表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と魔女さん  作者: 霧芽井
111/175

第110話 ハルカの東方騒動記 二柱神降臨

 安国side


「何だ、ありゃ?!」


 ナナ姐さんと、メイドの嬢ちゃん、姫さんが出発した後、大桃城の広場で炊き出しをしていたら、突然、上空に3つの黒い巨大な球体が飛んできやがった。周りの連中も突然現れた、奇妙な物体を見て騒いでいる。おい、まさかあれは……。


 無性に嫌な予感がした。しかも、これが大当たり。ったく、こんな所で当たるなよ! どうせ当たるなら、宝くじの一等前後賞が当たれよ! だが、現実って奴は非情でな。とうとう、恐れていた事態が起きちまった。


 3つの黒い球体は接近すると、あちこちに切れ目が入り、変形合体し、そして現れたのが全身真っ黒な異形の『巨人』。そう、蒼辰国に伝わる伝説の『巨人』が遂に完全復活しやがった。……ヤバいぞ、これは。当然、周りの連中も騒ぎ始める。姐さん、嬢ちゃん、早く決着を付けてくれ。パニックが起きたら、おしまいだぞ。







 美夜姫side


 とうとう復活してしまった、伝説の『巨人』。ずんぐりとした、首の無い身体。短く、がに股の足。異様に長い腕。空中に浮かぶその姿は正に異形。この世の者ならざる存在だと、否応なしに思い知らされる。む、降りてくる。


『ぼさっとしてるんじゃない! 逃げるよ!』


 ナナ殿に抱えられ、急いでその場から離れる。そして、轟音を上げ、『巨人』が着地した。伝説はやはり、話が盛られていたのか、天を衝く程の大きさではなかった。しかし、それでも巨大である事に変わりはない。その巨大さ故の質量。それは単純にして、恐るべき脅威となる。しかも、強力な武装を色々備えているらしい。かつて、初代(みかど)と初代将軍の覇業を成した源たる『巨人』。だが、なんとしても打ち倒さねばならぬのじゃ!


 すると、巨人の顔? 辺りから光が放たれた。すわ、攻撃かと思いきや、違ったようじゃ。その光の中を吸い上げられる様に、上昇していく女。妾から『巨人』の要を奪った女にして、妾の父方の従姉妹たる女。やがて、『巨人』の顔辺りから中に吸い込まれる様に、姿を消した。


『どうやら、中に乗り込んだみたいです』


『そうだろうね。あれは本来、誰かが乗り込んで操縦する兵器なんだろう』


 その光景を見てハルカ殿とナナ殿が解説してくださる。あの『巨人』は人が乗る物であったのか。だが、感心している暇など無かった。


『やっと、手に入れたわ。これこそ、私がずっと求めていた力よ! この力で私は世界を変えてやるわ! 私の正しさを認めない今の間違った世界なんて、消えて無くなれ! まずは手始めに……死ね! 美夜姫!』


 聞こえてきたのは、あの女の声。世界を変えるだの、私の正しさを認めない世界を消すだの、およそ、正気の沙汰ではない事を喚き散らしている。それだけなら、まだしも、妾に明確な殺意を向けてきた。『巨人』の長い右腕が振り上げられ、一気に降り下ろされる! 直後、凄まじい轟音と地響きと共に、辺りが滅茶苦茶に破壊されてしまった。だが、ナナ殿が妾とハルカ殿を抱えて、空中に逃れてくれたおかげで、命拾いをした。危ない所であった。しかし、何という力じゃ。正に怪物じゃ。


『全く。まずい事態だね。秘密裏に全てを闇に葬り去るのが理想だったんだけどね。全て台無しだよ。ここまで派手な事態になったんじゃね。今さら、ごまかせないよ』


 空中で妾とハルカ殿を抱き抱えながら、ナナ殿は苦い表情を浮かべる。確かに、ここまでの騒ぎになってしまっては、もはや、周知の事実。ごまかし、隠しだては無理じゃ。


『ナナさん。もう、ある程度バレるのは仕方ないと、割り切りましょう。あれは早く倒さなければダメです。失礼ながら、蒼辰国の戦力じゃ無理でしょう。僕達がやるしかありません』


 そこへハルカ殿がナナ殿に対し、『巨人』を倒すべきと進言。ハルカ殿の言う通り、我が国の戦力では『巨人』は到底、倒せぬ。あれはこの世界の物ではない。異世界の兵器。今この場で対抗出来るとすれば、ナナ殿とハルカ殿しかあるまい。しかも、そうのんびりとはしておれぬ様じゃ!


『ちっ! 逃げ足の速い! さっさと死ね!』


 先ほどの攻撃で妾を殺せなかった事が気に入らなかったらしく、再び、『巨人』の腕を振り回してきた。ナナ殿は軽くかわすが、その風圧だけでも強烈。当たったら、即死は免れまい。


『クソ! 避けるな! 死ね!死ね!』


 攻撃が当たらぬ事に業を煮やしたのか、やっきになって『巨人』の腕を振り回してくる。まぁ、それでもナナ殿には当たらぬが。そもそも、的が小さいしのう。ただ、さっきから腕を振り回すばかりじゃのう。他にも兵器を搭載しているはずじゃが。もしや、あやつ、まだ『巨人』の操縦が上手く出来ぬのか?


『あの人、まだ『巨人』を上手く操縦出来ないみたいです。さっきから腕を振り回すばかりで、他の攻撃をしてきませんし』


 ハルカ殿も同感らしい。ナナ殿にその事を指摘する。


『おそらく、そうだろうね。いきなり上手く操縦出来るはずがない。殺るなら今のうちか。ハルカ、美夜姫を連れて大桃城に向かえ。こいつは私が殺る。急げ!』


 ナナ殿はハルカ殿に妾を連れて逃げる様に指示。そして自分は『巨人』を倒すと。あの女がまだ上手く『巨人』を操縦出来ない内に倒さねば危険じゃ。搭載された兵器を使われたら、大変な事になる。だが、妾にも出来る事が有るのじゃ。


「申し訳ないが、妾はここに残る。あやつは妾に対し、強烈な殺意を抱いておる。もし、妾が逃げれば必ずや後を追ってくる。そうなれば被害が広がる。あやつの足止めの為にも、妾は残る。その代わり、ここで『巨人』を討つ」


 あの女、妾を殺そうと躍起になっておる。今、こうして話している間も、執拗に『巨人』の腕を振り回してな。ちなみに、未だに妾とハルカ殿はナナ殿に抱えられて空中におる。この状態で会話出来る状態を維持しつつ、攻撃をかわし続けるナナ殿は誠に凄いお方じゃ。伝説の魔女の名は伊達ではない。


『……分かった。確かにあんたの言う通り、あいつの足止めにはあんたが最適だ。その代わり、死ぬんじゃないよ』


「承知しておる!」


『無理しないでくださいね?』


 ナナ殿はしばしの沈黙の後、妾の申し出を了承。ハルカ殿も気遣いをしてくださる。ますます死ぬ訳にはいかぬ。


「言われずとも。妾はそこまで思い上がってはおらぬ。幸い、空中移動用の靴を履いてきた。武器も有る。何としても、今日ここで『巨人』を討つ。有ってはならぬ過去の遺物を葬るのじゃ!」


『巨人』。あれはこの世に災いしかもたらさぬ。かつて、初代(みかど)や、初代将軍が封印したのも納得じゃ。ならば、妾は『巨人』を葬り去ってくれるわ! ナナ殿、ハルカ殿も戦闘体勢に入り、鞭を手にする。妾も薙刀を手に、構える。


「忌まわしき過去の遺物を復活させ、罪無き民草を傷付け、殺した罪、断じて許さぬ! 成敗してくれる!」


 いざ、勝負じゃ、『巨人』!







『ハルカ、私に合わせな!』


『はい!』


 一番槍はナナ殿とハルカ殿の師弟。息の合った連携で鞭を振るい『巨人』を狙う。敵のダンゴムシ型兵器やエイ型兵器を一撃で粉砕するその威力は折り紙付きじゃ。その一撃は『巨人』の装甲を打ち砕く。しかし、『巨人』もさるもの。


『再生しました!』


『ちっ! 自己修復機能か』


 鞭で打ち砕かれた部分から黒い粘液が染み出し、たちどころに元通りに修復してしまったのじゃ。まるで生き物じゃ。これでは少々の攻撃では通じぬ。厄介な相手じゃ。しかも、更に厄介な事態が起きてしまった。


『本当に鬱陶しいわね、虫けら共が! でも、いつまでもここにいて良いのかしら?』


『巨人』を操縦する、あの女が不気味な事を言い出した。もしや、こやつ! 妾の危惧が現実となる。


『大桃城はどうなっているのかしらねぇ? 確か、避難民が大勢集まっているんでしょう? そこに襲撃なんか受けたら、大変よね?』


『ハルカ! 大桃城へ行け!』


 それを聞いてナナ殿は即座にハルカ殿に指示を出す。ハルカ殿は返事もせず、大急ぎで大桃城へ向かう。おのれ、戦力不足がこんな形で祟るとは! ハルカ殿、間に合ってくだされ!







 安国side


『巨人』が復活したものの、幸い姐さん達が頑張っているらしく、目下の所、直接的な被害は無い。だったら、俺は俺の出来る事をするだけだ。大鍋で炊き出しの料理を作っては避難民に振る舞っていた。しかし、現実って奴は甘くなくてな。


「ん? 何かうるせぇな」


 炊き出しの料理を配っていたら、何か騒がしい。確か、あっちは城門の辺りのはずだぞ。侵入者を防ぐ為、封鎖したはずだが。そこへ突然の爆発音。まさか! 城門が破られたのか? 俺はその場を他の調理担当の奴に任せ、爆発音のした方へと走る。だが、敵の方が早かった。人間サイズの蜘蛛みたいな機械兵器がわんさかやってきやがった! クソッ! 姐さんと嬢ちゃんのいない隙を狙ってきたか!


 突然、襲ってきた蜘蛛型兵器のせいで広場は完全にパニック状態。こんな状態では大桃城の防衛部隊も満足に戦えない上、相手は機械兵器だ。一方的に殺られるばかり。


「危ねぇ!」


 転んだガキに鋭く尖った脚を突き立てようとしていた所を、すんでで受け止める。しかし、なんてバカ力だ。全身の筋肉が関節が悲鳴を上げる。


「おじさん!」


 ガキが叫ぶが、悪いがこちとら、それどころじゃねぇ。


「逃げろ! 急げ!」


 とにかく逃げろと告げる。そこへ調理担当の一人が来たので、ガキを託す。


「あんた! そのガキを連れて逃げろ!」


「はい! ほら、行くよ坊や!」


 手を引かれ、逃げていくガキ。そうしている間にも、蜘蛛型兵器は破壊と殺戮を続ける。


「……調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソが!!」


 掴んだ脚を持って振り回し、他の蜘蛛型兵器にぶつけてやる。さすがの蜘蛛型兵器も同じ奴をぶつけられたら効くらしく、両者共にひしゃげて火花を散らし動かなくなる。やたら固く、攻撃が通じないが、逆にその固さを利用してやった。しかし、こんな真似が出来るのは俺ぐらいだ。もっと、楽な手を考えないとな。……そうだ!


 閃いた俺は、今しがた倒した蜘蛛型兵器に向かう。


「貰うぜ!」


 そして蜘蛛型兵器の脚の先端を関節部分でへし折る。よし、武器が出来たぜ。太い槍って感じだな。試しに蜘蛛型兵器の装甲を突いたら、ちゃんと刺さった。これなら使える。出来れば、もっと欲しいが、今はそれどころじゃねぇ。即席の槍を手に、蜘蛛型兵器に立ち向かう。







「クソッ! キリがねぇ!」


 必死に抵抗を続けるが、数の暴力には勝てない。しかも不意討ちときたもんだ。味方は次々と殺られ、俺達は城内の倉庫にまで追い詰められていた。今は倉庫のたった1つの入り口の前で、襲ってくる蜘蛛型兵器を相手に、奮闘中だ。


「おらぁっ!」


 襲ってきた蜘蛛型兵器の頭に、即席の槍を突き刺し、即座に蹴り飛ばす。もう、何体目か忘れちまったぞ。その俺のすぐそばでは、同じく奮闘している人がいた。


「ふっ!」


 短い掛け声と共に、流れるような華麗な太刀筋で固い蜘蛛型兵器を切り刻む。


「ふぅ……全く、キリが有りません」


 両手に南方由来の偃月刀を持ち、戦っているのはここ、大桃藩の藩主。アプリコット・素桃だ。他の奴らが次々と殺られる中、偃月刀を手に出てきた時はびっくりしたぜ。偃月刀で蜘蛛型兵器をバッサバッサと斬り捨てるから、またびっくりしたぜ。しかし、多勢に無勢は変わらねぇ。もはや、この場で戦えるのは俺達だけだ。しかも、そろそろ限界が近い。


「安国……殿。まだ…いけますか?」


「そう言う……あんたこそ……どうなんだよ?」


 お互い、いい加減息が上がってきている。頼みの姐さんと嬢ちゃんはまだ帰ってこねぇ。まずいな。年貢の納め時ってか? 笑えねぇ。だが、そんなもん、お構い無しに敵はやってくる。倉庫の中に隠れているのはガキ共が大部分。今、俺達が殺られたら、確実に皆殺しにされるだろう。


「まだまだ……やれるぜ。パティシエをナメんな!」


 今、ここで殺られる訳にはいかねぇ。精一杯の虚勢を張る。もっとも、藩主さんにはバレバレみたいでな。


「パティシエは関係無いと思いますが」


 苦笑されながらも、彼女も偃月刀を手に改めて構える。また、新手が来たからな。と、そこへ待ち望んでいた相手が来た。


「やっと来たか! 嬢ちゃん!」


 空中を駆けてやってきたのはメイドの嬢ちゃん。よし、これで流れが変わる。そう思っていた矢先。


「安国殿! あれを!」


 突然叫ぶ、藩主さん。その視線の先には、空中に浮かぶ大量のデカいフグみてぇなのが。ここで新手の兵器かよ!しかもこちらに向かって突っ込んでくる。 嬢ちゃんもそれにしても気付き、応戦する。ところが……。


 フグ型兵器がいきなり爆発しやがった。刺激を受けると爆発するらしい。要はデカい爆弾だ。これじゃ、下手に攻撃したら逆効果だ。嬢ちゃんは自分を囮に何とかフグ型兵器を大桃城から引き離し戦う。しかし、これじゃ、嬢ちゃんの助っ人は期待出来ねぇ。


「クソッ! やってくれるぜ」


「せっかくの助っ人が……」


 やっと来た希望が潰されてしまった。嬢ちゃんはフグ型兵器の相手をせねばならず、姐さんは『巨人』の相手。冗談抜きにもはや、これまでか。覚悟を決めたその時。聞こえてきたのは、間の抜けた、変な歌だった。







「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 変な歌と踊りをしながら出てきたのは、1匹のデカい三毛猫。嬢ちゃんが面倒を見ていた奴だ。倉庫の中にガキ共と一緒にいたらしいが、なぜか出てきた。そういや、こいつ年寄りで、頭がボケているって嬢ちゃんが言ってたな。って、それどころじゃねぇよ! 何やってんだこいつは! ここは戦場だぞ!


 今、この場は蜘蛛型兵器が次々と襲ってくる戦場だ。こうしている間も、敵が次から次へとやってくる。そんな戦場の真っ只中で歌って踊ってやがる。頭ボケ過ぎだろうが。助けてやろうにも、そんな余裕は無い。そこへ、新手の蜘蛛型兵器。こちらに向かってくるが、その先にはボケ猫。このままじゃ、踏み潰されるぞ! しかし、当のボケ猫は状況が理解出来ないらしく、未だにバッコッコ、バッコッコと訳の分からない歌と踊りを繰り返すばかり。そして、まさに踏み潰されそうになったその時。


 ジ…ジジ……ピー、ガ……ガ……


 突然、蜘蛛型兵器からノイズが聞こえ、更には爆発音と共に煙を吹き出し、動かなくなった。


「何だ? いきなり故障か?」


 突然の異常事態に驚く。一方、ボケ猫は危うく踏み潰される所だったのに、相変わらず踊ってやがる。


「突然の故障でしょうか?」


「さぁな」


 他の蜘蛛型兵器と戦いながら、俺と藩主さんはさっきの異常事態について話す。だが、異常事態はそれだけじゃなかった。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪」


 あっちで蜘蛛型兵器が突然、煙を吹き出し動かなくなる。


「へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 向こうで蜘蛛型兵器が同士討ちを始める。


「どうなってんだ? ありゃ」


「突然の故障にしては不自然です。こうも次々と故障しては、兵器として失格です」


 蜘蛛型兵器が次々と故障する異常事態に、俺と藩主さんは顔を見合わせる。一体、何が起きてやがる? だが、見ていて気付いた。あのボケ猫に『危害を加えよう』とした奴が故障している。なぜかは分からねぇがな。








 美夜姫side


 ハルカ殿が行った後、妾とナナ殿は改めて、『巨人』と対峙していた。しかし、どうにも決め手に欠ける。ナナ殿が鞭を振るい打ち砕いても、妾が薙刀を振るい、風の刃で斬り裂こうとも、『巨人』はたちどころに修復してしまう。これを葬るとなると、大変な火力が必要じゃ。


『ちっ、めんどくさいデカブツだね』


 ナナ殿も『巨人』のしぶとさにイラついている。


「ナナ殿、何かあやつを一撃で消し去る魔法とかは無いのか?」


 妾はナナ殿に『巨人』を葬る手は無いのか聞いてみる。


『無くはないよ。でもね、結構な大技になるからね。それに、私が倒しては後々、面倒でね。理想としてはあんたに倒して欲しいんだけど』


 対する答えは、出来るらしいが、後々の事を考え、妾に倒して欲しいらしい。随分と難しい事を言われる。それに、本心ではナナ殿は我が国など、どうでもよいと思われておるのだろう。本人自身、正義のヒーローではないと言われたからのう。


「承知した。なんとしても『巨人』を討ち取ってみせようぞ!」


 まぁ、ナナ殿の本心がどうあれ、『巨人』は討ち取らねばならぬ。でなければ、我が国は滅ぶ。しかし、事態は更なる悪化を辿る事に。


『さっきから、チョロチョロ逃げ回って! それに、上手く操縦出来ないし! 何が伝説の『巨人』よ! デカいだけの役立たずじゃない!』


『巨人』を上手く操縦出来ず、未だに妾達を殺せぬ事にイラついているらしい女。見苦しいのう。そもそも、異世界の兵器をいきなり上手く操縦出来る訳があるまい。


 その時であった。突然、機械音声が聞こえてきた。


『搭乗者のデータ取得完了。第二フェーズに移行。搭乗者のシステム融合開始』


 それは『巨人』から聞こえてきた。しかもその内容は明らかに、搭乗者の命を無視するものであった。確かに聞いたのじゃ。『搭乗者をシステムに融合する』と。まさか、搭乗者を『巨人』の一部として取り込む気か! 皮肉にも妾の予想は的中。直後、あの女の断末魔の悲鳴が聞こえてきた。


『ちょっと! 何よ、搭乗者のシステム融合って……ギャアアアアア! 痛い!痛い! 嫌! やめ!』


 声が聞こえたのはそこまで。後は肉の引き裂かれる音。何かをかき混ぜるグチャグチャという音。固い何かが折れたり、砕けたりする音が聞こえてきた。


『バカな奴だね。得体の知れない兵器なんぞに手を出すからさ』


「全く同感じゃ。やはり、『巨人』は世に出してはならなかった。自業自得じゃな」


 愚かな事に、あの女は『巨人』に取り込まれてしまったらしい。人の手に負えぬ力を手にした者の哀れな末路じゃ。なぜ、初代(みかど)や、初代将軍が封印したか分からなかったのか? 危険だからに決まっておろう。自分なら使いこなせると思い上がったか。


『美夜姫。気を付けな。これまでとは別物と思え』


 そこへナナ殿からの警告。


「分かっておる。人間を取り込み、下手くそな操縦者がいなくなった事で、より強くなっておるのじゃろう?」


 妾は以前、人間を生け贄とする事で高い性能を発揮する古代の邪法の兵器を聞いた事が有る。それと同じような物じゃろう。


『そういう事、ちっ!』


 妾の答えに相槌を打とうとしたナナ殿が、急に妾の腕を掴み急上昇。それとほぼ、入れ替わりに飛んできたビーム。さっきまでは使ってこなかった攻撃じゃ。


『とりあえず、上空へ行くよ! ここでやったら、地上がただじゃ済まない!』


 そう言うやいなや、ナナ殿は妾を連れて、上空へと一気に飛ぶ。『巨人』もまた、同様に上空へと追いかけてくる。執拗なビーム攻撃も交えて。


『大した執念だよ。『巨人』に取り込まれはしたが、あんたを殺そうという一点だけは貫いているみたいだね』


 上昇する傍ら、ナナ殿はそう言われる。


「確かにナナ殿のおっしゃる通りじゃ。あやつはそれほどまでに妾を。ひいては、将軍家を恨んでおったか」


 何とも嫌な気分じゃ。妾や、将軍家への復讐の為に、『巨人』などという過去の忌まわしき兵器を復活させ、挙げ句、取り込まれてしまった。それでもなお、妾を殺そうとしてくる。


『ごちゃごちゃ、うるさいよ。覚えときな。権力者って奴は恨まれてなんぼ。清廉潔白な組織なんて無い。あんた、次期将軍だろ? 今からそんな事言ってどうする。そんなんじゃ、将軍なんて務まらないよ。恨みや、憎しみを受けてなお、幕府を。国を支えていかなきゃならないんだからね』


「父上もそうだったのであろうか?」


『まぁ、そうだろうね。昔っから、権力者ってはそういうもんさ。間違っても素晴らしいものなんかじゃない。権力者の座に着いたは良いが、こんなはずじゃなかったと嘆く奴らを私は何人も見てきたよ』


 会話をしつつ、ナナ殿は妾を連れて上空へとひたすら飛ぶ。下手に戦えば、地上に大きな被害が出ると。そして、遂に妾達は雲の上へと出た。


『この辺りにするかね。気合いを入れて掛かりな!』


「うむ。ここで終わらせるのじゃ!」


 少し遅れて雲を突き抜け現れた『巨人』。こちらに腕を向けてくる。その先に収束する光。砲撃を放つ気か。


『させるか!』


 ナナ殿が鞭を振るい、その腕を打ち据える。体勢が崩れた所へ、妾が縦横無尽に薙刀を振るい、風の刃を徹底的に叩き込む。更にそこへナナ殿の鞭。高速再生するならば、それ以上の速さで破壊するまでじゃ。さすがの『巨人』も再生が追い付かなくなってきた。


 ……と、思ったのじゃが。妾達は『巨人』を甘く見ていた。


 突然、『巨人』が爆発を起こした。


「やったか?」


『ちょっと! そういうのはフラグだから!』


 妾とナナ殿の攻撃が効いていた様子に加え、『巨人』が爆発した事もあり、遂に仕留めたかと思った妾。だが、ナナ殿は良い顔をしない。そして、ナナ殿は正しかった。


『やっぱり、フラグだったね。嫌になるよ』


 爆煙が晴れるとそこには、新たな姿となった『巨人』がいた。それまでの鈍重そうな、ずんぐりとした姿から、全体的にほっそりとした姿に変わっていた。しかも、これまでの攻撃が効いた様子が無い。


『恐らく、あれが本来の姿なんだろう。余計な物を捨てて身軽になったか』


 ナナ殿の説明に絶望的な気持ちになる。なんという事じゃ。







 新たな形態へと変化した『巨人』。一体、いかなる能力を持っているのであろうか? すると、巨人の顔辺りの装甲が開く。直後、放たれる黒い玉。ナナ殿のおかげでかわしたが、恐るべきはその能力であった。黒い玉が当たった雲のその部分が『切り取られた』様に消えたのじゃ。それを見て、ナナ殿が険しい表情を浮かべる。


『何て奴だい。『空間を抉り』やがった。美夜姫、あいつの攻撃は受け止められない。絶対に避けろ!』


 何だか知らぬが、『巨人』の攻撃は防御不可能らしい。と、そこへ『巨人』が腕を振り回してきた。妾とナナ殿は慌ててその場を離れる。そして、妾は反撃の風の刃を放つ。


『バカ! 下手に攻撃するな!』


 ナナ殿の叱責。なぜかと問う前にその意味を思い知らされた。放った風の刃が突然消え、背後から飛んできた。まずい! 当たる! そう思った矢先、風の刃が軌道を変え、空の彼方へと消えていった。更に竜巻が起こり、『巨人』を巻き込む。


「危ない所だったわね」


 そこへ聞こえてきた声。最近、聞いたばかりのこの声は。


『ふん、来るなら、もっと早く来な』


 ナナ殿もその声の主に、文句を付ける。そこにいたのは四聖獣の一角、東方の守護者。青龍様じゃった。


「助けに来たのに、何よ、その言い種。さすがにこの事態は見逃せなくてね。東方の守護者の義務に従い、加勢するわよ」


 青龍様が助っ人に加わってくださった。何とありがたい事か。しかし、事態はそんなに甘くはなかった。突然、竜巻が消し飛ばされ『巨人』が姿を現す。


「呆れた頑丈さね。無傷なんて」


 竜巻に巻き込まれたにもかかわらず、『巨人』は無傷であった。その事に青龍様も驚く。


 そこへ『巨人』の手に現れた巨大な剣。それが振るわれる! その威力は凄まじいの一言。その先に有る雲がことごとく、真っ二つに。こんな物が地上に向けて振るわれたら、地上は壊滅じゃ!


『良いかい! 絶対に地上に向けて攻撃させるんじゃないよ! それと、通常の攻撃は通じない。あいつ、空間を操る。下手に攻撃したら、返って来るよ!』


 ナナ殿が巨人との戦いについて注意される。空間を操るとは。妾の攻撃が返って来たのもそれか。まるで魔法じゃ。『巨人』は科学の産物のはずじゃが。


「面倒な奴ね。まぁ、少なくとも大桃城は大丈夫と思うわ。『大聖様』がいらっしゃるから」


『大聖様』? 初めて聞く名が気になったが、それどころではなかった。再び『巨人』が攻撃してきたからじゃ。


『美夜姫、あんたは下がってな。空間操作能力を持つあいつには、同じく空間操作を使える奴じゃなきゃ、歯が立たない』


 ナナ殿はそう言い、青龍様と共に『巨人』に立ち向かう。


『喰らいな!』


 ナナ殿が本来の武器であるナイフを振るうと、『巨人』の腕が細切れとなる。


「砕けなさい!」


 青龍様の蹴りが炸裂し、『巨人』の胴体が砕かれる。


 しかし、それでも『巨人』は止まらない。破損した部分がたちどころに再生し、口から黒い玉を放ち、巨大な剣で斬りかかる。妾も戦いたい。しかし、空間を操る能力を持たぬ妾には『巨人』と戦えぬ。かといって、逃げる訳にもいかぬ。『巨人』は妾を殺そうとしておる。もし、妾がこの場を離れたなら、必ずや追ってくる。故に離れられぬ。


「何と情けない事か」


 妾は自分の無力さを痛感した。ナナ殿や青龍様に及ばぬ事など分かってはいるが、それでもそう思うばかりであった。






「名無しの魔女。あんた、何か大技であいつを消し飛ばしなさいよ」


『ふん、その言葉そっくり返してやるよ』


 空中でお互いに悪態を突く、ナナ殿と青龍様。その先には相変わらず『無傷』の『巨人』。ナナ殿と青龍様の猛攻を受けてなお、健在であった。頑丈にも程が有る。これを完全に破壊するとなれば、周りの受ける影響もまた、大きなものとなる。それ故に、お二方も攻めあぐねていた。しかし、ここで事態は大きく動いた。突然、『巨人』が消えた。その事に驚くお二方。そして、それは戦場において致命的な隙となる。


 消えた『巨人』はお二方の背後に現れた。空間転移じゃ! それさえ出来るのか。巨人の口から放たれようとする黒い玉。避けるには間に合わぬ! 何とか止めようと薙刀を振りかぶる。だが、それが振るわれる事は無かった。なぜなら。


『突然、『巨人』がバラバラに切り裂かれたからじゃ』


 しかも斬られた破片はボロボロに崩れ去り、塵となって消えたのじゃ。あれだけの再生力を持つ『巨人』があっさり倒された。突然の事態に妾もナナ殿も青龍様も顔を見合わせる。だが、その答えはすぐにもたらされた。


「やれやれ、久しぶりに下界に来てみれば、とんだ騒ぎですね」


 そこには巨大な黒い鎌を持った女がいたのじゃ。


「とりあえず、挨拶はしましょうか。私は真十二柱が序列五位。暗黒神アンジュ。お見知りおきを」







 ハルカside


「全く、嫌らしいにも程があるよ」


 ナナさん達に『巨人』を任せ大桃城に戻ってきたものの、新手のフグ型兵器の対応に追われる事に。それ自体が爆弾である為に、大桃城の近くでは戦えず、やむを得ず、離れる事に。


 しかし、あまり数が多い。前回の戦いの比じゃない。一体、どうやって、こんなにたくさんの兵器を用意したんだろう? 資金に物資、時間に施設。今回の事件はあまりに不自然だ。でも、今はそれどころじゃない。必死に鞭でフグ型兵器を破壊する。でも、ついに討ち洩らしが出た。そいつは一直線に大桃城を目指す。撃墜しようにも、他にも次々と襲ってくる。このままじゃ、大桃城が! 脳裏に浮かぶ惨劇。まさにその時。


『フグ型兵器が内側から吸い込まれる様に潰れて消えた』


 見れば、他のフグ型兵器も同様に潰れて消えていく。そして全滅してしまった。


「……どうなっているの?」


 思わず呟いた僕。すると背後から、それに答える声が。僕以外、誰もいないはずの空中で。


「全く、久しぶりに下界に来てみれば、騒がしい。つまらないガラクタは始末してやったぞ。感謝しろ」


 その声に振り返れば、そこには1人の女性がいた。


「こうして会うのは初めてだな。名乗らせてもらおう。私は真十二柱が序列二位。魔道神クロユリ。ハルカ・アマノガワ、お前に恨みは無いが死んでもらう」




長らくお待たせしました。第110話です。遂に復活した『巨人』。空間を操る能力を持つ強敵。青龍が助っ人に来ましたが、それでもなかなか倒せない。


しかし、その『巨人』を瞬殺した者が。その名は真十二柱が序列五位。暗黒神アンジュ。


一方、その頃、爆弾であるフグ型兵器の数の暴力に苦戦するハルカ。そのフグ型兵器を一掃したのが、真十二柱が序列二位。魔道神クロユリ。彼女は登場早々、ハルカの殺害を宣言。ハルカの運命やいかに?


そして、不思議な三毛猫バコ様。一体、何者なのか?


では、また次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ