デートをしよう!(前編)
初の前後編。
後編で終わるのかは未定w
「デートがしたい!!!」
季節は秋。
そう、うだるような暑さの中、頭がおかしくなるほどの不快感を我慢する季節ではない。
少し肌寒く感じるけど、色づいた木の葉を見るのは心地よいし、なによりもご飯がおいしくて幸せな気分になる。
そんな季節。
だから、いきなり仁王立ちになって道の真ん中で頭の痛い台詞を吐く変質者がでる季節ではないはずだ。
目の錯覚だと思いこみ、無視して学校からの帰り道を歩く僕に、変態が声をかけてくる。
「おい、何で無視するんだよ、おいって。おいってば!!」
何もきこえない何も見なかった変態に知り合いなんていない、そんなことをぶつぶつ呟きながら足を速める僕の肩に、変態が手をかけた。
「放せ、変態がっ!!!」
あまりの不快感に回転を加えた拳をたたき込んだ。
腹を殴られた変態は、そのままくの字に浮き上がると、地面に崩れ落ちる。
悪は滅びた。
僕は水戸黄門の再放送を見るために家路を急いだ。
めでたしめでた「なにすんだ、このやろうっ!!」しって、変態が僕に怒声を放つとは、どういうことなのだろう?
世界のために、悪を滅ぼしただけなのに、なぜに僕がこんなことをいわれなくてはならないのか。
世の不条理に憤りながら、その変質者の方に視線を向ける。
「ひぃっ」
酷くおびえた表情で、情けない声を上げる変態に首をかしげる。
何をおびえているのだろう?なんで後ずさっているのだろう?
よくわからないままだったけど、解放してくれるなら願ったり叶ったり。
足早に通り過ぎようとした僕の肩に、再び手がかかる。
かすかに震える手で、必死にわしづかみだったり。
「ご、ごめん、なんだかよくわからないけど、そんなにすごい顔で睨まなくてもいいじゃんか。俺が悪かったから、話を聞いてくれよ」
聞き覚えのある声に相手の顔をよ~~く見てみると、それはゴローだった。
「ゴローだったのか・・・・」
「はっ?あんなに凝視してたのに、ぜんぜんきづいてなかった・・・なんてことはないよ・・な?」
「うん、きづかなかった。だって、僕は変質者と知り合いになった覚えはなかったし、意識から自然にはずれちゃったんだろうな」
「まじか・・・まじでいってんのか・・・・?」
「うん」
至極当然のように頷く僕にがっくりと肩を落とし、地面を殴り出すゴロー。
もう、なんか、ほんとに変質者に見える。
「じゃあ、そういうことで、僕は帰るよ」
返事を待たずに、さらに家路を急ごうとする僕に、変質者・・じゃなくて、ゴローがあわてた声を出す。
「いや、ちょっと待ってくれって。ひーちゃんにお願いがあるんだ!!」
「またふざけたことだったら、殴るよ?」
「ふざけてなんかないさっ!!俺は、デートがしたいだけなんだからなっ!」
奴が言い終わる前に、僕の拳が頬にめり込んだ。
宙を舞うゴローの体。
そう、まるで某コスモを操る聖闘士なみのふっとびかたで、彼の体は空を飛ぶ。
でも、大丈夫。
なぜならば、彼はギャグキャラだから。
怪我すらしない宿命の元に生まれているのである。
「僕とデートなんて・・・ほんとに、ゴローって変態だったんだ・・・・」
ショックで呆然と呟く僕に、復活したゴローが走り寄って懸命にいいわけをはじめる。
「ち、ちがうっ!そうじゃなくて、俺は千里さんとデートしたいんだっ!!」
力説しすぎて怖いくらいのゴローの勢いに押されつつ、詳しく話を聞いてみると、こういうことだった。
曰わく、ゴローは千里さんが好き。
曰わく、自分で誘うのはおびえさせちゃうし、そもそも話す前に逃げられてしまいそう。
曰わく、千里さんと仲がいい、薫子に仲介を頼みたい。
曰わく、薫子と仲がいい僕に、それとなく頼んで欲しい。
以上の理由から、道ばたで叫んでいたらしい。
・・・・道ばたで叫ぶ理由が全くわからない気がする。
まぁ、ゴローだから。そんな理由で無理矢理納得すると、僕は考え、薫子と相談するから期待しないで待ってるがよいと捨てぜりふを残してゴローから離れた。
いいかげん、水戸黄門が見たかったし。
その夜、僕の部屋にはベッドの上でごろごろしている薫子さんの姿があった。
いままで説明してなかったけど、僕と薫子は家が隣同士で、いわゆる幼なじみという奴だった。
しかも、じいちゃん同士が親友で好敵手。
父ちゃんたちも、同級生だった僕と薫子の母親の二人をゲットするために作戦を練った仲で。
そんな僕たちが仲良くなるのは、もう、当然だったりする。
本人たちの意志は度外視して、両親たちは僕らを夫婦みたいな扱いしてるし。
まぁ、薫子を好きな僕としては、うざったさ半分、ありがたさ半分だったりするんだけどね。
「で、結局、ダブルデートしようってこと?」
寒いときにこそアイス!!という持論を展開している薫子が、お気に入りのハーゲンダッツ抹茶味を食べながら僕に聞いた。
うつぶせになりつつ足をぱたぱたさせるという、行儀は決してよくないかっこでも、とてもかわいく見える。
カワイイは正義!!
カワイイは正義ですよ!!
自分を見失って心の中で二回叫んでいた僕に、彼女は再び声をかける。
「こらこら、声にでてるわよ。嬉しいからいいけど、ちゃんと質問に答えるように」
にやにやしてる薫子の顔が、なんか小悪魔みたいでドキドキした。
そんなことを思ってることを全然隠すつもりもなかったけど、話が進まないので彼女に言葉を返す。
「ゴローとしてはそうしたいらしいんだけど・・・問題は千里さんなんだよね。あんなに恥ずかしがり屋な子が、ゴローの相手してくれるかどうか」
「そうねぇ・・・私が頼めばたぶん大丈夫だと思うけど。それ以前に私があの子のいやがることしたくないんだけど。ゴロー君がいい人なのかどうかっていうのが、いまいちよくわからないし」
眉間に寄せた薫子のしわを指でぐりぐりもみほぐしながら、僕は彼女にいう。
「ん、ゴロー自体はだいじょぶだよ。アホでバカで変態だけど、人が傷つくことはしないやつだと思う。それは保証するよ」
「そっか。・・・ヒトトセが信頼してるんだったら、私はそれを信じるよ。私としても、千里には幸せになって欲しいし、いい人がいるならあの子を支えてほしいって、そうおもうし」
「そだね。お互いに幸せになってくれればいいなって、そう思うよ」
しみじみと呟いた僕に、ふ~んって返した薫子は、にやにやした表情で口を開く。
「私たちみたいに?」
「そう、僕たちみたいに幸せになってくれればいいなって、そう思う」
からかおうと思って逆に顔を真っ赤にさせた薫子の頭をぽんぽんって叩きながら、僕は彼女が食べていたアイスを自分の口につっこんだ。
そして、デートは次の日曜日に決まったのでありました。
とぅ~び~こんてぃにゅ~ど。