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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第113話 ナナさんは最愛のハルカを気遣う

「ふぅ、困ったもんだね」


 私はソファーに座り、ため息をつく。


「私は魔女であって、カウンセラーじゃないからね。……どうしたら良いんだか」


 一人、そう呟くが、名案は出ない。


「……とりあえず、飯は持って行ってやるか」


 このまま座っていても仕方ない。私は立ち上がり、キッチンへと向かう。確か、戸棚にレトルトのカレーとご飯が有ったはず。戸棚を開けて探すと、すぐに目当ての品を見付けた。


「有った。よし、さっさと作って、持って行ってやろう」


 鍋に水を張り、コンロに掛けて沸かす。ご飯は電子レンジに入れる。カレーを温めるのと平行して、ご飯を温めよう。しかし、便利だね。技術の進歩って奴はさ。……魔道が廃れていく訳だ。才能が無ければ、魔道は使えない。対して科学は誰でも使える。例えば火を起こすにしても、魔道だと才能に知識や技術がいるが、科学なら、ライターなり、マッチなり、使えば済む。


「まぁ、今はカレーを作るのが最優先だ。あの子も腹を空かせているだろうし」


 今は魔道だの科学だの言っている場合じゃない。もっと大事な事が有る。やがて鍋の水が沸騰したので、レトルトのカレーのパックを投入。その間に電子レンジのスイッチを入れ、ご飯を温める。待つ事、しばらく。


「よし、そろそろ良いだろう」


 電子レンジからご飯を取り出し、深皿に盛り、更にレトルトのカレーのパックを破り、ご飯の上にかける。福神漬けは無いが、そこは、ご愛敬。


「さて、出来た。冷めない内に持って行こう」


 出来たカレーをお盆に乗せ、私は屋敷の2階に上がる。そして、じきに目的地に着く。そこは、とある部屋。まずは扉を2回ノック。


「ハルカ、昼飯を持って来たよ」


 その部屋は私の弟子にして、メイドのハルカの部屋。本来なら、屋敷の主人である私が食事を持ってくるなんて、立場上、おかしいんだけどね。今は、それどころじゃないんだよ。


「……ここに置いておくからね。食べ終わったら、出しておくんだよ」


 ハルカからの返事は無いが、私はその場を後にする。


「……困ったもんだね。ハルカが部屋に閉じこもって、もう3日。しかし、こればっかりはね」


 私が今、直面している問題。それはハルカが自分の部屋に引きこもってしまった事だった。その理由は分かっている。だが、分かっていても、どうにもならない事は有る。


「ままならないね、世の中って奴はさ」







 安国のハゲからのSOSから始まった、東方の国、蒼辰国での、一連の事件。将軍暗殺から始まり、大桃藩防衛戦。伝説の『巨人』復活。更に、ハルカの抹殺を企む、真の神である、魔道神クロユリと暗黒神アンジュとの対決。挙げ句、事件の黒幕たる『灰色の傀儡師』とかいう奴の事が明かされたりと、内容盛りだくさんにも程が有ると私でさえ言いたくなる、酷い事件だった。


「でも、一番の問題はそんなんじゃないんだよね」


 リビングに戻った私は気分転換にコーヒーを淹れて、ソファーに座り、一息つく。そして今、直面している問題に頭を悩ませる。


「……初めて人を殺したんだ。たとえ、もはや人ではなかったにせよ、そう簡単には割り切れないか」


 今回の事件において、ハルカは初めて人を殺した。『灰色の傀儡師』が送り込んだ『人形』4人を。私も、ハルカの特異な立場上、いずれはその日が来ると思っていた。しかし、今回は完全に私の想定外。


「あの子の『凍結』の力が無ければ、倒せなかったのは事実。あの子自身、その事は分かっていたはず。でも、理屈だけで割り切れないのが人間だ」


 結果から言えば、ハルカのおかげで『人形』達は倒された。ハルカのおかげで、事件は解決した。だからと言って、手放しで喜ぶ様なハルカじゃない。真面目なハルカは、初めての殺人に大きく、深いトラウマを負ってしまった。


「あの子は、とにかく真面目で責任感が強い。本来なら、それらは美徳だ。だが、今回の事に関しては完全に仇となった」


 いかに才能が有るとはいえ、ハルカは元々は一般人。戦いだの、殺しだの、無縁に生きてきた。私の元に来て、色々学んだにせよ、やっぱり、人を殺した事に対するショックは大きかった。


「つくづく、最近のアニメやラノベの主人公はイカれていると思うよ。よくもまあ、あそこまで自分を正当化出来るもんだ。自分は絶対に正義で、敵は絶対に悪。正義の名の元に悪は死ね、か。安いね、安過ぎる」


 正義の為なら、何をしても良いってのが、最近の主人公の傾向だね。私が言うのも何だが、そんなもん、正義じゃない。ただの身勝手。すなわち悪だ。


「ハルカが、最近の主人公(笑)みたいな性格だったら、こんな面倒な事にはならなかっただろうね。ま、仮にそんな性格だったら、その場で殺していたけど」


 当たり前だろう? 正義の名の元、自分の行い全てを正当化するイカれた奴など、願い下げ。私はアニメやラノベのチョロインみたいなバカ女とは違うんだよ。


「ともあれ、どうしたもんかね?」


 結局、ここに戻ってきてしまう。頭を悩ませていると、変な歌が聞こえてきた。あいつか。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 バカな歌と踊りを繰り返しながらやってきたのは、デブの三毛猫。バコ様だ。


「お前は気楽で良いね。お前みたいに余計な事を考えずに、歌って踊って過ごせたなら、さぞ楽しいだろうさ」


 何せ、こいつ頭がボケているからね。ただ、その分、毎日お気楽に過ごしている。そのお気楽さが今は羨ましい。私達はそれどころじゃないからね。


「しかし、お前の飼い主はどうしたんだろうね? 未だに連絡の一つさえ、よこさないなんてさ。お前みたいなおかしな猫、そうそういないのに」


「へ〜〜〜」


 私の呟きにボケ猫は間の抜けた声を出す。本当、お気楽だね。


 私達は前々からボケ猫の飼い主を探しており、蒼辰国に行っている間も、ボケ猫の飼い主探しをスイーツブルグ侯爵家に頼んでおいた。しかし、結局見付からずじまい。張り紙をしたり、ネットに上げたりしたが、全て無駄に終わった。一体、どうなっているのやら?


「おい、ボケ猫。あんたの飼い主はどこにいるんだい? 私としては、さっさとあんたを引き取ってほしいんだけど?」


「へーへーブーブー、へーブーブー♪」


「……ったく、このボケ猫は」


 頭のボケた三毛猫だからね。まともな返事なんか来ない。とはいえ、いつまでもこうしていても仕方ない。手を打たないと。


「やはり、他の奴らに相談するか」


 私はさっそく、知り合い連中に連絡を取り、ウチに来るよう召集を掛ける。今、私はハルカのそばを離れられないからね。







「わざわざ来てもらって、すまないね」


 私からの連絡を受けて来たのは3人。ミルフィーユ、クローネ、ファム。他は忙しく、無理だった。とりあえずリビングに通し、茶を出す。私だって、茶ぐらいは淹れられるんだよ。ハルカ程じゃないけどさ。


「まぁ、他ならないハルカの事ですから」


「そういう事だ」


「しかし、困った事になったね」


 こいつらにはざっくりとだが、事情を説明してある。


「どうしたら良いと思う? まぁ、最終的にはハルカが自分なりに割り切るしかないのは、分かっている。しかし、そこまでに至るのが問題でね」


 何分、真面目な性格のハルカだ。思い詰めるあまり、とんでもない事をする可能性も有る。そこでミルフィーユから提案。


「ナナ様、ここはありきたりですが、旅行に出るのはいかがでしょう? 最近のハルカはあまりに根を詰めすぎていますわ。一度、戦いを始めとするしがらみを捨てて、存分に羽を伸ばしては?」


 その提案にクローネとファムも乗る。


「そうだな。ハルカはあまりにも真面目だ。一度、ゆっくり休んでガス抜きをした方が良かろう。根を詰めてばかりでは潰れてしまう」


「アタシも賛成。存分に美味しい物を食べて、遊んで、ゆっくり休む。逃げと言われるかもしれないけど、時には逃げる事も必要」


「……そうだね。そうするか。分かった、その話に乗るよ。ところでミルフィーユ、旅行に行くにしても、どこに行くんだい? まぁ、あんた達、スイーツブルグ侯爵家なら、いくらでも当ては有るだろうけど」


 クローネとファムの後押しも有り、私は旅行行きを決めた。ハルカが乗るかは分からないが、この際だ。強引にでも連れていく。いつまでも閉じこもっていても始まらないからね。そんな訳で、ミルフィーユに行き先を尋ねる。以前、私達はスイーツブルグ侯爵家の所有するプライベートビーチに行った事が有る。他にも色々所有しているみたいだからね。


「それですが、季節柄、温泉などいかがでしょう? 当家の所有する別荘の一つに、良い温泉が有りますの。北の『教国』との境に近い、山の中ですわ。とても景色が綺麗な場所なんですの。ゆっくり休むには最適ですわ。準備に2〜3日、頂きますが、大至急、済ませますわ」


「そうかい、分かった。じゃ、それで頼むよ」


 ミルフィーユから行き先が温泉付きの別荘である事。2〜3日で準備を済ませるとの事を聞き、私は了承の意を伝える。……温泉か、悪くないね。温泉にゆっくり浸かって雪見酒というのも、乙なものだ。おっと、いけない。今回はハルカの為の旅行だったね。


「クローネ、ファム、あんた達も来るかい?」


「そうだな、同行させてもらおう」


「せっかくの温泉旅行だからね」


 クローネとファムもどうせ来るだろうと思い、誘いを掛ける。すると案の定、乗ってきた。まぁ、せっかくの旅行だ。人数は多い方が盛り上がるだろう。


「それじゃ、ミルフィーユ。旅行の件は頼んだよ。私はハルカを何とかするから」


「分かりましたわ。ナナ様はハルカの事をお願いしますわ」


 善は急げという事で、早急に準備を始める。ミルフィーユ達は一旦帰り、後ほど連絡をするとの事。私達も準備をしないといけないね。


「とりあえず、ハルカに話を伝えるか」


 私はソファーから立ち上がり、ハルカの部屋へと向かった。







「……良かった。ちゃんと食べたみたいだね」


 到着したハルカの部屋。ドアの前の廊下に空になったカレー皿が有った。手紙と一緒に。私はその手紙を手に取り、読む。


『ごちそうさまでした。それとご迷惑を掛けて、すみません』


 ハルカの丁寧な字でそう書かれていた。相変わらず、真面目な子だ。まぁ、それはそれとして、旅行の件を伝えないとね。


「ハルカ。今日ね、ミルフィーユとクローネとファムに来てもらったよ。あんたの事で相談したくてね。それでだ。スイーツブルグ侯爵の所有する、温泉付きの別荘に旅行に行く事になったよ。ミルフィーユが言ってたけど、最近のあんたは根を詰めすぎだ。一度、ゆっくり休みな」


 ドア越しにそう伝えるものの、返事は無い。だが、私は構わず続ける。


「準備に2〜3日掛かるらしいから、ちゃんと準備しておくんだよ。せっかくのスイーツブルグ侯爵家の厚意を無碍にするんじゃないよ」


 我ながらセコいとは思うが、ハルカの真面目で責任感の強い性格に訴えかける言い方をする。こう言えば、真面目なハルカは無視出来ないはずだ。


「ハルカ。みんな、あんたの事を心配しているんだからね。早いとこ、顔を見せな」


 相変わらず返事は無いが、部屋の中の気配に変化が有ったのは感じた。だが、今は何もするまい。


「それじゃ、私は行くよ」


 後は、ハルカ次第。私は空になった食器を持って、その場を後にした。……今日の晩飯、どこにしようか? ハルカが引きこもってしまったから、外食中心になったからね。全く、早くハルカの作った飯が食べたいよ。







 さて、それから2日後の夕方。ミルフィーユから連絡が有った。明日の午前8時に迎えに来ると。


「そうかい、分かった。恩に着るよ。それじゃ、また明日」


 伝話(この世界ではこう書く)を切り、ハルカの部屋へと向かう。一応、食事はきちんと食べているみたいだけど、体調は大丈夫かね?


「ハルカ。さっき、ミルフィーユから連絡が有ってね。明日の午前8時に迎えに来るそうだよ。ちゃんと支度するんだよ。良いね?」


 ドア越しにそう伝える。やはり、返事は無いか。そう思っていたら。


 ガチャッ


 ドアの開く音。そして……。


「……えっと、その、すみません、ご迷惑をおかけしました」


 そこには、数日ぶりに顔を見せたハルカの姿が有った。多少、やつれた感は有るが、無事だった。良かった。寝込んだりしていたら、どうしようかと思ったよ。ともあれ、私はやるべき事をやろう。


「全く、心配したんだよ。……少しやつれたかい? ほら、さっさと出てきな。とりあえず、ホットミルクを作ってやるからさ。それを飲んだら、風呂に入りな。明日から旅行なんだ。ゆっくり休みな」


「……はい」


 少しやつれたハルカ。その手を握り、リビングまで一緒に行く。ソファーに座って待つように伝え、私はキッチンに向かい、ホットミルクを作る。ハルカはこれが好きでね。私も作り方を教わったのさ。さほど時間を掛けず出来たそれをハルカ愛用のヒヨコ柄のマグカップに注ぎ、いざ、ハルカの元へ。


「お待たせ」


「ありがとうございます」


 私からマグカップを受け取ると、チビチビと飲み始める。お互いに何も言わず、沈黙の時間が流れる。やがてホットミルクを飲み終わったハルカが口を開いた。


「ごちそうさまでした」


「ふん、別に大したもんじゃないさ。さ、一休みしたら、風呂に行くよ。広い湯船で足を伸ばしな」


「はい。そうします」


 引きこもってはいたものの、ハルカは別段、汗臭くは無い。多少、やつれたぐらい。私が持たせた携帯式個室(ポータブルルーム)を持っているからね。そこで風呂を済ませていたんだろう。基本的に綺麗好きだし。ただ、あれはワンルームタイプだからね。風呂が狭いんだよ。高級な奴なら、広いけど。そうこうしている内に風呂が沸いた。よし、行くか。


「ハルカ、風呂行くよ。私が洗ってやるからさ」


「はい」


 温かいホットミルクを飲んだおかげか、多少なり、顔色が良くなったハルカ。さ、今度は師弟のスキンシップを深めるか。再び、ハルカの手を握り、風呂に向かった。







 まずは脱衣場で服を脱ぐ。私はいつも着ている黒ジャージを脱ぎ、下着を脱ぎ、適当に籠に放り込む。対するハルカはメイド服を脱ぎ、下着を脱ぎ、丁寧に籠に入れる。一々、真面目な事だね。


「ナナさん、以前から言ってますけど、服を投げないでください。傷みます」


 真面目なハルカとしては、服を乱暴に扱うのは許せないらしい。


「はいはい。悪かったね。それより早く、風呂に入るよ。私は風邪をひきたくないんでね」


「もう!」


 ハルカのお説教を適当に流し、風呂へ。私の屋敷の風呂は広さと湯の質が自慢さ。とにかく、ゆったりとリラックスする事に重点を置いている。ハルカは無駄に広くて、掃除に困ると言っているが、風呂自体は気に入っている。まぁ、今は風呂だ。まずは私。続いてハルカが入る。こうして、一緒に風呂に入るのもしばらくぶりだ。ゆっくり浸かろう。







 まずは軽く、身体を流し、湯船に浸かる。やはり、広い湯船は良いね。ゆったりと身体を伸ばしリラックス。


「ほら、ハルカ。もっとこっちにおいで」


 恥ずかしそうに少し離れているハルカに、もっと近くに来るように言う。全く、何を恥ずかしがっているんだか? 女同士じゃないか。何より、もう何度もベッドで身体を重ねてきたし。裸ぐらい、何を今更。仕方ないから、私から行く。捕まえて、後ろから抱き寄せる。


「……抵抗しないんだね?」


「……はい」


 蒼辰国では、騒動続き。帰ってきてからは、ハルカの引きこもり。そのせいで私達はしばらく夜の営みが出来ずにいた。要は欲求不満。性欲が溜まっていた。私も、そしてハルカも。意外かもしれないが、ハルカは至って健全な思春期の少女であり、人並みの性欲は有る。時々、オ○ニーもしてるし。引きこもっていた時もしていたんだろう。でも、それだけじゃ、ハルカは満足出来ない。私と身体を重ねて、女同士の行為の味を知ってしまったからね。


「……ここでしようか?」


「……はい」


 誘ってみたら、すんなり乗ってきた。正直、私は性欲が溜まり過ぎて、限界が近くてね。最悪、百合専門の風俗で抜いてこようかと思っていた。良かった。昔の私なら、ともかく、今の私はハルカ以外の女は抱きたくない。まぁ、性欲が溜まっていたのはハルカも同じらしい。その深いサファイアブルーの瞳の奥に、チロチロと燃える性欲の炎が見える。


「……優しくしてくださいね? 久しぶりですから」


「分かった。善処するよ。でも、責任は持てないよ。正直、今すぐにでも、あんたを抱きたい。存分に愛したい」


 はっきり言って、マジで理性がヤバい。性欲が爆発寸前。昔の私なら、即座に疑似ペ○スをぶちこんでヤりまくっている所だ。


 もっとも、ハルカもまた、性欲が爆発寸前。不安定な精神状態も相まって、いつもと違う、魔性の色気を放つ。


「……ナナさん、来て…ください」


 その色気に満ちた声と表情に、私は一気にスイッチが入った。その場でハルカに覆い被さり、ディープキスを交わす。そこから先は……まぁ、大人の事情により、詳しくは言えない。ただ、約、2時間に渡り、湯船の中で激しく交わり、存分に欲求不満を解消した。惜しむらくは、ハルカの処女を奪えなかった事か。あの子、最後の一線だけは越えさせてくれないんだよね。まぁ良い。いずれ、私がハルカを『大人の女』にしてやるさ。







 その夜。私はハルカにせがまれて、一緒に寝る事に。その代わり、寝る時は私のルールに従い、私もハルカも全裸だ。恥ずかしがっていたが、わざわざ頼みを聞いたんだ。私の要求も聞け。ハルカのベッドはシングルサイズだから、2人で寝るとちょっと狭い。でも、そこは我慢だ。その分、密着出来るし。


「ナナさん、起きてます?」


「あぁ、起きてるよ。何だい?」


 寝付けないらしく、話しかけてきたハルカ。


「その……眠れなくて」


「……今だけじゃないだろう?」


 眠れないと言うハルカに、今だけじゃないだろうと指摘。するとハルカは意表を突かれた表情を見せる。甘いんだよ。私の目をごまかせると思ったか?


「バレてましたか」


「ふん、その程度、見抜けなくて、魔女が出来るか。あんたの事だ。帰ってきてから、ろくに寝てないね」


 ハルカは術でごまかしていたが、その実、目の下にクマが出来ていた。ろくに寝ていない証拠だ。やっぱり、蒼辰国での一件を引きずっているみたいだね。


「……はい。どうしても寝付けなくて。だから、ナナさんに一緒に寝てくれるようにお願いしたんです」


「そうかい。ほら、私が隣にいてやるから、さっさと寝な。寝不足は良くないからね」


「はい。おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 ハルカもいい加減、限界が近かったみたいだ。事件のトラウマで眠れず、私に助けを求めた。そしてハルカは私に寄り添うと、安心したらしく、すぐに寝息を立て始めた。……辛かったんだね。今はゆっくり眠りな。ハルカの髪を優しく撫で、私もさっさと寝る事に。明日から旅行か。良い旅行になる事を願うよ。







 その夜、何か胸に違和感を感じて、起きた。何か妙にくすぐったい。それに何か温かくて湿った感じ。後、何か乳首の先を何かが刺激している。それで起きたんだが、その状況を見てびっくりした。


「……ん……まま……」


 ハルカが一心不乱に私のおっぱいを吸っていた。トロンとした目付きから、寝ぼけているみたいだけど。


「……ん……ちゅうちゅう……」


 とにかく、夢中になって吸っている。違和感の正体はこれか。全く、この子は。


「……おっぱい、美味しい?」


「……ちゅうちゅう」


 未だに吸い続けるハルカに聞いてみるが、返事は無い。おっぱいに夢中だ。この子、以前から寝ぼけては、私のおっぱいを吸うんだよ。……乳離れしてないのかい?


「……まぁ、好きにしな」


 無意識下の防衛本能でもあるんだろうね。幼児退行し、母親のおっぱいを吸う事で、自分の心を守ろうってね。その後も幼児退行したハルカはおっぱいを吸い続けていたが、やがて再び眠りについた。満足そうな笑顔でね。







 明けて、翌朝。既にメイド服に着替えたハルカに起こされ、ベッドから出る。


「おはよう、ハルカ。良く寝られたかい?」


「はい。おかげさまで」


 見た感じ、わりと持ち直したみたいだね。だが、油断は禁物。いつまた、崩れるか分からない。気を付けないとね。


「それじゃ私は軽くシャワーを浴びてくるよ。朝飯を頼んだよ」


「はい、分かりました」


 とりあえず、朝のシャワーを浴びてさっぱりするか。……だいぶハルカに吸われたからね。あの子は覚えていないみたいだけどさ。







 さて、シャワーを浴びてさっぱりしたら、ハルカの用意してくれた下着とジャージを着て、いざ食卓へ。今日の朝飯は何だろう? 楽しみにしながら向かう。良い匂いがするね。数日ぶりのハルカの料理。じっくり味わおう。


「へぇ、今日は和食か」


「しばらく料理を作っていませんでしたから。今朝は定番で攻めてみました」


 テーブルの上には和食の定番。ご飯に味噌汁。だし巻き玉子におひたし。シンプルだが、それが良い。特に私はハルカのお手製だし巻き玉子に目が無くてね。こいつを口に入れてからご飯を掻き込むのが、たまらない。どれ、さっそく一口。私はだし巻き玉子を一切れ箸で掴んで、口に放り込む。続けてご飯を頬張る。……美味い! これだよ、これが食べたかったんだよ!


 ハルカの特製だしと卵が調和した、絶品の味。これまで何度も食べているが、ちっとも飽きが来ない。美味い料理より難しいのが、飽きられない料理。大した子だよ。


「美味いよ、ハルカ」


 私はごちゃごちゃ美辞麗句を並べ立てるのは、柄じゃないからね。簡潔に言う。事実、美味いし。


「ありがとうございます」


 ハルカもまた、簡潔に返す。でも、私に褒められて若干、嬉しそうだ。その後も2人で朝飯を済ませる。


「ごちそうさま」


「お粗末さま」


 ハルカの作った美味い朝飯を綺麗に平らげ、ごちそうさまを言う。それにハルカがお粗末さまと返す。ハルカはこの辺の礼儀作法にうるさくてね。


「それじゃ、私は旅行の支度をしてくるからね。あんたもさっさと洗い物を済ませて、支度するんだよ」


「はい、ナナさん」


 ハルカは使った食器の洗い物を始め、私は自分の部屋へと戻って旅行の支度を始める。……夜のプレイ用に何を持って行こうかね? ハルカは痛いのは嫌がるから、鞭や蝋燭は無し。基本はソフトタッチだからね。赤ちゃんプレイでもするか。


「あんまり、変な物を持って行かないでくださいね?」


「分かったよ」


 妙な所で鋭いね。まぁ、怒らせても困る。何より、せっかくの旅行なんだ。のんびり楽しまないとね。







「ハルカ、支度は済んだかい?」


「はい、大丈夫です」


 さて、いよいよ旅行に出発だ。既に支度は済ませ、戸締まりや、火の確認もハルカが済ませた。


「バッコッコのコ♪ バッコッコのコ♪」


「お前も一緒に連れて行ってやるよ。その辺に糞尿を垂れ流されたら、堪らないからね」


 私の足元で、訳の分からない歌と踊りを繰り返すボケ猫。頭のボケたこいつを置いていく訳にもいかず、一緒に連れて行く事に。そうこうしている内にハルカが来た。


「お待たせしました」


「よし、じゃ行こうか」


 ハルカがボケ猫を猫用ケージに入れ、私と一緒に表に出る。荷物は亜空間収納に入れてあるから、最低限の物しか持たない。ハルカも亜空間に関しては便利だと、常々、関心していた。ハルカの元いた世界じゃ、魔法は無かったそうだし。『裏』ではどうだか知らないが。それはともかく、私が最後に鍵を掛ける。さて、迎えが来るのを待つか。約束の午前8時まで、少し有る。


「今回の予定は二泊三日だそうだよ。本当はもう少し、長めにしたかったんだけどね。悪いね、短くて」


「いえ、こうしてわざわざ、僕の為に旅行を企画して頂けたんです。むしろ、申し訳ないぐらいです」


 今回の旅行の日程についてハルカに話す。もう少し長めにしたかったが、色々都合が有ってね。日程の短さをハルカに詫びるが、逆に謝られた。謙虚な子だよ。


「……それ、持って行くんだね? 大丈夫かい?」


「はい。もしもの事が有ったら困りますから」


「無理はするんじゃないよ?」


「はい」


 見れば、ハルカは愛用の小太刀二刀を腰の後ろに交差させて差していた。この子からしたら、初めて人を殺した武器だ。本来なら、見たくもないはずだろうに。するとそこへ、1台のワゴン車が向かってくる。どうやら、迎えが来たみたいだ。


「ハルカ、迎えが来たよ」


「そうみたいですね」


 そして、屋敷の前に停まるワゴン車。運転席から降りてきたのはエスプレッソ。


「お待たせしました、ハルカ嬢、ナナ殿」


「おはようございます、エスプレッソさん。この度はよろしくお願いします」


「ふん、せいぜい、安全運転で頼むよ」


 エスプレッソと挨拶を交わし、ワゴン車に乗り込む。さ、旅行に出発だ。久しぶりにゆっくり休むとしようか。何より、ハルカには、楽しんで欲しい。たとえ、それが、一時の気休めに過ぎないとしても。


「ハルカ嬢、ナナ殿、シートベルトは締められましたかな?」


 座席に着いた私達にシートベルトの着用を確かめるエスプレッソ。


「はい」


「あぁ、締めたよ」


「ならば、結構。では、出発いたします」


 そして、走り出すワゴン車。目指すはスイーツブルグ侯爵家所有の温泉付き別荘。私自身、温泉は久しぶりな事もあり、実に楽しみだ。ゆっくり温泉に浸かり、酒と料理を堪能したいね。何より、ハルカとじっくり、愛し合いたい。そんな私の思惑を乗せて、ワゴン車は一路、北へ向かうのだった。


 ……頼むから、厄介な事件は起きるんじゃないよ。






長らくお待たせしました。僕と魔女さん、第113話です。


蒼辰国での一連の事件が終わり、帰ってきたナナさん、ハルカ師弟。しかし、ハルカは初めての殺人によるトラウマから、自室に引きこもってしまいました。


ナナさんはその事に悩み、他のメンバーに相談。結果、スイーツブルグ侯爵家の所有する温泉付き別荘へと旅行に出る事に。


その後、やっと部屋から出てきたハルカ。ナナさんに心配を掛けた事を謝罪。しばらくぶりの家事再開。その夜はナナさんと久しぶりの交わり。更に寝ぼけて、ナナさんのおっぱいをちゅうちゅう吸う始末。やはり、トラウマは深いようです。


そして、翌日、旅行に出発。楽しんで欲しいものです。






ここからは、あくまでも作者の個人的な意見ですが、最近の主人公の薄っぺらい正義論にはうんざりです。自分は正義、敵は悪、悪は死ね。正義の為なら、何をしても良い。


こんなのが正義ですか? むしろ、テロリストの考え方ですよ。敵を殺して何とも思わないどころか、正しい事をしたと勝ち誇る主人公には、ゾッとします。


確かに、ハルカは強いです。真の魔王の身体を持つ、天才です。しかし、元は一般人。戦いだの、殺しだのとは無縁に生きてきました。いかに、ナナさんに鍛えられたとはいえ、そう簡単には割り切れません。それが普通ですよ。


まぁ、下手な上に、そんな事を言っているから、この作品はウケないんですが。それでも、最近の狂った主人公を出すよりはマシと思っています。


では、また次回。



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