忘れていた【日常】2
【侍女キャシー】
こんにちはキャシーです。私は、ヘスタロドス様こと若様の御着せ係を任せられている者ですわ。
私達三人は幼少の頃から側妃さまに仕えさせて頂いています。
側妃様はとても御可哀相なお方です。一族の中で一番大切なお姫様。最も聡い方なのに、女というだけで道を閉ざされた方。
側妃様が幼い頃に、泣きながら男になる方法を調べた事を思い出します。ルールとミーシャと私も調べました。
そんな側妃様は後宮に嫁いだ際に孕まれました。一発しか精を放たれていないので、百発百中ですわ!グッジョブ側妃様!
徹夜で四人で排卵薬を作った甲斐がありましたね!
そして、ヘスタロドス様がお生まれになったのです。若様は私達の側妃様にそっくりです。癖っぽい、くすんだ小麦色の肩まである髪、錆び付いた面倒臭さそうな蒼い瞳、大きな白い歯は笑うとチェシャ猫みたいです。
やん!可愛い。時々ひっぱたきたくなる事を言ったりしますが、心根は優しい方ですわ。何せ、他の王子達は、物心がついた頃には母親を只の政争の駒としか見ていません。
しかし、私達の若様は側妃様を母親と慕って下さいます。ズレていて捻くれた方ですから、素直に好意を表したりされなかったのですが、一途に側妃様を慕う姿に私達は救われました。そして、側妃様ご自身も。
妃達が苛烈な権力闘争を繰り広げる中、冷たい宮は側妃様の心を憂鬱にさせました。孕んでも変わらずに、私達は心配しておりました。
しかし、ヘスタロドスが産まれてから側妃様は以前のように笑うようになられました。他の王子達が汚らわしい遊びに興じる中、私達が作ったトガを無くして泣かれた姿を見て、不謹慎ですが嬉しかった。
もし、若様がいなかったらと考えます。居ても他の王子と同じ道から外れた人物だと考えます。そうしたら、多分側妃様は壊れていたでしょう。
本当に、あの国王に似なくて良かった。
床入りの晩に響いた悲鳴を思い出します。さっさと済まされたように帰った国王の後に、駆け寄った側妃の姿。ルールが泣きながら壁を叩いていました。女王様みたいなミーシャが泣いてるのを初めて見ました。
国王は何よりも尊く崇拝しなければいけない存在。
そんな事知ったことですか。私達は大嫌いです。どんなに美しい外見でも、あの男の性根は腐っている。
アイツが行った善行は若様を生み出したこと位です。
そんなこんなで平和な日々を過ごしていたある日、ヘスタロドス様は小さな異母弟様に付き纏われておりました。
私達は眉をひそめました。私達の若様達に付き纏うなんて!しかも相手の母親は寵妃ではないですか!側妃様が嫌いな方は私も嫌いです。
私達は警告する為に寵妃の宮に乗り込む側妃様にお供致しました。
そして…。
うっ…うっ…。何て悲しい恋の物語なんですの。
号泣です、感動です!
寵妃様の話を聞いて、私達は手を取り合って泣きました。この方は辛い思いをされていたのですね!それを聞いて側妃様も泣いておられます。
それがキッカケで私達は寵妃様達と仲良くなりました。話してみると中々良い方々です。西の国の美容法が特に興味津々ですわ。
寵妃様のメイド達とヨーグルトパックを顔に塗っていたら若様に悲鳴を上げられました。美容方法をイロイロ試していたら、まるでお化けを見るように若様達に見られました。
失礼ですわよね。
あら?あんな所に小さな子供が。奴隷でもないようですし、何処のお子様かしら?
坊やどうなされました?
あらあら、その外見なら多分その方は私達の若様ですわ。今、若様は散歩に出掛けているですから、一緒にお待ちしましょうね。
坊やはお菓子好き?
それじゃあ、一緒にお茶をして待ちましょう?
【武術侍女ルール】
僕はルール。
昔から側妃様に仕えている侍女だよ。え?僕の話し方が違うって?当たり前じゃん、プライベートと使い分けてんの。
僕の側妃様は、とっても優しい方なんだ。僕が女だてらに武術を学びたいって言っても笑って許してくれた。
だから、側妃様の為にも頑張って僕は強くなった。すると、色んな武術に興味がわいて暗器術や徒手空拳とか学んだ。武器にも興味が出て、沢山集めたんだ。僕の部屋にある武器のコレクションは一見の価値があると思うな!
ミーシャからは節操ないと言われたけど気にしない。
僕の唯一の趣味だもん。
多分僕より強い人は中々いないんじゃないかな?だってこの間、親衛隊の見習いに勝ったもん。親衛隊のくせに楽しい奴らだったな〜。
また、手合わせ出来たら良いよな。
だから、僕の技術を是非、若様に伝授しようとした。
折角の男の子だもん、喜んでもらえると思ったんだけど、若様か弱すぎ…。
何で内股になるのかなぁ?一度稽古をつけた時から逃げられるようになっちゃったよ。
悩んでたら、キャシーに「手加減なさすぎです!」と叱られた。
そうかな?
そんなこんなで、少し物足りなく感じていたんだけど、アルスロドス様は良いね!なんて言ったって、センスがあるよ。
身体能力だけじゃなくて、周りの状況を見ての判断力が強い。これは将来とっても強くなるよ!
こんなにワクワクするのはいつぶりだろう。アルスロドス様はダイヤの原石だ、磨けば磨く程に強くなる。
早く帰ってこられないかな?まだまだ教えたい事が沢山あるんだよな〜。
そんな事を思いながら休み時間の準備をしていたら、キャシーが戻ってきた。
あれ?誰だろあの小さな子。まあ良いや!
【???】
おやおや?いらっしゃらないと思ったら、こんな所においででしたか。良かった良かった、もし逃げられていたら私の首が飛びますからね…。
しかし、とても楽しそうに笑われて。あの方はあんな顔が出来たのですか…。何時も人形のような無表情しか見たことなかったので、少し驚きます。
フフフフ
いけません
いけませんねぇ
貴方様は陛下の物。産まれてから死ぬまで、あの方の憂く心を慰める玩具。愛おしい陛下以外に笑いかけるなんて有ってはならないことなんですよ…。
私の目の前で、有ってはならない事が興っている。
それでは無くせば良い。
目撃者は全て塵に…。
罪ない侍女達には誠に申し訳ありませんが、仕方ないですよね?貴方様が悪いんですよネロアス様。
私は眼鏡の位置を直すと剣を握りました。
【女王様侍女ミーシャ】
キャシーの体が崩れ落ちる。不思議そうな顔をした友人の首は、血まみれで白いテーブルクロスの上にゴロンと転がった。
先程までキャシーの膝の上に座っていた少年は、血まみれで呆然と立ちすくんでいた。
「何で貴女様が。」
私の目の前にいるのは国王の腹心である女。豊かな胸を持つ豊満な体に執事服を纏い、片眼鏡をつけた彼女は、護衛次長・ヘスドール。
常に眉をひそめて嫌らしい笑みを浮かべていた彼女は、今もニヤニヤと笑いながら剣を振るう。
腹部に熱い感覚。
内臓がクチャクチャと撹拌される。
口から止まらない血。
「ミーシャァァァ!」
ルールの叫び声が遠くで響く。肩を蹴飛ばされて、血を撒き散らしながら地面に転がる私。
開いた腹の穴からユックリと臓器が漏れるのが分かる。
「この方は陛下の大切な唯一なんですよぉ。だから、この方と関わった人は消さないといけないのですよ、貴女達には大変な迷惑をおかけしますね、申し訳ありません。」
掠れる意識で誰かが申し訳なさそうに言った言葉が聞こえた。
な…にが…?
悲鳴があがったと思ったら、私の目の前に両腕のないルールが崩れ落ちた。見ると、ヘスドールの背中には黒い翼があった。
悪魔…。
ヘスドールは私達にユックリと近付いてくる。
「ミーシャとキャシーに近付くなぁぁぁぁ!」
ルールは唸りながら立ち上がりヘスドールに躍りかかる。手はなくても、鍛えられた足で彼女の歩みを止めようとする。しかし、彼女の歩みは止められない。
ピシャア
私の物ではない血が降り懸かった。冷たい体にかかるソレを感じた私は、「嗚呼、温かい」とズレた事を思う。
顔を横にすると、黒い兵に連れ去られる少年が見えた。
申し訳ないけどホッとした。話を聞くと、あの少年を見た者をヘスドールは殺すらしい。もうすぐ帰られる若様が巻き込まれる事はないだろう。
もし、若様が少年と知り合いである事を知ったら、陛下の犬である彼女は恐らく若様でも殺すだろうから。
コツンコツン
ハイヒールの音が聞こえる
側妃様、若様ありがとう、ありがとうございます。私達は貴方達に仕える事が出来て幸せでした不器用な癖に聡くてそれで悩みながらも頑張っている側妃さま、若様はどうしようも無いくらい捻くれて憎たらしい方ですが、側妃様に似て聡くて可愛い方で。前回、側妃様が寵妃様と仲良くしているので拗ねられた時なんて可愛いらしくてキャシーなんて身もだえしていましたわ。若様は私の女王様気質を受け継ぐ才能を持つ方です、鍛え甲斐がありました。それに、蔓薔薇の広場で皆で見送る会をしたのは楽しかった…。
何だ、フフフフ。私ってとても幸せですね。ヘストロダス様が御産まれになった春の日は今でもザク
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク
【キャシー】
着せ替え係の侍女。ホンワカした性格で、ショタコン気味。ヨーグルトのパックが好きだった。兄弟を見て影でハアハア言っていて、他の二人からヒッソリと監視されていた。
【ルール】
武術大好きな僕っ娘。気は優しくて力持ち。武器マニア。アルスロドスがドンドン強くなるのが楽しくて仕方ないアルスロドスの師匠。ガサツなのを毎日ミーシャに叱られていた。
【ミーシャ】
女王様気質の美麗女子。三人のリーダー。数ある男達を手玉に取り、貢がせる事多数。ヘストロダスの女王様気質を見出だして育てる。若様はいつか自分を超える女王様になると思っていた。