状況説明という名の中だるみ
僕は高校生である。
名前はまだない・・・って、そんなことあるわけもなく、普通に名前があったりする。
市井一年。
うん、普通の名前があるわけじゃないのがミソ。
なんていうか、読めないよね、これじゃ。
イチイ ヒトトセって読みます。
みんなは、ヒトさんとかひ~ちゃんとか、そんな風に読みますんで、みなさんはそんな感じで呼んでくださいね。
まぁ、そんな僕、ヒトトセは今日も自分の通う学校にいたりする訳なのです。
聖・ザ・ビエール高校の二年生、それが僕の職業。
なんかものすごく変な名前って言うか、某聖人の名前からとってるんじゃね?っていう感じのこの学園は、名が体を表すを地でいく如く、宗教系な私立学校である。
キリスト教系ではない。
キリスト教にとても近いけど、なんか、ご本尊らしきもんが、木製のザビエルさん。
めっさでっかい。
全長10メートルほどはあるんだよ。
しかも、座禅の状態。
そして、福福しい笑顔。
ありがたや~ありがたや~なんまんだぶなんまんだぶって、手を合わせたくなるような。
なんかよくわからないよね、これじゃ。
でも、そんなふざけた学校であるにもかかわらず、入学の倍率はとてもたかい。
それはこの学校が、ものすごい進学率を誇る学校だったりするからなのです。
ザビエルなのに進学率県下トップ。
ザビエルなのに東大とかも入る奴がいる。
ザビエルなのに・・・いや、ザビエルでも別にいいんだけどさ。
何となく、納得いかない青春の一幕なのでありました。
そして、僕はご本尊が佇む目の前にある中庭にあるベンチに腰を下ろしております。
時刻は夕刻。
赤くなった太陽が長い影を地面に描き、なんか、とても情緒豊かな色に染め上げております。
まったりまったりしてる時間を十分に堪能していると、僕がこの場所にいる理由となっている少女がゆっくりと近寄ってきた。
家でならフライングボディアタックをかましてくるのに、やけに物静かでおしとやかに、たおやかに近づいてくるのは我が幼なじみの薫子さん、そのひとである。
いま、猫かぶりの最中。
学校では品行方正で通ってるからねぇ。
そのどSぶり(ツンデレぶり)を発揮することもなく、できる生徒会長の姿のまま、僕の前に彼女は立った。
「またせてしまったかしら?」
「いえ、そんなことはないです、僕も今来たところですから」
いつもと違って、回りくどい会話。
よそよそしいというか、なんというか。
違和感ありまくりのこの会話にも、だいぶ慣れてきた自分がなんとなく誇らしくて、少しだけ悲しいなんて言ったら贅沢なのかな?
ちょっとしんみりした僕の頭を、目の前に立ってる少女は手を乗せてぽんぽんって叩いた。
少しだけ顔を近づけて、小声で囁く。
「そんな顔しないの。私は、私なんだから」
ちょっと怒ったような、でも、なんか励ましてくれてるような、そんな声に元気をもらう。
あぁ、僕は恋をしてるんだって、こんな風になったときに思い知らされるんだ。
彼女の何気ない仕草が好きだった。
彼女の笑った顔が好きだった。
彼女の心地いい声が好きだった。
彼女が彼女であることが、それだけのことが、本当に本当に嬉しくて。
そして、そんな彼女を好きで、近くにいられる自分が好きだった。
僕が僕であるための理由は、彼女だって言えるんだろう。
それは依存なのかもしれなくて。
それは傾倒なのかもしれないけど。
でも、たしかに、恋だった。
「では、行きましょうか」
「はい、わかりました、会長」
僕たちが奏でる恋の序曲はどんな結末を迎えるのだろう?
僕たちが舞う恋の舞踏はどんなふうに彩られるのだろう?
なんとなくにやけながら、僕は彼女を追いかけるためにベンチから立ち上がった。
彼女の隣に立つために、僕はこの場所から歩き出した。
なんか、中途半端で終わっちゃったけど、これはこれでありかなと思う今日この頃。
うん、まぁ、ゆっくりゆっくりとね。