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第六話 『夏が来た!』

そこにいるのが当たり前の存在。それはとても大切な感覚だと思った。

第六話 「夏が来た!」


 それから数日が過ぎた、徐々に晴れの日が多くなる。それは梅雨の終わり、即ち夏の訪れを意味していた。そして日本の学生にとっては夏休みが近いことも意味する。そして、我が校では今日が終業式となっているのだ。

 この宇宙人と出会って二週間が過ぎるようとする頃にもなると段々と彼女がいることが普通になってくる。これが家族という感覚なのだろうか? 

 一年後に彼女はいなくなる、こう思うと何か得もしれぬ感情が俺の中に芽生えるのを感じるのだ。これが切なさというやつなのだろうか?

「ミサキちゃん、上手に焼けるようになったねー」

「はい、カエデさんのご指導のおかげです」

 俺の生活に変化が起こった。変化と言っても大げさなものではない、ほんの僅かでささいな変化だ。これはその一つである。楓が『二人分の朝食を持ってくるのはめんどうだ』と言って俺の家で朝食を作って食べることになった。別に大変ならもう持って来なくていいよ、と言いかけたが悪い意味で取られそうだったので止めた。

 料理に興味がわいたのだろう。二日目には美咲が手伝うようになり今に至る。かわいい女の子二人が料理を作っている姿は実に絵になり、また微笑ましくもある光景だ。

「あー、コージくん、エッチな目でこっち見てたー!」

「ふ・ざ・け・る・な!」

「やーねー、きっとパンツ見えてたのよ。ミサキちゃんも注意しなきゃダメよ」

 なんて見当違いなんだ!

 ああ、俺の和やかタイムを返してくれ……。

「え? 言ってくださればいくらでもお見せしますのに…」

「そういうの日本じゃダメなの!」両手でバツを作り楓。「そうなんですか」と素直にうなずく美咲。 どうやら二人の仲は上々のようである。

 美咲のズレは文化の違いだ、お前も教えてやってくれ、と言ってある。そう言われてしまうと納得するしかなくなる。ああ、便利な言葉だ――『文化の違い』。この言葉があれば宇宙的な何かでも出てこない限りバレる心配はないだろう。

 登校も三人でするようになった。これによって朝のおパンツタイムがなくなって登校中の男子が殺気立った目で俺を睨むようになったのだが俺の知ったことではない。

 終業式とは本来、全校生徒が校庭なり体育館なりに集まってやるものなのだが我が校では生徒が多いので、それぞれのクラスでTV放送で済まされる。実に楽でいい。例によって校長が長話をしているのだが当然誰も聞いてない。『どこで遊ぶ?』『どこどこに旅行に行くの』などと夏休みの話で夢中になっている。もちろん俺も聞いていない。中野教諭も始まる前に『一応聞いておけよ』と言ったきりそれを咎めもせず。パイプイスに座って携帯ゲーム機で時間を潰していた。いい加減なやつだ。

「諸君! そろそろ雑談を止めて話を聞きたまえ!」

「あ、ツバキさんだ」

 TVにはスーツ姿の椿が映っていた。同い年とは思えない大人びた姿だ。生徒会長は別にいるのだが彼女は華があるという理由でこういう式典の類に駆り出されるのだ。

 しかし、簡単に予想はできるとは言え、そんな言い方するなよ……。校長が涙目じゃないか。

「本校2度目の夏が来た。

高校生らしい節度ある夏休みを送りましょう、などと言っても聞く耳はないだろう。

だがこれだけは言っておく。御上の御厄介になるようなことだけはするな! あと避妊はちゃんとしろ! 各人全力をもって夏を楽しめ! ……私からは以上だ。」

「おー!」と各教室から歓声が上がる。しかし、身も蓋もない言い方だな、椿よ……。

 そう言うと椿は檀上から降りるような仕草をしたが振り返ってこう述べた。

「なお、私信ではあるが『ツバキ倶楽部』関係者は放課後、必ず部活に参加するように」


「皆、ごくろうだったな。集まってもらったのはほかでもない」

 手早く今日の挑戦者を終わらせ、いつもの五人が着席するのを確認すると椿はホワイトボードを平手でバンッと叩く。ボードが反転して『夏季部活動について』と大きく書かれた文字が現れる。こいつらも関係者だったのか。

「私たち二年は来年受験がある。苦しい受験勉強を乗り切るために我々は何をすべきだと思う?」

「先生、楽しい夏の思い出が欲しいです!」良太が手を挙げて即答する。

「うむ、その通りだ! 人はその先に幸せが待っていると信じる事ができるから辛い今日を生きていけるのだ。……では! どうしたら信じることができる?」

「先生、楽しい夏の思い出があれば信じることができます!」

「我々がこの夏、することはなんだ!」

「遊べ! 遊べ! 遊べ! 遊べ!」

「馬鹿者! きこえーん!」

「おい、まだそのつまらんコントモドキは続くのか?」

 少しの間シーンとする室内。『こういうのは最後まで聞いてあげるってのが礼儀ってもんでしょ』と楓が俺に耳打ちする。でもさ、俺は乗り気じゃないんだ。

 ああ、憂鬱だ……。

「ふむ……では本題に入ろう。明日からの一週間と最後の一週間は宿題期間とする。この期間中は各自遊びに誘うのは禁止とする。一応……、学生の本分はまっとうせねばな」

「質問! 一緒に宿題やろ? ってのはありですかー」

「もちろん、それは構わん。では、次だ。さて我々は夏休み草々、辛い宿題期間を過ごした。それが終わった。さて何をしたい?」

「「先生、海に行きたいです!」」楓と良太が同時に声を上げる。

「よろしい、ならば海へ行こう。異存があるものはいるか? ……ん? コージどうした?」

「すまんが俺はパスするぞ。お前らだけで楽しんできてくれ」

 足の踏み場もないビーチに泳ぐなんてもってのほか、浸かるのが精一杯の海……。考えただけでぞっとする。うぷっ…、想像したら気持ち悪くなってきた……。とにかく俺は人ごみが苦手なんだよ!

「そういえば言えばコージ君、人ごみ苦手だったね」

 あそこまで人が多い場所は苦手っていうより無理だ。おそらく一時間もいれば倒れる。

「えっと、話が見えませんが何が問題なのですか?」

「コージの奴は人が多すぎる場所に長くいると泡吹いて倒れちまうんだよ」

「人が多くなれば問題はないのですか?」

「そうそう」

「でしたら、私にお任せください」

 美咲はポンと胸を叩いた。彼女によると外交官をしている父親のつてで人の少ない孤島のリゾートを紹介できるとの事。

 それなら俺も行ってみたいかな。

「よし、これで夏の一発目は決まりだな。では、今日はこれで男女別れて行動する。各自この夏やってみたいことを私にメールしておくように」

「はーい、女の子組は何をするんですかー?」と、楓。

「うむ、良い質問だ! 女子はこれより水着の選別作業に入る!

男子どもよ、我々が必ず悩殺してやる。覚悟しておけ! フーッハッハ!」



「ねーねー、コージくーん。…あそぼうよー」

 楓が寝転んでゴロゴロしている。あれから五日、椿が怖いので俺たちは真面目に宿題に取り組んでいたのだが確かに勉強にも飽きてきた頃だった。窓からは真夏の太陽が差し込んでくる。確かに魅力的な提案ではある。

「ええい、うっとうしい! 飽きたなら家に帰れよ」

「えー、でも勉強あきたよー。あそびたいよー」

 この五日間、楓は朝から晩まで俺の家に入り浸っている。そして、自分が飽きるたびにこんなふうに誘ってきやがる。その度に俺も遊びたくなるのだが椿の禁をやぶったのがばれたら何されるか解らない。なので、その度に思いとどまるのだ。

「では、少し休憩したらどうです? お茶入れますよ。おいしいケーキもあります」

 美咲はと言えば、驚異的な速度――たった三日で宿題を終わらせてしまい、いつものようにPCをいじっていた。さすがだ、宇宙人……。

「わぁい、ケーキたべゆー」

 勉強のしすぎで幼児退行でもしたのか楓はばんざいの姿勢で冷蔵庫に走っていく。が、冷蔵庫を開ける一歩手前でその姿勢のまま動かなくなった。


 何が起こったのか理解できなかった。勉強のしすぎで目がおかしくなったのだろうか? 色があせたような視界。それに動かない楓。

「くっ…空間凍結……来ます!」

「え? え?」

「後ろです!」

 美咲が意味不明なことを言いだす。取り合えず、振り返る俺……。

 空間が歪み何かが現れる。歪みが収まるとそこには女の子が立っていた。それは美咲に似ている女の子だった。ショートカットの髪型。青地に白の宇宙服。似ているのは容姿が、ではない。美咲と初めて会った時と同じ表情だったのだ。

「来ましたね……。M―00338…」

 そう呼ばれた少女がキッと美咲を睨みつける。ハッとした表情の美咲。あまりの超展開にまったく着いていけない俺。

「M―00339――いえ、今は南井 美咲だったね。そして、あなたは東 孝司」

 俺の名前を知っている!? 恐らく美咲と同じ存在なのだろう。しかし彼女の表情からとても仲間が合いにきたようには思えない。もしかして……。

「安心して…今日は挨拶に来ただけだから」

「なぜ、俺の名前を知っている?」

「ふっ、…準備をしながら、ここを監視していたから」

「M―00338……、その服は……」

「そう…でもすぐ終わらせてしまうのはつまらないからゲームをすることにしたの」

 完全に俺だけ置いていかれている……。

「準備はそう…大体、一か月もあれば終わるの。そしたらゲームスタート」

 頼むから状況を説明してくれ! しかし、あまりのことに口が麻痺したように動かない。

「じゃあ…そういうことだから…」

 空間が歪む。歪みが収まると彼女は消えていた。

「わぁいケーキだぁ」

 冷蔵庫の開くカチャッという音にハッとする。部屋の色が元に戻っているのに気がついた。今すぐ美咲に説明を求めたい衝動を抑えるのに必死だった……。


「何が起こったのかできるだけ詳しく教えてくれ」

 夜、楓が帰ったのを確認すると真っ先に美咲に詰め寄った。あの後、宿題が全く手つかずだったのは言うまでもない。

「コージさん、その前に謝らせてください」

「な、何を?」

「私はアナタに『協力者』になってもらう時に危険はない、と説明しました。どうやらそれは保障できなくなりました」

「そんな事はいいんだ。何が起きたのかはさっぱりだったけど、それだけは何となくわかった! それより彼女は何者で何の目的でここに来た!? そしてさっきのあれは何だ?そして、これから何が起こる!?」

「コージさん落ち着いてください!」

そう言うと興奮して叫ぶ俺を強引に抱き寄せる。

「どうかこのまま……、息を整えてください」

 その言葉に素直に従った。胸に顔をうずめながら数を数える。

 ひとつ…ふたつ…みっつ……。

「興奮して悪かった……。だけど説明はちゃんと頼むぜ」

 彼女から離れイスに腰掛ける俺。

「はい、順を追って説明します……。

彼女、M―00338は私と同じ目的で作られた私の同型機です。」

「で、あの子の目的は何だ?」

「話は少し変わりますが、今回の作戦は基本的には地球の調査が目的です。以前、申した通りその結果で地球に対する方針が決まります」

 美咲は続けた。しかし、そんな悠長なことをしないでとっとと植民星にしてしまおう、と考える一派がある。急進派ということにしよう。その急進派は地球と自分たちとの科学力に圧倒的な差がある事が解ると、今ある兵力だけで地球を制圧しちまおうって事になった。一旦、制圧してしまえば事後承諾にはなるが彼らの星も植民星として扱わざるをえなくなるからだ。その先兵として派遣したのがあの子だ。

 しかし、自分たちとのあまりの差に彼女は呆れて俺達地球人にチャンスをやることにした。それがゲームだ。だが、美咲にもそのゲームの内容は解らないらしい。

 色があせたような空間は空間凍結現象と言うらしい。ある一定範囲の空間の時間を強制的に止めて自分たち以外は動くことができなくなる。うーむ、恐ろしい技術だ。

 でも、あれ? 何で俺は動けたんだ?

「それはコージさんが我々の『協力者』だからです。『協力者』は私たち側の存在として扱われます」

 ……なるほど。

「『ゲーム』の事なんだけどさ、確かすごい数のお仲間が地球にきてるんだったよな? その人たちに協力をたのめないのか?」

「残念ながら母艦とのリンクが切れている今、通信及び個体の特定はできませんし、私のライブラリーにもそういった情報はありません。コージさんは私の正体を知らなかったら私が宇宙人だと思いますか? それと同じで私にも無理なのです。そもそも私たちはそのように作られているのですから……」

 ん? 何か変だな……。いったい何だろう?

「要するに美咲と俺の二人で『ゲーム』をクリアしなきゃいけないってことだな?」

「残念ながら……、その通りです」

 一度落ち着いた後、妙に冷静だ。なんでだろう? 少し考えてみる。そして、答えに行きつく。そうか、まったく現実味がないからだ。冷静なんじゃなくて現状を俺の心が受け入れられていないだけなのだ。

「結局のところ、あの子が俺たちの敵で俺たちは孤立無援だってこと以外は、解らないってことか……」

 こういう時、解りたくない事だけは理解できてしまうのは何故だろう。

「……はい」

「あー、そうだ!」

 驚かせちまったかな? 俺の言葉に彼女はビクッと体を震わせる。

「転入の件といいリゾートのことといい、一体どうやったんだ?」

 はっきり言って場違いな質問をする。そんな事は言いだした俺が一番よく解っていた。だか、どうにもならない以上、空気を変えたかったんだ。

「それはヒミツです」

 彼女はニコリと笑い、そうとだけ言った。


 あの日の出来事は考えても答えが出る類のものではなかったので考えるのを止めた。ええい、どうにでもなれだ。それより海だ。力いっぱい遊んで嫌なことはすべて忘れてしまおう。現実逃避するのは俺の悪い癖だ。だが、俺個人の問題なら直そうと思うものだが、これは言ってみれば全世界に関係するような話だ。だから、今回だけは逃避させてもらうってもんだ!

 宿題期間が終わると美咲が全員を俺の家に呼びつけた。二泊三日で海に行くとのこと。

二泊三日だと!



「皆さん揃いましたね」

 にこやかに美咲。さすがに1DKに六人も集まると狭くてかなわん。荷物もあるし座ることもできやしない。

「では、これより電車で港に向かい、そこで船に乗り換えます」

「おー!」はしゃぐ良太。

「ミサキ、質問がある」と椿。

「はい、なんでしょう?」

「準備万端で来ておいてなんだが費用とかはどうなっているんだ?」

「はい、父のつてでコテージを貸していただけることになったので、その心配はいりません。船もそちらから迎えに来ていただけることになっていますので雑費と電車賃程度でしょうか」

「そ、そうか……」

「ねー、コージくん。もしかして、ミサキちゃんのお父さんってすごいお金持ちなの?」

「いや、知らん」

 そもそも存在しないものを知るはずもない。しかし……、孤島のリゾート二泊三日が移動費のみってどういう設定なんだよ、どう考えても無理があるだろ……。思わず頭を抱えてしまう。

「では、参りましょー」

 誘導員が持つような旗をもって美咲。


 電車を降り港に着くと中型のクルーザーが停泊していた。その船尾にいる人がこちらに手を振っていた。どうやらこれに乗るらしい。挨拶を済ませ乗せてもらう。

――結構速いんだな。

 俺はこの手の乗物に乗るのは初めてだった。潮の香りがする海風がとても心地よかった。

一時間もすると『目的地が見えてきた』と船長(?)さんが教えてくれた。その島を見て俺はまた頭を抱えることとなった。

 一体、ここはどこなんだろうか? パスポートが必要なかったんだから日本であることは間違いないのだろう。南国の高級リゾート地って感じの場所だ。まさか宇宙人が作ったリゾート地とかいうことはないよな……? それに美咲も美咲だ。さすがに正体はばれないだろうがこんなことしてると怪しまれるぞ……。良太はさっきから「すげー!すげー!」を連呼している。うっさい、黙れ。

「まずはお部屋にご案内しますね」

 美咲は旗を上げると着いてくるように指示する。港から出るとすぐにショッピングモールがある。そこを通り抜けると何軒かの別荘風の洋館が公園らしき噴水のある広場を囲むようにあった。さらに進むとこれまた数軒のコテージとその奥には砂浜が見える。西洋風の街並みとリゾート風の建物が混ざったような少なくとも日本とは思えない違和感のある島だった。

「おい、これもしかして……」美咲に耳打ちする俺。

「ヒミツです」と拒否する美咲。

「さあ、こちらが女の子用。向かいが男の子用です。荷物を置いて着替えたらさっそく海で遊びましょう」


 ビーチに先に着いたのは男組だった。辺りには人が殆どいない。俺は海が嫌いなのではない。人ごみが嫌いなのだ。俺は砂浜に寝転んでみた。熱かったが不快感はなく、どちらかと言うと風呂に入っているような心地よさがある。

 良太はさっそく海に入り波に呑まれていた。ブツブツという呟きが聞こえる。ゴウは俺の横で体育座りで先ほどから何かをつぶやいている。そらそうだよな、明らかにここは不自然だ。耳を傾けてみた。


…水着…水着…水着…水着…水着…水着……。


 どうやら俺の感違いだったらしい。まあいいか。目をつぶって心地よさを味わう。このまま寝たら日焼けでひどい目にあいそうだな、なんて考えていると楓の声がした。女の子組も着いたようだ。

 影ができる。目を開けると楓が立ったまま俺を覗きこんでいる。俺の頭をまたぐ形になっているので結構すごいアングルだ。ピンクと白の縦縞のタンキニを着ていた。

「どう?」

「すごく似合っててかわいいよ」

「それだけ?」と、不満そうに言い。俺の横に座る。

他になんて言えばいいんだよ!

「おい、ゴウ、これを運ぶのを手伝ってくれ」

 後ろで椿の声がした。ゴウが起き上がりのそのそと声の方に歩いていく。『うおおおおおおおおおおおおお』ゴウの雄たけびが聞こえてきた。

 ああ、そういうことか。

 椿と美咲がパラソルやらクーラーボックススやらを抱えたゴウを共なってこちらに向かってくる。妙にプルンプルンしているものが目に着いた。

「どうだ?」と、椿が挑発的なポーズを取る。

 椿は飾りっ気のない白のビキニを着ていた。椿は絶妙なプロポーションをしている。これ以上大きいとバランスが悪くなる。そんなギリギリのラインをきっちり守る。本来の定義とは異なるがいわゆる黄金比って奴だ。飾りっ気のない水着が実に似合っていた。下手に飾ると逆におかしく見えてしまいそうなほどに。『飾る必要がない』という彼女の言葉に妙に納得した。

「「お見逸れしました」」なぜか並んで土下座する、俺と良太。

「ふん、わかればいい」と、満足そうにうなずく椿。

「それに……、水に入れば透けるぞ?」

「うおおおおおお、スゲー!」

 うっさいぞ、良太!

 美咲は、と言うと白のラインの入った明るい黄色のセパレーツだった。こいつのことだから何か変なものを選ぶんじゃないかと思っていただけに、ちょっと意外だ。

「私はどうですか?」と戸惑い気味に美咲。

「は、はい! すごく似合ってます、ミサキさん」と興奮気味にゴウ。

 場所のセッティングを男どもでしていると楓が座ったままジト目で俺の方を睨んでいた。気がつかない振りをしていたのだがさっきからずっとだ。睨んでいる理由はわかっている。

俺が悪かったよ!


「お主は泳がんのか?」

 俺がパラソルの陰に入って寝転んでいると、椿が話しかけてきた。

「ああ、何か砂の感触がさっきから気持ちよくってさ」

 どうやら俺はこの感覚が気に入ったみたいだ。海に来てからというもの大の字になって寝転んでいる。そして、海に入って遊ぶ悪友たちを眺めていた。どうやら楓は機嫌を直したらしい。キャッキャ言いながら美咲と水を掛け合ったりしていた。どうせ明日もあるんだし今日はこのままでいいや。海も眺めてたらなんか満足しちゃったし。こんな事を考えながら俺は俺で海を堪能していたのだった。時折、吹く海風が実に心地よかった。

「まあ、好きに楽しむといい」

 こう言うと椿はうつ伏せに寝転ろんで俺の方を見る。何も言わない。ただじっと俺を見る。俺に緊張が走る。彼女が俺に何を訴えているのかが解らない。

「……まったく、お主という奴は実に気のきかん男だな。

こういう場合はだなお主の方から『オイル塗ろうか? ウヘヘヘ』とか言うものだぞ?」

「そういうもんなのか? でも、ウヘヘヘヘはないだろ……」

「ふふっ、まあ塗ってくれ、頼む」

「はいはい、わかりましたよ」

 彼女のきめ細かい滑らかな肌にオイルを塗っていく。こんなこと初めての経験なのになぜかドキドキしない。

「ふむ、普通だな……。つまらん」

「んー、前ならとにかく後ろだからなー」適当にはぐらかす俺。

「……そうか」

「うわ…ちょっと! ツバキ!」

 上体を起こし振りかえった椿の形よく膨らんだ双丘――つまり胸を隠すように手を当てる俺。柔らかい感触。そして、手の平から伝わってくるポッチの感触は何だ?

 見えちまう! こんな事を思い咄嗟に手を出してしまったが、これはこれで問題があるような気がする。殴られても文句の言えない状況だ。しかし、椿は挑発的な瞳で俺にほほ笑むだけだった。

「大胆…だな。このまま押し倒すのか? 別に私は構わんぞ?」

「え? いや、ち、ちがう…と、とにかく元の姿勢に戻れー!」

「……なんだ、つまらんな」

 こう言い寝そべる椿。健気に背中にオイルを塗る俺。顔は真っ赤だ。

 まったく……。俺で遊ぶなよな!

「お主の欠点は普段は平静を装ってるくせに不測の事態が起こるとすぐにあたふたするところだな」

 ああ、まったくもってその通りだよ!


「ここの管理人さんに聞いたところ温泉があるみたいです」

 二日目、夕食のバーベキュウを食べ終わると。美咲はこう言った。

 温泉まであるのかよ……。と、思いつつもせっかくなので皆で行くことにした。受付を済ませ女の子組に別れを告げ男風呂に入る。どうやら先客はいないようだ。

 大浴場の他、サウナはもちろんのこと打たせ湯、ジェットバス、超音波風呂、露天風呂等々なかなか豪華な風呂である。俺たちは軽く体を洗うとまずはと露天風呂に浸かる。日焼けしたので少しひりひりするが実に心地よい。身に沁みるとはまさにこの事だな。

「さて、諸君。来て草々だが……、あれをやろうじゃないか!」

 良太がガバッと風呂から立ち上がり拳を握り締めてそう言う。

 ……粗末なもん見せるなよ……。

「リョータ君、ほんとにやるの?」

 こんな事を言いつつもゴウの顔は緩んでいた。

「やめとけよ、ばれたらえらいことになるぞ」

「うっさいわ! こちとらいつでも裸を拝める身分のお前と違って飢えてるんじゃ!」

 俺に向かってタオルを投げつけてくるが首を横にし回避する。

「まぁ、確かに自分のカノジョたちの裸を見られたくないって気持ちはわからんでもないが完璧ボディのツバキさん。それにはやや劣るがやはりナイスバディのミサキちゃん。……それに年相応のカエデちゃんの裸。……ああ、考えただけでいきり勃つってもんだ!」

 まぁ見たくない、といえば嘘になるが後が怖そうだからな。

「ゴーウー! ミサキちゃんのおっぱいが見たくないのか!」

ビシッとゴウに指さす良太。

「ミサキ…さん…の裸……」

バシャンと大きな湯柱を立てゴウが湯船に倒れこむ。

「そうだ! 裸だ! このシチュエーションで覗かないだぁ? それは彼女たちに対する冒涜だ! いや、知らないけど、そうに違いないのだ!」

 握り拳を作り意味不明な事を力説する良太。

「まあ、勝手にやっててくれ」

 露天風呂から上がるとサウナに向かう俺。よし、全風呂制覇してみよう。

「ごめんね…ボクも、もうだめそう……」

 鼻を手で覆いながらゴウも上がる。

「じゃあさ、各自適当に部屋に戻るってことにしとこうぜ」と、俺。

「かぁぁああー! このなんじゃく者どもが! 俺が男の生き様ってもんを見せてやる! 覚えておけ!」


 しかし、というか案の定、その夜白山良太は帰ってこなかった……。


 夜、遊び疲れたのかゴウが早々に寝てしまったので男部屋で一人時間をもてあます。夜の海辺でも散歩するかと思い外に出ると美咲と会った。一緒に散歩することにした。

「なんつーか、お前やりすぎ」

「何のことでしょう?」ニコリと美咲。

「関東から船で一時間の場所にこんな設備の行き届いた南海風リゾート(温泉付き)ってどんだけだよ」

「まぁ、素敵な場所があったものですね」

「つったく……」

「でも、楽しんでいただけたようなので幸いです」

 月明かりで照らされた砂浜、そして光を反射している海、波の音。確かにこう言う場所での告白の成功率が高いと頷けるロマンチックさだ。

 そんな砂浜を歩いている二人。普通なら『お前が好きだ』なんていう場面なんだろうがあいにくと美咲はそういう対象じゃない。

「私は地球に来れて――コージさんや皆さんに出会えて幸せです」

「俺も美咲に出会えてよかったと思ってる」

 美咲は俺にとっての鍵だ。俺の扉を開けるための鍵だ。その扉が開いた時、俺に何が起こるのかは解らない。しかし、こいつと同棲を始めてこんな事を思い始めた俺がいた。そして、彼女に依存しつつある自分に気が付いたのだ。

「皆さん、お優しいですし、何よりアナタと出会ってから毎日楽しいです」

「ああ、あいつらは俺にはもったいないぐらい、いい奴らだよ」

「コージさんも、とてもいい人ですよ。私を受け入れてくれましたし」

 それはお前が脅迫したからだろ、とはロマンチックな月明かりが言わせてくれなかった。

「ところで調査ってのはこんなんでいいのかい?」

「はい、とても順調です」

 しばしの沈黙。二人で並んで星空を眺めた。それは話すネタが無くなったからではない。二人でいると普段は忘れているのについ思い出してしまうことがある。

 それは……。

「これから、何が起こるんだろう……?」

 この問いに彼女は答えない。


 俺としても答えを期待していたわけではない。独り言の様なものだった。




登場人物紹介

アズマ 孝司コウジ

……本編主人公。ハーレムものによくあるイケメン。

南井ミナイ 美咲ミサキ(M-00339)

……どこぞの宇宙からやって来た人型調査端末。コージと出会い居候になる。

西野ニシノ カエデ

……コージの同級生兼通い妻。(外見描写的な)ツバキのカマセ。

北家キタイエ 椿ツバキ

……完璧超人兼コージの嫁二号。コージをキョドらせるのが好き。

白山シラヤマ 良太リョウタ

……コージの同級生。ムードメイカー的な存在。

発村ハツムラ ツヨシ

……コージの同級生。外見ヤクザのヘタレ。通称ゴウ。

中野ナカノ 俊夫トシオ

……コージのクラスの担任。『イケメンは死ね』が座右の銘。


※名前の由来は縦読み。


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