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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第109話 ハルカの東方騒動記 大桃藩防衛戦 後編

 前回より時間を遡る。


 遂に始まった、敵の大桃藩侵攻。空からはエイ型の兵器が爆弾を投下。更に降下兵も。地上は地上で、海から上陸してきた巨大なダンゴムシ型兵器と上空から降下してきた歩兵が蹂躙していた。大桃藩の部隊も抵抗しているものの、戦力の差。そして数の差で押し切られ、やられる一方だ。


 ぶっちゃけ、私としては大桃藩がどうなろうが、知った事じゃないんだけど、ただ、ちょっと鬱陶しいんでね。調子に乗っている奴らを潰す事にした。その際、美夜姫と、大桃藩の藩主であるアプリコットからえらく感謝されたよ。別にあんた達の為じゃないんだけど。ま、ハルカが喜んでいたから良し。


 ただ、私とハルカは表向きは『観光』名目で来ているからね。正体を隠す為、服装を変え、クマの被り物を被って顔を隠す。武器も愛用の物は使わず、別の物を用意。こと、ハルカに至ってはトレードマークと言える氷魔法の使用を禁じた。


 そして、私と美夜姫は空の敵を落とす。ハルカは拠点である大桃城の防衛、地上の敵の撃破と役割分担し、出撃した。






『へぇ、飲み込みが早いね。初めての空中移動なのに、ここまで出来るとはね。大したもんだよ』


「ふむ、ナ……クマモト殿にそう言って頂けるとは光栄じゃ。しかし、便利な靴じゃ。この事件が解決した暁には、ぜひ譲って欲しいのじゃ」


『ふん、まぁ、無事に終わったらね』


 軽口を叩いてはいるが、私は内心、美夜姫の才能に舌を巻いていた。私の作った、空中移動ブーツ。足元に力場を発生させる事で、地上同様に動ける品だが、うまく足場をイメージしないといけない。だが、美夜姫は初めて使うにもかかわらず、見事に使いこなし、空中をスイスイ上昇していた。高所恐怖症のハルカとはえらい違いだ。ハルカ、あんた7歳児に負けてるよ。後、美夜姫には私の事は偽名で呼べと事前に伝えておいた。正体がバレる訳にはいかなくてね。ちなみに、私はクマモト。ハルカはクマノだ。


 さて、どんどん上昇してきたが、そろそろ敵との交戦域に入る。油断して不覚を取るなんて、ダサい真似は出来ない。私にも師匠としての面子が有る。今回は正体を隠さねばならない為、愛用のナイフは使えない。魔法も極力使用を控えないといけない。全く、めんどくさい縛りプレイだね。


「クマモト殿、来るのじゃ!」


 美夜姫の切迫した声に我に帰る。いけないいけない。つい、余計な事を考えてしまったよ。見れば、エイ型兵器がこちらに向かってくる。数は三体。私は武器を取り出し、手に取る。血の様に赤い真紅の鞭を。


『良いかい、美夜姫。メインは私だ。あんたは無理するな。弱った奴を無理せず落とせ』


「承知した!」


 美夜姫も『青龍』から貰った新しい武器。青い刃の薙刀を手に構える。さて、私も殺るか。手にした鞭に魔力を通し起動させる。


『私より前に出るんじゃないよ! 巻き込んでも知らないからね!』


「分かっておる! 頼りにしておるぞ!」


 念の為、私より前に出るなと美夜姫に告げる。そうしている内に、エイ型兵器がかなり近付いてきた。さ、戦闘開始だ。手にした鞭を一気に振るう! 私の魔力を受けて長さと威力を増した鞭は容易くエイ型兵器を粉砕。空中で爆発炎上する。


 ふむ、この『紅滅鞭』我ながら、なかなか良い出来だね。ちなみにハルカに渡した『黒砕鞭』の3倍の威力が有る。赤いだけに。などと自画自賛している場合じゃないね。味方がやられた事で、他のエイ型兵器がやってきたよ。


『美夜姫、とりあえず弱らせた奴を1体任せる。殺ってみせな!』


「承知した!」


 私が全部落とした方が良いし、美夜姫には次期将軍という立場が有る以上、戦わせるのは身の安全からすれば悪手だ。しかしだ。あえて美夜姫を戦わせる事で、味方の士気を上げる意味も有る。実は、美夜姫の戦っているシーンを私は放映しようと考えている。国の次期将軍にして、わずか7歳の娘が戦っている。それを見て、他の連中はどう思うか? 子供が戦っている事にごちゃごちゃ言う奴もいるだろうが、少なくとも、自分だけ安全な所に隠れているよりは、好印象だろうさ。ともあれ、私は鞭を振るい、エイ型兵器を落とす。ただし、1機だけ、多少弱らせたぐらいで行かせる。


「よくも、好き勝手してくれたのう! 覚悟せい!」


 多少、弱らせたとはいえ、未だに戦闘能力を失ってはいない。美夜姫は油断する事なく、薙刀を構える。と、そこへ、機銃を撃とうとしてきたエイ型兵器。


「遅い!」


 とっさに飛び上がり、更にそこから、大上段から薙刀を降り下ろす。風の精霊王たる『青龍』の鱗を溶かし込んだ薙刀の刃から、風の刃が放たれ、エイ型兵器を一刀両断。機体が空中で2つに分断され爆発する。


『お見事』


「いや、クマモト殿があらかじめ、弱らせてくださったのと、薙刀のおかげじゃ。妾はそこまで思い上がってはおらぬ。さ、クマモト殿、どんどん敵を落としていくのじゃ!」


 つくづく、大したガキだよ。ぶっつけ本番で、薙刀に宿る風の力を使うとはね。普通は何年も厳しい修行をこなして、やっとなんだけど。このガキ、本物だ。生まれつきの『天才』だ。こりゃ、予定を多少、変更するか。


『美夜姫、予定変更だ。あんた思ったより、出来るんでね。どんどん落とせ。私が援護してやるから』


「良いのか?」


『正体不明の私より、次期将軍である、あんたが活躍した方が、世間に受けが良いからね。気合いを入れてやりな。ただし、無理はするな』


「承知した」


 話の分かるガキで助かるよ。これも、次期将軍としての英才教育の賜物か。もっとも、感心している場合じゃないね。敵も本腰を入れて、こちらを殺りに来た。


『美夜姫、ありゃ、完全な機械兵器。無人だ。だから遠慮は要らないよ』


「そうであったか。なら、心置きなく、落とせる!」


 エイ型兵器だが、全く魔力も生命力も感じなかった。完全な自律型機械兵器らしい。この世界じゃ、そんな兵器はまだ作れない。やはり敵は異世界の技術を手に入れているみたいだね。それも完全に科学サイドの。


 ともあれ、私は鞭を振るい、エイ型兵器を落としていく。美夜姫も、縦横無尽に空中を駆け回り、薙刀を振るってはエイ型兵器を切り裂き、落とす。ふと、地上を見れば、あちこちで爆発が起きる。どうやら、ハルカも頑張っているみたいだね。そこへ、ハルカから通信が。


『ナナさん、今回の敵ですけど、こいつら全部、機械です。ダンゴムシ型兵器も、上空からの降下兵も全部』


 ハルカも敵が全て、機械兵器であると気付いたらしい。ちなみに、私とハルカは念話を応用した匿秘回線を通じて会話しているから、普通に名前を呼ぶ。


『やはり、そちらもかい。ま、機械だから遠慮なく、ぶち壊せるから良いじゃないか。しっかり殺りな』


『はい。ナナさんも美夜姫様をお願いします』


 手短に話し、通信を終える。


『さて、私も頑張るかね』


 改めて、気合いを入れ直す私。向こうから群れを成してやって来るエイ型兵器に視線を向ける。


『かかってきな! 片っ端からスクラップにしてやるよ!』


 魔力を通し伸ばした鞭をエイ型兵器の群れめがけて振るう! 次々と打ち砕かれ、空中に爆炎の華が咲く。更に、横向きの竜巻が起こり、エイ型兵器をミキサーの要領で粉砕する。


「つくづく良い薙刀じゃ! 竜巻まで起こせるとは!」


 どうやら、竜巻は美夜姫の仕業らしい。末恐ろしいガキだ。……後々の事を考えたら、この場で殺しておいた方が良いかもね。


『ま、そうもいかないか。全く、世の中ままならないね』


 出来れば、後々の禍根になりかねないこのガキを殺しておきたいが、そんな事をしたら、ハルカが間違いなく怒る。私としては、ハルカに怒られたくないんでね。


『ちっ、運の良いガキだね』


 少し悪態を付きつつ、憂さ晴らしにエイ型兵器を鞭で粉砕していった。その後も、時折、休憩を挟みつつ、(その間は分身を代わりに出した)エイ型兵器を落とし続け、やがて夕方となった。上空から見る夕焼けというのは、なかなかオツなものだ。こんな状況でなければ、一杯やっていたんだけどね。さて、頑張った甲斐有ってか、エイ型兵器の姿はもう見えなかった。とりあえず、一段落したみたいだね。


「クマモト殿、敵はひとまず退いた様じゃな」


『まだ終わった訳じゃないが、そうみたいだね』


 薙刀を振るい、戦っていた美夜姫も私の所にやってきた。ひとまず、ハルカに連絡を取って、拠点の大桃城に戻るとするか。とりあえず、通信。素顔を隠すクマの被り物の通信機能でハルカと連絡を取る。


『ハルカ、こちらのエイは一通り落としたよ。そっちはどうだい?』


『こっちもダンゴムシ型兵器と歩兵を一通り、潰しました』


『そうかい。とりあえず、一旦合流しよう。大桃城で落ち合おう』


『はい』


 ハルカの方も、一通り片付いたらしい。腹も減ったし、疲れた。一旦、大桃城に戻り、休もうと思ったその時。突然、上空から閃光が。直後、小さな島が消し飛んだ。更にそこへ聞こえてきた声。その内容は、美夜姫が持つ、『巨人』の要のパーツを渡せというもの。明日の正午までに渡さなければ、先程の兵器による無差別攻撃を行うと。これはまずい事態になった。


『美夜姫、大桃城に戻るよ!』


 私は返事も聞かず、美夜姫を捕まえ、大桃城に急いで戻る。







 さて、戻ってきた大桃城だが、案の定、上を下への大騒ぎ。そりゃ、あれだけの威力の兵器を見せ付けられた上、明日の正午までに向こうの要求を飲まなければ、無差別攻撃を行うと予告されたんだ。


「ナナさん!」


 そこへ駆け寄ってきたハルカ。


「どうしましょう? 大変な事になってしまいました……」


 ハルカもこの事態のヤバさを理解し、顔色が悪い。大桃城内はマジでパニック寸前。一度起きてしまえば、もはや止められない。おしまいだ。せっかくボケ猫がふざけた歌と踊りで凡人共をなごませ、安国のハゲを始めとする調理班の炊き出しで多少は落ち着いてきていたのに、全て台無しだ。しかも、期限を切られた以上、時間が無い。


「……確かにこりゃ、まずいね。だが、今は飯が先だ。腹が減ってちゃ満足に動けないからね。ハルカ、あんたはもう済ませたのかい?」


「いえ、まだです。とてもそんな雰囲気じゃなくて」


 まぁ、ハルカは弱気な所が有るからね。こんな状況で呑気に飯を食べられる子じゃない。


「全く、仕方ないね。ほら、これ」


 取り出したのは私特製、パック入りゼリー。非常食として持ち歩いている、それをハルカと美夜姫に渡す。


「ありがとうございます。いただきます」


 キャップを開け、中身を吸うハルカ。腹一杯にはならないが、栄養面は完璧な品だ。美夜姫は初めてらしく、ハルカを真似て、おっかなびっくり吸う。ちなみにリンゴ味。ハルカが好きなんだよ。で、手早く食事を済ませ、今後どうするか考える。とにかく今は、騒いでいる凡人共をどうにかしないといけない。いざとなれば、私が魔法で強制的に眠らせるが。昔なら、皆殺しだけどね。








「で、結局どうするんだい? このままじゃ、収まりが付かない」


 パック入りゼリーで手早く食事を済ませた美夜姫に私は尋ねる。全く、やってくれるね。私が美夜姫の戦っているシーンを放映し、士気を高めようとしていたのに、それを潰す様に、敵はわざわざ美夜姫に対し、名指しで要求してきた。そして敵の目的が美夜姫の持つ品だと周囲に知れ渡ってしまった。事実、美夜姫を出せと騒ぐ連中がいる。私の問いかけに対し、美夜姫は決断を下す。


「……こうなったのは元を正せば妾の責任。ならば、妾が出るしかあるまい」


 この事態は自分に責任が有る。故に自分が出ると言い出した。


「でも、今、人前に出たらどうなるか。最悪、殺されるかもしれませんよ!」


 そんな美夜姫に、ハルカが人前に出る事の危険を説く。まぁ、あの状況を見て、ヤバいと思わない方がおかしい。


「ハルカ、確かに今、美夜姫が人前に出るのはヤバい。しかし、敵がわざわざ美夜姫の名前を出し、大勢に聞かれてしまった。この状況をどうにかするには美夜姫が出るのが手っ取り早い。美夜姫がどうなるかは知らないけどね」


「ナナさん!」


 私の言いぐさにハルカは怒るが、間違った事は言っていないつもりだ。誰かが責任を取らねばならない。その結果、どうなろうとも。そこへ美夜姫も語る。


「ハルカ殿、気持ちはありがたいが、ナナ殿の言う様に、騒ぎを収めるには妾が出るのが一番じゃ」


 美夜姫にそう言われてはハルカも黙るしかない。


「もっとも、ただ人前に出る程、妾もバカではない。ナナ殿とハルカ殿にも協力を願いたいのじゃ。実はの……」


 美夜姫から、協力の内容について聞かされる私とハルカ。やれやれ、何ともしたたかなガキだね。まぁ、良いさ。付き合ってやるよ。







 美夜姫との打ち合わせに従い。少し離れた場所で待機中。その間に準備を進める。幸い、すぐに済む。後は美夜姫に呼ばれるのを待つだけだ。そして、私達は美夜姫の方の様子を伺う。


『ハルカ、もしもの事態が起きたら、私が足止めするから、即、美夜姫を回収するんだよ』


『分かりました。出来れば、そうならないで欲しいですけどね』


 物陰から、美夜姫の方の様子を伺いつつ、もしもの事態にも備える。当の美夜姫は単身、騒いでいる連中の前に姿を現した。当然、騒ぎが起きる。まずいね、こりゃ、介入すべきか? 検討していると、美夜姫が騒いでいる連中に一喝!


「静まれぃ!!!!」


 たったその一声で、それまで騒いでいた連中が一斉に静かになる。しかし、何て大声だよ。ここまで声が響いてきた。単にでかい声じゃない。凄い気迫が籠められている。あれで7歳だってんだから、恐れ入る。そして、騒いでいた連中が静かになった所を見計らい、美夜姫は話を始めた。……上手くやるんだよ。







「皆の者、此度の一件、まずは謝罪させてもらう。妾がここ、大桃藩に来たがゆえに、奴らは攻撃を仕掛けてきた。その結果、多くの犠牲が出てしまった。全ては妾の不徳が招いた事。誠に申し訳ない」


 美夜姫はそう話すと、その場で土下座をして詫びた。だが、それで収まる程、甘くないのが現実。案の定、ふざけるなとか、何だかんだと罵詈雑言が浴びせられる。更には、物を投げつける奴まで。まずい、暴動が起きる前触れだ。ハルカも察し、出ようとしている。そんな中、美夜姫は顔を上げる。そして、あれこれ投げつけられながらも、一切臆する事なく話し始めた。


「そなた達の怒り、憎しみはもっともじゃ。だが、聞いて欲しい事が有る。極めて重大な話じゃ」


 美夜姫の真剣な表情に押されたのか、凡人共が再び静まる。で、静まったのを見計らい、美夜姫は重大な事を話した。


「皆の者。良く聞くのじゃ。先日、妾の父上。第十五代将軍、華乃原 清道が暗殺された。そして、妾も殺される所であった」


 美夜姫は直球勝負に出た。下手に隠しだてをせず、事実を話した。その効果は正に抜群。凡人共はあからさまに動揺し始めた。そりゃ、そうだ。国のトップである将軍が殺されたなんて聞かされたんだからね。だが、これで、流れを変える事が出来た。美夜姫もこれを見逃さず、話を続ける。


「不幸中の幸いか、妾は何とか逃げ延びる事が出来た。だが、敵は恐るべき奴らじゃ。皆の者も見たであろう。あの異形の兵器を。敵の目的は未だ、はっきりせぬ。しかし、これだけは言えよう。あやつらは、民の幸せや世の平和など望んではおるまい。もし、あやつらが、この国を支配したらどうなるか?」


 凡人共相手に演説をかます美夜姫。ぶっつけ本番のくせに、よくやるよ。しかし、嫌らしいやり方だね。自分に向かうはずだった悪意や敵意の矛先をすり替えやがった。凡人共はチョロいね。ま、相手はまだ7歳のガキ。しかも、父親である将軍を殺されたときたもんだ。上手く、人の心理に付け入ったね。


「そして、皆の者も聞いた様に、奴らは妾に対し、要求をしてきた。妾はこの要求に応じようと思う。敵の要求に応じるのは、妾とて癪に触る。しかしながら、渡さねば無差別攻撃を行うと言われた以上、皆の命には代えられぬ。民有っての国じゃからな」


 全く、大したガキだよ。最初の時点では、殺されてもおかしくなかったのに、今じゃ、すっかり凡人共の支持を得ている。


「それにな。妾は1人ではない。心強い助っ人がおる。クマモト殿、クマノ殿、来てくだされ!」


 やっと、私達の出番らしい。それじゃ、行くかね。


「行くよハルカ。ちゃんと打ち合わせ通りにやるんだよ」


「正直、あまり気乗りしないんですけど。まぁ、今さらですね」


 私としても、あまり気乗りはしないが、この状況じゃ仕方ないね。さっさと事件を片付けて帰るとしよう。私達は美夜姫達の元へと向かった。







 美夜姫に呼ばれ、人前に姿を見せた私とハルカ。熊の被り物を被った姿だけど。突然現れた熊の被り物を被った奇妙な2人に、周りの凡人共が騒いでいるが無視。そこへ美夜姫が私達の事を紹介。


「皆の者、落ち着くのじゃ! このお二方こそ、今日の戦いにおいて、大いに奮闘してくださった恩人じゃ。残念じゃが、顔は訳有って、明かせぬとの事じゃ。その事に対し、不満は有るじゃろう。だが、そこは妾に免じて許して欲しい。何より今は、お二方の力が必要なのじゃ。では、お二方、自己紹介をしてくだされ」


 自己紹介か。めんどくさいね。凡人共の注目の中、渋々ながら、自己紹介を始める。あらかじめ、キャラクターは考えておいたし。


『皆さん、はじめまして。私の名はクマモト。こちらは妹のクマノ。素顔は申し訳ありませんが、一族の掟により明かせません。何とぞご了承ください。私は妹と共に武者修行の旅をしておりましたが、その道中にて、美夜姫様と偶然出会い、此度の一件と関わる事となりました。この度の一件、多大な被害が出た事、実に胸が痛みます。この様な暴挙、断じて許す訳にはいきません。微力ながら、事件の解決に向けて、妹共々、尽力する次第です。ですので、皆さんも美夜姫様に、お力添えをお願いいたします』


 丁寧かつ、上品な女性キャラクターを意識して、あらかじめ考えておいた内容を話す。ハルカ、あんた何、意外そうな目で見ているんだよ。私だって、上品なキャラクターを演じるぐらい出来るっての。ともあれ、感触は悪くないね。更に私は録画しておいた美夜姫の奮闘する姿の映像を出す。空中にてエイ型兵器を相手に獅子奮迅の戦いぶりの映像を。これが見事に当たった。わずか、7歳のガキが戦っていたんだ。対し、大人の自分達は隠れていたんだ。そりゃ、文句は言えないね。


「皆の者、さぞや辛かろう。悔しかろう。だが、妾は約束しよう。必ずや、あの不埒な輩を成敗すると。だから、今は耐えて欲しいのじゃ。此度の一件が解決した暁には、幕府が責任を持って復興を支援しよう」


 最後は美夜姫がそう締めくくった。その言葉に歓声が上がる。全く、凡人共が。実際にはそんなに甘くない。だが、今は凡人共を落ち着かせるのが最優先だからね。


「それでは妾は今後の打ち合わせをせねばならぬ。さらばじゃ!」


 上手くお茶を濁し、その場を去る美夜姫。私達もそれに続く。ふぅ、何とかその場を切り抜けられたね。しかし、美夜姫も随分とデカい事を言ってくれたもんだ。さて、どうするかね?







 場所は変わって、大桃城内の一室。そこに私達は集まっていた。今後の事について話し合う為にね。


「随分とハッタリをかましてくれたね。今さら無理でしたじゃ、通らないよ」


「すまぬ、ナナ殿。しかし、あの場はああするしかなかったのじゃ。でなければ、間違いなく暴動が起きていたであろう」


 まずは、先ほどの演説についてだ。正直、ハッタリも良い所だったからね。まぁ、仕方ない。放っておいたら、暴動間違いなしだったし。それより今後の事だ。


「美夜姫、あんたどうするつもりだい? 敵の要求通り、渡すつもりかい?」


 今回の一件の要。美夜姫の持つ『巨人』の要であるパーツ。敵はそれを要求している。これが敵の手に渡れば、おそらく『巨人』は完全体となり復活する。3つに分かれた今より更に強力になる事、間違いないだろう。その事に対し、美夜姫は答える。


「……ナナ殿。妾はあえて敵の要求を飲もうと思う。確かに『巨人』の完全復活は恐ろしい。しかしじゃ、同時に好機でもある。3つに分かれた『巨人』を個別に叩くより、1つにまとまった所を叩く方が手っ取り早い。戦いは長引かせてはならぬ。素早く決着を付けねばならぬのじゃ。ただ、その為にはナナ殿とハルカ殿の協力が不可欠じゃ。本来、無関係なお二方には誠に申し訳ないが、何とぞ力を貸して欲しいのじゃ」


 その場で土下座をして頼み込んでくる美夜姫。まぁ、状況が状況だからね。なりふり構っていられない。あれだけのハッタリをかまして、やっぱり無理でしたじゃ通らない。


「ナナさん」


「姐さん、俺からも頼む。助けてやってくれねぇか?」


「ナナ殿、私からも大桃藩、藩主としてお願いします」


 私としては、別に助けてやる筋合いは無いんだけどね。ハルカに安国のハゲ。大桃藩、藩主のアプリコットの3人にも頼み込まれる。……仕方ないね、ここまで関わったからには、最後まで付き合ってやるか。何より、ハルカの頼みとあってはね。


「分かったよ。手を貸してやるよ。ただし、それ相応の報酬は貰うからね」


「恩に着るナナ殿。報酬は必ず支払うのじゃ!」


 やれやれ、私も甘くなったもんだ。


 さて、その後も話し合いは続き、最終的に、美夜姫が敵の要求通り、『巨人』の要のパーツを持って行く事になった。ハルカは反対していたが、下手に動けば、敵が何をするか分からない。不安は有るが、今はその時に備えるべきという事で解散。私達は用意された部屋で休む事に。


 そして、夜が明ける。







 時間は午前10時の少し前。私達は既に身支度を済ませ、出発に備えていた。期限は今日の正午。だが、私達は早めに向かう事にした。ギリギリまで相手をじらすのも1つの手だが、今回の場合、それはまずい。下手をすれば、相手がキレて暴走しかねないからね。それに美夜姫の言う様に、戦いは早めに決着を付けねばならない。長引けば、それだけ被害が広がる。


「待たせてすまぬ!」


 そこへやってきた美夜姫。動きやすい簡素な服装だ。まがりなりにも一国の姫という立場なんだけどね。見栄より実利を取るか。全く、末恐ろしいガキだよ。


「いえ、それほどでも。美夜姫様、道中の護衛には僕とナナさんが付きます。ですが油断はしないでください」


「うむ、心得た。……改めて言うが、本来なら、無関係なお二方を巻き込んでしまい、誠に申し訳ないのじゃ」


 出発を前に、注意を促すハルカ。そして改めて私達に謝罪する美夜姫。


「ふん、謝るぐらいなら、さっさと今回の一件を片付けるんだね。ほら、行くよ」


 どうにも雰囲気が重いんでね。それを払拭するべく、出発を促す。私としてもさっさと終わらせて、帰りたいんだよ。でないとハルカとヤれないじゃないか。東に向かって以来、ずっとお預けを食らって欲求不満なんだよ!


「ナナ殿の言う通りじゃな。今日で決着を付ける! いざ、出発じゃ!」


 美夜姫も気合いを入れ直したらしい。声高らかに出発を告げる。


「姐さん、嬢ちゃん。姫さんの事、頼んだぞ!」


「皆様、御武運を!」


 余計な騒ぎを防ぐ為、見送りは安国のハゲ、大桃藩、藩主のアプリコットの2人だけ。安国のハゲも行きたがっていたが、ハルカと美夜姫が説得して思いとどまらせた。あいつは確かに強い。だが、あいつはあくまでパティシエ。あいつのやるべき事は戦いじゃない。その2人の言葉を背に私達は、指定場所の大桃港、1番倉庫へと向かう。いよいよ敵とご対面かね。果たして何が目的なのやら? 倒幕及び、国家権力の奪取か? 怨恨か? はたまた破壊と殺戮か? ……まぁ、その時になれば分かるか。







 私の運転するワゴン車に乗り、ついにやってきた、目的地。大桃港。駐車場に車を停め、降りる。


『じゃ、打ち合わせ通りやるよ。私は美夜姫の護衛に付く。ハルカ、あんたは少し離れた場所で待機。美夜姫、あんたはくれぐれも油断するんじゃないよ』


「心得た」


『はい、任せてください』


 既に私とハルカはクマの被り物を被って顔を隠している。さて、行くか。私は美夜姫に付き、ハルカは少し離れて付いてくる。しばらく歩くと倉庫が見えてきた。……あれか。『1』と書かれた倉庫。敵の指定してきた1番倉庫に違いない。


『見えたよ。気を付けな。不意討ちをされるかもしれないからね』


「うむ」


 目的地が見えた事も有り、不意討ちを注意する。よく有る事だからね。そして、いよいよ、倉庫前。


『私の後ろに下がりな。扉を開けるよ』


 罠に気を付けながら、静かに扉に手を掛ける。ふむ、罠は無いか。だが、中に誰かいるね。少なくとも3人。こいつらが敵か? 警戒しつつ、私は扉を開けた。







「ようこそ、お待ちしておりましたわ、美夜姫様」


 私達を迎えたのは、若い女。その他に、杖を突いたジジイと、もう1人、若い女。


「要求通り、『巨人』の要を持ってきた! だが、妾はそなたらに聞きたい。そなたらは一体、何者じゃ? 何が目的じゃ?」


 美夜姫は向こうの要求する品を持ってきたと話し、そして、敵の正体及び、その目的を尋ねた。すると、意外にも答えやがった。


「……何者かですか。そうでしょうね、貴女には分からないでしょうね!」


 美夜姫にその正体を問われた若い女は、深い怒りと憎しみを滲ませ、その正体を明かす。


「ご存知かしら? 貴女の父上にはかつて、兄がいたと。それが私の父上よ。」


「いかにも。かつて父上から聞いた事が有る。しかしながら、病死されたと聞いたが……。そうか、実際には生きていた。いや、将軍家から追放されたのか。ならば、そなたは妾の従姉妹か」


 ふん、意外に浅い理由だったね。まぁ、人間そんなもんさ。宿命やら何やら、そんな深い理由で事を起こす奴なんてそうはいない。どうやら、将軍の兄貴とやらは、バカな事をやらかして追放されたらしい。そして、病死とされ、存在を抹消されたと。その恨みからか。


「しかし、この様な暴挙を起こすなど、断じて許されぬ! 大桃藩の皆は無関係であろうが!」


 美夜姫は無関係な人間が巻き込まれた事に大激怒。しかし、主導権は向こうに有る。


「それが何か? それより、早く『巨人』の要を渡しなさい。3つに分かれたとはいえ、『巨人』は全て私の手に有る。渡さなければ、ただちに大桃藩に対し、無差別攻撃を行うわよ。それでも良いの?」


 大桃藩に対する無差別攻撃をちらつかせ、美夜姫に『巨人』の要のパーツを渡すよう、要求。美夜姫も、無関係な人間達の命が掛かっていては逆らえない。やむを得ず、要求に従う。


「……分かった、受け取れ」


 渋々ながら、それを取り出し、放り投げる。女はそれを受け取り、満面の笑みを浮かべる。


「やっと手に入ったわ。父上、貴方の無念を晴らす時が来ました。今こそ甦れ、『巨人』!」


 すると、何やら巨大な力を感じる。どうやら、3つに分かれた『巨人』がいよいよ1つに戻るらしい。これはぐずぐずしていられない。


『美夜姫! 脱出するよ!』


 即座に美夜姫の手を取り脱出を計るが、そこへ邪魔が入る。


「申し訳ありませんが、貴女方には死んで頂きましょう」


 突然、襲ってきた見えない刃。杖を突いたジジイの仕業だ。だけど、残念だったね。安国のハゲから聞いて、種はバレているんだよ。それに何より……お前ごとき、私の敵じゃない! 鞭を振るい、一撃で粉砕してやった。ついでに、残りの若い女達も始末しようとしたんだけど、ここで予想外の事が起きた。美夜姫から『巨人』の要を手に入れた女を狙ったんだが、何と、もう1人の女が『鞭を掴み取りやがった』。さすがの私もこれには驚き、つい、反応が遅れた。そこへ、その女が美夜姫を狙う。まずい!


 しかし、女が美夜姫を攻撃する事は出来なかった。突然、横合いから来た鞭に吹き飛ばされたからだ。


『大丈夫ですか?! 脱出しますよ!』


 ハルカだ。全く、良いタイミングで来てくれるよ。とにかく、今は脱出だ、私達は倉庫を脱出、急いでその場を離れる。そして、私達は見た。空に浮かぶ『巨人』を。


「とうとう、復活してしまったか。何としても倒さねばならぬ」


 ついに復活を果たした『巨人』を見て、決意を語る美夜姫。確かに、『巨人』は倒さねばならない。しかし、それ以上に気になるのは、あの女。私の鞭を掴まえるなど、人間業ではない。……もしかしてこの事件、私が考えていた以上にヤバいのか? 残念ながら、今は情報が無く、分からない。クソッ、どうにも気味が悪いね。






今回はナナさん視点。


ハルカに地上戦を任せ、美夜姫と共に空中戦に挑んだナナさん。本来の武器であるナイフを使わず、鞭で敵のエイ型兵器を迎え撃つ。そこで、発揮された美夜姫の才能。正直、ナナさんも驚く凄さ。


その後、ハルカと合流。美夜姫のハッタリだらけの演説で、騒いでいる民間人達を何とか落ち着かせる事に成功。しかし、早く決着を付けなければ、待つのは破滅だけ。


そして、いよいよ敵とご対面。その正体は、現将軍の兄の娘。かつて、バカな事をやらかして追放された父の無念を晴らそうというのが動機。ですが、はっきり言って逆恨み。しかも、関係無い人達を巻き込む悪質さ。美夜姫は大激怒!


ですが、人々の命には代えられぬと、やむを得ず『巨人』の要のパーツを渡し、その結果、遂に『巨人』が完全復活。大変な事態になってしまいました。


その後の戦いにて、安国さんと美夜姫を苦しめた暗殺者の老人はナナさんが撃破。伸縮自在の見えない刃を使う事を安国さんから聞いて知っていましたからね。ネタバレしている上、ナナさんは人外の存在。格が違います。


ですが、そのナナさんの鞭の一撃を掴まえた、もう1人の女。明らかに普通じゃない。ナナさんは今回の一件に、予想外の不気味な何かを感じています。


では、また次回。

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