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ぼよぼよ日和  作者: 蒼凪
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そして僕らは恋に落ちる

恋をしたいもんですの

 「俺たち親友だよなっ!!」


 鼻息を荒くした男が、昼休みの食事中である僕にほざきやがりました。

 変態である。

 僕はこの男を通報しなければいけない義務感を覚えた。

 そう、世界のために。

 世界のために。

 大事なことなので、心の中で二回言い切った僕の想いをまったく感知することもせず、自称親友である彼は僕の手を取った。

 ご飯を食べるのにものすごく邪魔である。

 ってか、存在自体がすごく邪魔である。

 いっそ、どっか別の次元の隙間に落ちて、イカみたいに頭がとがっちゃえばいいのに・・・。

 どっかから電波を受信して笑みを浮かべる僕に、そいつは一歩引いて逃げの体勢に入る。

 ちょっとむかつくけど、どっか言ってくれるなら好都合だなぁと思った僕に対し、そんな願いをやっぱりこれっぽっちも理解しやがらない男は、再び話し出す。

 

 「いいだろ?俺とお前の仲だろ?」

 

 「どんな仲だかわかんない。っていうか、お前誰??」


 「そっからかよ!!」


 うむ、なにげにショックを受けている。

 しかたないなぁ・・・許してあげようかな、そろそろ。


 「冗談だよ、冗談」


 「ほんと、勘弁してくれよ。なにげにショックだったんだぞ、今?」


 「ほんと、ごめんね、ゴロー」


 「・・・・ゴロー?いや、おまえ、なにいってんだよ?俺の名前はつ「ゴロー、どうしたんだよ?」って俺はゴローなんて名前じゃ「どうしたんだよ、ゴロー。いつものお前らしくないよ」・・・って、もう、ゴローでいいよ。でも、どうしてそんな名前で?」


 「北の国からのお父さんに似てるから」


 「まじかっ!!」


 なんだかよくわからんけどショックを受け、地面に手をついて涙を流しまくってるゴローの肩をぽんっと叩く。

 涙目で見上げてくるゴローを気持ち悪く思いながらも、慰めるように手に力を込める僕。

 ああ、優しいなぁ。我ながら慈愛の固まりみたいだなぁ。

 なぜか「いててててててててててぇえええええ!!!」って床を転げ回るゴローに話しかける。

 

 「で、いきなりどしたん、ゴロー?気持ち悪いこと言い出して?」


 「気持ち悪いって・・・なにげにひでえなぁ、ひーちゃんは。いあ、頼み事って言うか、なんていうか・・・」


 「頼み事???」


 「おう、何も言わずに俺に会長をくれぐふぁぁっ!」


 奇声を発しながら吹っ飛ぶゴロー。

 そして、そのきっかけになった僕の拳。

 握りしめられた拳からは、炎のオーラが見えるかのようだ。


 「ふざけたこといってんじゃねぇぞ、ゴローの分際でっ!!」


 無意識に叫ぶ僕の周りから、人影が消えた。

 普段は穏やかな部類である僕が、いきなり叫んだからビックリしたんだろう。

 でも、後悔はない。

 だって、ゴローだから。

 そして、ゴローだから。


 自分の中に答えを出し、吹っ飛んだゴローが戻ってくるのを待つ。

 うん、僕、優しいなぁ。

 そんな風に自己満足してると、鼻水と鼻血でわけがわからんくなったゴローがすごい勢いで飛んできた。

 

 「何でいきなり殴るんだ、てめ~はっ!!」


 「お前が変なこと言うからだろうがっ、ゴローの分際で!!!」


 怒鳴ってくるゴローに対し、それを上回る怒気をたたきつけた。

 僕は怒っているんだ。

 うちの猫かぶりさんに手を出すなんて、断じてゆるさんっ!

 お父さん、許しませんよっ!!

 がるるるるるっていう威嚇が聞こえてきそうな僕に、若干ひいてるゴローが引きつった声を出す。


 「そ、そんなに怒らなくたっていいだろ??冗談だって、冗談」


 「冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだよっ!!」


 「ほんとにひ~ちゃんは会長のことになると怖ええんだから・・・。いや、ほんとごめん、お願いだから睨まないで。頼みって言うのは、会長のことじゃなくてさ」


 続けて言おうとしたゴローがフリーズした。

 油の切れたおもちゃみたいにギギギとでもいうようなカクカクした動きになる。

 ん?僕の後ろになにかいるのかな・・・??


 振り返ろうとした僕の頭を、誰かの手が撫でた。

 なんか、すごくなじんだ感覚で、それが誰なのか一発でわかる感じで。


 「だ~か~ら、子供扱いするのはやめてくださいってば、会長」

 

 「あら、ごめんなさい。すごく撫でやすい所にあったから」


 くすくすと笑う薫子に、深い深いため息をつく。

 学校の時の薫子には勝てる気がしない。ほんとに才女って感じだから。

 いや、二人でいるときの薫子にだって、物理的に勝てないけどさ。

 なんかものすごく悲しい思考に落ちていきそうになるのを必死に食い止めていると、薫子の後ろに隠れるようにしている少女に気づいた。


 「あ、千里さん、こんにちは」


 「あ・・こんにちは・・・」


 消え入りそうな声で返事すると、薫子の腕にぎゅってくっつく。

 小動物のようなこの子は、薫子の親友の千里さん。親しい友人たちにはち~ちゃんって呼ばれてる、とてもかわいらしい女の子です。

 人見知りなうえに内気で、あまり人と話したり出来ないみたいだけど、それでも礼儀正しさとけなげな感じが好評で、密かにファンクラブもあるみたい。

 本人は全然そんなこと知らないだろうけど。

 で、彼女は薫子にめちゃくちゃ懐いていて、いつも一緒にいる。

 もう、恋してるんじゃないの???って思えるくらいの勢いで。

 一人っ子の薫子も、なんか妹が出来たみたいで嬉しいらしく、とてもとても面倒を見たりしてるのです。


 「ち、ち、千里さん、こんにちはですっ!」


 「・・・・こんにちは・・」


 変な敬語を交えるゴロー。それに対して返される、消え入りそうな声。


 あ~、恋な訳ですね、わかります。

 

 あからさまに挙動不審なゴローに、がんばれのエールを込めた視線を送ってみたりするけど、まったく余裕がないゴローは全然気づかない。

 恋は盲目・・・ってやつですな。

 やれやれと思って後ろを振り返ってみると、苦笑いを浮かべた薫子の姿。

 二人で顔を見合わせると、僕らはちょっとだけ笑いあった。


 たくさんの恋があって、たくさんの別れがあって、でも、どちらもこの地球で生まれた小さな奇跡で。

 悲しみも嬉しさも、楽しさだってつれてくる魔法は、きっと僕らを前に進めてくれる。

 押しつぶされないように、溺れないように、そして、少しでも優しくなれますように。

 そんな願いを込めて、僕らは恋をするんだ。

 呼吸をするように、誰かに恋をするんだ。


 

 

 

 



 


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