきた。ぶち壊しだよ! しかし、神ってのは昔から人間の事なんぞ、一々気にかけたりなんかしない。


「悪いな。神とは基本的に身勝手なものでな。それにだ」


 魔道神はここで一旦、切る。


「早く情報を伝えたくてな。そちらとしても、色々と聞きたい事が有るだろう? この魔道神クロユリが答えようじゃないか。答えられる範囲内ではあるがな。情報の大切さが分からぬ訳じゃないだろう?」


 ……嫌な奴だね。だが、確かにその通りだ。私達は情報が欲しい。特にハルカを狙う『灰色の傀儡師』とかいう奴の情報が。現状、まるで情報が無いから、手の打ちようが無い。それに、こいつは魔道神。異能の根源にして、最強の魔道の使い手。その知識や技術を少しでも手に入れたい。でもね。


「あぁ、そうだね。今の私達に必要なのは情報だ。ぜひとも欲しい。しかし、対価は何だい? ただで情報を渡す程、甘いとは思えないんだけどね?」


 そう、世の中甘くない。重要な情報をただで渡す奴がどこにいる? 何事もギブアンドテイク。某錬金術師も言っていただろう? 何かを得るには対価が要ると。ましてや、相手は真十二柱、序列二位の魔道神。海千山千どころじゃ済まない怪物だ。しかし、魔道神の返事は意外だった。


「安心しろ。特に対価は要らん。大体だ。全ての神魔の頂点に立つ真十二柱の私に釣り合う対価をお前達が出せるとでも?」


「……無理だね」


「つまりはそういう事だ。強いて言うなら、ハルカ・アマノガワが『灰色の傀儡師』討伐の役に立てば、それが対価だ」


 そう言うと、甘酒を啜る魔道神。ふん、ハルカが役に立つ事が対価ってか。実に上から目線の言い方が気に入らないが、仕方ない。事実、向こうは全ての神魔の頂点。私達とは文字通り、次元が違う存在だ。


「なるほど。分かったよ。ハルカ、すまないね。あんたを出汁に使ってさ」


「いえ、気にしないでください。僕が情報の対価になるなら安いものです。せっかくの機会です。この際、色々聞きましょう、ナナさん」


 ハルカに情報の対価として扱う事を謝る。それに対しハルカは気にしないでくださいとの事。むしろ、情報を聞き出そうと提案してきた。……本当に良く出来た子だよ。そうだね、この際だ。魔道神から情報を引き出してやる。







 さて、何から聞こうか? 何せ、聞きたい事が多くてね。何から聞こうか考えていると、突然、魔道神が妙な事を言い出した。


「おっと、そうだ。忘れていた。少し待ってくれるか? 少々、用事を済ませないといかん」


 そう言うなり、ソファーから立ち上がる。そして向かった先は部屋の片隅。そこにいる奴の前にひざまずく。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 そこにいたのはボケ猫。いつもの訳の分からない歌と踊りをひたすら繰り返している。その前にひざまずいた魔道神は、見るからに高級そうな黒塗りのお膳を亜空間から取り出す。その上には特大サイズのカニかまが綺麗に山積みにされていた。


「あんな大きなカニかま、初めて見ました」


 それを見てハルカが驚きの声を上げる。料理を始め、家事全般をこなすハルカがそう言う所から見ても、特別なカニかまらしい。で、当のボケ猫。頭がボケているだけに、基本的にやる事なす事、支離滅裂で意味不明だが、食べる事だけは割りとこなす。大好物のカニかまを出され、即座に食いつく。


「汚い食べ方ですわね……」


 ただ、頭がボケているせいか、とにかく食べ方が汚い。ボロボロこぼす。貴族のミルフィーユが顔をしかめる。やがてカニかまを食べ終わると大あくびをし、ソファーに上がると、いびきをかいて寝てしまった。食っちゃ寝を地で行く奴だ。そんなんだから、太るんだよ! 先日、体重を量ったら、13㎏だったよ、このデブ猫。







 ボケ猫がカニかまを食べ終わったのを確認し、再びソファーに戻ってきた魔道神。


「待たせたな」


「あぁ、全くだよ。しかし、あんなボケ猫にカニかまを食わせたくせに、私達には手土産の一つも無しかい? 真十二柱、序列二位の魔道神様は随分とケチ臭いお方なんだね」


 どういうつもりか知らないが、私達を差し置いて、ボケ猫を優先した魔道神。何より、いきなり来たくせに、未だに私達に手土産の一つも渡さない辺り、実に気に入らない。ここぞとばかりに嫌味を言ってやる。


「誰がケチだ、失礼な。ちゃんと手土産ぐらい用事してきた。受け取れ」


 私にケチ呼ばわりされたのが、よほど気に食わなかったらしく、手土産を出してきた魔道神。ふん、だったら、さっさと渡せってんだよ。そして、リビングのテーブルの上に手土産の品が現れた。







「……ケチ臭いってのは撤回するよ。さすがは真十二柱。大した品を出してきたね」


「当然だ。つまらない品を渡しては私の名に傷が付く」


 テーブルの上に並べられた珠玉の品々。私を始め、皆が驚く。なんというか、凄いオーラが出ている。知識の無い素人でさえ、その格の高さが分かる程だ。


「何にしようか、結構迷ってな。最終的に食料品にした。天界の美味、とくと味わうが良い」


 魔道神は自慢気に話す。ボトルワインに果物の詰め合わせ。さらに、分厚い肉。こちらの好みを分かってやがる。天界の高級食材を前に、ハルカも眼を輝かせている。


「後、それとは別に渡す物が有る」


 天界の高級食材だけでも凄いのに、まだ何か出してくるらしい。何かと思えば、それは1本の瓶。見た感じ、果汁ジュースみたいだけど。


「不老長寿の霊薬と名高い、天界の桃の果汁を更に濃縮した私特製のドリンクだ」


 その言葉に、私達は驚いた。天界の桃といえば、古来より不老長寿の霊薬と名高い一品だ。


「そりゃ、凄いね。もしかして、それを飲んだら、不老長寿が得られるのかい?」


 その効能について聞いてみる。しかし。


「残念ながら、不老長寿の効力は無い。下界には大げさに話が伝わったみたいだな」


「なんだい。つまらないね」


 天界の桃が不老長寿の霊薬というのはガセネタだったらしい。多少なりと期待していただけにがっかりだ。そう思っていると、魔道神は話を続ける。


「まぁ、そうがっかりするな。天界の桃が、ただの桃な訳がないだろう。不老長寿の霊薬と言われたのも、単なるガセネタではない。ちゃんと元ネタが有る。不老長寿の効力こそ無いが、非常に強力な治癒の効力が有る。それが曲解されて下界に伝わったのだろう」


「要は非常に強力な治療薬って事かい」


「そういう事だ。という訳だから、さっさと飲め。特に、ナナとハルカ。お前達、2人だ。蒼辰国で私達と戦ったんだ。そのダメージは未だに残っている。ハルカに至っては魔氷女王化(クイーンモード)を複数回使った。あれは無理やり魔王の力を引き出す禁じ手だからな。全く、死にたいのか?」


 さすがだね。全てお見通しってか。まぁ、せっかくなので頂こうかね。私は瓶を受け取り、人数分のコップを用意する。


「水で薄めたりせず、ストレートで飲め。1人当たり、コップ1杯が適量だ。貴重な物だからな、良く味わえよ」


 わざわざ注意をする魔道神。一々うるさいね。ともあれ、飲む事に。コップになみなみと桃ジュースを注ぐ。


「それじゃ、一番手は私が頂くよ」


 念の為、私が一番手に。まぁ、毒なんか仕込んでいないだろうけどさ。なぜなら、魔道神は『わざわざそんな事する必要性が無い』。こいつがその気になれば、私達など即座に皆殺しに出来る。むしろ、そんなセコい殺り方をしたら、それこそ真十二柱、序列二位の名折れだ。地位が高いのも良し悪しって事さ。さて、天界の桃ジュース、頂こう。私はコップを手に、ぐいっと一息で煽る。


「…………美味い!」


 ちょっと心配そうに見ていたハルカが安堵の表情を浮かべる。やっぱり、まだ魔道神が怖いらしい。心配かけてすまないね。でも、大丈夫。こりゃ、良いジュースだ。何と言うか、身体中がリフレッシュされる感じがするよ。


「大丈夫だよ。あんた達も飲みな。せっかくの魔道神様からの贈り物だ。飲まなきゃ損だよ」


 ハルカを始めとした、他の奴らにも飲むように勧める。まずはハルカが一口。


「確かに美味しいです。それに何か元気が出ます」


 ハルカも桃ジュースを褒める。続けて、他の奴ら飲んで絶賛。さすがは魔道神。良い品を出してくる。


「満足して頂けたかな? ならば、そろそろ本題に入ろうじゃないか」


 全員が桃ジュースを飲み終わったのを確認し、本題に入ろうと言う魔道神。そうだね。いい加減、本題に入らないといけないね。


「もちろんさ。さぁ、話を聞かせてもらおうじゃないか」


 さ、何を聞かせてくれるか?








 桃ジュースを飲み終わり、エスプレッソがコップを片付け、代わりに人数分の紅茶を配る。いよいよ、魔道神との対談だ。こちらの代表は私。この中で魔道神と面識が有り、尚且つ、対談に応じるだけの胆力が有るのは私だけだ。ハルカには荷が重い。お互いにソファーに座り、テーブルを挟んで相対する。緊張感に満ちる雰囲気の中、先に口を開いたのは魔道神。


「では、話を始めよう。まずは『灰色の傀儡師』についてだ」


 真っ先に切り出してきたのは、一番の重要事項。『灰色の傀儡師』について。その名に一段と緊張感が高まる。


「『灰色の傀儡師』。本名、灰崎 恭也。我等、真十二柱が創造主より、直々に抹殺を命じられた最大最悪の犯罪者。そして、今なお、果たせずにいる」


「恐るべき輩ですな」


 普段から冷静沈着で、余裕の態度を崩さないエスプレッソが、明らかな動揺を見せる。クローネ、ファム、ミルフィーユも同様だ。もっとも、私とハルカは蒼辰国で既に聞いたけどね。


「で、奴の能力だが、名前で分かるだろう?」


「洗脳、支配系の能力者ですわね」


 魔道神の問いにミルフィーユが答える。


「ですが、それだけで、真十二柱の皆様方から逃れ続けられる訳がありませんわ。まだ、何かが有りますわね? 魔道神様」


 それだけで終わらせず、『灰色の傀儡師』にはまだ何かが有ると指摘。やるね。


「いかにも。まぁ、その辺の事も含め、説明しよう。ジュリ! 映像を出せ!」


 ここで魔道神は後ろに控えていた、暗黒天使長ジュリに指示を出す。


「了解ッス。さぁ、皆さん。こちらの映像をご覧くださいッス」


 ジュリがそう言うと、空中にいくつもの映像が映し出された。


「よく見ておけ。『灰色の傀儡師』の目的の一端だ。そう、あくまで『一端』だがな」


 やけに含みの有る魔道神の言い方が気になったが、今は映像を見るのが先だ。私達は映像に注目する事に。







 空中に映し出されたいくつもの映像。それは、皆、若く、美しい女ばかりだった。そういえば、蒼辰国でハルカが殺った女4人もかなりの上玉だったね。


「若くて綺麗な女性ばかりですね」


 ハルカが率直な感想を言う。確かにその通り。でも、それだけじゃあるまい。そこへ魔道神。


「ハルカ。その中から誰でも良いから、1人選んでみろ。そいつのプロフィールが見られる。プライバシーの侵害とか言うなよ。そこに映し出されている女達はもはや、プライバシーの侵害もへったくれも『感じない』からな」


 その不気味な発言に不吉なものを感じる私達。ともあれ、ハルカは言われた通り、映し出された女達の中から、1人を選ぶ。


「それじゃ、この人で」


 1人の女。見た目からして、ハルカやミルフィーユとさほど変わらない歳だから、少女と言うべきか。そのプロフィールが表示される。


「……ほう、バイオリンの名手か。この歳にして、既に国際的な活躍を収めているとはな」


 クローネがプロフィールを見て感心する。確かに大したもんだ。


「ハルカ、他にも選んでみろ。そして、その意味を知れ」


 魔道神は、他にも選べとハルカに指示。言われてハルカは更に何人か選ぶ。そのプロフィールは、弓道の名手、有名ピアニスト、天才画家、水泳界のホープ、売れっ子歌手。てんで、バラバラ。だが、その意味が読めたよ、私は。他の奴らも同様。ハルカもね。


「……あの、間違っているかもしれませんが」


 若干、不安そうに魔道神に言うハルカ。


「構わん。言ってみろ」


 そんなハルカに、構わないから言ってみろと魔道神が促す。それを受けて、やっと、ハルカが自分の意見を話す。


「自分の手駒とすべく、若くて綺麗な女性ばかりを狙っていますね。スポーツ関連で優秀な人だけでなく、芸術方面で優秀な人達も狙っているのが、また嫌らしい。絵画や音楽で大成する人は、優れた『魔』の才能が有りますから」


 ハルカの言う通り、絵画や音楽において大成する奴は優れた『魔』の才能を持つ。絵画や曲に宿った『魔』が人を惹き付けるのさ。私の様な魔女や能力者以外も狙うとは『灰色の傀儡師』って奴はよく分かってやがる。


「正解。君はよく分かっているな。だが、奴の恐ろしさは、まだまだそんなものじゃない」


 ハルカの意見は見事、正解だったらしい。だが、『灰色の傀儡師』の恐ろしさの真髄ではないと。魔道神は紅茶を一口啜り、語り出す。


「奴の能力。それは支配と簒奪。そして隠密。悟られる事なく、獲物に近付き、狙った女を肉体と魂の両面において支配し、忠実な人形に変える。しかも、その際に人形と化した女から削除した意思や感情。すなわち、人間性をエネルギーとして取り込み、強くなる。奴にとって女狩りは、手駒を増やすのと、自らの強化の両方を兼ねている。更に厄介な事に、人形と化した女もまた、支配の力を持つ。主人の命令に従い、仲間を増やしていく。そして、奴の人形と力は時間と共に増加していく」


 魔道神の語った内容。それは恐ろしい事実だった。気付かれる事なく獲物に接近。女を狩る程に、手駒と力を増やし、しかも、人形と化した女自身も支配の力を持ち、仲間を増やす。またその分も奴の力となるんだろう。まさに、ネズミ算だ。時間の経過と共に、『灰色の傀儡師』は強くなっていく。こりゃ、とんでもない怪物だ。真十二柱が抹殺に動くのも納得だよ。


「まだ有るぞ」


 今の時点で既に十分過ぎる程、ヤバいのに、まだ有るらしい。


「奴は女の肉体を乗っ取れる。支配の能力の進化形らしい。魂を消化吸収、その女の記憶、能力を我が物とし、喋り方や些細な仕草さえ完璧にコピーして、本人に成り代わる。ただ、奴は直接的な戦闘の才能は無くてな。どんなに優れた魔道や、戦闘の才能の持ち主の肉体を得ても、それを生かせない。本人も、そこは分かっているから、直接、戦う様な女は狙わん。直接、戦わない立場の女を狙う。ちなみに、幼女を良く狙うぞ。意思が弱くて乗っ取り易い上、幼女の姿なら、周囲も警戒しないからな」


 今度は完璧に他人に成り済ますときた。もう、勘弁して欲しい。なんだよ、こいつ! 無茶苦茶だよ! 直接的な戦闘の才能は無いそうだが、その辺もきっちり考慮に入れて行動している辺り、抜け目の無い奴だ。幼女の肉体を狙う辺りは特に。さすがの私もこんな厄介な相手とはやりたくない。しかし、魔道神の話は終わらない。


「何より『灰色の傀儡師』の一番、厄介な所。それは、奴の用心深さ。そして、引き際の見極めの上手さ。逃げ足の速さ。逃げる手段も多彩に用意している。用意周到だ。その一方で、柔軟な考え方も出来、臨機応変に対応する。過去、何度か追い詰めた事も有るが、逃げられた」


 なるほど。そりゃ、厄介だね。勝つより、負けない。相手を倒すより、自分が生き残る事を最優先にしているのか。確かにこういう奴はしぶとい。私もかつて手を焼かされた。魔道神の説明に私も過去の厄介な相手を思い出す。


「奴の力は増大の一途を辿り、今や、居場所すら掴めない。ただ、今もどこかに潜み、人形を増やし続けている。奴は宇宙を蝕むガン細胞だ。早く討たねばならない」


 そう言って、魔道神は一通りの説明を終えた。……事態は私が考えていた以上にヤバいみたいだ。







「さて、何か質問は有るか? 答えられる範囲内であれば、答えよう。とりあえず、質問の有る者は挙手しろ」


『灰色の傀儡師』に関する一通りの説明を終え、今度は質問タイムに突入。『灰色の傀儡師』の事も気になるが、他にも聞きたい事は有る。すると、さっそく手を上げる奴が。ハルカだ。


「質問、よろしいでしょうか?」


 真面目なハルカらしく、礼儀正しく質問。特に、相手が相手だしね。


「何だ? 言ってみろ」


「では、お言葉に甘えて。『灰色の傀儡師』についてはある程度、分かりました。だったら、今度は真十二柱について教えてください。無理なら構いませんが」


 ハルカは真十二柱について知りたいらしい。自身の身体自体、真十二柱の一員、魔氷女王の身体だし、気になるか。さて、魔道神はどう出るか?


「ふむ、私達真十二柱について知りたい、か。……まぁ、良いだろう。答えよう。君自身も深い関わりを持っているからな」


 おやおや、魔道神の奴、ハルカの質問に答えるらしい。良い機会だ。謎の多い真十二柱について、じっくり聞かせてもらおうじゃないか。








突然、やってきた魔道神クロユリ達。そんな彼女から語られた、『灰色の傀儡師』に関する話。


とにかく用心深く、逃げ足の早い奴。しかも、隠密に長け、存在を悟らせない。


静かに狙った女に忍び寄り、人形に変え、人形と化した女が更に他の女を人形に変える。そうして次々と手駒を増やし、力を高めていく。恐ろしい奴です。


何より、滅多に表に現れず、人形を操り、事を成す。自分の手を汚さず、安全を確保し、生き残るという点では上手いやり方だと思います。


次は真十二柱について。こちらも謎だらけですから。


では、また次回。

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