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僕と魔女さん  作者: 霧芽井
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第9話 最年少記録更新

 ガッ! ガッ! ガガッ! ガッ! ガガガッ! ガガッ! ガッ! ガッ!……


「ミルフィーユさん、まだまだ無駄な動きが多いですよ。もっと効率的に動かないと」


「簡単に言ってくれますわね……」


「常に周りの状況を把握し、自分にとって最善かつ、最も効率的に動く。大切な事ですよ」


 スイーツブルグ家、滞在2日目。本当は昨日帰るつもりだったのに、夕食時にナナさんがお酒を飲みまくった挙げ句、寝てしまい、泊めて貰いました。そして今は、僕とミルフィーユさんによる武術の稽古中。


「鉄壁の防御とは正にこの事ですわね。ことごとく攻撃を防がれますわ」


「この程度でそんな事を言っていては困ります。僕はまだまだ未熟者ですから」


「ハルカ、貴女、ナナ様を基準にして判断していませんこと? あの方は規格外ですわよ」


「う~ん、言われてみればそうかもしれませんね」


 何せ、ナナさんに鍛えられてきた上、他の人と比べる事も無かったし。


 お互いに話をしながらも、稽古は続く。さて、防戦に徹していたけど、そろそろ攻撃に移るかな。


 ヒュッ! ガシィィッ!


「くっ!」


 僕の木製短剣の一撃が、ミルフィーユさんの木剣を弾き飛ばす。勝負有り!





「大丈夫ですか? ミルフィーユさん」


「平気ですわ。本当に強いですわね、ハルカ。さすがはナナ様の弟子だけの事はありますわね」


 僕を称賛してくれるミルフィーユさん。ナナさんに鍛えられている上、僕は転生者。チートな才能を持っている。真面目に努力してきたミルフィーユさんに対して正直、気まずい。


「ふん、筋は悪くないね、まだまだ未熟だけど。ま、せいぜい頑張りな」


「ナナさん! そんな言い方はミルフィーユさんに失礼ですよ!」


「構いませんわ、ハルカ。ナナ様、ありがとうございます」


 ちなみにナナさんは僕達の稽古をずっと見ていた。どうせなら、僕よりナナさんが稽古を付けてあげた方が良さそうだけど、めんどくさいと言って僕に振ってきた。まぁ、ナナさんは強過ぎて殺しかねないからね……。





 今度は魔法の修行。ミルフィーユさんと一緒に魔法修行用のトレーニングルームへ。


「ここが魔法修行用のトレーニングルームですわ」


 メイドさん達が色々と魔法の修行をしている。的に向かって魔法を放っていたり、勝負していたり。武術のトレーニングルームでもそうだったけど、みんな熱心に修行しているなぁ。


「ミルフィーユお嬢様に、ハルカさんよ」


「ハルカさんの魔法が見られるのかしら?」


「ハルカさんは凄い氷魔法の使い手らしいわよ」


 僕達と言うか、僕が来た事でメイドさん達が一斉に騒ぐ。あの、皆さん騒ぎ過ぎではないですか? 僕はまだまだ未熟者のメイドですよ?


「私が魔蟲の森での貴女の戦いぶりを話した事と昨日の貴女の戦いぶりで、すっかり人気者になったようですわね」


 驚いた、僕、そんなに騒がれる程に強くなっていたんだ……。まぁ、それはそれ。今は魔法のトレーニングに集中しよう。


「まずは何をしますか、ミルフィーユさん?」


「とりあえず、的に向かって撃つ射撃トレーニングをしましょう」


「分かりました」


 前方に的がセットされる。射撃場によく有る人形の的。距離は30メートルぐらいかな。そうだ、せっかくだから、新魔法を使ってみよう。ミルフィーユさんも見ている事だし。


「あの、ミルフィーユさん。複数の的を攻撃したらダメですか?」


「いえ、構いませんが、何をしますの?」


「ちょっと新魔法を使ってみようと思って。あ、初歩魔法の応用ですから、そんなに大した物じゃないですけど」


 そう言うと僕は、的に対して横を向き、右手を前に突き出す。次の瞬間、


「「「「「パキィィィィン!」」」」」


 僕の5本の指先から放たれた5つのビー玉程の青い光弾が空中でカーブを描いて、5つの的を直撃、一瞬で凍らせた。


 よし、成功だね。氷魔法『氷結球(フリーズボール)』を僕なりに改良した新魔法『氷結魔弾(フリーズバレット)』5発同時発射。『氷結球(フリーズボール)』をより圧縮、収束し、威力、スピードを上昇させた。ホーミング性能もバッチリ。狙い通りに命中した。数が増えると制御が難しくなるからね。少なくとも今の僕は5発同時なら完璧に使える様だね。どうですか、ミルフィーユさん。て、あれ? みんなどうしたんですか? 呆然としちゃって。


「ハルカ、その魔法はなんですの?……」


「えっ? 僕の新魔法『氷結魔弾(フリーズバレット)』ですけど? ナナさんに新魔法を編み出せと言われたんで、最近、編み出したんです」


「ハルカ! ナナ様を基準にして物事を考えるのはやめなさい! あの方は規格外ですから! 新魔法なんて、そう編み出せませんから!」


「そうなんですか?」


「「「そうなんです!!」」」


 ミルフィーユさんだけでなく、その場にいたメイドさん達にまで一斉にツッコまれたよ……。





「ハルカ、貴女ははっきり言って世間一般から、かなりズレていますわ」


「そう言われても……」


 魔法のトレーニングを終えて、今はミルフィーユさんの部屋でお茶を飲んでいます。あの後、メイドさん達に取り囲まれて質問攻めにあって大変だったよ。


「いいですか、ハルカ、魔法とは長い年月を掛けて、試行錯誤の末に編み出された物ですわ。故にたとえ初歩魔法と言えど、簡単に改良したり出来ません。下手に術式をいじると何が起きるか分からず危険ですの。それを貴女はやってのけた」


「いや~、それほどでも」


「褒めていません! ハルカ、貴女はあまりにも世間知らず過ぎます。全く、ナナ様は一体何をしておられるのかしら。保護者でしょうに」


「ナナさんは普段はぐうたらしていますし、僕は基本的にナナさんの屋敷か各地の危険地帯のどちらかにいますからね。街に来たのは今回が初めてですし」


「街に来たのが初めて?」


「あ、大きな街に来たのが初めてって事です。僕、遠い場所の出身ですから」


 危ない、危ない。本当の事を知られる訳にはいかないからね。


「ハルカ、良い機会ですし、私と一緒に街へ行きましょう。案内しますわ」


 ミルフィーユさんと一緒に街にね。僕は良いけど、ナナさんが許すかな? とりあえず聞いてみよう。


「分かりました、まずはナナさんに聞いてみますね」


「ナナ様の許可を取らないといけませんの?」


「すみません。ナナさん、こういう事には厳しくて……」





「ナナさん、僕、ミルフィーユさんと一緒に街へ行きたいんですけど」


「ダメ」


「どうしてですか?」


「未成年同士の外出なんて認めない!」


 言うと思ったよ。ナナさんは本当にこういう事には厳しいなぁ。僕を子供扱いしないで欲しいんだけど。


「ナナさん、そんなに僕は子供ですか? そんなに僕が信用出来ませんか? 僕、悲しいです……」


「えっ! いや、その……」


 口ごもるナナさん。そこへエスプレッソさんが話しかける。


「ナナ殿、貴女はハルカ嬢の事が信用出来ないのですか? 可哀想なハルカ嬢、こんな冷たい方の元にいるとは。同情致しますよ」


「黙れ、エスプレッソ! ハルカは私の可愛いメイドで弟子だ!」


「ならば、外出許可ぐらい出せますな」


「くっ……分かったよ。ハルカ、小娘と一緒に出掛けて良いよ。ただし、変な所には行くんじゃないよ」


「はい、分かりました!」


 ありがとう、エスプレッソさん。でも貴方の事だから、親切で言った訳ではないでしょうね。





 かくして、ミルフィーユさんと2人で街へと繰り出しました。ミルフィーユさんも上機嫌。侯爵家令嬢という立場上、あまり街へと外出出来ないらしい。大変だね、貴族って。しかし、良く侯爵夫人が許してくれたね。


「ミルフィーユさん、今回の外出、良く侯爵夫人に許して貰えましたね」


「お母様はハルカを高く評価していましたわ。貴女と一緒なら何も問題無いと」


 侯爵夫人、それは買いかぶり過ぎです。僕は未成年でまだまだ未熟者のメイドです。


「さぁ、行きましょう! 私にとっても久しぶりの外出、楽しみましょう!」


 ミルフィーユさんはそう言うと僕と手を繋いだ。それもごく自然に。今の僕は女だし、別に問題無いとは思うけれど、やっぱりドキドキする。だって、ミルフィーユさんて凄い美少女だし。日光に煌めく緩くウェーブのかかった金髪も、青い瞳も、白い素肌もとても魅力的だと思う。


「どうしましたの、ハルカ? 私の顔に何か付いています?」


「いえ! 別に何も。ただ、ミルフィーユさんて綺麗だなって思って」


 うわ~、僕、何言っているんだろう。緊張してつい思った事を言っちゃったよ、恥ずかしい。自分でも顔が熱くなるのが分かるよ。ミルフィーユさんも顔を真っ赤にしている。そして、


「ハ、ハルカこそ、綺麗ですわ。サラサラの銀髪、青い瞳、白い素肌。私から見ても魅力的ですわ!」


 と言った。う~ん、何かお互いに妙な雰囲気になってしまったよ。ここは話題を変えないと。そう思っていたら、


「ハルカ、あっちへ行ってみましょう!」


 そう言ってミルフィーユさんは僕を引っ張って行った。お互い、同じような事を考えていたみたいだね。





 その後、あちこちを巡る僕達。


「ここが王立図書館。大陸有数の蔵書数を誇りますの。私も利用していますわ」


「この辺りは高級専門店街ですわ。良い品を取り扱っていますわ。当家の御用達の店も有りますの」


 といった具合。あまりファンタジーっぽく無い世界だけど、武具店や魔道書店が有り、武装した人達がいる等、それらしい所も有る。元いた世界とファンタジーがごちゃ混ぜになっているというのが僕の感想だね。そして僕達はある場所へと来た。ファンタジー物の定番と言える場所に。





「ハルカ、ここが冒険者ギルドですわ。私も登録していますの。せっかく来たのですから、ランク判定を受けてきますわ」


 出たよ、冒険者ギルド。ファンタジー物の定番。この世界にも有ったんだね。ところで、ランク判定って実力を判定するって事かな? この世界には実力の指標としてランクが有るのはナナさんから聞いているけど。


 僕もミルフィーユさんの後に続いて冒険者ギルドの中に入る。中は意外と綺麗。受付では事務員らしい人達がせっせと働いている。冒険者らしい人達もわりとおとなしくしている。もっと騒がしくて、怖いかと思っていたけど。


「ハルカ、どうしましたの?」


「いえ、冒険者ギルドって初めて来たんですけど、何かイメージと違うなと思って。もっと、殺伐としたイメージを持っていたんで」


「ギルド内で暴力沙汰を起こせば最悪、除名されますもの。せっかくのランク認定を失いたくはないでしょうから」


「後、ミルフィーユさん。ランク判定とか認定って何ですか?」


「知りませんの? ギルドでは、その人の実力、実績に応じてランク判定、認定を行っていますの。高ランクは正に憧れであり、名誉ですわ。多くの者達が、高ランクを目指していますの。この私もその1人ですわ」


「そういえば、ランクS以上を目指しているって言ってましたね」


 すると、受付の事務員さんが、ミルフィーユさんを呼んだ。


「ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグさん、ランク判定を行います。こちらへどうぞ」


「ハルカも一緒に行きましょう」


「僕も一緒に行って良いんですか?」


「付き添いの方も一緒で構いませんよ」


 と事務員さんが言ったので、お言葉に甘えてミルフィーユさんと一緒に奥へ行った。





 そこには、ノートパソコンの様な物とマウスパットの様な物が有った。


「それでは、ライセンスカードを渡して下さい。後、パットに片手を乗せて下さい」


 事務員さんがそう言い、ミルフィーユさんがカードを事務員さんに渡し、パットに右手を置く。事務員さんがノートパソコンを操作し、小さな駆動音が聞こえ、収まった。そして事務員さんが言った。


「おめでとうございます! ミルフィーユ・フォン・スイーツブルグさん、貴女はランクAAAと認定されました! 最年少記録更新です!」


 それを聞いて、満面の笑顔になるミルフィーユさん。良かったですね、最年少記録更新だなんて凄いです!


「やりましたわ! ハルカ!」


「おめでとうございます、ミルフィーユさん! 最年少記録更新だなんて凄いです! さすがですね!」


 するとミルフィーユさんは、こんな事を言い出した。


「ハルカ、貴女もランク判定を受けてみません? 私、貴女のランクが知りたいですわ」


「えっ? 僕のランク? 僕はメイドですし、ランク判定を受けに来た訳じゃありませんし。それに僕はライセンスカードは持っていませんよ」


「能力判定だけでも出来ますわ。お願いしますわ、ハルカ」


「分かりました」


「事務員さん、彼女の能力ランク判定をお願いしますわ。料金は規定通りお支払いしますから」


 かくして行われた能力ランク判定の結果は……。





「予想通りでしたわね。判定結果ランクS」


「酷いですよミルフィーユさん。予想していたなんて。大騒ぎになったじゃないですか」


 能力ランクのみとはいえ300年ぶりのランクS、しかも最年少記録更新ということで、冒険者ギルドは大騒ぎになってしまい、最終的には逃げ出す羽目になった。そして今はミルフィーユさんの部屋でお茶を飲みながら話し合っている。


「その事は謝りますわ。でもハルカ、貴女も予想していたのではなくて?」


 鋭いね、ミルフィーユさん。事実、その事はナナさんにも言われていた。そう遠くないうちにランクSになれると。そんな僕を真っ直ぐに見つめて、ミルフィーユさんは言った。


「ハルカ、私も必ずランクSになってみせますわ! そして貴女と肩を並べ、追い越してみせますわ!」


 ミルフィーユさんは燃えていた。本当に熱血な人だね。僕はチートな転生者だけど、ミルフィーユさんなら、本当に僕に追い付き、追い越すかもしれない。僕も負けられないね。


「僕だって負けませんよ、ミルフィーユさん!」


 ミルフィーユさんにそう宣言する僕でした。





 その日の夕方。


「ほら、ナナさん、もう帰りますよ!」


「え~、せめて夕飯を食べてからにしないかい?」


「ダメです! またお酒を飲んで寝たら困ります!」


「まったく、ハルカは厳しいねぇ……」


 文句を言うナナさん。でも、これ以上泊めてもらう訳にはいかない。本来なら昨日の内に帰るはずだったんだから。


「それでは、侯爵夫人、ミルフィーユさん、これにて失礼します」


「またいらして下さいね、ハルカさん」


「いつでも歓迎しますわ」


 挨拶を交わして帰ろうとしたその時、ミルフィーユさんが言った。


「ハルカ、よろしければ私と海に行きませんこと? 当家のプライベートビーチが有りますの」


 海か……長い間行ってないなぁ……。


「えぇ、喜んで!」


「決まりですわね!」


「私も行くからね!」


 きっちりナナさんに釘を刺されたけど、久しぶりの海、楽しみだね。




やたらと長い話になってしまいました。では、少し今回の話の説明。


ギルドに登録する際、最初のランク判定が行われます。この時は能力判定のみです。その後は、任意で判定を受けられます。ちなみに有料。ランクは上から、


SSS>SS>S>AAA>AA>A>B>C>D>E>F>G


ランクS以上:超越者の領域


ランクA以上:天才


ランクB:一流


ランクC:腕が良い


ランクD:普通


ランクE:弱い


ランクF:非常に弱い


ランクG:弱過ぎる



当然ですが、上に行くほど、昇格は難しいです。いかにハルカといえども、ランクSSには簡単には昇格出来ません。ミルフィーユも10歳でランクAAを獲得し、今回やっとランクAAAに昇格したほどですから。ちなみにナナさんはランク判定を受けた事が無いですが、もし受けたら間違いなく、ランクSSS確実です。


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