少年はかく語りき
ふわふわとした温もりが、空から降ってくる。
縁側には風。
耳を撫でる風鈴の音。
秋が近づく季節の中、僕は久し振りの休日を謳歌していた。
「あぁ・・・まったりだ・・・まったりだよぉ・・・」
惰眠をむさぼるってのが、こんなに心地いい物だなんて、思ってもみなかった高校一年生の初秋。
暦は九月の半ばを過ぎる頃。
普段ならいくら忙しかったとしても、ここまで暇な時間に感動を覚えることなんてない。
ないよね、普通の高校生なら??
で、どうして僕がこんなにへばっているかというと・・・・。
「こらっ、私の許可もなくなにやってるのよ!」
タッタッタッタッとリズムの良い足音で駆け寄る少女が、耳に気持ちの良い声に不機嫌さを滲ませて僕を怒鳴った。
その声を無視し、僕は横になったまま全力で少女から遠のく。
ごろごろと、ごろごろと転がって、なんとか間合いをとろうとするけど、彼女の方が早い。
転がり続ける僕の背中を、庭からサンダルを脱ぎ捨て、家の中に駆け込んできた少女が素足で踏みつぶす。
ぐぇっっとカエルがつぶれたような声を出して止まる僕の背中に、彼女は勢いをつけて飛び乗った。
マウントポジション・・・じゃなく、フライングボディアタック。
つまり、その、彼女の自己主張する柔らかい膨らみが、背中に当たってたりするというかなんというか・・・。
思わず赤面した僕を苦しんでいるのと勘違いしたのだろう、心配そうに・・・なんてことはまったくなく、にやりと笑った。
まるで、悪魔「子悪魔!!」のように。
正直、地の文にまでつっこみをいれるなんて、ほんとに人間じゃないと思ったりもするけど、それをいうと明日の朝日が拝めないような気がするので沈黙。
「・・・なんかいった?」
「いえ、なんでもないです・・・よ?」
「疑問系なのがすごく気になるんだけど?」
彼女はにこりと笑う。それは本当にかわいらしくて、愛らしくて、だからこそ僕の背筋には寒気が走るんだ。
僕を恐怖のどん底にたたき落としている少女の名は、天城 薫子。
僕の通う聖・ザ・ビエール高校の二年生で、二年生であるのに生徒会長を務めるという才女だ。
品行方正・スポーツ万能・頭脳明晰の三冠を達成するという、ある意味漫画のヒロインのような存在だけど、そんな無敵超人な彼女の隠れ性癖を知る人は数少ない・・・ってか、僕しか知らないんじゃないだろうか?
彼女の性癖。
それは、極度のSだということだ。
でも、それは、僕だけに対するもので。
ちょっとだけそれに優越感を感じてる僕は、ちょっと変態か・・・って、ほっといてくれ。
誰につっこんでいるのかも、もうよくわからなくなってる僕をちょっと気持ち悪そうな目で見た後、薫子は僕の首筋に顔を埋めた。
背中ごしに伝わる胸の感触が、さらに暴力的になってきたというかすごくやわらかくておもいっきりだきしめたくなったりなくもなくっていかぼくはなにをいっているんでしょう・・・ちょっと壊れた。
ってか、胸以前に、彼女の柔らかな吐息が僕の首にかかって、ものすごく恥ずかしい。
彼氏でもない男に、こんなことをしないで欲しいと、声を大にして言いたい。
・・・嬉しいけどさ。
「薫子さん、なんか、すごく恥ずかしいんでやめて頂けたらとても嬉しかったりするんですが」
「ふ~ん、私がこんなことするなんて、あんたにだけなんだから、光栄に思って欲しいのに、なんで拒絶なんてするの?」
声から感情が抜けてるんですけど。
もう、なんていうか、絶対零度なんですけど。
ツンデレかっ!!ってつっこみもいれられないくらいに怖いんですけどっ!!
「すみません、なんでもないです、許してください」
「よろしい。わかればいいのよ。許してあげます」
とても上から目線でのコメント、どうもありがとうございますっていうか、胸!胸があたってるってば!!
そんな風にして、僕らの休日は過ぎていくのです。
これが僕の疲れている理由。
親友の五郎にばれたら殺されそうな、そんな贅沢な悩み。
それはとても、とても大切な、そんな宝物みたいな優しい時間なんだ。
そうやって僕の悩みは、降り積もる落ち葉のように積もり積もっていくのです。
・・・・・いまのは、秋の落ち葉とかけてるんですよ?うまいことっているつも「つまんない!」りなんですよって、だから地の文につっこむのはやめてくださいってば。