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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第108話 ハルカの東方騒動記 大桃藩防衛戦 前編

『青龍』から少しだけながら、協力を得る事に成功した僕達。だが、帰ろうとした所へ、突然届いた通信。それは大桃藩藩主、アプリコット・素桃さんから。そしてその内容は大桃藩が敵襲を受けているというもの。通信越しに悲鳴や爆音が響き渡る中、必死に救援要請をしてきたけど、途中で通信が切れてしまった。


 更に、大桃藩の方角から巨大な火柱が立ち昇るのが見えた。一大事と判断し、ナナさんの空間転移で大桃藩まで一気に跳ぶ。そこで見たものは、正に地獄絵図だった……。







「おのれ外道共! 妾が成敗してくれる!」


 あまりの酷い光景に怒り狂う美夜姫様。無理も無い。辺り一面、火の海。悲鳴と怒号が響き渡り、人々が逃げ惑う。そこへ降り注ぐ爆弾。あちこちで爆発が巻き起こる。賑やかな大桃藩の城下町は今や、この世の地獄と化していた。


「ぼさっとするんじゃないよ! とりあえず、大桃城に向かうよ! 全てはそれからだ!」


 こういう非常事態においては、やはりナナさんが頼もしい。大桃城に向かうと指示を出す。でも、それに美夜姫様が噛みつく。


「ナナ殿! そなたはあの者達を見捨てると言うのか?!」


 ナナさんの指示は人々を見捨てる形になる。その事が美夜姫様には我慢ならないらしい。しかし、ナナさんはあえて非情に徹する。


「あぁ、そうだよ。見捨てる。悪いがあいつらを一々助ける筋合いは無い。時間の無駄。今は一刻も早く大桃城に向かうのが先決だ。拠点が無ければ始まらない」


「しかし!」


 他の人達を見捨てると言うナナさんに、美夜姫様は食い下がる。しかし、事態はもはや、それどころじゃなくなっていた。上空に見えた閃光。その直後、凄まじい爆音が響き渡り、巨大な火柱が立ち昇る。まずい!


 とっさにナナさんと二人がかりで結界を張って防ぐ。おかげで助かったけど、周りが紙くずの様に吹き飛ばされる。なんて威力だ。


「分かっただろ? ぐずぐずしている暇は無いんだよ。あんた達、車から降りな。大桃城まで跳ぶ。車は邪魔だからね」


 美夜姫様もこの状況を見て、分かったらしい。もはや、一刻の猶予も無い。早く対策を立てないといけない。その為にも、拠点となる大桃城に行かないと。


 ナナさんの指示に従い、みんな車を降りる。大桃城は間違いなく、上を下への大騒ぎのはず。避難してきた人達もいるだろうし、車は邪魔。ナナさんの手を僕が掴み、更に僕の手を美夜姫様が掴み、美夜姫様の手を安国さんが掴んで、全員が手を繋いだ所で、ナナさんが大桃城に向かって空間転移。瞬時に大桃城に到着。







 ナナさんの空間転移で、一気に大桃城敷地内へと跳んだ僕達。当然、城の人達に騒がれる。そりゃ、この緊急時に突然、城内に侵入者だからね。だが、ここで役立ったのが美夜姫様。


「静まれぃ! 妾の顔を見忘れたか?! 妾は第十五代将軍、華乃原 清道が一子。華乃原 美夜であるぞ! 大至急、藩主に取り継ぐのじゃ! 時間が惜しい、急げ!」


 騒ぐ周囲の人達に大声で一喝! 幸い、分かってもらえた上、僕とナナさんは、つい先日、ここを訪れていた事。更に、藩主自らが僕達が来たら、すぐに自分の所に通す様に伝えていた事もあり、割りとスムーズに、奥へと通された。







「お待ちしておりました。ご無事で何よりです。そして、美夜姫様、本来なら、盛大におもてなししていたのですが、今は状況が状況だけに、非礼何とぞご容赦願います」


 通されたのは、様々な機器やモニターが完備された、いかにも作戦本部といった感じの部屋。そこで、何人もの人達が慌ただしく作業をする中、藩主のアプリコットさんが僕達を迎えてくれた。当のアプリコットさんもまた、忙しく働いていて、今も次々と上がってくる報告に対応していた。


「私はこちらの方々と、今後について話し合う為、この場を離れます。後は任せましたよ。重要な報告が有れば、即、知らせる様に。では、皆様、こちらへ」


 アプリコットさんは、僕達と今後について話し合うと言い、部下の人達にその場を任せ、別の部屋へと移る。







「率直に言って、大桃藩始まって以来の危機です。このままでは、大桃藩は壊滅です」


 別室に案内され、席に着いた僕達に、アプリコットさんは開口一番、そう言った。そして語られた、大桃藩で起きた出来事。


 事の起こりは今朝。いきなり、城下町のあちこちで火災が発生。続いて、大桃藩の各施設が爆破され、ライフラインが破壊されてしまった。更にそこへ、上空からの爆撃。海の方も、停泊していた船が次々と撃沈させられ、通信もままならなくなったと。


「やっとの事で、貴女方と連絡が取れたのは、不幸中の幸いでした。現在、必死に抵抗していますが、あまりに戦力が違います。既に見たでしょうが、特に強力なのが、上空からの閃光です。どういう理屈か知りませんが、閃光が見えると大爆発がおきます。先ほど申しましたが、このままでは、大桃藩は壊滅です」


 大桃藩の軍勢もはるか上空からの敵にはどうしようもないらしい。更にそこへ悪い知らせが。


「報告致します! 上空から、降下兵部隊が! 現在、陸戦部隊が応戦中ですが、数があまりに多く、手に負えないとの事です!」


 更なる状況の悪化に、顔を苦渋に歪めるアプリコットさん。


「見せしめと、新兵器の性能テストを兼ねているんだろうね」


 ナナさんも冷静に状況を分析する。


「恐らくだけど、爆発を起こす閃光だが、ありゃ『巨人』の兵器だろうね。魔力を一切感じないし、あれだけの火力を出せる兵器なんて、そうはない。少なくとも『巨人』の三分の一の内、1つは敵の手に有ると見た。最悪、全て向こうの手に有るかもね」


「かつて天下統一を果たした『巨人』の力をこんな形で知る事になるとは。全く、皮肉なものです。しかも、不完全な状態でこれですからね」


 ナナさんの言葉に、アプリコットさんは苦笑を浮かべる。







 そんな重苦しい雰囲気の中、ナナさんは美夜姫様に話を振る。


「美夜姫、そもそもの発端はあんたから始まった。改めて聞くよ。敵の心当たりは? その目的は? 何でも良いから、知らないかい? まぁ、将軍家という立場上、敵が多いのは分かる。でも、国のトップたる、将軍を暗殺するとなれば限られてくる。そんなデカいリスクを犯してまで事を起こすなんてね。ましてや、『巨人』復活を企む程となれば、なおさらね」


 言われてみれば確かに。将軍暗殺なんて大それた事件、その辺の奴には出来ない。する理由も必要性も無い。メリット以上に、あまりにリスクが高い。にもかかわらず、やった。つまり、将軍暗殺のリスク以上にメリットが有ると判断した。そして、『巨人』復活を企んでいる。それほどの相手となれば、限られてくる。そんなナナさんからの指摘に美夜姫様も、考え込む。


「うむ……そうじゃのう。将軍たる、父上を暗殺するなど、あまりに危険な賭け。にもかかわらず、それを実行し、更に『巨人』復活を企む輩……」


 しかし、現実は非情。


「すまぬ、心当たりが無いではないが、ここまで大それた事をしでかす程の輩ではない。まぁ、実際の所はどうだか分からぬが」


 残念ながら、分からないらしい。現状、敵の正体は分からないまま。そして、状況は悪くなる一方。


「報告致します! 避難民が続々と城に押し掛けています。対処に当たっておりますが、いかんせん人手が足りず、避難民達も精神的に不安定で、このままでは、暴動に発展する恐れが!」


 敵の攻撃により逃げてきた人達が、大桃城へと続々と避難してきているとの報告。でも、あまりに多く、対処しきれないらしい。もし、暴動に発展したら、それこそ最悪だ。どうしたら? 僕はナナさんを見る。


「ナナさん、僕達で何とか出来ませんか? 少なくとも、僕とナナさんなら、立ち向かえます」


 今、こうしている間にも、敵の攻撃は続き、多くの人達が犠牲となり、生き残った人達も必死に逃げている。それを黙って見ているなんて。しかし、ナナさんの言葉は非情なものだった。


「ハルカ。あんた忘れてないだろうね? 私達はあくまで『観光』名目で来たんだ。安国のハゲを回収するのが一番の目的だ。欲を言えば、今回の事件を起こした奴らを秘密裏に始末する事だ」


「確かに……」


 ナナさんの言う通り。僕達が来た目的は安国さんの救出。事件の解決はあくまでもついでに過ぎない。しかも、秘密裏に片付けなければならなかった。しかし、現実は大事件に発展。もはや秘密裏に始末するなんて無理だ。


「はっきり言うよ。今回の目的は半分成功で、半分失敗。私としては、さっさとこの国からおさらばしたいんだけどね。気に入らないかい? 以前にも言ったけど、私は正義のヒーローじゃないんでね。それにね、侯爵夫人にも言われただろ? スイーツブルグ侯爵家が関与している事を知られるなって。私達が下手に動けば、間違いなく、正体を探られる。あんた、その責任取れるのかい? 小娘の分際で」


 ナナさんの言う事は何も間違っていない。ナナさんは魔女であって、正義のヒーローじゃない。わざわざ、誰かを助ける様な筋合いは無い。それに、僕達が動けば、注目を浴び、その正体や背後関係を探ろうとするだろう。そうなれば、スイーツブルグ侯爵家にも迷惑が掛かる。侯爵夫人達にも、その事は出発前に釘を刺された。


「ハルカ、覚えておきな。世の中、ままならないものなのさ」


 ナナさんの諭す様な言葉が胸に刺さる。


「姐さん、マジでどうにもならねぇのかよ?」


 見かねたのか、安国さんがナナさんに、どうにかならないか尋ねる。


「単に皆殺しにするだけなら、簡単なんだけどね。そんな事したら、後、どうなる? どう説明を付ける? まさか、魔女に助けてもらいましたと、バカ正直に説明するのかい? そんな事したら、幕府の信用は地に落ちる。本末転倒だよ」


「くそっ、本当にままならねぇな」


 ナナさんの言葉に安国さんも悔しそうな顔をする。やはり、現実は厳しい。いかにアニメやラノベがご都合主義まみれか、よく分かる。都合の良い突然のパワーアップや、奇跡なんて起きない。トドメは、新たな報告。


「報告致します! 海から巨大な兵器が上陸! 沿岸地区を破壊しながら、こちらに向かっています! こちらの兵器は全く通用しません!」


「なんて事!」


 部下の人からの報告を聞き、頭を抱えるアプリコットさん。いよいよ、大桃藩壊滅が時間の問題となってきた。


「妾のせいか。妾がこの大桃藩にいるから、奴らは攻め込んできたのか」


 この事態に責任を感じる美夜姫様。その顔は悔しさ、後悔、怒りといった、色々な感情がないまぜだった。


「まぁ、そうだろうね。あんたが持っている『巨人』の要。それが狙いだろうね」


 そんな美夜姫様に、ナナさんは容赦なく、現実を突き付ける。僕もナナさんと同意見。敵の狙いは美夜姫様の持つ『巨人』の要である、ゲーム機のコントローラーみたいな物だろう。3つに分けられた『巨人』を1つに戻すのに必要らしいし。


「妾はどうすれば良いのじゃ? どうすれば?」


 まだ7歳の身で、大変な重荷を背負ってしまった美夜姫様。だがこうしている今も、刻一刻と大桃藩壊滅が近付いている。その時だった。


「あんたがどうするかは私の知った事じゃない。この国がどうなろうが私には関係無い。しかしだ。私は売られたケンカは買う主義でね」


 ナナさんのその言葉に僕を始め、その場にいる皆がナナさんを見る。


「ハルカ、打って出るよ。調子に乗ったカス共に目に物見せてやる。美夜姫、あんたもだよ。あんたのせいで奴らは攻めてきた。だったら、あんたも戦いな」


 ナナさんは打って出ると言い出した。確かにナナさんは売られたケンカは買う性格だ。でも。


「あの、ナナさん。僕達が動けば問題になるって言ったじゃないですか」


 そう、ナナさんは自分達が動けば問題になると言った。するとナナさんは、あっさりこう返してきた。


「そうだね。『私達だとバレたら』問題だね。だったら、『バレなければ良い』。ほら、服を出してやるからさっさと着替えな! 後、変装もするからね!」


「はい! あ、安国さんは部屋を出てくださいね」


「分かった」


 ナナさんから変装用の服一式を渡される。で、着替えるので、悪いけど、安国さんには部屋を出てもらう。


「ナナさん、ありがとうございます」


「妾からも礼を言わせてもらう。ナナ殿、誠にかたじけない」


 ナナさんが打って出てくれるとあり、お礼を言う、アプリコットさんと美夜姫様。


「ふん、私は売られたケンカを買っただけさ。ああいう調子に乗った奴らは、きっちり潰すに限る」


 着替えながら、そう言うナナさん。僕も早く着替えよう。







 そして着替えも終わり、変装も済ませた。いよいよ出撃だ。でも、そこへまたしても、悪い知らせが。


「報告致します! 避難してきた住人達が、不平不満を訴え、騒ぎを起こしております! 現在、城内の者達で抑えておりますが、このままでは、暴動に発展するのは時間の問題かと!」


 避難してきた人達が、不平不満を訴え、いよいよ暴動を起こしかねないらしい。敵の襲撃だけでも大変なのに、そこへ暴動なんて起きたら、それこそ取り返しが付かない。


「ちっ! これだから凡人共は。しかし、まずい事態だね。ここで暴動なんぞ起こされたら困る。仕方ない、ちょっと私が黙らせてくるか。適当に痛め付ければ済む話さ」


 それを聞いてナナさん。自分が解決するとの事だけど、やり方が酷い。さすがに意見しようとしたら、突然、聞こえてきた変な声。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ!」


 それは猫用ケージの中で寝ていたバコ様。どうやら起きてきたらしい。


「どうしたの、バコ様? おしっこ?」


 おしっこでもしたいのかと思い、ケージから出してあげた。ところがバコ様、何を思ったのか、僕の手から抜け出し駆け出した。


「へ〜! へ〜!」


 そして変な鳴き声を上げながら、窓から外へと飛び出してしまった。一体、どうしたんだろう?


「やれやれ、とことん頭がボケているみたいだね、あのボケ猫」


「どうしましょう? ナナさん」


「放っときな。あんな役立たず、要らないよ。あんたも知ってるだろ? 私の信条は『無能は死ね』だからね」


 どこかに行ってしまったバコ様に対し、冷たいナナさん。でも、確かにバコ様は何の役にも立たないし。いつも意味不明な歌と踊りを繰り返しているか、ご飯を食べているか、寝ているかだし。後、トイレも自分で出来ないし。悪いけど、今はバコ様に構っている場合じゃない。


「とりあえず、役割分担を決めるよ。空の敵の迎撃は私を中心に、美夜姫は無理せず、落とせる奴を落とせ。ハルカ、あんたは城の防衛と地上の敵の撃破を頼む。ハゲ、あんたは城の広場に行って、炊き出しの準備をしな。アプリコット、調理の出来る奴らを広場に送れ。ハゲと協力してさっさと飯を作れ。人間とりあえず、腹が膨れりゃ、落ち着くからね。必要な物は私が出してやる。急ぎな!」


「承知した!」


「分かりました!」


「任せろ! 藩主さんよ、急いで準備してくれ!」


「分かりました、ただちに!」


 ナナさんは、てきぱきと僕達に指示を出し、皆それぞれに動き出す。僕もいよいよ出撃だ。そう思っていた所へナナさんから、思わぬ事が。


「あぁ、そうだ。ハルカ、あらかじめ言っておくよ。今回は正体を隠して戦わないといけないからね。よって、あんたのトレードマークとも言える氷魔法は禁止。小太刀も禁止」


「確かにそうですね。……厳しい戦いになりますね」


「まぁ、代わりの武器は出してやるからさ。これも修行と思いな」


 正体を隠す為、僕の得意とする氷魔法と小太刀の使用を禁止された。正直、これは痛い。でも、正体を隠さねばならない以上、仕方ない。やるしかない。既に安国さんは部屋を出て広場に向かった。僕達も出ないと。ふと、見れば、美夜姫様が震えていた。


 ……無理もない。まだ7歳の女の子で、しかもお姫様だ。今まで守られていた立場だったのが、戦場に出ないといけないんだ。怖いに決まっている。僕としても、他人事とは思えない。だから僕は美夜姫様に話しかけた。


「美夜姫様、怖いのは当たり前です。決して恥じる事ではありません。むしろ、それが当たり前です。戦う事が怖くないなんて方がおかしいです」


「……そういうものなのか?」


 今一つ、納得していないらしい美夜姫様に、僕なりの意見を話す。


「はい。僕もナナさんの元に弟子入りしてから、何度も実戦を経験しましたが、やっぱり怖いです。殺すか殺されるかの世界ですから。でも、時には戦わないといけない場合も有ります。正に今がその時です」


「ハルカ殿は強いのう。妾はまだまだじゃ」


「僕だって、まだまだですよ。美夜姫様もこれからです。さ、行きましょう。貴女は次期将軍でしょう? この国を守らないでどうするんですか? 絶対、大丈夫とは言いませんが、ナナさんと僕が付いています」


 本当なら、絶対、大丈夫と言ってあげるべきかもしれない。でも、戦場はそんなに甘くない。だから、あえてこう言った。


「……ハルカ殿は、誠にしっかりした御仁じゃのう。分かった、頼りにしておるからの。いざ、出陣じゃ!」


 既にナナさんは出た後。僕達もそれに続く。……今回は『戦闘』じゃない。『戦争』だ。







 さて、表に出た僕達。だが、ここで予想外の事態が。人々の笑い声が聞こえてくる。その元は向こうの人だかりだ。確か、避難してきた人達が暴動を起こしかねない状況だったはずだけど。そこへ話しかけてきた人が。


「おう、嬢ちゃんに姫さん」


「安国さん」


 それは炊き出しを作る為に一足先に外の広場に出ていた安国さん。


「何か賑やかですけど、どうかしたんですか?」


 とりあえず、何が有ったのか聞いてみた。すると。


「あぁ、あれな。説明するより、見た方が早い」


 そう言われたので、人だかりの方に行ってみた。何か子供達を中心に騒いでいるな。人だかりをかき分け、奥に進むと、聞き覚えの有る、変な歌。


「バッコッコ、バッコッコ、バッコッコのコ♪ アッホッホ、アッホッホ、アッホッホのホ♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪ へーへーブーブー、へーブーブー♪」


 更に人だかりをかき分け、最前列まで来たら、そこでは1匹の大きな三毛猫。つまり、バコ様が、いつもの意味不明な歌と踊りを披露していた。ナナさん曰く、アホ丸出しの歌と踊りだけど。


「大した奴だぜ。暴動が起きる寸前だった所に、いきなりやってきて、歌と踊りを始めたらしい。あのふざけた歌と踊りを見ていたら、毒気を抜かれたらしくてな。結果、暴動が起きるのを未然に防いだそうだ」


 いつの間にか、後ろに来ていた安国さんから、バコ様のお手柄を聞かされた。狙ってやったのか、どうかは分からないけど、ありがとう、バコ様。後でカニかまをあげるからね。ともあれ、僕達は行かないと。


「安国さん、ここはお願いします」


「任せろ。嬢ちゃん達も気を付けてな!」


 安国さんとバコ様にその場を任せ、僕達はナナさんの元へと向かう。


『遅いよ、全く!』


 開口一番、お説教。でも、これは僕達が悪い。ナナさんは1人で敵を迎撃してくれていたんだから。ちなみにナナさん、クマの被り物を被って顔を隠していた。まぁ、気配で分かったけど。


「すみません!」


「すまぬ、ナナ殿」


『まぁ、良い。さっさと済ませるよ。ハルカ、あんたにはこれを渡しておく。こっちは美夜姫、あんたの分』


 合流したところで、さっさと必要な物をナナさんから渡される。僕が受け取ったのは鞭と靴。そして、ナナさんと同じクマの被り物。美夜姫様は靴だけ。


『顔を見られる訳にはいかないからね。それを被りな。通信機能とボイスチェンジャー機能付きだよ。鞭はあんた、糸を使えるし、器用だから何とかなるだろ。と言うか、何とかしろ。ちなみに魔力を通す事で、最長10㎞まで伸びる。威力も折り紙付きさ。後、靴だが、足元に力場を発生させ、地上同様に動ける代物さ』


 品物を受け取った僕達にナナさんから説明。クマの被り物はともかく、鞭と靴は凄い品物だ。やっぱりナナさんは凄い。とりあえず、クマの被り物を被って顔を隠す。


『分かりました。ありがとうございますナナさん』


「かたじけない、妾も微力を尽くす所存じゃ」


『ふん、ご託は要らないよ。ほら、さっさと行くよ。手筈通りやるんだよ。じゃ、反撃。いや、出撃だ!』


 ナナさんの出撃の合図を受け、僕達は戦場に飛び出す!







 ナナさん特製の靴の力で、空中をダッシュで進む。上空から改めて見る大桃藩城下町は、火の海と化していた。しかも、巨大なダンゴムシみたいな兵器が街を蹂躙している。それ以外にも、歩兵があちこち攻撃。上空には巨大なエイみたいな兵器が飛び回り、爆弾を次々と投下していた。こんなに街を滅茶苦茶にするなんて……許さない! 僕は鞭を持つ手を強く握りしめる。


『ハルカ、あんたは城を中心に守りつつ、街を荒らしているダンゴムシと歩兵を殺れ! 私と美夜姫は上空のエイを落とす。でも、無理をするんじゃないよ。あくまでも、あんたの役目は拠点防衛なんだからね』


 そこへナナさんからの指示。街を荒らしているダンゴムシ型兵器と歩兵の撃破をしろと。ナナさん達は上空のエイ型兵器を落とすそうだ。


『分かりました。ナナさん達も気を付けてください!』


『ふん、言われるまでもないさ! あんたこそ、しくじるんじゃないよ!』


 そして、ナナさん達は上空へと向かい、僕は城の防衛をしつつ、街を荒らしているダンゴムシ型兵器と歩兵を撃破に掛かる。でも、その前に。


『水分身×12体』


 水の塊を12個呼び出し、それを元に水分身を作る。本来なら、自分そっくりになる所をアレンジし、以前読んだ、ラノベのヒロインの姿にする。


『逃げ遅れた人達の救助、そして、ダンゴムシ型兵器と歩兵の足止めを頼んだよ。敵の撃破は僕がやるから』


「分かりました、本体」


『それじゃ、散開!』


 12人の分身達に指示を出し、それぞれが四方に散る。頼んだよ、分身達。さて、僕もやるぞ! まずはあそこだ。比較的近くで、ダンゴムシ型兵器と交戦中の部隊がいた。懸命に砲撃を撃ち込んでいるけど、まるで効いていない。それでも、必死に侵攻を食い止めようとしている。すぐ行きます! ナナさん特製の靴で、空中を踏みしめ一気にダッシュ! 即座にたどり着く。さぁ、出番だよナナさん特製の鞭。


 鞭を使うのは初めてだけど、ミルフィーユさんの蛇腹剣を参考に振り回す。そして、勢いが乗ってきた所で、ダンゴムシ型兵器めがけて一気に振るう!






 結論から言うと、ダンゴムシ型兵器は倒せた。と言うか、一撃で木っ端微塵に粉砕。何ですか! この威力! 危ないじゃないですか! 危うく、部隊の人達を巻き込みそうになったよ! 幸い、巻き込まなかったけど、みんなすっかり、引いているよ!


  突然現れた、怪しいクマの被り物をした人物。しかも、それまでいくら攻撃してもびくともしなかったダンゴムシ型兵器を一撃で粉砕したとあれば、そりゃ、怪しまれます。案の定、武器をこっちに向けているし。とにかく、今は敵じゃない事を分かってもらわないと。僕は鞭を納め、両手を上げて、敵意が無い事を示した上で話す。


『突然、お騒がせして申し訳ありません。ぼ……私は訳有って、素顔は明かせませんが、皆さんの助太刀に参りました。もちろん、無理に信じて欲しいとは申しません。ですが、少なくとも、あなた方の敵ではありません』


 一応、話してみたけど、やっぱり信用されてないな。まぁ、当然か。だったら、長居は無用。


『とにかく、私はあのダンゴムシ型兵器を潰します。あなた方には、避難誘導や、救助をお願いします』


 とりあえず、それだけ言うと、さっさとその場を離れる。あの様子じゃ、長居しても面倒な事になるだけなのは明白だし。現実は厳しいな。これがアニメとかなら、協力してもらえるのに。まぁ、突然現れた知らない奴にホイホイ協力する方がおかしいよね。協力が得られない以上、自分で何とかするしかない。僕は再び、空中を駆け、他のダンゴムシ型兵器を探す。ただ、破壊して確信したけど、あれは機械兵器だ。全く魔力も生命力も感じなかったし。歩兵も同様だ。


『いた! 食らえ!』


 さっきの事で少なからず、ムカついた事も有り、憂さ晴らしを兼ねて、ダンゴムシ型兵器を鞭で四方八方から叩きのめす。結果、跡形もなく消し飛んだ。更に歩兵を鞭で薙ぎ払う。ふぅ、すっきり。何となく、Sな人達の気分が分かるかも。でも、今は戦場にいる。油断は禁物。


『ナナさんにも言われた様に、大桃城を中心に防衛を意識しつつ、ダンゴムシ型兵器と歩兵を潰していこう』


 ナナさんの指示に従い、大桃城の防衛を中心にしつつ、迫ってくるダンゴムシ型兵器と歩兵を鞭で粉砕していく。初めて使う武器だったけど、じきに慣れた。魔力を通す事で、長さや威力を自在に変えられて、便利。空では次々と爆発が起き、その度に空のエイ型兵器が数を減らしていた。ナナさん達も頑張っているみたい。ん? ダンゴムシ型兵器がまとまってやってきた。数で突破する気か。


『悪いけど、ここは通さないよ!』


 群れをなし、大桃城を蹂躙せんと向かってくるダンゴムシ型兵器達。でも、残念。ここは通さない! 手にした鞭を振るって勢いを付け、放つ! 魔力を受けて長さと威力を増した鞭が暴風の如く荒れ狂い、ダンゴムシ型兵器達を蹂躙、粉砕。あっという間に全滅させる。でも、敵はそれだけじゃない。空から落ちてくる爆弾。これらも落とさないと。鞭を振るい、爆弾を空中で爆破。空の爆弾と地上のダンゴムシ型兵器に歩兵。空と地上の両方を相手にひたすら鞭を振るう。


 そして、時間は流れ、西の空が赤く染まる夕方。もはや辺りにダンゴムシ型兵器と歩兵の姿は無かった。どうやら一通り、片付いたらしい。そこへ、ナナさんからの通信。


『ハルカ、こっちのエイは一通り落としたよ。そっちはどうだい?』


『こっちもダンゴムシ型兵器と歩兵を一通り、潰しました』


『そうかい。とりあえず、一旦合流しよう。大桃城で落ち合おう』


『はい』


 ここでナナさんとの通信を切り、ひとまず大桃城に帰る事に。さすがに疲れたからね。休憩を取ろうと思い、大桃城に向かって移動しようとした僕。だが、僕は油断していた。戦場で最もしてはならない事を。強力な武器を手に入れ、敵を一方的に撃破して浮かれていた僕は、大事な事を忘れていた。


 その時、上空から閃光が見えた。直後、凄まじい爆音と巨大な火柱。そして『小さな島が一つ消えた』。


 あまりの事態に思わず固まる僕。そこへ聞こえてきた声。


『美夜姫に告ぐ。お前の持つ、制御ユニットを明け渡せ。期限は明日の正午。場所は大桃港、1番倉庫。期限までに明け渡さない場合は、先ほどの兵器による、無差別攻撃を開始する』


 それは、美夜姫様が持つ『巨人』の要の明け渡し要求だった。期限までに明け渡さなければ、無差別攻撃をすると。


『急いで戻らなきゃ!』


 僕は慌てて、大桃城に向かう。大変な事態になってしまった。重大な選択を迫られる事になってしまった美夜姫様。一体、美夜姫様はどうするのか? そして、大桃藩はどうなるのか?




遂に始まった、敵による大桃藩侵攻。オーバーテクノロジーによる兵器の前に、大桃藩の戦力では歯が立たず、城下町は火の海に。多くの犠牲者が。


もちろん、ハルカ達も黙ってはおらず、敵を迎撃すべく出撃。正体を隠し、敵を撃破していきます。しかし、残念ながら、大桃藩の部隊の協力は得られませんでした。作中でハルカも言った様に、突然現れた、得体の知れない奴に味方と言われても、信用出来ないでしょう。しかも、自分達が歯が立たなかった敵をあっさり撃破するとなれば、なおさら。自分達に牙を剥くかもしれませんし。


さて、頑張ったおかげで、夕方には一通りの敵を撃破したハルカ達。しかし、ハルカ達は忘れていました。『巨人』の存在を。圧倒的な火力を見せ付け、美夜姫様に対し、『巨人』の要となるパーツを渡せと要求。期限までに渡さない場合は、無差別攻撃を行うと宣言してきました。果たして、美夜姫様はどうするのか?


後、初めてバコ様が活躍しましたね。


では、また次回。

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