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奏でる者のいない鐘  作者: 春子
◆◆少年編◆◆
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異母弟2

何故こうなった…?私は林の中を競歩のようなスピードで歩きながら舌打ちした。


私の足音を追うように、もう一つの足音がする。私よりも軽い足音は、狭い歩幅でついて来ている。


私は耐え切れずに後ろを振り向いた。


「一体何なのだ!私に着いて来るのではない。」

「……。」


そこにはアレがいた。アレは私に怒鳴られて唇を噛み締めて下を向いている。理解したかと思い、さっさと歩くが暫くすると、また私を追ってくる足音がした。


今の私の状況を一言で説明しよう。


懐かれた。



理解不能だ

不可解だ

意味不明だ


あの日からコイツは私を見付けると、まるで鮫のように引っ付きついて来るようになった。最初は仕返しをしようとしていると思っていたが、何もせずに私の動作を少し離れた場所から眺めるだけだった。時々振り返ると私の真似をしていたりしたり、あの広場に行くと献上品なのか華や菓子が美しい布の上に置かれていた。


訳が分からない。


私の何処に懐かれる要素がある。何故コイツは私に懐く。あれか?罵ったからか?いや、話し掛けたのが悪かったのかもしれない。コイツを付け上がらせてしまった。


一番の問題が、付き纏ってくるコイツのせいで、私が兄上達と遊べない事だ。私に付き纏う奴を誰にも見られないように毎日、林の中を走り回っているから私は兄上と顔すらあまり会わせてない。奴を見た瞬間、林や森に逃げ込む日々である。


コイツは庭の抜け道を熟知している私を追っている為に、必然的に兄上達からも逃げおおせている。


兄上達は最初はコイツを捜していたが、暫くすると飽きたらしく婢で遊ぶ事に夢中になっている。


兄上達は私がいない事に気付いた様子すらない。


私は十番目の王子で、継承権からも遠く、母上の実家は側妃としては平凡な家系。可も無く不可もない私は特に重要視されずに、兄弟の中では平凡で居ても居なくても特に興味は持たれない存在だ。居れば一緒にいるが居なければ、それはそれで気にもされないのだ。


だからこそ、少しでも兄上達といて自分の立場を固めたいのに、コイツのせいで台なしである。


苛ついた私は奴を撒く為に入り組んだ場所を駆けた。地面が大木の根で隆起して、木や茨が密生している場所だ。そこを歩くと明らかに奴の足音が離れる。


フハハハハ!このまま撒いて遭難させてやろう。ここは庭でも更に奥まった場所だ、遭難すれば発見される事は難しい。


この私を煩わせよって、苦しんで餓死すれば良いわ!私の全力ダッシュを死への餞別にみせてやろう!


ドッシーン!バリバリバリ

凄い音がしたぞ…。


立ち止まり振り向いてみると、そこには小さな潅木を薙ぎ倒しながら豪快に地面を転がるアイツだった。


人間がこんなに豪快に転ぶのを初めて見た…。


呆然として立ち止まる私の前を奴はゴロゴロと転がりながら横切って、一本の巨木の根本に激突して止まった。


死んだか…?


見ていると、なんと奴はエグエグと泣きながら起き上がった。ほぼ無傷だと!?あれ程激しく悪路を転がったのに、奴の体は小さな切り傷だけで怪我らしい怪我は殆どない。


何て丈夫な奴だ…。そういえば西の国の人間は、我等と比べると丈夫な体をしているらしい。その特性をコイツも受け継いでいるのか…。確かに、兄上に何時間も暴行と凌辱を受けても翌日にはケロッとしていたしな。


何となくアイツを見て自分の考えに納得していたら、エグエグと泣きながら手の平で目を擦っていたアイツは立ち上がっていた。


そして、目が合った。




コイツ、絶対勘違いしているな…。


私を見て顔を明るくさせた奴は照れたように顔を赤くすると、立ち上がり私に近付いてきた。


私は慌てて走るが、その後ろを跳ねるような足音がついて来る。


もしかしてお前、私がお前を待っていたと勘違いしていないか?そうだろ!なんていう馬鹿らしい勘違いをしているんだ!


腹立つ腹立つ腹立つ!この馬鹿は私をどれだけ虚仮にせれば気がすむのだ!


「グヌヌヌヌ!」


歯軋りするが、後の祭りである。私は後ろから伝わってくる幸福そうなオーラに眉のシワを深くする。


分かった事が一つある。私はコイツを付け上がらせたのだ。


翌日


やはりアイツを付け上がらせたようだ。何故分かったかって?


明らかに距離が近くなったからだ!


今までは多少距離をとっていたアイツだったが、今はピタリと私の真後ろに着いている。というか、歩くの速いなお前!何なんだそのスペックの高さ!


ククク!しかし、私を怒らせたお前は不幸だな。今日こそ息の根を止めてやる。私はある場所へ向かって歩を進めた。


私が出たのは、平凡な広場である。しかぁし!此処には昨晩、婢達に掘らせた落とし穴が婢達がキレるくらい有るのだ!婢に何故か叱られたが知るか!というか、婢ふぜいが私に叱るなど分不相応である。それを母上に言い付けたら、何故か私が叱られた。不服だ。


フフフフフフ

まぁ良い。落ちろ、この馬鹿。深さは数メートル。八歳の幼子なぞの首の骨なんて簡単にポキリと折れてしまうだろう。


私は骨が折れる音が好きだ。特にアイツと同じ年頃の子供の骨が折るのが大好きだ。ミルクの匂いが残る柔らかい肉に覆われた成長途中の細くて小さい骨は、力にを少しずつ加えられると歪む。しかし、弾力のある、しなやかな骨は僅かにしなり中々折れない。段々力を強くする。腕や足が歪む。(私は、折るなら足が好きだ。太くて折りがいがある。)


そして、とうとう骨は折れる。その時のポキリとした艶やかな感触や、何より見物なのは、けたたましく泣く子供だ。まさに堰を切ったように全身の力を使って、凄まじく泣く。


それらを想像するだけで、ゾクゾクとした感覚が止まらない。


汚らわしい異母弟よ。お前はどんな悲鳴を聞かせて、私を喜ばせてくれるのか?



私はニヤニヤしながら、広場を横切った。


バリバリ!


後方で穴を塞いでいた板が割れる音が派手にした。


ウヒョヒョ!落ちた落ちた♪


私は小躍りしながら、ポッカリと穴が空いた地面にしゃがんで近付いた。ワクワクしながら耳を澄ます。


さあ、苦痛に苦しむ素晴らしい声を聞かせろ!


………おや……………?…………ん?……?……?


苦痛に呻く声も、不様に助けを呼ぶ声も、何も聞こえない。私は首を傾げながら中を覗き込んだ瞬間、


「……。」

「……。」


鼻が付きそうな距離で、大きなアメジストの瞳と見つめ合う。暫く見つめ合う我等。


「うぉ!」

「……!!」


私が叫ぶと奴も驚き、落とし穴の壁をズルズルと滑り落ちた。


何だコイツは!数メートルもある、足場もない土の壁を素手で登って来たのか!?昨夜確かめたが、ここら一帯の土は脆くて簡単にボロボロと崩れる。とても登れる状態ではないのだ。薄々気付いていたが、コイツはもしかしてハイスペックな身体能力を所有しているのか!?チートか?


……自分で言ってなんだが、[チート]とは何だ?スラッと知らない言葉が出てきたが、どんな意味なんだ?


そんな事をツラツラと考えながら、私が尻餅をついて呆然としていると、目の前の穴から奴が這い出て来た。奴は爽やかに汗を拭きながら、「あ〜疲れたぜ。」と言うように達成感あふれる微笑みを浮かべながら泥を払っていた。


座り込んでいた私と奴の目線が合った。私を見た奴はキラキラと瞳を輝かせた。何処か確信を持ったかのような目線に、嫌な予感がする。


これはあれか、また勘違いされた?


もしかしたら、コイツは私が心配して覗き込んだと思ってないか?


ペコリじゃない!何を勘違いしてお前は私に頭を下げているのだ!腹立つ苛つく!


私は懐に入っていた硬い物を掴んで投げ付けた。全力で投げた私の剛速球は、ヘロヘロと奴に向かって弧を描き、片手で受け止められた…。


くそぉ!お前は年下だろう、何を簡単に受け止めているのだ。生意気だ!


くれるの?と言うような瞳で私を見るな!腹立つ!私の懐に入っていたから、恐らく私の物だろうが、奴がシミジミと眺めている硝子瓶は見覚えはない。多分、婢が勝手に入れたんだろう。


奴が触った物なんて要らぬ!無言で立ち去ろうとした瞬間


「ありがとう…。」


私の背中に小さな声がかけられた。それが兄上達に殴られても犯されても、一言も出さなかったアイツの声だと理解するのが遅れた。そして言われたことがない言葉に思わず振り返ると、なんとアイツはペタペタと瓶の中身を自分に塗っていた。


そう、私が投げたのは傷薬だったのだ!


何故だぁぁぁぁ!目茶苦茶持っていた覚えがないぞ!婢ぇ、何故こんな物を忍ばせた!お前のせいで、私がコイツに慈悲を施してしまったではないか。


「ちっ…違うわ阿呆が!」

焦りすぎて思わず叫んで罵るが、奴の幸福そうな顔は変わらない。


今、何を言っても事態は悪化するだけだ。私は地団打踏んでその場から立ち去る。背後からズボッズボッと連続で落とし穴にかかる音がするが無視して、アイツが足止めされている隙に、穴だらけの広場から立ち去った。


頭の中はこの私に恥をかかせた婢の事でいっぱいだ。覚えてろよ…婢達。


全員罰を与えてやろう。


前回で得た知識にて、お前達の人格がぶっ飛ぶ位の素晴らしい体験をさせてやろう。ククククケケケ!

物凄く異母弟に懐かれ始めるヘスタロドス。自ら墓穴を掘りまくりです。

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