異母弟3
「無礼者!私を誰だと思っておる!」
「関係ありません。ヘスタロドス様、悪戯がすぎますよ!」
只今私は不本意だが、婢達に梁に縛られて吊り下げられている。婢ふぜいが私に何をする!
「悪戯ではない!お前達に罰を与えようとしたまでだ!」
「まぁ罰ですって!キャシーを縛ろうとしたのに、謝らずによく言えますわね。」
「迎え撃ちます。」
「私達容赦致しませんわよ!」
「私の下着、何処に隠したのですか!」
「うわぁぁ!」
グルグルグルグル
周りの風景が凄まじい勢いで過ぎ去る、頭がクラクラして吐き気がして悲鳴が出るが、怒り狂った婢達は私を回すのを止めない。
そっそこまで怒る事ではないだろうが。まだ私は婢の一人を縄で縛って、下着を脱がしただけだ!
「うげええ〜。」
「一体何をしようとしたのですか!」
「下着なんか脱がせて!」
「まぁ、イロイロと…。」
「まあ!」
「十歳のくせに!」
「もう十歳だ!」
私が言った瞬間、婢達がハンッと息を吐いて見下ろしてきた。
「この私を馬鹿にするな!愚か者が!」
「お子様が何を言ってらっしゃるのかしら?」
「子供扱いするではない!」
すると、奴らは私の前に菓子と珈琲を差し出した。私のオヤツだ。
「あらあら、それでは大人なヘスタロドス様には、お菓子は要りませんね?」
「珈琲も無しです。」
慌てる。こ奴らは下等な婢だが、私の口に合う菓子や珈琲を上手に作り出す。それを取り上げられては少々困る!いや、大分困る!
「待て!そこまでする必要はないだろう!」
「いけません、暫く取り上げますからね。」
お菓子が食べれなくなった…。
菓子!菓子菓子菓子菓子菓子!
本日禁菓子三日目だ。
子供の体にとって菓子が食べれない事がこんなに辛いとは…。
腹は満ちているが物足りない。甘いものを食べたい。
蔓薔薇の広場で黄昏れてみる。
ガリガリと枝で【甘味】と地面に書いてみた。それで気が紛れるわけではなく、何だか切なくなった。
しかし、婢達は私に馴れ馴れしすぎだぞ。一体何なんだ?母上は何故許す。
前は…、前は?奴らはどうだった?以前の奴らは確か…。そういえば奴らは途中で別人に変わっていたな。
何故だ?
ズキン
そう思った瞬間、頭と胸が痛んで、うずくまる。嫌だ嫌だ思い出しとうない、婢の姿を奴らを思い出しとうない。有るはずのない記憶を幼い体が拒絶する、胸の痛みに苦しみながら唇を噛む。
膝を着いて地面に爪を立てる。
呻きながらジッとしていると、横に気配を感じた。柔らかいムスクの匂いが鼻先を掠める。
横を見るとアイツが居た。心配そうに私を見上げている。
近付くのを許すとは不覚だが、頭が痛むので気にしない。睨みつけなが無視していたら、奴はアワアワむやみに慌てだし、私の周りを犬のようにウロウロとし始めた。
突然立ち止まった奴は何かを思い付いたらしく、手を叩き広場を駆けてある場所で穴を掘りはじめた。(此処は私の場所なのに、最近奴は勝手に私物を犬畜生のように穴を掘って保存している。私は何度も排除しようとしたが、隠し方が巧みでみやみに体力を消費するだけになった。)
横目で見ていると、奴は三十センチくらいに掘った穴からズルゥと大きな箱を取り出した。丈夫な木と革で出来た重厚な一メートル位の、大人でも扱いに困る巨大な物だ。それを簡単に持ち上げている。
…コイツの怪力等の超人的身体能力は気にしない。背が小さいから、地面に引きずらないように頭の上で箱を持った奴は私の前に駆け寄ってくると、そのままの勢いで地面に置いた。
バァン!
凄まじい勢いで置かれた事で、土埃が舞い上がる。鼻を押さえて眉をひそめていると、慌てた奴はパタパタとトガの裾で風をおこして土埃を静めようとしていた。
一方の私は怒り心頭である。ただでさえ腹が立って機嫌が悪い中のこの仕打ち、私は腰に巻かれている鞭を取り外そうとした。母上にねだったコレは子供用で小さいが、熟練の職人が作った一本鞭だ。子供用でも、上手く使えば肉をえぐる事が出来る。
鞭は私が以前から愛用している武器だ。体力が無い私でも苦痛を与えられる素晴らしい武器である。
鞭の柄を掴んだ瞬間。私の目の前で奴が箱を開けた。
そこには様々な菓子が詰められていた。蜂蜜をかけたナッツを固めた物や、ドライフルーツが入った焼き菓子。基本的には保存が効く物だが、上質な菓子がぎっしりと詰められている。
三日ぶりの菓子に、思わずはしたなく喉が鳴る。
何処か誇らしげな奴は、箱の中から敷き布を出すと私の目の前の芝生に敷き、銀のトレーをその上に置いて菓子をドンドン盛っていく。そして、レースのハンカチを置いた奴はジーとしゃがんで見てきた。
座れと言うのか?とりあえず、敷き布の上のレースのハンカチの上に腰を下ろして座る。
すると奴はスススとトレーを私に差し出してきた。奴が用意した物なんて普通なら食べたくないが、本日私は禁菓子生活三日目である。
無難なアーモンドの焼き菓子を口にする。
すると絶妙な甘味が舌を駆け抜けた。スパイスが入っているらしい、少し異国の味だが美味い。一つを食べ終わると、両手に持ち珍しい菓子を口にしていく。
焼き菓子ばかりなので、少し喉が渇いたなと思っていると、奴は私にコップを差し出した。果物の果汁とハーブが入った水は爽やかで美味かった。
「美味だ。」
思わず零してしまった言葉に舌打ちをした。目敏く聞いたアイツは両手を上げて喜んでいた。
華の幻覚が見える気がする位の喜びようである。奴はドンドンと菓子を盛っていく。
私が菓子を口に運ぶと、その様子をキラキラと輝く瞳で見つめてくる。試しに口元に笑みを浮かべてみた。
すると、奴は顔を真っ赤にして喜んだ。私が笑みを浮かべた時に食べた菓子を皿に盛って、更に私に勧めてきた。
その様を見て口がニンマリと歪む。
中々コイツは気が利くようである。私の事を慕っているみたいであるし、献上品を捧げてくる。まぁ、汚らわしい血が入っているが、外見は特上で運動神経も良い。
よし、決めた。
付き纏われるだけなのも煩わしいし、コイツを私の下僕へ調教してやろう。
考えてみると、この私に懐くとは中々見所がある奴である。立場が平凡な私には兄上達の誰かの下につくという選択肢はあっても、誰かを従える事は出来なかった。しかし、王子の中で底辺であるコイツなら従える事が出来るだろう。手数は少しでも増えた方が好ましい。
例えそれが兄上達の性奴隷でも、王子の一人であれば果たす役割は果てしなくデカイ。この私自ら調教し、忠実な下僕として心得構えを教え込めば、将来便利な駒になるだろう!
感謝しろ、お前は今日から私の下僕となるのだ!
変化球で仲良くなろうと思うお兄ちゃん。相変わらず歪んでいます。