第10話 ハルカ御一行様、海へ行く 初日
「ふぅ……」
ため息をつく私、今日だけでもう何度目でしょうか? こんなはずではなかったのに……。
私、ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグは私の大切な友人、ハルカ・アマノガワを誘って、海に来ましたの。当家所有のプライベートビーチですわ。出来ればハルカと二人きりで来たかったのですが、そうもいかないのが現実。私には執事のエスプレッソが付いてきますし、ハルカは保護者のナナ様が付いてきますわ。それは仕方ないにしても……何故、余計な人達までいますの!
「ミルフィーユさん、大丈夫ですか? ため息ばかりついていますけど。顔色も良くないですし……」
「いえ、なんでもありませんわ。ごめんなさい、心配をお掛けして」
ハルカが心配して声を掛けてくれましたわ。私としたことが、情けないですわね。
「そんな小娘の事は放っておけば良いじゃないか。せっかく海に来たんだからさ」
「ナナさん! ミルフィーユさんに対して失礼ですよ! 今回はミルフィーユさんのご厚意で招待されたんですから!」
相変わらず、ナナ様は私に対して辛辣ですわね。ですが、問題はナナ様だけではないのですわ。
「ハルカちゃん、一緒に遊ぼうよ!」
「いや、それより我と向こうの島まで泳ごうではないか」
「ハルカさん、ぜひ私達とトレーニングを」
この、余計な人達ですわ。
今回、付いてきた余計な人達。それは伝説の三大魔女の残り2人、『死者の女王』クローネ、『幻影の支配者』ファム。更に当家のメイド隊の最強3人組、ルビー、サファイア、エメラルド。
魔女2人はナナ様が呼んだらしく、メイド3人はどうしても同行したいとお母様に掛け合ったそうですわ。ハルカに稽古を付けて貰いたいとか。全く余計な事をしてくれますわね!
せっかく、ハルカと仲を深めようと思っていたのに! ところでハルカはこの状況をどう思っているのかしら?
「ねぇ、ハルカ。貴女はこの状況をどう思っていますの? 予定外の方々がいますけれど?」
「僕は人数が多い方が楽しいと思いますけど」
ハルカらしい答えが帰って来ましたわ。鈍いと言うか乙女心の分からない人ですわね。
「う~、やはり大きいですわね……」
現地に到着した私達は別荘で水着に着替えて海に向かいましたわ。そこで見せ付けられたのが、ナナ様の巨乳。なんですのアレは。反則ですわ!
他の方々も、私より大きいですわね。女として、強烈な敗北感が有りますわ……。
「あの、ミルフィーユさん、本当に大丈夫ですか? あっちで休んだほうが良いんじゃないですか?」
「いえ、大丈夫ですから。せっかく海に来たんですもの。楽しまないと」
いけませんわね、私。またハルカに心配を掛けてしまいましたわ。ちなみにハルカは紺色のスク水着用。ナナ様が決めたそうですわ。胸の部分に「はるか」と書かれたゼッケン付き。マニアックな趣味ですわね。私は真紅のビキニですわ。
「貧乳娘がビキニを着ても仕方ないと思うけどね、私は」
「大きなお世話ですわ!」
ムカつきますわね、大きければ良いというものではありませんわ!
「さてと、ハルカ、こっちにおいで。あんたは色白だから日焼け止めを塗らないとね。私が塗ってあげるよ。隅から隅までじっくりたっぷりねっとりとね……」(ニヤリ)
「ちょっ、ナナさん!」
「塗り終わったら、今度は私に塗って貰うからね。何、師弟のスキンシップさ」
ナナ様ったら、なんて破廉恥な発言を! なんとしても阻止しなければ! そう思ったその時。
ザバァァーーーーッ!
ナナ様の頭上から大量の日焼け止めが降り注ぎましたわ。
「これでナナ殿に日焼け止めを塗る必要は無くなりましたな」
「いきなり、何するんだいエスプレッソ!」
「おや、文句を言われるとは心外ですな」
グッジョブですわ、エスプレッソ。2人が言い争っている間に私はハルカを連れてその場を離れましたわ。
「本当に綺麗な所ですねぇ」
「当家の所有する自慢のプライベートビーチですから」
ナナ様の所から離れた私達。やっと二人きりになれましたわ。ちなみに私もハルカも日焼け止めは自分で塗りましたわ。本当はお互いに塗り合いたかったのですがって、これではナナ様と同レベルですわ!
自己嫌悪に陥る私を見て、ハルカが心配そうな顔をします。
「本当にどうしたんですか、ミルフィーユさん。今日のミルフィーユさんは変ですよ」
ごめんなさいハルカ。貴女の優しさが、かえって辛いですわ。更に自己嫌悪に陥る私。
「もしかして僕といても楽しくないんですか?」
「そ、そんな事はありませんわ! 私、ハルカと海に来るのを本当に楽しみにしていたんですから!」
「なら、良いんですけど」
あぁぁ、ハルカに心配を掛けてばかりの自分が恨めしいですわ。私のバカバカバカ! そう思っていたら、
ギュッ
ハルカに手を握られましたわ。
「ミルフィーユさん、元気を出して下さい。何か辛い事が有るなら僕に話して下さい。僕達、友達じゃないですか」
友達か……。何だか複雑な気持ちですわね。でもハルカは本当に私を心配してくれている。その事はとても嬉しいですわ。
「ありがとう、ハルカ。私は大丈夫ですから。でも、その時は頼りにしますわ」
その夜
皆、思い思いに過ごしていますわね。ちなみに食事はハルカが1人で作ってくれましたわ。話には聞いていましたが、素晴らしい腕前でしたわ。こんな美味しい料理を食べているなんて、ナナ様が羨ましいですわ。ただ、あまりの料理の美味しさに魔女3人が料理を取り合って危うく戦争を始めかけるわ、その後、ハルカを取り合うわと大騒ぎでしたけど。
深夜
私はふと目が覚めて、キッチンへ水を飲みに行きましたの。その時、窓からキラリと光る物が見えましたわ。
「あら? 何かしら?」
気になった私は外に出ましたの。
「確か、この辺りのはずなんですけど……ハルカ!?」
そこにいたのはハルカでしたわ。私が見た光はハルカの銀髪に反射した月の光でしたのね。
それは本当に幻想的な光景でしたわ。月の光に煌めく、ハルカの銀髪。声を掛けるのも忘れて思わず見惚れてしまいましたわ……。
ですが、その時聞こえてきましたの。
「グスッ……母さん、姉さん、彼方……」
ハルカは泣いていましたの……。
そういえば、ハルカは故郷に家族がいると言っていましたわ。そして故郷には二度と帰れず、家族にも会えないと。
でも、何故、故郷に帰れないのかしら? 家族に会えないのかしら? 考えてみるとおかしな話ですわ。ハルカが何か罪を犯したとは思えませんし、ましてや、ハルカを溺愛するナナ様の力を持ってすれば、家族との再会ぐらい容易いはずですわ。それなのに何故……。
私がハルカに声を掛けようとしたら、何者かに止められましたわ。
「ナナ様!? それにエスプレッソまで」
「小娘、今はそっとしておいてやりな」
「でも……」
「ミルフィーユお嬢様、ここはナナ殿に従いましょう」
「分かりましたわ……」
「ナナ様、聞きたい事が有りますの。何故、ハルカは故郷に帰れませんの? 何故、家族に会えませんの? 貴女の力を持ってすれば容易いはずではありませんの?」
「普通ならね。だが、あの子は事情が有ってね。私にも、どうにもならないのさ。情けないね、何が伝説の魔女だか。泣いている小娘一人救ってやれないなんて……」
そう言う、ナナ様は本当に悔しそうでしたわ。
「さぁ、ハルカに気付かれる前に帰ろう。あの子は人前では泣かない子だからね。私達に見られたと知ったら怒るよ」
そして私達はハルカに気付かれぬ様に静かに帰りましたわ。
翌朝、ハルカは何事も無かったかの様に振る舞っていましたわ。
ハルカ、貴女はどこから来ましたの? 何故、故郷に帰れませんの? 何故、家族に会えませんの? 私は貴女についてあまりに無知ですわ。でも私は待ちますわ。貴女が私に真実を話してくれるその時を。
今回は本当にグダグダですね。ネタ切れが辛い。しかも多忙シーズンに突入。ただでさえ遅い更新が更に遅くなります。とりあえず目標は完結です。下手くそですが、途中で投げ出したくないので。まぁ、長編は自分には書けませんが。そんな文才は有りません。