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奏でる者のいない鐘  作者: 春子
◆◆少年編◆◆
6/16

調教

奴の調教は順調である。


母上にばれたら厄介な事になると思っていたが、意外な事が判明した。


いつの間にか、母上とコイツの母親が親しくなっていた。互いの婢達も仲良くなって、互いに菓子の作り方や異国の美容方法も異国出身の婢に習っていた。(ある日帰ったら、婢達が白い液体を顔に塗っていてビビった。)



訳がわからん。


最初は私がコイツに付き纏われている事に対して、苦情を言おうとしたらしいが、何やらコイツの母親は悲恋の末に此処に来たらしい。それが女達が好むような大恋愛で、感動して泣いていた。母上なんて、「貴女も苦労致していたのですね。」と言いながら母親を抱きしめていた。


おい…、先日まであれ程罵っていただろう。


そんなこんなで寵妃と側妃は密に仲良くなった。寵妃と側妃では立場が違う為に、その関係は隠されたが仲が良い。まるで姉妹のようだった。


くだらない…。


私は逆にコイツの世話をするように母上に命じられた。コイツ下僕計画が邪魔されない事は有り難いが、何だか不快である。


寵妃の癖に母上の宮に入り浸るのは気に食わない。もし、父上がお越しになられたらどうするのだ。それに最近、寵妃との茶会のせいで母上は昼によく不在になるようになった。


何だか苛々する。私がその旨を婢に申したら、何故か頭を猛烈な勢いで撫でられた。「ヘスタロドス様ったら嫉妬なさっているのですね!」

「んもう!可愛い〜。大丈夫ですわ、側妃様はヘスタロドス様を大好きなままですわよ!」

「ヨシヨシ!それに、私達がいるから大丈夫ですわよ〜。」


「痴れ者が!何をする無礼者。私を誰だと心得ておる!」

「私達の大切な若様ですわ!」


コイツ達は私の話を聞いていない。分かった、お前達は馬鹿なのだな!お前達を三馬鹿娘と名付けてやろう!


その後、三馬鹿娘達は私を抱き上げると何故か甘やかされた。


そして、その後のある晩に、母上にも抱きしめられて頬擦りされた。


三馬鹿娘が口を滑らしたらしい。


覚えていろ…。


まあ、そんなこんながあってコイツの調教は母上や婢の協力を得て順調に進んでいる。


まず、この私の下僕になるのだからな。婢達に相談して、身嗜みを整えさせた。


奴は容貌によって大分救われているが、外見は酷いものだ。王家の証である金の装飾品を身につけず、優雅に垂れ下げる筈のトガの裾を捲ってベルトに挟み、足を剥き出しにしている。隙間から覗くチュニックは、様々な汚れで変色している。


お前、何処の山猿だ。


奴は装飾品で飾り立てる事を嫌うらしいが、幸いな事に奴は私の言い付けには非常に従順である。


私が命じれば身嗜みを整え、婢が用意した上等なトガを渋々身につけた。しかし、何故私が手ずから奴に装飾品を身につけさせなきゃいけない。金の指輪を一つだけだが嫌だ。


私は当然のように拒絶した。下僕は奴であり、従うべきは奴だ。そんな事をする必要性を感じない。


「馬鹿か。」

「そんな事を言わないで下さいませヘスタロドス様。」

「アルスロドス様は頑張られたのですわよ。御鼻が敏感なのに頑張って香水を我慢なされて自分につけたんです。」

「それも全てヘスタロドス様に褒められて、指輪を嵌めてもらう為です!」


何故そうなったか、じっくりと聞かせて貰いたいな。


視線を反らして脇に佇む奴を見る。髪は婢達に手入れされて更に輝きを増し、染みがない純白のトガを優雅に纏っている。薄汚かった時から輝く美貌だったが、今は神々しささえ感じる美貌である。


奴は不安な顔をして両手を握っていた。そこに恐らく指輪が有るのだろう。


私は目線を反らし、背を向けた。私にとっては、母上が認めようが下賎な異国の血が入った奴である。


触りたくない。


帰ろうとした私に、菓子作りが得意な婢がスススと近付いてきた。


「ヘスタロドス様、飴と鞭ですわ。私の経験から、褒めを加えることによって馬鹿な男達の働きは、全然違います。」


それに頷いた珈琲が得意な婢も近付いてきた。


「そうですわ、一つの飴を与えると、馬車馬のように自ら働くように仕向ければ良いのです。慣れると、罵ったり蹴り上げたりしても、不様に喜んで這いつくばって働きますわよ。鞭で叩いてピンヒールで踏んだら泣いて喜びます。」

「ほう?それは面白い。私に教えろ。」

「はい、承りましたわ。」


婢達の言う通りにイロイロしながら指輪を嵌めてやったら、奴は泣いて喜んだ。何故か鼻血を出していた。


フフフフ、これで奴は馬車馬のように働くのだな。


■■ヘスタロドスは【女王様の心得】を習得した■■


次に使用人の技術を学ばせた。一応王家の一員であるコイツには必要ないし、使用人のような事が出来ると知れたら、周りには見下されて立場は更に悪くなるだろう。


なのに何故学ばせるか?

単純に便利だからである。


コイツには有り難くも、この私の下僕になる身分である。イロイロ仕込んだ方が便利だし楽だが、その際に中途半端な技術で世話をさせても不快感が沸き上がるだけだ。世話をさせるなら最高の技術を身につけさせる。


最初は不満げでチンタラしていたコイツだったが、「私の世話をするんだからしっかりやれ屑。」と罵ると、今までの事が嘘みたいに猛烈な勢いで働きはじめた。


更に婢達が影で何か言ったらしい。漏れ聞こえた言葉は「裸体」「足と肌」「マッサージ」「風呂殿」という不可解な物だが、それを聞いた奴の動きは正に獅子奮迅の働き。分身が幾つもあるように見えた。


少し気持ち悪い。


何だこの気合いは…。いみじくも王家の一員が、婢と同じ仕事をさせられそうになっているのだぞ。普通はもっと嫌がり屈辱に苦しむだろう。


それが何だ、このやる気は?


まぁ、下等なコイツには婢のような仕事が良く合うのだろう。つくづくの王家に相応しくない奴だ。私の下僕になれる事を感謝するが良い。


奴を見ながら、そう言ったら盛大に感謝されられた。私に感謝を捧げる事は当然として、少しは屈辱等の態度をとって貰いたいな。反抗的な人格を捻り潰すのが楽しいのに、私の言葉は全て褒美になるらしかった。いくら私が偉大でも理解不能である。


それに、私の着替えの手伝いを執拗に試みる魂胆が分からない。何度蹴倒しても挑んでくる。少しコイツの頭が心配になる。


白痴は使えないからな。


次に野戦技術やら人心掌握術等を教え込んだ。宮中にて私の下僕として働くのだ、有能であれば使える幅が広がる。だから、様々な技術を教え込み、詰め込ませる必要があった。


しかし、教師を呼べば奴と私との関係が大々的に知られてしまう。だから、非常に面倒で不本意だが、座学は私と母上が教えた。野戦技術は婢達が教えている。


驚く事に三馬鹿娘達は中々の使い手であった。母上に聞いてみると、三馬鹿娘達は母上の実家から連れて来た使用人兼護衛で、幼い頃から母上に仕えているらしかった。それで奴らは馴れ馴れしいのか。


しかし、教えてて分かったのだが。こやつ、中々頭の出来は悪くないようだ。要領も良く手際も良い。一度教えた事柄は、次々にに自分の物にしてしまう。無能は嫌いだが、馬鹿にする種が無くてつまらん。



しかし、少しやり過ぎたか?



今、私の目の前で奴は白目を向いて横たわっていた。時々あらぬ方向を見てブツブツと薬草の調合方法を呟いている。


此処は奴の母親の宮だ。異国風の調度品が並ぶ室内には様々な参考書や本が置かれている。


今は私が芸術を教える時間なのだが、私が部屋に来てやったのに目の前の奴からは覇気が感じられない。試しに鞭でペチペチ叩いてみたが、ビクンと痙攣しただけで動かない。


なはり、八歳の幼子に朝の四時に暗器の鍛練と体力作り、午前は休み無しの勉学(政治・数学・歴史)、午後は実践的な鍛練と芸術に楽器に詩歌に関する各種勉学。各授業毎にはレポートを提出するように命じている。それに加えて休みなしはきつかったか?


どうするか…、婢の言っていた事を思い出す。飴か?飴をやらないといけないか?


マムシ汁でも飲ますか?

いや、ニンニクや生き血でも口にぶち込む?


……用意するのが面倒だな。何で私が奴の為に頭を悩ませなきゃいけない。考えていたら段々苛々してきた。


ちらっと見ると、目の前の奴はフラフラしながら起き上がり、机の上に紙を置いた。一応やる気はあるようだが、頭が左右にフラフラしている。


ハア、仕方ない。

溜息をついた私は、奴が俯せになっていた机の上に腰掛ける。

「三十分休憩だ。寝ろ。」

「え?」

「私が寝ろと命じている。寝ろアホが。」


首に巻いていた布を解いて奴の頭に掛ける。暫く奴はプルプルと震えていたが、もう一度命令すると大人しく寝た。


コイツは普段は聞き分けが良いのに、時々馬鹿になる。まだ調教が足りないようだ。


私が寝ろと言えば寝、死ねと言えば死ぬような忠実な性格にしなければならない。


奴の寝息を聞きながら、私は奴の調教計画の修正案を紙に書き記していた。

弟君改造計画!!何故彼等が寵妃達との関係を隠そうとしているかと言うと、後宮の嫉妬を集める異国の妃が側妃の一人と仲が良いと知れたら、虐めや権力闘争に巻き込まれるからです。ヘスタロドスの母親はそれがとても苦手なタイプです。ちなみに弟君の母親は受けてたつタイプで、他の側妃達と息子を守る為に日夜激しい戦いを繰り広げていました。しかし、そのせいで兄弟達に彼が虐待されていた事に気づけれませんでした。

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