紡ぎあわせる言の葉
ひさしぶりでございます。パソコンがぶっ壊れたのと、仕事が忙しくなったために更新がとどこおっておりました。←いいわけ。
でも、待ってくれていた方がいてくれただけで、いつまでも書き続けられるような気がしております。
少しでも楽しんでもらえる物語になっていればいいなぁと、そんなふうに願って。
ちょっとテンションおかしいけど、今回(;-_-;)
カタカタカタカタという音。
タンッという小気味のいい音。
誰かのうなり声。
密室の中で、不協和音を奏でるそれらの響きが、僕の耳に突き刺さった。
修羅場。
徹夜のためにクマがとんでもないことになってる奴。
なんだかよくわからないけど、いきなり踊り出す奴。
「青春のバッキャ~ロォォォォォォ!!」と、いきなり走り出す奴。
もう、せっぱ詰まったのを映像化したらこうなるっていう見本みたいな光景が、そこには広がっていた。
そんな僕も、その中の一人だったりするわけで。
三日後の締め切り日を前に、うなり声をあげつつキーボードを叩き続けていた。
ここは文芸部の部室である。
男と女が半々という奇跡な比率を誇るこの場所は、でも、なにげに格闘技じゃね?っていうくらいの熱気をはらんでいたりする。
文化祭が近いからだ。
文化祭といえば、文化部が花形になる日。
運動部のようにスターになれない、なんかもう、そこはかとなくじみ~な僕たちがスポットライトを浴びてキラキラと輝ける日な訳である。
そりゃぁもう、気合いの入り方が違う。
普段は物静かなあの子まで、ハッスルハッスル~~な訳なのである。
だが、しかし。
しかしなのである。
それは、締め切りという名の、最強の敵と戦わねばならないことも意味していた。
あと三日。
あと三日で終わらせなければならない。
だが、無情にも物語の終わりは見えてこない。
最初はよかった。
プロットもすぐに出来、キャラクターも肉付けした。
魅力的な主人公たち。
悪の美学を行動で示す敵役。
緻密な世界観。
それは、我ながら引き込まれるほどの設定だった。
だが、しかし、ばっど。
現実は非情で無情なのである。
筆が全く進まなかった。
キーボードを打っても打っても文章が踊らない。
書いては消し、書いては消しを繰り返して、でも、それでもまだ届かない。
情けなかった。
こいつらをこの世界に生み出してやれない自分が。
たまらなく、たまらなく情けなかった。
頭の中で動きまくるこいつらを、晴れ舞台に導いてやれないなんて、書き手として最悪だと、そんなふうに落ち込む日々が続いた。
机に突っ伏し、ぐぬぬぬぬぬっと唸り続けている僕の周りから、音が消えた。
つい一瞬前まで地獄の怨嗟のような状態だったのに、いきなり真空状態。
ん?って疑問に思った瞬間に、頭にどすっという衝撃。
「ぐふぁああああああっ!」
大げさでも何でもなく、痛みのあまりイスの上から転がり落ちる。
そのまま、ごろごろと転がり続ける僕は、机の脚にぶつかって止まった。
すごく痛い。
なんだこれ??
経験したことのない程の衝撃に頭を押さえていると、僕の髪を誰かが撫でた。
涙で滲む視界越しに相手を見ると、そこには予想もしなかった・・・でも、そんな打撃を与えるという点では予想できた相手の姿が。
「大丈夫?」
すごく心配そうな声。
だけど、目が笑ってない。
「おおげさなんじゃ、われぇ・・・・」とでも言いたげな強い光を帯びてるのを確認し、バネ仕掛けの人形のように勢いよく飛び起きる。
「だ、大丈夫でありますっ、曹長殿っ!!」
見事なまでの敬礼である。
もう、軍隊に入って二年は経過しました的な完璧さなのである。
・・・自分でも、何を言いたいのかわからなくなってきた。
「で、どうして会長がここに?」
落ち着いたと同時に、至極まともな疑問が浮かんできて、気がつけば僕は問うていた。
さっきまで鬼のような笑顔(他の人には角度的に見えてない)を浮かべていた会長・・・薫子が告げる。
「なんか、毎日毎日遅くまで起きていたみたいだから、心配になって。だんだん、顔色が変になっていくし、倒れるんじゃないかって、そう思って」
僕にしか届かないように小さな、弱々しい声。
その声に、僕は笑う。
心配性な彼女と、彼女に心配を押しつけているアホな自分に対して。
「大丈夫だってば。たかが小説書いてるだけで、倒れるわけないじゃん」
「たかがじゃない!」
自嘲が浮かぶ僕の台詞を遮るように、彼女が叫ぶ。
突然のことに、僕は呆然、周りは唖然とするけど、薫子は気にしない。
気にしないで、僕の頬に手を伸ばす。
そっと、そっと、撫でていく。
「たかが、なんかじゃないよ。あなたにとって、物語を書くことがどれだけ必要なことで、大切なことなのか、わかってるから。誰よりも側で見てきたんだから、それくらいわかるよ。苦しんで、悲しんで、情けない自分を責めてるヒトトセのこと知ってる。だから、誰にもバカになんかさせない。ヒトトセ自身にだって、バカになんか、絶対絶対させてなんかあげないんだからっ!」
泣きそうな声。
もう、泣いてるのかもしれない。
自分が打ち込んでることに対して、こんなに真剣に考えてくれる誰かがいるってことが、ほんとにありがたかった。
たかが小説で、ただの自己満足で、でも、そんなものを認めてくれる存在がいるってことが、本当に本当に嬉しくて。
僕は彼女を抱きしめた。
あぁ、なんて滑稽な理由なんだろう。
なんてくだらないことで、僕らは抱き合ってるんだろう。
他の人から見たら、ただのバカにしか思えないんだろうなって思って、でも、それでも嬉しくて笑った。
「薫子、ネコがかぶれてないよ?」
「いい」
「あんなに、みんなのためにって、自分押さえてたのに」
「あんたのためだったら、別に、いい。だから、ちょっと黙ってて」
「了解です、お嬢様」
おどけた調子で答える僕の頬にぐりぐりと頭をすりつけると、彼女は小さくバカって呟いた。
幸せな物語を紡ぎたかった。
誰かを喜ばせることができる物語を。
文章をきらきらとした光で彩られるような、そんな物書きになりたくて、僕は小説を書き始めたんだ。
誰かの心の傷に、そっと手を当てられるような、そんな物語を紡いでいきたい。
自分がもらったのと同じような、そんなわくわくとドキドキと、少しの切なさを、バトンのように手渡せますように。
そんなふうに思ったんだ。
百人が読んでくれて、そして、その中の一人でも気にかけてくれたら、僕は本当に報われる。
そんなふうに思えるんだ。
たった一人の あなたへ。