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第二話 『部屋と宇宙人と俺』

出会ってしまった。それは運命って奴なのかもしれない……。

第二話 『部屋と宇宙人と俺』


 1DK(トイレバス別)――それが俺の家だった。そのDKの方で俺はうつろな目で膝を抱えブルブルと震えていた。戻ってからずっと、だ。

結論から言ってしまうと俺は生還した。うれしいはずだ。だが、今は後悔の念でずっとこんな状態だ。


――どうしてこうなってしまったんだろう……。

 

 俺は今夜起こったことを思い出してみた。俺はトリガーを引いた。光は彼女に向かって伸びていき肩のあたりに命中した。彼女はビクンと体を震わせてその場に倒れこんだ。そして動かなくなった……。それを見た俺は腰を抜かして立てなくなる。と、言っても元々、尻もちを付いている状態ではあったが……。

 俺は人が死ぬ瞬間というのを見たことがない。確かに彼女は動かなくなった。少し時間がたった今もぴくりともしない。死んだのか確認するために無様な四つん這いで近づいてみる。そして、うつ伏せに倒れている体を仰向けの状態に直す。

軽くつついてみた。――反応はかえってこない。

 困った……。俺は死亡を断定する方法を知らない。取り合えず心臓が動いているか確認してみるか? こう思い視線を彼女の胸に移す。薄そうだとはいえ宇宙服に身を包んでいる胸だ。

ゴクリ……。思わず生唾を飲み込む。実際の大きさは解らないが膨らみ方から察するに大きそうな胸だ。いかん、俺落ち着け。そういう観察をしているわけではない。ここで思う。はて、宇宙服の上から胸に手を当てたところで心音を確認できるものなのだろうか? ならば脱がしてから触ってみるか? それはダメだ。もし、まだ生きていてその瞬間に目を覚ますとか言うお決まりの展開になったらシャレにならない。

 ああ、俺は何を考えているんだ! むしろ、そっちの方がいいのではないのか? こんな考えが頭の中でループしていった。

 少し考えた後に結局は呼吸の有無で判断することにした。彼女の口元に耳を近づけてみる。呼吸はないようだ。そう……、呼吸をしていなかったのだ!

「うわぁぁぁぁあああ」

大きく後ずさる。宇宙人との戦闘とかいう非現実から解放され人の死という現実でようやく俺がしでかしてしまったことの大きさに気がつく。完全なパニック状態になってしまった。

この後の事はよく覚えていない。

 状況から察するに俺は動かなくなった彼女を背負い我が家に一目散に逃げ帰り彼女をベッドに寝かせて今に至るという感じだろう。

 何故、遺体を持ち帰ったか? そしてなぜベッドに寝かせたか? 理由はわからない。と、言うよりその行為に理由などなかったんだろう。

「死体遺棄は犯罪だって学校で習ったんだよぅ……」

そもそも殺人の時点で犯罪だ。これは理由にならない。

「女の子が倒れていたら……ほら、ほっておくとか人道的にアレだろ……」

 その主犯が言ってよいセリフではない。

「この子が可愛かったからだよぅ……」

無理やりにも程がある。

 こんな感じに俺はさっきから自分がしでかしてしまったことから逃避することに夢中になっていた。戻ってからかなりの時間がたった。いい加減に今後の方針を決めねば部屋に差し込む光の具合から察するにそろそろ奴が来る。それまでに決めないと決めたことが無駄になりかねない。

 素直に出頭するか? しかし、なんて説明するんだ? 宇宙人に襲われて反撃しました。その結果、殺してしまいました。と、でも言うつもりか? 相手はどう見たって人間にしか見えない。

 ……却下だ。

 クローゼットにでも死体を隠して隠し通すか? 幸い俺は一人暮らしで両親はここへは絶対に来ない。これもだめだ、その内、臭いでばれる……却下。

 ならば死体を元の山に持って行き埋めるか? ダメダメだ。今の時間で誰にも会わずに実行するのは不可能だ。

 ならば…ならば……。考えを巡らすがいい考えにたどり着かない。しかし、結局は現実逃避していただけに過ぎないとは言え段々と落ち着きを取り戻してきたのを感じる。それと共にある違和感に気づいた。

 そもそも宇宙人殺害は犯罪なのか? なんてことではない。俺は銃であの子を倒した。間違いない。ならば外傷があるはずだ。なのに、彼女の服には傷一つなかった。

 目に力が戻るのを感じた。希望に満ちた光だ。俺は彼女を殺してなどいなかったんだ! 

急いでドアを開ける。そして彼女の姿を確認すると布団を剥いだ。確認してみる……。確かにどこにも損傷がない。よかった、俺はやっぱり殺してなどいなかったのだ。

 すると、今はあの子は安らかな寝息を立てて…立てて……いなかった……。口元に耳を近づけてみる。呼吸の気配を感じない。

 ダメだ……。目から光がなくなるのを感じる。そして丁寧にドアを締めると俺はもといた場所に戻り膝を抱えて再びブルブルと震えだした。

 一つ忘れていたことがあった。そうだ俺が使ったのは宇宙人の武器だった。あの光線は内部を破壊するタイプだったのか!? 

 ……ああ畜生。

 もうダメだ。素直に出頭しよう。そうだ。それが一番いいはずだ……。

 こんな事を思いだした時、奴は来た。


「おっはよー! あなたのカエデちゃんですよー」

いつも通りの明るい声で奴――西野 楓(大家の娘16歳)が玄関に入ってくる。目のクリっといたかわいらしい女の子である。大家の娘特権で俺の家の合いカギを所持していて、俺の許可なしに入ってくる。いつもなら『勝手にカギあけて入るな』と返すところだが今日はそれどころではない。

 楓は親切にも毎日、朝飯を届けに来てくれる。料理といったらインスタントラーメンを作るぐらいが精々な俺にとってまったくもってありがたい存在だ。

「メール見てくれた? 昨日の流れ星すごかったよねー。一緒に見れたら、きっとすごくロマンチックな夜を過ごせたのに……」

 などと言いながらテーブルの上に手際よく料理を並べていく。

ん? 何かおかしいぞ……? まぁいい。今はいかにして楓を向こうの部屋に行かせないかだ。

「ん? コージ君、そんなところで何やってるの?」俺の方に向かってくる楓。

 俺は今現在、部屋の隅っこでガタガタ震えています……。

「んー、何か汗臭いな。お風呂ちゃんとはいらないとダメだよ?」

「……うん、そうだね……。カエデが帰ったらシャワー浴びるよ……」

 一生分とも思える冷汗と脂汗をさんざ掻いたんだ。そりゃ汗臭いのもしょうがない……。

「ん? 顔色がすごく悪いよ? 大丈夫なの?」

「ああ、実は……、一人で裏山に言ったんだよ。それでさ、夜露で濡れちゃってさ、それでどうやら風邪をひいちまったみたいなんだ……」

「え? 熱はどうなの?」俺の額に自分の額を当てる。

「んー、熱はないみたいだね。後でお薬持ってくるよ」

 本来ならうれしはずかしのドキッとするようなシチュエーションなのだが、今の俺としては、そんな感情は一切起こらずに『外に出たらもう戻ってくるな……。いや、戻ってこないでください、お願いします』なんて事を心の中で念じていた。

「いや、薬はいいよ。ね、熱もないみたいだし寝てれば治るよ……」

「そう、じゃあこんな所にいないで早くベッドに入って寝なさいよ」

「あ!」思わず大きな声を出す俺。「いや、ここでいいんだ。冷たくてここが気持ちいいんだよ……」

「そうそう、悪いんだけど先生に今日は風邪で休むって伝えといてくれないか?」

「うん、わかった。じゃあ、せめてお布団持ってくるね」

 しまった! 返答の仕方を間違えた。楓の手がドアノブをつかむ。ドアを開けようとしたところで何とかその手をつかむことに成功した。鬼気迫る目で楓を睨む。

「え? ……バカ……こんな時間からなんて嫌だよぅ」頬を赤くして振りかえる楓。

 思わず手を放してしまった。今はおまえのラブコメに付き合っている暇なんかないんだよ。どうやって部屋に入らせないか……。考えろ……俺。


1、めんどくさいのでコイツも殺ってしまう。

2、ラブコメを展開して何とかごまかす。

3、もう、どうにでもなーれ。


 いかん……十七年生きて昨夜ようやく解ったことがある。どうやら俺はピンチになると現実逃避する癖があるらしい。まったくナイスアイデアが思い浮かばない……。こんな事を考えているうちに、楓はドアを開けてしまった。

 唖然としてその場に佇む俺。もう3でいいや。

――ああバレた。俺の人生終了のお知らせが届いてしまった!

 こんな事を思い頭を抱えていると楓は何事もなく布団を持ってきて俺に渡す。

「はい、じゃあご飯ちゃんと食べてね。バーイ」

 そして、こんな事を言い我が家から出て行く楓。一体どうなっているんだ? 最低でも布団を剥いだ段階で死体に気がつかないはずはないんだが……。

確認してみよう。答えはそこにあるはずだ。

 恐る恐る部屋を覗きこむ。右の方を見ると机がある。その上にはPCと数冊の本がある。今度は左の方を見る。本棚とクローゼットの扉がある。

 ええい、現実逃避するな! 俺、ちゃんとベッドを見るんだ。両の手の平で頬を張り覚悟を決めベッドを見る。敷布と枕があった。そして、その蒲団には……蒲団には人ひとり分の膨らみが……なかった。

 え? 死体がない!

 もしや、昨夜の出来事は俺の夢だったのでは? こんな事が頭をよぎった。むしろ、これは俺の願望と言った方がよかったか。

 刹那、後ろでガサッという音が聞こえる。ビクッとして振りかえるとそこには何故か死んだはずの死体(?)が立っていたのだ。

 思わず視界がぼやけるのだ。涙が出てきたからだ。この時の俺は彼女の無事を喜ぶのではなく不謹慎にもこんなことを考えていたのだ。

――そうか、やはり俺は殺してなどいなかったんだ。ほんとよかったな、俺。前科者にならずに済んだな……。

 安心すると緊張の糸が切れたのか俺はバタリとその場に倒れこんで意識を失った。


 とても柔らかくていい感触を感じて俺は目を覚ました。まだ頭が少しぼやけている。気絶するのも当然だ。昨夜からあれだけひどい目にあった上に徹夜だったんだ。などと自己正当化してみる。今はもう少しこのとてもいい感触で癒されよう。感触を楽しむために頬ずりをする。んー、実にスベスベしていい感触だ。それに何かいい匂いもする。女の子の膝枕のような感触とはこれの事なのだろう。

 ん? 膝枕だと? ……膝枕ぁ!?

 びっくりして飛び起きる。そして目に入ったものを見て激しく後ずさりをして壁に頭をぶつけることになる。

 痛い……。

 それは確かに女の子の膝枕だった。それも――全裸の。

「目を覚まさ…」

「うわぁぁぁああああ!」彼女が何かを言いかけたが俺の絶叫がそれを遮る。

「は、はだかのお、おんなのこ、こ……」

 後ずさろうとする俺。もうこれ以上は下がれない。何故なら壁があるからだ。しかし、俺はガリガリと爪で壁を引っ掻きながら尚も下がろうともがく。最終的には壁伝いにズルリと体を滑らせて尻もちをつく形になる。

「お目覚めになられたようですね」

 女の子(全裸)は四つん這いの状態で俺の方に這ってくる。表情もなく、ゆっくりとじわりじわりと俺に迫ってくるのだ。

「頭を打たれたようですね。大丈夫ですか?」

彼女の豊かな胸が迫ってくる……。俺は無様にもうわずった声を上げながら顔を上下左右に振りうろたえる。そんなことには構わず俺の頭に手を添え後頭部を軽くさする彼女。

「お、おっぱいが……」うわずった声で俺。

「外傷はないようですね。心配でしたら内部をスキャンしてみましょうか?」

 相変わらずの感情のない声で何事もないようにこう告げる。あまりのことにもう声が出せない。俺は首をブルンブルンと横にふることで答えた。初めて女の子の裸を直で見たんだ。冷静な対応なんてできるはずがない。

「何らかの障害があるようですね」

 いや、違うんだ。これは障害ではない。お前の勘違いでしかないんだよ!

 彼女は両手で俺の頭を固定すると俺の目を覗きこむ。目と目が合う。か、顔が近い……。俺から顔を動かしたらキスができてしまえそうな距離だ。改めて見るとやっぱりかわいい。胸のドキドキが止まらない。落ち着け俺、なんとしても。彼女は絶対に今の俺の状態を勘違いしてるんだ。

「おかしいですね? 内部にも異常は見当たりません」

 当たり前だ。今の俺は要するに健全な少年の反応って奴なんだよ! 頭から手を離すと今度は俺の左右を覗きこむような動作をする。その度に双丘(つまりおっぱいだ!)がプルンプルン動く。それを目で追う俺。誤解を解かんと俺の身がもたない。

コージよ、声を出せるぐらいには落ち着くんだ!。

「いけません。鼻から血が……手当をしないと……」

 鼻元に手を当てながら考える。

待てよ、もしかしてこいつは俺をからかってるんじゃないのか? 昨夜もそうだった。こいつは全く人の話を聞き入れない。そんなやつだ、俺の反応を楽しんでいるんじゃないのか? 畜生、男の純情をもてあそびやがって! こんな事を考えていると徐々に冷静さを取り戻していく自分に気がつく。

 まずは相手を見て話をできるようにせねば。

「一分待て!」

 一方的にそう告げると、俺は部屋に飛び込み辺りを見回す。

 宇宙服は? ――ない! 

 ならばとクローゼットを乱暴に開け俺の服をあさりだす。誤解を恐れず楓に頼んで服を貸してもらうって手もあるがサイズが合いそうもない、そもそも帰りを待つ時間などない。シャツの類ならサイズはどうとでもなるがズボンはダメそうだ。と、なるとこれが無難だろう。そう思って黒地のジャージを取り出す。そして戻るとジャージを取り出し彼女が何かを言いだす前にこう叫ぶ。

「まずはこれを着ろ! 話はそれからだ!」


「着終わりました」

 彼女がそう言ったのは俺には一時間にも感じたが時計によると二分後の事だった。サイズがあってないのでぶかぶかだが裸のままより何万倍もましだ。

 あまりにリアリティーのない状況に長く置かれたために今頃思いついたんだが……。

 あれ? そういえばこいつは俺を殺そうとしてたんじゃなかったか? そうすると俺を殺すチャンスなんて幾らでもあったはずなんだが俺はまだ生きている。何故だ? この疑問は聞かない方がいいだろう、蒸しかえしたらしゃれにならん。

「さて、色々と説明してもらおうか?」

 俺は高圧的な態度で告げる。相手に主導権を渡すとどうせテンパルことになる。

「説明ですか?」

「そうだ。君は何をしに来た? 君は何をする気なんだ? 君は死んだんじゃないのか? そもそも君は誰なんだ?」

 うむ、我ながらいい感じだ。質問を矢次にし、答えさせる。これを繰り返せば彼女のペースに乗せられる事もないだろう。

「……それにお答えするにはこれからする質問に『はい』、『YES』、『JA』、『是』――何でも構いません、肯定的な意味合いの返事をしてください」

「俺に拒否権はないって話かよ!」

 ……スルーされた。

「私は原住民との遭遇に対する処置としてマニュアルにある最優先事項であるアナタの抹殺を選択しました。そして、ご存じのとおりアナタに倒されました。そこで第二位を選択実行することとしたのです。」

 どうやら俺の生命の危機は去ったらしい。

「第二位にはこうあります。抹殺が不可能な場合『その者に協力を募り調査の協力者になってもらう』というものです。ですので、現地協力者になってください」

「ちょっと待ってくれよ。協力者になれって、場合によっては『YES』でもいいがそれには条件があるぞ」

「私は肯定的な意味合いの返事しか求めていません。さあ、お返事を…」

 華麗にスルーされた。ああ、相変わらず話が通じねえ……。

「だからさ、俺たちに危害を加えたり破壊活動とかが調査の内容に含まれてるんだったら協力なんてできないって話なんだよ!」

「調査活動の内容に破壊活動は含まれていません。よって、あなたに危険はありません。――これでご理解いただけましたか?」

「あと、金銭的な援助やその他犯罪も無理だぜ?」

「私はまだこの国の刑法を知らないのでそれは保障できません。……さあ、お返事を」

 うーむ、あいまいな答えだ……。しかし、犯罪者になるのはごめんだぜ。

「ちなみに、もしも受け入れていただけなかった場合はあなたの抹殺は諦めましたがカエデさんでしたっけ? 可愛い人でしたね。……いえ、なんでもありません」

 おい、脅迫してきましたよ! 

 ……背中に冷たいものが走る。断ればカエデをどうにかする。暗につーか、殆ど直でこんなことを言いやがるのだ。

 そう言えば、と昨夜の事を思い出す。俺は問答無用で襲われた。なら、間違いない……。

「……解ったよ。協力者とやらになればいいんだろ。具体的には何をすればいいんだ?」

「ありがとうございます。では、まずここを押してください」

 ブオっという音とともにPCの画面の様なものが浮かぶ。そして彼女はその画面の『同意します』の部分を指さす。

「……これでいいのか?」

 恐る恐るその部分を押す俺。するとピコンという音と共にその画面が消えてしまった。

「はい、これで契約成立です。これでアナタ――ところでお名前は何でしょうか?」

「俺の名前は東 孝司だ。呼ぶ時はコージでいい。よろしくな……えーと…」

「私はM―00339です。お好きなようにお呼びください」

「変な名前だな……」

「はい、製造番号ですので正確には名前ではありません」

 また、おかしなこと言いだしたよ、こいつは……。

「申し遅れました。コージさん、あなたと初めて会ったとき嘘をつきました。私は宇宙人ではありません」

 なんだ、宇宙人じゃなかったのか。そうだよな……そんな馬鹿な話があるわけが……。

「正しくは宇宙人よって作られた地球調査用端末です」

 俺の解釈がおかしかったらしい。

「ご理解頂けないようならアンドロイドの様なものだと思ってください。カプセルの中にコア――赤い球体がありましたよね? あれが私の本体でこの姿は原住民の姿に合わせた擬態です」

 おいおい、俺をドギマギさせたあのプルンプルンは偽物だったのかよ。

「話を戻します。私の任務は担当エリアの調査です。具体的な言い方をするとこの地域の人間や風俗を体験し母艦へ持ち帰ることです。ですので、断言はできませんが危険な行為はないと思われます」

 なんか思ってたより地味だな……。

「で、俺は何をすればいいんだ?」

「はい、現地協力員であるコージさんには私の調査にあたり付き添っていただいたり、私の行動が明らかにこの地域の人間のそれと逸脱している場合の指摘。そして調査拠点の提供をお願いします」

「んー、何か解るようで解りづらい表現だな。もっとかみ砕いた表現で言い直してくれないか?」

「ちょっと待ってください……」少し固まった後に「はい、コージさんには私とデートしたり私の正体が発覚しそうになった時のフォロー、そしてここに私を住まわせてください」

「ああ、それぐらいならって……え? ここに住むの?」

「はい、この部屋のスペースを見る限り私一人ぐらい増えても問題がないはずですし、察するにコージさんは一人暮らしをしているのですよね? でしたら、隠れるのにも適しています」

「い、いやな、そういう問題じゃないんだよ」

「ではどのような問題があるのですか?」

「キミじゃなくて俺の問題だ。女の子に無理やり迫る趣味はないが俺だって正常な男なんだよ。君みたいな子がいると…その…あれだ、理性のタガって奴が外れて襲いかかっちゃうこともあるかもしれないだろ?」

「私を壊してしまう可能性がある、という意味ですか?」

「いや、そうじゃなくて……その…セ、いや、おしべとめしべ的な…というか……」

 両手の人差し指を合わせしどろもどろする俺。明らかに彼女に通じてないな。

「要するに君の体を求めてしまうかもしれないってことだ。」

「生殖行為のことでしたか」

 ふぅ、通じたみたいだ。さすがにこれは嫌がるだろう。

「全く問題ありません」

「え?」

「私の擬態は完璧です。個人差という問題は解決できませんが子供を産むという機能がないだけでそれ以外は完璧に女性の体のそれと変わりません。ご安心ください」

 ダメだ……やっぱりこの人、言葉が通じない。

 俺としてはそれじゃあ余計に安心できないんだって!

「いや、そうじゃないんだよ。あー、むずかしいな……」

「もしかしてモラルの話をなさっているのですか?」

 お? ようやく通じたか?

「でしたら心配はいりません。原住民との生殖行為の体験も立派な調査内容となります。ご安心して私を使ってください」

 やっぱりダメだった。

 もう、いいや。価値観の違う人と話すのって、すげー疲れる。

「わかったよ。キミに協力することを約束するよ。色々聞きたいことはあるけど、まず一つ目の協力だ」

「それは何ですか?」

 そう、今すぐにもこれだけはしておかない事があるんだ。ずっと家にいるのなら今のままでもいいかもしれないがそう云うわけにもいかない。彼女が何かしだす前に、これをしなければ俺がいつまでも悶々としなければいけなくなる。

 俺は彼女の手を取りやや強引ではあったが家の外に出た。



 今すぐしなくてはならない事。そう、それは彼女の服を買う事だ。ぶかぶかのジャージ姿の彼女を引っ張り服屋に急ぐ。下着すら着けてなく文字通りジャージ一丁の女の子と暮らすなんてことはできない。本来は俺一人で買いに行ったほうがいいのだろうが如何せん俺は女ものの服――ましてや下着など――を買ったことがない。一人で行って店員に変態扱いされるのも困るし、そもそもサイズが解らない。ジャージ一丁の女の子を連れて入ったのがばれたら通報される危険もないわけではないがこっちのほうが無難なはずだ。

 店に入る。女ものは男ものより高い、と楓から聞いていたので諭吉さんを一枚ちゃんと追加してきた。現在俺が着ている上下を合わせて三着は買える金額だ、こんなもんで足りるだろう。極力自然な体で店内を見渡す。

 様々な女物の下着が目に入る。恋人とのデートなんかで入ったのであればうれしはずかしのシチュエーションになるんだろうが明らかに場違いな空気があったが我慢する。

「あの? コージさん、ここで何をするのでしょうか?」

「俺もよくわからない。が、取り合えず、体に合うブラとショーツを何点か探してみてくれ。合いそうなのがあったらあそこに入って試着してみてくれ」

 本来なら店員さんにどれがいいかとか聞いた方がいいんだろうが、この状態じゃあそういうわけにはいかない。バレたら『これ何てプレー?』とか言われて通報されてしまう。不安なので彼女のそばにぴったりと付いておく。しばらくの間、物色した後に数点の下着を手にし試着室に入っていく彼女。何気なくその下着に視線を移す。値札に書かれている値段がみえる。血の気が引くのを感じた。財布を開いてみる。や、やばい。これほどのものとは思わなかった。これでは下着だけで資金が切れる……。

 あまりの衝撃に思わず試着室に顔を突っ込む。見えるのは下着姿の彼女。

 ああ、よかったサイズぴったりだね。

 ……いかん、またテンパってきた。こんな状態だと彼女の悩ましい肢体を見ても何の感情も沸かない。

「どうしました?」

 彼女が尋ねる。

 ええい、私は情けない男だ……。買う数を減らせと言わねばならんとは……。

「す、すまない……。落ち着いて聞いてくれ……」

「どうしたんですか? 何やら焦っているようですが?」

「全部買うと金が足りなさそうなんだ……。だから上下1点だけに抑えてくれないか?」

 少しの沈黙。

「それでしたら心配はいりません」

 そう言って彼女はスッっとカードを取り出す。

「資金面での心配はありませんのでご安心ください」

 どこから出したんだよ! つーか、宇宙人のカードがここで使えるのかどうかは甚だ疑問だが、まさかそんなイージーミスはしないだろう。

 そうだよね? いざ会計してみて大騒ぎになるとか言うドジっ娘属性もってないよね?

「この手の潜入工作で資金面のクリアは基本中の基本です」

 心配そうな顔をしている俺を見てか、ふっくらと形のよい胸を張ってそう答える彼女。形のよい胸? ハッと気がつく。さっきからずっと覗いている形になっていることに。彼女自身が全くそのことを気にしていないことが唯一の救いだ。

「俺が連れてきたのにいらぬ心配させて、ごめんな」

「何に対して謝罪なさっているのか理解しかねますが了解しました。

それより、変ではありませんか? 私はこのような買い物が初めてなので勝手がわからないのです……」

 そう言い、クルっと回転してみせる。

「大丈夫、似合ってるよ」

 それだけ言うと後ろ髪を引かれつつも魅惑のカーテンから首を引っこ抜く。後は服を買ったら終わりだ。

 その後、順調に買い物を終えて帰路につくことになる。両手いっぱいに抱えた荷物からすると買いすぎの様な気もするがまあいいだろう。

 途中、不安や緊張で忘れていたが腹が減っていたのに気がついたのでコンビニで弁当を買っていくことにする。『嫌いなものはあるか?』と尋ねるとエネルギーになるものなら何でも大丈夫だ、との答え。なんかひっかかる言い方だが食い物であれば何でも食べられる、という意味である。と、勝手に解釈することにした。


 こうして、俺と奇妙な宇宙人との生活が始まったのだった。



登場人物紹介

アズマ 孝司コウジ

……本編主人公。ハーレムものによくあるイケメン。

南井ミナイ 美咲ミサキ(M-00339)

……どこぞの宇宙からやって来た人型調査端末。コージと出会い居候になる。

西野ニシノ カエデ

……コージの同級生兼通い妻。(外見描写的な)ツバキのカマセ。

北家キタイエ 椿ツバキ

……完璧超人兼コージの嫁二号。コージをキョドらせるのが好き。

白山シラヤマ 良太リョウタ

……コージの同級生。ムードメイカー的な存在。

発村ハツムラ ツヨシ

……コージの同級生。外見ヤクザのヘタレ。通称ゴウ。

中野ナカノ 俊夫トシオ

……コージのクラスの担任。『イケメンは死ね』が座右の銘。


※名前の由来は縦読み。


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