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奏でる者のいない鐘  作者: 春子
◆◆少年編◆◆
3/16

異母弟

自らの使命に燃え上がる私だったが、正直言うと何も出来なかった。何せ私は赤子だ。


何かが出来る訳がない。


よって私は体が成長するのを待つことにしたのだが、盛り上がっているのに長い間待たされると萎える。喧嘩とかで最大に燃え上がっている時に、ぶつける相手がいなくて放置されると次第に気分が萎んでくるであろう?そんな感じだ。



まあ、もし革命軍のメンバーに出会ったら絶対殺すが、今の私は後宮から出る事すら出来ない。


そんなこんなで怠惰に過ごす私は十歳になった。


現在目の前で異母弟が異母兄上達に犯されている。


「…!」

「もっと腰を振るが良い。」

「婢の血が入った出来損ないが我等に抱かれて感謝しろ。」


ハハハ!凄い凄い。


アイツ、既に兄上達に何時間も殴られて犯されているのに気絶しない。


今は学習の時間も終わり、時間が空いた午後の昼下がり。


後宮の庭にある、森に囲まれた崩れかけた塀の上に私はいる。そこにノンビリと腰掛けながら、私は兄上達とアレが繋がるのを見て笑っていた。


アレの名前はアルスロドス。父上が西国からの人質として寄越された姫に産ませた奴だ。


父上は母親ごと沈めるなり焼くなりするつもりだったのだが、アレと母親は類い稀な美貌をしていた為に生かされている。


ちなみに、母上はアレの母親が大嫌いらしく、いつも罵っている。アレは異国の汚わらしい血が入っているから、外見は褐色の肌に銀髪という異形である。


確かに造形は整ってはいるが、このような不気味で、みっともない外見の奴なんて抱く気は起こらない。


兄上達はこんな奴を、よく抱けれるな。まあ、兄上達は丁度十代前半だ。色欲が高い歳である。


それで奴の美貌に惑わされていても仕方ない。それにむやみやたらに女を抱けば厄介だし、まだ成人の儀を迎えてない我等が女をはべらしたりするのは無理である。


それなら、手頃に欲が吐き出せて外見も良いアイツで、幼い青い欲望を発散するのも良い事だろう。


たしか、前回もアイツは抱かれていた。その時は私も我慢できなくて抱いていたが、今の私は精神は大人だから欲に目が眩まない。


異国の女の血が入った奴なんて触ろうとすら思わない。我等の高貴な血が奴の中に半分でも入っていると思うと虫ずが走る。


塀の上で胡座をかきながら眺めていた私だったが、いつもと変わらない眼下で行われている痴態に飽きて、欠伸をすると寝た。

あれから数日経ち、私は機嫌良く歩いていた。母上から上質な服を頂いたのだ。


今回の人生で分かった事だが、あのヒステリックな女は幼い私には優しい。以前の人生では幼い頃は気付かなくて、成人した後は母上なんて気にもしなかった。


今回改めて大人の精神で母上に構われるのは、僅かだが心地良い。


以前はヒステリックで煩い母上なんて、今くらいの年頃には完全に無視していたが、現在の私は結構親しくしている。


庭に作られた泉に自分の姿を映す。そこには色白な少年が居た。


小麦色の陰鬱な髪はウェーブがかかっていて、肩までの長さだ。青い瞳はくすんだタドン目で濃いクマがある。身体は細くて不健康に白い。


身体には金の装飾品を身につけていて、白い一枚の布を美しく身体に巻き付けたトガと言う王家の伝統的な衣装を身につけている。


トガには赤い糸の刺繍が施されている。中々良い物だ、母上と婢達も良い仕事をするではないか、褒めて使わすぞ!フハハハハ!


機嫌良く、泉に私の神々しい姿を映してクルクル回っていたら、何かが脇の草むらから出て来た。振り向くとアイツが這いずっていた。


チュニックは引き裂かれて、トガは身体に巻き付いていなく片手に握られている。褐色の肌には土の汚れと一緒に白濁が付いていたので、恐らく先程まで兄上達に抱かれていたのだろう。身の程知らずにも地面から私を睨みつけてくるアイツに、せっかくの良い気分が台なしだ。


私は奴を一秒でも視界に入れたくなくて、そこから悠然と立ち去ろうとした。


しかし、僅かな衝撃と共に立ち止まった。何かが裾に引っ掛かったようだった。


枝でも引っ掛かったか?


舌打ちをして振り返ると、信じられない光景に息を飲んだ。


なんて言う事だ!この尊い私の服にアイツが触れている。地面から僅かに身体を起こした奴は、私の白いトガの端を掴んでいたのだ。


私は咄嗟に奴を蹴飛ばした。嫌な音がしたが気にしない。


裾を手繰り寄せて確認すると、純白である筈の裾はベットリと奴の手形の形をした土の汚れが付いていた!


慌てて叩き落とそうとしたが、ネトリとした感触に鳥肌が立ち手の平を見る。そこには白い粘性のある液体が糸を引いていた。


「ウワァァ!」


悍ましい!悍ましい!

奴の手から布に移ったであろう、兄上達の白濁を布に擦り付ける。


何という汚い物を私に、服に着けたのだコイツは!私は一時も身につけたくなくて、トガを脱ぎチュニック一枚だけになる。


奴に罰を加えてやろうとしたが、激情に脆いこの身体はあろう事か涙を流し始めた。みっともない、まるで私が奴に泣かされた見たいではないか!


私は腕で顔を隠したが、幼い体は泣き声を上げはじめた。エエイ!煩わしい!


私は苛立ちを少しでも慰めようと、不様に地面に唾液を垂らして苦しむ奴に、クシャクシャに丸めたトガを投げ付けると立ち去った。


母上の宮にたどり着き、婢達がチュニック一枚の私を見て何かあったのかと騒いでいたが私は答えなかった。ただ、今まで我慢していた分だけ一気に泣き喚いた。


「まあ!どうしたのですかヘスタロドス!誰にやられたのです、母上がソヤツを罰してあげましょう。言うのですヘスタロドス。」


母上は顔を青くして私に詰め寄るが、私は頭を振る。

アイツの母親は異国の出身だが父上のお気に入りだ。たかが昔から続く身分だけで側妃になった母上が手を出せれるわけがない。


それに、アイツに泣かされたと知られるなんて、私のプライドは許さない!


婢達は私の体に触れて、何も傷が無いと確認したら安心して母上に報告した。母上もそれを聞いて安心したようだった。


女達は私が何も言わない事から、多分兄上達の誰かに取られたのだろうと予想した。


半分は間違っていないので、私は無言のまま否定はしなかった。


嗚呼、酷い気分だ。


私としては服の一枚や二枚はどうでも良かったのだが、私の体はそうではなかったみたいだった。


酷く陰鬱な気分になり、その晩は一人で部屋に閉じこもり菓子をやけ食いした。婢や母上が扉の前で入れ代わり来て、声をかけてくるが無視だ!無視!


こんな情けない姿を晒せるわけがない。


私は一晩中ウダウダと悩んだ。私は何故こんなに、たかが一枚の服なんかに執着しているのだ?


かっての私は、一流の機織師に織らせた布に金糸や銀糸で刺繍をさせた物を腐る程持っていたのだ。名工が一生に一度に生み出す名品ばかりだったが、飽きたら直ぐに捨てていた。


その時はカケラも心は動かなかった。あの豪華な素晴らしい服と、上質だが平凡な服と、どんな違いがある?そもそも、何故私はあんな物を気に入っていたんだ?


分からない分からない。

次の日


私は食事の為に部屋から出た。体は十歳でも私は中身は二十八なのだ。(いや、十年たってるから三十八か?まぁ良い、これを突き詰めると、厄介な事になる気がするから放っておこう。)


いつまでも泣いてなどいられない。それよりも母上や婢達に口止めをしなくては。


私がトガに着替える為に衣装室に入ると、担当の婢が控えていた。何故か目の下が真っ黒だ。


どうでも良いので、無視していると、婢が今日の衣装を持って来た。私は目を見開く。


それは、あのトガだった。いや、僅かに刺繍の部分が違うが、ほぼ同じだ。


「何だこれは?」

「差し出がましい事ですが、側妃様と我等で改めて御召し物を作らせて頂きました。」


そう、ヘスタロドスの母親とメイド達は、酷く落ち込んでいる彼の為に、余っていた布で再びトガを徹夜で縫い上げたのだ。


そんな事を知らないヘスタロドスだが、いつも気怠げな顔に笑顔が現れる。


服など、どうでも良いが酷く気分が良い。私は婢を急かしてトガを着させる。


「早くしろ!」

「クスクスクス、お待ち下さいませ。トガは逃げたり致しませんよ。」

「分かっておるわ、馬鹿め。」


無躾な言葉に叱責したが、何故か更に笑う婢は頭が少々弱いのだと思う。まあ良い、私は気分が良いから許してやろう。

フハハハハ!


学習時間が終わり、私は機嫌良く庭を歩いていた。


昨晩はウダウダと色んな事を考えていたが、気にし無くても良いだろう。何ていったって、こんなに気分が良いのだからな。


しかし、新しい服が汚れてしまっては大変だ。


私は幼い兄上達に、遊びに誘われる前に抜け出した。


最近、兄上達はアレ弄りに夢中になっていているので、毎日のようにアレを犯しに行く。その時に何かの拍子に、再び汚れたら嫌だからだ。


今日は静かに、ご先祖様の素晴らしい偉業が書かれた歴史書でも読むか。


私は泉の側の椅子に座ると、ページをめくった。



嗚呼、我等が偉大なご先祖様の偉業は素晴らしい!


何度読んでも心が震える、特に野蛮な原住民達を一網打尽にした章など、その勇壮さに感動して何度も読み返した。


草むらで何かが動いた気がしたが、私の心は既に過去の戦場へ思いをはせていて気にしなかった。


私が感動に震えていると、背後から荒々しい足音がした。


振り返ると、私の七番目の兄上が何かを探して歩き回っていた。


七番目の兄上は私を見つけると、剣を片手に近付いてきた。七番目の兄上は、私と二歳しか歳は違わないがとても大きく、十二歳の少年の体格から外れている。


力も強いので、前回は私が最も恐れている方だった。「ヘスタロドス!アレは此処に来なかったか!」

「アレとは汚らわしい異国の血が混ざったアレの事でしょうか兄上?」

「そうだ!せっかく我等が慈悲をかけてやろうと言うのに、あの愚か者はあろう事か逃げよったのだ!」


その言葉に私は信じられなくて頭を振る。


「アレの居場所は知りませんが、何て事でしょう。兄上達の慈悲を有り難くも注いで頂けるのに、逃げるなんて。そんな恩知らずだったとは!」


私が怒りで声を荒げると、怒り狂っていた兄上は少し冷静になられました。


「そうだ弟よ。もしアレを見付けたら俺に報告しろ。少し仕置きをせねばならない!」

「分かりました兄上!」私が力強く頷くと、兄上は満足そうに帰って行きました。


私は再び本に目を落とそうとしたが、目の前の草むらで枝が踏み締められる音がした。


良く見てみると、何とそこにはアレがいた。


コイツは隠れる気がないのか、馬鹿なのか。


泉の周りにある遊歩道から外れた、少し奥まった場所で、上半身だけ草むらに突っ込んでいた。奴の尻は丸見えである。


そこは丁度私の目の前で、何故さっきまで気付かなかったのか不思議な位だった。


私は咄嗟に兄上を呼び出そうとしたが、フトある事に思い至る。


アレがいる場所は先程兄上がいた場所からは死角だったが、私から見たら気付かないのが不思議な位丸見えな場所だ。


なのに私はさっき「知らない」と言った。


なんだか、私が先程アレを庇ったように見えないか?

いやいや、そんなまさか…。しかし、兄上ならそんな勘違いも有り得る!何せ七番目の兄上は武勇に秀でる代わりに頭が少々残念だ。人の話などお聞きにならない。


もし、不況を買えば、私もアレと同じく虐められてしまう。


私は見なかったふりをして、その場所から逃げようとした。しかし、間の悪い事に、再び足音がした。


耳をすますと、こちらへ向かって来るのは五番目の兄上と四番目の兄上だ。


糞!七番目の兄上なら、まだ口先だけで騙まくらかす事が可能だが。このお二人は聡くて無理だ。


まだこちらに気付いていないが、見られたら何かしら疑われる。


私は咄嗟に走り出し、アレの横を駆けて泉を囲んでいる林の中に入った。フハハハハ、此処で前回の記憶が役立つとは!


王城や後宮は豊かな林や森で覆われている。広大な土地のそれは、馴れない者が道から外れて、入り込めば直ぐに迷うだろう。


だがしかし!!


私は革命軍に追われて庭中を駆けずり回って逃げていたからな、道から外れた場所も自由自在よ!


兄上達は深窓の令息だから、道もない林の中を歩く事さえ思いつきにならないだろう!


私は勝ち誇りながら念の為にチラリと後ろを振り返った。振り返った先には…。


アレが片手に何か包みを持って私を追い掛けていた。


何でお前も付いて来ているのだぁぁぁ!?


というか、お前は確か八歳だろ!何故に十歳の私について来れる!足の長さも体力も違うだろう!


とゆーか止めろ!今の私達を見られたら、七番目の兄上じゃなくても間違いなく勘違いされる!


私は撒こうと速度を上げるが、アレは必死に私について来る。


チッ!アレが近くにいると、林の中を出ようにも出れない。 結局、私達はそれから一日中、鬼ごっこする事になった。


非常に不服だ。



夕日が辺りを満たす中、私は母上の宮の近くの林にある小さな広場で倒れていた。


此処は道が繋がってなく、周りが蔓薔薇で囲まれている為に、誰も近寄って来ない私の秘密基地だ。此処なら誰にも見られないだろう…。


不本意だが、安心して大の字になって横たわる私の隣には奴も座り込んでいた。追い払いたいが、喋る気力がない…。


暫く荒い二人分の息が満ちた。


数分時間が経つと、何かが差し出された。見てみると、先程から奴が持っていた包みだ。奴は恐る恐る私を見上げながら、差し出してきた。


不快だ…。


無視していると、奴は慌てて包装紙を解いて私に差し出した。そこには綺麗に洗われた私のトガがあった。


何だ?詫びたいのか?ハッ!片腹痛いわ。


「お前が触り、汚した物なんて要らん。」


私は立ち上がると、トガを掴み再び奴に投げ付けた。大きな布を頭から被って、奴の不快な顔が見え無くなる。


「こんな汚い物は、お前に良く似合っておるな。私は要らないから、お前に下賜してやろう。これでも着て這いつくばっておれ。」


私は奴を見下して言い放つと、母上の宮へ戻った。走り回って汗まみれで不快だったので早く風呂に入りたかったのだ。


汗まみれの私を見て、母上は心配されたが、今回は泣いていなかった為「何でもない」という言葉はすぐに信用された。


たく、朝は機嫌が良かったのに、アレのせいで不快だ。こんな事が何度も起こらない事を願って、私は眠りについた。

相変わらずゲスな主人公ですが、母親とメイド達との触れ合いで何かを取り戻しつつあります。

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