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第一話 『その日、流星に乗って』

何なんだコイツは! なんで俺が死ななきゃいけないんだ……。

第一話 『その日、流星に乗って』


――一体、こいつは何なんだ!


 先ほどから緊張の為か脂汗が額やら背中やら脇やらから引っ切り無しに噴き出していた。まさに滝汗状態ってやつだ。

 流星群の夜。一人でそれを眺める為に向かった山。そして、そこで出会った少女。

 本来ならばロマンスの一つでも起こりそうな状況なはずなのに……、だと言うのに俺は今、生命の危険に晒されていた。

 彼女はどうやら俺を殺したいらしく、ブォンなんてSFでよくある効果音を上げながら、ほんの数瞬前まで俺のいた場所を通り過ぎていくライトセイバー的なアレ。

 俺は少女が振るうそれを出来るだけ小さな動きで避ける様に務める。彼女の斬撃は速度こそ速かったが軌跡が単純な為、避ける事自体は俺にとって難しい事ではなかった。

 しかし、間違っても食らうわけにはいかなかった。その武器の威力は周囲の惨状を見れば一目瞭然だった。だから体勢を崩さないように最小限の動きなのである。

「おい! いい加減にしろよ!」

 俺の叫びに少女は答えない。彼女的には邂逅時のやり取りで全てなのだろう。ただ、ただ、機械的な攻撃を俺に繰り返すだけだ。


――本当に一体、何者なんだ!


 俺はこんな武器は知らない。先ほど彼女が捨てた光線銃もそうだ。

 今は二十一世紀の序盤で、そんな技術はまだ存在しないはずだ。出会い頭に自らを宇宙人だと説明したが、宇宙人と言えば灰色の小人やら多足のアレだからして、そんな事はありえない。

 もしや、某国の秘密機関で秘密裏に作られた秘密兵器なのかもしれないな。これも馬鹿げた考えだがこっちの方がまだ納得できるってもんだ。

 もしくは、あれだ……未来からやって来た猫型のアレだ。いや、彼女はアニメチックなライダースーツ的な宇宙服を着ていたし、栗色のロングヘアーが実によく似合っている美少女なので、これもあり得ない話だ。

 い、いかん。ピンチになると変な現実逃避を始めるのは俺の悪い癖だ。

「お願いします。先ほど説明したとおり、痛みはありませんので素直に死んでください」

 彼女が抑揚のない事務的な声でこんな物騒な宣告をした。

対して「死んでくれ」なんて言われて「はいわかりました」なんて答えるかっつーの! と、俺は心の中でだけ返答をする。別に言い出す度胸がないわけではない。攻撃を避ける事自体は確かに簡単であったが、やはり、必殺の威力を持つそれを避け続けると言うのは神経が擦り減るのも事実だった。避ける度に背中に冷たいものが走るのだ。この状況では自分のタイミングでしか会話をする余裕などなかった。

 あれから何分たったのだろう? 俺には数時間にも感じられるのだが、恐らくは数分の出来事なのだろう。兎にも角にもブオン、ブオンと耳障りな音が続いていた。

 一向に疲れる気配を見せない彼女。防戦一方の俺。

どうやったら、この状況を打破できる? いや、実際には一つだけはあった。その為には覚悟が必要であった。

チラッと視線をそちらの方に向ける。彼女の後ろの方に転がる光線銃だ。それを使えばどうにかできるはずだった……。



――約五時間前。帰宅中。


「コージくんは今日、来れないんだっけ?」

「ああ、済まんがパスさせてもらう。皆で楽しんできてくれ」

 それを聞くと俺の横を歩く西野 ニシノ・カエデは拗ねたような、詰まらなそうな……とにかく実に残念そうな表情を見せた。

 彼女は俺――東 孝司アズマ・コウジの恋人候補その一である。何だかこう書いてしまうと『何様のつもりだよ!』って思われるかもしれないが、それには理由があって、その理由とやらは後述させていただく。

「コージくんと一緒にいてあげようか?」

 そう言って彼女がいたずらっぽい表情をした。

「そう言うのはよしてくれよ」

「ん~、じゃあ、後で写メしてあげるね」

 そう言うと彼女は肩まで伸びた髪を翻しながらクルッと俺の方を向き実に可愛らしい笑顔を作るのだった。

「ああ、頼むよ」

 本日――七月七日――は数十年に一度という大規模な流星群が見られるらしい。

そこで夜にいつもの連中と集まって見に行こうって話に当然のようになったわけだが、俺は人ごみが苦手だ。どれくらい苦手かと言えば、一時間そこにいれば吐き気を催し、二時間いれば卒倒する、こういうレベルなのだ。

 だから、俺にとって恐らくはアリの様に人が群がっているであろう、そこへ行くのは実に自殺行為と言えた。かといって学校なんかは普通に通えるので体質と言うよりは完全に精神的なものなのだろう。

途中で楓と別れ、一人アパートのドアを開ける。そして、何気なくテレビを付けてボーっと眺める。そして、それに飽きるとベッドに大の字になって寝転んで目を瞑る。

「……つまらん……」

 なにが悲しくて七夕の日に――こんなロマンチックなシチュエーションがあると言うのに家で孤独に引きこもってなくてはならないのか!

 仲間に迷惑を掛けるのが嫌で断ったわけなのだが、やはり人間と言うものは基本的に我が儘なものだ。奴らが楽しくやってるなんて考えるだけで鬱憤が貯まっていくのを感じるのだ。

「雅じゃねえな……」

 ベッドから跳ね起きるとベランダに出て一人愚痴る。

 中途半端な高さの建物に囲まれているせいで空がよく見えなかった。いや、そんな事はもう一年以上住んでいるのだから解りきっている事ではあったが……。

「あー、俺も見に行きたかったよ。見たい! 見たい! 見たい! ……ハァ」

 これは『ベッドに戻り一人で駄々をこねてみたが、虚しくなって止めた』の図である。

 付けっぱなしにしていたテレビから『流星群の予定時間は九時です』なんて今の俺を無駄に苛立たせる情報が流れてくる。

 ふと、時計を見ると七時になっていた。


――約一時間前。山頂。


――ふう、さすがに疲れた……。


 運動は得意な方だが運動部に入っているわけではないし、体を鍛えているわけでもない。そんな俺が山登りだ、疲れてもしょうがない。

 山頂に着くと俺は草むらに大の字になって寝転んだ。夜露で少し湿っていたが、そんな事は構うものか。不快感があるのは事実だが今の俺はそれ以上に機嫌がよかったのだ。

 結局のところ、耐えきれなくなった俺は家を出た。しかし、人の多い所は無理だ。

では、と少し考えて出した結論がここである。ここは俺の住むアパートからさほど離れていない場所にある中途半端な高さの、碌に整備もされていない山である。

 そのせいもあって俺しかいなかった。だから今の俺は機嫌がいい。


――早く始まれ。


 こんな事を考えながら時計を見る。時間は九時になっていた。そろそろ、それっぽいものが見え始めるはずだった。


――数分前。山頂。


 この頃になると『あれ?』と、思い始める。そろそろ十時になる。予定時間は当の昔に過ぎていた。

 それなのに流れ星のナの字すら見えないのだ。そう言えば、と思い携帯を取り出した。楓にでも電話して、そっちはどうか聞いてみようと思ったのだ。

 ……しかし……。圏外であった。登山中は確かに聞こえた虫の声も今は無くなっていた。


――何かがおかしい。


 俺がこう感じ始めた時には既に遅かった。

 何故なら、その刹那、俺に向かって流星が落ちてきたからだ!

 視界がホワイトアウトする程の閃光に、爆音。いや、音はなかった。その代わりに尻もちをつかされる程度の威力の衝撃波が俺を襲った。

 ああ、俺は死ぬのか……。こんな事を漠然と思った。

 思えば碌な人生じゃなかった。親には碌に愛情を注がれず、義務教育終了と同時に家を追い出され、恋人もできず、当然の如く童貞だ。唯一の救いはあいつらだ。高校に入って生まれて初めてできた友人たち。別離もできずに俺は涅槃へと旅立たなければならないのか……。

「なんて長々と思考できるんだから死んでるはずないよな」

 声に出してこんな事を言ったのは、簡単に言うと確認であった。俺が生きているという確認。

 手足を軽く動かしてみた。どうやら四肢に欠損はないようだ。痛みも感じないので怪我もしていないみたいだ。

「……はて?」

 確かにピンポイントで俺に向かって隕石が落ちてきたはずだ。もしや、落雷が近くに落ちたように見えて実は遠かった的なアレなのだろうか?

 やがて視力が回復する。立ち上がり辺りを見回してみた。

 うむ、確かに隕石が落ちてきたようだな。どうやら本気で危ない状況だったようだ。五メートル程離れた場所にあるクレーター状のくぼみを見て一人納得してみた。クレーターの中心部にあるものがどう見ても人工物にしかみえなかったが、隕石だと思わなければ俺がやっていけないってものだ。

 大きさは俺の手ぐらいだろうか? それを見た俺は漠然とそんな事を思った。本来なら、まずそれの危険性について考えるべきだ。学校ではスカした奴との評を受けている俺なら尚更だった。しかし、今の俺は余りの出来事に思考が麻痺してしまっているらしい。だから、論理的な思考ができない。

 それは危険なものかもしれない。以前テレビで見た事があった。こういうものを調査している人間は御大層な防護服を身にまとっていた。対して俺はTシャツにデニムと実に軽装である。今すぐここから去って警察なり消防なりに連絡をした方がいい。

 だが、これはチャンスなのかもしれない。それにはあり得ないぐらいの価値があって、もしかすると俺が手にする事で莫大な利益を生むかもしれない。

「……理屈だな」

 言葉にした後、自嘲気味に鼻で笑った。そう、単純に俺の欲求がそれに対する興味に負けてしまっているだけなのだ。

 俺はゆっくりとそれに近づいていく。

 一言で言ってしまうとそれは長さが二十センチ程度の巨大な薬剤カプセルだった。それも風邪薬なんかによくあるような上半分が赤く、下半分が白くなっている奴だ。大きさ以外の違いもあった。それは青白く発光していたのだ。

 もしや核廃棄物的な何かだろうか? それなら今置かれている俺の状況はかなり危険であった。しかし、その光はとても温かく見るものに安堵感を与える、そんな光だったのだ。

 根拠はなかったが危険はなさそうだ、と勝手に判断しそれに向かって手を伸ばす。そんな時それは起こった。

 カプセルが真っ二つに割れたのだ。そして、その中には拳大のルビーのような石が見えた。これが宝石であるとしたら物凄い価値がありそうだ。俺はこんな事を考えて今度はその石に

手を伸ばす。

 後少しで手が届く。その瞬間、それは激しい閃光を放ったのだ。

しまった! 罠だったのだ。好奇心に釣られてやってきた哀れな小羊を油断させた所で爆発させる。それはそんな感じの爆弾の類だったのだろう。

 スローモーション。

 光が俺に向かって迫って来る。一応、警戒はしていた俺はとっさに左手を顔の方にかざし視力を奪われるのを防いだ。

まいった。こんな至近距離からでは避けきれない。間もなく光は俺を突き抜け、爆風が俺を襲うはずだった。

 無駄だとは思いつつも襲い来るであろう破片を避けるために集中する。しかし、いつまで待ってもそれらが飛んでくる気配はなかった。その代わりに俺の目の前にはあまりにも幻想的な光景が広がっていたのだ。

 思わずその光景に視線が釘付けになる。

 先ほどまでカプセルがあった場所にはまるで羽ばたこうかのごとき姿勢の少女。キラキラと輝く光の粒子をまとい、ふわっと栗色の髪を棚引かせているとびっきりの美少女がいたのだ。

 彼女はまだ目を閉じていてこれといった表情は見られなかった。そんな彼女を見て俺は『まるで人形の様だ』なんて月並みな感想を抱いた。いや、この時の俺の感想はあながち間違いではなかった事を後に思い知る事になる。

 この時の俺は恐らく実に間抜けな顔をしていた事だろう。そう、俺は素直に彼女に見惚れていたのだ。


「ワレワレハ ウチュウジン ダ」


「はぁ?」

 やがて目と目が合う。開口一番彼女が発した言葉に俺はこれまた間抜けな返事をした。

「……おかしいですね。ファーストコンタクトにおける掴みはこれが一番だとマニュアルにあったのですが……」

 口元に人差し指を当て小首を傾げるポーズを取りながら彼女がこんな事をのたまう。恐らくは不思議に思っているのだろう。しかし、その顔には表情というものが全く見られないので実に不気味な仕草となっていた。

 そもそも、平成生まれの俺にそんなネタが通じるはずもないわけで、ツッコミも入れられず唖然とする俺に対して彼女は一方的な宣言を続けた。

「もしかして……言語が通じていないのでしょうか? アー、アー、テス、テス。現在、惑星『地球』土着言語『日本語』モードで会話中。言語設定における自己診断――グリーン。コンニチハ私は宇宙カラヤッテ来マシタ」

 こう言って俺に手を振る彼女。やはり、表情がないので実に不気味である。

「システムに異常がないのに通じていないようですね。もしや、日本人ではないのでしょうか?」

「ちげーよ!」

 思わずツッコんでしまう。何なんだコイツは……。頭のおかしい人なのだろうか?

「まあ、通じていたのですね。それでは再び自己紹介しますね。私は先ほど申しました通り『美少女』宇宙人です。短い付き合いにはなるとは思いますが、よろしくお願いします」

 何か余計な単語が増えてるような気がするが、そのにツッコんだら負けな様な気がした。彼女がお辞儀をすると俺も釣られて「よろしく」とお辞儀を返してしまう。実に間抜けな光景ではあるが、だって日本人なんですもの。

 しかし、宇宙人だと? 今時、子供だって言わねーよ! それに宇宙人と言えば灰色のアレやら多足のアレだったりするのでそんな事はあり得ない話だ。この際であるからして目前で展開された出来事からは逃避しておこう。

「ところでキミは何者なんだ?」

 俺の当然な質問に対し彼女は実に残念な人を見る様な仕草をした後に「日本人なのに日本語が通じないケースがあるようですね」なんて事をのたまう。

「……いや、だからな……。『私は宇宙人です』なんて紹介をされて『はい、そうですか』なんて答えられるかって。キミはあれか? その変な格好からすると芸能人の卵かなんかで、こんな場所でお芝居の練習でもしてるのか?」

 彼女がアニメやマンガなんかでよくある白地に赤で縁取られたライダースーツの様な宇宙服の様な物を着ていたとしても、俺が正常な判断力を有していると断言できるってもんだ。

「宙から飛来した謎の物体、その中には美少女が……。ここまでのシチュエーションで信じてもらいないなんて、ひょっとしてこの人は馬鹿なのでしょうか?」

 対して彼女は例の小首を傾げる仕草をしながら勝手な事をほざく。

だめだ……会話にならねえ……。

まったく馬鹿げていた。もしかすると、この子は頭のネジがゆるいのかもしれない。

「どうしても信じて欲しいって言うのなら証拠を見せてくれよ」

 余りに余りなやり取りに少し苛立っていた俺は少々大人げないななんて思いながらも必殺の一言を放つ。そう、これでこのやり取りは終わるはずだったんだ。

 確かにこのやり取りは終わりとなった。しかし、俺の思惑とは別の方向にだが……。

「なるほど……」

 彼女はそうとだけ言うと掌をポンと打ち、腰のあたりに手を当てると何かを取りだす。それから、それを俺の足元の方に向けた。そして、それの先端が軽く発光すると俺の足元からジュッという音が発生した。

「……なっ!」

 地面が拳大程度のへこみが出来ていたのだ。いや、へこみと言うかえぐれていたと言うか……その大きさだけ消滅していたと言うか……。

「このような武器は地球には存在しないはずです。これで解っていただけたでしょうか?」

 彼女の声が――元々、感情が感じられなかったとは言え酷い冷たさを帯びている様に感じられた。大量の汗が頬を、背中をつたっていた……。

「これはアナタがたの言葉に直すと――分子崩壊銃とでも申しましょうか。着弾地点の直径5cm程度の物質を消滅させます」

 そんなものは存在しない。実際の所、理系知識なんて教科書でしか俺にはなかったが、そんな俺でも断言出来てしまう程の空想兵器……。

「これでおわかり頂けでしょうか?」

 何故だろう? 彼女の言葉に寒気を感じた。背中に張り付いたTシャツが実に不快だった。

「どうやらおわかり頂けたようですね。それでは本題に入らせてもらいます……」

 俺の沈黙を肯定の意と取ったのだろう。彼女の一方的な宣言は続く。

 この空気感は初めてだった。張り詰めたような……兎に角、俺の中の何かが激しく警報を鳴らしていた。集中せねば……。

「申し訳ありませんが死んでください」

 スローモーション。

 彼女は言葉を終えた。ほぼ同時に俺に銃口を向ける。何のためらいもなくトリガーを引いた。銃口が発光する。そこから光弾が射出される。その刹那、先ほどまで俺がいた場所をそれが通りすぎ背後にあった木に着弾すると拳大の穴を作った。

「ふざけるな!」

 一瞬で血の気が引いた。少し頭がクラクラした。もう少し症状が重かったら貧血を起こして倒れていたかもしれない。気の利いた事など頭に浮かんでこなかった。今の俺はそう叫ぶのが精一杯だったのだ。

「ですが……原住民との接触におけるマニュアルによりますと、正体が発覚してしまった場合の最優先事項は目撃者の始末とあるのです。ですので、死んでください」

 再び光弾を放つ彼女。何なんだ……この機械的なやり取りは……。

「避けないでください。人道的配慮の元、痛みは一切ありません。一瞬で終わりますので精神的な苦痛もありません。ですので、安心してください」

「ふざけるな!」

 彼女の容赦のない追撃を避けつつ、再び同じセリフを放つ。しかし、今度は違った。彼女の余りに理不尽な宣告に血の気が戻ったのだ。

「そもそも、正体を明かしたのはそっちだろうが!」

 俺の言葉に彼女の動きが止まる。もしや、説得モードに突入か? などと少しの希望の光。

「それは、アナタが信じてくれなかったので仕方のない処置だったと自負します」

「いや、違う、違う! 最初に『宇宙人だ』って名乗ったのはオマエだろ!」

 合点がいったようでポンと手のひらを打つ彼女。

「確かにこちらの不手際でした……」

お? 説得成功か?

「こちらの不手際は謝罪します。ですが規則なので死んでください」

 ……ダメだった。なら、もうひと押しだ。

「それに感情のない声で『死んでください』なんて言われて『ハイそうですか』なんて言えるか!」

 ……俺もダメだった。こんなのまるっきり説得じゃないし……。

 だからと言って何と返せばよかったのだろうか? そもそもこの宇宙人とやらに有効な説得方法はあるのだろうか? だから、と言うかテンパって何を言ったらいいのかまったくわからない状態だ。

「……解りました」

お? 訳のわからない弁で説得成功か? さすが宇宙人だ。俺らとは思考のベクトルが違うんだな。

「感情をこめてお願いをすれば死んでいただけるわけですね」

「そこじゃねぇぇぇ!」

やっぱりダメだったらしい。

「――『感情』のダウンロードを申請します…」

 彼女は右手を天にかざし眼を閉じる。

 ゴクリ……。いったい何が起こるんだ? 緊張が走る。恐らくは一分もたってないのだろうしかし、その時間は十分にも二十分にも感じだ。


――が、何も起こらなかった。


「母艦との通信及びダウンロードに失敗しました。……申し訳ありませんが現状維持の方向でお願いします」

「あほかぁああ!」

 漫才ならこれでオチがついて終わりってことになるのだろうが非常に残念なことにこれは現実だ。一方的な銃撃戦が再開される。

 一発二発三発四発五発……。光弾が俺に向かって飛来する。しかし、俺はそれがどんな武器かを知った。だから避けられる。そう、俺には直線的な攻撃であるのなら例え音速を超える速度であったとしても避けることができるのだ!

 六発七発八発九発……。すべて回避する。ここで発砲が止む。

「……おかしいですね? 照準でも狂ってるのでしょうか?」

 彼女は首をかしげそう言うと銃を放り捨て背中をゴソゴソしだす。取りだしたのは筒状のものだった。筒の後端を少しいじるとブォンという音とともにその先端から棒状の光が現れる。

「今度は剣かよ!」

「はい、光剣を背部から出すのは伝統です」

と、訳のわからないことをのたまいつつ俺に襲いかかる。

 ブォンブォンと嫌な音を立てて迫りくる光の刃。これも何とか回避。

 しかし、不幸中の幸いとはこのことだ。これでもし爆発物でも出された日にはゲームオーバー確定だった。恐らく銃の後に剣を出してきたってことはこれで武器は終わりだ。これなら何とかなる。

 問題は相手の攻撃が当たらない代わりにこっちには反撃の手段がないことだ。こいつに襲われたまま山を降りたりなんかしたら、被害者を増やすだけだし、背を向けて攻撃を避けきる自信はない。

「いい加減死んでいただけませんか? この武器も先ほどの銃と同じ性質のものです。痛みを感じる前に絶命できます。下手に急所以外に当たってしまっては逆に痛い思いをします」

「いや、そういう問題じゃないだろって……」

「いえ、そういう問題なのです。今回の件がこちらの不手際であった以上、無駄に痛みを与える行為は人道的にどうかと思います」

「人の道を説くなら、まずはその剣をしまえ!」

 あぁ、むかつく……。まったく話がかみ合わない。かと、言って俺にはどうにもできそうもない。こんなイライラすることは生れて十七年で初めてのことだ……。

 いや……、どうにかできるかもしれない。

 もっとも俺にその覚悟があったらの話ではあるが……。

 こいつの後ろの方に銃が落ちている。あれを拾って反撃すればどうにかなるかもしれない。玉切れで捨てたって可能性も十分あるが、それにすがるしか俺の生存の道はなさそうだ。

 だが、それには覚悟がいる。彼女を殺してしまう覚悟だ。殴り合いのケンカをしたことなら何度もある。しかしだ、人を殺したいと思ったことはないし、当然、殺したこともない。そんな俺に覚悟ができるのか? それよりハッタリでどうにかする方がいいのかもしれない。ピーがピーな宇宙人のことだ、意外とあっさり騙されるかもしれない。そして、そうなってくれた方が俺の心も傷まない。

「ちょっと待て」俺は極力感情を表に出さず右手を突き出す。

「そんなに俺に死んでほしいのか?」

 イメージ的にはバックにゴゴゴゴゴ……みたいな擬音が浮かんでる感じで俺。

「申し訳ありませんがその通りです」

 俺は左手で右手首を掴み軽く肩を震わせながら続けた。

「俺を追い詰めると恐ろしいことが起こるぞ。――この右手……俺が生命の危機を本気で感じると恐ろしい力を発揮する。全てを焼き尽くす地獄の炎を吐きだすんだ……。間違いなく…死ぬぞ。それでもいいのか?」

 中二の頃に妄想した設定だ。……ああ、言ってて恥ずかしい。

「事前調査では地球人にそのような能力はありませんでした」

 あっさりと嘘がばれる。言うんじゃなかった……。

「……じゃなかった。腕から魔界より召喚された竜がお前を食い殺すぞ!」

冷ややかな目で見られる。自分が赤面してるのを感じる。

「さ、さもなきゃ…あ、あれだ。俺の中に眠る……」

 何かかわいそうなものを見るような目で見られたので言い切る前に止めた。声もうわずってたしね。

 ……もう諦めよう。ええい、覚悟を決めるしかないか。人を殺すのは嫌だが俺が死ぬのはもっと嫌だ。呼吸を整えろ!

 斬撃をかわす。ただし、今回は少しずつ相手との位置を入れ替えるように円の動きをしながらだ。何度か試みて位置の入れ替えに成功。

銃までは数m。次に攻撃を避けつつ後退。これも成功。銃まで1mといったところか。

 最後がもっとも重要だ。

 イメージしろ!


――銃に飛びつき拾い相手に向かって撃つ。

――銃に飛びつき拾い相手に向かって撃つ…。

――銃に飛びつき拾い相手に向かって撃つ……。


 斬撃をかわしつつ何度もその姿をイメージする。アクションスターさながらに横っとびで回転しながら銃を拾い受け身を取ったところで撃つ。イメージとしては完璧だ。こんな馬鹿な事を考える余裕ができたんだ。心もかなり落ち着いてきた。

 動揺しながら避けていたので銃との距離が開いてしまった。不用意に同じ行為を繰り返すと相手に感づかれるかもしれない。ここで決めないと……。覚悟を決めろ、俺。俺はJ・C氏とかB・W氏の類の生き物なんだ、そうに決まっている。いや、そう思い込め。でないと死ぬ。

「ダイ・ハァアアドォォオ!」

 それはとてもアクションスターさながらとはお世辞にも言えなかったが、十分合格点には達したはずだ。叫びと共に銃に向かって飛ぶ。

 何とか拾うことには成功した。ここで前回り受け身に入ろうとしたが銃口がこっちを向いていたためビビって失敗。腹を打つ。

 何とか起き上がって反撃の態勢に入ろうとするも斬撃が襲ってきたためゴロゴロと地べたを転がって回避。かっこ悪い。転がった先に木がありぶつかって止まる。とてもかっこ悪い。だがそのおかげで上体を起こすことには成功した。無様に尻もちをついている状態ともいう。やっぱりかっこ悪い。そのまま両手で銃をつかみ銃口を相手に向ける。

 こちらに迫りくる彼女。慎重に狙いをつける。予定は狂ったが俺の放つ光弾は相手を貫きジ・エンドだ。

 これが狂うと俺が困る。だから、そうなってくれ。

「南無八幡!」


そう叫び俺は目をつぶると両指でトリガーを力いっぱい引いた!




登場人物紹介

アズマ 孝司コウジ

……本編主人公。ハーレムものによくあるイケメン。

南井ミナイ 美咲ミサキ(M-00339)

……どこぞの宇宙からやって来た人型調査端末。コージと出会い居候になる。

西野ニシノ カエデ

……コージの同級生兼通い妻。(外見描写的な)ツバキのカマセ。

北家キタイエ 椿ツバキ

……完璧超人兼コージの嫁二号。コージをキョドらせるのが好き。

白山シラヤマ 良太リョウタ

……コージの同級生。ムードメイカー的な存在。

発村ハツムラ ツヨシ

……コージの同級生。外見ヤクザのヘタレ。通称ゴウ。

中野ナカノ 俊夫トシオ

……コージのクラスの担任。『イケメンは死ね』が座右の銘。


※名前の由来は縦読み。

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